(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のソリューションプラズマ法においては、合成した金属ナノ粒子の凝集を防止するためには、たとえ保護剤を用いても原料水溶液の濃度を数mM以下の低濃度に調整しなければならず、生産性に劣るという課題があった。また、従来のソリューションプラズマ法を用いて合金ナノ粒子を製造しようとすると、合金源の一つを電極から供給する必要があり、溶液原料のみから合金ナノ粒子を製造することは不可能であった。このため、合金ナノ粒子の製造については、電極の消耗が生産性を低下させてしまうという課題もあった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みて創出されたものであり、ソリューションプラズマ法によって、金属源を含む水溶液を高濃度にした場合であっても凝集を抑制して貴金属ナノ粒子を製造することができる、貴金属ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、貴金属合金ナノ粒子が高濃度に分散された合金ナノ粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される技術は、従来技術の課題を解決するものとして、貴金属ナノ粒子の製造方法を提供する。この製造方法は、貴金属イオンと、保護剤としてのポリエチレンイミンと、を含む水溶液を用意すること、上記水溶液中でプラズマを発生させることで上記貴金属イオンを還元し、上記水溶液中に上記貴金属からなる貴金属ナノ粒子を形成すること、を含む。そして用意する上記水溶液は、上記貴金属イオンを10mM以上300mM以下の濃度で含むようにしている。
【0009】
以上のように、本技術では、ソリューションプラズマ法において合成した貴金属ナノ粒子の保護剤として、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine:PEI)を用いるようにしている。PEIは、カチオン性分散剤として利用できることが知られているが、本発明者らの鋭意検討によると、このPEIは、ソリューションプラズマ法による貴金属ナノ粒子の合成に際しては、還元剤としても作用することが明らかとなった。上記構成によると、PEIが還元剤と保護剤との両方の機能を併せ持つことから、ソリューションプラズマ法によって合成した貴金属ナノ粒子の表面を即時に保護して、凝集を防ぐことができる。このことにより、水溶液中の貴金属イオンの濃度を従来よりも高濃度とした場合であっても、凝集を抑制して貴金属ナノ粒子を製造することができる。
【0010】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、用意する上記水溶液は、第1貴金属と第2貴金属とのイオンを含み、上記貴金属ナノ粒子は、上記第1貴金属と上記第2貴金属との合金により構成されている。
PEIは、ソリューションプラズマ法による貴金属ナノ粒子の合成に際し、良好な還元剤として作用し得る。このことにより、従来のソリューションプラズマ法では不可能とされていた、溶液原料からの合金ナノ粒子の合成を実現することができる。
【0011】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記PEIは、数平均分子量(Mn)が1万以上7万以下である。PEIのMnがこの範囲にあることで、還元剤および分散剤として好適に機能することができ、より少ない添加量で貴金属ナノ粒子の分散を抑制できるために好ましい。
【0012】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記貴金属ナノ粒子は、平均粒子径が20nm以下である。このように、ここに開示されるソリューションプラズマ法によると、水溶液中の貴金属イオンの濃度を高濃度にした場合であっても、粒子径が揃った貴金属ナノ粒子を製造することができる。これにより、単分散に近い貴金属ナノ粒子を得ることができる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記水溶液中に一対の電極を配置し、上記電極間に、パルス周波数:1kHz以上300kHz以下、パルス幅:0.1μs以上10μs以下、パルス電圧500V以上5000V以下の直流パルス電圧を印加することでプラズマを発生させる。このような構成によると、電極間に生じるジュール熱によって水溶液中に発生する気泡を水面に浮上させることなく水溶液中に安定に維持することができ、この気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることができる。これにより、より効率よく安定した状態で貴金属ナノ粒子を製造することができる。
【0014】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記プラズマは、グロー放電プラズマである。水溶液中で発生させるプラズマをグロー放電プラズマとすることで、非平衡な低温プラズマを発生させることができ、より少ないエネルギーで安定的して貴金属ナノ粒子を製造できるために好ましい。
【0015】
なお、本出願人らは、これまでに、食器等の装飾のための赤色〜橙色のカドミウムフリーの色材として用いることができる、高濃度なAuAg合金微粒子を提供している(例えば、特許文献4参照)。色材として用いるためのAuAg合金ナノ粒子は、濃縮により高濃度化すると凝集してしまうため、所望の色味が得られなくなってしまう。そして特許文献4で得られるような鮮やかな赤色を呈するAuAg合金微粒子は、分散性を確保した状態では10mM以上90mM以下程度の濃度でしか得ることができていなかった。
【0016】
ここに開示される技術によると、ソリューションプラズマ法において水溶液中の貴金属イオンを高濃度にした状態で、貴金属ナノ粒子を凝集を抑制して製造することができる。その結果、貴金属ナノ粒子を高濃度に含む分散液を得ることができる。この分散液は、例えば、金(Au)と銀(Ag)とを構成元素として含むAuAg合金ナノ粒子の分散液であり得る。そして、(1)このAuAg合金ナノ粒子は、化学組成が一般式:Au
(1−x)Ag
