【文献】
松本範裕,外,水稲新品種「ほほほの穂」について,石川県農業総合試験場研究報告,1994年,第18号,pp.1-10
【文献】
川本朋彦,外,水稲新品種「ゆめおばこ」の育成,秋田県農林水産技術センター農業試験場研究報告,2010年,第52号,pp.1-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記受託番号FERM BP- 22401で特定される稲種が、あきたこまちを原種とし、該原種の変異体の分離育種及び自家繁殖を経て得られることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の混合米。
【背景技術】
【0002】
世界の人口は2019年で約77億人と推計され、開発途上国を中心に年々増加しており、世界の約10%の人々が飢えに苦しんでいるとされる。2050年には約100億人に達するという見込みも発表されている中、食糧自給が世界的な問題となっている。
【0003】
食糧の中で穀類は大きな割合を占め、栽培が比較的容易なものが多く、保存性も高く、栄養学的にも欠かせない栄養素を含むものであるために重要な役割を担っている。中でも米(稲種 Oryza sativa)は、保存や調理が簡単で、味が淡白で飽きがこないものであるため、多くの国で主食となっている穀類である。米の収量を上げることは、世界の食糧問題を解決するために不可欠である。
【0004】
例えば、日本における米の主要品種のひとつである「あきたこまち」は、秋田県が開発し、東北地方を中心に長年全国で栽培されているうるち米(粳米)である。公益社団法人米穀安定供給確保支援機構による平成31年4月11日付公表「平成30年産 水稲の品種別作付動向について」によれば、あきたこまちの2018年の作付割合は6.8%であり、全国第4位であった。あきたこまちの食味はササニシキやコシヒカリに匹敵する程度に高く、強い粘りがある。しかし、非特許文献1の別表16によれば、日本国の稲種の中ではあきたこまちの耐倒伏性は「やや弱」と評価されている。稲が倒伏してしまうと収穫作業が困難となる他、収穫量や品質の低下を招くことが知られている。倒伏した穂が水田の水に浸かると籾が発芽し、収穫不可能となることもある。
【0005】
あきたこまちの玄米は、非特許文献1の別表9〜11によれば、他の日本のうるち米と同様の「中程度(9段階評価の5番目)」の大きさであると評価されている。あきたこまちにおいて収量を上げるためには、米粒を大きくする、粒数を多くする等の一株当たりの収量の改善が考えられるが、耐倒伏性の弱いあきたこまちにおいては株に更なる負荷をかけることは好ましくないという障壁がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。したがって、具体的な育種方法等は以下の説明から理解できる技術的思想の趣旨を参酌してより多様に判断すべきものである。
【0013】
又、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置及び物質、方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、装置及び物質の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、本発明の実施形態で記載された内容に限定されず、請求の範囲に記載された発明特定事項の有機的結合が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係る稲種は、比較品種であるあきたこまちの水田から発見され、変異体の分離育種、自家繁殖等を経て得られた水稲の稲種である。即ち、出穂期以降の株のうち、相対的に背が高く、白い芒(のぎ、のげ、又は、ぼう)を有し、粒数が多い変異株を少なくとも1株分離し、変異株から得られた次世代の種子を得る。本明細書においては、変異株から得られた種子及びその種子から育成された株を「F1世代」と定義し、F1世代の株から得られた種子及びその種子から育成された株を「F2世代」と定義する。F2世代以降は同様にして「F3世代」、「F4世代」・・・と順次定義する。又、本明細書においては、稲種の「種子」とは「種籾」のことを言い、特に断りがなければ籾付きの状態を指すものとする。一般的に「種籾」のことを単に「籾」とも称することから、本明細書においても「籾」と「種籾」は同じ意味として使用するものとする。更に、本明細書における稲種の「果実」とは、生物学上の「果実」である「受粉した雌しべの子房が発達した部分とその付属器官」という意味に則り、「種子」即ち「種籾」又は「籾」と同じ意味合いで用いることとする。
