特許第6973965号(P6973965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6973965-動力伝達装置 図000002
  • 特許6973965-動力伝達装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973965
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/46 20060101AFI20211118BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   F16H1/46
   F16H48/08
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-570372(P2020-570372)
(86)(22)【出願日】2019年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2019044220
(87)【国際公開番号】WO2020161977
(87)【国際公開日】20200813
【審査請求日】2021年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2019-22130(P2019-22130)
(32)【優先日】2019年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】上原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤川 真澄
(72)【発明者】
【氏名】忍足 俊一
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−125920(JP,A)
【文献】 特開2001−330111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/46
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの下流に接続された第1遊星減速ギアと、
前記第1遊星減速ギアの下流に接続された第2遊星減速ギアと、
前記第2遊星減速ギアの下流に接続されたデファレンシャルギアと、
前記デファレンシャルギアの下流に接続されたドライブシャフトと、を有し、
前記ドライブシャフトは、前記モータのロータの内周と、前記第1遊星減速ギアのサンギアの内周と、前記第2遊星減速ギアのサンギアの内周と、を貫通して配置されており、
前記第1遊星減速ギアのピニオンは段無しピニオンであり、且つ、前記第2遊星減速ギアのピニオンは段付きピニオンである動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1遊星減速ギアは、サンギアが入力要素であり、キャリアが出力要素であり、リングギアが固定要素である動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2遊星減速ギアは、サンギアが入力要素であり、キャリアが出力要素であり、リングギアが固定要素である動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記第1遊星減速ギアのキャリアは、前記第1遊星減速ギアのサンギアと軸方向においてオーバーラップしており、
前記第1遊星減速ギアのキャリアは、スラスト軸受を介して、前記第1遊星減速ギアのサンギアと一体回転する部位に支持されている動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記第1遊星減速ギア側の連結部と、前記第2遊星減速ギア側の連結部と、が連結されている動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1遊星減速ギア側の連結部の先端は、前記第2遊星減速ギアのサンギアの側面に間隔をあけて対向している動力伝達装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6において、
前記第2遊星減速ギアのキャリアは、前記第1遊星減速ギア側の連結部と前記第2遊星減速ギア側の連結部との噛み合い部分の径方向外側に位置する筒状部を有する動力伝達装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記筒状部の先端は、前記第1遊星減速ギアに間隔をあけて対向している動力伝達装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8において、
前記筒状部の外周に軸受が設けられている動力伝達装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一において、
前記デファレンシャルギアは、デフケースと、前記デフケースの内部に収容されるかさ歯車と、を有する動力伝達装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記段付きピニオンは、前記デフケースに支持されている動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から特許文献3には、動力伝達装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−221566号公報
【特許文献2】特開2016−89860号公報
【特許文献3】特開2018−103676号公報
【0004】
特許文献1の動力伝達装置は、回転伝達に関与する3つの回転軸が並列に並んでおり、縦方向(重力方向)にサイズアップしやすい(以下、3軸タイプと呼ぶこととする)。
【0005】
