【実施例】
【0019】
以下、本願発明を実施例等により説明するが、本願発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0020】
(実施例1:本願発明醤油の評価)
市販の生醤油と濃厚醤油を体積比6:4の割合で混合することにより、本願発明の醤油を得た。濃厚醤油としては、特許文献4の記載に従って得た醤油を用いた。当該醤油調味料と、市販の生醤油および特許文献4の醤油それぞれに関する成分分析を実施した。なお、それぞれの試験区の醤油は、水を添加するなどして全窒素濃度1.85%(w/v)となるよう調整した。分析法は、「しょうゆ試験法」(日本醤油研究所,1985)に従った。
測定結果を、全窒素1%(w/v)あたりに換算した結果を下記表に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
上記各種の醤油調味料について、いずれも全窒素量1.85%(w/v)となるように濃度を調整したうえで、官能評価を実施した。
【0023】
官能評価では、それぞれの味や香りの要素について、市販生醤油を対照(評点3)として、対照よりやや弱い場合には2点、非常に弱い場合には1点、やや強い場合には4点、非常に強い場合には5点として、それぞれ評点をつけた。評価は、十分な訓練を受けた社内パネラー15名によって実施し、全パネラーによる評点の平均を求めた。
結果を下記表に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
上記表にあるように、本願発明の醤油は、対照である生醤油と比べて冷涼感のある香り、酸味のある香りとも抑えられていた。また、全体的な香りの強さについては、原料である市販生醤油および濃厚醤油と比べても、本願発明醤油のほうが弱く感じられ、とくに香りを評価したときに先に立って感じられる香りが穏やかであるとの評価であり、全体的に香りはマイルドであった。
【0026】
また、味について検討すると、生醤油と比べて還元糖含有量の多い本願発明の醤油や濃厚醤油では甘みが強く感じられ、本願評価で最も評点が高かった。
さらに、全窒素濃度はいずれの試験区でも同じであるにもかかわらず、まろやかさやコクの評点に差がみられ、いずれも本願発明における評点が最も高くなっていた。本願発明の醤油において、旨みが余韻として持続的に感じられる、まろやかで繊細な味わいを有し、先に立つ味や香りが柔らかい、などの評価もあった。
【0027】
(実施例2:醤油の種別の検討)
本願発明の醤油は、原料として生醤油および濃厚醤油が配合されていることを特徴とする。しかるに、各種の濃厚醤油を用いたときに、好ましい成分値および官能評価が得られるかどうか検討を行った。
【0028】
濃厚醤油としては、(A)たまり醤油(全窒素濃度2.04%(w/v))、(B)再仕込醤油(全窒素濃度2.21%%(w/v))および(C)特許文献4に示される醤油(全窒素濃度2.06%(w/v))を使用した。生醤油と、前記(A)〜(C)の濃厚醤油、さらに対照として濃口醤油(全窒素濃度1.85%(w/v))をいずれも6:4の割合で混合することにより、4種の醤油調味料を調製した。
【0029】
得られた(A)〜(C)の4種の醤油調味料および対照品についての成分分析を実施した。なお、それぞれの試験区の醤油は、水を添加するなどして全窒素濃度1.85%(w/v)、食塩濃度16.4%(w/v)となるよう調整した。分析法は、「しょうゆ試験法」(日本醤油研究所,1985)に従った。
測定結果を、全窒素1%(w/v)あたりに換算した結果を下記表に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
上記表に示すように、今回調製した(A)〜(C)の醤油調味料は、全窒素1%(w/v)あたりのグルタミン酸ナトリウム含有量が0.70〜0.85%(w/v)であり、乳酸含有量が0.20〜0.45%(w/v)であり、かつ酢酸含有量が0.10%(w/v)以下の範囲内であるのに対し、対照醤油はいずれの成分の含有値においても範囲外となった。
【0032】
(官能評価)
上記4種の醤油について官能評価を実施した。評価では、それぞれの味や香りの要素について、対象である生醤油+濃口醤油を評点3とし、対照よりやや弱い場合には2点、非常に弱い場合には1点、やや強い場合には4点、非常に強い場合には5点として、それぞれ評点をつけた。評価は、十分な訓練を受けた社内パネラー13名によって実施し、全パネラーによる評点の平均を求めた。官能評価結果を下記表に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
上記表に示す通り、(A)、(B)、(C)いずれの場合であっても、生醤油と濃厚醤油を混合して用いると、コクや旨味、甘味が、対照と比べて大きく向上し、酸味は低減されていた。中でもコクは(B)と(C)、旨味は(A)と(C)、甘味は(C)で特に高い傾向がみられた。さらに、(C)については、まろやかさの評点が非常に高かった。
【0035】
香りについては、(B)および(C)では、醤油特有のムレた臭いが抑制されている一方で、醤油の好ましい香り(醤油香)については、対照と比べて高い評価であった。
【0036】
このように、生醤油と各種醤油が配合されている醤油調味料を比較した結果、塩分濃度や、旨味の強さの指標とされる全窒素濃度が同一である場合であっても、濃厚醤油を配合することによって醤油らしい味や香り、コク、旨味、甘味などが向上した。また、その一方で、酸味やムレた臭いが抑えられるなど、全体として好ましい香味を有する醤油を得られることが明らかになった。
