【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、内燃機関の軽金属合金製シリンダヘッドに圧入されて使用されるバルブシートの耐抜落ち性に影響する各種要因について、鋭意検討した。
【0008】
その結果、内燃機関の稼働中に保持力(高温での保持力)が不足して抜け落ちるという問題が発生する。保持力(高温での保持力)を向上させ、このような問題の発生を回避するため、本発明者らは、シリンダヘッド内周面に当接するバルブシートの外周面を、粗面化することに思い至った。
【0009】
バルブシートの外周面は、通常、JIS B 0601-2001に規定される算術平均高さRaで0.8μm程度に仕上加工されている。本発明者らは、軽金属合金製シリンダヘッドにバルブシートを圧入する場合には、バルブシートの外周面表面を通常の仕上加工面に比べて粗い、たとえば、外周面を基準として山高さで3〜80μmとなるように粗面化することにより、高温保持力の指標である「高温抜け荷重」が顕著に高くなり、耐抜落ち性が向上することを見出した。しかも、粗面化する領域は、バルブシート外周面全域とする必要はなく、バルブシート外周面の一部領域でも十分に効果のあることを見出した。
【0010】
すなわち、バルブシート外周面に、粗面化領域として、最大山高さ(又は山高さ)が3〜80μmとなる領域(以下、「凸状部」ともいう)あるいは最大谷深さ(又は谷深さ)が3〜100μmとなる領域(以下、凹状部ともいう)を、少なくとも1箇所設けることが、バルブシートの耐抜落ち性の向上に顕著に寄与することを見出した。なお、上記した最大山高さ(又は山高さ)を有する領域または上記した最大谷深さ(又は谷深さ)を有する領域が、外周面全域に対する面積率で0.3%程度存在すれば、耐抜落ち性の向上に対し十分に効果があることも知見した。かかる知見に基づき、本発明者らは、出願番号PCT/JP2017/24854として、耐抜落ち性に優れたバルブシートを提案した。
【0011】
本発明者らは、バルブシートの耐抜落ち性の更なる向上のために、耐抜落ち性に影響する各種要因について更に検討を加えた。その結果、粗面化領域の形状や配置に工夫を加えることにより、更に耐抜落ち性を向上させることができることを新規に見出した。
【0012】
すなわち、バルブシートの外周面の少なくとも1箇所に形成する粗面化領域を、三角形状に限定し、さらに三角形のひとつの頂点を、頂角αが10〜90°の範囲の鋭角である頂点としたうえで、該頂点がバルブシートの圧入方向に向くよう配置した、三角形状の粗面化領域を設けることにより、抜け出し荷重(高温抜け荷重)が顕著に増加すること、を知見した。
【0013】
まず、本発明の基礎になった実験結果について、説明する。
鉄基粉末(純鉄粉)に、黒鉛粉末と、硬質粒子粉末と、固体潤滑剤粉末と、を配合し、混合、混練し、混合粉とした。ついで、得られた混合粉を、金型に充填し、成形プレスで加圧成形して、バルブシート(寸法:φ34mm×φ25mm×8mm)形状の圧粉体とした。ついで、圧粉体に、還元性雰囲気中で焼結処理を施し、焼結体Aとした。
【0014】
これら焼結体Aに、切削・研削加工(仕上加工)を施し、所定寸法(寸法:φ32mm×φ25mm×6.0mm)のバルブシートとした。なお、バルブシート外周面の仕上加工面の表面粗さは、JIS Z 0601(2001)の規定に準拠したRaで、0.8μm以下であった。
【0015】
ついで、仕上加工されたバルブシートの外周面で、高さ方向の中央部に、レーザ光照射処理により、面積率が変化するように、複数の箇所で粗面化領域を形成した。なお、粗面化領域は、円周方向に等間隔となるように配置した。また、形成した粗面化領域は、
図3(a)に示すように、外周面に対し垂直方向から観察した状態で、三角形状を呈し、かつ圧入する方向に向く三角形の頂点の頂角αが、37°または90°とする三角形状を呈するように形成した。そして、粗面化領域の表面性状は、円周方向に延在する凹部と凸部とが隣接してなる凹凸を円周方向に垂直な方向に複数列有する領域とした。なお、本発明では、このような領域を「凹凸混合部」と称する。また、形成した凹部の谷深さはいずれも、外周面を基準として一定の谷深さ(=30μm)とし、形成した凸部の山高さはいずれも、外周面を基準として一定の山高さ(=30μm)とし、一定の山ピッチ(=75μm)とした。なお、レーザ光照射処理を行わず、仕上加工のままを基準材とした。
