特許第6973799号(P6973799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973799治療中に使用者の口腔組織を冷却するためのマウスピース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973799
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】治療中に使用者の口腔組織を冷却するためのマウスピース
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/12 20060101AFI20211118BHJP
   A61C 19/06 20060101ALI20211118BHJP
   A61F 7/10 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   A61F7/12 A
   A61C19/06 Z
   A61F7/10 300A
   A61F7/10 300H
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-553135(P2018-553135)
(86)(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公表番号】特表2019-510591(P2019-510591A)
(43)【公表日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】US2017025870
(87)【国際公開番号】WO2017176697
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2020年3月19日
(31)【優先権主張番号】62/317,786
(32)【優先日】2016年4月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/460,195
(32)【優先日】2017年2月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521194932
【氏名又は名称】ケモマウスピース,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ヨスコウィッツ,デイビッド
【審査官】 菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05494441(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0085530(US,A1)
【文献】 特開平07−124178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/12
A61C 19/06
A61F 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
療中に使用者の口腔組織を冷却するためのマウスピースであって、
使用者の口の上の歯茎および歯の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成された順応性のある頂部要素と、
使用者の口の下の歯茎および歯の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成された順応性のある底部要素と、
記頂部要素は、前記底部要素と一体となって、あるいは前記底部要素に接続されて、一体のユニットとして前記口の中に配置することができるようになっており、
記マウスピースが作動可能で前記緊密に適合する関係で前記口の中に配置されたときに、使用者が前記口を通して呼吸することができるように構成され前記マウスピースの前面位置に配置された開孔と、
記頂部要素および前記底部要素内に収容され、前記使用者の口への毛細血管血流を減少させるのに十分な冷却環境を前記口の中に保持することができる冷却媒体と、を有し、
前記冷却媒体は、第1冷却剤と第2冷却剤を含み、
前記第1冷却剤は前記マウスピース内の、前記歯に近接して第1冷却ゾーンを形成するように構成された領域に配置され、
前記第2冷却剤は、前記マウスピース内の、前記歯茎に近接して第2の冷却ゾーンを形成するように構成された領域に配置され、
前記第1冷却ゾーンは、前記歯に近接する領域が前記歯茎に近接した領域よりも冷却されないように、前記第2冷却ゾーンよりも比熱が低いことを特徴とするマウスピース。
【請求項2】
前記マウスピースは可撓性の内壁及び外壁を有し、使用者の口の大きさ及び形状にその形状を自己調整するように適合されている請求項1に記載のマウスピース。
【請求項3】
療中に使用者の口腔組織を冷却するためのマウスピースであって、該マウスピースは前記使用者の口に挿入可能であり、
