特許 6974095 開放型圧縮機

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】6974095

(24)【登録日】2021年11月8日

(45)【発行日】2021年12月1日

(54)【発明の名称】開放型圧縮機

(51)【国際特許分類】

   F04C 29/02 20060101AFI20211118BHJP

【ＦＩ】

   F04C29/02 311L

【請求項の数】2

【全頁数】8

(21)【出願番号】特願2017-188765(P2017-188765)

(22)【出願日】2017年9月28日

(65)【公開番号】特開2019-65719(P2019-65719A)

(43)【公開日】2019年4月25日

【審査請求日】2020年9月18日

(73)【特許権者】

【識別番号】516299338

【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100149548

【弁理士】

【氏名又は名称】松沼 泰史

(74)【代理人】

【識別番号】100162868

【弁理士】

【氏名又は名称】伊藤 英輔

(74)【代理人】

【識別番号】100161702

【弁理士】

【氏名又は名称】橋本 宏之

(74)【代理人】

【識別番号】100189348

【弁理士】

【氏名又は名称】古都 智

(74)【代理人】

【識別番号】100196689

【弁理士】

【氏名又は名称】鎌田 康一郎

(74)【代理人】

【識別番号】100210572

【弁理士】

【氏名又は名称】長谷川 太一

(72)【発明者】

【氏名】宮本 善彰

(72)【発明者】

【氏名】佐藤 創

(72)【発明者】

【氏名】伊藤 隆英

(72)【発明者】

【氏名】野口 章浩

(72)【発明者】

【氏名】後藤 孝

(72)【発明者】

【氏名】後藤 秀作

【審査官】 嘉村 泰光

(56)【参考文献】

【文献】 特開２００３−０３５３７３（ＪＰ，Ａ）

【文献】 実公昭３２−００４２６３（ＪＰ，Ｙ１）

【文献】 特開２００９−１７４３７６（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｆ０４Ｃ ２３／００−２９／１２

Ｆ１６Ｊ １５／３２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

軸受により軸線回りに回転可能に支持された駆動軸を有し、該駆動軸の回転に伴って駆動されることで流体を圧縮する圧縮機本体と、
前記駆動軸の外周面に接触することで該圧縮機本体からの前記流体の漏洩をシールするシール部と、
前記圧縮機本体、及び前記シール部を覆うフロントハウジングと、を備え、
前記駆動軸の一端部には、前記フロントハウジングの外周部に軸受を介して回転自在に設置されたプーリが電磁クラッチを介して連結され、
前記シール部は、
前記軸線方向における前記圧縮機本体側に設けられた第一リップ部と、
前記軸線方向において前記第一リップ部を挟んで前記圧縮機本体とは反対側に設けられた第二リップ部と、
大気圧下で潤滑油を貯留する油ポットと、
該油ポットに接続され、前記軸線方向における前記第一リップ部の前記圧縮機本体とは反対側に潤滑油を供給する供給部と、
を備え、
前記油ポットは、前記フロントハウジングにおける前記プーリと前記軸線方向に隣接する部分の内部に埋没されている開放型圧縮機。

【請求項2】

前記供給部は、重力に基づく滴下によって前記潤滑油を供給する請求項１に記載の開放型圧縮機。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、開放型圧縮機に関する。

【背景技術】

【0002】

圧縮機の一種として、開放型圧縮機と呼ばれる装置が知られている。開放型圧縮機では、ハウジングの内部で回転自在に支持されている駆動軸の一端部をハウジングの外部に突出させ、外部からの駆動力をこの一端部に付加する。このため、駆動軸に沿ってハウジングの内外では差圧が発生する。この差圧に基づく流体の漏洩を目的として、駆動軸の外周面にはシール部が設けられる（例えば、下記特許文献１参照）。特許文献１に記載された開放型圧縮機では、シール部としてリップシールが採用されている。さらに、当該リップシールには、給油穴と給油溝を介して、ハウジング内を流通する流体に含まれたミスト状の潤滑油が供給される。これにより、リップシールの磨耗が低減される。

