特許第6973911号(P6973911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973911送受共用平面アンテナ素子および送受共用平面アレーアンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973911
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】送受共用平面アンテナ素子および送受共用平面アレーアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/08 20060101AFI20211118BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20211118BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20211118BHJP
   H01Q 3/44 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   H01Q13/08
   H01Q21/06
   H01Q21/24
   H01Q3/44
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-129614(P2017-129614)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-12970(P2019-12970A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】須賀 智文
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 裕三
(72)【発明者】
【氏名】夏原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】野呂 崇徳
(72)【発明者】
【氏名】石田 克義
(72)【発明者】
【氏名】大川 貴容美
【審査官】 赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−343300(JP,A)
【文献】 特開平09−162638(JP,A)
【文献】 特開2010−206683(JP,A)
【文献】 特開2004−172928(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0239567(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
H01Q 21/06
H01Q 21/24
H01Q 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子および前記2つの給電素子それぞれの上にスロット板が積層された送受共用平面アンテナ素子であって、
前記スロット板のうち上層にあるスロット板の上に、少なくとも1枚の無給電素子を積層した、
ことを特徴とする送受共用平面アンテナ素子。
【請求項2】
前記上層のスロット板と前記無給電素子との間に、前記無給電素子の高さ位置を調整する誘電体を積層した、
ことを特徴とする請求項1に記載の送受共用平面アンテナ素子。
【請求項3】
前記無給電素子は、絶縁性基板に設けられた導電箔の無給電パッチからなり、前記2つの給電素子のうち少なくとも一方の給電素子の励振方向に沿って延びている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の送受共用平面アンテナ素子。
【請求項4】
互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子と、前記2つの給電素子それぞれの上に積層されたスロット板と、前記スロット板のうち上層にあるスロット板の上に積層された少なくとも1枚の無給電素子と、を備える送受共用平面アンテナ素子を、互いに直交するX軸およびY軸に沿ってマトリクス状に配設し、
前記2つの偏波信号のうちいずれか一方の偏波信号の波長をλ、前記送受共用平面アンテナ素子の素子指向性においてヌルが発生する観測角度であって前記X軸および前記Y軸に直交するZ軸に対する観測角度をθ、前記送受共用平面アンテナ素子の前記X軸および前記Y軸における配設間隔をdとしたとき、d=λ/sinθ に基づいて前記配設間隔dを求める
ことを特徴とする送受共用平面アレーアンテナ。
【請求項5】
前記偏波信号を送受信する観測面の方向である観測面角度をX軸に対するφとしたとき、φ=45°および135°である