特許文献2の動力伝達装置は、モータのロータが中空軸となっており、この中空軸の内部をドライブシャフトが貫通している。そのため、3軸タイプと比較して縦方向のサイズダウンが可能となるが、大きなカウンタギアを配置しているため、縦方向にサイズアップしてしまう(以下、2軸タイプと呼ぶこととする)。
【0006】
特許文献3の動力伝達装置は、カウンタギアではなく、段付きピニオンを有する遊星減速ギアを用いており、2軸タイプと比較して縦方向のサイズダウンが可能となる(以下、1軸タイプと呼ぶこととする)。
【0007】
1軸タイプの動力伝達装置において、サイズアップを抑制しつつ減速比を大きくすることを求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、
モータと、
前記モータの下流に接続された第1遊星減速ギアと、
前記第1遊星減速ギアの下流に接続された第2遊星減速ギアと、
前記第2遊星減速ギアの下流に接続されたデファレンシャルギアと、
前記デファレンシャルギアの下流に接続されたドライブシャフトと、を有し、
前記ドライブシャフトは、前記モータのロータの内周と、前記第1遊星減速ギアのサンギアの内周と、前記第2遊星減速ギアのサンギアの内周と、を貫通して配置されており、
前記第1遊星減速ギアのピニオンは段無しピニオンであり、且つ、前記第2遊星減速ギアのピニオンは段付きピニオンである構成の動力伝達装置とした。
【0009】
本発明によれば、サイズアップを抑制しつつ減速比を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態にかかる動力伝達装置を説明する図である。
図2】動力伝達装置の減速機構周りの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明する図である。
図2は、動力伝達装置1の減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)周りの拡大図である。
【0012】
動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動装置6に入力する減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、を有している。
【0013】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
モータ2の出力回転は、減速機構3で減速されて差動装置6に入力された後、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。図1では、ドライブシャフト8Aが、動力伝達装置1を搭載した車両の左輪に回転伝達可能に接続されていると共に、ドライブシャフト8Bが、右輪に回転伝達可能に接続されている。
【0014】
ここで、第1遊星減速ギア4は、モータ2の下流に接続されており、第2遊星減速ギア5は、第1遊星減速ギア4の下流に接続されている。差動装置6は、第2遊星減速ギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8、8は、差動装置6の下流に接続されている。
【0015】
モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0016】
モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに外挿された状態で、ドライブシャフト8Bに対して相対回転可能に設けられている。
モータシャフト20では、長手方向の一端20a側と他端20b側の外周に、ベアリングB1、B1が外挿されて固定されている。
モータシャフト20の一端20a側は、ベアリングB1を介して、中間ケース12の円筒状のモータ支持部121で回転可能に支持されている。
モータシャフト20の他端20b側は、ベアリングB1を介して、カバー11の円筒状のモータ支持部111で回転可能に支持されている。
【0017】
モータ2は、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むモータハウジング10を有している。本実施形態では、モータハウジング10の一端10aに、中間ケース12が接合されており、モータハウジング10の他端10bに、カバー11が接合されている。
【0018】
モータハウジング10の一端10aと他端10bには、シールリングS、Sが設けられている。モータハウジング10の一端10aは、当該一端10aに設けたシールリングSにより、中間ケース12の環状の基部120に隙間なく接合されている。
モータハウジング10の他端10bは、当該他端10bに設けたシールリングSにより、カバー11の環状の接合部110に隙間なく接合されている。
【0019】
中間ケース12では、基部120とモータ支持部121とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。
本実施形態では、中間ケース12をモータハウジング10の一端10aに固定すると、モータ支持部121が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0020】
この状態においてモータ支持部121は、後記するコイルエンド253aの内径側で、ロータコア21の一端部21aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される(図2参照)。
そして、基部120とモータ支持部121とを接続する接続部123(図2参照)は、コイルエンド253aと後記する側板部452との接触を避けて設けられている。
【0021】
なお、モータ支持部121のロータコア21側の端面121aには、ベアリングリテーナ125が固定されている。
