(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973748
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】パンタグラフ
(51)【国際特許分類】
B60L 5/20 20060101AFI20211118BHJP
B60L 5/24 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
B60L5/20
B60L5/24 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-202257(P2017-202257)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-75941(P2019-75941A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000215752
【氏名又は名称】帝国カーボン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】今戸 肇
(72)【発明者】
【氏名】多田 義文
(72)【発明者】
【氏名】林原 郁二
(72)【発明者】
【氏名】石本 繁治
【審査官】
今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭48−057807(JP,U)
【文献】
特開2017−013761(JP,A)
【文献】
特開平4−193003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 5/00−5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に移動可能な集電板上にトロリーシューを備えたパンタグラフであって、
集電板とトロリーシューは一体的に移動する構造であり、
前記トロリーシューの両側にトロリー線配線方向に沿ったツバを備え、
前記ツバを介してトロリー線から受けた負荷により前記トロリーシューがトロリー線配線方向に対し垂直な水平方向に移動可能であり、
前記トロリーシューには、前記水平方向の一方側に移動した際にその方向に伸びる弾性変形するバネ部と、他方側に移動した際にその方向に伸びる弾性変形するバネ部が別々に備えられており、
前記別々のバネ部は、一方が伸びる場合は他方が縮み、他方が伸びる場合は一方が縮むプッシュ−プル機能を備えた配置となっていることを特徴とするパンタグラフ。
【請求項2】
前記トロリーシューには、トロリー線配線方向に対し垂直な水平方向に移動した際に、元の位置に復元すべく弾性変形するバネ部が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフ。
【請求項3】
コークスの移動機械に用いられている請求項1又は2に記載のパンタグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、鉄鋼業のコークス炉の移動機械においては、トロリー線を配置して電化されている。トロリー線は炉体に固定されているため、炉体の膨張によるトロリー線や軌条の変化によりパンタグラフとトロリー線の位置が変化する。このため、年数回の頻度でパンタグラフがトロリー線から外れている。走行中にパンタグラフがトロリー線から外れると、トロリー線を支える碍子が広範囲で破壊される。碍子の復旧とパンタグラフの位置調整には時間がかかり、コークス炉の大幅な減産に繋がることから、脱線しにくいパンタグラフが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−013761号公報
【0004】
ところで、パンタグラフのトロリーシューのサイズは、製作する炉の制約により最大200mmまでしか製作出来ない。その為、トロリーシュー自体のサイズを大きくする方向では、パンタグラフがトロリー線から外れることを防止出来ない。また、トロリーシューの数を増やし、トロリー線との接触幅を拡大するような対応策では、接合部での接触不良リスクが高まる。このため、安易にトロリーシューを増やすことも出来ない。なお、このような課題は鉄鋼業の移動機器の分野でのみ生じる課題ではなく、トロリー線等を介して動力の供給を受ける車両や鉄道などを利用する分野では、該当し得る課題である。重量や設置スペース的に制約のある中で、発明者らは鋭意検討した結果、トロリー線とパンタグラフの接触可能な幅は、単純に数を増やすのではなく、見かけ上の幅を増やす、即ち蛇行しているトロリー線に追従できれば良いことに気づき、シュー受けを追従性良く脱線し難い可動構造のパンタグラフにすれば良いと着想した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような経緯でなされた発明であり、本発明の課題は、パンタグラフがトロリー線から外れることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、上下方向に移動可能な集電板上にトロリーシューを備えたパンタグラフであって、前記トロリーシューの両側にトロリー線配線方向に沿ったツバを備え、前記ツバを介してトロリー線から受けた負荷により前記トロリーシューがトロリー線配線方向に対し垂直な水平方向に移動可能であることを特徴とするパンタグラフとする。
【0007】
また、前記トロリーシューには、トロリー線配線方向に対し垂直な水平方向に移動した際に、元の位置に復元すべく弾性変形するバネ部が備えられていることを特徴とする構成とすることが好ましい。
【0008】
また、前記トロリーシューには、前記水平方向の一方側に移動した際に弾性変形するバネ部と、他方側に移動した際に弾性変形するバネ部が備えられていることを特徴とする構成とすることが好ましい。
【0009】