使用者の口の上の歯茎および歯の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成された順応性のある頂部要素と、
使用者の口の下の歯茎および歯の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成された順応性のある底部要素と、
記頂部要素は、前記底部要素と一体となって、あるいは前記底部要素に接続されて、一体のユニットとして前記口に配置することができるようになっており、
第1の凝固点温度を有する第1溶液からなる冷却媒体を貯蔵するための、前記マウスピースの前面から直接に延びる第1のャンバと、
前記第1溶液の冷却を助けるため、前記第1溶液の前記第1の凝固点温度より高い凝固点を有する第2溶液を貯蔵するための、前記第1のチャンバの内部に配置された第2のチャンバと、
前記頂部要素および前記底部要素内に配置された1つ又は1つ以上の袋状体であって、前記第1のチャンバ、前記頂部要素および前記底部要素を流通する前記冷却媒体を受け入れ、前記使用者の口内で口腔組織を冷却するための前記第1のチャンバに流動的に接続された前記1つ又は1つ以上の袋状体と、
を有することを特徴とするマウスピース。
【請求項4】
前記第1溶液は塩水である請求項に記載のマウスピース。
【請求項5】
前記第2溶液は水である請求項に記載のマウスピース。
【請求項6】
前記第1のチャンバと前記第2のチャンバの間に配置された分離壁をさらに備える請求項に記載のマウスピース。
【請求項7】
前記第2のチャンバは、第1のチャンバよりも小さい請求項に記載のマウスピース。
【請求項8】
前記第2のチャンバは、前記第1のチャンバの内部を自由に移動するように構成されている請求項に記載のマウスピース。
【請求項9】
前記第2のチャンバは球形である請求項に記載のマウスピース。
【請求項10】
前記第1のャンバは外側断熱壁を含む請求項に記載のマウスピース。
【請求項11】
前記外側断熱壁は、前記使用者が内容物を圧搾して前記冷却媒体の流れを助けることを可能にする弾力性を有している請求項10に記載のマウスピース。
【請求項12】
前記第1の溶液の前記第1の凝固点温度は、摂氏0度より低い請求項3に記載のマウスピース。
【請求項13】
正面位置に配置され、前記第1のチャンバを通って延在する開孔であって、前記マウスピースが作動可能で前記緊密に適合する関係で前記口の中に置かれたときに、使用者が前記口を通して呼吸することを可能にする開孔をさらに備える請求項3に記載のマウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学療法の治療中に患者の口腔組織を冷却するためのマウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
癌患者の化学療法治療に関連する最も限定的な副作用の1つは、粘膜炎として知られる口腔粘膜組織の重度の炎症を特徴とする症状である。この炎症は口内炎を引き起こし、患者にとって非常に苦痛であるため、化学療法を完了する前に治療を弱めるか、または中断すらしなければならなかった。結果として、しばしば、癌患者は、その症状を効果的に治療するための必要量の化学療法を受けることができなかった。
【0003】
しかしながら、化学療法の治療中に口腔組織を冷却し続けることは、関連する血管を収縮させ、この組織に流れ込む化学療法剤の量を減少させることが知られていた。口腔組織を冷却する既知の方法は、化学療法剤の投与中に定期的に患者の口内に氷を入れることである。この方法は、約1時間未満の短い治療期間の口内炎の形成を軽減する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
口腔組織を冷却する既知の方法は短い治療には受け入れ可能だが、長時間継続するかもしれない延長された化学療法の治療には、少なくとも以下の理由により実用的ではなかった。第一に、急速に溶ける氷は常に交換しなければならないため、患者が眠ることが非常に困難であった。第二に、さらに重要なことに、炎症を起こしやすい口腔組織のすべてを常に均一に冷却することができなかった。この既知の方法は、延長された治療の間、口腔組織を一定の所望の温度に維持することはないため、粘膜炎および口内炎が不可避的に形成され、化学療法投与量を減少させるか、または、治療を中断させるという限定問題となった。患者は軽減された化学療法の治療に耐えることができるかもしれないが、その有効性は限定され、治療にもかかわらず癌は制御不能な割合で増殖する可能性があった。
【0005】
