(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜特許文献3に示されているように、車載カメラで撮影した映像に基づいて車両上で様々な状況を認識し、認識結果を記録したり、認識結果を利用して運転を支援することができる。しかし、映像をリアルタイムで認識するためには膨大な量の画像データを短時間で処理しなければならないので、高性能の高価なCPU等のハードウェアを搭載して画像を処理しない限り、認識に遅延が発生したり、認識が困難な状況が発生する可能性が懸念される。
【0008】
また、特許文献1の技術では追い越しをかけてくる他の車両の状況を検出できるが、自車両が走行レーン(車線)を変更する際の自車両運転手の運転操作の問題を認識することはできない。具体的には、自車両が走行レーンを変更し、他車両の前方に割り込んだような場合に、自車両と他車両との車間距離が接近しすぎるような危険な運転状況を検知できない。このような割り込みの場合は、割り込まれた後方の他車両の運転手が慌てて急ブレーキを掛ける可能性もあり、運転のマナー違反として他車両に迷惑をかけるだけでなく、接触事故等を引き起こす原因になる。
【0009】
また、特許文献2の技術では自車両が車線変更する際に、接近する他車両に関する警報を出力できるが、自車両が他車両を追い越してから、自車両が車線変更して前記他車両の前に割り込むような運転状況は検知できない。
【0010】
また、特許文献3の技術では自車両が車線変更する際に、運転手の方向指示器操作が時間的に適切か否かを評価できるが、自車両の運転手が車線変更して危険な割り込みを行ったか否かを評価することはできない。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自車両の後方の映像を処理して運転状況を把握しようとする際に、処理の遅延の発生を抑制すると共に、自車両の割り込み等の運転操作の問題の把握が可能な車載器および運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載器および運転支援装置は、下記(1)〜(
3)を特徴としている。
(1) 少なくとも車両の後方を撮影する車載カメラが出力する映像信号を入力して処理する画像処理部と、
前記車両が前進方向に走行しているときに、前記車載カメラの撮影した後方映像に基づき、画像フレーム内に事前に割り当てた検知枠の範囲内で、前記車両以外の移動体を検知する後方移動体検知部と、
前記後方移動体検知部が検知した移動体についてデータが記録されるよう制御する出力処理部と、
を備え、
前記後方移動体検知部は、複数の走行レーンが存在する道路を前記車両が走行している状態においては、前記車両が走行している走行レーンの右側に隣接する走行レーンを走行している移動体を検知するための前記検知枠と、前記車両が走行している走行レーンの左側に隣接する走行レーンを走行している移動体を検知するための前記検知枠とを、専用検知枠として同時に利用
し、
前記出力処理部は、
前記車両の車線変更の有無を判定し、
前記車線変更有と判定された場合には、前記専用検知枠で検知した前記移動体の有無に基づいて、前記車線変更による前記移動体の前への割り込みを検知し、前記検知した割り込みを前記データとして記録し、
前記車線変更無と判定された場合には、前記データの記録を行わない、
ことを特徴とする車載器。
【0013】
上記(1)の構成の車載器によれば、後方移動体検知部は、画像処理の範囲を検知枠の範囲内に限定するので、処理の負荷が大幅に削減され、遅延の発生が防止される。また、適切な位置に検知枠を割り当てることにより、隣接レーンを走行し且つ自車両に近づいている後方の車両のように、危険性の高い位置に存在する後方の移動体を容易に検知可能になる。
【0015】
更に、上記(
1)の構成の車載器によれば、専用検知枠を利用することにより、隣接レーンを走行し且つ自車両に近づいている後方の車両のように、危険性の高い位置に存在する後方の移動体を容易に検知可能になる。
【0017】
更に、上記(
1)の構成の車載器によれば、自車両の運転手が行った危険性の高い割り込みの運転操作を認識できるので、例えば安全運転を支援するための警報出力に利用できる。また、記録した情報を解析した結果に基づき、運転手に対して安全運転の指導を行うことも可能になる。
【0018】
(