【0015】
F1世代では、比較品種のあきたこまちの育成と同様に自家繁殖で育成する。F1世代の株の芒はほとんどが赤い。次世代のF2世代においては、自家繁殖するか、又は、F2の株を母親株、あきたこまちの株を父親株として交配するか、いずれかの方法で育成する。F2世代では芒が赤いものが多いが、そのうち芒が白い株のみを選別し、次世代に用いる種子を得る。得られた種子でF3世代を育成し、F2世代と同様に芒が白い株のみを選別し、次世代に用いる種子を得る。得られた種子でF4世代を育成し、F2世代及びF3世代の場合と同様に芒が白い株のみを選別し、更にその中で、相対的に稈が太くて硬く、かつ、背が低いという形質が揃った株群を選別し、次世代に用いる種子を得る。F5世代以降においては、芒が白い又は芒が無い株を選別し、更にその中で、前世代と同様の稈の太さ及び硬さを有し、かつ、前世代と同様の背の高さを有する株群を選別し、次世代に用いる種子を得る。少なくともF6世代まで固定のために育成し、実施形態に係る稲種を得る。
【0016】
「芒」とは籾の先端にある針状の毛を指すが、比較品種のあきたこまちの株では、籾に芒はほとんど確認できない。籾に芒が確認されるのは野生種の穀物の株において多い傾向がある。栽培品種の中で稀に確認される芒を有する株は、栽培品種の望ましい形質を維持するのに悪影響を及ぼす可能性があるため、通常は発見し次第除去されるものである。F1世代の種子が得られる変異株の籾の芒の長さは1〜3cm程度であり、F2世代以降の株では次第に短くなり、F4世代以降では0.1〜0.5cm程度となる。又、F1世代の種子が得られる変異株において、ほとんどの籾に芒は確認されるが、F5世代以降においては、芒の無い株が大多数である。
【0017】
本明細書における稲種の「株」とは、一粒の種子から育成された一個体のことをいう。栽培方法にもよるが、稲種は数株をまとめて一つの「苗」として一箇所に植え付けすることが多い。よってその場合、田植えの最小単位としては「苗」となり、「苗」は数粒の種子から育成された「株」の集まりである。更に生育過程では「株」において、根元付近で「分げつ」が発生し、茎数が増加する。それぞれの茎から穂がなるかどうかは栄養条件等により左右され、一般的に、穂がなる茎は有効茎といい、穂がならない茎は無効茎という。
【0018】
本明細書における稲種の株の「背」とは、株の根元から最上部の先端までをいう。生育時期により、株の根元から最上部の先端までが鉛直方向に自然に略直立している場合もあるが、
図2に示すように、出穂期以降は先端部となる葉又は穂が自重で垂れている場合が多い。出穂期以降は先端部となる葉又は穂を持ち上げ、根元から先端部まで一直線になるようにして稲種の株の背の高さを測定する。例えば
図2においては、株1の穂2、止め葉11又は第五葉13を株の根元から鉛直方向に一直線になるようにして持ち上げ、最も高くなるもので株の背の高さを測定する。
【0019】
F1世代における育成方法については、通常の露地栽培を採用することができるが、ハウス栽培であってもよい。受粉方法については、風媒等の通常の自家受粉の方法を採用することができる。稲種はその構造上、自家受粉しやすい植物であるが、自然界においては一部他家受粉する。
【0020】
F2世代における育成方法については、自家受粉による自家繁殖の方法でもよいが、比較品種であるあきたこまちの株を父親株として交配してもよい。そのためには、自然な交配方法である露地栽培においてはF2世代の株と比較品種のあきたこまちの株とを近接して植え付けることが好ましい。例えば、F2世代の苗の列と比較品種のあきたこまちの苗の列とを25〜35cm程度離間して植え付ける方法である。F2世代とあきたこまちの開花期を揃えるため、F2世代を1週間程度早く植えることが好ましい。F2世代における交配方法については、父親株の花粉を母親株の雌しべに振りかける人工的な交配方法を採用してもよい。自家受粉及び他家受粉のいずれにおいても、F2世代で育成された株の内、籾の芒が白い株のみを選別し、F3世代の種子を得る。F3世代の育成方法についてはF1世代と同様に行い、芒が白い株のみを選別してF4世代の種子を得る。
