特許第6973816号(P6973816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973816
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】半導体X線ターゲット
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20211118BHJP
   H01J 35/12 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   H01J35/08 B
   H01J35/08 C
   H01J35/08 Z
   H01J35/12
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-531222(P2019-531222)
(86)(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公表番号】特表2020-502740(P2020-502740A)
(43)【公表日】2020年1月23日
(86)【国際出願番号】EP2017083081
(87)【国際公開番号】WO2018109176
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2020年10月16日
(31)【優先権主張番号】16204831.8
(32)【優先日】2016年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】317016811
【氏名又は名称】エクシルム・エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ソフィエンコ、アンドリー
(72)【発明者】
【氏名】ルンドストレーム、ウルフ
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−260995(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/125395(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0019481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08−35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源(1)であって、
X線ターゲット(100)と、
9から12keVの範囲内のエネルギーを有するX線放射を発生するために前記X線ターゲットと相互作用する電子ビームを発生するように動作可能な電子源(200)と
を備え、前記X線ターゲットは、
3価元素からなるリストから選択された第1の元素(101)と、
前記第1の元素との化合物を形成する5価元素からなるリストから選択された第2の元素(102)と、
第1の材料および第2の材料から形成された前記化合物を含んだ第1の領域(110)と、
前記第1の領域を支持する第2の領域(120)と、を備え、
前記第1の領域は、前記電子ビームと相互作用するとX線放射を発生し、前記第1の領域と第2の領域との間の熱伝導はフォノン熱伝導が支配的である、X線源。
【請求項2】
前記第1の領域は、前記第2の領域上の層の形でもたらされるもの、および前記第2の領域内に少なくとも部分的に埋め込まれるもの、のうちの少なくとも1つである、請求項に記載のX線源。
【請求項3】
3価元素のリストは、ホウ素と、ガリウムと、インジウムとを備える、請求項またはに記載のX線源。
【請求項4】
5価元素のリストは、窒素と、ヒ素と、リンとを備える、請求項1に記載のX線源。
【請求項5】
前記化合物は、窒化ガリウムと、ヒ化ホウ素と、ヒ化インジウムと、リン化ガリウムと、窒化インジウムガリウムと、ヒ化ガリウムとを含むリストから選択される、請求項1に記載のX線源。
【請求項6】
前記第2の領域は、酸化ベリリウムまたはダイアモンドを備える、請求項1に記載のX線源。
【請求項7】
前記第1の領域および前記第2の領域は端部によって分離され、前記X線源は、
前記端部の上を前記電子ビームを走査するための電子光学手段と、
前記電子ビームが前記端部の上を走査されるのに従って、前記電子ビームと前記第1の領域との間の相互作用、および前記電子ビームと前記第2の領域との間の相互作用を示す量の進展時間を測定するように適合されたセンサと、
前記センサおよび前記電子光学手段に動作可能に接続され、前記量の測定された進展時間および前記電子ビームの走査速度に基づいて、走査方向に沿って前記電子ビームの横方向の広がりを決定するように適合されたコントローラと
をさらに備える、請求項1に記載のX線源。
【請求項8】
前記X線ターゲットを固定するように構成されたターゲット保持器さらに備える、請求項1に記載のX線源。
【請求項9】
前記ターゲット保持器は、前記X線ターゲットから余分な熱を取り除くように構成された冷却剤の経路を備える、請求項に記載のX線源。
【請求項10】
前記ターゲット保持器は、冷却剤から熱を取り除くように構成された熱交換器、冷却フランジ、ペルチェ素子、およびファンのうちの少なくとも1つをさらに備える、請求項に記載のX線源。
【請求項11】
試料位置に方向付けられた単色X線ビームを形成するように構成されたX線光学系をさらに備える、請求項1に記載のX線源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される本発明は、一般に、X線放射の発生に関する。詳細には、X線放射を発生するための固体X線ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
X線放射は、電子ビームを固体アノードターゲット上に激突させることによって発生され得る。従来は、固体アノードターゲットは、X線収率を最大にするために、タングステンまたは銅などの大きな原子番号を有する元素から形成される。しかし実際には、X線放射の発生は、しばしば固体アノード材料の熱特性によって制限される。熱容量、熱伝導率、および融点は、制限されたとき過熱、ターゲット消耗、および発生されるX線放射の品質の不十分な制御に繋がり得る、熱特性の例である。ガリウムなどの3価、またはヒ素などの5価の純粋な元素も、固体アノードターゲット材料として検討されてきたが、それらのX線放射を生成する能力は、しばしばそれらの熱特性によって制限される。
【0003】
さらに、タングステンまたは銅ターゲットなどの従来のX線ターゲットは、例えば銅構造を備えたシリコンをベースとするシステムなどの、いくつかのタイプの材料システムを調査するためには適さないX線放射を生成する。
【0004】
固体X線ターゲットは今日、当技術分野において存在するが、X線放射を発生するための改善されたターゲットの必要性が依然としてある。具体的には、改善された熱特性を有する固体X線ターゲットの必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、上記の問題の少なくともいくつかに対処する固体X線ターゲットをもたらすことである。具体的な目的は、改善された熱特性がもたらされた固体X線ターゲットをもたらすことである。