x(ただし、式中、xは0<x<1を満たす。);で表わされる。また、(2)吸光光度計を用いて測定される極大吸収波長は405nm以上520nm以下である。さらに(3)AuAg合金ナノ粒子の構成金属元素換算のモル濃度が100mM以上300mM以下でありながら、静置状態においてAuAg合金ナノ粒子を含む沈殿物が視覚上認められないものとして得ることができる。すなわち、鮮やかな金赤色〜橙色に発色するAuAg合金ナノ粒子を、従来よりも遥かに高い濃度で得ることができる。これにより、深く鮮やかな金赤色〜橙色の色材として用いることができる合金ナノ粒子の分散液が提供される。
【0017】
なお、本明細書において「構成金属元素換算のモル濃度」とは、合金ナノ粒子を構成する各貴金属元素のモル濃度の総和をいう。AuAg合金ナノ粒子については、金(Au)元素のモル濃度M
1と、銀(Ag)元素のモル濃度M
2と、の合計(M
1+M
2)である。 また、本明細書において「極大吸収波長」とは、吸光光度計を用い、貴金属ナノ粒子分散液についてUV−vis吸収スペクトルを測定したときに、吸光度が極大となる吸収波長をいう。本技術では、得られる分散液における貴金属ナノ粒子の濃度が高いことから、極大吸収波長の測定は、分散液に含まれる貴金属ナノ粒子の濃度が約0.2mMとなるように、当該分散液を精製水で希釈してから測定した値を採用している。
さらに、本明細書において「静置状態において沈殿物が視覚上認められない」とは、巨視的にみて当該合金ナノ粒子分散液が静止した状態(典型的には12時間以上静置した後の状態、例えば半日以上2日以下程度静置した後の状態)にあるときに、粗大粒子の存在や沈殿が視認されないことをいう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の貴金属ナノ粒子の製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(水溶液の調製条件や液中プラズマの発生条件等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(液中プラズマの発生装置の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解し、実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A〜B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0020】
ここに開示される貴金属ナノ粒子の製造方法は、以下の工程を含む。以下、各工程について説明する。
(1)貴金属イオンと、保護剤としてのポリエチレンイミンと、を含む水溶液を用意すること。
(2)用意した水溶液中でプラズマを発生させることで貴金属イオンを還元し、水溶液中に当該貴金属イオンを構成する貴金属からなる貴金属ナノ粒子を形成する。
【0021】
1.水溶液の用意
まず、目的の貴金属ナノ粒子の原料たる貴金属源を含む水溶液(以下、単に「原料水溶液」とも言う。)を調製する。ここで、貴金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)の元素が挙げられる。これらは、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。すなわち、本発明によると、単一の貴金属元素からなる貴金属ナノ粒子を製造することもできるし、2種以上の貴金属元素からなる貴金属合金ナノ粒子を製造することもできる。従来のソリューションプラズマ法による金属ナノ粒子の製造においては、原料を水溶液中にのみ供給して合金ナノ粒子を製造することは不可能であった。これに対し、本技術によると、原料水溶液からの原料の供給によって、合金ナノ粒子を製造することが可能とされる。なお、本明細書において、合金とは、2種以上の元素を含む金属的性質を示す材料の全般を包含する。合金における各元素の混じり方は、固溶体、化合物、およびこれらの混合のいずれであってもよい。
【0022】
貴金属源は、目的の貴金属ナノ粒子を構成する貴金属のイオンである。原料水溶液は、例えば、水、塩基性又はアルカリ性水溶液に溶解性を示す当該貴金属の化合物を当該水や水溶液に溶解させる等して用意することができる。かかる化合物については特に制限されず、酸化物、フッ化物、塩化物,臭化物等のハロゲン化物、硝酸塩、酢酸塩、アルコキシド、ギ酸塩、硫酸塩等が例示される。より具体的には、例えば、貴金属成分である金(Au)の原料たる金化合物としては、酸化金(III)、塩化金(I)、八塩化四金、塩化金(III)、臭化金(III)、フッ化金(III)、フッ化金(V)、水酸化金(I)、水酸化金(III)等が挙げられる。これらの例からもわかるように、貴金属イオンは、Au
3+等の単純な水和イオンとして水溶液中に存在していてもよいが、より安定な錯体の形態で含まれていてもよい。かかる錯体としては、例えば、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを考慮することができる。例えば、金については、代表的には、テトラヒドロキシ金(III)酸イオン:[Au(OH)
2]
−や、シアン化金(III)イオン:[Au(CN)
2]
−、テトラクロリド金(III)酸イオン:[AuCl
4]
−等が例示される。
【0023】
この貴金属イオンは、プラズマを照射する前の原料水溶液中に、プラズマ照射により形成される貴金属ナノ粒子が凝集しない程度の濃度で含まれることが好ましい。ここで本技術においては、後述の貴金属ナノ粒子の凝集を抑制するため保護剤として、ポリエチレンイミンを使用するようにしている。このことにより、従来のソリューションプラズマ法における原料水溶液の濃度(例えば、0.01mM〜2mM程度、典型的には0.08mM〜0.3mM程度)と比較して、格段に高濃度の原料水溶液を用いることができる。
【0024】
原料水溶液に含まれる貴金属イオンの濃度は、液中でのプラズマの発生形態などにもよるため厳密に規定されるものではないが、例えば、10mM以上300mM以下程度の濃度を目安として設定することができる。もちろん、原料水溶液の濃度は10mM未満とすることも可能であるが、この場合は、本発明の利点が明瞭に発揮できないという点において好ましくない。原料水溶液の濃度は、例えば、15mM以上が好ましく、20mM以上がより好ましい。原料水溶液の濃度の上限は、例えば300mM程度を目安とすることができる。300mMよりも高濃度とすると、生成した貴金属ナノ粒子が周辺環境等の影響により凝集しやすくなるために好ましくない。原料水溶液の濃度は、例えば、200mM以下がより好ましい。