2) 前記出力処理部は、前記車両の車線変更回数および割り込み発生回数を記録し
、前記割り込み発生回数を前記車線変更回数で除した値に基づいて危険運転の傾向を評価する、
ことを特徴とする上記(1)
に記載の車載器。
【0019】
上記(
2)の構成の車載器によれば、前記車両の車線変更回数および割り込み発生回数の情報を評価するので、運転手が日常的に安全運転を行っているか否か等の傾向を把握することが可能になる。したがって、日常的に危険な運転を行う運転手に対して警報を出力したり、安全運転の指導が必要な運転手を特定することが可能になる。
【0020】
(
3) 上記(1)
又は(2)に記載の車載器と、
前記後方移動体検知部が検知した移動体について、前記車両の安全運転を支援する警報を生成する警報生成部と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【0021】
上記(
3)の構成の運転支援装置によれば、例えば自車両の車線変更による割り込み等の危険性の高い運転に対して警報を出力できるので、安全な運転を支援することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車載器および運転支援装置によれば、自車両の後方の映像を処理して運転状況を把握しようとする際に、処理の遅延の発生を抑制することができる。また、自車両の車線変更による割り込み等の運転操作の問題の把握が可能になる。
【0023】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
<システムの構成および動作の概要>
本発明の実施の形態における運行管理システム5の構成例を
図1に示す。
【0026】
図1に示した運行管理システム5は、トラック運送会社やバス会社等の事業者の設備として導入される。この運行管理システム5は、トラックやバス等の各車両の運行状況を管理するものであり、各車両に車載器として搭載された運行記録装置(以下、デジタルタコグラフという)10と、各事業者の事務所等に設置される事務所PC30とで構成されている。デジタルタコグラフ10と、事務所PC30との間は、ネットワーク70を介して通信できるように接続される。
【0027】
事務所PC30は、事務所に設置された汎用のコンピュータ装置で構成され、車両の運行状況を管理する。ネットワーク70は、デジタルタコグラフ10と広域通信を行う無線基地局8や事務所PC30が接続されるインターネット等のパケット通信網であり、デジタルタコグラフ10と事務所PC30と間で行われるデータ通信を中継する。デジタルタコグラフ10と無線基地局8との間の通信は、LTE(Long Term Evolution)/4G(4th Generation)等のモバイル通信網(携帯回線網)で行われてもよいし、無線LAN(Local Area Network)で行われてもよい。
【0028】
デジタルタコグラフ10は、車両に搭載され、出入庫時刻、走行距離、走行時間、走行速度、速度オーバー、エンジン回転数オーバー、急発進、急加速、急減速等の運行データを記録する。
【0029】
また、本実施形態のデジタルタコグラフ10は、上記の機能以外に、ドライブレコーダの機能および運転支援機能も搭載している。すなわち、デジタルタコグラフ10を搭載した車両の衝突等の異常な状況を検知した場合に、トリガ信号を出力し、このトリガに同期して画像を含むデータを一定時間だけ自動的に記録し保存することができる。また、例えば自車両が前進又はバック走行する際に、接近する移動体(他車両)を検知するとその警報を出力して運転を支援することができる。
【0030】
図1に示したデジタルタコグラフ10は、ハードウェアとして、CPU(マイクロコンピュータ)11、速度I/F(インタフェース)12A、エンジン回転I/F12B、外部入力I/F13、センサ入力I/F14、GPS受信部15、カメラI/F16、不揮発メモリ26A、揮発メモリ26B、記録部17、カードI/F18、音声I/F19、RTC(時計IC)21、SW入力部22、通信部24、表示部27、およびアナログ入力I/F29を内蔵している。
【0031】
CPU11は、予め組み込まれたプログラムに従い、デジタルタコグラフ10の各部を統括的に制御する。不揮発メモリ26Aは、CPU11によって実行される動作プログラムや、CPU11が参照する定数データやテーブルなどを予め保持している。不揮発メモリ26Aは、データの書き換えが可能なメモリであり、保持しているデータは必要に応じて更新できる。