ベアリングリテーナ125は、回転軸X方向から見てリング状を成している。ベアリングリテーナ125の内径側は、モータ支持部121で支持されたベアリングB1のアウタレースB1bの側面に回転軸X方向から当接している。ベアリングリテーナ125は、モータ支持部121からのベアリングB1の脱落を阻止している。
【0022】
図1に示すように、カバー11では、接合部110とモータ支持部111とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。
本実施形態では、カバー11の接合部110をモータハウジング10の他端10bに固定すると、モータ支持部111が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0023】
この状態においてモータ支持部111は、後記するコイルエンド253bの内径側で、ロータコア21の他端部21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
そして、接合部110と、カバー11の側壁部113とを接続する接続部115は、コイルエンド253bと後記する支持筒112との接触を避けて設けられている。
【0024】
モータハウジング10の内側では、カバー11側のモータ支持部111と、中間ケース12側のモータ支持部121との間に、ロータコア21が配置されている。
【0025】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0026】
回転軸X方向におけるロータコア21の一端部21aは、モータシャフト20の大径部203で位置決めされている。ロータコア21の他端部21bは、モータシャフト20に圧入されたストッパ23で位置決めされている。
【0027】
ステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものであり、電磁鋼板の各々は、モータハウジング10の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252を、有している。
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用しており、ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸方向の長さが長くなっている。
【0028】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部の各々に、巻線を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0029】
モータシャフト20では、大径部203よりも一端20a側の領域の外周に、ベアリングB1が圧入されている。
図2に示すように、ベアリングB1のインナレースB1aは、回転軸X方向の一方の側面が、モータシャフト20の外周に設けた段部204に当接している。インナレースB1aは、他方の側面に、モータシャフト20の外周に圧入されたリング状のストッパ205が当接している。
ストッパ205によりベアリングB1は、インナレースB1aを、段部204に当接させた位置で位置決めされている。
【0030】
モータシャフト20の一端20aは、ストッパ205よりも差動装置6側(図中、左側)に位置している。回転軸X方向において一端20aは、第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aに、間隔をあけて対向している。
【0031】
モータシャフト20の一端20a側では、モータシャフト20の径方向外側に、円筒壁122が位置している。
円筒壁122は、モータ支持部121から差動装置6側に突出しており、円筒壁122の先端122aは、第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aに間隔をあけて対向している。
【0032】
円筒壁122は、モータシャフト20の外周を所定間隔で囲んでおり、円筒壁122とモータシャフト20との間には、リップシールRSが設置されている。
リップシールRSは、モータハウジング10の内径側の空間Sa(図1参照)と、中間ケース12の内径側の空間Sb(図1参照)とを、区画するために設けられている。
【0033】
中間ケース12の内径側の空間Sbは、後記する差動装置6を収容するケース13内の空間Scと連絡しており、差動装置6の潤滑油が封入されている。リップシールRSは、モータハウジング10の内径側の空間Saへの潤滑油の流入を阻止するために設けられている。
【0034】
図2に示すように、モータシャフト20の一端20a側の領域202は、ロータコア21が外挿された領域201よりも大きい内径で形成されている。
この一端20a側の領域202の内側には、サンギア41の円筒状の連結部411が挿入されている。この状態において、モータシャフト20の一端20a側の領域202と、サンギア41の連結部411とが、相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0035】
そのため、モータ2の出力回転が、モータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に入力されて、サンギア41がモータ2の回転駆動力で、回転軸X回りに回転する。
【0036】
サンギア41は、内径側の側面41aから回転軸X方向に延びる連結部411を有している。連結部411は、サンギア41と一体に形成されおり、サンギア41の内径側と連結部411の内径側とに跨がって、貫通孔410が形成されている。
サンギア41は、貫通孔410を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0037】
回転軸Xの径方向におけるサンギア41の外径側には、中間ケース12の基部120の内周に固定されたリングギア42が位置している。回転軸Xの径方向において、サンギア41とリングギア42の間では、ピニオン軸44で回転可能に支持されたピニオンギア43が、サンギア41の外周と、リングギア42の内周に噛合している。