【0021】
F4世代の育成方法については、F2世代及びF3世代と同様に行い、芒が白い株のみを選別し、更にその中で、相対的に稈が太くて硬く、かつ、背が低いという形質が揃った株群を選別し、次世代に用いる種子を得る。稲種の株の「稈」とは茎の内側にある中空構造体を指し、外側にある葉鞘を茎から除いて見えてくるものである。
図3(a)に示すように、第二葉19は、茎から離れている葉身31aと茎を包む葉鞘33aを有する。第二葉19を茎から除くと、
図3(b)に示すように、第三葉17の根元付近と節35、稈37が露出する。稈37は第三葉17の葉鞘33bの内側にも存在し、茎の内部を根元から先端部付近まで支える中心的な構造である。よって、稲種においては稈の太さは茎の太さにも直結し、稈が太くて硬いということは茎が太くて硬いということとほぼ同義である。
【0022】
F5世代以降の育成方法については、F4世代と同様に行う。F5世代以降においては、芒が白い又は芒が無い株を選別し、更にその中で、前世代と同様の稈の太さ及び硬さを有し、かつ、前世代と同様の背の高さを有する株群を選別し、次世代に用いる種子を得る。F6世代以降まで固定のために育成し、本発明の実施形態に係る稲種の種子及び株を得る。
【0023】
本発明の実施形態に係る稲種の果実から得られる精玄米は、比較品種のあきたこまちの果実から得られる精玄米よりも大粒の形質を有する。即ち、実施形態に係る稲種の果実から得られる精玄米(以下において「大粒玄米」という。)は、比較品種のあきたこまちの果実から得られる精玄米(以下において「比較玄米」という。)よりも、長く幅が広く、かつ、重いのである。本明細書における「玄米の長さ」は精玄米の長さを示し、UPOV条約における特性表の形質番号58に対応する形質評価項目であり、長さの程度により「短」「中」「長」とランク分けされる。又、本明細書における「玄米の幅」は精玄米の幅を示し、UPOV条約における特性表の形質番号59に対応する形質評価項目であり、幅の程度により「狭」「中」「広」とランク分けされる。本発明の実施形態に係る大粒玄米の粒は、長さ6.2〜6.8mm程度で「長」と評価でき、幅2.9〜3.3mm程度で「広」と評価できる。一方の比較玄米の粒は、長さ5.2〜5.8mm程度で「中」と評価でき、幅2.4〜2.8mm程度で「中」と評価できる。本明細書における「玄米の千粒重」は精玄米の千粒重を示し、日本国品種登録出願に関する稲種の特性表の形質番号58に対応する形質評価項目であり、重量の程度により「小」「中」「大」とランク分けされる。実施形態に係る稲種の収量を示す大粒玄米の千粒重は31〜34g程度であり「大」と評価でき、比較品種のあきたこまちの収量を示す比較玄米の千粒重は22〜25g程度であり「中」と評価できる。実施形態に係る大粒玄米を精米して精白米とし、この精白米を米袋等の包装容器に収納することにより、「玄米及び精米品質表示基準」に沿って「単一原料米」の表示をして販売できる。実施形態に係る「単一原料米」は、大粒の精白米であるため、同一容量の包装容器に含まれる精白米の数が、比較玄米から得られる精白米の数よりも少なくなる。
【0024】
実施形態に係る稲種においては、1株から2800〜3200粒程度の籾を果実として得ることができる。1株から1700〜1800粒程度の籾が果実として得られる比較品種のあきたこまちと粒数で比較すると、約1.5〜1.9倍の収量となる。
【0025】
本発明の実施形態に係る大粒玄米は、旨味に関係するアミノ酸、即ちアスパラギン酸及びグルタミン酸の含有量が、比較玄米よりも多い。実施形態に係る大粒玄米は、比較玄米と比較して、アスパラギン酸が1.3倍以上、グルタミン酸が1.1倍以上である。よって、実施形態に係る稲種からは、比較品種のあきたこまちよりも、旨味成分をより多く含む米を得ることができる。
【0026】
実施形態に係る稲種は、玄米の外観以外の形質についても、比較品種のあきたこまちとは明らかに異なる。実施形態に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して、同時期に植え付けした場合、出穂期が数日早く、成熟期は数日遅い。本明細書における「出穂期」とは、株の有効茎数の50%が出穂した日であり、観察により決定されるものであり、UPOV条約における特性表の形質番号19に対応する形質評価項目である。