【0032】
記録部17は、運行データや映像等のデータを記録する。カードI/F18には、乗務員が所持するメモリカード65が挿抜自在に接続される。CPU11は、カードI/F18に接続されたメモリカード65に対し運行データ、映像等のデータを書き込む。音声I/F19には、内蔵のスピーカ20が接続される。スピーカ20は、警報等の音声を発する。
【0033】
RTC21(計時部)は、現在時刻を計時する。SW入力部22には、出庫ボタン、入庫ボタン等の各種ボタンのON/OFF信号が入力される。表示部27は、LCD(liquid crystal display)で構成され、通信や動作の状態の他、警報等を表示する。
【0034】
速度I/F12Aには、車両の速度を検出する車速センサ51が接続され、車速センサ51からの速度パルスが入力される。車速センサ51は、デジタルタコグラフ10にオプションとして設けられてもよいし、デジタルタコグラフ10とは別の装置として設けられてもよい。エンジン回転I/F12Bには、エンジン回転数センサ(図示せず)からの回転パルスが入力される。
【0035】
外部入力I/F13の入力には、自車両のブレーキのオンオフを表すブレーキ信号、左右の方向指示器(ウインカー)の動作状態を表すウインカー信号、自動変速機の変速状態(前進/後退の区別を含む)を表す変速信号等が外部機器(図示せず)から印加される。
【0036】
センサ入力I/F14には、加速度(G値)を検知する(衝撃を感知する)加速度センサ(Gセンサ)28が接続され、Gセンサ28からの信号が入力される。Gセンサとしては、加速度による機械的な変位を、振動として読み取る方式や光学的に読み取る方式を有するものが挙げられるが、特に限定されない。また、Gセンサは、車両前方からの衝撃を感知する(減速Gを検知する)他、左右方向からの衝撃を感知しても(横Gを検知しても)よいし、車両後方からの衝撃を感知しても(加速Gを検知しても)よい。Gセンサは、これらの加速度を検知可能なように、1つもしくは複数のセンサで構成される。
【0037】
アナログ入力I/F29には、エンジン温度(冷却水温)を検知する温度センサ(図示せず)、燃料量を検知する燃料量センサ(図示せず)等の信号が入力される。CPU11は、これらのI/Fを介して入力される情報を基に、各種の運転状態を検出する。
【0038】
GPS受信部15は、GPSアンテナ15aに接続され、GPS(Global Positioning System)衛星から送信される信号の電波を受信し、現在位置(GPS位置情報)の情報を計算して取得する。
【0039】
カメラI/F16の入力には、複数の車載カメラ23、23Bが接続されている。本実施形態では、一方の車載カメラ23は自車両の進行方向前方の道路等の情景を撮影できる向きで固定した状態で車室内に設置されている。したがって、車載カメラ23が撮影する映像の中には、自車両の前方に存在する先行車両、走行中の走行レーン境界を表す白線、路面上の交通規制の標示(制限速度など)が現れる。また、他方の車載カメラ23Bは、自車両の後方の道路等の情景を撮影できる向きで固定した状態で車室内に設置されている。
【0040】
車載カメラ23、23Bは、例えば魚眼レンズを通して撮像される撮像面に例えば30万画素、100万画素、200万画素が配置されたイメージセンサを有する。イメージセンサは、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサやCCD(電荷結合素子)センサなど公知のセンサで構成されている。
【0041】
車載カメラ23、23Bがそれぞれ出力する映像の信号は、カメラI/F16の内部回路によって画素毎の階調や色を表すデジタル信号に変換され、フレーム毎の画像データとしてカメラI/F16から出力される。
【0042】
各車載カメラ23、23Bで撮影された映像(画像データ)は、記録部17の動作により時系列データとして記録されるが、所定時間分だけ記録されるように繰り返し上書きされる。この所定時間は、例えば事故発生時、事故の状況が分かるように、事故発生前後の数秒間(例えば、2秒、4秒、10秒等)に相当する時間である。カメラ23、23Bで撮像される画像は、静止画データの集合として記録してもよいし、動画のデータとして記録してもよい。事故発生前後の映像は、メモリカード65に保存され、更に事務所PC30の表示部33に表示される。