ことを特徴とする請求項に記載の送受共用平面アレーアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信可能な送受共用平面アンテナ素子および送受共用平面アレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波帯の衛星通信では、受信チャンネルごとに垂直偏波、水平偏波の切り替えが必要となるため、1つのアンテナで直交する2つの偏波(垂直偏波、水平偏波)に対応可能な送受共用平面アレーアンテナが用いられている。図8に平面図を示すように、従来の送受共用平面アレーアンテナ10は、矩形板状のアンテナ本体101の平面上に、互いに直交するX軸及びY軸に沿って、マトリクス状に多数の送受共用平面アンテナ素子102が配列されている。
【0003】
図9は、1つの送受共用平面アンテナ素子102について、X軸およびY軸に直交するZ軸(図8の紙面奥行方向)における積層構造を示す分解斜視図である。送受共用平面アンテナ素子102は、下層から順に、グランド板103、誘電体104、下層給電素子105、誘電体106、下層スロット板107、誘電体108、上層給電素子109、誘電体110および上層スロット板111が積層されている。
【0004】
下層給電素子105は、絶縁性を有する下層給電基板105aの略中央に、導電箔からなる矩形の下層給電パッチ105bが配設され、この下層給電パッチ105bに給電を行う下層給電線路105cがY軸と平行に配設されている。各下層給電線路105cは、下層給電基板105a上で共通の給電幹線(図示せず)に接続されている。また、上層給電素子109は、絶縁性を有する下層給電基板109aの略中央に、導電箔からなる矩形の上層給電パッチ109bが配設され、この上層給電パッチ109bに給電を行う上層給電線路109cがX軸と平行に配設されている。各上層給電線路109cは、上層給電基板109a上で共通の給電幹線(図示せず)に接続されている。
【0005】
この送受共用平面アレーアンテナ10では、下層給電素子105は、下層給電パッチ105bにY軸に沿った下層給電線路105cが接続されているので、偏波面がY軸と平行で紙面に垂直な面となる偏波信号を送信または受信する。したがって、下層給電素子105の励振方向は、Y軸方向となる。同様に、上層給電素子109は、上層給電パッチ109bにX軸に沿った上層給電線路109cが接続されているので、偏波面がX軸と平行で紙面に垂直な面となる電波を送信または受信する。したがって、上層給電素子109の励振方向は、X軸方向となる。
【0006】
給電パッチのサイズは、送受信する偏波信号の周波数帯域に応じて決まり、周波数帯域が低いほど給電パッチのサイズは大きくなる。そのため、送信される偏波信号と受信される偏波信号との周波数帯域が大きく離れている場合、例えば上述した送受共用平面アレーアンテナ10では、下層給電パッチ105bと上層給電パッチ109bのサイズに差が生じてしまい、サイズの大きな給電パッチに合わせて送受共用平面アンテナ素子102の配置間隔d1が決まってしまう。したがって、サイズの小さな給電パッチでは、その励振方向における配置間隔d1が偏波信号の波長(λ)に対して必要以上に大きくなってしまい、以下のような問題(1)、(2)が発生する。
【0007】
問題(1)は、グレーティングローブにエネルギーが奪われて正面利得が低下する、というものである。また、問題(2)は、励振方向における給電パッチの配置間隔が1λ以上となった場合にグレーティングローブが発生し、サイドローブレベルの悪化により平面アレーアンテナとしての指向性規格を満たさなくなってしまう、というものである。
【0008】
例えば、送受共用平面アレーアンテナ10において、上層給電素子109が30GHzの偏波信号を送信する送信アンテナで、下層給電素子105が20GHzの偏波信号を受信する受信アンテナである場合、送信される偏波信号と受信される偏波信号との周波数帯域が大きく離れているため、上層給電素子109の配置間隔は、サイズの大きな下層給電素子105の配置間隔に影響されてしまい、その励振方向であるX軸方向において1λを超えてしまうことがある。この場合、送信電波にグレーティングローブが発生し、正面利得が低下してしまう。
【0009】
従来、問題(1)に対しては、各送受共用平面アンテナ素子に対して金属製のフレア(ホーン)を設けることにより、グレーティングローブのレベルを低減する手法が取られていた(例えば、特許文献1参照)。また、各送受共用平面アンテナ素子の上に、円柱状の誘電体を装荷することにより、素子のビーム幅を狭くしてグレーティングローブを低減する手法も従来知られている(例えば、非特許文献2参照)。また、問題(2)に対しては、図10に示すように、マトリクス状に配設した複数の送受共用平面アンテナ素子102の各行を水平方向にずらして千鳥状に配設し、隣接する3つの送受共用平面アンテナ素子102の間隔d3を同一距離にすることにより、観測面確度φが変化した場合でもグレーティングローブが発生しないようにしていた(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「ブリッジ付き開口を用いた偏波共用平面アンテナ」、2001年電子情報通信学会総合大会予稿集、B−1−175
