(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明について、図面を参照しながら本発明の一実施の形態を詳述する。なお以下の説明はあくまで本発明の一実施の形態にすぎず、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
【0014】
図1は、ESCシステム1の全体構成を示す。ESCシステム1は、車両の横滑りを防止するシステムであり、オートライトユニット10、ESCユニット20、車輪速センサ30、姿勢センサ40及びステアリングシステム50を備える。
【0015】
オートライトユニット10は、外部環境に応じてライトを適切に点灯又は消灯するユニットであり、照度センサ11及びヘッドライトユニット12を備える。照度センサ11は、車両の周囲の照度を適宜検知し、現在の照度を示す照度レベル信号S1を生成する。そして生成した照度レベル信号S1をヘッドライトユニット12に送信する。
【0016】
ヘッドライトユニット12は、外部環境に応じて実際にライトを点灯又は消灯するユニットであり、CPU121及びメモリ122を備える。CPU121及びメモリ122の協働により、ヘッドライトユニット12の動作が統括的に制御される。
【0017】
具体的にCPU121は、照度レベル信号S1により示される現在の照度がメモリ122に予め格納されている所定の照度以上である場合(外が明るい場合)、昼間と判断し、現在の照度が所定の照度よりも小さい場合(外が暗い場合)、夜間と判断する。
【0018】
またCPU121は、照度レベル信号S1により示される現在の照度の揺らぎに基づいて、車両がトンネルを走行中であるか否かを判断する。
【0019】
CPU121は、トンネル走行中であることを示すトンネルフラグ信号S2、昼間であることを示すデイライトフラグ信号S3、夜間であることを示すヘッドライトフラグ信号S4をそれぞれ生成すると、これをESCユニット20に送信する。
【0020】
ESCユニット20は、ヘッドライトユニット12からの各フラグ信号(S2、S3、S4)と、車輪速センサ30からの車輪速信号S6、姿勢センサ40からの姿勢信号S7及びステアリングシステム50からの舵角信号S8とに基づいて、車両の姿勢を安定化させるユニットである。なお姿勢センサ40は、ヨーレートセンサやGセンサである。
【0021】
ESCユニット20は、CPU201及びメモリ202を備える。CPU201及びメモリ202の協働により、ESCユニット20の動作が統括的に制御される。ここではCPU201及びメモリ202の協働により実現されるESCユニット20の機能として、ナイトモード決定部21、車両状態算出部22及び姿勢制御部23を備える。
【0022】
ナイトモード決定部21は、ヘッドライトユニット12からの各フラグ信号(S2、S3、S4)に基づいて、車両の周囲の外部環境を判断する。外部環境としては、具体的にはトンネル走行中、昼間、夜間のうちの何れか一又は複数が重複する環境がある。
【0023】
ナイトモード決定部21は、判断した外部環境に応じて、夜間であることを示すナイトモードフラグ信号S5を生成し、これを車両状態算出部22に送信する。
【0024】
車両状態算出部22は、車輪速信号S6、姿勢信号S7及び舵角信号S8に基づいて、現在の車両状態を算出する。そして車両状態算出部22は、現在の車両状態と、ナイトモード決定部21からのナイトモードフラグ信号S5とに基づいて、車両の姿勢を安定化させるための姿勢安定化信号S9を生成し、これを姿勢制御部23に送信する。
【0025】
姿勢安定化信号S9には、ここではブレーキトルクの制御に用いられる目標ヨーレートを示す情報と、ブレーキトルクの制御に用いられるPID制御のうちのP値及びD値に対する加算値を示す情報とが含まれる。車両状態算出部22は、夜間の場合には夜間用の目標ヨーレートと、P値及びD値に対する加算値とを姿勢安定化信号S9に含ませて、これを姿勢制御部23に送信する。
【0026】
姿勢制御部23は、車両状態算出部22からの姿勢安定化信号S9に基づいて、昼間の場合には一般的な横滑り防止のためのブレーキトルクの制御を実行する一方で、夜間の場合には夜間用の夜間目標ヨーレートと、P値及びD値に対する加算値とを用いてブレーキトルクの制御を実行する。これにより、夜間の場合には昼間よりも特にブレーキの効きを向上させて横滑りを防止し、車両の安定化をより実現することができる。
【0027】
図2は、ESCユニット20の内部構成を示す。ESCユニット20は、
図1の説明でも述べたように、ナイトモード決定部21、車両状態算出部22及び姿勢制御部23を備える。
【0028】
