(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974138
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】液体分析装置及び試料採取装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20211118BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20211118BHJP
G01N 1/00 20060101ALN20211118BHJP
【FI】
G01N1/10 J
G01N33/18 106A
!G01N1/00 101P
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-227727(P2017-227727)
(22)【出願日】2017年11月28日
(65)【公開番号】特開2019-95412(P2019-95412A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年7月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
(72)【発明者】
【氏名】島田 勝久
【審査官】
岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04798798(US,A)
【文献】
特開2008−296179(JP,A)
【文献】
特開平11−174061(JP,A)
【文献】
特開2007−199078(JP,A)
【文献】
実開平07−008759(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44
G01N 35/00−37/00
G01N 33/18
C12M 1/24,1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母管を流れる測定対象液体から試料液を採取し、前記試料液の連続的な分析を行う液体分析装置であって、
前記試料液の分析を行う測定部と、
前記母管を流れる前記測定対象液体から前記試料液を採取する試料液採取部と、
前記試料液採取部で採取された前記試料液を前記測定部に送液する送液部と、
を有し、
前記試料液採取部は、筒状の液体流通部と、前記液体流通部の重力方向下方の端部に設けられて前記母管を流れる前記測定対象液体の一部を前記液体流通部の内部に導入する流入口と、前記液体流通部の重力方向上方の端部に設けられて前記液体流通部内に導入された前記測定対象液体が排水される流出口と、前記液体流通部の内部に開口して前記液体流通部の内部を流れる前記測定対象液体の一部を前記試料液として抜き出すことにより前記試料液を採取する抜き出し部と、前記流出口に接続して前記液体流通部の内部に背圧を加える弁と、を有し、前記流入口と前記流出口と前記抜き出し部とを除いて前記液体流通部が閉じている試料採取装置を備え、
大気圧よりも高い圧力で前記測定対象液体が前記液体流通部に通液される、液体分析装置。
【請求項2】
前記抜き出し部は、前記液体流通部内を延びる細管によって構成され、前記試料液は前記細管の先端に形成された開口から前記細管を通って抜き出される、請求項1に記載の液体分析装置。
【請求項3】
前記細管は、前記液体流通部における前記測定対象液体の流れ方向に平行に延びる、請求項2に記載の液体分析装置。
【請求項4】
前記細管の先端の開口の位置は、前記液体流通部の前記両端の一方から測って、前記両端間の距離の1/4以上3/4以下となる位置である、請求項3に記載の液体分析装置。
【請求項5】
前記液体流通部における前記測定対象液体の流路断面積は、前記流入口における前記測定対象液体の流路断面積と前記流出口における前記測定対象液体の流路断面積とのどちらよりも大きく、前記細管の内部における流路断面積は、前記流入口における前記測定対象液体の流路断面積と前記流出口における前記測定対象液体の流路断面積とのどちらよりも小さい、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の液体分析装置。
【請求項6】
前記測定部はフローインジェクション分析装置によって構成されている、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体分析装置。
【請求項7】
試料液の連続的な分析のために母管を流れる測定対象液体から前記試料液を採取するために用いられる試料採取装置であって、
筒状の液体流通部と、
前記液体流通部の重力方向下方の端部に設けられて前記母管を流れる前記測定対象液体の一部を前記液体流通部の内部に導入する流入口と、
前記液体流通部の重力方向上方の端部に設けられて前記液体流通部内に導入された前記測定対象液体が排水される流出口と、
前記液体流通部の内部に開口して前記液体流通部の内部を流れる前記測定対象液体の一部を前記試料液として抜き出すことにより前記試料液を採取する抜き出し部と、
前記流出口に接続して前記液体流通部の内部に背圧を加える弁と、
を有し、
前記流入口と前記流出口と前記抜き出し部とを除いて前記液体流通部が閉じ、
大気圧よりも高い圧力で前記測定対象液体が前記液体流通部に通液される、試料採取装置。
【請求項8】
