(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注入器から射出される前記注入目的物質の圧力として定義される、該注入目的物質の射出圧が、前記第1付与部により前記1次射出エネルギーが付与されることで、エネルギー付与開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に、前記第2付与部により前記2次射出エネルギーが付与されることで第2ピーク圧力まで再上昇する、
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の注入器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象領域に対して注入を行う場合、その注入目的によって注入液に含まれる成分を、送り込むべき対象領域の部位に的確に送り込む必要がある。たとえば、ヒトの皮膚に対して注入目的物質として所定の薬剤を含む注入液を送り込みたい場合には、皮膚がその表面側から表皮、真皮、皮下組織と層状に構成されていることを踏まえ、薬剤が皮膚のどの部位に送り込まれるべきかを十分考慮して、注入液の射出を行う必要がある。
【0006】
ここで、従来技術のように、注入液の射出圧を付与するエネルギー源として火薬装薬を利用する場合、注入液への加圧を行うためにその火薬装薬を燃焼させる必要がある。火薬装薬を燃焼させると、その燃焼反応によって一定の残渣が生じる場合がある。このような残渣は、衛生上の理由から好ましくは注入目的物質との接触は規制されるべきであるが、火薬装薬の燃焼によって生じる燃焼生成物(燃焼ガス)は高圧であるため、注入器内で燃焼生成物と注入目的物質との接触を完全に排除することは容易ではない。
【0007】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑み、注入目的物質を対象領域に注入する注入器において、射出される注入目的物質に影響を及ぼすことなく、対象領域に好適に到達させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、射出される注入目的物質に対して2つの付与部により射出エネルギー付与する構成を採用した。そして、そのうち一方の付与部のみが火薬の燃焼により生じるエネルギーを射出エネルギーとして利用し、他方の付与部は火薬の燃焼反応を利用せずに射出エネルギーを注入目的物質に付与する。このように火薬の燃焼機会を抑制することで、当該火薬の燃焼によって生じる残渣による注入目的物質への影響を可及的に抑制しようとするものである。
【0009】
具体的には、本発明は、注入目的物質を対象領域に注入する注入器であって、前記注入目的物質を封入する封入部と、点火薬を燃焼させて燃焼生成物を放出することで前記封入部に封入された前記注入目的物質に対して1次射出エネルギーを付与する第1付与部と、前記第1付与部により付与される1次射出エネルギーと異なるエネルギーであって、更に
前記注入目的物質に対して付与されるべきエネルギーを蓄積するエネルギー蓄積部と、前記放出された燃焼生成物により、前記エネルギー蓄積部によって蓄積されていたエネルギーを解放することで、該解放されたエネルギーを2次射出エネルギーとして前記注入目的物質に付与する第2付与部と、を備える。
【0010】
本発明の注入器において、注入目的物質を対象領域に対して射出するために、第1付与部及び第2付与部が、封入部に封入されている注入目的物質に対して射出エネルギーの付与を行う。なお、本発明の注入器は、注入目的物質の射出に際して対象領域内に挿入され注入目的物質を導き注入針を有していてもよく、又はその注入針を有していなくてもよい。本願における「射出」とは、注入器が注入針を有する場合はその注入針から、注入器が注入針を有していない場合には注入器側に設けられた射出部位等から、注入目的物質が対象領域に向けて出ていく動作を意味する。ここで、本発明に係る注入器で射出される注入目的物質としては、対象領域内で効能が期待される成分や対象領域内で所定の機能の発揮が期待される成分を含む物質が例示できる。そのため、少なくとも上記の射出エネルギーによる射出が可能であれば、注入目的物質の物理的形態は、液体内に溶解した状態で存在してもよく、又は液体に溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき所定物質として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体の媒体に含まれることで注入目的物質が形成される。なお、上記媒体としては、対象領域内部に注入された状態において所定物質の上記効能や機能を阻害するものでない媒体が好ましい。別法として、上記媒体は、対象領域内部に注入された状態において、所定物質とともに作用することで上記効能や機能が発揮される媒体であってもよい。
【0011】
ここで、第1付与部は1次射出エネルギーの付与を行うが、当該1次射出エネルギーは、点火薬の燃焼によって生じる燃焼生成物に起因して生成される。注入器から注入目的物質を対象領域に向けて射出し、その内部に送り込むためには、対象領域の表面を射出された注入目的物質で貫通する必要がある。そのため、射出初期では注入目的物質を比較的高速に対象領域に向けて射出する必要がある。この点を考慮すると、点火薬の燃焼により放出される燃焼生成物を利用して1次射出エネルギーを付与するのが好ましい。なお、前記点火薬として、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬、アルミニウムと酸化銅を含む火薬、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬のうち何れか一つの火薬、又はこれらのうち複数の組み合わせからなる火薬の何れかを採用できる。上記点火薬の特徴としては、その燃焼生成物が高温状態では気体であっても常温では気体成分を含まないため、点火後燃焼生成物が直ちに凝縮を行う結果、第1付与部は、極めて短期間に1次射出エネルギーの付与を行うことができる。
【0012】
一方で、第2付与部は、エネルギー蓄積部が蓄積しているエネルギーを解放することで、その解放されたエネルギーを2次射出エネルギーとして注入目的物質に付与する。エネルギー蓄積部によるエネルギーの蓄積は、その解放が可能な形態で行われればよい。なお、本発明におけるエネルギーの解放とは、既に射出エネルギーとして注入目的物質に付与が可能な状態で蓄積されているエネルギーを、注入目的物質に付与できるようにすることであり、射出エネルギーの付与に当たり新たな物質が生成される化学反応が生じる形態は、本発明におけるエネルギーの解放には相当しない。したがって、好ましくは、前記第2
付与部は、前記放出された燃焼生成物との所定の化学反応を伴うことなく、前記2次射出エネルギーを前記注入目的物質に付与する。
【0013】