ナイトモード決定部21は、ヘッドライトユニット12からの各フラグ信号(S2、S3、S4)に基づいて、ナイトモードフラグ信号S5を生成し、このナイトモードフラグ信号S5を車両状態算出部22に送信する。ナイトモード決定部21により受信及び生成される各フラグ信号(S2〜S5)の詳細については後述する(
図3)。
【0029】
図3は、各フラグ信号のタイミングチャートを示す。横軸は時刻tを示す。時刻t1〜t2の間は、トンネルフラグ信号S2及びヘッドライトフラグ信号S4が「0(又はオフ)」であり、デイライトフラグ信号S3だけが「1(又はオン)」である。この場合、ナイトモード決定部21は、外部環境として「トンネル走行中ではない」、かつ、「昼間である」と判断し、「0」に設定したナイトモードフラグ信号S5を生成する。そしてこれを車両状態算出部22に送信する。
【0030】
時刻t2〜t3の間は、トンネルフラグ信号S2及びヘッドライトフラグ信号S4が「1」であり、デイライトフラグ信号S3が「0」である。実際には車両がトンネルを走行中の状態である。この場合、ナイトモード決定部21は、外部環境として「トンネル走行中である」と判断し、引き続き「0」に設定したナイトモードフラグ信号S5を生成し、これを車両状態算出部22に送信する。
【0031】
ここで本実施の形態においては、非常に長いトンネルを車両が走行する場合を考慮して、すなわちトンネル進入時には昼間であったにもかかわらず、トンネル退出時には夜間になっている場合を考慮して、トンネル走行中における外部の照度を理論的に算出する処理を実行するようにしている。
【0032】
そして理論上の照度が所定の閾値よりも小さくなった場合、トンネルフラグ信号S2を「1」から「0」に切り替えるようにしている。この場合、トンネルフラグ信号S2が「0」に設定され、ヘッドライトフラグ信号S4だけが「1」に設定された状態となる。このときナイトモード決定部21は、ナイトモードの条件が成立したものと判断し、ナイトモードフラグ信号S5を「1」に設定して送信する。詳細については後述する(
図6)。
【0033】
時刻t3〜t6の間は、デイライトフラグ信号S3が「1」である。実際には昼間の状態である。なお時刻t4〜t5の間は、運転手がユーザスイッチ(図示省略)をONに切り替えたことによりヘッドライトが点灯した状態である。時刻t3〜t6の場合、ナイトモード決定部21は、外部環境として「昼間」と判断し、引き続き「0」に設定したナイトモードフラグ信号S5を生成する。そしてこれを車両状態算出部22に送信する。
【0034】
時刻t6は、トンネルフラグ信号S2及びデイライトフラグ信号S3が「0」であり、ヘッドライトフラグ信号S4だけが「1」である。この場合、ナイトモード決定部21は、外部環境として「トンネル走行中ではない」、かつ、「夜間である」と判断し、ナイトモードの条件が成立したものと判断する。そしてナイトモードフラグ信号S5を「1」に設定して送信する。
【0035】
なおナイトモード決定部21は、ここでは「1」又は「0」の何れの場合においてもナイトモードフラグ信号S5を生成して車両状態算出部22に送信するとしたが、これに限らず、ナイトモードの条件が成立した場合に限って、ナイトモードフラグ信号S5を生成して送信するとしてもよい。
【0036】
図2に戻り、車両状態算出部22は、夜間係数送信部221及び目標ヨーレート算出部222を備える。夜間係数送信部221は、「1」に設定されたナイトモードフラグ信号S5を受信すると、予め定められた夜間係数を目標ヨーレート算出部222に送信する。目標ヨーレート算出部222は、車輪速信号S6、姿勢信号S7及び舵角信号S8に基づいて、昼間に用いる通常の目標ヨーレートを算出し、この目標ヨーレートと夜間係数とに基づいて、夜間目標ヨーレートS9aを算出し、これを姿勢制御部23に送信する。
【0037】
また車両状態算出部22は、加算値送信部223を備える。加算値送信部223は、「1」に設定されたナイトモードフラグ信号S5を受信すると、ブレーキトルクの制御に用いられるPID制御のP値及びD値に対する加算値S9bを生成し、これを姿勢制御部23に送信する。P値及びD値に一定量の加算値S9bを加算することで、ブレーキをより強く効かせて、車両をより回転させることができる。
【0038】
なお車両状態算出部22は、「0」に設定されたナイトモードフラグ信号S5を受信した場合、目標ヨーレート算出部222により、通常昼間に用いる目標ヨーレートを算出して姿勢制御部23に送信する。また加算値送信部223によるP値及びD値に対する加算値S9bは送信しない。
【0039】
姿勢制御部23は、差分算出部231、PID制御部232及びブレーキトルク算出部233を備える。差分算出部231は、目標ヨーレート算出部222からの夜間目標ヨーレートS9a(或いは通常の目標ヨーレート)と、姿勢センサ40からの姿勢信号S7との差分を算出し、差分値をPID制御部232に送信する。