【0038】
ピニオンギア43は、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸44の外周で回転可能に支持されている。ピニオン軸44は、ピニオンギア43を回転軸Xに沿う軸線X1方向に貫通している。ピニオン軸44の長手方向の一端と他端は、キャリア45の一対の側板部451、452で支持されている。
【0039】
側板部451、452は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部451、452の間では、複数のピニオンギア43が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、4つ)設けられている。
【0040】
差動装置6側に位置する側板部451には、円筒状の連結部453が設けられている。
側板部451において連結部453は、回転軸Xに対して同心に配置されていると共に、回転軸Xに沿って、差動装置6に近づく方向(図中、左方向)に突出している。
【0041】
中間ケース12から見て差動装置6側には、リング状の中間カバー14が位置している。中間カバー14は、中間ケース12とケース13との間に挟み込まれた状態で設けられている。
側板部451の内径側に設けられた連結部453は、中間カバー14の中央の開口140を、モータ2側から差動装置6側の左方に貫通している。
連結部453の先端453aは、中間カバー14に取り付けられたケース13内に位置している。回転軸X方向において連結部453の先端453aは、第2遊星減速ギア5のサンギア51の側面51aに、間隔をあけて対向している。
【0042】
連結部453の内側には、サンギア51から延びる円筒状の連結部511が挿入されてスプライン嵌合しており、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511とが、相対回転不能に連結されている。
【0043】
サンギア51は、内径側の側面51aから回転軸X方向に延びる連結部511を有している。連結部511は、サンギア51と一体に形成されおり、サンギア51の内径側と連結部511の内径側とに跨がって、貫通孔510が形成されている。
サンギア51は、貫通孔510を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0044】
サンギア51の差動装置6側の側面51bは、後記するデフケース60の筒状の支持部601に、回転軸X方向の隙間をあけて対向しており、側面51bと支持部601との間には、ニードルベアリングNBが介在している。
【0045】
サンギア51は、前記した第1遊星減速ギア4側の連結部542の延長上で、段付きピニオンギア53の大径歯車部531に噛合している。
【0046】
段付きピニオンギア53は、サンギア51に噛合する大径歯車部531と、大径歯車部531よりも小径の小径歯車部532とを有している。
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532が、回転軸Xに平行な軸線X2方向で並んで、一体に設けられたギア部品である。
【0047】
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532の内径側を軸線X2方向に貫通した貫通孔530を有している。
段付きピニオンギア53は、貫通孔530を貫通したピニオンシャフト54の外周で、ニードルベアリングNBを介して回転可能に支持されている。
ピニオンシャフト54の長手方向の一端と他端は、デフケース60と一体に形成された側板部651と、この側板部に間隔をあけて配置された側板部551で支持されている。
【0048】
側板部651、551は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部651、551の間では、複数の段付きピニオンギア53が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
【0049】
小径歯車部532の各々は、リングギア52の内周に噛合している。リングギア52は、ケース13の内周にスプライン嵌合しており、リングギア52は、ケース13との相対回転が規制されている。
【0050】
側板部551の内径側には、第1遊星減速ギア4側に延びる筒状部552が設けられている。筒状部552は、中間カバー14の中央の開口140を、差動装置6側からモータ2側(図中、右側)に貫通している。回転軸X方向において筒状部552の先端552aは、第1遊星減速ギア4のキャリア45の側板部451に、間隔をあけて対向している。
【0051】
筒状部552は、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511との噛み合い部分の径方向外側に位置している。筒状部552の外周には、中間カバー14の開口140の内周に固定されたベアリングB2が接触している。側板部551の筒状部552は、ベアリングB2を介して、中間カバー14で回転可能に支持されている。
【0052】
第2遊星減速ギア5では、キャリア55を構成する側板部551と側板部651のうちの一方の側板部651は、差動装置6のデフケース60と一体に形成されている。
【0053】
第2遊星減速ギア5では、第1遊星減速ギア4で減速されたモータ2の出力回転が、サンギア51に入力される。
サンギア51に入力された出力回転は、サンギア51に噛合する大径歯車部531を介して、段付きピニオンギア53に入力されて、段付きピニオンギア53が軸線X2回りに回転する。
【0054】
そうすると、大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、大径歯車部531と一体に軸線X2周りに回転する。