従って、既知の方法が不適当なことに鑑み、化学療法治療の延長された期間にわたって、選択された口腔組織を効果的に冷却し、化学療法剤の吸収を減少させ、もって炎症と口内炎の発生を減少させる、口腔治療装置およびその装置を使用する方法に対する要求があった。そのような装置は、既知の方法によって克服されない従前の化学療法治療の有効性低下の問題を軽減または排除する。さらに、いかなる治療の期間にもわたって患者にとって快適であることを維持し、それによってリラクゼーションと睡眠が得られる口腔装置に対する要求があった。
【0006】
本発明は、上記の問題に対する解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、化学療法治療中に患者の口腔組織を冷却するためのマウスピースに関する。マウスピースは、少なくとも患者の口の上歯茎および歯の主表面に、緊密に適合する関係で隣接して置かれるように構成された順応性のある頂部要素を含む。マウスピースはさらに、少なくとも患者の口の下歯茎および歯の主表面に、緊密に適合する関係で隣接して置かれるように構成された順応性のある底部要素を含む。頂部要素は、一体ユニットとして口内に配置されるように、ボトム要素と一体化あるいは接続されている。マウスピースはさらに、マウスピースが作動可能で緊密に適合する関係で口の中に置かれたときに、患者が口を通して呼吸できる正面位置に配置された開孔を含む。マウスピースはさらに、頂部要素および底部要素内に収容された冷却媒体を含み、患者の口への毛細血管の血流を減少させるのに十分な口内の冷却環境を保持することができる。
【0008】
本願発明の別の実施形態では、マウスピースは、塩水溶液を含む冷却媒体を収納するためにマウスピースの前面から延びる外部チャンバを含む。開孔は、マウスピースが作動可能で緊密に適合する関係で口の中に置かれたときに、患者が口を通して呼吸できるように、前面位置に配置され、外部チャンバを通って延びている。一連の袋状体が頂部要素および底部要素内に配置され、頂部要素と底部要素を流通する冷却媒体を受け入れ、患者の口への毛細管血流を減少させるのに十分なように口内冷却環境を維持するため、袋状体は外部チャンバに接続している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】化学療法治療を受けている患者の口内に配置された本発明によるマウスピースの説明図である。
図2図1の線2−2方向に見た本発明の第1の実施形態によるマウスピースの横断面図である。
図3図2のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図であって、上歯茎のための冷却媒体袋状体が示されている。
図4】冷却媒体を収容する複数の袋状体を示す図2のマウスピースの上面図である。
図5】一列のエアーポケットによって分離された2列の袋状体を示す図2のマウスピースの右上外壁の内面の立側面図である。
図6図1の線2−2方向に見た本発明の第2の実施形態によるマウスピースの横断面図である。
図7図6のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図であって、上歯を絶縁するための単一のU字形袋状体を示している。
図8】U字形上部絶縁袋状体の咬み表面を示す図2のマウスピースの上面図である。
図9】さらに口蓋に接触するための拡張可能な上壁を有する、図6のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図である。
図10】さらに口の隅部に接触するための4つの可撓性アームを有する、図9のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係り、化学療法の治療を受けている患者の口内に配置されたマウスピースの説明図であり、外部チャンバがマウスピースの前面から延びていることが示されている。
図12図11の線12−12の方向に見たマウスピースの横断面図である。
図13図12のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図であって、そこでは上歯茎用の冷却媒体袋状体が示され、外部チャンバに接続されている。
図14図12のマウスピースの上面図であって、頂部要素と底部要素を流れ通った冷却媒体を受けるための一連の接続された袋状体が示されている。
図15図12のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図であって、そこでは上歯茎用の冷却媒体袋状体が示され、該冷却媒体袋状体は外部チャンバに接続され、該外部チャンバは、塩水チャンバと、該塩水チャンバ内を自由に移動する純水チャンバを含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願は、2016年4月4日に出願された米国仮特許出願第62/317,786号および2017年2月17日に出願された米国仮特許出願第62/460,195号の利益を主張するものであり、両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0011】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0012】