【0006】
本発明のこの、および他の目的は、独立請求項において定義される特徴を有する固体X線ターゲットを用いて達成される。有利な実施形態は、従属請求項において定義される。
【0007】
従って、第1の態様によれば、3価元素を含むリストから選択された少なくとも1つの材料と、5価元素を含むリストから選択された少なくとも1つの材料とを備えた、X線放射を発生するための固体X線ターゲットがもたらされる。前記材料の第1のものは、電子ビームと相互作用するとX線放射を発生する能力を有し、および前記材料の第2のものは、前記材料の第1のものとの化合物を形成する。固体X線ターゲットは、第1および第2の材料から形成された化合物を含んだ第1の領域と、第1の領域を支持する第2の領域(120)とをさらに備え、第1の領域は、第2の領域上の層の形でもたらされるもの、および第2の領域内に少なくとも部分的に埋め込まれるもの、のうちの少なくとも1つであり、第1の領域と第2の領域との間の熱伝導は、フォノン熱伝導が支配的である。
【0008】
第2の態様によれば、本発明の第1の態様において定義されるX線ターゲットと、X線放射を発生するためにX線ターゲットと相互作用する電子ビームを発生するように動作可能な電子源とを備えたX線源がもたらされる。
【0009】
第3の態様によれば、X線ターゲットと、9から12keVの範囲内のエネルギーを有するX線放射を発生するためにX線ターゲットと相互作用する電子ビームを発生するように動作可能な電子源とを備えたX線源がもたらされる。X線ターゲットは、3価元素を含むリストから選択された第1の元素と、前記第1の元素との化合物を形成する5価元素を含むリストから選択された第2の元素とをさらに備える。
【0010】
驚いたことに本発明者らは、材料の第1のものが電子ビームと相互作用するとX線放射を発生するその能力のために選択され、材料の別の1つが第1の材料との化合物を形成する能力のために選択される、上記の態様による固体X線ターゲットは、適切なエネルギーにおいて特性X線放射を放出する能力を有し、ならびに優れた熱管理特性などの優れた熱特性を有することを見出した。例えば、3価元素ガリウムは、9.3keVのエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有することができ、これはX線ターゲットに対して適切なエネルギーとなり得る。約8〜12keVのエネルギーの特性X線放射は、シリコンをベースとする微小電気機械システム(MEMS)および集積回路など、シリコンをベースとするシステムを調査するために特に有利となり得る。具体的には、銅構造を備えたシリコンをベースとするシステムを分析するために、約10keVの放射が使用され得る。銅は約10keVのエネルギーの特性X線放射を吸収することが知られているのに対して、シリコンはこのような放射に対して透明である。これはシステム内のシリコンと銅との間の良好なコントラストを有するX線イメージングをもたらす。このようなコントラストは、例えば従来の銅ターゲットによって達成することはより難しく、なぜならこのようなターゲットによって発生される特性X線放射は、一般に材料のその組み合わせに対して適さないからである。
【0011】
しかし、Gaの比較的低い融点(303K)は、固体X線ターゲット用途における使用のためには欠点となり得る。ガリウムと、5価元素、例えば窒素との間の化合物を形成することにより、9.3keVのエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有し、ならびに2773Kの融点を有する固体X線ターゲットが達成され得る。さらにこの化合物、窒化ガリウムは、130W・m-1・K-1の熱伝導率を有することが知られており、これは純粋なガリウムに対して知られている29W・m-1・K-1よりかなりの改善である。他の例として、3価元素ホウ素は0.18keVの低い特性X線エネルギーを有し、これはX線発生のための適正は低くなり得る。しかし、ホウ素は2349Kの高融点など、良好な熱管理特性を有する。ホウ素と、5価元素、例えば10.5keVのエネルギーにおいて特性X線放射を放出する能力を有するヒ素との化合物を形成することによって、10.5keVのエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有し、2300Kの融点の、固体X線ターゲットが達成され得る。さらに他の例として、ガリウムとヒ素とから形成された化合物が、本発明による固体X線ターゲットにおいて用いられ得る。このような化合物は、9.3keVのエネルギーおよび10.5keVのエネルギーの両方において、特性X線放射を放出する能力を有し得る。ヒ化ガリウムの融点は1511Kであり、これはガリウムに対する融点(303K)、およびヒ素に対する昇華点(887K)より著しく高い。本発明による化合物の他の例は、ガリウムリンである。上述のように、ガリウムは、適切なエネルギーにおいてX線放射を発生する能力を有するが、不十分な熱管理特性を有する。リンも適切なエネルギーにおいてX線放射を発生する能力を有し、およびまた低融点(317K)および低熱伝導率(0.2W・m-1・K-1)など、不十分な熱管理特性を有する。驚いたことに、ガリウムとリンとによって形成される化合物ガリウムリンは、適切なエネルギーにおいてX線放射を発生する能力を有するだけでなく、高融点(1730K)および高熱伝導率(110W・m-1・K-1)などの良好な熱管理特性も有する。
【0012】
化合物はさらに、2つより多い元素、例えば3つの元素などを備え得る。化合物は、例えば2つの3価元素と、1つの5価元素とを備え得る。本発明のX線ターゲットに適した3つの元素を備えた化合物の例は、窒化インジウムガリウムである。
【0013】
本発明の第1の態様に関連する他の利点は、3価および5価元素は通常、いわゆるIII−V族半導体化合物を形成し得ることである。このような化合物はフォノンが支配的な熱伝導を有し得る。「フォノン」とは、結晶格子における圧縮波または振動に関連付けられたエネルギーの量子と理解されるべきである。結晶性固体おいて、フォノン熱伝導は、熱伝導の2つの支配的な機構の1つとなることができ、もう1つは電子熱伝導である。電子熱伝導は通常、金属において支配的な機構となり得る。熱が、互いに触れて接触する材料の間を良好に伝導するためには、材料が熱伝導のために同じ主要支配的な機構を有する場合が好ましくなり得る。例えば、熱伝導は、支配的な熱伝導機構がフォノン熱伝導である材料と、支配的な熱伝導機構がフォノン熱伝導である別の材料との間では、支配的な熱伝導機構が電子熱伝導である材料と比べて良好となり得る。
【0014】
本明細書で用いられる「3価元素」という用語は、特徴付けられず、不安定な元素113を例外とし、および場合によってはタリウムを例外として、周期律表におけるグループ13の任意の元素を指し得る。本開示において3価元素は、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、またはタリウムとすることができる。3価元素はまた、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、またはインジウムとすることができる。いくつかの例において3価元素は、ホウ素、ガリウム、およびインジウムからなるリストから選択され得る。「3価元素」という用語は、これらの元素が3つの価電子を有するという事実を指す。