【0043】
また、本実施形態のデジタルタコグラフ10は、例えば以下に示す(1)〜(5)のような運転支援機能を搭載している。
(1)自車両と先行車両との車間距離が近すぎる場合に警報を出力する機能。
(2)自車両が走行中の走行レーンの範囲を逸脱した場合に警報を出力する機能。
(3)自車両の走行速度が路面標示の制限速度を超えた場合に速度超過の警報を出力する機能。
(4)自車両の前進時に後方から接近する他車両の存在を運転者に知らせる機能。
(5)自車両の後退時などの状況で周囲の障害物等の存在を運転者に知らせる機能。
【0044】
上記(1)〜(5)の各機能を実現するためには、各車載カメラ23、23Bで撮影された映像の画像データを処理して、所定の画像認識を行う必要がある。すなわち、画像認識により先行車両の位置及び距離を特定したり、走行レーン境界の白線と自車両との相対位置を検出したり、路面標示の制限速度を検出したり、後方の車両や様々な障害物を検出することが必要になる。画像認識は、一例として、前回撮影された映像と今回撮影された映像から、形状特徴の移動量と移動方向を抽出することにより行われる。
【0045】
上記のような画像認識は、CPU11が組み込まれたプログラムに従って所定の認識アルゴリズムを実行することにより実現できる。しかし、処理対象の画像のデータ量が多い場合には、画像認識に要するCPU11の負荷が非常に大きくなるので、リアルタイムでの処理が困難になり、検出の遅延が発生する可能性がある。特に、複数の車載カメラ23、23Bの映像を同時に処理したり、複数の認識対象を同時に検出するような場合には、遅延の発生が懸念される。そこで、本実施形態においては、画像認識を実行する際に、後述するように検知枠を設けて処理対象のデータ範囲を限定する。
【0046】
通信部24は、広域通信を行い、携帯回線網(モバイル通信網)を介して無線基地局8に接続されると、無線基地局8と繋がるインターネット等のネットワーク70を介して、事務所PC30と通信を行う。電源部25は、イグニッションスイッチのオン等によりデジタルタコグラフ10の各部に電力を供給する。
【0047】
一方、事務所PC30は、汎用のオペレーティングシステムで動作するPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。事務所PC30は、運行管理装置として機能し、CPU31、通信部32、表示部33、記憶部34、カードI/F35、操作部36、出力部37、音声I/F38及び外部I/F48を有する。
【0048】
CPU31は、事務所PC30の各部を統括的に制御する。通信部32は、ネットワーク70を介してデジタルタコグラフ10と通信可能である。また、通信部32は、ネットワーク70に接続された各種のデータベース(図示せず)とも接続可能であり、必要なデータを取得可能である。
【0049】
表示部33は、運行管理画面の他、事故映像やハザードマップ等を表示する。記憶部34は、デジタルタコグラフ10から受信した映像を表示したり車両の位置情報を地図上に表示するためのシステム解析ソフトウェア等、各種プログラムを保持している。
【0050】
カードI/F35には、メモリカード65が挿抜自在に装着される。カードI/F35は、デジタルタコグラフ10によって計測され、メモリカード65に記憶された運行データを入力する。操作部36は、キーボードやマウス等を有し、事務所の管理者の操作を受け付ける。出力部37は、各種データを出力する。音声I/F38には、マイク41及びスピーカ42が接続される。事務所の管理者は、マイク41及びスピーカ42を用いて音声通話を行うことも可能であり、車両の事故が発生した場合、救急や警察等への連絡を行う。
【0051】
外部I/F48には、外部記憶装置(ストレージメモリ)54が接続される。外部記憶装置54は、事故地点データベース(DB)55、運行データDB56、ハザードマップDB57を保持する。事故地点データベース(DB)55には、デジタルタコグラフ10から送信される、事故発生時の車両のGPS位置情報(緯度,経度)が登録される。運行データDB56には、運行データとして、出入庫時刻、速度、走行距離等の他、急加減速、急ハンドル、速度オーバー、エンジン回転数オーバー等が記録される。ハザードマップDB57には、過去に事故が発生した地点(事故地点)を表すマークが地図に重畳して記述された地図データが登録される。なお、このハザードマップには、天災等の災害が想定される地域や避難場所等が記述されてもよい。