【非特許文献2】「21GHz帯における導波管並列給電方式誘電体装荷円偏波平面アンテナ」、1998年、電子情報通信学会通信ソサイエティ大会予稿集、B1−1−46
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−175680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1の技術では、給電パッチと給電線路とが同じ給電基板上に設けられている場合(共平面給電ともいう)、給電パッチ間の隙間が狭くなり、給電線路の引き回しが困難になるという問題があった。また、特許文献1および非特許文献2の技術では、どちらも送受共用平面アレーアンテナが大幅に厚くなり、重量も増加してしまうという問題があった。
【0013】
そこで本発明は、給電線路の引き回しに影響がなく、かつ、厚みや重量を増加させずに正面利得が向上し、かつグレーティングローブの低減が可能な送受共用平面アンテナ素子および送受共用平面アレーアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子および前記2つの給電素子それぞれの上にスロット板が積層された送受共用平面アンテナ素子であって、前記スロット板のうち上層にあるスロット板の上に、少なくとも1枚の無給電素子を積層した、ことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の送受共用平面アンテナ素子であって、前記上層のスロット板と前記無給電素子との間に、前記無給電素子の高さ位置を調整する誘電体を積層した、ことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の送受共用平面アンテナ素子であって、前記無給電素子は、絶縁性基板に設けられた導電箔の無給電パッチからなり、前記2つの給電素子のうち少なくとも一方の給電素子の励振方向に沿って延びている、ことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子と、前記2つの給電素子それぞれの上に積層されたスロット板と、前記スロット板のうち上層にあるスロット板の上に積層された少なくとも1枚の無給電素子と、を備える送受共用平面アンテナ素子を、互いに直交するX軸およびY軸に沿ってマトリクス状に配設し、前記2つの偏波信号のうちいずれか一方の偏波信号の波長をλ、前記送受共用平面アンテナ素子の素子指向性においてヌルが発生する観測角度であって前記X軸および前記Y軸に直交するZ軸に対する観測角度をθ、前記送受共用平面アンテナ素子の前記X軸および前記Y軸における配設間隔をdとしたとき、d=λ/sinθに基づいて前記配設間隔dを求める、ことを特徴とする送受共用平面アレーアンテナである。
【0019】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の送受共用平面アレーアンテナであって、前記偏波信号を送受信する観測面の方向である観測面角度をX軸に対するφとしたとき、φ=45°および135°である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の送受共用平面アンテナ素子によれば、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子それぞれの上に積層されたスロット板のうち上層にあるスロット板の上に、少なくとも1枚の無給電素子を積層したので、ビームが絞られて送受共用平面アンテナ素子の正面利得が向上し、上述した問題(1)が解消可能となる。また、平面アンテナ素子に用いられる無給電素子は、一般的にフレキシブル基板などの絶縁性基板に導電箔などからなるパッチを設けた薄型、軽量なものであるため、特許文献1および非特許文献2に記載の技術のように、厚みおよび重量が増加することがない。
【0021】
請求項2に記載の送受共用平面アンテナ素子によれば、上層のスロット板と無給電素子との間に、無給電素子の高さ位置を調節する誘電体を積層したので、偏波信号の波長に応じて最適な高さ位置に無給電素子を配置することができる。すなわち、2つの給電素子のうち、少なくともいずれか一方の給電素子の正面利得に影響する高さ位置、あるいは両方の正面利得に影響する高さ位置など、無給電素子の高さ位置を調節することによって、2つの給電素子の正面利得に対して同時にあるいは選択的に改善を施すことが可能となる。