【0015】
本開示において「5価元素」という用語は、特徴付けられず、不安定な元素115を例外として、周期律表のグループ15の任意の元素として理解されるべきである。本開示において5価元素は、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、またはビスマスとすることができる。「5価元素」という用語は、これらの元素が5つの価電子を有するという事実を指す。いくつかの例において5価元素は、窒素、ヒ素、およびリンからなるリストから選択される。
【0016】
本明細書で用いられる固体ターゲットまたは固体X線ターゲットという用語は、衝突する電子と相互作用するとX線放射を放出する能力を有する任意の固体材料または化合物を指し得る。固体ターゲットは、例えばシートまたは箔とすることができ、一様であり、または基板上に設けられてよく、さらに静止ターゲットまたは回転ターゲットとして構成され得る。固体ターゲットは、少なくとも1つの3価材料と、少なくとも1つの5価材料とによって形成された化合物から形成され得る。
【0017】
「化合物」という用語は、好ましくは固定の位置において、化学的に結合された2つ以上の元素から形成された物質を指し得る。化合物は好ましくは固体化合物、より好ましくは結晶化合物である。結晶化合物は、対称的な、規則正しい、原子の3次元凝集からなる固体とすることができる。結晶化合物は、電子熱伝導またはフォノン熱伝導が支配的な熱伝導を有し得る。本開示において、化合物はフォノン熱伝導が支配的な熱伝導率を有する場合が好ましい。フォノンが支配的な熱伝導率を有する化合物の特定のタイプは、半導体化合物である。有利なことには、本明細書で開示される3価おび5価材料は、通常一緒に半導体化合物を形成する。本開示において形成される化合物は、通常フォノンが支配的な熱伝導を有する。
【0018】
本開示において「熱管理特性」という用語は、一般に材料を、ターゲットと、衝突する電子ビームとの間の相互作用によって引き起こされるターゲット内の高められた温度を取り扱うのに、ある程度適するようにする特性の組み合わせを意味することが想定される。ターゲット内の高い温度は、ターゲットに損傷を引き起こす場合があり、ターゲットによって発生されるX線放射の量に悪影響を及ぼし得る。具体的には、ターゲットは動作時に融解しないことが重要であり、従って高融点が望ましい。さらにターゲットは、ターゲットの動作温度が比較的一定のレベルに維持されることを可能にするように適切なやり方で放熱できることが好ましい。従って、高い熱伝導率および比熱容量が好ましい。
【0019】
さらに、電子ビームとターゲットとの間の相互作用とは、本明細書ではターゲットの物質と、電子ビームの電子とが互いに影響を及ぼす特定のやり方を意味する。具体的には、X線放射の発生を意味する。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記材料の第1のものは、30を超える原子番号を有し得る。通常、30を超える原子番号を有する材料は、所望のエネルギーの特性X線放射を効率的に放出する能力を示し、さらに電子ビームの衝突する電子との相互作用に対する十分に高い断面積をもたらす。30を超える原子番号を有する材料の例は、ガリウム、ヒ素、インジウム、アンチモン、およびビスマスである。30未満の原子番号を有する材料は通常、X線ターゲット用には適さないエネルギーにおいて特性X線放射を放出する能力を示す。一般には、30未満の原子番号を有する材料によって生成される特性X線放射は、適切となるためには低過ぎるエネルギーを有する。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記材料の第1のものは、1keVを超えるエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有し得る。本発明によるX線ターゲットに対しては、様々な用途がある。このような用途は、例えばX線光電子分光法(XPS)、蛍光X線(XRF)、X線回折(XRD)、およびX線イメージングとすることができるが、それらに限定されない。用途に応じて、異なる特性X線エネルギーに特に関心がもたれる。例えば、XPSなどの高感度表面の用途において、X線ターゲットは1〜3keVなど、1〜5keVのエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有する場合が好ましくなり得る。例えばXRDでは、回折角を増加させるために、むしろ低いエネルギーが好ましくなり得る。しかし、散乱角を減少させるためには、高いエネルギーも好ましくなり得る。XRFにおいて、調査されることになる材料の吸収端に応じて、広い範囲のエネルギーが好ましくなり得る。いくつかの実施形態において、前記材料の第1のものは0.28〜0.53keVなど、0.2〜0.6keVの範囲内のエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有する場合が好ましくなり得る。これは、調査される試料が細胞などの生物学的試料である場合に特に有利である。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、化合物は結晶性構造を形成し得る。化合物は結晶性固体を形成することができ、熱伝導はフォノン熱伝導が支配的であることが好ましい。化合物は、2元素など、3元素など、2〜4元素を備えることが有利である。
【0023】
実施形態によれば、第2の材料はホウ素とすることができる。ホウ素は、所望のエネルギーにおいて特性X線放射を放出するためには不十分な能力を示し得る材料である。しかしホウ素は、高融点および高い比熱容量など、優れた熱管理特性を有する。ホウ素は、5価元素との化合物を容易に形成し得る。形成される化合物は、III−V族半導体化合物となり得る。通常、ホウ素と5価元素とによって形成される化合物は、フォノン熱伝導が支配的な熱伝導を有し得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、第2の材料は窒素とすることができる。窒素は、適切なエネルギーにおいて特性X線放射を発生するためには不十分な能力を示し得る材料である。さらに、窒素は室温において気体である。しかし窒素は、いくつかの3価元素との化合物を形成することができる。これらの化合物は、高い熱伝導率、高融点、および高い比熱容量など、優れた熱管理特性を有する。形成される化合物は、III−V族半導体化合物となり得る。通常、窒素と3価元素とによって形成される化合物は、フォノンが支配的な熱伝導機構を有し得る。
【0025】