【0052】
CPU31は、ハザードマップDB57から指定された地域(例えば、事故地点を含む地域)のハザードマップを読み出して表示部33に表示する際、事故地点DB55に登録された事故地点のデータを取得し、ハザードマップ上にこれらの事故地点を表すマークを重畳し、新たなハザードマップを生成する。事務所の管理者は、最新の事故地点を地図(ハザードマップ)上で即座に視認できる。
【0053】
<特徴的な機能の説明>
<動作例−1>
本発明の実施の形態におけるデジタルタコグラフ10の特徴的な動作例−1を
図2に示す。すなわち、
図2に示した動作をデジタルタコグラフ10のCPU11が実行することにより、自車両が前進している状態で、後方から接近する他車両を後方の映像から検知して、そのイベント情報を記録したり、その警報を出力して運転を支援することができる。
図2の動作について以下に説明する。
【0054】
車載カメラ23Bの撮影により得られる後方の映像をCPU11が処理する場合には、処理の負荷を軽減するために、処理対象の領域を各画像フレームの中で事前に定めた検知枠(複数)の各領域内のみに限定する。また、自車両の状況に応じて適切な検知枠をステップS11でCPU11が自動的に選択する。この処理については後で詳細に説明する。
【0055】
ステップS12では、CPU11が後方の映像について、S11で選択した各検知枠の範囲内で画像データを処理して所定の画像認識を実行する。これにより、自車両の前進時に、後方に存在する他車両等の移動体を検知できる。また、各検知枠の範囲内で移動体を検知した場合には、そのサイズの変化や自車両との相対位置の変化を監視することにより、接近する移動体か否かを識別することができる。また、自車両との距離が近い範囲を監視するための特定の検知枠を使用する場合には、この検知枠内で検出した移動体を無条件で「接近する移動体」とみなしてもよい。
【0056】
自車両の前進時に後方の映像に基づいて「接近する移動体」を検知した場合には、CPU11はS13からS14の処理に進む。そして、CPU11は後方から自車両に接近する移動体(他車両)が存在することを表す警報を、例えば音声メッセージとしてスピーカ20から出力して運転手に報知し安全運転を支援する。これと同時に、CPU11は「接近する移動体」を検知したことを表すイベント情報を例えばメモリカード65上に記録する(S14)。
【0057】
<検知枠の選択>
図2のS11でCPU11が実行する「検知枠の選択」処理の具体例を
図3に示す。この処理により、状況に応じて適切な検知枠を自動的に選択することができる。
図3の処理について以下に説明する。
【0058】
ステップS21では、CPU11は例えば自動変速機の変速状態を表す信号を参照することにより、自車両の前進/後退を識別する。自車両が前進状態であればS21からS22に進み、後退状態であればS25に進む。
【0059】
ステップS22では、CPU11は前進用として事前に割り当てられた検知枠(複数)を選択する。また、ステップS25ではCPU11は後退用として事前に割り当てられた検知枠(複数)を選択する。
【0060】
ステップS23では、CPU11は自車両が現在走行中の道路に走行レーンが複数存在する状態か否かを識別する。例えば、自車両の現在位置と道路地図情報とに基づいて特定した道路の情報として走行レーンの数を取得してもよいし、車載カメラ23、又は23Bの映像の認識結果に基づいて走行レーンの数を特定してもよい。また、高速道路を走行している場合のように車速が所定以上の場合には、複数の走行レーンが存在するとみなしてもよい。
【0061】
走行レーンが複数の場合には、CPU11はS23からS24の処理に進み、前記検知枠として、複数の走行レーンを識別するための事前に定めた専用検知枠を選択する。この専用検知枠を利用することにより、それぞれの走行レーンを走行している移動体の有無を個別に検出することが可能になる。
【0062】
<検知枠の具体例>
自車両がバック走行する状態で得られる後方映像の画像フレーム100Aと各検知枠との関係の例を
図4(a)に示す。また、自車両が前進走行する状態で得られる後方映像の画像フレーム100Bと各検知枠との関係の例を