図1は、化学療法治療を受けている患者の口内に配置された本発明によるマウスピース10を示す。図2および図6に示すように、治療装置は、患者の上歯201と202ならびに下歯203と204に同時に係合し、マウスピースが作動可能で緊密に適合する関係で口に装着されたときに患者が口を通して呼吸することができるようにする正面位置の開孔70を含む。一実施形態によれば、可撓性のチューブ(図示せず)を開孔70に貫挿あるいは接続し、患者が楽に呼吸するときに口の外側から空気を吸入するのを助けるように、患者の口の内側に配置することができる。他の実施形態では、可撓性チューブは、医学的に保証されているならば、患者に酸素を供給するために使用することができる。
【0013】
図2−5は、本発明の第1の実施形態を示しており、マウスピース10は、順応性があり、患者の口腔組織と生体適合性があり、以下にさらに詳細に説明するように、患者の口のサイズおよび形状に合わせて装置を形成するために使用できる材料からなる。適切な材料として、例えば、アクリル、プラスチック、シリコーンおよびゴムが含まれる。後述する本発明の第2の実施形態とは異なり、マウスピース自体の材料は冷却媒体であることを意図しておらず、むしろ以下に説明するように、冷却媒体として作用するように構成された他の要素や袋状体を収容する枠組を形成する。
【0014】
マウスピースは、頂部要素18および底部要素19を含み、それらは化学療法の治療中に合わさって口全体の被覆を提供する。頂部要素18は、底部要素19と一体であるか、または底部要素19に接続され、口内に一体のユニットとして配置できるようにする。頂部要素18は、順応性のある材料からなり、患者の口の上歯茎211,212および上歯201,202の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成されている。底部要素19は、順応性のある材料からなり、患者の口の下歯茎213,214および下歯203,204の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成されている。
【0015】
一実施形態では、治療装置は、最初に患者の歯の咬合記録に合わせてストーン型を作成することによって形成される。型は、患者の咬合をシミュレートするために咬合器に取り付けられ、咬合器は、4−6mmの垂直咬合空間を形成するように調節される。
【0016】
次に、好ましい治療装置の囲壁が着手される。ワックスパターンが製造されて囲壁に加えられ、このパターンはマウスピースの内壁および外壁を画定する。好ましい材料が、開孔70の位置も同様に、ワックスパターンを含むように加えられる。好ましい材料は、室温で、または加圧ポットのような加熱源の中の昇温された温度で硬化または保存処理されるようにすることができる。
【0017】
次いで、硬化された装置は、沸騰水中またはオーブンのような高温雰囲気中に置かれ、ワックスパターンを溶融させ、ワックスを注ぎ出して中空の装置を形成する。その後、装置は仕上げられ、成形され、輪郭付けされる。最後に、完成した装置の外面が患者の口の輪郭に適切に合致することを保証するために、装置は正確な適合を確認するために口の中に配置される。装置は快適にフィットしなければならず、患者が言語圧迫されるほど患者の口の中に延びてはならない。
【0018】
別の実施形態では、マウスピース材料は十分な順応性を有し、上記のように毎回ストーン型からあつらえの装置を作る必要がなく、患者の口のサイズに合うように様々なサイズが製造される。例えば、マウスピースは、小、中、大、および特大のサイズで提供することができる。マウスピースは、自らの形状を患者の口の大きさおよび形状に合わせるように自己調節する可撓性の内壁および外壁を含むことができる。
【0019】
図2を参照すると、別個の冷却媒体が頂部要素18および底部要素19内に収容され、化学療法の治療後の口内炎および口腔内不快感を防止するように、患者の口腔への毛細血管血流を減少させるのに十分な口内の冷却環境を保持するようにすることができる。冷却媒体は、マウスピースの内側空洞に沿った所定の位置に配置された複数の袋状体81−88内に収容することができる。使用前に、マウスピースは、冷却媒体を所望の温度に冷却するために、冷蔵庫または他の温度制御環境に保存される。好ましくは、マウスピースの冷却媒体は、投与される薬物のタイプおよび患者の歯茎および口に対するそれらの既知の効果により、化学療法治療の一部の時間を通して口腔組織を冷却するためにマウスピースが患者の口の中にある間、必要な温度を維持することができる。例えば、2時間の化学療法治療のセッションの間に、治療の15分の部分のみが歯茎および口に悪影響を及ぼすことがある。このため、本発明のマウスピースは、最も効果的な時間にマウスピースの冷却効果が最大になるように、最も必要とされる化学療法治療の時間中に患者の口に挿入することができる。