【0003】

上記のリップシールは二重構造を採ることが一般的である。具体的にはリップシールは、ゴム製の第一リップと、樹脂製の第二リップとを有している。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0004】

【特許文献1】特開２０１６−１５６３１０号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

しかしながら、上記特許文献１に係る装置では、潤滑油の給油穴が第一リップ側に設けられているのみである。このため、第二リップ側には潤滑油が十分に行き渡らず、当該第二リップに潤滑不良による磨耗を生じる。特に、運転状況により圧縮機内部が負圧になる場合や、吸入圧が低く潤滑油の循環量が少ない場合には、第二リップへの給油が阻害され潤滑不良の可能性が高まってしまう。加えて、上記特許文献１に係る装置では、ハウジング内を流通する流体に含まれた潤滑油（冷凍サイクル内を流通する潤滑油）を潤滑に用いているため、構造が複雑化する可能性もある。

【0006】

本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、より簡素な構成を有し、かつ安定的に運転することが可能な開放型圧縮機を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0007】

本発明の第一の態様によれば、開放型圧縮機は、軸受により軸線回りに回転可能に支持された駆動軸を有し、該駆動軸の回転に伴って駆動されることで流体を圧縮する圧縮機本体と、前記駆動軸の外周面に接触することで該圧縮機本体からの前記流体の漏洩をシールするシール部と、前記圧縮機本体、及び前記シール部を覆うフロントハウジングと、を備え、前記駆動軸の一端部には、前記フロントハウジングの外周部に軸受を介して回転自在に設置されたプーリが電磁クラッチを介して連結され、前記シール部は、前記軸線方向における前記圧縮機本体側に設けられた第一リップ部と、前記軸線方向において前記第一リップ部を挟んで前記圧縮機本体とは反対側に設けられた第二リップ部と、大気圧下で潤滑油を貯留する油ポットと、該油ポットに接続され、前記軸線方向における前記第一リップ部の前記圧縮機本体とは反対側に潤滑油を供給する供給部と、を備え、前記油ポットは、前記フロントハウジングにおける前記プーリと前記軸線方向に隣接する部分の内部に埋没されている。

【0008】

この構成によれば、油ポットから供給部に供給された潤滑油を第二リップ部に供給することができる。これにより、第二リップ部が磨耗する可能性を低減することができる。加えて、油ポットと供給部以外の装置を用いることなく、潤滑油を当該領域に供給することができる。これにより、装置の構成を簡素化することができる。
また、油ポットがフロントハウジングの内部に設けられることから、フロントハウジング周囲のスペースを節約することができる。

【0011】

本発明の第三の態様によれば、前記供給部は、重力に基づく滴下によって前記潤滑油を供給してもよい。

【0012】

この構成によれば、ポンプ等を用いることなく、潤滑油を供給することができる。これにより、装置の構成を簡素化することができる。

【発明の効果】

【0013】

本発明によれば、より簡素な構成を有し、かつ安定的に運転することが可能な開放型圧縮機を提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0014】

【図1】本発明の実施形態に係る開放型圧縮機の構成を示す断面図である。

【図2】本発明の実施形態に係る開放型圧縮機の要部拡大図である。

【発明を実施するための形態】

【0015】

本発明の実施形態について、図１と図２を参照して説明する。図１に示すように、本実施形態に係る開放型スクロール圧縮機（開放型圧縮機）１は、ハウジング２及びフロントハウジング３と、圧縮機本体１Ａと、シール部９と、潤滑油供給部１０と、を備えている。