また、鉄鋼業のコークスの移動機械などのような、比較的小型のパンタグラフに用いられているものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明を用いると、パンタグラフがトロリー線から外れることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施形態のパンタグラフの一部を
図1のIII-III側から見た部分の接続構成を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、発明の実施形態について説明する。本実施形態におけるパンタグラフ1は、上下方向に移動可能な集電板2上にトロリーシュー3を備えており、トロリーシュー3の両側にトロリー線配線方向に沿ったツバ4を備えている。このパンタグラフ1はツバ4を介してトロリー線10から受けた負荷によりトロリーシュー3がトロリー線配線方向に対し垂直な水平方向に移動可能である。このため、パンタグラフ1がトロリー線10から外れることを抑制することができる。
【0013】
実施形態をコークスの移動機械を例にして説明する。パンタグラフ1の概略の側面図及び平面図を
図1及び
図2に示す。また、
図3では、トロリーシュー3周りの構造を表す。本実施形態例のコークスの移動機械は、地面に略直線状に取り付けられたレール上を走行する。また、給電用のトロリー線10は、コークス炉の炉体に固定されている。
【0014】
実施形態では、トロリーシュー3がトロリー線配線方向に対し垂直な水平方向に移動した際に、弾性変形して元の位置の戻そうとするバネ部5を備えている。このバネ部5は前記ツバ4に対してトロリー線10からかけられた負荷が増加した場合、トロリー線10の蛇行に追従してツバ4が押され、バネ部5が移動方向に伸び、集電板2とトロリーシュー3と一体的に移動して給電を確保する。負荷が低減された際には、バネ部5が縮んでトロリーシュー3を元の位置に戻そうとする。更にこのバネ部5は、
図3のようにトロリーシュー3が前記水平方向の一方側に移動した際に、その方向に伸びる弾性変形するバネ部5と、他方側に移動した際にその方向に伸びる弾性変形するバネ部5を備えており、どちら側にトロリーシュー3が移動しても、トロリー線10からかけられた負荷が低減された際に、トロリーシュー3を元の位置に戻そうとする。したがって、トロリー線10の急激な蛇行部以外ではトロリーシュー3が元の位置に戻る為、周囲の構造物との衝突リスクを低減する。
【0015】
ここで、パンタグラフ1をより具体的に説明する。実施形態のパンタグラフ1は、移動機械に固定される架台6を備えている。この架台6には回動可能なアーム7が取り付けられており、アーム7の一端と架台6を引っ張りばね8で繋げている。この引っ張りばね8はアーム7の他端側を上方側に位置させるようにアーム7を引っ張る。アーム7の他端側には、集電板2が接続されており、この集電板2の上にトロリーシュー3を備えている。なお、集電板2とトロリーシュー3は一体的に移動する。したがってトロリーシュー3はトロリー線10の下方側からトロリー線10に接することとなる。
【0016】
パンタグラフ1はトロリーシュー3の両側に前記ツバ4を備えている。このパンタグラフ1はツバ4を介してトロリー線10から受けた負荷によりトロリーシュー3が前記水平方向に移動できるように構成されている。具体的には、集電板2に接続された軸部材11がアーム7側に固定されたブッシュ12に対して摺動可能に嵌められている。この軸部材11の外周に巻き付くようにコイルばねが取り付けられており、トロリーシュー3が水平方向に移動した際に、弾性変形するバネ部5として機能する。実施形態では、トロリーシュー3が水平方向の一方側に移動した際にその方向に伸びる弾性変形するコイルばねと、他方側に移動した際にその方向に伸びる弾性変形するコイルばねを別々に設けており、各々のコイルばねの間にブッシュ12が位置している。
【0017】
ここで、トロリー線10とトロリーシュー3の移動との関係について説明する。トロリー線10が蛇行している場合、まずはトロリーシュー3の幅内で電気的な接続を確保する。トロリー線10がトロリーシュー3の幅を超えた蛇行状態であると、前述のようにトロリーシュー3の端部に配置された前記ツバ4にトロリー線10が引っ掛かり、電気的な接続を確保しつつトロリーシュー3がそれを配置した集電板2ごとスライドする。
【0018】
次に、従来例と実施例を比較して説明する。
図4に示すように、従来例と実施例では、トロリーシューが上下方向に移動することは双方とも同じであり、トロリーシューはトロリー線の下方側から当接する。一方、従来例では、パンタグラフにはツバは無く、トロリーシューは水平方向には移動しない。したがって、従来例のパンタグラフでは、トロリー線の蛇行が大きい場合、パンタグラフがトロリー線から外れることがあった。一方、実施例のパンタグラフ1では、ツバ4を備え、トロリーシュー3は水平方向に移動可能である。このため、トロリー線10の蛇行が大きい場合、トロリー線10がツバ4に当たり、トロリーシュー3が押されるように移動する。したがって、パンタグラフ1がトロリー線10から外れることが抑制されることとなった。
【0019】
以上、一つの実施形態について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、アーム側に固定されたブッシュに対し、集電板側に固定された軸部材がスライド可能な構成とするのではなく、アーム側に固定された軸部材に対し、集電板側に固定されたブッシュがスライド可能な構成としても良い。
【0020】
架台やアームなどの構造は、各種態様とすることが可能である。
【0021】
本発明のパンタグラフは、鉄鋼業におけるコークスの移動機器以外にも、トロリー線等を介して動力の供給を受ける車両や鉄道などを利用する分野で適用しても良い。
【符号の説明】
【0022】
1 パンタグラフ
2 集電板
3 トロリーシュー
4 ツバ
5 バネ部
10 トロリー線