図4(b)に示す。
【0063】
図4(a)に示した画像フレーム100Aにおいては、このフレーム内の互いに異なる位置に、7つの互いに独立した矩形の検知枠F11、F12、F13、F14、F15、F16、F17が割り当ててある。
【0064】
すなわち、自車両が後退する場合には、
図4(a)に示した各検知枠F11〜F17のように、後方の映像における様々な箇所、つまり自車両後方周辺と進行方向先にそれぞれ注目することにより、画像フレームの全体を監視しなくても、後退時における安全を十分に確保できる。
【0065】
また、
図4(b)に示した画像フレーム100Bにおいては、このフレーム内の互いに異なる位置に、2つの互いに独立した矩形の検知枠F21、F22が割り当ててある。例えば、高速道路のように複数の走行レーンが隣接する状態で存在する道路を自車両が通常の状態で前進方向に走行している場合には、
図4(b)のような後方の映像が撮影されるので、走行レーン毎に個別に移動体を検出できるように複数の検知枠F21、F22を割り当てる。
【0066】
図4(b)において、左側の検知枠F21は、自車両が走行している走行レーンの右側(後方映像における左側)の隣接走行レーンを走行している他車両を検知するための専用の領域である。また、右側の検知枠F22は、自車両が走行している走行レーンの左側(後方映像における右側)の隣接走行レーンを走行している他車両を検知するための専用の領域である。
【0067】
図4(a)中の検知枠F11〜F17、および
図4(b)中の検知枠F21、F22の数、フレーム内の位置および大きさの各パラメータは、例えば車載カメラ23Bを自車両に取り付けた直後に、CPU11が実行可能な調整用のソフトウェアを用いて作業者により調整され、不揮発メモリ26A上に定数データとして記憶される。
【0068】
例えば、
図3に示した「検知枠の選択」処理をCPU11が実行する場合には、自車両がバック走行するときには、S25で
図4(a)に示した各検知枠F11〜F17の組合せが選択される。また、自車両が高速道路などで前進方向に走行しているときには、S24で
図4(b)に示した検知枠F21、F22の組合せが選択される。
【0069】
したがって、CPU11が
図2に示したS12で後方の映像を画像認識する際には、
図4(a)に示した画像フレーム100A内の各検知枠F11〜F17の内側、又は
図4(b)に示した画像フレーム100B内の各検知枠F21〜F22の内側の領域だけが処理対象になる。したがって、画像フレーム100A、100Bの全体の領域を処理対象とする場合と比べて、CPU11の負荷が大幅に低減され、処理の所要時間が短縮される。
【0070】
更に、事前に定めた検知枠の範囲内だけを処理することにより、重要な対象物の検出が容易になる。例えば、自車両の運転者が前進走行中に注意すべき後方から接近する重要な他車両の存在の有無を、
図4(b)に示した検知枠F21、F22の領域内の情報だけで容易に判定できる(S13)。
【0071】
<走行レーンと検知領域との関係の具体例>
自車両caが複数の車線(走行レーン)を有する道路200を走行する場合の後方の各車両検知領域ARL、ARRの例を
図5に示す。
図5に示した例では、3つの独立した走行レーン200L、200M、200Rが隣接して存在している道路200上を、自車両caが矢印で示すように前方に向かって走行している場合を想定している。
【0072】
自車両caに搭載したデジタルタコグラフ10のCPU11が、車載カメラ23Bの映像の中で、
図4(b)に示した検知枠F21の範囲内で画像認識を実行することにより、
図5に示した走行レーン200R内の車両検知領域ARRの範囲内のみを認識対象とすることができる。また、CPU11が車載カメラ23Bの映像の中で、
図4(b)に示した検知枠F22の範囲内で画像認識を実行することにより、
図5に示した走行レーン200L内の車両検知領域ARLの範囲内のみを認識対象とすることができる。
【0073】
一方、道路200上で自車両caが他車両cbの前方に割り込む場合の位置関係の例を
図6に示す。
図6に示した例では、他車両cbが走行レーン200Mを走行し、それに隣接する走行レーン200Rを走行している自車両caが、他車両cbの少し前方で車線変更(レーンチェンジ)して走行レーン200Mに移動し、割り込む場合を想定している。
【0074】