図4(a)及び(b)に示すように、株の最先端部の止め葉11から幼穂23が出現することが「出穂」である。実施形態に係る稲種の出穂期は「かなり早」、比較品種のあきたこまちの出穂期は「早」と評価できる。又、本明細書における「成熟期」とは、正常な籾の大部分が黄化した日であり、観察により決定されるものであり、UPOV条約における特性表の形質番号44に対応する形質評価項目である。実施形態に係る稲種の成熟期は「やや早」、比較品種のあきたこまちの成熟期は「早」と評価できる。出穂期が早いということは、穂が出て開花し成熟に向かうまでのスピードが速いということであり、未成熟期における様々なトラブルを回避できる確率が高まる。成熟期が遅いということは、それだけ成熟に時間がかかるということであり、玄米のサイズが大きいということに関係した形質である。
【0027】
又、実施形態に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して稈が太い。本明細書における「稈の太さ」は、乳熟期における最下部位節間の稈の太さをいい、観察により「細」「中」「太」とランク分けされるものである。この「稈の太さ」は、UPOV条約における特性表の形質番号25に対応する形質評価項目でもある。実施形態に係る稲種は「太」と評価でき、比較品種のあきたこまちは「中」と評価できる。稈が太いということは、実施形態に係る稲種のように玄米のサイズが大きくなり穂により負荷がかかっても、倒伏により強くなるという利点がある。実際、実施形態に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して、穂は屈曲するが、耐倒伏性は大きく改善している。耐倒伏性は、日本国品種登録出願に関する稲種の特性表の形質番号71に対応する形質評価項目であり、観察により「弱」「中」「強」等にランク分けされる。実施形態に係る稲種は「強」と評価でき、比較品種のあきたこまちは「やや弱」と評価できる。
【0028】
実施形態に係る大粒玄米は、食味分析機器による食味値が比較玄米よりも高い。又、多すぎると食味に悪影響を及ぼすとされるタンパク質含量についても、比較玄米と比較して、実施形態に係る大粒玄米の方が低い。更に、多すぎると古米臭が発生しやすいとされる脂肪酸含量についても、比較玄米と比較して、実施形態に係る大粒玄米の方が低い。古米臭は食味の観点で悪影響を及ぼし、古米臭の発生する米は消費者には敬遠されがちである。
【0029】
実施形態に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して、耐寒性及び耐暑性を有する。あきたこまちは特に東北地方の寒冷地で栽培が盛んであり、耐寒性が問題となるが、実施形態に係る稲種は非常に栽培しやすい。実施形態に係る稲種の栽培については、比較品種であるあきたこまちと同様の栽培方法でもよいし、それ以外の方法であってもよい。あきたこまちと同様の栽培方法においては、まず、種籾に対して選種・消毒を行い、浸種し発芽させる。次に、発芽した種子を播種し、ビニールハウスで育苗する。葉齢3.0〜3.5の時に田植えし、同時に施肥・除草剤散布を行う。その後の育成中は都度除草や農薬散布を施し、成熟したら稲刈りをして収穫をする。翌年度の育成のためには、当年度で得られた籾を乾燥させ、芒取り等の処置を行い、種籾として保管する。このあきたこまちと同様の栽培方法については、肥料や農薬等の詳細については品種や育成環境等に適するものを選択する必要があれど、概要については水稲の通常の栽培方法と何ら変わるところがない。
【0030】
実施形態に係る稲種の種子(種籾)から育成した株及びその株から得られた種子についても、「実施形態に係る稲種」と同様の形質、特性、効果等を有する株及び種子である。即ち、実施形態に係る稲種の自家繁殖による後代系統も、当然に、実施形態に係る稲種であると言い換えることが可能である。実施形態に係る稲種においては、少なくともF6世代まで固定のために十分に育成された稲種であるため、F6世代以降であれば、自家受粉により得られる後代系統については、実施形態に係る稲種と同様の形質、特性、効果等を有する。
【0031】
実施形態に係る稲種の一例として、例えば、受託番号FERM BP- 22401で寄託された稲種又はその後代系統を挙げることができる。受託番号FERM BP- 22401で寄託された稲種は、後述する実施例1に係る稲種と同品種の稲種である。当該稲種の寄託情報は次の通りである。