また、エネルギー蓄積部により蓄積されていたエネルギーの解放には、点火薬の燃焼により放出された燃焼生成物が利用される。したがって、第2付与部による2次射出エネルギーの付与は、第1付与部による1次射出エネルギーの付与より先んじることはなく、換言すれば、第1付与部による1次射出エネルギーの付与をトリガーとして実行されることになる。そのため、上記の通り、1次射出エネルギーは、主に、注入目的物質を対象領域の内部に進入させるためにその表面を貫通させるためのエネルギーという意義を有するのに対し、2次射出エネルギーは、対象領域の表面が貫通された後に、実質的に注入目的物質の大部分を対象領域内に送り届けるためのエネルギーという意義を有するものと考えられる。したがって、第2付与部による2次射出エネルギーの付与は、注入目的物質への作用程度が比較的大きいと考えられる。
【0014】
しかし、上記の通り、第2付与部による2次射出エネルギーは、エネルギー蓄積部により蓄積されていたエネルギーを解放するものであり、火薬の燃焼反応のように燃焼残渣を生じさせるものではない。そのため、第2付与部により2次射出エネルギーが付与される構成では、注入目的物質が燃焼残渣に晒される機会はなく、第1付与部による1次射出エネルギーの付与を含めて考慮しても、注入目的物質が高温環境や燃焼残渣に晒される機会は大きく規制されていると言える。その結果、注入目的物質の変質や燃焼残渣への露出等が生じることなく、注入目的物質を対象領域に好適に到達させることが可能となる。
【0015】
ここで、上述までの注入器において、前記第2付与部による前記2次射出エネルギーの付与は、前記放出された燃焼生成物により前記エネルギー蓄積部の一部が破壊されることで行われてもよい。すなわち、放出された燃焼生成物によってエネルギー蓄積部の一部を破壊するという物理的な作用によって、蓄積されていたエネルギーを放出し、第2付与部がそれを2次射出エネルギーとして注入目的物質に付与するものである。このような構成により、注入目的物質が燃焼残渣に晒される機会を好適に封じることができる。
【0016】
また、上述までの注入器において、前記注入器から射出される前記注入目的物質の圧力として定義される、該注入目的物質の射出圧が、前記第1付与部により前記1次射出エネルギーが付与されることで、エネルギー付与開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に、前記第2付与部により前記2次射出エネルギーが付与されることで第2ピーク圧力まで再上昇してもよい。この第1ピーク圧力は、主に、初期に射出された注入目的物質が対象領域の表面を貫通しその内部に進入する際に必要とされる特徴的な圧力であり、その後に迎える第2ピーク圧力は、注入目的物質の大部分を対象領域内に送り込む際に必要とされる特徴的な圧力と考えられる。なお、射出圧は、射出口から射出される前記注入目的物質の圧力として定義され、射出口から射出された直後、すなわち射出口近傍における注入目的物質に掛かっている圧力であり、注入目的物質が射出口より射出されるための圧力である。物理的には、射出により射出口からの離間距離が延びるほど注入目的物質に掛かる圧力は低下するが、本発明の射出圧は、注入目的物質が対象領域に向かって注入器から射出される時点での当該注入目的物質に掛かる圧力である。
【0017】
ここで、上述までの注入器について、以下に具体的な4つの形態を例示する。第1の形
態では、上記注入器は、前記注入器の本体内を推進し前記封入部に封入された前記注入目的物質に対して加圧可能に配置されたピストン部を、更に備え、前記エネルギー蓄積部は、所定圧力に圧縮された圧縮ガスが充填された充填空間と、前記充填空間内の前記圧縮ガスと前記ピストン部との接触を遮断する板部材であって、前記放出された燃焼生成物により破壊されるように構成された板部材と、を有してもよい。その場合、前記放出された燃
焼生成物により前記板部材が破壊されることで、前記充填空間に充填されていた圧縮ガスが該充填空間の外部に放出されるとともに前記ピストン部に接触することで、前記第2付与部による前記2次射出エネルギーの付与が行われてもよい。
【0018】
この第1の形態では、圧縮ガスが板部材でピストン部との接触が遮断された状態で、そ
の圧縮ガスが有するエネルギーが充填空間内に蓄積されている。そして、放出された燃焼生成物によってその板部材が破壊されることで、蓄積されていたエネルギーが解放され、圧縮ガスとピストン部との接触により2次射出エネルギーとして注入目的物質に付与されていくことになる。この付与形態において、注入目的物質が燃焼残渣等の不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【0019】
次に、第2の形態では、上記注入器は、前記注入器の本体内を推進し前記封入部に封入された前記注入目的物質に対して加圧可能に配置されたピストン部を、更に備え、前記エネルギー蓄積部は、所定圧力に圧縮された圧縮ガスが充填された充填空間と、前記ピストン部の前記注入目的物質に対する推進を規制する規制部材と、を有してもよい。その場合、前記第1付与部による前記1次射出エネルギーの付与前は、前記充填空間内の前記圧縮ガスは前記ピストン部と接触するとともに、該ピストン部の推進は前記規制部材により規制されており、前記第1付与部により前記1次射出エネルギーが前記ピストン部を介して前記注入目的物質に付与された後に前記規制部材が破壊されることで、前記圧縮ガスを介して前記第2付与部による前記2次射出エネルギーの付与が行われてもよい。
【0020】
この第2の形態では、圧縮ガスはピストン部と接触した状態に置かれているが、ピストン部の推進が規制部材によって規制されているため、結果としてその圧縮ガスが有するエネルギーが充填空間内に蓄積された状態となっている。そして、放出された燃焼生成物によってその規制部材が破壊されることでピストン部の推進が可能な状態となり、換言すれば、蓄積されていたエネルギーが解放され得る状態となる。この結果、圧縮ガスに押圧される形で蓄積されていた圧縮ガスのエネルギーがピストン部を介して2次射出エネルギーとして注入目的物質に付与されていくことになる。この付与形態において、注入目的物質が燃焼残渣等の不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【0021】
次に、第3の形態では、上記注入器は、前記注入器の本体内を推進し前記封入部に封入された前記注入目的物質に対して加圧可能に配置されたピストン部を、更に備え、前記エネルギー蓄積部は、前記ピストン部の端部が露出している所定空間と、封止部材により開口部が封止された状態で、その内部に所定圧力に圧縮された圧縮ガスが充填された充填容器と、前記封止部材に対向して配置され、該封止部材を貫通させて前記充填容器の内部と外部とを連通させることを可能とする貫通部材と、を有してもよい。その場合、前記第1付与部による前記1次射出エネルギーの付与前は、前記圧縮ガスは前記充填容器内に保持されており、前記燃焼生成物が放出されると、前記第1付与部により前記1次射出エネルギーが前記ピストン部を介して前記注入目的物質に付与されるとともに、前記貫通部材が前記封止部材に対して押圧されることで該貫通部材を介して前記充填容器の内部と外部とが連通した状態となり、その後、該充填容器内から放出される前記圧縮ガスを介して前記第2付与部による前記2次射出エネルギーの付与が行われてもよい。