【0022】
請求項3に記載の送受共用平面アンテナ素子によれば、無給電素子が絶縁性基板に設けられた導電箔の無給電パッチによって構成されている場合に、2つの給電素子のうち少なくとも一方の給電素子の励振方向に沿って延びるように無給電パッチを設けたので、2つの給電素子の正面利得に対して選択的に改善を施すことが可能となる。
【0023】
請求項4に記載の送受共用平面アレーアンテナによれば、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子と、2つの給電素子それぞれの上に積層されたスロット板と、スロット板のうち上層にあるスロット板の上に積層された少なくとも1枚の無給電素子とを備える送受共用平面アンテナ素子を、互いに直交するX軸およびY軸に沿ってマトリクス状に配設し、2つの偏波信号のうちいずれか一方の偏波信号の波長をλ、送受共用平面アンテナ素子の素子指向性においてヌルが発生する観測角度であってX軸およびY軸に直交するZ軸に対する観測角度をθ、送受共用平面アンテナ素子のX軸およびY軸における配設間隔をdとしたとき、d=λ/sinθ に基づいて配設間隔dを求めるので、グレーティングローブの発生を低減することが可能となる。したがって、上述した問題(1)を解消することが可能である。本発明におけるヌルとは、送受共用平面アンテナ素子の素子指向性において発生するグレーティングローブの近傍で、グレーティングローブよりも利得の低下が生じている部分を指す。したがって、このヌルが発生している観測角度にアレーアンテナのグレーティングローブが発生するようにアンテナ素子を配設することにより、グレーティングローブが発生したとしても、その発生レベルを下げることが可能となる。そして、このような手法を利用して送受共用平面アンテナ素子の配設間隔を設定することにより、配設間隔が極端に狭くなることがないので、給電線路の引き回しが困難になることもない。
【0025】
請求項に記載の送受共用平面アレーアンテナによれば、偏波信号を送受信する観測面の方向である観測面角度をX軸に対するφとしたとき、φ=45°および135°であるので、指向性規格を満足することが可能となる。したがって、上述した問題(2)を解消することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の実施の形態に係る(A)送受共用平面アレーアンテナの概略構成図、および(B)観測方向の角度を示す説明図である。
図2図1の送受共用平面アンテナ素子の積層構造を示す分解斜視図である。
図3図2の送受共用平面アンテナ素子の(A)φ=135°面、(B)φ=45°面、(C)φ=0°面の素子指向特性を示すグラフである。
図4図3の素子指向特性に基づいて素子間隔を求める手順を示す説明図である。
図5図1の送受共用平面アレーアンテナの(A)φ=0°面、(B)φ=45°面、(C)φ=90°面のアレー指向性を示すグラフである。
図6】無給電素子を有しない送受共用平面アレーアンテナのφ=0°面のアレー指向性を示すグラフである。
図7】無給電素子の有無による送受共用平面アレーアンテナの特性差を現す表である。
図8】従来の送受共用平面アレーアンテナの概略構成図である。
図9図8の送受共用平面アンテナ素子の積層構造を示す分解斜視図である。
図10】従来の送受共用平面アンテナ素子を三角配列した例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0028】
図1図7は、この発明の実施の形態を示し、図1(A)は、この実施の形態に係る送受共用平面アレーアンテナ(以下、アレーアンテナという)1を示す平面図である。アレーアンテナ1は、マイクロ波帯の衛星通信において、互いに直交する2つの偏波信号(水平偏波および垂直偏波)を送受信するアレーアンテナであり、矩形板状のアンテナ本体11の平面上に、互いに直交するX軸及びY軸に沿って、マトリクス状に多数の送受共用平面アンテナ素子(以下、アンテナ素子という)2が配列されている。各アンテナ素子2は、X軸およびY軸において間隔dで配設されている。
【0029】
このアレーアンテナ1は、偏波信号を送受信する観測面の方向(観測面角度)をX軸に対するφとしたとき、30GHzの偏波信号を送信する送信偏波面がφ=45°、20GHzの偏波信号を受信する受信偏波面がφ=135°となっている。したがって、送信偏波面におけるアンテナ素子2の実質的な配設間隔は、d/√2となり、X軸およびY軸方向の配設間隔dよりも短くなる。
【0030】
