【実施例1】
【0010】
図1に実施例1の歪み調整回路の構成例を示す。歪み調整回路100と増幅器900との組合せは、増幅装置10である。歪み調整回路100の内部において、増幅対象の入力信号である増幅対象信号が流れる点を増幅対象点、増幅器900への入力信号である増幅入力信号が流れる点を増幅入力点、増幅器900の出力信号である増幅出力信号が流れる点を増幅出力点、増幅出力信号に対応した信号が流れる点を対応入力点、フィードバック信号が流れる点をフィードバック点とする。そして、増幅対象点の電位をV
in、増幅入力点の電位をV
2、増幅出力点の電位をV
out、対応入力点の電位をV
3、フィードバック点の電位をV
1とする。言い換えると、V
inは増幅対象信号、V
2は増幅入力信号、V
outは増幅出力信号、V
3は対応入力信号、V
1はフィードバック信号を示している。「流れる点」とは、同じ電位となる導線上のいずれの点でもよい。
【0011】
歪み調整回路100は、増幅対象点と増幅入力点の間に配置された抵抗111と、増幅入力点とフィードバック点の間に配置された抵抗112と、対応入力点と接地との間に配置された抵抗121と、増幅出力点と対応入力点の間に配置された抵抗122と、対応入力点とフィードバック点の間に配置された抵抗123と、増幅部131を備える。抵抗121と抵抗122との直列接続の抵抗値(R
1+R
2)を抵抗121の抵抗値R
1で除した値(R
1+R
2)/R
1は、増幅器900の増幅率Aである。また、抵抗123の抵抗値R
3は、抵抗121と抵抗122との並列接続の抵抗値(R
1・R
2)/(R
1+R
2)と一致する。
【0012】
増幅部131は、増幅入力点が正の入力、対応入力点が負の入力に接続され、フィードバック点が出力に接続される。「正の入力」とは入力が大きくなれば出力も大きくなるような入力であり、「負の入力」とは入力が大きくなると出力が小さくなるような入力である。増幅部131は、増幅入力点の電位V
2と対応入力点の電位V
3が一致するように動作する。増幅部131は、例えばオペアンプである。
【0013】
増幅器900は、例えば真空管を含んでおり、単体で動作させた場合には、入力xに対して、
Ax+f(x) (1)
を出力する。Aは増幅器900の増幅率であり、f(x)はxが入力されたときの増幅器900の出力に含まれる歪みの量である。
図1に示した回路の場合、抵抗値R
3が抵抗121と抵抗122との並列接続の抵抗値(R
1・R
2)/(R
1+R
2)なので電位V
3は、キルヒホッフの法則より電位V
out,電位V
1を用いて次式のように表現できる。
【0014】
【数1】
【0015】
また、電位V
2は次式のように電位V
in,電位V
1を用いて表現できる。
【0016】
【数2】
【0017】
増幅部131は、増幅入力点の電位V
2と対応入力点の電位V
3が一致するように動作するので、次式の関係が成り立つ。
【0018】
【数3】
【0019】
そして、R
x=R
yのように抵抗111,112を設定した場合、式(4)の左辺は0になるので、電位V
outと電位V
inの関係は次式のようになる。
【0020】
【数4】
【0021】
ここで、値(R
1+R
2)/R
1は増幅器900の増幅率Aとなるように設定しているので、増幅器900単体で動作させたときには歪みf(x)を含むとしても、歪み調整回路100を接続すれば、V
out=A・V
inのように、歪み成分を除去できる。つまり、抵抗111の抵抗値R
xと抵抗112の抵抗値R
yを一致させれば、歪み調整回路100は、歪み除去回路となる。
【0022】
次にR
x≠R
yの場合を検討する。このとき式(4)と(R
1+R
2)/R
1=Aの関係から電位V
1を求めると次式のようになる。
【0023】
【数5】
【0024】
式(1),(2),(5),V
2=V
3より、電位V
outは、次式のように表現できる。