【0022】
この第3の形態では、圧縮ガスは圧縮容器内に充填されることでそのエネルギーが蓄積された状態となっている。そして、1次射出エネルギーの付与前は、圧縮ガスはピストン部とは接触していない。なお、ピストン部の推進は特段に規制されてはおらず、外部からの作用により推進可能な状態とされている。そして、放出された燃焼生成物が貫通部材を充填容器の封止部材に押圧することで、充填容器内の圧縮ガスが容器外に放出可能となり、圧縮ガスのエネルギーが解放されることになる。この結果、圧縮ガスに押圧される形で蓄積されていた圧縮ガスのエネルギーがピストン部を介して2次射出エネルギーとして注
入目的物質に付与されていくことになる。この付与形態において、注入目的物質が燃焼残渣等の不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【0023】
最後に、第4の形態では、上記注入器は、前記注入器の本体内を推進し前記封入部に封入された前記注入目的物質に対して加圧可能に配置されたピストン部を、更に備え、前記エネルギー蓄積部は、前記ピストン部に接触した状態で配置された、圧縮状態の弾性部材と、前記ピストン部の前記注入目的物質に対する推進を規制する規制部材と、を有してもよい。この場合、前記第1付与部による前記1次射出エネルギーの付与前は、前記ピストン部の推進は前記規制部材により規制されており、前記第1付与部により前記1次射出エネルギーが前記ピストン部を介して前記注入目的物質に付与された後に前記規制部材が破壊されることで、前記弾性部材の伸長動作を介して前記第2付与部による前記2次射出エネルギーの付与が行われてもよい。
【0024】
この第4の形態では、弾性部材が圧縮された状態でピストン部と接触した状態に置かれているが、ピストン部の推進が規制部材によって規制されているため、結果としてその弾性部材が有する弾性エネルギーが蓄積された状態となっている。そして、放出された燃焼生成物によってその規制部材が破壊されることでピストン部の推進が可能な状態となり、換言すれば、蓄積されていた弾性エネルギーが解放され得る状態となる。この結果、弾性部材が伸長しながらそれに押圧される形で、蓄積されていた弾性エネルギーがピストン部を介して2次射出エネルギーとして注入目的物質に付与されていくことになる。この付与形態において、注入目的物質が燃焼残渣等の不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【発明の効果】
【0025】
注入目的物質を対象領域に注入する注入器において、射出される注入目的物質に影響を及ぼすことなく、対象領域に好適に到達させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照して本願の注入器の一形態である無針注射器(以下、単に「注射器」と称する)1について説明する。当該注射器1は、本願の注入目的物質に相当する注射液を対象領域に射出する無針注射器、すなわち、注射液を対象領域に注入するための注入針を介することなく、注射液を対象領域に注入する装置である。以下、注射器1について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本願発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、本願の注入器の他の形態として、注入針を有する注射器も含まれ得る。
【0028】
本実施例において、注射器1の長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器1の先端寄り、すなわち射出口45寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち点火部10側の方向を表している。
【0029】
<実施例1>
ここで、
図1は、実施例1の注射器1の概略構成を示す図であり、注射器1のその長手方向に沿った断面図でもある。なお、
図1に示す注射器1は、後述する点火部10等が作動する前の状態に置かれている。注射器1は、注射器本体30の先端側にシリンジ部40が配置されるとともに、その基端側に点火部10と蓄積部20が配置されることで構成される。なお、本願の以降の記載においては、注射器1により対象領域に投与される注射液は、当該対象領域で期待される効能や機能を発揮する所定物質が液体の媒体に含有されることで形成されている。その注射液において、所定物質は媒体である液体に溶解した状態となっていてもよく、また、溶解されずに単に混合された状態となっていてもよい。
【0030】
例えば、注射液に含まれる所定物質としては、例えば生体である対象領域に対して射出可能な生体由来物質や所望の生理活性を発する物質が例示でき、例えば、生体由来物質としては、DNA、RNA、核酸、抗体、細胞等が挙げられ、生理活性を発する物質としては、低分子医薬、温熱療法や放射線療法のための金属粒子等の無機物質、キャリアとなる担体を含む各種の薬理・治療効果を有する物質等が挙げられる。また、注射液の媒体である液体としては、これらの所定物質を対象領域内に投与するために好適な物質であればよく、水性、油性の如何は問われない。また、所定物質を注射器1にて射出可能であれば、媒体である液体の粘性についても特段に限定されるものではない。また、注射液の射出対象である対象領域については、上記所定物質が投与されるべき領域であり、例えば、生体の細胞や組織(皮膚等)、臓器器官(眼球、心臓、肝臓等)等が例示できる。なお、支障の無い限りにおいて、生体本体から切り離した状態で、生体の構成物を対象領域と設定することも可能である。すなわち、ex-vivoでの対象領域(組織や器官)に対する所定物質
の射出、及びin-vitroでの対象領域(培養細胞や培養組織)に対する所定物質の射出も、本実施形態に係る注射器による動作の範疇に含まれる。
【0031】
まず、注射器本体30及びシリンジ部40について説明する。注射器本体30の内部には、後述する点火部10及び蓄積部20から付与される射出エネルギーによって押圧されて、注射器本体30内の貫通孔を先端側に向けて推進するピストン部が配置されている。具体的には、ピストン部は、射出エネルギーを直接受ける駆動ピストン32と、その駆動ピストン32に押圧されて推進するプランジャ部35とを含む。駆動ピストン32は、主に貫通孔33を推進し、プランジャ部35は、主に貫通孔34及び後述するシリンジ部40の内部を推進する。貫通孔33と貫通孔34は概ね同じ内径を有している。貫通孔33と貫通孔34は、直接的には繋がっておらず、両貫通孔より内径の小さい接続孔37を介して繋がっている。
【0032】