図1(B)は、上述したX軸およびY軸と、これらに直交するZ軸(図1(A)の紙面奥行方向)における衛星の観測方向を示しており、この観測方向をX軸およびY軸からなる平面上に投影した投影線VとX軸とがなす角度が観測面角度φとなり、観測方向とZ軸とがなす角度が観測角度θとなる。
【0031】
図2は、1つのアンテナ素子2について、Z軸における積層構造を示す分解斜視図である。アンテナ素子2は、下層から順に、グランド板21、誘電体22、下層給電素子23、誘電体24、下層スロット板25、誘電体26、上層給電素子27、誘電体28および上層スロット板29、誘電体30、下層無給電素子31、誘電体32、上層無給電素子33が積層されている。
【0032】
グランド板21、下層スロット板25および上層スロット板29は、シールド用の遮蔽板であり、それぞれ導電性を有する薄板、例えばアルミニウム板で構成されている。誘電体22、24、26、28、30および32は、それぞれ、例えば発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレン等の発泡シートで構成されている。
【0033】
下層給電素子23および上層給電素子27は、本発明における2つの給電素子である。下層給電素子23は、偏波信号を受信するための素子であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層給電基板23aと、その略中央に設けられた矩形の下層給電パッチ23bと、この下層給電パッチ23bに給電を行う下層給電線路23cとを備えている。下層給電パッチ23bおよび下層給電線路23cは、例えば銅、アルミニウム、金等の導電箔によって形成されている。また、下層給電線路23cは、φ=135°の受信偏波面に沿って配設されており、詳しくは図示しないが、下層給電基板23a上で共通の給電幹線に接続されている。
【0034】
上層給電素子27は、偏波信号を送信するための素子であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層給電基板27aと、その略中央に設けられた矩形の上層給電パッチ27bと、この上層給電パッチ27bに給電を行う上層給電線路27cとを備えている。上層給電パッチ27bおよび上層給電線路27cは、下層給電パッチ23bなどと同様の導電箔によって形成されている。また、上層給電線路27cは、φ=45°の送信偏波面に沿って配設されており、詳しくは図示しないが、上層給電基板27a上で共通の給電幹線に接続されている。
【0035】
下層給電素子23は、上層給電素子27よりも低い周波数帯域の偏波信号を受信することから、下層給電パッチ23bのサイズは、上層給電パッチ27bよりも大きくされている。また、このアレーアンテナ1では、下層給電素子23は、受信偏波面と平行で紙面に垂直な面となる偏波信号を受信する。したがって、下層給電素子23の励振方向もこの受信偏波面の方向となる。同様に、上層給電素子27は、送信偏波面と平行で紙面に垂直な面となる偏波信号を送信する。したがって、上層給電素子27の励振方向もこの送信偏波面の方向となる。
【0036】
下層スロット板25および上層スロット板29には、下層給電パッチ23bおよび上層給電パッチ27bに対応する位置(対面する位置)に、矩形のスロット開口25aおよび29aが設けられている。また、下層スロット板25のスロット開口25には、対角線方向を横切るブリッジ部25bが設けられている。ブリッジ部25bは、上層給電パッチ27bの励振方向と平行に設けられているので、上層給電パッチ27bの給電時には、励振に対し強い影響を及ぼして、指向性などのアンテナ特性を改善する。また、下層給電パッチ23bの励振方向と直交し、しかもその幅は下層給電パッチ23bに比べて十分狭いので、その影響は殆どなく、他のアンテナ特性を劣化させることはない。
【0037】
下層無給電素子31は、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層絶縁基板31aと、その略中央に設けられた矩形の下層無給電パッチ31bとを備えている。この下層無給電素子31は、その下層に積層された誘電体30によって、送信用の上層給電素子27の指向性に影響を及ぼす高さ位置に設置されており、上層給電素子27のビーム幅を狭くして正面利得を向上させる。
【0038】
上層無給電素子33は、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層絶縁基板33aと、その略中央に設けられた略菱形形状の上層無給電パッチ33bとを備えている。この上層無給電素子33は、その下層に積層された誘電体32と、によって、受信用の下層給電素子23に影響を及ぼす高さ位置に設置されており、下層給電素子23の励振方向に沿って延ばされた形状とによって、下層給電素子23の指向性に影響を及ぼし、下層給電素子23のビーム幅を狭くして正面利得を向上させる。