受託番号:FERM BP- 22401
識別の表示:ZS-001
寄託の種類:国際寄託
寄託機関の名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
寄託機関のあて名:〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室
寄託日(原寄託日):2020年11月11日
【0032】
実施形態に係る大粒玄米は、大粒玄米である「第1の精玄米」を精米して「第1の精白米」とし、比較玄米である「第2の精玄米」を精米して「第2の精白米」として、一定の割合で混合させた「混合米」として炊飯すると、白米の食味の官能評価においてより好評価となる。したがって、第1の精白米と第2の精白米を、粒数比で1:9〜9:1の範囲内の所望の比率で混合し、米袋等の包装容器に収納することにより、「玄米及び精米品質表示基準」に沿って「複数原料米」又は「ブレンド米」の表示をして販売できる。1:9〜9:1の範囲内の粒数比は、消費者の希望で任意に選択できる。包装容器には、コットンパック、クラフトパック、ラミネートパック、ポリパック等の袋素材が使用可能である。第1の精白米と第2の精白米との混合米からなる複数原料米又はブレンド米は、消費者に、食味の良好な混合米を提供できる。特に、第2の精白米として「あきたこまち」を採用した場合、食味や食感、外観等の総合的な観点から、第1の精白米と第2の精白米の粒数比は、8:2〜6:4がより好ましい。更に好ましくは7:3程度である。第1の精白米と第2の精白米の混合米は、大粒の第1の精白米を含むため、同一容量の包装容器に含まれる精白米の総数が、第2の精白米が100%の場合よりも少なくなる。なお、あきたこまちとは異なる他品種の精白米を「他の第2の精白米」として採用し、第1の精白米と他の第2の精白米を1:9〜9:1の範囲内の所望の粒数比で混合し、複数原料米(ブレンド米)の表示をして販売してもよい。第1の精白米と他の第2の精白米との混合米であっても、消費者の希望に沿った良好な食味を味わうことができる。
【0033】
実施形態に係る稲種は、種子が大粒で多収であるため、精玄米及び精白米を飼料米や加工米としても採用できる。実施形態に係る稲種の籾収量は780〜850kg/10aであり、計算で求めた玄米収量(籾収量の8割)は624〜680kg/10aである。実施形態に係る稲種の玄米収量は、比較品種のあきたこまちの玄米収量約600kg/10aと比較して、大変多収である。又、実施形態に係る大粒玄米は、中央部の心白を出すために精米しやすい大きさあり、かつ、タンパク質含量が比較品種のあきたこまちよりも少ないため、酒米としても好適である。
【0034】
実施形態に係る大粒玄米は、精米して精白米とすると、比較品種のあきたこまちの精白米よりも芳醇な甘い匂いを強く放つ。
【0035】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
【0036】
実施例1に係る稲種は、秋田県北部の田圃において、実施形態に係る稲種と同様の方法で得た。比較品種であるあきたこまちの水田において、出穂期以降の株のうち、相対的に背が高く、白い芒を有し、粒数が多い変異株を選別・分離し、得られた種子をF1世代とした。F1世代では、比較品種のあきたこまちの育成と同様に自家繁殖で育成した。F1世代の株の芒はほとんどが赤かった。次世代のF2世代においては、F2世代の苗の列と比較品種のあきたこまちの苗の列とを25〜35cm程度離間して植え付けて、双方の開花期が揃うように田植え時期等を調整して育成した。F2世代では芒が赤いものが多かったが、そのうち芒が白い株のみを選別し、F3世代の種子を得た。得られた種子でF3世代を育成し、F2世代と同様に芒が白い株のみを選別し、F4世代の種子を得た。得られた種子でF4世代を育成し、F2世代及びF3世代の場合と同様に芒が白い株のみを選別し、更にその中で、相対的に稈が太くて硬く、かつ、背が低いという形質が揃った株群を選別し、F5世代の種子を得た。F5世代においては、芒が白い又は芒が無い株を選別し、更にその中で、F4世代と同様の稈の太さ及び硬さを有し、かつ、F4世代と同様の背の高さを有する株群を選別し、F6世代の種子を得た。F6世代の株においては、芒のある籾自体が少なくなり、芒のある株の中で白色の芒の割合が90%以上となった。また、F6世代の株においては、稈が太くて硬く、かつ、背が低いという形質を有する株が大多数となった。F6世代の株からF7世代の種子を得て、F6以前と同様に自家受粉により育成し、F8世代の種子を得た。得られたF8世代の種子を育成し、実施例1に係る稲種を得た。各世代の種子からの育成方法は、上述した中で特に注記が無い限り、通常の水稲の栽培方法(あきたこまちの栽培方法)と同様であった。実施例1に係る稲種の株(F8世代)及びその株から得られた種子(F9世代)について、次の通り、各種観察及び分析を行った。