駆動ピストン32は、金属製であり、ピストン本体軸32a、第1胴部32b及び第2胴部32cを有している。第1胴部32bと第2胴部32cは同じ外径を有するが、ピストン本体軸32aの外径は、第1胴部32b及び第2胴部32cの外径より小さい。第1胴部32bがプランジャ部35側に、且つ第2胴部32cが蓄積部20側に向くように、駆動ピストン32は貫通孔33内に配置される。このとき、第2胴部32cは、貫通孔33に繋がり貫通孔33より内径が大きい所定空間31側に露出した状態となっている。そして、この第1胴部32b及び第2胴部32cが貫通孔33の内壁面と対向した状態で、且つ、ピストン本体軸32aが接続孔37に挿入された状態で、駆動ピストン32は貫通孔33内を先端側に推進する。また、第1胴部32bと第2胴部32cとの間は、各胴部の直径より細い連結部で繋がれており、その結果形成される両胴部間の空間には、貫通孔33の内壁面との密着性を高めるために、Oリング32eが配置されている。更に、第1胴部32bの先端側にもOリング32dが配置されている。なお、駆動ピストン32は樹脂製でもよく、その場合、耐熱性や耐圧性が要求される部分は金属を併用してもよい。
【0033】
次に、プランジャ部35及びシリンジ部40について説明する。プランジャ部35は、駆動ピストン32によって押圧されることで注射器本体30の貫通孔34内を推進するとともに、シリンジ部40内の充填室43を推進することで、充填室43内に充填されている注射液に対して加圧する部材である。ここで、シリンジ部40では、注射液を収容可能な空間である充填室43及び注射液が流れる流路を形成するノズル部44を有するシリンジ本体42が、ホルダ41によって注射器本体30に対して螺合されて固定される。
図1においては、その螺合箇所が参照番号46で表されている。具体的には、その螺合状態において、ホルダ41はシリンジ本体42を注射器本体30との間に挟んで固定するとともに、シリンジ本体42の長手方向に延在するように設けられている充填室43の中心軸が、貫通孔34の延在方向の中心軸と一致している。このような構成により、プランジャ部35は、貫通孔34及び充填室43内を円滑に推進することが可能となる。また、ノズル部44の先端側には、注射液が注射器1の外部に射出される射出口45が形成されている。
【0034】
ここで、シリンジ本体42は、例えば、公知のナイロン6−12、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー等が使用できる。また、これら樹脂にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20〜80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20〜80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20〜80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0035】
そして、シリンジ部40の内部に形成された充填室43において、プランジャ部35の先端側に設けられた押圧部36とシリンジ本体42との間に形成される空間が、注射液が封入される空間となる。そして、充填室43内をプランジャ部35が推進することで、充填室43に収容されている注射液が押圧されてノズル部44の先端側に設けられた射出口45より射出されることになる。そのため、押圧部36は、充填室43内での推進が円滑であり、且つ、注射液がプランジャ部35側から漏出しないような材質で形成される。具体的な押圧部36の材質としては、例えば、ブチルゴムやシリコンゴムが採用できる。更には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマーや、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンや流パラ、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカ等の粉体無機物を混合したものがあげられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、それらの混合物等を、押圧部36の材質として採用することもできる。また、押圧部36とシリンジ本体42との間の推進性を確保・調整する目的で、押圧部36の表面やシリンジ本体42の充填室43の表面を各種物質によりコーティング・表面加工してもよい。そのコーティング剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコンオイル、ダイヤモンドライクカーボン、ナノダイヤモンド等が利用できる。
【0036】
ここで、押圧部36の先端側の輪郭は、充填室43の先端側の内壁面の輪郭に概ね一致する形状となっている。これにより、注射液の射出時にプランジャ部35が充填室43内を推進し、充填室43において最も奥に位置する最奥位置に到達したときに、押圧部36と充填室43の内壁面との間に形成される隙間を可及的に小さくでき、注射液が充填室43内に残り無駄となることを抑制することができる。ただし、プランジャ部35及び押圧部36の形状は、本実施形態の注射器において所望の効果が得られる限りにおいて、特定の形状に限定されるものではない。
【0037】
ここで、シリンジ部40の説明に戻る。シリンジ本体42のノズル部44に設けられた
流路の内径は、充填室43の内径よりも細く形成されている。このような構成により、高圧に加圧された注射液が、流路の射出口45から外部に射出されることになる。そこで、シリンジ部40を構成するホルダ41の先端側であってノズル部44の射出口45の近傍には、当該射出口45の周囲を囲むように環状のシールド部41aが設けられている。例えば、ヒトの皮膚等の対象領域の表層に射出口45を押し当てて注射液の射出を行う場合、射出された注射液がその周囲に飛散しないように、シールド部41aによって遮蔽することができる。なお、射出口45を皮膚に押し当てた時に皮膚がある程度凹むことで、射出口45と皮膚との接触性を高め、注射液の飛散を抑制することができる。そこで、射出口45が位置するノズル部44の先端は、シールド部41aの端面と同程度の高さとしてもよく、もしくは、ノズル部44の先端は、シールド部41aの端面よりも注射液の射出方向に向けて若干量突出させてもよい。
【0038】
次に、注射器1において、シリンジ部40に封入されている注射液が射出口45から対象領域に射出されるように、該注射液に対して射出エネルギーを付与するための構成について説明する。本実施例では、点火部10及び蓄積部20によって射出エネルギーの付与が行われる。
【0039】
先ず、点火部10について説明する。点火部10は、点火部本体15が筒状に形成され、その内部に、点火薬を燃焼させて燃焼生成物を放出し注射液を射出するための射出エネルギーを発生させる電気式点火器である点火器11と、点火器11に点火薬の着火電流を供給する電源部13とを有している。また、電源部13には、ユーザが着火電流の供給を操作するための操作ボタンが配置されている。点火器11で生成された燃焼生成物は、点火器11において蓄積部20に対向する放出面12から、放出空間14に向かって放出される。なお、点火器11は、射出成形した樹脂を金属のカラーに固定した部材を介して点火部本体15に取り付けられてもよい。当該射出成形については、公知の方法を使用することができる。また、その射出成形に使用される樹脂材料としては、シリンジ本体42と同じ樹脂材料が採用できる。