実施形態において、化合物は、窒化ガリウムと、窒化インジウムと、ヒ化ホウ素と、ヒ化インジウムと、リン化ガリウムと、窒化インジウムガリウムと、ヒ化ガリウムとを含むリストから選択された材料から形成され得る。いくつかの例において、化合物は、窒化ガリウムと、ヒ化ホウ素と、ヒ化インジウムと、リン化ガリウムと、窒化インジウムガリウムと、ヒ化ガリウムとを含むリストから選択される。ガリウム、インジウム、およびヒ素はすべて、1keVを超えるなどの適切なエネルギーにおいて特性X線放射を放出する能力を有する。しかし、それらの熱管理特性は、X線ターゲット用途におけるこれらの材料の元素形態を取り扱うことを困難にする。本発明者らは、適切なエネルギーにおいて特性X線放射を放出する能力を有する材料と、適切なエネルギーにおいて特性X線放射を放出する能力をもたない材料との化合物を形成することによって、X線放出特性および熱管理特性の優れた組み合わせが達成され得ることを認識した。
【0026】
いくつかの実施形態において、X線ターゲットは、第1および第2の材料から形成された化合物を含んだ第1の領域と、第1の領域を支持する第2の領域とを備えることができ、第1の領域と第2の領域との間の熱伝導はフォノン熱伝導が支配的である。本発明の化合物は、大量に生成することは難しくなり得る。従って、本発明により、X線ターゲットが、化合物の第1の領域と、第1の領域を支持する第2の領域とをさらに備える場合、有利となり得る。第2の領域は、第1の領域に機械的支持をもたらし得る。さらに、第2の領域は、第1の領域からの放熱の手段として働き得ることが好ましい。第1の領域が電子ビームと相互作用するとき、第1の領域内に熱が生成される。ターゲットに放熱する能力を有する第2の領域をもたらすことによって、ターゲットを過熱させずに、より多くの電子が第1の領域と相互作用することができる。従って、より大量のX線放射が、ターゲットと、衝突する電子との間の相互作用によって生成され得る。第1および第2の領域は、端部によって分離され得る。「端部」という用語は、例えばターゲットの2つの表面領域がそれに沿って交わる線もしくは界面、またはターゲットの第1の領域と第2の領域との間の界面によって画定された表面ステップと理解されるべきである。ターゲットは、ターゲットの表面上の異なる方向に沿って延びる、少なくとも2つの端部を備え得ることが理解されるであろう。代替として、または追加として、単一の端部が2つ以上の方向に沿って、すなわち曲線状のまたは曲がった経路に沿って延び得る。
【0027】
第1の領域と第2の領域との間の熱伝導は、フォノン熱伝導が支配的となり得る。第1および第2の領域内の熱伝導は、フォノン熱伝導が支配的であることが好ましい。同じ支配的な機構を有する材料は、通常互いの間に低い界面熱抵抗を有するようになる。低い界面熱抵抗は、材料の間の熱伝導を増加させ得る。これは第2の領域が、効率的なやり方で第1の領域から放熱することを可能にする。第2の領域は、非金属の結晶性固体など、結晶性固体を備えることが好ましい。第2の領域は例えば、酸化ベリリウム、または例えばダイアモンドの形での炭素など、15未満の原子番号を有する元素を備えた材料から形成され得る。第2の領域内の材料は、適切なエネルギーおよび効率においてX線放射を発生する能力をもたないことが好ましい。
【0028】
いくつかの実施形態において、第1の領域は、第2の領域内に少なくとも部分的に埋め込まれ得る。第1の領域は、フォトリソグラフィパターニング法など、当技術分野で知られている手段によって、第2の領域内に埋め込まれ得る。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、第1の領域は層の一部を形成することができ、第2の領域は基板を形成し、層は基板上に構成される。本発明の第1の領域で備えられた化合物のいくつかは、大量に製造することが難しい。従って、基板として働く第2の領域上に、層として第1の領域を堆積することが有利となり得る。第1の領域は、好ましくは薄膜として堆積され得る。基板上に薄膜を堆積するための手段は、当技術分野ではよく知られており、化学気相成長(CVD)および物理気相成長(PVD)とすることができるが、それらに限定されない。第1の領域は、好ましくはエピタキシャル法において堆積され得る。本開示において「エピタキシャル」という用語は、堆積された材料が、基板結晶構造に対してはっきり定義された結晶方位を有する結晶層を形成することを意味することが想定される。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態において、第1の領域は窒化ガリウムを備えることができ、および/または第2の領域は酸化ベリリウムまたはダイアモンドなどの炭素を備え得る。窒化ガリウムならびに酸化ベリリウムまたはダイアモンドなどの炭素は、フォノンが支配的な熱伝導機構を有する。従って、窒化ガリウムと、酸化ベリリウム、またはダイアモンドなどの炭素との間の熱伝導は、フォノン熱伝導が支配的であり、これは第1の領域および第2の領域に、低い界面熱抵抗をもたらす。低い界面熱抵抗は一般に、高い熱伝導率と相互に関連があり得る。第2の領域は、従って第1の領域から効率的に放熱することができ、ターゲットを過熱せずに、より多数の電子がターゲットと相互作用することを可能にする。さらに、窒化ガリウムは特性X線放射を発生する能力を、良好な熱管理特性と組み合わせる。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明によるX線ターゲットは、第1および第2の材料から形成された化合物を含んだ第1の領域と、第2の領域とを備え、第1の領域および第2の領域は、電子ビームと相互作用するとX線放射を発生する異なる能力を有する。X線発生能力の観点から2つの相異なる領域のターゲットを用いることによって、その差は、電子ビーム特性についての情報を取り出すために用いられ得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、本発明のX線ターゲットは、第1および第2の材料から形成された化合物を含んだ第1の領域と、第1の領域のためのカバーとして働くように構成された第2の領域とを備え得る。第1の領域が衝突する原子と相互作用するとき、ある程度の蒸発が存在する。このような蒸発は、ターゲットの表面仕上げを損傷し得るので、一般に望ましくない。不十分な表面仕上げ有するターゲットは、放出されたX線の自己吸収を被り得る。望ましくない蒸発を軽減するために、第2の領域は、第1の領域のためのカバーとして働くように構成され得る。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、X線ターゲットは透過ターゲットまたは反射ターゲットとすることができる。「透過ターゲット」という用語は一般に、X線放射の大部分がターゲットから、電子ビームがターゲットに衝突するのと同じ全体的方向、または同じ側から放出され得るように構成されたX線ターゲットを意味する。「反射ターゲット」という用語は、X線放射の大部分がターゲットから、電子ビーム内の電子が移動しているのと、反対の全体的方向において放出され得るように構成されたX線ターゲットとして理解されるべきである。反射ターゲットは、一般に透過ターゲットより厚い。反射ターゲットは、一般に到来電子と同じ方向に発生されたX線放射が、ターゲットから放出され得る前にターゲット材料によって吸収されるように十分に厚い。ターゲットはさらに、静止ターゲット、または移動ターゲット、例えばいわゆる回転アノードとすることができる。
【0034】