【0025】
なお、原料水溶液中に2種以上の貴金属イオンを含む場合、原料水溶液の濃度は、これら全ての貴金属イオンについての濃度を意味する。また、貴金属合金からなるナノ粒子の製造を行う場合、原料水溶液としては、目的の合金を構成する貴金属のイオンを、目的の合金組成に応じた化学量論比で含むように調製すればよい。
【0026】
保護剤は、水溶液中の貴金属ナノ粒子の表面を保護し、貴金属ナノ粒子が凝集することを抑制して、貴金属ナノ粒子の水溶液中で安定な分散状態を維持する機能を有する。本技術においては、保護剤として、ポリエチレンイミン(PEI)を用いるようにしている。
PEIは、エチレンイミン(C
2H
5N、EI)を重合した水溶性ポリマーである。PEIの分子式は[−(CH
2CH
2NH)−]n(nは自然数。)で表され、直鎖型であってもよいし分岐型であってもよい。このようなPEIは、カチオン密度が高く、水中ではポリカチオンとして存在する。また、PEIのアミノ基は、極性基であり、貴金属ナノ粒子の表面の水酸基と容易に水素結合する。さらにPEIは、疎水基であるエチレン基を分子構造に有する。このことから、水溶液中にPEIを添加しておくことで、精製された貴金属ナノ粒子同士の凝集を抑制することができる。分岐型のPEIは、2級アミンに加えて、1級アミンおよび3級アミンを含み、より吸着性に富むために好ましい。
【0027】
なお、本発明者らの検討によると、このPEIは、ソリューションプラズマによる非平衡な反応場において、還元機能を有することが明らかとなった。PEIの詳細な挙動は明らかではないが、原料水溶液中にPEIが存在することによって、例えば保護剤(PEI)の他に、還元能を有する還元剤を加えることなしに、貴金属イオンの還元を実施することができる。このことから、PEIは、後述のソリューションプラズマによる還元性ラジカルの発生を促進したり、貴金属イオンと還元性ラジカルとの反応を触媒または誘導したり、あるいは、自身が還元剤として作用するものと考えられる。
【0028】
PEIは、原料水溶液中に高濃度に形成される貴金属ナノ粒子を保護し、分散性を維持することが求められる。したがって、PEIの数平均分子量(Mn)はある程度大きいことが好ましい。PEIのMnは、例えば、1万以上が好ましく、2万以上がより好ましく、3万以上が特に好ましい。例えば、PEIのMnは4万以上とすることができる。しかしながら、保護剤の分子構造が過剰に大きくなると、貴金属イオンの還元効率を低下させたり、反応溶液中に均一に混合し難くなるおそれがある点において好ましくない。かかる観点から、PEIのMnは、おおよそ7万以下程度とすることが好適である。
【0029】
また保護剤の濃度は、形成された貴金属ナノ粒子が凝集しない程度の濃度であればよい。なお、本発明者らの検討によると、PEIはソリューションプラズマによる反応場で、ある程度分解された状態で還元剤および保護剤として機能していると考えられる。そしてまた、PEIの濃度は、その構成単位であるエチレンイミン(EI)を基本単位としたモノマー換算濃度で評価して差し支えないことを確認している。したがって、原料水溶液中のPEIの濃度は、例えば、構成単位であるエチレンイミンに換算した濃度として、原料水溶液に含まれる貴金属イオンの濃度に対して、5倍以上50倍以下の濃度とすることが好適例として挙げられる。PEIの濃度は、貴金属イオン濃度の10倍以上であることが好ましく、15倍以上であることがより好ましく、例えば20倍以上とすることができる。しかしながら、保護剤の濃度が過剰に高くなることも、貴金属イオンの還元効率を低下させ得るために好ましくない。かかる観点から、PEIの濃度は、貴金属イオン濃度のおおよそ50倍以下程度、例えば40倍以下程度とすることが好適である。
【0030】
なお、原料水溶液中でソリューションプラズマを安定して発生させるために、原料水溶液の電気伝導度はおおよそ300μS・cm
−1以上2500μS・cm
−1以下(好ましくは500μS・cm
−1以上2300μS・cm
−1以下、より好ましくは1000μS・cm
−1以上2000μS・cm
−1以下)程度の範囲であるとよい。電気伝導度が300μS・cm
−1未満であると、ソリューションプラズマの発生に多くの電力を要し、好適にソリューションプラズマを発生し難くなるために好ましくない。電気伝導度が2500μS・cm
−1を超過する場合は、プラズマ発生のために電極間に投入した電力がイオン電流として消費されてしまい、定常的にプラズマを発生させるのが困難となるために好ましくない。PEIは窒素性塩基であるため、原料水溶液の電気伝導度は通常は上記範囲に収まり得る。しかしながら、原料水溶液の電気伝導度が万一、上記範囲に満たない場合は、例えば、塩化カリウム(KCl)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等の電解質を原料水溶液に加えるようにしてもよい。溶解させる等して行うとよい。
【0031】
2.ソリューションプラズマによる貴金属イオンの還元
そして本技術では、以上のように貴金属イオンと保護剤とを含む原料水溶液を用意し、該水溶液中でプラズマを発生させる。換言すると、本技術においては、貴金属イオンの還元の場として、該水溶液中で発生させるプラズマ反応場を利用するようにしている。水溶液中で発生させるプラズマ(ソリューションプラズマ)では、プラズマを構成する正負のイオン、電子およびラジカル等の活性種の作用によって、原料水溶液中に含まれる貴金属イオンの還元と、これに伴うゼロ価の貴金属からなるナノ粒子の形成とが実現される。ここで活性種としては、典型的には、水溶液中の水分子が分解されて生成する水素イオン、水酸化物イオン、酸素イオン、水素ラジカル、酸素ラジカルおよびヒドロキシラジカル等が考慮できる。そして本技術においては、これらの活性種に加え、水溶液に添加されたPEIやその誘導体が活性種として作用し得る。
【0032】
ここで、原料水溶液中で発生させるプラズマの態様は特に制限されない。好適には、以下に説明する態様のソリューションプラズマであることが好ましい。