【0040】
ここで、点火器11において用いられる点火薬の燃焼エネルギーは、注射器1が注射液を対象領域に射出するためのエネルギーとなる。なお、当該点火薬としては、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な注射液の射出が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0041】
次に、蓄積部20について説明する。蓄積部20は、点火部10と注射器本体30との間に配置される。蓄積部20は、筒状の蓄積部本体21と、2枚の金属板である板部材25、26を有し、これらの構成により蓄積部20の内部には、圧縮ガスを充填可能な充填空間24が画定される。板部材25は、点火部10の放出空間14側に、点火器11の放出面12に対向するように配置される。具体的には、板部材25は、点火部10の点火部本体15の端部(先端側の端部)に設けられた段部10aに嵌るように固定されている。当該固定は、充填空間24の気密が維持されるように好適な手法、例えば溶接等によって点火部本体15に対して実現されている。また、板部材26は、注射器本体30の所定空間31側に、駆動ピストン32の第2胴部32cに対向するように配置される。具体的には、板部材26は、注射器本体30の端部(基端側の端部)に設けられた段部30aに嵌
るように固定されている。当該固定は、充填空間24の気密が維持されるように好適な手法、例えば溶接等によって注射器本体30に対して実現されている。
【0042】
ここで、充填空間24に充填される圧縮ガスは、不活性ガスであるアルゴンガス、ヘリウムガスや、窒素ガス、炭酸ガス等とされる。これは、後述するように、充填されている圧縮ガスは、点火器11の作動により放出される燃焼生成物と接触し得るガスであり、その接触において不要な化学反応を生じさせないためである。なお、ここで言う不要な化学反応とは、燃焼残渣、微粒子等のような不純物が生じる化学反応であり、不純物が生じない限りにおいて、不活性ガス以外の圧縮ガスを利用することもできる。また、圧縮ガスの充填空間24への充填は、蓄積部本体21に設けられた充填用の貫通孔22を介して行われる。貫通孔22を介して圧縮ガスが充填された後は、圧縮ガスが漏出しないように貫通孔22は閉塞ピン23で閉塞される。
【0043】
ここで、板部材25、26の厚さは、点火器11の作動前においては、充填空間24内に充填されている圧縮ガスの圧力に耐え得る強度であって、且つ、点火器11の放出面12から放出される燃焼生成物によって破壊され得る強度を発揮可能な厚さとされる。したがって、点火器11の作動前では、蓄積部20は充填空間24に圧縮ガスを収容することでその圧縮ガスが有するエネルギーを蓄積している状態が形成される。また、点火器11が作動すると、放出される燃焼生成物によって板部材25、26が破壊され、充填されていた圧縮ガスが充填空間24の外部に解放されることになる。この点を踏まえ、注射器1における注射液への射出エネルギーの付与について、以下に説明する。
【0044】
点火器11の作動前では、上記の通り充填空間24内に圧縮ガスが収容されている。そのため、板部材26によって圧縮ガスと駆動ピストン32との接触は遮断された状態となっているため、駆動ピストン32、プランジャ部35を介して注射液には何ら射出エネルギーは付与されていない。そして、点火器11が作動すると、燃焼生成物が放出面12から板部材25に向かって放出される。この結果、その放出方向の先に位置する板部材25と板部材26が、放出された燃焼生成物によって破壊されることになる。
【0045】
ここで、点火器11が有する点火薬の燃焼速度は比較的早く、その燃焼生成物の放出速度は、充填されていた圧縮ガスが充填空間24から放出される速度よりも早い。そのため、駆動ピストン32の第2胴部32cには、燃焼生成物が先に作用し、その燃焼生成物が有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に付与されることになる。これにより駆動ピストン32が推進し、注射液の射出が始まる。主にこの燃焼生成物に起因して付与される射出エネルギーが、本願の1次射出エネルギーに相当する。更に、その後、破壊された板部材26の破壊箇所を経て、充填空間24に充填されていた圧縮ガスが駆動ピストン32の第2胴部32cに接触し、その圧縮ガスが有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に追加的に付与されることになる。これにより駆動ピストン32が更に推進し、注射液の射出が促進されることになる。主にこの圧縮ガスに起因して付与される射出エネルギーが、本願の2次射出エネルギーに相当する。
【0046】
このように1次射出エネルギーと2次射出エネルギーが注射液に付与されたときの、射出口45から射出される注射液の圧力(以下、単に「射出圧」という)の推移を、
図2に示す。
図2の横軸は経過時間を表し、縦軸は射出圧を表している。なお、射出圧については、従来技術を利用して測定可能である。例えば、射出力の測定は、特開2005−21640号公報に記載の測定方法のように、射出の力を、ノズルの下流に配置されたロードセルのダイアフラムに分散して与えるようにし、ロードセルからの出力は、検出増幅器を介してデータ採取装置にて採取されて、時間毎の射出力(N)として記憶されるという方法によって測定してもよい。このように測定された射出力を、注射器1の射出口45の面
積によって除することで、射出圧が算出される。
【0047】
図2に示す射出圧推移は、点火部10で操作ボタンが押下された時期を原点として、その燃焼開始から射出圧が概ね無くなるまでの期間における射出圧の推移である。この射出圧の推移において2つのピーク圧力P1、P2が現れる。ここで、ピーク圧力P1を第1ピーク圧力と称し、この第1ピーク圧力P1が現れるタイミングを第1タイミングT1とする。また、ピーク圧力P2を第2ピーク圧力と称し、この第2ピーク圧力P2が現れるタイミングを第2タイミングT2とする。更に、射出圧が概ね零になるタイミングをTfとする。なお、本実施例では、燃焼生成物が駆動ピストン32に作用してから圧縮ガスが駆動ピストン32に作用するまでの時間は比較的短いため、第1タイミングT1と第2タイミングT2の期間も比較的短くなり得、第1ピーク圧力P1に到達後、第2ピーク圧力P2に到達するまでに射出圧が大きく低下しない場合もあり得る。
【0048】