【0025】
【数6】
【0026】
式(6)を電位V
outについて解き、整理すると、以下のようになる。
【0027】
【数7】
【0028】
ここまでの分析は分母が0になることを防ぐためにR
x≠R
yを前提としていたが、式(7)からも、R
x=R
yのように抵抗111,112を設定したときに歪み成分の項が0になることが分かる。
【0029】
図2は、R
x/R
yの値と歪み率の関係を示す図である。横軸はR
x/R
yの値、縦軸が歪み率である。例えば、抵抗111を可変抵抗としR
x=0とした場合はV
2=V
inとなり、式(7)は、
V
out=AV
in+f(V
in)
となるので、式(1)で示した増幅器900を単体で動作させた場合と同じとなる。つまり、増幅器900の歪みがそのまま(100%)出力される。また、R
x=R
y/2の場合は、式(7)は、
V
out=AV
in+f(V
2)/2≒AV
in+f(V
in)/2
となるので、歪み率が約50%となる。歪み調整回路100としては、抵抗値R
xを0からR
yの間で調整できる可変抵抗とすれば、歪みの位相は変えない範囲で歪みの量を調整できる。また、例えば抵抗値R
xを0から2R
yの間で調整できる可変抵抗とすれば、歪みの位相を逆転した調整も可能になる。このように、歪み成分を調整したい範囲となるように、抵抗値R
xの設定範囲を決めればよい。また、抵抗111として複数の抵抗値の異なる固定抵抗を用意し、切り替えることで歪み成分を調整してもよい。式(7)から分かるように、抵抗値R
xを変化させても増幅率Aには影響しない。つまり、増幅器900の増幅率Aを維持しながら歪みの量を調整できる。
【0030】
なお、上述の説明では増幅入力点が増幅部131の正の入力、対応入力点が増幅部131の負の入力に接続される理由は説明されていないので補足説明する。電位を高くする歪みが付加されたとき増幅出力点の電位V
outは高くなり、対応入力点の電位V
3も上昇する。対応入力点を増幅部131の負の入力に接続しているので、フィードバック点の電位V
1は低くなる。これは、対応入力点の電位V
3を下げる効果につながるため、歪みを低減することになる。
【0031】
また、
図1にはコンデンサなどは付加されていないが、増幅対象信号に影響を与えない範囲で付加しても構わない。例えば、直流成分を除去するためにいずれかの抵抗と直列にコンデンサを付加してもよい。
【0032】
<上位概念>
図1の歪み調整回路100内の点線で囲んだ構成部は、歪み調整部110、増幅率設定部120、歪みフィードバック部130である。歪み調整部110は、増幅対象の信号である増幅対象信号と歪みフィードバック部130の出力であるフィードバック信号を入力とし、増幅対象信号とフィードバック信号とを加重平均(重み付き平均)した信号である増幅入力信号を、増幅器900への入力信号として出力する。増幅率設定部120は、増幅器900の出力信号である増幅出力信号と歪みフィードバック部130の出力であるフィードバック信号を入力とし、増幅出力信号を増幅器900の増幅率で除した信号とフィードバック信号とを加重平均した信号である対応入力信号を出力する。歪みフィードバック部130は、増幅入力信号と対応入力信号に応じたフィードバック信号を出力し、増幅入力信号と対応入力信号を一致させるように機能する。上述の例と同様に、V
inを増幅対象信号、V
2を増幅入力信号、V
outを増幅出力信号、V
3を対応入力信号、V
1をフィードバック信号とする。
【0033】
式(1)は増幅器900の特性であり、この特性を前提とする。上記の場合、式(2),式(3)に相当する式は、式(2’),式(3’)のようになる。
【0034】
【数8】
【0035】
フィードバック部130は、増幅入力信号V
2と対応入力信号V
3を一致させるように機能するので、V
2=V
3となる。よって、式(4)に相当する式は、以下のようになる。