図6に示した状況においても、自車両caのデジタルタコグラフ10が
図4(b)の検知枠F22の範囲内を画像認識することにより、車両検知領域ARLで他車両cb等の移動体を検知できる。ここで、自車両caの運転手が危険性の高い割り込みの運転操作を行った場合には、車線変更の前後のタイミングにおいて、デジタルタコグラフ10が車両検知領域ARLで他車両cbを検出することになる。つまり、デジタルタコグラフ10が車両検知領域ARL又はARRで他車両cbを検知した状態で、自車両caが車線変更した場合には、危険な運転であるとみなすことができる。
【0075】
<動作例−2>
本発明の実施の形態におけるデジタルタコグラフ10の特徴的な動作例−2を
図7に示す。
図7に示した動作例−2は、
図2に示した動作例−1の変形例であり、
図6に示したような危険な割り込みの運転操作を監視するための機能が追加されている。
【0076】
すなわち、
図7に示した動作をデジタルタコグラフ10のCPU11が実行することにより、自車両caが前進している状態で、自車両caが車線変更して他車両cbの前に割り込む運転操作を検知し、そのイベントを記録したり警報を出力することができる。
図7の動作について以下に説明する。
【0077】
図7のステップS31では、既に説明した
図3の「検知枠の選択」処理をCPU11が実行する。つまり、自車両の状況に応じて適切な検知枠をCPU11が自動的に選択する。例えば、自車両caが前進状態で且つ高速道路のように複数の走行レーンを有する道路を走行している場合には、
図4(b)に示した検知枠F21、F22の組合せが、画像データの処理対象の範囲として選択される。
【0078】
ステップS32では、CPU11は後方の映像について、S31で選択した各検知枠の範囲内で画像データを処理して移動体検知を実行する。これにより、例えば
図6に示した状況において、自車両caに搭載されたデジタルタコグラフ10は、車両検知領域ARL(又はARR)内で他車両cb等の移動体が存在するか否かを判定できる。
【0079】
ステップS33では、CPU11は自車両caにおける車線変更の有無を識別する。具体的には、左右の方向指示器の各々の動作状態を表すウインカー信号の状態を監視し、いずれか一方のウインカー信号がオフからオンに切り替わった時点で、車線変更の運転操作が開始されたものとみなす。車線変更が開始された場合には、CPU11はS33からS34の処理に進む。
【0080】
ステップS34では、CPU11は自車両caにおける危険な割り込みの運転操作(車間距離が小さすぎる)を検知したか否かを識別する。例えば、
図6に示した自車両caにおいて、デジタルタコグラフ10がS32の画像認識で、検知枠F22の範囲内の移動体を検知した場合には、
図6に示した車両検知領域ARLの範囲内に他車両cb等が存在することになり、危険性の高い割り込みの運転操作とみなされる。
【0081】
CPU11は、危険性の高い割り込みを検知した場合には、次のS35で警報音又は音声メッセージをスピーカ20から出力し、危険であることを運転手に報知する。
【0082】
ステップS36では、CPU11はS33で検知した自車両caの車線変更のイベント情報、およびS34で検知した危険な割り込みのイベント情報を、イベントの種類、時刻、現在位置などと共にメモリカード65に記録する。また、車線変更のイベントが発生した回数Na、および危険な割り込みのイベントが発生した回数Nbの情報を履歴として記録又は更新(カウントアップ)する。
【0083】
ステップS37では、CPU11はS36で記録した車線変更の回数Naと、割り込みの回数Nbとに基づいて、危険運転の傾向を表す値Vxを次式により算出する。
Vx=Nb/Na
【0084】
ステップS38では、CPU11はS37で算出した値Vxを所定の閾値と比較することにより、自車両の運転手について日常的に危険運転の傾向があるか否かを識別する。そして、危険運転の傾向がある場合には次のS39で特別な警報をCPU11が出力する。
【0085】
つまり、車線変更に伴う危険な割り込み運転の発生頻度(Vx)が所定以上の場合には、自車両の運転手に対して安全運転を行うように指導する必要があるとみなす。そして、例えば「割り込み運転は危険です、もっと車間距離を確保してから車線変更しましょう」のような音声メッセージをS39でCPU11が出力する。
【0086】