【0040】
PID制御部232は、P値算出部2321、I値算出部2322及びD値算出部2323を備える。それぞれの算出部2321〜2323は、差分算出部231からの差分値に基づいて、P値、I値及びD値を算出し、ブレーキトルク算出部233に送信する。特にP値算出部2321及びD値算出部2323は、差分値に加えて、加算値送信部223からの加算値S9bに基づいてP値及びD値を算出する。
【0041】
ブレーキトルク算出部233は、P値、I値及びD値に基づいて制御量を算出し、これを四輪に分配して、個別にブレーキの制御を実行する。
【0042】
図4は、ライトフラグ信号生成処理のフローチャートを示す。この処理は、ヘッドライトユニット12のCPU121により各フラグ信号S3、S4が生成される処理であり、適宜実行される。説明の便宜上、処理主体をヘッドライトユニット12として説明する。
【0043】
まずヘッドライトユニット12は、照度センサ11からの照度レベル信号S1を受信する(SP1)。次いでヘッドライトユニット12は、受信した照度レベル信号S1により示される現在の照度が予め定められた閾値よりも小さいか否かを判断する(SP2)。
【0044】
ヘッドライトユニット12は、ステップSP2の判断で肯定結果を得ると(SP2:Y)、すなわち現在の照度が閾値よりも小さい場合、デイライトフラグ信号S3を「0」に設定し(SP3)、ヘッドライトフラグ信号S4を「1」に設定して(SP4)、本処理を終了する。
【0045】
これに対しヘッドライトユニット12は、ステップSP2の判断で否定結果を得ると(SP2:N)、すなわち現在の照度が閾値以上である場合、デイライトフラグ信号S3を「1」に設定し(SP5)、ユーザスイッチがONであるか否かを判断する(SP6)。
【0046】
ヘッドライトユニット12は、ステップSP6の判断で肯定結果を得ると(SP6:Y)、ステップSP4に移行してヘッドライトフラグ信号S4を「1」に設定し(SP4)、本処理を終了する。これに対しヘッドライトユニット12は、ステップSP6の判断で否定結果を得ると(SP6:N)、ヘッドライトフラグ信号S4を「0」に設定して(SP7)、本処理を終了する。
【0047】
図5は、トンネルフラグ信号生成処理のフローチャートを示す。この処理は、ヘッドライトユニット12のCPU121によりトンネルフラグ信号S2が生成される処理であり、適宜実行される。説明の便宜上、処理主体をヘッドライトユニット12として説明する。
【0048】
まずヘッドライトユニット12は、照度センサ11からの照度レベル信号S1を受信する(SP11)。次いでヘッドライトユニット12は、受信した照度レベル信号S1により示される現在の照度に基づいて揺らぎの有無を判断し、この揺らぎの有無に基づいて、トンネルに進入したか否かを判断する(SP12)。
【0049】
ヘッドライトユニット12は、ステップSP12の判断で肯定結果を得ると(SP12:Y)、トンネルフラグ信号S2を「1」に設定し(SP13)、トンネルに進入する直前の照度をメモリ122に格納して(SP14)、本処理を終了する。なおこのステップSP14でメモリ122に格納したトンネル進入直前の照度レベルは、車両がトンネル走行中に外部の照度を理論的に算出する際に用いられる(
図6)。
【0050】
これに対しヘッドライトユニット12は、ステップSP12の判断で否定結果を得ると(SP12:N)、トンネルフラグ信号S2を「0」に設定して(SP15)、本処理を終了する。
【0051】
図6は、トンネルフラグ信号更新処理のフローチャートを示す。この処理は、ESCユニット20のCPU201(ナイトモード決定部21)によりトンネルフラグ信号S2が更新される処理であり、適宜実行される。説明の便宜上、処理主体をESCユニット20として説明する。
【0052】
まずESCユニット20は、ヘッドライトユニット12からのトンネルフラグ信号S2が「1」に設定されているか否かを判断する(SP21)。ESCユニット20は、ステップSP21の判断で否定結果を得ると(SP21:N)、本処理を終了する。
【0053】
これに対しESCユニット20は、ステップSP21の判断で肯定結果を得ると(SP21:Y)、ヘッドライトユニット12のメモリ122に格納されているトンネルに進入する直前の照度を取得する(SP22)。
【0054】
そしてESCユニット20は、一定時間経過するごとに、取得した進入直前の照度から一定量を減算して照度を更新する(SP23)。次いでESCユニット20は、更新後の照度が予め定められた閾値よりも小さいか否かを判断する(SP24)。
【0055】