ここで、小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、小径歯車部532が軸線X2回りに回転すると、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X回りに回転する。
【0055】
そうすると、ピニオンシャフト54の一端が、デフケース60と一体に形成された側板部651に支持されているので、段付きピニオンギア53の回転軸X周りの周方向の変位に連動して、デフケース60が回転軸X回りに回転する。
【0056】
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R2が大径歯車部531の外径R1よりも小さくなっている(図2参照)。
そして、第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、モータの出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
そうすると、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60に出力される。
【0057】
図1に示すように、デフケース60は、シャフト61と、かさ歯車62A、62Bと、サイドギア63A、63Bとを、内部に収納する中空状に形成されている。
デフケース60では、回転軸X方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、シャフト61から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
【0058】
支持部602の外周には、ベアリングB2のインナレースB2aが圧入されている。ベアリングB2のアウタレースB2bは、ケース13のリング状の支持部131で保持されており、デフケース60の支持部602は、ベアリングB2を介して、ケース13で回転可能に支持されている。
【0059】
支持部602には、ケース13の開口部130を貫通したドライブシャフト8Aが、回転軸X方向から挿入されており、ドライブシャフト8Aは、支持部602で回転可能に支持されている。
開口部130の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Aの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Aの外周と開口部130の内周との隙間が封止されている。
【0060】
支持部601には、カバー11の開口部114を貫通したドライブシャフト8Bが、回転軸方向から挿入されている。
ドライブシャフト8Bは、モータ2のモータシャフト20と、第1遊星減速ギア4のサンギア41と、第2遊星減速ギア5のサンギア51の内径側を回転軸X方向に横切って設けられており、ドライブシャフト8Bの先端側が、支持部601で回転可能に支持されている。
【0061】
カバー11の開口部114の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Bの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Bの外周と開口部114の内周との隙間が封止されている。
【0062】
デフケース60の内部では、ドライブシャフト8A、8Bの先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合しており、サイドギア63A、63Bとドライブシャフト8(8A、8B)とが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0063】
デフケース60には、回転軸Xに直交する方向に貫通した軸孔60a、60bが、回転軸Xを挟んで対称となる位置に設けられている。
軸孔60a、60bは、回転軸Xに直交する軸線Y上に位置しており、シャフト61の一端61a側および他端61b側が挿入されている。
【0064】
シャフト61の一端61a側および他端61b側は、ピンPでデフケース60に固定されており、シャフト61は、軸線Y周りの自転が禁止されている。
デフケース60の下部側は、ケース13内の潤滑油に浸っている。
実施の形態では、シャフト61の一端61aまたは他端61bが最も下部側に位置した際に、シャフト61の一端61aまたは他端61bが少なくとも潤滑油内に位置する高さまで、ケース13内に潤滑油が貯留されている。
【0065】
シャフト61は、デフケース60内において、サイドギア63A、63Bの間に位置しており、軸線Yに沿って配置されている。
【0066】
デフケース60内においてシャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。シャフト61においてかさ歯車62A、62Bは、当該かさ歯車62A、62Bの軸心を、シャフト61の軸心と一致させて設けられている。
【0067】
デフケース60内において、回転軸X方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側には、サイドギア63A、63Bが位置している。
サイドギア63A、63Bは、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸X方向に間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0068】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
【0069】
モータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に回転が入力される。
【0070】