【0037】
実施例1に係る大粒玄米と比較玄米(あきたこまち)について、アミノ酸含量の分析を行った。実施例1に係る大粒玄米では、旨味に関係するアミノ酸の含有量が、比較玄米よりも多かった。即ち、
図5に示すように、旨味成分とされるアスパラギン酸については、実施例1に係る大粒玄米では100g中770mgであり、比較玄米では100g中590mgであった。同じく旨味成分とされるグルタミン酸については、実施例1に係る大粒玄米では100g中1210mgであり、比較玄米では100g中1030mgであった。その他のアミノ酸含量の比較結果については、
図5の表に記載の通りである。
【0038】
図1の写真及び
図6の表に記載の通り、実施例1に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して、玄米が大粒の形質であった。
図1においては、実施例1に係る大粒玄米は下方の2粒、比較玄米は上方の2粒である。実施例1に係る大粒玄米の粒は、長さ6.5mm程度で「長」、幅3.1mm程度で「広」であった。一方の比較玄米の粒は、長さ5.5mm程度で「中」、幅2.6mm程度で「中」であった。又、実施例1に係る大粒玄米の千粒重は32.2g程度で「大」、比較玄米の千粒重は23.3g程度で「中」であった。尚、実施例1に係る大粒玄米はF9世代の種子であるが、F7世代以降の種子において、共通して大粒の形質を有していた(玄米千粒重:31〜34g)。
【0039】
図6の表に記載の通り、実施例1に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して、同時期に植え付けした場合に出穂期が2日早く、成熟期は2日遅かった。実施例1に係る稲種の出穂期は「かなり早」、成熟期は「やや早」であり、比較品種のあきたこまちの出穂期と成熟期は共に「早」であった。尚、実施例1に係る稲種の株はF8世代であるが、F6世代以降の株において、共通して、出穂期は「かなり早」、成熟期は「やや早」であった。
【0040】
又、実施例1に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して稈が太い。実施例1に係る稲種の稈は「太」であり、比較品種のあきたこまちの稈は「中」であった。実際
図6に示すように、実施例1に係る稲種は穂が屈曲するが、耐倒伏性は「強」と評価でき、比較品種のあきたこまちの「やや弱」から大きく改善した。尚、実施例1に係る稲種の株はF8世代であるが、F6世代以降の株において、共通して稈が太く、穂が屈曲するが、耐倒伏性は「強」であった。
【0041】
実施例1に係る大粒玄米と比較玄米について、成分含量と食味値の分析を行った。
図7に示すように、食味分析機器として、株式会社サタケ製の米粒食味計(「食味計」は株式会社サタケの登録商標)、静岡製機株式会社製の食味分析計及び株式会社ケツト科学研究所製の成分分析計を用いて測定したところ、3種類の食味分析機器のいずれにおいても、比較玄米と比較して、実施例1に係る大粒玄米の方が食味値が高い結果となった。又、多すぎると食味に悪影響を及ぼすとされるタンパク質含量についても、比較玄米と比較して、実施例1に係る大粒玄米の方が低い結果となった。更に、多すぎると古米臭が発生しやすいとされる脂肪酸含量についても、脂肪酸度を測定可能な2種類の食味分析機器のいずれにおいても、比較玄米と比較して、実施例1に係る大粒玄米の方が低い結果となった。
[実施例2]
【0042】
実施例2に係る稲種は、秋田県北西部(大潟村)の試験田にて、実施例1に係る稲種の株(F8世代)から得られた種子を「F9世代」として生育して得られた。F9世代の種子からの実施例2に係る稲種に係る育成方法は、通常の水稲の栽培方法(あきたこまちの栽培方法)と同様であった。実施例2に係る稲種の株(F9世代)及びその株から得られた種子(F10世代)について、次の通り、各種観察等を行った。