【0020】
冷却媒体は、患者の口腔内の選択された口腔組織と接触して冷却するように、マウスピース内に配置される。また、冷却媒体は、口腔組織内で発生した熱のヒートシンクとして機能するマウスピースを部分的に冷却する。冷却媒体は、熱が口腔組織および装置から継続的に取り去られるように機能し、化学療法治療中に口腔組織を冷たく保ち、装置が著しく温まるのを防止する。治療用装置の著しい温まりは、炎症および口内炎が形成され、その結果治療が減少または中止されることを許容する。
【0021】
好ましくは、冷却媒体は、摂氏約0度〜約5度の温度に維持される。冷却媒体は、装置の密封されたチャンバによって運ばれ、そして装置は使用前に冷凍庫または他の冷却装置で適切な温度に冷却される。冷却媒体は、無毒性ゲル、または、初期温度を維持できるヒドロキシエチルセルロース(CELLUSIZE(商標))、ポリアクリル酸ナトリウムまたはビニル被覆シリカゲルを添加して製造した類似の物質であってもよい。
【0022】
図2図1の線2−2方向に見た横断面図である。患者の右上歯201および右上歯茎211は、合わせてU字形の空洞を形成する右上壁41,51と61と係合する。袋状体81,82は、垂直壁41,51にそれぞれ設けられ、上述したように冷却媒体を収容する。該袋状体は、図2に示すように、右上歯茎211の少なくとも主要面に隣接するように寸法決めされている。同様に、患者の口の他の残りの象限は、上述したのと同じ方法で処理されるため、さらなる議論を必要としない。
【0023】
図3は、マウスピースの正面左上方向から見た斜視図を示しており、上歯茎のための冷却媒体袋状体が示されている。開孔70は、マウスピース10が作動可能で緊密に適合する関係で口の中に置かれたときに、患者が口を通して呼吸することができるように正面位置に配置されている。開孔70は単一の開孔として図示されているが、本発明の他の実施形態では、1つより多い開孔を含むことができる。図示されているように、頂部要素18は、底部要素19とそれらの隣接面に沿って一体であり、合わさって間に単一の連続した側壁を形成し、一体のユニットとして口内に配置することを可能にする。他の実施形態では、頂部要素18は、顎骨の関節に隣接する遠位端において底部要素19にヒンジ式に接続することができる。この実施形態では、患者は、冷却媒体を上および下の歯茎および歯と接触させた状態を維持しながら、口を開閉することができる。
【0024】
図4は、冷却媒体を収容する複数の袋状体を示したマウスピースの上面図である。図示の実施形態では、マウスピース10の内壁に沿っていくつかの小さめな冷却チャンバ(袋状体)81−84が設けられている。いくつかの小さめな冷却チャンバ間の冷却媒体の分配は、呼吸孔70と干渉することなく、患者の歯茎と接触するための順応性のある表面を提供する。該小さめなチャンバの数およびサイズは、マウスピースの全体的のサイズおよび治療される特定の患者により変化し得る。好ましくは、各チャンバは、適切な接着剤または使用中の脱落を防止する他の手段を用いてマウスピースに固着される。別の実施形態では、各チャンバは取り外し可能に取り付けられ、冷却の量およびタイミングを制御するため、あるいは、使用者の独特な歯の解剖学的構造に対するマウスピースの適合を調整するため、様々なサイズの袋状体と交換することができる。例えば、患者は、隣接する歯からくぼんだりまたは曲がったりする1つ以上の歯を有しているかもしれない。この不一致に対応するために、より小さなまたはより大きな袋状体をマウスピースのこの位置に適合させることができ、それによってよりあつらえ向きの適合を生じさせることができる。
【0025】
図5は、2列の袋状体が1列のエアーポケットによって分離されていることを示す、マウスピースの右上外壁41の内面の立側面図である。第1列の袋状体801は、底部の近くに配置され、患者の右上歯201(図2参照)の近くに位置するように意図されている。第2列の袋状体802は、頂部の近くに配置され、患者の右上歯茎211(図2参照)の近くに位置するように意図されている。歯茎と歯に対して種々の冷却ゾーンを提供するために、異なる体積、および/または、異なるタイプの冷却材料をそれぞれ第1および第2の列に配置することができる。例えば、袋状体801の第1列は、袋状体802の第2列内に含まれる冷却媒体と比較して、より速く温まり、歯からより少なく熱を除去する(したがって、より少なく歯を冷却する)冷却媒体を含むことができる。このことは、比熱が低いゴムまたはプラスチック材料を利用することによっても達成することができる。一般に、特にもし患者が様々な理由により敏感な歯を有する場合は、患者の歯は歯茎よりも冷却されないことが好ましい。
【0026】