前記抜き出し部は、前記液体流通部内を延びる細管によって構成され、前記試料液は前記細管の先端に形成された開口から前記細管を通って抜き出される、請求項7に記載の試料採取装置。
【請求項9】
前記細管は、前記液体流通部における前記測定対象液体の流れ方向に平行に延び、
前記細管の先端の開口の位置は、前記液体流通部の前記両端の一方から測って、前記両端間の距離の1/4以上3/4以下となる位置である、請求項8に記載の試料採取装置。
【請求項10】
前記液体流通部における前記測定対象液体の流路断面積は、前記流入口における前記測定対象液体の流路断面積と前記流出口における前記測定対象液体の流路断面積とのどちらよりも大きく、前記細管の内部における流路断面積は、前記流入口における前記測定対象液体の流路断面積と前記流出口における前記測定対象液体の流路断面積とのどちらよりも小さい、請求項8または9に記載の試料採取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質検査などのために液体を連続的に分析する液体分析装置と、そのような液体分析装置に適した試料採取装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象の液体から試料水などの試料液を採取し、試料液に含まれる目的成分を精度よくかつ連続的に定量することに対する要求がある。例えば、純水製造システムによって原水から純水を製造する場合、純水製造システムを構成するイオン交換装置や紫外線酸化装置によっては原水中の尿素を除去することが困難であるため、予め尿素を除去した原水を純水製造システムに供給する必要がある。尿素の除去方法として、次亜臭素酸を生成する薬剤(次亜臭素酸ナトリウムなど)を原水に添加して次亜臭素酸により尿素を選択的に酸化する方法が知られているが、このとき添加される薬剤も純水製造システムに対する負荷となるので、薬剤投入量は少なければ少ない方がよい。したがって原水中の尿素濃度を連続的に定量して尿素の除去処理の必要性を判断し、処理が必要な場合に適切な量の薬剤を投入することが望まれている。純水製造用の原水には、通常、工水、市水などが用いられており、季節変動などの影響により原水中の尿素濃度が変動し、超純水水質、特に有機物(TOC;Total Organic Carbon)濃度に影響を及ぼすため、尿素濃度の定量が行うことが必要となる。さらに、純水製造システムから得られた純水中に対するごく微量の尿素濃度の測定についても要求がある。
【0003】
尿素の定量法として、ジアセチルモノオキシムによる比色法に基づく定量法が知られており、例えば衛生試験法(非特許文献1)において記載されている。ジアセチルモノオキシムを用いる比色法では、反応を促進するなどの目的で他の試薬(例えば、アンチピリン+硫酸溶液、塩酸セミカルバジド水溶液、塩化マンガン+硝酸カリウムの水溶液、リン酸二水素ナトリウム+硫酸溶液など)を併用することができる。アンチピリンを併用する場合には、ジアセチルモノオキシムを酢酸溶液に溶解させてジアセチルモノオキシム酢酸溶液を調製し、アンチピリン(1,5−ジメチル−2−フェニル−3−ピラゾロン)を例えば硫酸に溶解させてアンチピリン含有試薬液を調製し、試料水に対してジアセチルモノオキシム酢酸溶液とアンリピリン含有試薬液とを順次混合し、波長460nm付近での吸光度を測定し、標準液との対照によって定量を行う。
【0004】
ジアセチルモノオキシムを用いた比色法による尿素の定量方法は、元来は例えばプール水や公衆浴場水における尿素の定量を目指して意図されたものであるので、純水製造システムに供給される原水中の尿素濃度の定量や、得られた純水中の尿素濃度を行うためには感度が低い。そこで特許文献1は、ジアセチルモノオキシムによる比色法に基づく定量法にフローインジェクション分析(FIA;flow injection analysis)を適用して吸光度を測定することにより、測定対象水から試料水をサンプリングしてppbから数ppmの濃度範囲で連続的にオンラインで尿素を定量する方法を開示している。
【0005】
ここでは、試料液中の目的成分の定量の例として、測定対象水から試料水をサンプリングして試料水中の尿素を連続的に測定する場合を説明したが、尿素以外の成分を連続的に測定することの需要もある。
【0006】
測定対象液体に含まれる目的成分を連続的に定量するためには、連続して流れる測定対象液体から検体すなわち試料液を連続的にサンプリングするための機構が重要となる。特許文献2には、FIA装置のために試料液を連続的にサンプリングする試料処理装置として、測定対象物質の濃度に応じた希釈倍率で測定対象液体を希釈し、希釈後の液を貯留容器に一時的に貯え、オートサンプラー用の試料採取針で貯留容器内の試料液を一定量吸い取ってFIA装置に供給するようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−338099号公報
【特許文献2】特開平6−289034号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本薬学会編、衛生試験法・注解1990.4.1.2.3(13)1(1990年版第4刷付追補(1995)、p1028)、1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載された試料処理装置は、比較的小さくかつ上部が開放した貯留容器に測定対象液体を導いてオートサンプラー用の試料採取針で試料液を採取するので、大流量で流れる測定対象液体から少量の試料液を安定してサンプリングするのには適していない。また、貯留溶液が開放容器であることから、オーバーフローのおそれがあり、採取される試料液へのコンタミネーションや気泡の混入のおそれがある。状況によっては試料採取針の洗浄が必要になる。