【0016】

ハウジング２は軸線Ｘ方向に延びる円筒状をなしている。ハウジング２の一方側に形成された開口部２ａには、当該開口部２ａを塞ぐようにしてフロントハウジング３が取り付けられている。ハウジング２にフロントハウジング３が取り付けられることで、内部は密閉空間が形成される。この密閉空間には、圧縮機本体１Ａが収容される。ハウジング２の外周面には、流体（冷媒ガス）を密閉空間に流入させる吸入口２５と、圧縮機本体１Ａによって圧縮された流体を密閉空間から外部へ吐出する吐出口２４とが形成されている。

【0017】

圧縮機本体１Ａは、軸線Ｘに沿って延びる柱状の駆動軸６と、駆動軸６に連結されたスクロール圧縮部５と、を有している。駆動軸６は、フロントハウジング３にメイン軸受７及びサブ軸受８を介して回転自在に支持されている。駆動軸６の一端部はフロントハウジング３からシール部９を介して外部に突出している。駆動軸６の一端部には、フロントハウジング３の外周部に軸受２０を介して回転自在に設置されたプーリ１１が電磁クラッチ１２を介して連結されている。駆動軸６には、電磁クラッチ１２を介してプーリ１１を駆動する外部からの動力が伝達され、軸線Ｘ回りに回転する。

【0018】

より詳細には図２に示すように、電磁クラッチ１２は、駆動軸６に一体に設けられたアマチュア板１２Ａと、励磁されることでアマチュア板１２Ａとの間に磁力を発生させる電磁石Ｍと、を有している。アマチュア板１２Ａは、円筒状のボス部１２Ｂと、ボス部１２Ｂから軸線Ｘの径方向外側に張り出すアマチュア板本体１２Ｃと、を有している。

【0019】

電磁石Ｍは外部からの電力供給によって励磁された時、アマチュア板１２Ａを電磁石Ｍ側に引き付ける。これにより、プーリ１１とアマチュア板１２Ａとが当接し、プーリ１１の回転力はアマチュア板１２Ａに伝達される。即ち、アマチュア板１２Ａはプーリ１１と一体となって軸線Ｘ回りに回転する。

【0020】

一方で、電磁石Ｍが通電されていない場合には、プーリ１１の回転力はアマチュア板１２Ａには伝達されない。即ち、プーリ１１は空転状態となる。このような動作により、アマチュア板１２Ａ及び駆動軸６の動作が制御される。

【0021】

駆動軸６の他端部には、軸線Ｘの径方向に偏心したクランクピン１３が一体に設けられている。駆動軸６の他端部には、後述するスクロール圧縮部５の旋回スクロール１６がクランクピン１３を介して連結されている。

【0022】

スクロール圧縮部５は、駆動軸６によって駆動されることで、吸入口２５から流入する流体を圧縮して、吐出口２４から吐出する。スクロール圧縮部５は、固定スクロール１５と、旋回スクロール１６とを１８０°位相をずらして噛み合わせることにより、これら固定スクロール１５、及び旋回スクロール１６間に圧縮室１７が形成される。

【0023】

固定スクロール１５及び旋回スクロール１６は、端板１５Ａ，１６Ａと、それぞれの端板１５Ａ，１６Ａ上に設けられた渦巻き状ラップ１５Ｂ，１６Ｂと、を有している。固定スクロール１５の中心部には、圧縮した流体を吐出する吐出ポート１８が形成されている。固定スクロール１５は、ハウジング２の底面にボルト１９を介して固定されている。旋回スクロール１６は、駆動軸６のクランクピン１３に従動クランク機構１４を介して連結され、固定スクロール１５に対して公転旋回可能に支持されている。

【0024】

固定スクロール１５の端板１５Ａの外周部には、Ｏリング２１が取り付けられている。Ｏリング２１がハウジング２の内周面に密接することにより、ハウジング２の内部空間は、吐出チャンバー２２と吸入チャンバー２３とに区画される。吐出チャンバー２２は、吐出ポート１８と連通している。吐出チャンバー２２には、圧縮室１７から供給された流体（圧縮された冷媒ガス）が流れ込む。吸入チャンバー２３は、ハウジング２に形成された吸入口２５と連通している。吸入口２５を通じて取り込まれた低圧の流体は、吸入チャンバー２３を経て圧縮室１７内に吸入される。