すなわち、ソリューションプラズマは、原料水溶液中に電極を設置し、この電極間にマイクロ波や高周波を印加することで原料水溶液を高電界に晒し、原料水溶液を構成する物質を気化、電離させることで、発生させることができる。ソリューションプラズマの好ましい一態様では、電圧の印加によって発生した気相中に、当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることができる。このようなソリューションプラズマにおいては、プラズマ相を気相が取り囲み、気相をさらに液相が取り囲む。このような構成によって、プラズマを構成する上記のプラズマ活性種は制限された気相中で自由にかつ高濃度で運動し得る。そのため、解放された気相中に発生される気相プラズマ(典型的には、大気圧プラズマ、低圧プラズマ等)とは異なる物理的および化学的性質を示す。
【0033】
例えば、気相プラズマは、気体の温度を上げて行った際にこの気体を構成する中性分子が電離してプラズマ化することで発生する。このとき、固体・液体・気体間の相転移とは異なって気体からプラズマへの転移は徐々に起こるため、構成分子のごく一部が電離した電離度が非常に低い状態のプラズマとなり得る。これに対しソリューションプラズマは、典型的には、まず水溶液中での電圧の印加により当該液体がジュール加熱されて気相を形成し、さらにこの気相においてプラズマが発生することで形成される。すなわち、液ソリューションプラズマは、プラズマという高エネルギー状態が液中(すなわち凝縮相)に閉じ込められており、閉鎖系の物理が実現するとともに、解放されない高密度なプラズマ反応場が形成される。
【0034】
また、貴金属ナノ粒子のプレカーサーともいえる貴金属イオンは、ソリューションプラズマにおいては液相を介して供給される。すなわち、本技術では、貴金属イオンは限定された反応場に高密度で(高濃度で)効率的に供給される。したがって、本発明の製造方法においては、貴金属イオンの還元を高効率で行うことができ、貴金属ナノ粒子を生産性良く形成することができる。
【0035】
なお、以上のようなソリューションプラズマは、電極間にかかる電位差の違い等によって、雷のような火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電等であり得る。火花放電が継続的に流れるとグロー放電あるいはアーク放電となる。ここで、液中で発生されるグロー放電プラズマは、その他のプラズマに対してさらに異なる特徴を有している。例えば、アーク放電プラズマは粒子密度が高く、イオンや中性粒子の温度が電子温度とほぼ等しい局所熱平衡状態にある熱プラズマである。これに対し、グロー放電プラズマは、電子温度は高いがイオンや中性粒子の温度が低い非平衡状態にある低温プラズマである。また、コロナ放電では連続的なプラズマの発生は難しいことに加え、水の分解により水素ラジカルと共に酸化性のヒドロキシラジカルが比較的多く形成されるという特徴があるのに対し、グロー放電プラズマではプラズマの持つエネルギーが高く、酸化性のヒドロキシラジカルがさらに分解されて還元性の水素ラジカルが多く生成される。すなわち、グロー放電プラズマによると、Au(III)イオンの還元がより一層効率的に行われることとなる。このことから、本技術におけるソリューションプラズマは、グロー放電プラズマであることが好ましい。
【0036】
かかるグロー放電プラズマは、サブマイクロ秒のパルス幅の直流電圧を、高い繰り返し周波数で印加することにより、比較的安定して発生させることができる。そのため、プラズマ相を囲む液体の膨張・圧縮運動とプラズマ相とは連動し、安定なプラズマ発生状態を長時間(例えば、2時間以上)に亘って維持することができる。そのため、例えば、ソリューションプラズマにおいては、電極間に発生される気相はその一部が浮力により電極間から浮上して液表面に到達することがあり得るものの、その大部分は電極間に一定の大きさの気相として定常的に維持される。つまり、ソリューションプラズマにおいてはプラズマの発生状態を定常的にコントロールすることができる。本技術による貴金属ナノ粒子の製造方法では、このような制御されたプラズマを利用することを好ましい形態としている。発生したプラズマがグロー放電プラズマであるかどうかは、例えば、プラズマ発光分光分析等により求められるタウンゼント第2係数が0.0005〜0.005の範囲にあることで確認することができる。
【0037】
なお、上記のとおり、ソリューションプラズマによると、貴金属イオンは活性種によって還元される。したがって、例えば熱還元法等とは異なり、還元のために原料水溶液を加熱する必要はない。その結果、本技術によると、貴金属イオンの還元および貴金属ナノ粒子の製造を低温で進行させることができる。ここで低温とは、例えば、90℃未満であって、より適切には80℃以下、例えば70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、例えば40℃以下とすることができ、典型的には30℃以下、例えば室温(25℃)程度以下であってよい。このように低温環境で貴金属ナノ粒子を製造すると、ナノ粒子の粗大化が抑制されて、粒子径にバラつきの少ない単分散な貴金属ナノ粒子を製造することができる。なお、当然のことながら、本技術の実施温度は必ずしも上記温度範囲に限定されるものではない。
【0038】
以下、好適な一実施態様を例に、ソリューションプラズマの発生条件について説明する。
図1は、原料水溶液2中でソリューションプラズマPを発生させるためのソリューションプラズマ発生装置1の構成を説明する模式図である。ソリューションプラズマ発生装置1は、容器10と、一対の電極4と、外部電源12とを備えている。一対の電極4は、容器10に保持され、容器10内にて所定の間隔を以て対向するように配置されている。電極4には、外部電源12が接続されている。容器10内には、撹拌手段8が設けられている。
【0039】
容器10は特に制限されず、例えばガラス製のビーカーであってよい。撹拌手段8は、特に制限されず、
図1の例ではマグネチックスターラーが採用されている。
電極4の形状は特に制限されず、例えば、平板電極や棒状電極、およびこれらの組み合わせ等であってよい。