【0039】
図3は、上述したアンテナ素子2から30GHzの偏波信号を送信する際の素子指向性を示すグラフであり、同図(A)は、φ=135°面の指向性、同図(B)は、φ=45°面の指向性、同図(C)は、φ=0°面の指向性を示す。これらのグラフの横軸は信号レベル(dB)を示し、周方向は上述した観測角度θを示している。これらのグラフにおいて、下層無給電パッチ31bがない状態(破線)と、下層無給電パッチ31bがある状態(実線)とを比較すると、下層無給電パッチ31bによる指向性の向上により、正面方向におけるビーム幅が絞られて、サイドのグレーティングローブが低下することが分かる。これにより、サイドのグレーティングローブが低減した分だけ正面利得が向上する。
【0040】
また、下層無給電素子31を設けることにより、サイドのグレーティングローブの近傍にヌルNが発生している。具体的には図3(A)〜(C)のグラフにおいて、θ=60°の付近にヌルNが発生している。本実施の形態では、このヌルNが発生している観測角度θに基づいて、アンテナ素子2の配設間隔dを設定している。なお、本実施の形態におけるヌルとは、グレーティングローブの近傍で、グレーティングローブよりも利得の低下が生じている部分を指す。
【0041】
本実施の形態では、アンテナ素子2の素子指向性においてヌルNが発生している観測角度θにアレーアンテナ1のグレーティングローブが発生するようにアンテナ素子2を配設することにより、グレーティングローブが発生したとしても、その発生レベルを下げることが可能、という考えの下、アンテナ素子2の配設間隔dを設定している。具体的には、図1(B)で示した衛星の観測方向をX−Y軸平面に対して水平な方向から見た図4に示すように、観測角度θと、観測方向の波長λとに基づき、数式d=λ/sinθを利用して配設間隔dを設定している。例えば、図3に示す素子指向性を有するアンテナ素子2から30GHzの偏波信号を送信する場合には、「1(λ)/sin60」により、配設間隔dは約12mmとなる。
【0042】
図5は、上述した配設間隔dでアンテナ素子2を配設したアレーアンテナ1のアレー指向性を示すグラフであり、同図(A)は、φ=0°面の指向性、同図(B)は、φ=45°面の指向性、同図(C)は、φ=90°面の指向性を示す。これらのグラフの横軸は観測角度θを示し、縦軸は信号利得(dBi)を示している。
【0043】
アンテナ素子2の配設間隔dを12mmとした場合、20GHzの受信偏波信号ではd=0.8λとなり、30GHzの送信偏波信号ではd=1.2λとなり、送信側の配設間隔は1λを超えてしまう。しかしながら、送信側の観測面方向(励振方向)をφ=45°にしているため、送信側の実質的な配設間隔dはd/√2となり、約0.85λとなる。したがって、図5に示すように、観測面φ=0°およびφ=90°では指向性規格を満たさないが、衛星軌道面に沿うφ=45°の観測面では、良好な指向性規格を得ることができる。したがって、従来技術の欄で説明した問題(2)を解消することが可能である。
【0044】
また、図6は、下層無給電素子31および上層無給電素子33が設けられていないアンテナ素子を、図5(A)のグラフと同じ配設間隔dで配設したアレーアンテナのφ=0°面の指向性を示すグラフである。この図5(A)のグラフと図6のグラフの比較から明らかなように、図5(A)に示す無給電素子を備えるアンテナ素子は、図6の無給電素子を備えないアンテナ素子に比べて、送信偏波信号(実線)におけるグレーティングローブ(図中、丸で囲んだ部分)のレベルが約10〜15dB低下し、その効果として、中央の正面利得が向上していることが分かる。さらに、図7は、無給電素子を設けたアレーアンテナと、無給電素子を設けていないアレーアンテナとの正面利得および開口効率を比較した表であるが、この表からも明らかなように、送受共用平面アレーアンテナに無給電素子を設けることによって、正面利得および開口効率ともに改善することが可能である。
【0045】
以上で説明したように、本実施の形態のアンテナ素子2によれば、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子23、27のうち上層給電素子27の上に、少なくとも1枚の下層無給電素子31を積層したので、送信偏波信号のビームが絞られてアンテナ素子2の正面利得が向上し、従来技術の欄で説明した問題(1)が解消可能となる。また、平面アンテナ素子に用いられる無給電素子31は、一般的にフレキシブル基板などの下層絶縁基板31aに導電箔などからなるパッチ31bを設けた薄型、軽量なものであるため、特許文献1および非特許文献2に記載の技術のように、厚みおよび重量が増加することがない。