【0025】

メイン軸受７は、駆動軸６を軸線Ｘ上で支持する。メイン軸受７は、後述するサブ軸受８よりもスクロール圧縮部５側に配置されている。メイン軸受７は、サブ軸受８よりも大きな外径を有する玉軸受である。

【0026】

サブ軸受８は、シール部９よりもスクロール圧縮部５側に配置されている。サブ軸受８は、メイン軸受７よりも小さな外径を有するニードル軸受である。

【0027】

シール部９は、駆動軸６の外周面に接触することで、圧縮機本体１Ａからの流体の漏洩をシールする。シール部９は、フロントハウジング３の内周面に取り付けられている。より詳細には図２に示すように、シール部９は、軸線Ｘ方向において相対的に圧縮機本体１Ａ側に設けられた第一リップ部９Ａと、第一リップ部９Ａに軸線Ｘ方向に隣接して設けられた第二リップ部９Ｂと、を有している。

【0028】

第二リップ部９Ｂは、軸線Ｘ方向において第一リップ部９Ａを挟んで圧縮機本体１Ａとは反対側に設けられている。第一リップ部はブタジエン等のゴムで形成されている。第二リップ部の材料として、例えばＰＴＦＥ（ポリテトラフルオロエチレン）が使用される。

【0029】

第一リップ部９Ａは、軸線Ｘ方向の一方側から他方側に向かうに従って、軸線Ｘの径方向外側から内側に向かって斜めに延びる断面を有する環状をなす。第一リップ部９Ａの他方側の端部は、駆動軸６の外周面に接触している。第二リップ部９Ｂも、軸線Ｘ方向の一方側から他方側に向かうに従って、軸線Ｘの径方向外側から内側に向かって斜めに延びる断面を有する環状をなす。第二リップ部９Ｂの他方側の端部は、駆動軸６の外周面に接触している。

【0030】

第二リップ部９Ｂを挟んで第一リップ部９Ａと反対側には、オイルシール９Ｃが設けられている。オイルシール９Ｃは、後述する潤滑油が駆動軸６に沿って外部に漏洩することを抑止するために設けられている。

【0031】

潤滑油供給部１０は、潤滑油を貯留する油ポット１０Ａと、油ポット１０Ａに接続された供給部本体１０Ｂ（供給部）と、を有している。油ポット１０Ａは、上述のフロントハウジング３の壁面に埋設されている。より具体的には、油ポット１０Ａは、フロントハウジング３におけるプーリ１１と軸線Ｘ方向に隣接する部分の内部に設けられている。詳しくは後述するが、油ポット１０Ａの潤滑油は、重力に基づいて下方に滴下される。このため、開放型圧縮機１を設置する際には、軸線Ｘが水平方向に沿うように開放型圧縮機１を配置した状態で、油ポット１０Ａが駆動軸６よりも上方に位置するように、その姿勢を管理する必要がある。

【0032】

供給部本体１０Ｂは、油ポット１０Ａの潤滑油を、第二リップ部９Ｂの近傍に供給する流路である。供給部本体１０Ｂの一端部は、油ポット１０Ａに接続されて軸線Ｘに交差する径方向に延びる基端側流路１０Ｂ１となっている。また供給部本体１０Ｂの他端部は、基端側流路１０Ｂ１に連通して軸線Ｘ方向に延びる終端側流路１０Ｂ２となっている。終端側流路１０Ｂ２は、フロントハウジング３の軸線Ｘ方向を向く端面から外部に開口している。開口部は不図示の蓋等で塞がれているとよい。油ポット１０Ａに対して、圧縮機本体１Ａの動作に基づく負圧や正圧は付加されない状態となっている。
また終端側流路１０Ｂ２から分岐するようにして、第二リップ部９Ｂの近傍で第二リップ部９Ｂに向かって延びる供給流路１０Ｂ３が設けられている。供給流路１０Ｂ３は、軸線Ｘ方向における第二リップ部９Ｂの圧縮機本体１Ａとは反対側に開口している。
供給部本体１０Ｂは配管であってもよいし、フロントハウジング３の壁面内に直接形成された流路であってもよい。