十分に厚いターゲットには、例えば冷却剤を収容するまたは移動させるための冷却チャネルが設けられる、または能動的に冷却された表面に締め付けられてよく、それによって熱的管理特性をさらに強化する。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、本明細書で開示されるX線システムは、X線焦点調整装置をさらに備え得る。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、X線源は、前記ターゲットを固定するように構成されたターゲット保持器さらに備え得る。ターゲット保持器は、前記ターゲットから余分な熱を取り除くように構成された冷却剤のための経路を備え得る。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、ターゲット保持器は、冷却剤から熱を取り除くように構成された熱交換器、冷却フランジ、ペルチェ素子、およびファンのうちの少なくとも1つをさらに備える。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、本明細書で開示されるX線システムは、端部の上を電子ビームを走査するための電子光学手段と、電子ビームが端部の上を走査されるのに従って、電子ビームと第1の領域との間、および電子ビームと第2の領域との間の相互作用を示す量の進展時間を測定するように適合されたセンサと、センサおよび電子光学手段に動作可能に接続され、量の測定された進展時間および電子ビームの走査速度に基づいて、走査方向に沿って電子ビームの横方向の広がりを決定するように適合されたコントローラとをさらに備える。
【0039】
「相互作用を示す量」という用語は、直接または間接に測定または決定することが可能であり、電子ビームとターゲットとの間の相互作用を決定または特性化するために用いられ得る情報を備えた、任意の量と理解されるべきである。このような量の例は、発生されるX線放射の量と、ターゲットを通過するまたはターゲットによって吸収される電子の数と、二次電子またはターゲットから後方散乱される電子の数と、ターゲット内で発生される熱と、例えば陰極線発光によりターゲットから放出される光と、ターゲットの電気的荷電とを含み得る。量はまた、発生されるX線放射の輝度と呼ばれ得る。輝度は、例えば比出力またはW当たりの正規化値における、平方ミリメートル当たりステラジアン当たりの光子として測定され得る。代替として、または追加として、量は、X線放射の帯域幅、すなわち波長スペクトルにわたる放射束分布に関係し得る。
【0040】
「横方向の広がり」という用語は、電子ビームの断面の形状、幅もしくは面積、ビームスポット、またはターゲット上への電子ビームの2次元投影を指すことができる。本出願の関連においてこの用語は、ビームスポットの幅、空間分布または形状と同義的に用いられ得る。さらに、ビームスポットの横方向の広がりが複数の焦点設定に対して決定される場合、電子ビームの3次元空間分布が推定され得る。
【0041】
電子ビームとターゲットとの間の相互作用を示す量は、検知手段を用いて測定され得る。
【0042】
実施形態によれば、検知手段は、ターゲットによって吸収される電流を測定するための電流計を備え得る。この実施形態の利点は、吸収される電流がターゲットによって吸収される熱出力の尺度を示し得ることである。従って、ターゲットが熱的に過負荷とならないことを確実にするように、制御回路が実装され得る。
【0043】
実施形態によれば、後方散乱として知られているプロセスである、ターゲットから散乱される電子が測定され得る。これは、例えばX線の軌道と干渉しないようにターゲットの直前に(すなわち電子ビームに対して上流側に)構成され得る後方散乱検出器を用いて達成され得る。後方散乱された電子は、比較的大きな立体角(球面の半分)にわたって分散され得るのに対して、任意のセンサがこの立体角の有限な一部からの電子を収集することができる。
【0044】
実施形態によれば、発生されるX線の量が測定され得る。この実施形態の利点は、電子ビームスポットのサイズではなく、X線スポットのサイズが決定され得ることである。さらに、第1の領域と第2の領域との間で得られ得るコントラストは、放出されたX線放射を観測したとき、より高くなることが期待でき、電流(ターゲット内のまたは後方散乱された)を測定したときは数パーセント程度のコントラストであるのと比べて、5倍から10倍が観測された。ターゲット内で発生される電流の代わりにX線放射を測定することは、ターゲットが接地されること、およびX線検出器またはセンサがハウジングの外部に構成されることを可能にする。
【0045】
実施形態によれば、電子の強度は、ターゲットに供給される電力密度が所定の限界未満に維持されるように、決定された横方向の広がりに基づいて調整され得る。所定の限界または閾値は、ターゲット材料の融解およびデブリの発生などの損傷に繋がり得る、ターゲットの局所的過熱のリスクを低減するように選択され得る。局所的過熱は、例えばスポットサイズおよびターゲットに衝突する電子の総電流、または言い換えれば、ビームスポットに曝されたターゲットの面積単位当たりの衝突する電子の観点からの電力密度によって影響を受け得る。電力密度は、従って電子ビームのエネルギーまたは強度を変えることによって、および/またはターゲット上のスポットサイズを変えることによって調整され得る。
【0046】
電子ビームによって供給される総電力は、電子源から測定されまたは与えられ、電子スポット内、および/またはターゲットの体積当たり(例えばW/m3として測定される)の電力密度を計算するように、決定されたスポットサイズまたは幅と組み合わされ得る。電力密度が推定された後、結果は所定の閾値(例えばルックアップテーブルに記憶された)と比較され、フィードバックループ内に供給されて制御回路に戻され得る。一例において、電子光学手段は電子ビームの幅を変えることができ、および他の例において、電子ビームのエネルギーまたは電力が調整され得る。電力分布は、熱的に誘起される損傷(例えばターゲット材料の昇華または融解によって引き起こされる)のリスクを低減するように、ターゲット材料内のピーク温度、および従って蒸気圧を決定するために用いられ得る。
【0047】
電子光学系は、コントローラによってもたらされる信号によって制御可能な、整列手段、レンズ、および偏向手段の配列を備え得る。整列手段、偏向手段、およびレンズは、静電的、磁気的、および/または電磁的構成要素を備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明によるX線ターゲットの一部分の概略図。
図2】いくつかの実施形態によるX線ターゲットを製造するプロセスのフローチャート。
図3a】本発明の実施形態によるX線ターゲットの断面図。
図3b図2aに示されるタイプのX線ターゲットの代替的実装形態を示す図。
図3c図2aおよびbに示されるタイプと同様のX線ターゲットの上面図。
図4】前の図のいずれか1つに示される種類のX線ターゲットを備えた、X線放射を発生するためのX線源の透視図。
図5a】本発明の実施形態によるターゲット保持器の断面を概略的に示す図。
図5b】本発明の実施形態によるターゲット保持器の上面図を概略的に示す図。
図5c】本発明の実施形態によるターゲットの上面図。