別の実施形態では、一列のエアーポケット803が、第1および第2列の袋状体の間に配置される。エアーポケットは、袋状体801と802の第1列および第2列を熱的に分離し、それらの間の熱伝達を最小にするように作用する。他の実施形態では、エアーポケットの列は装置に含まれていない。エアーポケットの列の代わりに、他の熱障壁を利用することもできる。
【0027】
別の実施形態では、マウスピースは、患者の頬と接触してその口腔組織を冷却し、また、上顎および下顎に沿って歯茎を冷却するために、マウスピースの側壁の外側の側面に沿って分離された冷却媒体(図示せず)を含む。
【0028】
別の実施形態では、マウスピースは、口蓋に接触する任意選択の上壁29(図2参照)に沿って、また、口の基部と接触する任意選択の下壁30(図2参照)に沿って、また、舌と接触する内壁の一部に沿って冷却媒体(図示せず)を有する。これらの壁部分は、囲んでいる口蓋および口の底部、ならびに舌および隣接する歯茎を冷却するために利用することができる。
【0029】
図6−10は、本発明の第2の実施形態を示し、マウスピース10自体が、順応性があり患者の口腔組織と生体適合性があって、患者の口の大きさおよび形状に従って装置を形成するために使用することができることのみに限られず、以下でより詳細に説明するように、マウスピースを形成する材料自体が冷却媒体として作用するように意図されている
材料で構成されている。マウスピースを構成する材料には、非毒性ゲル、または、初期温度を維持できるヒドロキシエチルセルロース(CELLUSIZE(商標))、ポリアクリル酸ナトリウムまたはビニル被覆シリカゲルを添加して製造した類似の物質を含むようにしてよい。
【0030】
マウスピースは頂部要素18と底部要素19を含み、それらは合わさって化学療法の治療中の口の全体的な被覆および冷却を提供する。頂部要素18は、底部要素19と一体となって又は接続されて、一体のユニットとして口内へ配置することを可能にする。頂部要素18は、順応性のある材料からなり、患者の口の上歯茎211,212および上歯201,202の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成されている。底部要素19は、順応性のある材料からなり、患者の口の下歯茎213,214および下歯203,204の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成されている。
【0031】
図6は、図1の線2−2方向から見た横断面図である。患者の右上歯201および右上歯茎211は、合わさってU字形の空洞を形成する右上壁41,51,61と係合している。マウスピース自体が冷却媒体であるため、上記の図2−5を参照して説明した追加の袋状体は必要ではなく、含まれていない。U字形の絶縁袋状体91が、縦壁41,51の間にそれぞれ取り付けられ、冷却貯蔵装置からマウスピースを取り出し後に非常に迅速に温かくなる材料で構成されている。これにより、該U字形の絶縁袋状体91は、マウスピースの使用中に歯が冷却されるのを実質的に防止する。U字形の袋状体91は、図6に示すように、右上歯201の少なくとも主表面に隣接して置かれるように寸法決めされている。同様に、患者の口の他の残りの象限は、上述したのと同じ方法で処理されるため、さらなる議論を必要としない。
【0032】
図7は、マウスピースの正面左上方向から見た斜視図を示しており、上歯を絶縁するための単一のU字形袋状体90が上述のように示されている。他の実施形態では、U字形袋状体は複数の部分から構成することができる。
【0033】
図8は、上述したU字形上部絶縁袋状体90の咬合面を示すマウスピースの平面図である。U字形絶縁袋状体を形成する材料は、順応性があって患者の口内に挿入されている間に快適な咬合面を提供するようにすることができる。
【0034】
図9は、口蓋に接するための拡張可能な上壁をさらに備える、図6のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図である。特に、マウスピースの右上内壁51(図6参照)から垂直に延びる第1部分29aと、マウスピースの左上内壁52(図6参照)から垂直に延びる第2部分29bとによって形成されている。第1部分29aは、第2部分29bの上を摺動し、患者の口蓋に接する概略連続した上壁を形成し、そして、これによって化学療法治療中にこの領域を冷却もするようにしている。第1部分29aおよび第2部分29bは、マウスピースの残りの部分と同様の冷却材料から構成され、また、頂部が適切な構造的完全性を維持し、口蓋との接触を維持するための上方へ付勢する力を概して有することを確実にするため、追加の材料及び/又は内部構造補強を有するようにしてもよい。上部は、第1部分29aと第2部分29bの重なり配置のため、幅を広げたり狭めたりする能力を有する。したがって、マウスピースは、患者の口蓋を冷却する能力を維持しながら、様々なサイズの口の幅に対応することができる。
【0035】