ここで、第1ピーク圧力P1は、主に、駆動ピストン32に先に作用する燃焼生成物に起因して生じる圧力値と考えられる。この第1ピーク圧力P1の射出圧を伴う注射液は、注射器1から初期に射出される注射液であり、対象領域の表面を貫通することになる。そして、その後、注射液の射出圧は第1ピーク圧力より低い圧力に低下し、再び第2ピーク圧力P2まで上昇する。この第2ピーク圧力P2は、主に、駆動ピストン32に対して燃焼生成物に次いで作用する、解放された圧縮ガスに起因して生じる圧力値と考えられる。この第2ピーク圧力P2の射出圧を伴う注射液は、対象領域に送り込まれる大部分の注射液である。本実施例のように充填空間24に充填されていた圧縮ガスを解放することで第2ピーク圧力P2を形成する場合、その圧縮ガスの充填量(ガス圧)にも依るが射出圧を第2ピーク圧力P2に近い比較的高い圧力値に、比較的長い期間継続させることができる。そのため、比較的多くの注射液を対象領域内に送り込むことができる。
【0049】
また、本実施例では、燃焼生成物に起因する第1射出エネルギーが注射液に付与された後に、解放された圧縮ガスと駆動ピストン32との接触により2次射出エネルギーが注射液に付与されていくことになる。この付与形態においては、実質的に燃焼生成物は板部材25、26を破壊するのみであり、圧縮ガスのエネルギーの解放時には不純物を発生させる化学反応は生じない。そのため注射液が不純物に晒される機会は好適に封じられている。更に、圧縮ガスが充填空間24から放出される際にはガス圧の低下とともにガス温度が低下するため、燃焼生成物を効果的に冷却し得る。
【0050】
<実施例2>
第2の実施例に係る注射器1について、
図3に基づいて説明する。
図3に示す注射器1は、点火部10等が作動する前の状態に置かれている。なお、
図3に示す本実施例の注射器1に関する構成のうち、
図1に示す注射器1に関する構成と実質的に同一のものについては、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。
図3に示す本実施例の注射器1と、
図1に示す注射器1との相違点は、主に蓄積部20の構成である。本実施例では、蓄積部20は、筒状の蓄積部本体21と、金属板である板部材25と、金属製のシェアピン38を有し、蓄積部本体21と板部材25と駆動ピストン32の第2胴部32c(Oリング32e)とにより、蓄積部20の内部に、圧縮ガスを充填可能な充填空間24’が画定される。この充填空間24’は、実質的に、実施例1の充填空間24と所定空間31とを組み合わせた空間に相当する。充填空間24’に充填される圧縮ガスは、実施例1の場合と同様である。したがって、充填空間24’に充填されている圧縮ガスは、駆動ピストン32の第2胴部32cと接触した状態となっている。
【0051】
ここで、シェアピン38は、駆動ピストン32の貫通孔33内の推進を規制する部材である。具体的には、シェアピン38は、駆動ピストン32のピストン本体軸32aに設けられた貫通孔を通過し注射器本体30に対して固定されることで、駆動ピストン32の推
進を規制している。ただし、シェアピン38は、点火器11の作動前においては、充填空間24’内に充填されている圧縮ガスの圧力に対して駆動ピストン32が推進しないように耐え得る強度であって、且つ、点火器11が作動すると放出される燃焼生成物によって破壊され得る強度を有している。したがって、点火器11の作動前では、蓄積部20は充填空間24’に圧縮ガスを収容することでその圧縮ガスが有するエネルギーを蓄積している状態が形成される。また、点火器11が作動すると、放出される燃焼生成物によって板部材25とシェアピン38が破壊され、充填されていた圧縮ガスが駆動ピストン32を推進可能に作用する状態が形成される。この点を踏まえ、注射器1における注射液への射出エネルギーの付与について、以下に説明する。
【0052】
点火器11の作動前では、上記の通り充填空間24’内に圧縮ガスが収容されている。このとき圧縮ガスは駆動ピストン32に接触しているが、シェアピン38により駆動ピストン32の推進は規制された状態となっている。そのため、駆動ピストン32、プランジャ部35を介して注射液には何ら射出エネルギーは付与されていない。そして、点火器11が作動すると、燃焼生成物が放出面12から板部材25に向かって放出される。この結果、その放出方向の先に位置する板部材25が破壊され、そして放出された燃焼生成物は駆動ピストン32の第2胴部32cに作用する。このとき、微視的には、燃焼生成物のエネルギーによりシェアピンが塑性変形し、若干量駆動ピストン32が推進することになる。すなわち、燃焼生成物が有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に付与されることになる。これにより注射液の射出が始まる。主にこの燃焼生成物に起因して付与される射出エネルギーが、本願の1次射出エネルギーに相当する。
【0053】
更に、その後、燃焼生成物のエネルギーによって、シェアピン38が破壊され、シェアピン38による駆動ピストン32の規制状態が解消される。この結果、駆動ピストン32に接触していた圧縮ガスが有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に追加的に付与されることになる。これにより駆動ピストン32が更に推進し、注射液の射出が促進されることになる。シェアピン38の破壊後の、主にこの圧縮ガスに起因して付与される射出エネルギーが、本願の2次射出エネルギーに相当する。
【0054】
このように燃焼生成物に起因する第1射出エネルギーが注射液に付与された後に、圧縮ガスにより2次射出エネルギーが注射液に付与されていくことになる。この結果、射出口45から射出される注射液の射出圧推移は、
図2に示すように、主に燃焼生成物に起因して第1タイミングT1に第1ピーク圧力P1に上昇し、その後射出圧は第1ピーク圧力より低い圧力に低下し、主に圧縮ガスに起因して射出圧は再び第2ピーク圧力P2まで上昇する。この結果、注射液を対象領域に好適に送り込むことができる。また、圧縮ガスを利用しているため、充填空間24’内の圧縮ガスの充填量(ガス圧)を調整することで、射出圧推移において、射出圧を第2ピーク圧力P2に近い比較的高い圧力値に、比較的長い期間継続させることができる。そのため、比較的多くの注射液を対象領域内に送り込むことができる。
【0055】
また、本実施例での射出エネルギーの付与形態においては、実質的に燃焼生成物は板部材25とシェアピン38を破壊するのみであり、圧縮ガスのエネルギーの解放時には不純物を発生させる化学反応は生じない。そのため注射液が不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【0056】
<変形例1>
ここで、本実施例の第1の変形例を
図4に示す。
図4に示す注射器1は、点火部10等が作動する前の状態に置かれている。なお、
図4に示す本変形例の注射器1に関する構成のうち、
図3に示す注射器1に関する構成と実質的に同一のものについては、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。
図4に示す本変形例の注射器1と、
図3に
示す注射器1との相違点は、蓄積部120の構成である。