【0046】
また、アンテナ素子2によれば、上層給電素子27と下層無給電素子31との間に、下層無給電素子31の高さ位置を調節する誘電体30を積層したので、偏波信号の波長に応じて最適な高さ位置に下層無給電素子31を配置することができる。すなわち、2つの給電素子23、27のうち、少なくともいずれか一方の給電素子の正面利得に影響する高さ位置、あるいは両方の正面利得に影響する高さ位置に、下層無給電素子31または上層無給電素子33の高さ位置を調節することによって、2つの給電素子23、27の正面利得に対して同時にあるいは選択的に改善を施すことが可能となる。
【0047】
さらに、上層無給電素子33が上層絶縁基板33aに設けられた導電箔の無給電パッチ33bによって構成されている場合に、下層給電素子23の励振方向に沿って延びるように無給電パッチ33bを設けたので、2つの給電素子の正面利得に対して選択的に改善を施すことが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態のアレーアンテナ1によれば、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子23、27と、2つの給電素子23、27のうち上層にある給電素子27の上に積層された少なくとも1枚の無給電素子31とを備えるアンテナ素子2をマトリクス状に配設し、アンテナ素子2の素子指向性においてヌルNが発生する観測角度θに基づいて、アンテナ素子2の配設間隔dを設定したので、グレーティングローブの発生を低減することが可能となる。したがって、従来技術の欄で説明した問題(1)を解消することが可能である。また、本実施の形態におけるヌルとは、アンテナ素子2の素子指向性において発生するグレーティングローブの近傍で、グレーティングローブよりも利得の低下が生じている部分を指す。したがって、このヌルNが発生している観測角度θにアレーアンテナ1のグレーティングローブが発生するようにアンテナ素子2を配設することにより、グレーティングローブが発生したとしても、その発生レベルを下げることが可能となる。そして、このような手法を利用して送受共用平面アンテナ素子の配設間隔を設定することにより、配設間隔が極端に狭くなることがないので、給電線路の引き回しが困難になることもない。
【0049】
また、2つの偏波信号のうちいずれか一方の偏波信号の波長をλ、観測角度をθ、配設間隔をdとしたとき、数式d=λ/sinθに基づき、観測角度θにグレーティングローブが発生するように配設間隔dを求めるようにしたので、グレーティングローブが発生したとしても、そのレベルを下げることが可能である。
【0050】
さらに、送受共用平面アンテナ素子の指向性において、観測面角度φ=45°、135°を使用することにより、送受共用平面アンテナ素子の素子間隔dを、d/√2として、グレーティングローブが発生しない観測角度を使用するので、指向性規格を満足することが可能となる。したがって、上述した問題(2)を解消することが可能である。
【0051】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記実施の形態では、無給電素子を送信用と受信用で2枚設けたが、1枚の無給電素子を送信用および受信用の給電素子の両方に影響する高さ位置に設置することにより、1枚の無給電素子で同様の効果を得ることも可能である。また、無給電素子が送信および受信の両給電素子に影響する高さ位置にある場合でも、無給電素子のパッチの形状を対象とする給電素子の励振方向に沿って延ばすことにより、対象とする給電素子に対して影響をおよぼすとうにすることも可能である。さらに、アレーアンテナ1の観測面をφ=45°、φ=135°とする例について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明のアンテナ素子2およびアンテナ素子2の配列手法を用いれば、指向性を改善して正面利得を向上させ、グレーティングローブの低減を図ることが可能である。
【0052】
1 送受共用平面アレーアンテナ
11 アンテナ本体
2 送受共用平面アンテナ素子
21 グランド板
22、24、26、28、30、32 誘電体
23 下層給電素子
23a 下層給電基板
23b 下層給電パッチ
25 下層スロット板
25a スロット開口部
25b ブリッジ部
27 上層給電素子
27a 上層給電基板
27b 上層給電パッチ
29 上層スロット板
29a スロット開口部
31 下層無給電素子
31a 下層絶縁基板
31b 下層無給電パッチ
33 上層無給電素子
33a 上層絶縁基板
33b 上層無給電パッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10