図2に示すように、第1遊星減速ギア4では、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力部、ピニオンギア43を支持するキャリア45が、入力された回転の出力部となっている。
【0071】
サンギア41がモータ2の出力回転で回転軸X回りに回転すると、サンギア41の外周とリングギア42の内周に噛合したピニオンギア43が、軸線X1回りに回転する。
ここで、リングギア42は、中間ケース12(固定側部材)の内周にスプライン嵌合しており、中間ケース12との相対回転が規制されている。
そのため、ピニオンギア43は、軸線X1回りに回転しながら、回転軸X周りに公転する。これにより、ピニオンギア43を支持するキャリア45(側板部451、452)が、モータ2の出力回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
【0072】
前記したようにキャリア45の連結部453は、第2遊星減速ギア5側のサンギア51の連結部511に連結されており、キャリア45の回転(第1遊星減速ギア4の出力回転)は、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力される。
なお、第1遊星減速ギア4の出力部(キャリア45)が、第2遊星減速ギア5の入力部(サンギア51)とクラッチ、変速機構等の別部材を介さずに連結されている。
即ち、第1遊星減速ギア4の出力部(キャリア45)と、第2遊星減速ギア5の入力部(サンギア51)は、一体回転する(常時、一体回転する)。
よって、別部材が動力伝達経路上にない分だけ、第1遊星減速ギア4と第2遊星減速ギア5の距離を近づけることができるので軸方向の短縮に寄与する。
【0073】
第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、第2遊星減速ギア5の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
【0074】
サンギア51が入力された回転で回転軸X回りに回転すると、段付きピニオンギア53(大径歯車部531、小径歯車部532)が、サンギア51側から入力される回転で、軸線X2回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア53の小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0075】
これにより、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55(側板部551、651)が、第1遊星減速ギア4側から入力された回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R2が大径歯車部531の外径R1よりも小さくなっている(図2参照)。
そのため、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により、第1遊星減速ギア4の場合よりも大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60(差動装置6)に出力される。
【0076】
そして、デフケース60に入力された回転は、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0077】
このように、モータ2の出力回転の伝達経路上で、減速機構3を構成する第1遊星減速ギア4と第2遊星減速ギア5とを直列に配置し、一方の第2遊星減速ギア5のピニオンギアを、段付きピニオンギア53とした。
これにより、1軸タイプの動力伝達装置において、通常のピニオンギア(段無しのピニオンギア)を持つ遊星減速ギアを単純に直列に配置する場合よりも、減速機構3における減速比を大きくすることができる。
【0078】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)動力伝達装置1は、
モータ2と、
モータ2の下流に接続された第1遊星減速ギア4と、
第1遊星減速ギア4の下流に接続された第2遊星減速ギア5と、
第2遊星減速ギア5の下流に接続された差動装置6(デファレンシャルギア)と、
差動装置6の下流に接続されたドライブシャフト8(8A、8B)と、を有する。
ドライブシャフト8Bは、モータ2のロータコア21の内径側(ロータの内周)と、第1遊星減速ギア4のサンギア41の内径側(内周)と、第2遊星減速ギア5のサンギア51の内径側(内周)と、を貫通して配置されている。
第1遊星減速ギア4のピニオンギア43(ピニオン)は段無しピニオンギアであり、且つ、第2遊星減速ギア5のピニオンギア53は段付きピニオンギアである。
【0079】
1軸タイプの動力伝達装置1において、モータ2の出力回転の減速比を大きくするために、モータ2の出力回転の伝達系路上に、遊星減速ギア(遊星歯車機構)を追加することが考えられる。
ここで、遊星減速ギアのピニオンギアには、減速比を大きくしやすい段付きタイプと、サイズを小さくしやすい段無しタイプとがある。
減速比の大きさだけを追求するのであれば、全ての遊星減速ギアのピニオンを段付きタイプとすれば良いが、その場合は、動力伝達装置1が径方向に大きくなる。すなわち、サイズアップという課題が残ることになる。
【0080】
ここで、モータ2の下流側であって第2遊星減速ギア5の上流側に位置する第1遊星減速ギア4は、モータ2と第2遊星減速ギア5とに挟まれた位置に設けられており、第1遊星減速ギア4の周辺にスペースを取ることが難しい。
また、第2遊星減速ギア5の下流側であって差動装置6の上流側に位置する第2遊星減速ギア5は、第1遊星減速ギア4と差動装置6のデフケース60との間に設けられており、第1遊星減速ギア4に比べて周辺にスペースを取り易い。
【0081】