【発明を実施するための形態】
【0049】
別段の記載がない限り、図面は概略的であり、原寸に比例して描かれていない。
【0050】
図1は、例えばホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、およびタリウムなどの3価元素を含むリストから選択された第1の材料101と、例えば窒素、リン、ヒ素、アンチモン、およびビスマスなどの5価材料を含むリストから選択された第2の材料102とから形成された化合物を概略的に示す。図1の特定の例示的な例において、第1の材料101はガリウムによって表され、第2の元素102は窒素によって表される。従って、図示の化合物は窒化ガリウム(GaN)である。GaNは、四面体結晶構造に構成された二成分のIII−V族半導体材料である。支配的な熱伝導機構は、フォノンをベースとするものとなり得る。
【0051】
衝突する電子ビームと相互作用すると、ガリウムは9.3keVの特性X線放射を放出することによってX線発生に寄与し得るのに対して、窒素はガリウムとの化合物を形成したことによって、改善された熱特性に寄与し得る。すでに述べられたように、GaNなどの化合物を形成することによって、ガリウムの比較的低い融点(303K)は、約2773Kまで増加され得る。
【0052】
図2は、図1に関連して上述されたような3価材料と5価材料とによって形成される化合物を含んだ第1の領域110と、第1の領域110を支持する第2の領域120とを備えたX線ターゲットを形成するためのプロセスを示すフローチャートである。この例において、化合物は窒化ガリウム、GaNから形成されてよく、従って第1の領域110は衝突する電子と相互作用するとX線を発生する能力を有し得る。第2の領域120は主として、例えばダイアモンドなど、第1の領域110から放熱する能力のために選択される材料から形成され得る。しかし、当業者には、本明細書で以下に述べられるプロセスは窒化ガリウムおよびダイアモンドに限定されず、本明細書で開示される他の化合物および材料を備えた実施形態においても有用となり得ることが理解される。
【0053】
窒化ガリウム(GaN)はダイアモンド上に、シリコン基板130上に堆積されたGaNを備えた市販のGaNオンシリコンウェハを用いて開始するプロセスによって、堆積され得る。第1のステップにおいて、一時的キャリア140が、GaN表面上に堆積され得る。一時的キャリア140は、シリコンなど、当技術分野で知られている任意の適切な材料とすることができる。次いで、シリコン基板130は、化学エッチングなどの任意の適切なプロセスによって、GaN層から取り除かれ、GaN層の一方の側が露出される。GaNの露出された側の上に、例えばマイクロ波アシスト化学気相成長などの化学気相成長(CVD)によって、ダイアモンド層が堆積され得る。ダイアモンドは、エピタキシャル法においてGaN上に堆積され得る。ダイアモンドを堆積するために、物理気相成長(PVD)などの他の方法も用いられ得る。任意選択で、ダイアモンド層が堆積される前に、GaN上に薄い誘電体層が堆積され得る。GaN領域上へのダイアモンド基板の堆積の後に、一時的キャリア140は、化学エッチングなど当技術分野で知られている手段によって取り除かれ得る。
【0054】
図3aは、図2に関連して上記で論じられたターゲットと同様に構成され得る、X線ターゲットの一部分の断面図を示す。図3aのこの例に示されるように、第1の領域110は、約500nmの厚さとすることができる層を形成することができ、正方形、八角形、または円形の形状の穴などの開口部が設けられ、下にある基板122を露出して第2の領域120を形成する。開口部は、例えばフォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成され得る。基板は、第1の領域110の材料と比べて、衝突する電子に対してより透明な材料から形成されてよく、例えば約100ミクロンの厚さとすることができる。基板は、例えばダイアモンド、酸化ベリリウム、または小さな原子番号および好ましくは高い熱伝導率を有する同様な軽い材料を備え得る。
【0055】
図3aに示されるように、第1の領域110は開口部または開かれた領域を備えることができ、下にあるダイアモンド基板122を露出し、それによってターゲット100の第2の領域120を形成する。
【0056】
図3bは、図3aのものと同様に構成され得る、ターゲットの他の実施形態を示すが、第1の領域110は、基板122内に少なくとも部分的に埋め込まれ、電子ビームの伝搬の方向において、ターゲット100の表面に沿って変化する厚さを有する。代替として、第1の領域110は他の第1の領域110とは異なる一定の厚さを有し得る。
【0057】
図3cは、図2aおよび2bのものと同様なターゲット100の上面図である。この実施形態において、第2の領域120は、2つの実質的に垂直な方向に延びる端部112を有する5つの矩形または正方形として形成される。
【0058】
図4は、一般に前の図に関連して上述されたタイプの固体X線ターゲット100と、電子ビームIを発生するための電子源200とを備えた、X線放射を発生するためのX線源またはシステム1を示す。この機器は、図面に示されるように場合によってはハウジング600の外側に位置し得る電圧源700およびコントローラ500を例外として、ハウジング600の内側に位置し得る。また、電子ビームIを制御および偏向するために、電磁的相互作用によって機能する様々な電子光学手段300が設けられ得る。
【0059】
電子源200は一般に、電圧源700によって電力供給されるカソード210を備え、および電子源220、例えば熱電子、熱電界または冷陰極電界荷電粒子源を含む。電子源200からの電子ビームIは、ビームIがその点において電子光学手段300に入る、加速開口部350に向かって加速され、電子光学手段300は、整列プレート310の配列と、レンズ320と、偏向板340の配列とを備え得る。整列手段310、偏向手段340、およびレンズ320の可変の特性は、コントローラ500によってもたらされる信号によって制御可能することができる。この実施形態において、偏向および整列手段340、310は、少なくとも2つの横断する方向に電子ビームIを加速するように動作可能である。
【0060】
電子光学手段300の下流において、外向きの電子ビームIは、X線ターゲット100と交差し得る。これはX線生成が生じる所であり、この位置はまた相互作用領域または相互作用点と呼ばれ得る。X線は、電子ビームIと一致しない方向に、例えばX線窓610を通じて、ハウジング600から外に導かれ得る。
【0061】
図5aおよびbは、第1の領域110(例えばGaN)と、第2の領域120(例えばダイアモンド)とを備えたターゲット100が、ターゲット保持器501内に構成された実施形態を概略的に示す。ターゲット保持器501は、機械的支持および/または熱管理をもたらすために、円形または四角形など、任意の適切な形状または形を有し得る。ターゲット保持器501は、それが電子ビームIによって衝突され得るように、ターゲット100を保持するように適合され得る。ターゲット100は、衝突する電子ビームIに向かってターゲットが方向付けられるように、ターゲット保持器501内に位置決めされ得る。ターゲットは、例えば衝突する電子ビームIに向かって、ある角度で位置決めされ得る。ターゲット保持器は、ターゲット100を冷却するために、冷却手段505(本明細書では冷却剤フロー505として示される)を備え得る。このような冷却手段は、例えばターゲット100の後面と熱的に接触する循環冷却液(水、空気、または他の流体)を使用し得る。冷却液は、例えばターゲット保持器の入口および出口を通して循環され得る。代替として、または追加として冷却手段は、例えば伝導または対流を用いてターゲットを冷却するヒートシンクまたは放熱手段を備え得る。