斜視図には示されていないが、マウスピースの底部は、口の床から舌の下側の中央部まで延びている粘膜の小さな折り畳みである舌の裂け目(舌ウェブ、舌側裂孔または裂孔腔内唇とも呼ばれる)と干渉しないようにしながら、患者の口の底/床に接触するように構成されている類似の下部(図6参照)を含む。
【0036】
図10は、使用中に口の隅部に接触するように構成された4つの可撓性アーム301−304をさらに備える、図9のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図である。各可撓性アームは、マウスピースの前面に配置された開孔70の近くの近位端に取り付けられ、マウスピースが患者の口の内側に配置されていないときは、半径方向に伸びている。可撓性アーム301−304は、マウスピースの残りの部分と類似の冷却材料から構成され、適切な構造的な完全性を確実にするために追加の材料および/または内部構造補強を有するようにしてもよい。例えば、適切な構造的な完全性と適切な可撓性を提供するために、各可撓性アームの内側に弾性の長手方向コアを収容するようにすることができる。使用中、マウスピース10が患者の口に挿入される。次に、各可撓性アームが挿入され、患者の口の各隅部に位置決めされる。これにより、可撓性アームは、親知らずの近くの患者の口の隅部の到達困難な領域に追加の冷却ゾーンを提供する。したがって、この実施形態では、マウスピースは、患者の口の隅部を、これらの領域に隣接する歯茎および頬を含めて、冷却する能力を維持しながら、口の様々なサイズに対応することができる。
【0037】
本発明による治療装置は、患者の頬、歯茎、舌、口蓋および口の床を常に均一に冷却する。それは患者の口の輪郭に緊密に一致するため、不快感を与えることなく広範な治療に使用することができる。さらに、その均一な冷却作用は、延長された化学療法処置の間に炎症および口内炎の生成を低減または防止する。
【0038】
本発明の別の実施形態では、化学療法の治療中に患者の口腔組織を冷却するためのシステムが開示される。該システムは、同時に冷却される複数のマウスピースを含む。使用中、第1のマウスピースが選択されて患者の口に挿入され、残りのマウスピースは、温度制御された冷却環境で保管され続ける。予め選択された時間の後、または予め選択された口の温度に到達した後、第1のマウスピースが取り除かれ、第1のマウスピースから消え始めた所望の冷却効果を取り戻すように第2のマウスピースと交換される。このようにして、化学療法治療中の患者の使用のために、冷却されたマウスピースの継続した供給が可能となる。例えば、複数のマウスピースを、冷蔵庫、冷凍庫、氷を入れたタブなどに保管することができ、患者のすぐ近くで到達できるようにすることができる。
【0039】
図11−15は、外部チャンバ300がマウスピース10の前面から延びている、本発明の第3の実施形態を示している。断熱壁301が、液体内容物の低温維持を助けるために、外部チャンバ300を取り囲んでいる。外部チャンバ300は、好ましくは、塩水チャンバ303と純水チャンバ304とを含む。分離壁302が、塩水チャンバ303と純水チャンバ304との間の障壁となっている。一実施形態では、塩水チャンバ303と純水チャンバは、分離壁302に沿って互いに隣接する面を有している。分離壁は、薄いゴムまたはプラスチック材料のような可撓性材料で作ることができる。別の実施形態では、
分離壁は、アルミニウムまたは他の種類の高伝導性材料で作ることができる。
【0040】
塩水および純水は、その安全性および容易な入手可能性のために好ましいが、塩水のように摂氏0度より十分低い凝固点を有する材料と摂氏0度の凝固点を有する純水を有する材料、一方の溶液の凝固点が摂氏0度に近く他方の溶液の凝固点が摂氏0度未満の凝固点を有する溶液は、塩水、純水またはその両方に置換することができる。
【0041】
マウスピースは、頂部要素18と底部要素19を含み、それらは合わさって化学療法治療中の口の全体の被覆および冷却を提供する。頂部要素18は、底部要素19と一体であるか、または底部要素19に接続され、口内への一体ユニットとしての配置を可能にする。頂部要素18は、順応性のある材料からなり、患者の口の上歯茎211,212および上歯201,202の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成されている。底部要素19は、順応性のある材料からなり、患者の口の下歯茎213,214および下歯203,204の少なくとも主表面に緊密に適合する関係で隣接するように構成されている。
【0042】
図12は、図11の線12−12の方向に見た横断面である。患者の右上歯201および右上歯茎211は、合わさってU字形の空洞を形成する右上壁41,51,61に係合する。袋状体181,182はそれぞれ垂直壁41,51に取り付けられ、上述のように冷却媒体を収容する。袋状体は、図12に示すように、右上歯茎211の少なくとも主表面に隣接して置かれるに寸法決めされている。同様に、患者の口の残りの他の象限は、上述したのと同じ方法で処理され、したがって、さらなる議論を必要としない。