【0010】
本発明の目的は、大流量で流れる測定対象液体から安定して試料液を採取できるようにすることにより、長期にわたって連続的に安定して測定対象液体中の微量成分を定量できる液体分析装置と、そのような液体分析装置に適した試料採取装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の液体分析装置は、母管を流れる測定対象液体から試料液を採取し、試料液の連続的な分析を行う液体分析装置であって、試料液の分析を行う測定部と、母管を流れる測定対象液体から試料液を採取する試料液採取部と、試料液採取部で採取された試料液を測定部に送液する送液部と、を有し、試料液採取部は、筒状の液体流通部と、液体流通部の重力方向下方の端部に設けられて母管を流れる測定対象液体の一部を液体流通部の内部に導入する流入口と、液体流通部の重力方向上方の端部に設けられて液体流通部内に導入された測定対象液体が排出される流出口と、液体流通部の内部に開口して液体流通部の内部を流れる測定対象液体の一部を試料液として抜き出すことにより試料液を採取する抜き出し部と、を有し、前記流入口と前記流出口と前記抜き出し部とを除いて前記液体流通部が閉じている試料採取装置を備える。
【0012】
本発明の試料採取装置は、試料液の連続的な分析のために母管を流れる測定対象液体から試料液を採取するために用いられる試料採取装置であって、筒状の液体流通部と、液体流通部の重力方向下方の端部に設けられて母管を流れる測定対象液体の一部を液体流通部の内部に導入する流入口と、液体流通部の重力方向上方の端部に設けられて液体流通部内に導入された測定対象液体が排出される流出口と、液体流通部の内部に開口して液体流通部の内部を流れる測定対象液体の一部を試料液として抜き出すことにより試料液を採取する抜き出し部と、を有し、流入口と流出口と抜き出し部とを除いて液体流通部が閉じている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、母管から分流した測定対象液体が重力方向下方から重力方向上方へ流れる液体流通部を実質的に大気に開放しない空間として設け、この液体流通部に設けた開口から試料液を抜き出すので、大気からのコンタミネーションを防止し、かつ大流量で流れる測定対象液体から気泡を含むことなく安定して試料液を採取できるようになり、これによって長期にわたって連続的に安定して測定対象液体中の微量成分を定量できるようになる。また、高流速で通液できるため、試料液採取部内の液置換が短時間で行えるようになり、母管を流れる測定対象液体の分析、例えば母管を流れる原水の水質分析をほぼリアルタイムで実行することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の一形態の液体分析装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の液体分析装置の構成を示している。この液体分析装置は、母管20を流れる測定対象液体から試料液を採取し、試料液の連続的な分析を行う液体分析装置であって、試料液の分析を行う測定部100と、母管20を流れる測定対象液体から試料液を採取する試料液採取部200と、試料液採取部200で採取された試料液を測定部100に送液する送液部300と、を備えている。ここでは、純水製造に用いられる原水が母管20を流れているとして、母管20を流れる原水から試料水を採取して、フローインジェクション(FIA)分析により試料水に含まれる尿素を目的物質としてオンラインで連続的に定量する場合を例に挙げて説明する。したがって測定部100はFIA装置から構成されていることになる。もちろん、本発明での測定対象液体は純水製造用の原水に限られるものではなく、測定対象の目的物質の尿素に限られるものではなく、測定部100もFIA装置として構成されたものに限られるわけではない。
図1に示す液体分析装置は、FIAによる定量に際して検量線を自動的に設定する機能も備えている。
【0016】
純水製造に用いる原水が流れる母管20にはポンプP0が設けられており、原水はポンプP0によってある圧力を有して送水される。原水の母管20から分岐する配管21が設けられている。配管21は、測定対象液体である原水を母管20から試料液採取部200に供給するためのものであり、配管21において試料液採取部200までの区間の途中には、開閉弁22及び流量計FIが設けられている。本実施形態では、原水中の尿素濃度をオンラインで連続的に定量することとしているから、連続的な定量の期間中は開閉弁22は常時開とされる。
【0017】
試料液採取部200には、試料採取装置60と背圧弁61とが設けられている。試料液採取装置60の構成の詳細は
図2に示されている。試料採取装置60は、筒状の液体流通部81と、液体流通部81の重力方向下方の端部に設けられて母管20から分岐して配管21から流れる試料水を液体流通部81の内部に導入する流入口84と、液体流通部81の重力方向上方の端部に設けられて液体流通部81内に導入された試料水が排出される流出口85と、液体流通部81の内部に開口して液体流通部81の内部を流れる試料水の一部を送液部300を介して測定部100に供給するために抜き出す抜き出し部と、を備えるものである。流入口84、流出口85及び抜き出し部を除けば、液体流通部81は実質的に閉じている。