【0062】
ターゲット保持器は、真鍮または鋼など、金属または合金を備え得る。ターゲットをターゲット保持器にしっかり固定するために、基板にはターゲット保持器上に鑞付けされ得る金属被覆された表面503がもたらされる。ターゲット保持器の設計は、ターゲットとターゲット保持器との間の接合を損なわずに、ターゲットの熱的に誘起される形状変化を受け入れるようにさらに適合され得る。図5aに示される例示的実施形態において、ターゲット保持器は、ターゲット寸法に適合された凹部を有する薄い壁の管を備える。ターゲットの熱膨張によって引き起こされる変位は、ターゲットとターゲット保持器との間の接合を破損せずにわずかに管を変形させるようになる。
【0063】
電子焦点スポットの位置を監視し、継続的に最適化するために、小型のX線検出器(図示せず)が含められ得る。これは小さな固体検出器または他のX線検出デバイスとすることができる。
【0064】
X線源またはシステム1は、いくつかの実施形態において、X線焦点調整および/または偏向デバイス(図示せず)を備え得る。システムは、供給源から、制御された変化する距離において、焦点スポットの拡大された画像をもたらすために、供給源の近くに位置するX線焦点調整装置を包含する。X線焦点調整システムのための選択肢は以下を含み得る。
【0065】
1.円対称プロファイルからの、高度に制御された円滑度(およそ10Årms)の金または同様の被膜からの鏡面反射率を用いたマイクロミラー。マイクロミラーはまた、焦点調整されたX線のビーム(焦点スポットから600mm、直径300μmなど)を与える楕円体プロファイルを有し得る。楕円体プロファイルは、150未満(250未満になり得る)の測定される挿入利得をもたらす。密接な結合の理由は、放射の大きな立体角が収集され得るためであるが、また焦点調整要素は試料の焦点スポットの拡大された画像を形成し得ることである(低いビーム発散度であるが高い挿入利得)。マイクロミラーはまた、ほとんど並行なビームをもたらす放物面プロファイルを有することができ、200を超える期待される挿入利得を生じる。
【0066】
2.楕円形もしくは放物面の組み合わせ、または組み合わせに構成された、ベントプレート(Bent plate)を備えた、カークパトリックバエズ型。異なる用途に適するように、ミラープロファイルの簡単な変更を可能にする。
【0067】
3.他の可能性は、ゾーンプレート、ブラッグフレネル光学系、および/または多層光学系を含む。
【0068】
焦点調整装置と、ターゲット100上の供給源との間の距離は、密接な結合を確実にするために、20mm未満、好ましくは約10mmなどに小さくなり得る。
【0069】
発生されるX線放射のエネルギースペクトルは、特性X線放射(線路放射とも呼ばれる)と、制動放射との両方を、通常備えるようになる。特性X線放射は離散的なエネルギーを備えるのに対して、制動放射は広い範囲のエネルギーを備える。従って、単色X線ビームを試料上に投影する能力を有する特性放射の離散的なエネルギー以外のエネルギーを有するX線を減衰する焦点調整装置を選択することが有利となり得る。このような焦点調整装置は、ミラー湾曲に沿って特定のX線波長に対して反射に対するブラッグ条件が満たされるように、湾曲に沿って平面の間の距離が調整される、湾曲した多層ミラーとして実現され得る。このタイプのミラーはゲーベルミラーと呼ばれ得る。2つのこのようなミラーが互いに垂直に並んで構成されるとき、構成はモンテルミラーと呼ばれ得る。放物面の形状を有する湾曲をもたらすことによって、並行化されたまたは平行な単色ビームが生成され得る。楕円体の形状を有する湾曲をもたらすことによって、焦点調整された単色ビームが生成され得る。
【0070】
図5cは、八角形、正方形、および矩形の形をした複数の第1の領域110を備えた、ターゲット100の一部分を示す。八角形は、0°、45°、および90°など少なくとも3つの方向において、ビームスポットのサイズを測定するために用いることができ、それによってビームスポットの楕円率(および従って非点収差効果)が推定されることを可能にする。この推定された情報は、例えばこれら3つの方向に沿った電子光学系の較正のために用いられ得る。
【0071】
電子ビームスポットAIは、一定の方向においてターゲット100の表面にわたって横断され得る。ターゲットは、図3a〜cおよび5cに関連して論じられたターゲットと同様に構成され得る。第1の方向に幅Wx、および第2の方向に幅Wyを有し得るビームスポットAIは、ターゲットの第1の領域110から、第1の領域110と第2の領域120との間の第1の端部(図示せず)の上を、ターゲット100の第2の領域120に向かって走査され得る。さらに、ビームスポットAIは、第2の領域120の上を、第1の端部112と垂直に、第2の端部113に向かって続行することができ、そこでビームスポットAIは、再び第1の領域110に入る。走査の動きは、コントローラおよび電子光学手段(図示せず)によって制御され得る。
【0072】
第1の領域110および第2の領域120の材料は、一般に衝突する電子と異なって相互作用し、第1の領域110を形成し得るGaNは、X線を発生する傾向があるのに対して、第2の領域120を形成し得るダイアモンドは、より低いX線発生能力を有する傾向があるので、電子ビームスポットの位置は、ターゲット100とのそれの相互作用を観測することによって決定され得る。相互作用は、例えば、発生されるX線放射の量などの量Qを測定することによって、またはターゲット100を通過するもしくは後方散乱する電子の数を測定することによって監視され得る。量Qはセンサによって測定され得る。
【0073】
結果としての量Qは、後方散乱される電子または発生されるX線に対して、ターゲット100の表面上の移動した距離dの関数として測定された量Qを示す、センサ信号として視覚化され得る。移動した距離d、またはターゲット100の表面上の位置は、例えば電子ビームを偏向させるために用いられる特定の偏向器設定によって決定され得る。この例において、センサ信号(例えばターゲット上の異なる位置において発生されたX線放射の量を示す)における、最初の比較的一定なレベルから、低減されたまたはほぼゼロのセンサ信号への変化率は、ビームスポットAIの第1の幅Wyに比例する。ビームスポットAIが次いで、第1の端部に垂直な方向に、第2の端部(図示せず)を横切るのに従って、センサ信号の増加率は、ビームスポットAIの第2の幅Wxに比例する。
【0074】