図1では、電界を局所的に集中させ易いとの観点からは、線状(ワイヤ状、針状)電極を採用している。電極4の材質についても特に制限されず、例えば、鉄(Fe)、金(Au)、タングステン(W)、白金(Pt)等により構成するとよい。また電極4は、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために、先端部(例えば、0.1〜2mm程度)のみを露出させ、残りの部分を絶縁部材6等で覆って絶縁している。絶縁部材6は、例えばゴムまたは樹脂(例えば、フッ素樹脂)により構成するとよい。
外部電源12は、直流パルス電圧を発生することが可能な直流パルス電源であるとよい。
【0040】
貴金属ナノ粒子を製造するに際しては、原料水溶液2を容器10に収容する。容器10に収容された原料水溶液2は、撹拌手段8によって均一に撹拌される。電極4は、原料水溶液2の中で対向している。そしてこの電極4間に、外部電源12から所定の条件の直流パルス電圧を印加する。直流パルス電圧の印加条件は、原料水溶液2中に含まれる原料化合物の種類やその濃度、さらには装置1の構成条件等にもよるものの、例えば、パルス周波数は、凡そ1kHz以上が好ましく、10kHz以上がより好ましく、また、凡そ300kHz以下が適切であり、200kHz以下が好ましく、150kHz以下がより好ましい。パルス幅については、凡そ0.1μs以上が好ましく、1μs以上がより好ましく、また、凡そ10μs以下が好ましく、5μs以下がより好ましい。パルス電圧については、凡そ500V以上が好ましく、1000V以上がより好ましく、また、5000V以下が好ましく、2000V以下がより好ましい。
【0041】
これにより、原料水溶液2中で電極4間にソリューションプラズマPを発生させることができる。一般的には、原料水溶液2(液相)中で、電極4のジュール熱によって電極4間に気相が形成され、その中にソリューションプラズマ(プラズマ相)Pが形成される。このプラズマ反応場は、上記条件の直流パルス電圧により、電極4間に定常的に維持される。かかるプラズマ反応場では、プラズマ相から液相に向かって、高いエネルギーを有した電子、イオン、ラジカル等の活性種が供給される。また、液相からプラズマ相に向かって、水、貴金属イオンおよびPEIが供給される。そしてこれらは、主として液相と気相との界面において接触(衝突)する。とりわけ、水から発生する水素ラジカル,水素イオン,ヒドロキシラジカル等は反応性が高く、特に水素ラジカルが液相中に含まれる貴金属イオンと接触することで、かかる貴金属イオンを還元する作用を示す。このことにより、貴金属イオンは還元されて、液相中に貴金属ナノ粒子が形成される。また、貴金属ナノ粒子が形成されると、直ちにその表面にPEIが吸着し、貴金属ナノ粒子の凝集を抑制する。これによって、原料水溶液の濃度を高濃度にした場合であっても、貴金属ナノ粒子を凝集を抑えて製造することができる。
【0042】
かかる還元反応は、ソリューションプラズマの発生直後から始まり、液相中に金属源が無くなるまで続けられる。このことは、概ね無色透明であった原料水溶液が、プラズマの発生と共に、赤茶色ないしは褐色に変色してゆくことによって確認することができる。ナノ粒子は、例えば、室温領域から生成される。このことによって、水溶液中に、高濃度、かつ、分散した状態で、貴金属ナノ粒子を製造することができる。換言すると、水溶液中に貴金属ナノ粒子を分散状態で高濃度に含む、貴金属ナノ粒子分散液を得ることができる。かかる分散液中の貴金属ナノ粒子の濃度は、この貴金属ナノ粒子を構成する金属元素換算の濃度として、10mM以上300mM以下(例えば、10mM超過300mM以下)となり得る。すなわち、原料水溶液中の貴金属イオン濃度に相当する濃度となり得る。
【0043】
なお、具体的には図示しないが、ソリューションプラズマ発生装置1は、原料水溶液2の温度上昇を抑制するために、容器10内を例えば0℃〜25℃(例えば0℃〜20℃)の温度範囲で任意の温度に調節可能な冷却装置を備えていてもよい。また、容器10は、より多量の原料水溶液2をソリューションプラズマPに接触させるために、循環経路と、循環経路に原料水溶液2を送る循環機構とを備えていてもよい。また、ソリューションプラズマ発生装置1は、原料水溶液2とソリューションプラズマPとの接触頻度(すなわち貴金属ナノ粒子の製造効率)を高めるために、一対の電極4を2対以上備えていてもよい。
【0044】
以上の構成によると、例えば、ソリューションプラズマの作用によって、貴金属イオンが還元され、溶液中に当該機金属元素から構成される貴金属ナノ粒子が形成される。このナノ粒子は、PEIによって凝集が抑制されている。その結果、貴金属ナノ粒子の最大頻度粒子径は、例えば、20nm以下であり、典型的には15nm以下と微細である。最大頻度粒子径は、例えば12nm以下、特に好ましくは5nm以上10nm以下であり得る。なお、貴金属ナノ粒子のZ平均粒子径は通常1〜1000nm程度となり、典型的には10nm以上であり、例えば20nm以上であり、30nm以上であり得る。また、Z平均粒子径は、典型的には300nm以下であり、例えば200nm以下であり、150nm以下度であり得る。さらに、貴金属ナノ粒子の多分散性指数(Polydispersity Index:PDI)は、0.6以下となり得る。PDIがこのような値であることで、貴金属ナノ粒子の粒度分布はシャープであり、粒度の揃った貴金属ナノ粒子が製造できたと評価することができる。
【0045】
なお、本明細書において「最大頻度粒子径」は、動的光散乱(Dynamic light scattering:DLS)法に基づき検出される散乱光の強度の時間的変化(ゆらぎ)から光子相関法により自己相関関数を求め、これをヒストグラム法で解析して得られる粒子径分布における最大頻度粒子径である。本技術では、高濃度の貴金属ナノ粒子分散液が得られるため、かかるDLS法に基づく測定は、貴金属ナノ粒子分散液を、そこに含まれる貴金属ナノ粒子の構成金属元素で換算したモル濃度が約0.2mMとなるように精製水で希釈してから測定した値を採用している。
【0046】
また、「Z平均粒子径」は、上記光子相関法で求めた自己相関関数を、キュムラント法で解析したときに得られる平均粒子径(散乱強度加重高調波平均粒径ともいう。)である。
そして「PDI」は、上記光子相関法で求めた自己相関関数をキュムラント法で解析して得られる粒子径分布についての分散度を示す指標である。PDIは0から1までの範囲の値をとり、PDIが「0」であるときに全ての粒子の径が同一(単分散)であることを示し、PDIが「1」に近づくほど粒度分布がブロードになり多分散性が強くなることを意味する。