【0043】
図13は、上歯茎用の冷却媒体袋状体181,189,183,190が示されている、マウスピースの正面左上方向から見た斜視図を示している。開孔70は、正面位置に配置され、外部チャンバ300を通って延在し、マウスピース10が作動可能で緊密に適合する関係で口の中に置かれたときに患者が口から呼吸することを可能にする。開孔70は単一の開孔として図示されているが、本発明の他の実施形態では、2つ以上の開孔を含めることができる。開孔70の内壁は、外部チャンバ300の重量の下で圧着することなくその形状を維持する、プラスチック、硬質ゴムなどの剛性または半剛性材料から作られる。図示のように、頂部要素18は、底部要素19とそれらの隣接面に沿って一体であり、合わさってその間に単一の連続した側壁を形成し、一体のユニットとして口内に配置することを可能にする。他の実施形態では、頂部要素18は、顎骨の関節に隣接する遠位端において底部要素19にヒンジ式に接続することができる。この実施形態では、患者は、冷却媒体を上および下の歯茎および歯と接触させた状態を維持しながら、口を開閉することができる。
【0044】
図14は、1つ以上の流路305,306を通って塩水チャンバ303から流れる塩水溶液を収容する複数の袋状体を示したマウスピースの上面図である。マウスピースおよび外部チャンバは、使用前に冷凍庫に保管され、純水チャンバ304に貯蔵された水が凍るようにする。純水チャンバ304は、図に矢印で示すようにマウスピース内の袋状体を通って流れる塩水に冷却効果を与える。図示の実施形態では、マウスピース10の内壁に沿って一連の冷却チャンバ(袋状体)181−184が設けられている。いくつかの接続されたチャンバ間の冷却媒体の分配は、呼吸用開孔70と干渉することなく、患者の歯茎と接触する順応性のある表面を提供する。小さめなチャンバの数およびサイズは、マウスピースの全体的のサイズおよび治療される特定の患者により変化し得る。一連の袋状体は、完全に接続されたネットワークを形成する。例えば、袋状体189は、マウスピースの後面に配置され、袋状体181を袋状体182に接続する。同様に、袋状体190はマウスピースの後面に配置され、袋状体183を袋状体184に接続する。好ましくは、各袋状体は、使用中の脱落を防止するために、適切な接着剤または他の手段によってマウスピースに固着される。別の実施形態では、袋状体は取り外し可能に取り付けられ、冷却の量およびタイミングを制御するため、または、使用者の独特な歯の解剖学的構造に対するマウスピースの適合を調整するため、様々なサイズの袋状体と交換することができる。例えば、患者は、隣接する歯からくぼんだりまたは曲がったりする1つ以上の歯を有しているかもしれない。この不一致に対応するために、より小さなまたはより大きな袋状体をマウスピースのこの位置に適合させることができ、それによってよりあつらえ向きの適合を生じさせることができる。
【0045】
図15は、上歯茎用の冷却媒体袋状体が示されておりかつ外部チャンバに接続されており、該外部チャンバは塩水チャンバ303と、該塩水チャンバ内で自由に移動する純水チャンバ304を含む、図12のマウスピースの正面左上方向から見た斜視図である。図示の例では、純水チャンバ304は球形であるが、他の形状を採用することもできる。さらに、本発明のこの実施形態には、複数の水チャンバ304を含めることができる。
【0046】
外部チャンバ303の外側断熱壁は、その形状を維持するように選択され、さらに、使用者が内容物を定期的に圧搾し、マウスピースの一連の袋状体を通って塩水溶液の流れを助けることを可能にするように、弾力性を提供する。
【0047】
別の実施形態(図示せず)では、塩水チャンバ303のみがあり、純水チャンバ304は存在しない。塩水チャンバ303のサイズは、純水(凍結)チャンバを必要とせずに、冷却効果が必要とされる量と時間長さに応じて調整することができる。
【0048】
別の実施形態(図示せず)では、調整可能な支持バンドが、外部チャンバの重量を支持するのを助けるために、使用者の頭の周りを包み込むように外部チャンバに取り付けられている。支持バンドは、フック・アンド・ループファスナー、バックル、スナップなどを介して固定することができる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態の前述の説明は、本発明の原理を説明するために提示されており、本発明を図示の特定の実施形態に限定するものではない。本発明の範囲は、続く特許請求の範囲およびその均等物に包含されるすべての実施形態によって定義されることが意図されている。
図1
図2
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図15