【0057】
本変形例の蓄積部120は、点火部10と注射器本体30との間に配置されているが、点火部10の長手方向の中心軸と、注射器本体30及びシリンジ部40の長手方向の中心軸が直交するように、注射器本体30が蓄積部本体121に取り付けられている。そして、蓄積部本体121の内部に形成された充填空間124には圧縮ガスが充填されている。その圧縮ガスは駆動ピストン32の第2胴部32cと接触しているものの、シェアピン38により駆動ピストン32の推進が規制されているのは、上記実施例と同様である。
【0058】
このように構成される注射器1でも、上記実施例と同様に、注射液が不純物に晒される機会を好適に封じることができる。また、点火部10の長手方向の中心軸と、注射器本体30の長手方向の中心軸を直交させることで、注射器1の全長を短くすることができる。
【0059】
<変形例2>
ここで、本実施例の第2の変形例を
図5に示す。
図5に示す注射器1は、点火部10等が作動する前の状態に置かれている。なお、
図5に示す本変形例の注射器1に関する構成のうち、
図4に示す注射器1に関する構成と実質的に同一のものについては、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。
図5に示す本変形例の注射器1は、
図4に示す注射器本体30と蓄積部120とを一体的に構成しており、当該一体的な構成を、蓄積部220と称する。すなわち、蓄積部220は、上述までの注射器本体の機能も有する構成とされる。
【0060】
本変形例の注射器1でも、上記の第1の変形例と同様に、点火部10の長手方向の中心軸と、シリンジ部40の長手方向の中心軸が直交するように、蓄積部220が点火部10とシリンジ部40に取り付けられている。ここで、蓄積部220は、蓄積部本体221、板部材25、及び充填容器取付部229を有している。充填容器取付部229は、圧縮ガスが充填されている充填容器50を注射器1に取り付ける部位である。充填容器50は、その開口部が封止部材51によって封止されることで、その内部に圧縮ガスが充填される。そして、その充填容器50が、充填容器取付部229に取り付けられると、蓄積部本体221の内部に形成された充填空間224に連通する充填通路227の端部に設けられた貫通部材228に、充填容器50の封止部材が突き刺さり、そこに貫通孔が形成され、充填容器50内の圧縮ガスが充填空間224側に移動し、充填空間224への圧縮ガスの充填が行われる。そして、その圧縮ガスは駆動ピストン32の第2胴部32cと接触しているものの、シェアピン38により駆動ピストン32の推進が規制されているのは、上記実施例と同様である。
【0061】
このように構成される注射器1でも、上記実施例と同様に、注射液が不純物に晒される機会を好適に封じることができる。また、充填容器50を注射器1に取り付けることで充填空間224への圧縮ガスの充填が行われるように注射器1が構成されることで、充填容器50とともに注射器1を持ち運ぶことが容易となり、注射器1の利便性を高めることができる。
【0062】
<実施例3>
第3の実施例に係る注射器1について、
図6に基づいて説明する。
図6に示す注射器1は、点火部10等が作動する前の状態に置かれている。なお、
図6に示す本実施例の注射器1に関する構成のうち、
図5に示す注射器1に関する構成と実質的に同一のものについては、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。
図6に示す本実施例の注射器1と、
図5に示す注射器1との相違点は、充填容器50から圧縮ガスを充填空間に移す構成と、蓄積部220におけるシェアピン38の有無である。
【0063】
本実施例では、充填容器取付部229に充填容器50が取り付けられると、充填容器50の開口部が、充填空間224に連通する充填通路327に挿入されるとともに、その封止部材51が、充填通路327に配置されている貫通部材328と対向した状態となる。貫通部材328は、充填通路327の内部を移動可能に配置されており、また、貫通部材328と充填通路327の内壁面との接触性を高めるために所定のシール部材を有している。そして、貫通部材328は、封止部材51に対向する先端側は尖って形成され、その内部に、貫通部材328の当該先端側と充填空間224側とを連通する貫通孔が形成されている。したがって、貫通部材328が封止部材51に十分に突き刺さると、その内部の貫通孔によって充填容器50内の圧縮ガスを、充填空間224側に移すことが可能となる。なお、点火器11が作動前の
図6に示す状態では、封止部材51には貫通部材328はまだ突き刺さっていないため、充填空間224内には圧縮ガスは存在していない。したがって、シェアピン38等のように駆動ピストン32の推進を規制する部材が存在しなくても、駆動ピストン32が推進することはない。以上より、点火器11の作動前では、蓄積部220は充填容器50に圧縮ガスを収容することでその圧縮ガスが有するエネルギーを蓄積している状態を形成している。また、点火器11が作動すると、放出される燃焼生成物によって貫通部材328が押圧されて、封止部材51に突き刺さることになる。その結果、充填容器50内の圧縮ガスが充填空間224へ移り駆動ピストン32を推進可能とする。この点を踏まえ、注射器1における注射液への射出エネルギーの付与について、以下に説明する。
【0064】
点火器11の作動前では、上記の通り充填容器50内に圧縮ガスが収容されている。そのため、駆動ピストン32、プランジャ部35を介して注射液には何ら射出エネルギーは付与されていない。そして、点火器11が作動すると、燃焼生成物が放出面12から板部材25に向かって放出される。この結果、その放出方向の先に位置する板部材25が破壊され、そして放出された燃焼生成物は駆動ピストン32の第2胴部32cに作用し、駆動ピストン32が推進することになる。すなわち、燃焼生成物が有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に付与されることになる。これにより注射液の射出が始まる。主にこの燃焼生成物に起因して付与される射出エネルギーが、本願の1次射出エネルギーに相当する。
【0065】
更に、燃焼生成物のエネルギーによって、貫通部材328が充填通路327を移動し封止部材51に突き刺さっていくと、充填容器50内の圧縮ガスが、貫通部材328が有する貫通孔を経て充填空間224へと放出され、駆動ピストン32の第2胴部32cに接触する。この結果、当該圧縮ガスが有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に追加的に付与されることになる。これにより駆動ピストン32が更に推進し、注射液の射出が促進されることになる。充填容器50からの圧縮ガスの放出後の、主にこの圧縮ガスに起因して付与される射出エネルギーが、本願の2次射出エネルギーに相当する。
【0066】
このように燃焼生成物に起因する第1射出エネルギーが注射液に付与された後に、圧縮ガスにより2次射出エネルギーが注射液に付与されていくことになる。この結果、射出口45から射出される注射液の射出圧推移は、