【0033】

油ポット１０Ａに貯留された潤滑油は、自身に作用する重力に基づいて下方に流れた後、上記の供給部本体１０Ｂを通じて、第二リップ部９Ｂの近傍に導かれる。これにより、第二リップ部９Ｂと駆動軸６の外周面との間に潤滑油が供給される。

【0034】

以上説明したように、上記の構成によれば、油ポット１０Ａから供給部本体１０Ｂに供給された潤滑油を、供給流路１０Ｂ３を通じて軸線Ｘ方向における第二リップ部９Ｂの圧縮機本体１Ａとは反対側の領域に供給することができる。これにより、第二リップ部９Ｂが磨耗する可能性を低減することができる。加えて、油ポット１０Ａと供給部本体１０Ｂ以外の装置を用いることなく、潤滑油を当該領域に供給することができる。これにより、装置の構成を簡素化することができる。

【0035】

さらに、上記の構成によれば、油ポット１０Ａがフロントハウジング３の内部に設けられることから、フロントハウジング３周囲のスペースを節約することができる。

【0036】

加えて、上記の構成によれば、供給部本体１０Ｂは、重力に基づく滴下によって前記潤滑油を供給することから、ポンプ等の他の圧力装置を用いることなく、潤滑油を供給することができる。これにより、装置の構成を簡素化することができる。

【0037】

以上、本発明の実施形態について説明した。なお、上記の構成は一例であり、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、フロントハウジング３の内部に油ポット１０Ａを設ける構成を例に説明した。しかしながら、油ポット１０Ａの態様は上記に限定されず、フロントハウジング３の外側に油ポット１０Ａを設ける構成を採ることも可能である。

【0038】

さらに潤滑油を供給する位置は、第一リップ部９Ａよりも大気側、即ち、潤滑油を供給する位置は、第一リップ部９Ａに対して軸線Ｘ方向における圧縮機本体１Ａとは反対側の領域であればよく、第一リップ部９Ａと第二リップ部９Ｂとの間の領域であってもよい。

【0039】

また、例えば供給部本体１０Ｂを潤滑油で満たした状態で、少しずつ重力によって第二リップ部に供給するようにしてもよい。

【符号の説明】

【0040】

１ 開放型圧縮機
１Ａ 圧縮機本体
２ ハウジング
２ａ 開口部
３ フロントハウジング
５ スクロール圧縮部
６ 駆動軸
７ メイン軸受
８ サブ軸受
９ シール部
９Ａ 第一リップ部
９Ｂ 第二リップ部
９Ｂ１ 外側第二リップ部
１０ 潤滑油供給部
１０Ａ 油ポット
１０Ｂ 供給部本体（供給部）
１０Ｂ１ 基端側流路
１０Ｂ２ 終端側流路
１０Ｂ３ 供給流路
１１ プーリ
１２ 電磁クラッチ
１２Ａ アマチュア板
１２Ｂ ボス部
１２Ｃ アマチュア板本体
１３ クランクピン
１４ 従動クランク機構
１５ 固定スクロール
１５Ａ 端板
１６ 旋回スクロール
１６Ａ 端板
１７ 圧縮室
１８ 吐出ポート
２０ 軸受
２１ Ｏリング
２２ 吐出チャンバー
２３ 吸入チャンバー
２４ 吐出口
２５ 吸入口
Ｘ 軸線

【図1】

【図2】