【0043】
実施例2に係る種子(F10世代)は、実施例1に係る稲種の場合と同様に、比較品種のあきたこまちと比較して、玄米が大粒の形質であった。実施例2に係る大粒玄米の粒は、長さ6.3mm程度で「長」、幅3.0mm程度で「広」であった。又、実施例2に係る大粒玄米の千粒重は33.0g程度で「大」であった。
【0044】
実施例2に係る稲種は、実施例1に係る稲種と同様に、比較品種のあきたこまちと比較して、同時期に植え付けした場合に出穂期が2日早く、成熟期は2日遅かった。実施例2に係る稲種の出穂期は、実施例1に係る稲種と同様に、「かなり早」、成熟期は「やや早」であった。
【0045】
又、実施例2に係る稲種は、実施例1に係る稲種と同様に、比較品種のあきたこまちと比較して稈が太く、稈は「太」と評価できた。実施例1に係る稲種と同様に、実施例2に係る稲種は穂が屈曲するが、耐倒伏性は「強」であった。
【0046】
実施例2に係る稲種の種子(F10世代)の籾収量は、828.75kg/10aであった。通常籾から籾ずりして玄米にすると、重量は80%程度となるため、実施例2に係る玄米千粒重は663kg/10aと計算できる。比較品種のあきたこまちの収量は、平成25年の定点収量によれば(農業技術情報 No.7, 監修:仙北地域振興局農林部農業振興普及課, 平成25年12月発行)、玄米重591kg/10aである等、通常600kg/10a弱であると言える。実施例2に係る稲種は、比較品種のあきたこまちと比較して明らかに多収であると判断した。尚、実施例2に係る稲種の株はF9世代であるが、F6世代以降の株において共通して、比較品種のあきたこまちと比較して多収であった。
[実施例3]
【0047】
実施例3に係る稲種は、秋田県南部(湯沢市)の試験田にて、実施例1に係る稲種の株(F8世代)から得られた種子を「F9世代」として生育して得られた。F9世代の種子からの実施例3に係る稲種に係る育成方法は、通常の水稲の栽培方法(あきたこまちの栽培方法)と同様であった。実施例3に係る稲種の株から得られた種子(F10世代)について、籾収量は783.9kg/10aであった。実施例2に係る稲種と同様に計算すると、実施例3に係る玄米千粒重は627.12kg/10aと計算できる。実施例3に係る稲種は、実施例2に係る稲種と同様に、比較品種のあきたこまちと比較して明らかに多収であった。
[実施例4]
【0048】
実施例4に係る稲種は、岩手県二戸市の試験田にて、実施例1に係る稲種の株(F8世代)から得られた種子を「F9世代」として生育して得られた。F9世代の種子からの実施例4に係る稲種に係る育成方法は、通常の水稲の栽培方法(あきたこまちの栽培方法)と同様であった。実施例4に係る稲種の株から得られた種子(F10世代)について、収量は848.25kg/10aであった。実施例2に係る稲種と同様に計算すると、実施例4に係る玄米千粒重は678.6kg/10aと計算できる。実施例4に係る稲種は、実施例2に係る稲種と同様に、比較品種のあきたこまちと比較して明らかに多収であった。
【0049】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は上記の実施形態及び実施例等によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0050】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論で
ある。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当と解釈しうる、特許請求の
範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【解決手段】稲種は、受託番号FERM BP- 22401で特定される稲種またはその後代系統であることを特徴とする稲種である。混合米は、受託番号FERM BP- 22401で特定される稲種またはその後代系統である稲種から得られる第1の精玄米を精米して得た第1の精白米と、第1の精白米の数に対し所望の比率で混合された、第1の精白米とは異なる品種の稲種から得られる第2の精玄米を精米して得た第2の精白米と、第1の精白米と第2の精白米を収納する包装容器とを備える。