そこで、周辺にスペースを取り難い第1遊星減速ギア4に、段無しピニオンを適用する一方で、周辺にスペースを比較的取りやすい第2遊星減速ギア5に、段無しピニオンを適用することで、1軸タイプの動力伝達装置において、サイズアップを抑制しつつ減速比を大きくすることができる。
【0082】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(2)第1遊星減速ギア4は、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力要素であり、キャリア45が、第1遊星減速ギア4から出力される回転の出力要素であり、リングギア42が、固定要素である。
【0083】
回転軸X方向から見て環状を成すリングギア42は、第1遊星減速ギア4において最も外径側に位置する部材であり、固定側部材である中間ケース12(基部120)の内周に近接して配置される。
リングギア42を固定要素とする場合、リングギア42を、当該リングギア42の周囲に配置された固定側部材に固定するだけで良い。
リングギア42を固定要素としない場合、リングギア42の周囲に、リングギア42に対して回転を入出力するための部品を設置するスペースが必要になるが、リングギア42を固定要素とすることで、かかるスペースを必要としない。すなわち、動力伝達装置1において、リングギア周辺の無駄なスペースを減らすことができる。
【0084】
サンギア41は、第1遊星減速ギア4において最も内径側に位置する部材であり、動力伝達装置1の内径側には、モータ2のロータコア21(ロータ)の回転を出力するモータシャフト20が位置している。
第1遊星減速ギア4のサンギア41を入力要素とすることで、モータ2の出力要素(モータシャフト20)と、第1遊星減速ギア4側の入力要素(サンギア41)を、回転軸X方向で近づけることができる。
これにより、1軸タイプの動力伝達装置1の回転軸X方向のサイズダウンが可能となる。
【0085】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(3)第2遊星減速ギア5は、サンギア51が、第1遊星減速ギア4の出力回転の入力要素であり、キャリア55が、第2遊星減速ギア5から出力される回転の出力要素であり、リングギア52が、固定要素である。
【0086】
回転軸X方向から見て環状を成すリングギア52は、第2遊星減速ギア5において最も外径側に位置する部材であり、固定側部材であるケース13の内周に近接して配置される。
リングギア52を固定要素とする場合、リングギア52を、当該リングギア52の周囲に配置された固定側部材に固定するだけで良い。
リングギア52を固定要素としない場合、リングギア52の周囲に、リングギア52に対して回転を入出力するための部品を設置するスペースが必要になるが、リングギア52を固定要素とすることで、かかるスペースを必要としない。すなわち、動力伝達装置1において、リングギア周辺の無駄なスペースを減らすことができる。
【0087】
第2遊星減速ギア5のサンギア51は、第2遊星減速ギア5において最も内径側に位置する部材である。
第2遊星減速ギア5のサンギア51を入力要素、第1遊星減速ギア4のキャリア55を出力要素とすることで、第1遊星減速ギア4の出力要素と第2遊星減速ギア5の入力要素とを、回転軸X方向で近づけることができる。
これにより、1軸タイプの動力伝達装置1の回転軸X方向のサイズダウンが可能となる。
【0088】
さらに、第2遊星減速ギア5のキャリア55を出力要素とすることにより、第2遊星減速ギア5の出力要素と、差動装置6(デファレンシャルギア)とを、回転軸X方向で近づけることができる。
このことによっても、1軸タイプの動力伝達装置1の回転軸X方向のサイズダウンが可能となる。
【0089】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(4)第1遊星減速ギア4のキャリア45は、第1遊星減速ギア4のサンギア41と回転軸X軸方向においてオーバーラップしている。
第1遊星減速ギア4のキャリア45は、スラスト軸受(ニードルベアリングNB)を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41と一体回転する部位に支持されている。
【0090】
回転軸X方向から視たときに、第1遊星減速ギア4のキャリア45が、第1遊星減速ギア4のサンギア41とオーバーラップしている場合、両者の干渉(接触)を防止する必要がある。
ここで、第1遊星減速ギア4の各構成要素のギアの噛合いにはガタがある。そのため、キャリア45とサンギア41との干渉を防止するためには、キャリア45側(側板部451)とサンギア41側(側面41b)との回転軸X方向のクリアランスを広めにとる必要がある。
【0091】
スラスト軸受(ニードルベアリングNB)は、回転軸X方向に薄く形成することが可能である。
そこで、キャリア45(側板部451)とサンギア41側(側面41b)との間にニードルベアリングNBを介在させて、ニードルベアリングNBを介して、キャリア側とサンギア側とを支持させる。そうすると、キャリア45(側板部451)とサンギア41側(側面41b)とをぎりぎりまで近づけることができるようになり、2つの遊星減速ギアを有する1軸タイプの動力伝達装置の軸長方向の寸法を縮小することが可能となる。
【0092】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ2の下流に接続された第1遊星減速ギア4という場合は、モータ2から第1遊星減速ギア4へと動力が伝達されることを意味する。
また、本明細書における用語「直接接続」とは、他の減速機構、増速機構、変速機構などの減速比が変換される部材を介さずに部材同士が動力伝達可能に接続されていることを意味する。
【0093】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
図1
図2