【0016】
得られたバルブシートについて、
図2に示す高温保持力測定装置を用いて、所定温度(200℃)における抜け出し荷重(高温抜け荷重)を測定した。
【0017】
得られたバルブシート1を、高温保持力測定装置のアルミニウム合金製シリンダヘッド相当材2に圧入した。そして、シリンダヘッド相当材2の下部に配設された加熱手段4でバルブシートが所定温度(200℃)となるまで加熱した。ついで、所定の温度に加熱されたバルブシート1を、押し冶具3を用いて押圧し、シリンダヘッド相当材2から離脱させた。そのときの抜け出し荷重Lを、荷重計(図示せず)により測定した。
【0018】
得られた抜け出し荷重について、粗面化領域を形成しない基準材を基準(1.00)として、各バルブシートの抜け出し荷重比を算出した。得られた結果を、粗面化領域の合計量(面積%)と抜け出し荷重比との関係で
図1に示す。
【0019】
図1から、粗面化領域の合計量(面積%)が増加するに伴い、抜出し荷重比が1.0を超えて増加し、粗面化領域なしの基準材に比べて抜け出し荷重が増加することがわかる。しかも、三角形状の粗面化領域を、頂角αが37°と鋭角である三角形の頂点を圧入方向に向くように配置することにより、頂角αが90°である場合にくらべ、粗面化領域の合計量が同じ場合に比べて、抜け出し荷重比が顕著に向上することを知見した。これは、バルブシートとシリンダヘッドとの密着性向上に起因すると考えられる。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものです。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)内燃機関の軽金属合金製シリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、前記バルブシートの外周面の少なくとも1箇所に粗面化領域として、円周方向に延在する凹部と凸部とを隣接してなる凹凸を前記円周方向に垂直な方向に複数列有する凹凸混合部、を有してなり、かつ前記凹凸混合部が、前記外周面に対し垂直方向から観察して、圧入する方向に三角形状を呈し、かつ圧入する方向に向く該三角形状の頂点が、頂角α:10〜150°であり、前記粗面化領域を、前記外周面の全域に対する面積率で、合計で0.3%以上有することを特徴とする耐抜落ち性に優れたバルブシート。
(2)(1)において、前記凹凸混合部における前記凹部と前記凸部の延在する方向が、前記円周方向とのなす角で、0°超90°未満であることを特徴とするバルブシート。
(3)(1)または(2)において、前記凸部が、前記外周面を基準として、山高さで3〜80μmとなる凸部であり、前記凹部が、前記外周面を基準として、谷深さで3〜100μmとなる凹部であることを特徴とするバルブシート。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記凹凸混合部が、前記延在する方向に垂直な断面で、隣接する2つの前記凸部の間隔であるピッチで、1〜600μmである凹凸を有することを特徴とするバルブシート。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記凹凸混合部の複数列の凸部の山高さが、前記外周面を基準として一定の高さであるか、あるいは該基準から、圧入方向に沿って増加することを特徴とするバルブシート。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記粗面化領域を、前記外周面上で、前記円周方向に等間隔の各位置に形成することを特徴とするバルブシート。
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記バルブシートが鉄基焼結合金製であることを特徴とするバルブシート。