【0047】
そして本技術において、製造する貴金属ナノ粒子の組成は、原料水溶液における貴金属イオンの量比を調整することで容易に制御することができる。このことは、特に金赤色〜橙色の色材として有用な、組成がAu
(1−x)Ag
x(0<x<1)の範囲のAuAg合金ナノ粒子についても同様である。安定性が極めて高く還元され易いAuと、Auに比べると還元され難いAgとにより合金ナノ粒子を形成する場合、一般的な手法では、還元に時間差が生じてしまい、均質な合金ナノ粒子を得ることは容易ではなかった。例えば、AuコアAgシェルのようなコンポジット形態のナノ粒子が形成されがちであった。その結果、ナノ粒子の構成元素であるAuとAgの比がたとえ上記組成と重複していても、その吸収スペクトルにおける極大吸収波長はAgナノ粒子を示す400nm近傍に現れ、分散液は黄味がかった色合いとなり得る。あるいは、極大吸収波長がAuとAgとに基づき2つ得られ、意図した色味のナノ粒子を得ることができない。このことは、Agの割合がより少なく、上記xが例えばx≦0.3、さらにはx≦0.4、x≦0.5等で示される組成のAuAg合金ナノ粒子において特に顕著となり得た。また、特許文献4に開示される手法によると、上記組成のAuAg合金ナノ粒子分散液を得ることはできるが、その濃度は90mM以下と十分に高いものではなかった。なお、AuAg合金ナノ粒子分散液は濃縮するとナノ粒子が凝集してしまい、分散状態を維持したまま行濃縮させることは困難である。
【0048】
これに対し、本技術によると、かかる色調を呈するAuAg合金ナノ粒子であっても、Au成分とAg成分とを分離させることなく、均質な組成の合金ナノ粒子として高濃度分散液の形態で得ることができる。その結果、吸収スペクトルにおいて極大吸収波長は450nm以上520nm以下に一つのみが得られ、AuAg合金ナノ粒子は組成に応じた金赤色〜橙色を呈する。そしてその濃度は、例えば、100mM以上300mM以下と従来にない高濃度のものとすることができる。このことによって、より少量で鮮やかな発色を実現することができ、色ムラの少ない緻密な彩色を施すことが可能な、AuAg合金ナノ粒子分散液が提供される。
【0049】
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をこれらの試験例に限定することを意図したものではない。
【0050】
(例1)
金属源として塩化金(III)三水和物(HAuCl
4・3H
2O)を用い、40mMの塩化金酸水溶液を用意した。また、還元剤として、Mnが6万のポリエチレンイミン(PEI)を用い、エチレンイミンで換算したときのPEIの濃度(以下、単に「PEI濃度」等のように表現する。)が400mMとなるようにPEI水溶液を用意した。そしてこれらの水溶液を等量ずつ混合することで、例1の反応溶液を用意した。すなわち、表1に示すように、例1の反応溶液における塩化金酸の濃度は20mMであり、PEI濃度は200mMである。
【0051】
(例2)
例1において、濃度1000mMのPEI水溶液を用意した。その他の条件は例1と同様にして、最終的なPEI濃度が500mMとなるように、例2の反応溶液を用意した。
【0052】
(例3)
例2において、金属源として、塩化金酸三水和物の他に硝酸銀を用いた。まず、40mMの硝酸銀(AgNO
3)水溶液を用意し、塩化金酸水溶液と硝酸銀水溶液とを体積比が90:10となるように秤量した。また、塩化金酸水溶液と硝酸銀水溶液の合計と等量(体積)の1000mMのPEI水溶液を用意した。そして最初に、硝酸銀水溶液とPEI水溶液とを混合したのち、塩化金酸水溶液を加えることで、例3の反応溶液を用意した。つまり、表1に示すように、例3の反応溶液における金属源の総濃度は20mMであり、PEI濃度は500mMである。
【0053】
(例4)
塩化金酸水溶液:硝酸銀水溶液が70:30の割合(体積比)となるように配合したこと以外は、例3と同様にして、例4の反応溶液を用意した。
【0054】
(例5)
塩化金酸水溶液:硝酸銀水溶液が50:50の割合(体積比)となるように配合したこと以外は、例3と同様にして、例5の反応溶液を用意した。
【0055】
(例6)
金属源として用意する塩化金酸水溶液と硝酸銀水溶液の濃度を100mMとした。またこれに伴い、用意するPEI水溶液の濃度を2500mMとした。これらの溶液を用い、例4と同じ手順および配合で各溶液を混合することで、例6の反応溶液を用意した。表1に示すように、例6の反応溶液における金属源の総濃度は50mMであり、PEI濃度は1250mMである。
【0056】
(例7)
金属源として用意する塩化金酸水溶液と硝酸銀水溶液の濃度を200mMとした。またこれに伴い、用意するPEI水溶液の濃度を5000mMとした。これらの溶液を用い、例4と同じ手順および割合で混合することで、例7の反応溶液を用意した。表1に示すように、例7の反応溶液における金属源の総濃度は100mMであり、PEI濃度は2500mMである。
【0057】
(例8)
金属源として用意する塩化金酸水溶液と硝酸銀水溶液の濃度を300mMとした。またこれに伴い、用意するPEI水溶液の濃度を9000mMとした。これらの溶液を用い、例4と同じ手順および割合で混合することで、例8の反応溶液を用意した。表1に示すように、例8の反応溶液における金属源の総濃度は150mMであり、PEI濃度は4500mMである。
【0058】
(例9)
金属源として用意する塩化金酸水溶液と硝酸銀水溶液の濃度を400mMとした。またこれに伴い、用意するPEI水溶液の濃度を10000mMとした。これらの溶液を用い、例4と同じ手順および割合で混合することで、例9の反応溶液を用意した。表1に示すように、例9の反応溶液における金属源の総濃度は200mMであり、PEI濃度は5000mMである。
【0059】
(例10)
金属源として、400mMの硝酸銀水溶液のみを用い、金属源水溶液とした。用意するPEI水溶液の濃度は12000mMとした。そして金属源水溶液とPEI水溶液とを等量ずつ混合することで、例10の反応溶液を用意した。表1に示すように、例10の反応溶液における金属源の総濃度は200mMであり、PEI濃度は6000mMである。