ESCユニット20は、ステップSP24の判断で否定結果を得ると(SP24:N)、ステップSP21に戻り、上述の処理を繰り返す。これに対しESCユニット20は、ステップSP24の判断で肯定結果を得ると(SP24:Y)、トンネル退出時に外は夜間であると判断する。そしてこの場合、ESCユニット20は、トンネルフラグ信号S2を「0」に設定して(SP25)、本処理を終了する。
【0056】
図7は、ナイトモードフラグ信号生成処理のフローチャートを示す。この処理は、ESCユニット20のCPU201(ナイトモード決定部21)によりナイトモードフラグ信号S5が生成される処理であり、適宜実行される。説明の便宜上、処理主体をESCユニット20として説明する。
【0057】
ますESCユニット20は、トンネルフラグ信号S2、デイライトフラグ信号S3及びヘッドライトフラグ信号S4を更新し(SP31)、更新後の各種信号S2、S3、S4に基づいて、ナイトモードの条件が成立したか否かを判断する(SP32)。
【0058】
ESCユニット20は、ステップSP32の判断で肯定結果を得ると(SP32:Y)、ナイトモードフラグ信号S5を「1」に設定して(SP33)、本処理を終了する。これに対しESCユニット20は、ステップSP32の判断で否定結果を得ると(SP32:N)、ナイトモードフラグ信号S5を「0」に設定して(SP34)、本処理を終了する。
【0059】
図8は、車両状態安定化処理のフローチャートを示す。この処理は、ESCユニット20のCPU201(車両状態算出部22、姿勢制御部23)により車両状態を安定化させる処理であり、適宜実行される。説明の便宜上、処理主体をESCユニット20として説明する。
【0060】
まずESCユニット20は、車輪速信号S6、姿勢信号S7及び舵角信号S8に基づいて、通常昼間に用いる目標ヨーレートを算出する(SP41)。次いでESCユニット20は、ナイトモードフラグ信号S5に基づいて、ナイトモードであるか否かを判断する(SP42)。ESCユニット20は、この判断で否定結果を得ると(SP42:N)、ステップSP44に移行する。
【0061】
これに対しESCユニット20は、ステップSP42の判断で肯定結果を得ると(SP42:Y)、ステップSP41で算出した通常の目標ヨーレートと、夜間係数送信部221からの夜間係数とを乗算して、目標ヨーレートを補正する(SP43)。
【0062】
次いでESCユニット20は、補正後の目標ヨーレート(夜間目標ヨーレートS9a)と、実際のヨーレートとの差分を算出し(SP44)、差分に基づいて、車両がオーバーステアの状態であるか否かを判断する(SP45)。
【0063】
ESCユニット20は、ステップSP45の判断で否定結果を得ると(SP45:N)、車両がアンダーステアの状態であるか否かを判断する(SP46)。ESCユニット20は、ステップSP46の判断でも否定結果を得ると(SP46:N)、すなわち車両がオーバーステアでもアンダーステアでもない場合、本処理を終了する。
【0064】
これに対しESCユニット20は、ステップSP45又はS46の判断で肯定結果を得ると(SP45:Y、SP46:Y)、ナイトモードフラグ信号S5に基づいて、ナイトモードであるか否かを判断する(SP47)。
【0065】
ESCユニット20は、ステップSP47の判断で否定結果を得ると(SP47:N)、ステップSP49に移行する。これに対しESCユニット20は、ステップSP47の判断で肯定結果を得ると(SP47:Y)、車両の状態(オーバーステア又はアンダーステア)に応じて、PID制御のP値及びD値に対する加算値S9bを算出する(SP48)。
【0066】
そしてESCユニット20は、PID制御によるP値及びD値に対して加算値S9bを加算することにより制御量を算出し(SP49)、制御量を四輪に分配することでブレーキトルクを個別に制御して(SP50)、本処理を終了する。
【0067】
以上のように本実施の形態によれば、オートライトユニット10からのトンネルフラグ信号S2、デイライトフラグ信号S3、ヘッドライトフラグ信号S4に基づいて、車両がトンネル走行中でなく、かつ、夜間である外部環境を検知し、または、車両がトンネル走行中に昼間から夜間に変化した外部環境を検知し、この夜間であることを示す外部環境に応じて、ESCに関する制御動作を昼間用から夜間用に切り替えるようにした。
【0068】
具体的には夜間である場合、夜間係数を用いて目標ヨーレートを夜間目標ヨーレートS9aに補正し、PID制御のP値及びD値に対して一定量の加算値S9bを加算するようにして、制御動作を昼間用から夜間用に切り替えるようにした。これにより、昼間よりも車両の安定性が損なわれる頻度が多い夜間において、ブレーキの効きを向上させて車両の安定性をより向上させることができる。