【0036】
【数9】
【0037】
ここで、b=cのように設定すると、a=1−b=1−c=dとなるので、
【0038】
【数10】
【0039】
となる。つまり、対応入力信号V
3に含まれるフィードバック信号V
1の割合と、増幅入力信号V
2に含まれるフィードバック信号V
1の割合を同じにすれば、歪み成分を除去できる。このとき、歪み調整回路100は、歪み除去回路となる。
【0040】
次に、b≠cの場合を検討する。式(4’)よりフィードバック信号V
1を求めると次のようになる。
【0041】
【数11】
【0042】
式(1),(2’),(5’),V
2=V
3より、増幅出力信号V
outは次式のようになる。
【0043】
【数12】
【0044】
式(6’)の増幅出力信号V
outを左辺にまとめると、以下のようになる。
【0045】
【数13】
【0046】
ここで、b−c+ac=b−c(1−a)=b−cb=b(1−c)=bdなので、左辺の係数の分子はbdである。また、b−c=bd−acである。これらの関係を使って式を整理すると、以下のようになる。
【0047】
【数14】
【0048】
ここまでの計算ではb≠cを前提としたが、式(7’)においてはb=cでも構わない。また、c=0は、歪み調整部110がフィードバック信号V
1を利用しないことを示しており、上述の回路のR
x=0とした場合と同じである。式(7’)より、上述の上位概念でもa,bを固定し、c,dの割合を調整することで、増幅率を維持したまま歪みを調整できることが分かる。ただし、b=0またはd=0では歪み成分が無限大倍になってしまうため、b≠0かつd≠0に限る。
【0049】
上述の上位概念の説明が成り立つ条件は、
・増幅入力信号V
2は増幅対象信号V
inとフィードバック信号V
1とを加重平均した信号であること
・対応入力信号V
3は増幅出力信号V
outを増幅器900の増幅率Aで除した信号とフィードバック信号V
1とを加重平均した信号であること
・増幅入力信号V
2と対応入力信号V
3を一致させるように機能すること
である。これらの条件を満たせば、
図1に示した抵抗とオペアンプを組み合わせた回路に限定しなくても、歪み調整回路100は、増幅器の増幅率を維持しながら歪みの量を調整できる。
【0050】
[変形例]
図3は、変形例の歪み調整回路の構成例を示す。
図3の構成は、
図1の抵抗121を取り除いた構成である。抵抗121を取り除いた場合とは、抵抗121の抵抗値を無限大することと等価である。この場合、増幅器900の増幅率Aは1である。歪み調整回路200と増幅器900との組合せは、増幅装置20である。
【0051】
実施例1と同様に、歪み調整回路200の内部において、増幅対象の入力信号である増幅対象信号が流れる点を増幅対象点、増幅器900への入力信号である増幅入力信号が流れる点を増幅入力点、増幅器900の出力信号である増幅出力信号が流れる点を増幅出力点、増幅出力信号に対応した信号が流れる点を対応入力点、フィードバック信号が流れる点をフィードバック点とする。そして、増幅対象点の電位をV
in、増幅入力点の電位をV
2、増幅出力点の電位をV
out、対応入力点の電位をV
3、フィードバック点の電位をV
1とする。言い換えると、V
inは増幅対象信号、V
2は増幅入力信号、V
outは増幅出力信号、V
3は対応入力信号、V
1はフィードバック信号を示している。
【0052】
歪み調整回路200は、増幅対象点と増幅入力点の間に配置された抵抗111と、増幅入力点とフィードバック点の間に配置された抵抗112と、増幅出力点と対応入力点の間に配置された抵抗122と、対応入力点とフィードバック点の間に配置された抵抗223と、増幅部131を備える。抵抗223の抵抗値R
3は、抵抗122の抵抗値R
2と一致する。
【0053】