【0060】
(例11)
還元剤として、Mnが1万のポリエチレンイミン(PEI)を用い、エチレンイミンに換算したときの濃度が5000mMとなるようにPEI水溶液を用意した。これらの溶液を用い、例4と同じ手順および割合で混合することで、例11の反応溶液を用意した。表1に示すように、例11の反応溶液における金属源の総濃度は100mMであり、PEI濃度は2500mMである。
(例12)
還元剤として、Mnが3万のポリエチレンイミン(PEI)を用い、エチレンイミンに換算したときの濃度が12000mMのPEI水溶液を用意した。これらの溶液を用い、例4と同じ手順および割合で混合することで、例12の反応溶液を用意した。表1に示すように、例12の反応溶液における金属源の総濃度は200mMであり、PEI濃度は6000mMである。
【0061】
(例13)
例7において、塩化金酸水溶液:硝酸銀水溶液が50:50の割合(体積比)となるように混合して金属源水溶液を調製したこと以外は、例7と同様にして、例13の反応溶液を用意した。表1に示すように、例13の反応溶液における金属源の総濃度は100mMであり、PEI濃度は2500mMである。
【0062】
(例14)
例4において、還元剤としてのPEI水溶液に代えて、重量平均分子量(Mw)が2.9万のポリビニルピロリドン(PVP)の160mM水溶液を用い、その他の条件は例4と同様にして、例14の反応溶液を用意した。また、PEI水溶液とPVP水溶液とではpHが大幅に異なるため、例10の反応溶液にはNaOH溶液を添加してpHを6に調整した。
【0063】
(例15)
還元剤として、例14と同じ重量平均分子量(Mw)が2.9万のポリビニルピロリドン(PVP)と、還元作用を示すとともに分散剤としても機能し得るクエン酸三ナトリウムと、還元作用を示すエタノールとを用いた。これらの還元剤は、エタノールの45体積%水溶液に、PVPが50mM、クエン酸三ナトリウムが150mMの濃度となるように溶解させることで、還元剤溶液とした。そして、例4において、還元剤としてのPEI水溶液に代えて、この還元剤溶液を用いることで、例15の反応溶液を用意した。表1に示すように、例15の反応溶液における金属源の総濃度は20mMであり、PVP濃度は25mMであり、クエン酸三ナトリウム濃度は75mMであり、エタノール濃度は22.5体積%である。
【0064】
用意した例1〜15の反応溶液の構成を、下記の表1にまとめた。また、表1には、各例の反応溶液における、PEIと金属イオン(M)の割合を、エチレンイミン(43.07g/mol)を基本単位としたときのモル比(EI/M)として示した。また、PVPと金属イオン(M)の割合を、N−ビニル−2−ピロリドン(111.14g/mol)を基本単位としたときのモル比(VP/M)として示した。
【0065】
[貴金属ナノ粒子の製造]
次いで、例1〜15の反応溶液中で、
図1に示した装置を用いてソリューションプラズマを発生させた。反応溶液2は、ガラス製のビーカーからなる容器10にそれぞれ30mLずつ収容し、マグネチックスターラーからなる撹拌装置7により撹拌した。また、反応溶液2中に、プラズマを発生させるための一対の電極4を浸漬させた。電極4には、直径が0.8mmのタングステンワイヤ(ニラコ社製)を用い、電極間距離を0.3mmに設定した。この電極4に外部電源12としてのバイポーラパルス電源((株)栗田製作所製、MPS−R06K02C−WP1F)を接続し、電極間に、パルス周波数:150kHz、パルス幅:1μs、パルス電圧:1000Vの直流パルス電圧を30分間印加した。パルス電圧の印加直後から、黄色透明であった反応溶液が徐々に着色することが確認された。
【0066】
[呈色評価]
ソリューションプラズマを照射した反応溶液を、総金属濃度が約0.2mMとなる程度に希釈し、希釈溶液の呈色を評価し、その結果を表1に示した。その結果、例1〜13、15の溶液は、赤色から橙色ないし黄色に呈色していることが確認できた。粒子径が10nm程度の金や銀のナノ粒子を含むコロイド溶液は、プラズモン発色により赤色(金)や黄色(銀)を呈することが知られている。このことから、例1、2の反応溶液中には金ナノ粒子が、例10の反応溶液中には銀ナノ粒子が、そして例3〜9、11〜13の反応溶液中には金銀合金ナノ粒子が形成されていると考えられる。
【0067】
ここで、例14の反応溶液は、薄黄色に呈色しているもののその色は、例えば例4の反応溶液と比較しても十分に薄い黄色であった。また、後述のuv−visスペクトル分析において極大吸収波長は観測されなかった。このことから、例14の反応溶液中には、金銀合金ナノ粒子は形成されずに、粒径が粗大な金粒子が形成されたと考えられる。また、例10の反応溶液では、例えば例4や例9等と比較して、形成された粒子の数が少なく、その結果、処理後の反応溶液が塩化金酸の薄黄色を呈していたと考えられる。さらに、例15では、ナノ粒子が形成されていると思われるが、得られた反応用液は赤色を呈しており、例えば例4等とは異なる性状の粒子が作製されたことが予想された。
【0068】
[可視・紫外分光分析]
そこで、ソリューションプラズマを照射した例1〜15の反応溶液について、紫外可視赤外分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、U−3900H)を用いて、300nm〜800nmの波長領域における吸収スペクトルを測定し、極大吸収波長を調べた。得られた極大吸収波長を表1に示した。また、参考のために、例5について得られたUV−Vis吸収スペクトルを
図2に示した。
金ナノ粒子と銀ナノ粒子の表面プラズモン共鳴の極大吸収波長は、球状粒子について、それぞれ520nm付近(金)および400nm付近(銀)に見られることが報告されている。また、ナノ粒子の極大吸収波長は、ナノ粒子のサイズ、形状、凝集状態などによる影響を受けて高波長側にシフトすることが知られている。
【0069】
例1,2の反応溶液については、極大吸収波長が519nm、516nmと520nmにほぼ一致していることから、微粒かつ球形で、分散性のよい金ナノ粒子が反応液中に得られたことが把握できる。また、例10の反応溶液についても、極大吸収波長が406nmと400nmにほぼ一致していることから、微粒かつ球形で、分散性のよい銀ナノ粒子が反応液中に得られたことが把握できる。