<デジタルタコグラフ10の利点>
上述のデジタルタコグラフ10は、車載カメラ23Bで撮影した後方の映像から他車両等の移動体を
図2のS12で認識する際に、S11で選択した各検知枠の範囲内のみを処理するので、画像認識の負荷を大幅に削減できる。そのため、例えば車載カメラ23の撮影した前方の映像をCPU11が同時に処理するような場合であっても、検出の遅延を抑制できる。
【0087】
しかも、
図3に示した「検知枠の選択」処理を実行することにより、状況に応じて位置やサイズが適切な検知枠を自動的に選択できるので、自車両の運転に影響を与える可能性のある重要な移動体を容易に認識できる。特に、高速道路のように複数の走行レーンが存在する道路200においては、走行レーン毎の専用の検知枠F21、F22を選択することにより、隣接する走行レーンを走行し且つ距離が近い他車両cbの有無を短時間で容易に検知できる。
【0088】
また、デジタルタコグラフ10が
図7に示した動作を実行する場合には、自車両caが他車両cbの前に割り込む危険な運転操作を自動的に検出し、そのイベントの情報をS36で記録することができる。また、S35で警報を出力することにより、運転者に注意を促して運転を支援することができる。更に、S37で車線変更回数および割り込み回数の履歴に基づいて危険な割り込み運転の傾向を把握して警報を出力できるので、安全運転の支援を効率的に行うことができる。また、運転手は、割り込み運転の際にS36、S39でデジタルタコグラフ10から出力される警報を認識することにより、車線変更時に自車両caと他車両cbとの車間距離が適切か否かを確認することができる。これにより、運転手が車線変更時のマナーを改善したり、自車両caと他車両cbとの接触事故の発生を削減するために役立つ情報が得られる。
【0089】
なお、例えば
図2のS14、
図7のS36で警報を出力する際に、これをトリガとしてドライブレコーダの記録機能が作動するように制御してもよいし、警報の情報を無線通信によりデジタルタコグラフ10から事務所PC30に送信してもよい。
【0090】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る車載器および運転支援装置の特徴をそれぞれ以下[1]〜[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 少なくとも車両の後方を撮影する車載カメラが出力する映像信号を入力して処理する画像処理部(カメラI/F16)と、
前記車両が前進方向に走行しているときに、前記車載カメラの撮影した後方映像に基づき、画像フレーム内に事前に割り当てた検知枠の範囲内で、前記車両以外の移動体を検知する後方移動体検知部(CPU11、S12)と、
前記後方移動体検知部が検知した移動体についてデータが記録されるよう制御する出力処理部(CPU11、S14)と、
を備えたことを特徴とする車載器(デジタルタコグラフ10)。
【0091】
[2] 前記後方移動体検知部は、複数の走行レーンが存在する道路を前記車両が走行している状態においては、前記車両が走行している走行レーンに隣接する他の走行レーンを走行している移動体を検知するための専用検知枠を前記検知枠として利用する(
図4(b)参照)、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車載器。
【0092】
[3] 前記出力処理部は、前記車両が車線変更して他の移動体の前に割り込む状況を、前記専用検知枠で検知した他の移動体の有無に基づいて認識し(S32〜S34)出力に反映する(S35、S36)、
ことを特徴とする上記[2]に記載の車載器。
【0093】
[4] 前記出力処理部は、前記車両の車線変更回数および割り込み発生回数を記録してそれらの情報を評価し(S37、S38)その結果を出力に反映する(S39)、
ことを特徴とする上記[2]又は[3]に記載の車載器。
【0094】
[5] 上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の車載器と、
前記後方移動体検知部が検知した移動体について、前記車両の安全運転を支援する警報を生成する警報生成部(CPU11、S14、S35、S39)と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置(デジタルタコグラフ10)。