偏向器などの電子光学手段の設定と、ターゲットに対する電子ビームの位置との間の相関関係を決定するために、同様な手順が用いられ得る。これは、電子光学手段の異なる設定に対して、上述のようにセンサ信号を観測し、設定とターゲット100の端部の上を通る電子ビームとの相関をとることによってなされ得る。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] X線放射を発生するための固体X線ターゲット(100)であって、
3価元素を含むリストから選択された少なくとも1つの材料(101)と、
5価元素を含むリストから選択された少なくとも1つの材料(102)と
を備え、ここにおいて、
第1の材料は、電子ビームと相互作用すると前記X線放射を発生する能力を有し、
第2の材料は、前記材料の前記第1の材料との化合物を形成し、前記固体X線ターゲット(100)は、
前記第1の材料および前記第2の材料から形成された前記化合物を含んだ第1の領域(110)と、
前記第1の領域を支持する第2の領域(120)と
をさらに備え、ここにおいて、前記第1の領域は、前記第2の領域上の層の形でもたらされるもの、および前記第2の領域内に少なくとも部分的に埋め込まれるもの、のうちの少なくとも1つであり、
前記第1の領域と前記第2の領域との間の熱伝導は、フォノン熱伝導が支配的である、X線ターゲット。
[2] 前記第1の材料は、30を超える原子番号を有する、[1]に記載のX線ターゲット。
[3] 前記第1の材料は、1keVを超えるエネルギーの特性X線放射を放出する能力を有する、[1]に記載のX線ターゲット。
[4] 前記化合物は結晶性構造を形成する、[1]から[3]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[5] 前記第2の材料はホウ素である、[1]から[4]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[6] 前記第2の材料は窒素である、[1]から[5]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[7] 前記化合物は、窒化ガリウムと、窒化インジウムと、ヒ化ホウ素と、ヒ化インジウムと、リン化ガリウムと、窒化インジウムガリウムと、ヒ化ガリウムとを含むリストから選択された材料から形成されている、[1]から[4]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[8] 前記第1の領域は、前記第2の領域内に少なくとも部分的に埋め込まれている、[1]から[7]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[9] 前記第1の領域は層の一部を形成し、前記第2の領域は基板(122)の一部を形成し、ここにおいて前記層は前記基板上に構成されている、[1]から[7]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[10] 前記第1の領域は窒化ガリウムを備え、および/または第2の領域は酸化ベリリウムまたはダイアモンドなどの炭素を備える、[1]から[9]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[11] 前記第1の領域および前記第2の領域は、前記電子ビームと相互作用すると前記X線放射を発生する異なる能力を有する、[1]から[10]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[12] 前記第2の領域は、前記第1の領域のためのカバーとして働くように構成されている、[1]から[7]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[13] 前記X線ターゲットは、透過ターゲットまたは反射ターゲットである、[1]から[12]のいずれか一項に記載のX線ターゲット。
[14] X線源(1)であって、
[1]から[13]のいずれか一項に記載のX線ターゲット(100)と、
X線放射を発生するために前記X線ターゲットと相互作用する前記電子ビームを発生するように動作可能な電子源(200)と
を備える、X線源。
[15] X線焦点調整装置をさらに備える、[14]に記載のX線源。
[16] X線源(1)であって、
X線ターゲット(100)と、
9から12keVの範囲内のエネルギーを有するX線放射を発生するために前記X線ターゲットと相互作用する電子ビームを発生するように動作可能な電子源(200)と
を備え、前記X線ターゲットは、
3価元素を含むリストから選択された第1の元素(101)と、
前記第1の元素との化合物を形成する5価元素を含むリストから選択された第2の元素(102)と、
第1の材料および第2の材料から形成された前記化合物を含んだ第1の領域(110)と、
前記第1の領域を支持する第2の領域(120)と
を備え、前記第1の領域と第2の領域との間の熱伝導はフォノン熱伝導が支配的である、X線源。
[17] 前記第1の領域は、前記第2の領域上の層の形でもたらされるもの、および前記第2の領域内に少なくとも部分的に埋め込まれるもの、のうちの少なくとも1つである、[16]に記載のX線源。
[18] 3価元素のリストは、ホウ素と、ガリウムと、インジウムとを備える、[16]または[17]に記載のX線源。
[19] 5価元素のリストは、窒素と、ヒ素と、リンとを備える、[16]から[18]のいずれか一項に記載のX線源。
[20] 前記化合物は、窒化ガリウムと、ヒ化ホウ素と、ヒ化インジウムと、リン化ガリウムと、窒化インジウムガリウムと、ヒ化ガリウムとを含むリストから選択される、[16]から[19]のいずれか一項に記載のX線源。
[21] 前記第2の領域は、酸化ベリリウムまたはダイアモンドを備える、[16]から[20]のいずれか一項に記載のX線源。
[22] 前記第1の領域および前記第2の領域は端部によって分離され、前記X線源は、
前記端部の上を前記電子ビームを走査するための電子光学手段と、
前記電子ビームが前記端部の上を走査されるのに従って、前記電子ビームと前記第1の領域との間の相互作用、および前記電子ビームと前記第2の領域との間の相互作用を示す量の進展時間を測定するように適合されたセンサと、
前記センサおよび前記電子光学手段に動作可能に接続され、前記量の測定された進展時間および前記電子ビームの走査速度に基づいて、走査方向に沿って前記電子ビームの横方向の広がりを決定するように適合されたコントローラと
をさらに備える、[16]から[21]のいずれか一項に記載のX線源。
[23] 前記X線ターゲットを固定するように構成されたターゲット保持器さらに備える、[16]から[22]のいずれか一項に記載のX線源。
[24] 前記ターゲット保持器は、前記X線ターゲットから余分な熱を取り除くように構成された冷却剤の経路を備える、[23]に記載のX線源。
[25] 前記ターゲット保持器は、冷却剤から熱を取り除くように構成された熱交換器、冷却フランジ、ペルチェ素子、およびファンのうちの少なくとも1つをさらに備える、[24]に記載のX線源。
[26]
試料位置に方向付けられた単色X線ビームを形成するように構成されたX線光学系をさらに備える、[16]から[24]のいずれか一項に記載のX線源。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5a
図5b
図5c