例3〜9、11〜13のナノ粒子については、例えば
図2に示されるように、波長400〜520nmの範囲に一つの吸収ピークが確認された。また、その極大吸収波長は、例1,10の極大吸収波長の間で、おおよそ反応溶液におけるAuとAgの組成比に応じた位置(464〜501nm)であった。このことから、例3〜9、11〜13においては微粒かつ球形で、分散性のよい金銀合金ナノ粒子が得られていると考えられる。また、その組成は、反応溶液中のAuイオンとAgイオンとの比に対応し、凡そAu
90Ag
10、Au
70Ag
30、Au
50Ag
50等あると考えられる。以上のことから、例えば、組成がAu
(1−x)Ag
x(例えば0<x<1を満たす。)で表われるAuAg合金ナノ粒子分散液については、極大吸収波長が好ましくは450nm以上510nm以下(より好ましくは460nm以上510nm以下)程度であるといえる。
【0070】
しかしながら、例14については、吸収ピークが低くブロードになっており、極大吸収波長を得ることができなかった。これは、反応液中に形成された粒子が粗大であり、もはやプラズモン共鳴条件を満たすナノ粒子径ではなくなったたためであると考えられる。
また、例15では、極大吸収波長が526nmと長波長側にシフトしていることが確認された。極大吸収波長が526nmとは、例えば、直径が30nmの金ナノ粒子分散液について観測される極大吸収波長に相等する。例14は、例4のPEIに代えて、PVPを使用した例である。例15は、例4のPEIに代えて、PVP、クエン酸三ナトリウムおよびエタノールを使用した例である。
【0071】
[粒度分布測定]
そこでさらに、ソリューションプラズマを照射した例1〜15の反応溶液中のナノ粒子の粒度分布を動的光散乱法に基づき測定した。測定には、粒度分布測定装置(Malvern Instruments社製、ゼータサイザーナノZS)を使用した。散乱光強度の測定結果から個数基準の最大頻度粒径、Z平均粒子径およびPDIを算出し、表1に示した。
【0072】
表1に示すように、例14では、ナノ粒子の最大頻度粒径が63nmであった。このことからも、形成されたナノ粒子が粗大であることが確認できた。
その一方で、例15では、ナノ粒子の最大頻度粒径が17nmと小さいにも関わらず、Z平均粒子径が759nmと極めて大きいことが確認された。これは、従来のソリューションプラズマ法による貴金属ナノ粒子の製造において見られたように、反応溶液中の貴金属イオンの濃度が高すぎるために、形成されたナノ粒子が容易に凝集してしまったことによるものと考えられる。
【0073】
例14で分散剤として用いたPVPは、化学還元法による貴金属ナノ粒子の製造において、分散剤として汎用されている物質である。しかしながら、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造において、PVPは分散剤としてはうまく機能しないことが確認された。また、例15で分散剤として用いたクエン酸三ナトリウムは、分散剤兼保護剤として機能し得る化合物であるが、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造においては保護剤としてはうまく機能しないことが確認された。また、エタノールは、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造において還元剤として機能することが確認されているが、このエタノールとクエン酸三ナトリウムとを併用しても、形成されたナノ粒子の凝集を抑制できないことが確認された。
【0074】
これに対し、例1〜13では、ナノ粒子の最大頻度粒径が5nm〜12nmと、微細なナノ粒子が得られていることが確認できた。粒径が5nm〜12nmとは、例1〜13の反応溶液中で貴金属ナノ粒子は二次粒子を殆ど構成せず、単一の粒子として分散しているものと考えられる。また、例1〜13の反応溶液中の貴金属ナノ粒子のPDIは0.6以下と、このような微細なナノ粒子であるにも関わらず十分に小さい値を示し、粒度分布がシャープであることが確認できた。Z平均粒子径についても、例1〜13では全例で150nm以下(例えば120nm以下)と、適切な値が得られたことが確認された。なお、一部例3等でやや大き目の値(118nm)が得られたが、これは他の例との比較から、希釈操作に伴うナノ粒子の凝集によるものであると推察される。したがって、Z平均粒子径は概ね100nm以下となることが推察される。
【0075】
なお、例11、12に示されるように、PEIの分子量は貴金属ナノ粒子の形成に大きな影響を与えないことが見て取れる。また、PEIの添加量は、反応溶液中の金属源濃度に対して、モノマー単位に換算した濃度で、等濃度以上(例えばモル比で10倍以上30倍以下程度)としてよいことがわかった。
【0076】
以上のことから、PEIは、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造に際し、ナノ粒子の形成を好適に促進させることがわかった。換言すると、PEIは、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造に際し、良好な還元剤として機能することが確認できた。同時にPEIは、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造において、保護剤(分散剤)としても好適に機能することがわかった。すなわち、PEIは、ソリューションプラズマによる貴金属ナノ粒子の製造において、分散剤と還元剤としての機能を併せ持つことが確認された。
【0077】
このように、反応溶液中にPEIが存在することで、反応溶液中の貴金属イオンの濃度が十分に高い場合であっても、ソリューションプラズマによりPEIの作用のもと、貴金属イオンが還元されると同時に、形成された貴金属ナノ粒子の表面がPEIによって即時に保護され、ナノ粒子の凝集が好適に抑制されると考えられる。ソリューションプラズマ法においては、PEIは分散剤のみならず還元剤としても機能することから、これまでには不可能であった高濃度な原料水溶液中においても単金属または合金からなるナノ粒子を合成できることが確認できた。
【0079】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。