図2に示すように、主に燃焼生成物に起因して第1タイミングT1に第1ピーク圧力P1に上昇し、その後射出圧は第1ピーク圧力より低い圧力に低下し、主に圧縮ガスに起因して射出圧は再び第2ピーク圧力P2まで上昇する。この結果、注射液を対象領域に好適に送り込むことができる。また、圧縮ガスを利用しているため、充填容器50内の圧縮ガスの充填量(ガス圧)を調整することで、射出圧推移において、射出圧を第2ピーク圧力P2に近い比較的高い圧力値に、比較的長い期間継続させることができる。そのため、比較的多くの注射液を対象領域内に送り込むことができる。
【0067】
また、本実施例での射出エネルギーの付与形態においては、実質的に燃焼生成物は板部材25を破壊したり貫通部材328を封止部材51に押し付けたりするのみであり、圧縮ガスのエネルギーの解放時には不純物を発生させる化学反応は生じない。そのため注射液が不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【0068】
<実施例4>
第4の実施例に係る注射器1について、
図7に基づいて説明する。
図7に示す注射器1は、点火部10等が作動する前の状態に置かれている。なお、
図7に示す本実施例の注射器1に関する構成のうち、
図3に示す注射器1に関する構成と実質的に同一のものについては、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。
図7に示す本実施例の注射器1は、
図3に示す注射器本体30と蓄積部20とを一体的に構成しており、当該一体的な構成を、蓄積部320と称する。すなわち、蓄積部320は、上述の注射器本体30の機能も有する構成とされる。
【0069】
図7に示す本実施例の注射器1と、
図3に示す注射器1との相違点は、主に蓄積部320の構成である。本実施例では、蓄積部320は、弾性部材の圧縮エネルギーを蓄積しており、具体的には、蓄積部本体321と、ばねホルダ322と、ばね325と、金属製のシェアピン38を有している。ばねホルダ322は、ばね325を収容する収容空間323と、貫通孔33の内径と概ね同じ外径を有する首部324を有し、収容空間323の開口部が点火部10側に位置し、且つ、首部324が駆動ピストン32側に位置するように、蓄積部本体321の内部空間326に配置される。内部空間326は、貫通孔33と繋がっている空間である。そして、
図7に示す状態では、ばね325の一端が点火部本体15に接触し、その他端が収容空間323の底部に接触することで、ばね325は圧縮された状態となっている。さらに、ばねホルダ322の首部324は、駆動ピストン32の第2胴部32cと接触している。なお、この状態では、駆動ピストン32はシェアピン38によってその推進が規制された状態となっている。そのため、点火器11の作動前では、蓄積部320は圧縮されたばね325が有する弾性エネルギーを蓄積している状態が形成される。また、点火器11が作動すると、放出される燃焼生成物によってシェアピン38が破壊され、圧縮されたばね325が駆動ピストン32を推進可能に作用する状態が形成される。この点を踏まえ、注射器1における注射液への射出エネルギーの付与について、以下に説明する。
【0070】
点火器11の作動前では、圧縮されたばね325を収容するばねホルダ322の首部324は駆動ピストン32に接触しているが、シェアピン38により駆動ピストン32の推進は規制された状態となっている。そのため、駆動ピストン32、プランジャ部35を介して注射液には何ら射出エネルギーは付与されていない。そして、点火器11が作動すると、燃焼生成物が放出面12からばね325に向かって放出される。この結果、放出された燃焼生成物は、ばねホルダ322を介して駆動ピストン32の第2胴部32cに作用する。このとき、微視的には、燃焼生成物のエネルギーによりシェアピン38が塑性変形し、若干量駆動ピストン32が推進することになる。すなわち、燃焼生成物が有するエネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に付与されることになる。これにより注射液の射出が始まる。主にこの燃焼生成物に起因して付与される射出エネルギーが、本願の1次射出エネルギーに相当する。
【0071】
更に、その後、燃焼生成物のエネルギーによって、シェアピン38が破壊され、シェアピン38による駆動ピストン32の規制状態が解消される。この結果、駆動ピストン32に接触していた圧縮されたばね325が有する弾性エネルギーが射出エネルギーとして駆動ピストン32を介して注射液に追加的に付与されることになる。これにより駆動ピストン32が更に推進し、注射液の射出が促進されることになる。シェアピン38の破壊後の、主にこのばね325に起因して付与される射出エネルギーが、本願の2次射出エネルギ
ーに相当する。
【0072】
このように燃焼生成物に起因する第1射出エネルギーが注射液に付与された後に、圧縮されたばね325により2次射出エネルギーが注射液に付与されていくことになる。この結果、射出口45から射出される注射液の射出圧推移は、
図2に示すように、主に燃焼生成物に起因して第1タイミングT1に第1ピーク圧力P1に上昇し、その後射出圧は第1ピーク圧力より低い圧力に低下し、主にばね325に起因して射出圧は再び第2ピーク圧力P2まで上昇する。この結果、注射液を対象領域に好適に送り込むことができる。
【0073】
また、本実施例での射出エネルギーの付与形態においては、実質的に燃焼生成物はシェアピン38を破壊するのみであり、圧縮されたばね325の弾性エネルギーの解放時には不純物を発生させる化学反応は生じない。そのため注射液が不純物に晒される機会は好適に封じられている。
【0074】
<更なる変形例>
注射器1の更なる変形例としては、例えば、ヒトに対する再生医療のために、注射対象となる細胞や足場組織・スキャフォールドに培養細胞、幹細胞等を播種するため装置が例示できる。例えば、特開2008−206477号公報に示すように、移植される部位及び再細胞化の目的に応じて当業者が適宜決定し得る細胞、例えば、内皮細胞、内皮前駆細胞、骨髄細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞、幹細胞、その他再生医療の分野で考慮されるあらゆる細胞を投与する。
【0075】
さらには、特表2007−525192号公報に記載されているような、細胞や足場組織・スキャフォールド等へのDNA等の送達の注射器として、注射器1は構成されてもよい。さらには、注射器1は、各種遺伝子、癌抑制細胞、脂質エンベロープ等を直接目的とする組織に送達させたり、病原体に対する免疫を高めるために抗原遺伝子を投与したりする注射器として、又は、各種疾病治療の分野(特表2008−508881号公報、特表2010−503616号公報等に記載の分野)、免疫医療分野(特表2005−523679号公報等に記載の分野)等で利用可能な注射器としても構成できる。