【0037】
中でも、(B)再仕込み醤油や、(C)特許文献4に記載されている醤油を用いた場合にはその効果が著しいものとなった。最も好ましい評価となったのは(C)の配合によるものであり、ムレた臭いや酸味は大きく抑えられる一方で、コク、まろやかさ、旨味、甘味がきわめてよく向上しているなど、きわめてすぐれた食味を有する醤油調味料を得ることができた。
【0038】
(実施例3:醤油の配合比率の検討)
生醤油と濃厚醤油の配合比について検討した。具体的には、生醤油と特許文献4記載の醤油を重量比(D)100:0、(E)80:20、(F)65:35、(G)20:80、(H)0:100の配合比でそれぞれ混合し、その後、全窒素1.83%(w/v)、食塩濃度16.3%(w/v)となるよう調整した。各配合例の成分分析値は下記のようになった。
【0039】
【表5】
【0040】
上記(D)〜(H)の醤油調味液について、官能評価を実施した。各種の官能評価では、市販生醤油を対照(評点3)として、対照よりやや弱い場合には2点、非常に弱い場合には1点、やや強い場合には4点、非常に強い場合には5点として、それぞれ評点をつけた。
また、味の順位については、評価した(D)〜(H)の5つの醤油調味液について1位〜5位の順位をつけ、その数値を平均した。評価は、十分な訓練を受けた社内パネラー7名によって実施し、全パネラーにおける平均を求めた。結果を下記表に示す。
【0041】
【表6】
【0042】
上記表に示すように、濃厚醤油の比率が高くなるほど甘味やコク、まろやかさの評点は概ね高くなる傾向がみられた。一方旨味については、生醤油と濃厚醤油の両方を配合しており、かつ生醤油の比率が高い(E)(F)において、評点が高くなる傾向がみられた。また、味の総合順位でみると、(F)で最も数値が低い、すなわち順位が高く、味のバランスにすぐれ、嗜好性が高いことを示す結果となった。
【0043】
このように、生醤油と濃厚醤油を2:8〜8:2の比率で混合して得られた醤油は、甘味やコク、まろやかさと旨味を兼ね備え、一方で酸味が抑制され、ムレた臭いも比較的おだやかであるなど、すぐれた官能的特徴を有する醤油であることが明らかになった。中でも、生醤油と濃厚醤油の比率65:35付近の醤油が、とくに旨味やまろやかさ、コク、甘味と酸味や醤油感のバランスに優れ、その旨味が余韻として持続的に感じられるなど、総合的な味の官能評価における評点も高いものとなっていた。
【0044】
(実施例4:調理適性の検討)
本願発明の醤油の調理適性を調べるため、納豆、豚肉の生姜焼き、大根の煮物を調理し、それぞれの官能を比較した。試料醤油としては、本願醤油(実施例1で用いたものと同一)、市販生醤油および特許文献4の醤油単独を用いた。
【0045】
(1)納豆
市販の納豆(50g)に対し各種の試料醤油4.5mlを加え、よく混ぜた後に官能評価に供した。評点の付け方は実施例2に準じて行い、評価は十分な訓練を受けた社内パネラー12名によって行った。
結果を下記表に示す。
【0046】
【表7】
【0047】
上記表に示すように、本願発明の醤油は、納豆に混ぜて用いると、甘みやコク、まろやかさが強調され、味のバランスも好適に感じられるなど、きわめて良好であった。
【0048】
(2)豚肉の生姜焼き
原料として、各種の試料醤油(45%(w/v))、生姜汁(10%(w/v))、みりん(45%(w/v))を配合した生姜焼きのたれを得た。上記生姜焼きのたれ135mlと和えた豚肉300gをフライパンで焼くことで生姜焼きを調理し、官能評価に供した。評価は十分な訓練を受けた社内パネラー15名によって行った。
官能評価結果を下記表に示す。
【0049】
【表8】
【0050】
上記表に示すように、本願発明の醤油は、豚肉の生姜焼きの調理に用いると、生姜の香りや味の生姜感を強く増強するだけでなく、甘みやまろやかさ、コクが強調され、味のバランスも好適に感じられるなど、大変すぐれたものであった。
【0051】
(3)大根の煮物
原料として、各種の試料醤油(40%(w/v))、みりん(20%(w/v))、だし汁(30%(w/v))、砂糖10%(w/v)を配合した煮物のつゆを得た。大根140g、つゆ90ml、水270mlを加熱することで大根の煮物を調理し、官能評価に供した。評価は十分な訓練を受けた社内パネラー16名によって行った。
官能評価結果を下記表に示す。
【0052】
【表9】
【0053】
上記表に示すように、本願発明の醤油は、大根の煮物の調理に用いると、大根の臭みや苦みを軽減する一方でだしの香りや味が増強されていた。また、甘みや旨み、コクが強調され、味のバランスも好適に感じられた。さらに、大根のやわらかさ、味の染み込みも良好に感じられるなど、きわめてすぐれた官能評価となった。
【0054】
以上実施例に示す通り、生醤油と濃厚醤油が配合されて成り、全窒素1%(w/v)あたりのグルタミン酸ナトリウム含有量が0.70〜0.85%(w/v)であり、乳酸含有量が0.20〜0.45%(w/v)であり、かつ酢酸含有量が0.10%(w/v)以下である本願発明の醤油調味料は、醤油単独で評価すると、甘み、旨み、コクとも生醤油に比べて強く感じられるだけでなく、旨みが持続して感じられ、味のまろやかさやバランスの良さにおいても極めてすぐれていた。それだけでなく、本願発明の醤油は、納豆のような、加熱せずそのまま醤油と和えて食するような食品や、豚の生姜焼き・大根の煮物など醤油と共に加熱して調理に用いるような食品の調理に使用した場合でも、きわめてすぐれた香味を呈するものとなるなど、従来の生醤油や濃厚醤油と異なる、すぐれた官能調理適性を有する新規の醤油調味料であることが判明した。