増幅部131は、増幅入力点が正の入力、対応入力点が負の入力に接続され、フィードバック点が出力に接続される。「正の入力」とは入力が大きくなれば出力も大きくなるような入力であり、「負の入力」とは入力が大きくなると出力が小さくなるような入力である。増幅部131は、増幅入力点の電位V
2と対応入力点の電位V
3が一致するように動作する。抵抗121の抵抗値を無限大にしただけなので、動作原理は実施例1と同じであり、抵抗値R
xを変化させても増幅率Aには影響しない。つまり、歪み調整回路200は、増幅器900の増幅率Aを維持しながら歪みの量を調整できる。
【0054】
図4に歪みを付加したシミュレーション用の回路構成を、
図5にシミュレーション結果を示す。シミュレーション用回路の増幅器900には、増幅率が1となるように構成にしたオペアンプ901と、歪みfを付加するための発振器902を用いた。オペアンプ310、抵抗301,302,303,304は、増幅出力信号V
outと増幅対象信号V
inとの差分を出力する回路である。つまり、オペアンプ310の出力は、増幅出力信号V
outに含まれる歪み成分dである。シミュレーションでは、増幅対象信号V
inを1kHzの正弦波、歪みfを3kHzの正弦波とし、歪みfの振幅は増幅対象信号V
inの10%とした。抵抗112,122,223,301,302,303,304は10kΩである。
【0055】
図5(A)は抵抗111を5kΩにした場合の結果、
図5(B)は抵抗111を10kΩにした場合の結果、
図5(C)は抵抗111を15kΩにした場合の結果である。それぞれの図には、増幅対象信号V
inと増幅出力信号V
outと歪み成分dを示している。横軸は時間であり、1メモリが0.2m秒である。縦軸は電圧であり、増幅対象信号V
inと増幅出力信号V
outは1メモリが1V、歪み成分dは1メモリが0.1Vである。
【0056】
図5(B)から分かるように、抵抗111を抵抗112と同じ10kΩにした場合には、増幅出力信号V
outに含まれる歪み成分dがなくなっていることが分かる。したがって、増幅出力信号V
outは増幅対象信号V
inと同じ正弦波となっている。
図5(A)では、増幅対象信号V
inがピーク値のタイミングで、歪み成分dは逆符号のピーク値となっている。つまり、増幅出力信号V
outはピーク値が抑圧されるような歪みが付加された信号となっている。一方、
図5(C)では、増幅対象信号V
inがピーク値のタイミングで、歪み成分dは同符号のピーク値となっている。つまり、増幅出力信号V
outはピーク値が高くなり、三角波に近い形状になっている。このように、抵抗111の抵抗値R
xを変更しただけで、増幅率Aを維持したまま歪み成分を調整できる。
【0057】
<上位概念>
上位概念の歪み調整回路200は以下のようになる。
図3の歪み調整回路200内の点線で囲んだ構成部は、歪み調整部110、増幅率設定部220、歪みフィードバック部130である。歪み調整部110は、増幅対象の信号である増幅対象信号と歪みフィードバック部130の出力であるフィードバック信号を入力とし、増幅対象信号とフィードバック信号とを加重平均した信号である増幅入力信号を、増幅器900への入力信号として出力する。増幅率設定部220は、増幅器900の出力信号である増幅出力信号と歪みフィードバック部130の出力であるフィードバック信号を入力とし、増幅出力信号とフィードバック信号とを加重平均した信号である対応入力信号を出力する。歪みフィードバック部130は、増幅入力信号と対応入力信号に応じたフィードバック信号を出力し、増幅入力信号と対応入力信号が一致するように機能する。上述の例と同様に、V
inを増幅対象信号、V
2を増幅入力信号、V
outを増幅出力信号、V
3を対応入力信号、V
1をフィードバック信号とする。
【0058】
上位概念の場合も増幅率Aを1としているだけなので、実施例1で説明した原理は成り立つ。したがって、歪み調整回路200は、増幅器900の増幅率を維持しながら歪みの量を調整できる。