【0018】
図示したものでは、液体流通部81は円筒によって構成されており、この円筒の下端と上端に当たる部分にはそれぞれ下蓋82及び上蓋83が設けられ、下蓋82及び上蓋83によって、円筒である液体流通部81の両端が閉じられている。流入口84は下蓋82に設けられて液体流通部81の内部空間に対して開口している。また下蓋82には、流入口84と連通し、配管21との接続部となるジョイント86も設けられており、母管20から分岐し配管21を流れてきた試料水が、ジョイント86から流入口84を介して液体流通部81の内部空間に流れ込むようになっている。同様に流出口85は上蓋83に設けられて液体流通部81の内部空間に対して開口している。上蓋83には、流出口85と連通し、配管68との接続部となるジョイント87も設けられており、液体流通部81内に供給された試料水が配管68を介して排出されるようになっている。この構成では、流入口84から液体流通部21の内部に供給された試料水は、液体流通部81内を図示下方から上方へと流れる。このとき液体流通部21における試料水の流路断面積は、流入口84及び流出口85のどちらにもおける試料水の流路断面積よりも大きくなる。液体流通部81は実質的には大気に開放しない空間であり、母管から分流した測定対象液体が重力方向下方から重力方向上方へと液体流通部81内を流れる。液体流通部81を流れる試料水の線速は0.5cm/sec〜5cm/secとすることが好ましい。線速が低すぎると配管21及び流体流通部81内での試料水の置換に時間がかかり、実際に母管20を流れる原水水質との差が生じる。また線速が高すぎると流出口85からの排水量が過大となる。
【0019】
図示したものでは、流入口84及び流出口85は、それぞれ、下蓋82及び上蓋83に形成されるL字形に曲がった流路88,89を介してジョイント86,87に連通し、ジョイント86,87での流れの方向は液体流通部81内での試料水の流れの方向と直交する方向となっている。しかしながら、流入口84、流出口85及びジョイント86,87の配置はこれに限られるものではない。例えば、ジョイント86,87での流れ方向も液体流通部81内での試料水の流れ方向と平行となるように、液体流通部81内での試料水の流れ方向と平行に延びる流路を下蓋82及び上蓋83をそれぞれ貫通するように形成してもよい。さらには、下蓋82によって閉じられる位置の近傍において、液体流通部81を構成する筒状部材の側壁面に開口を設けてそこを流入口84とし、同様に、上蓋83によって閉じられる位置の近傍において液体流通部81の筒状部材の側壁面に開口を設けてそこを流出口85としてもよい。
【0020】
次に、抜き出し部について説明する。抜き出し部を構成する開口は、液体流通部81のいずれの位置に設けられていてもよいが、液体流通部81を流れる試料水から、送液部300を介して測定部100に供給される試料水を安定して採取するためには、抜き出される試料水の流量が液体流通部81を流れる試料水の流量よりも十分に小さいことが好ましい。このため抜き出し部に設けられる開口の流路断面積は、流入口84及び流出口85のどちらの流路断面積よりも小さいことが好ましい。本実施形態では、試料水に気泡が混入したりすることを防ぐために、上蓋83を貫通し、液体流通部81内での試料水の流れ方向に平行に延びる細管91を抜き出し部として使用している。細管91の先端開口93が、抜き出し部における開口となる。このとき、細管91の挿入位置は、液体流通部81での試料水の流れの中心部であること、すなわち、上蓋83の中心部を貫通することが好ましい。ここでは上蓋83側から細管91を液体流通部81の内部に挿入しているが、下蓋82側から細管91を挿入しても同じ効果が得られる。細管91を液体流通部81内に挿入することによって、例えば流入口84から微細な気泡が流入して液体流通部81の壁面に付着した際に、付着した気泡を細管91が吸い込むことを防止できる。
図2において、細管91が上蓋83を貫通する位置には、この位置からの液漏れを防ぐために、シール部材92が設けられている。下蓋82と上蓋83との間の液体流通部81の長さをLとすると、細管91の先端開口93の位置は、下蓋82の上面から測定してL/4から3L/4の位置にある。すなわち、細管91の先端開口93の位置は、液体流通部81の両端の一方から測って、両端間の距離の1/4以上3/4以下となる位置である。細管91の根元側(図示上端側)には配管65が接続し、細管91を介して抜き出された試料水は配管65を介して送液部300に送られる。
【0021】
ここでは、上蓋83あるいは下蓋82を貫通する細管91によって抜き出し部を構成するものとしたが、抜き出し部の構成はこれに限られるものではない。例えば、試料水の流れ方向に沿った液体流通部81の中央付近の位置で、液体流通部81を構成する筒状部材に貫通するように、試料水の流れ方向に対して直交する向きに細管を液体流通部81内に挿入して抜き出し部としてもよい。
【0022】
ここに示す試料採取装置60では、実質的に閉じた容器から試料水を採取することになるので、オーバーフローや大気からの試料水へのコンタミネーションのおそれがない。また、液体流通部81の内部で気泡が発生したとしても、その気泡は流出口85から速やかに外部に排出されることとなるので、細管91によって抜き出される試料水への気泡の混入のおそれがない。試料採取装置60を用いることにより、大流量で流れる測定対象液体から気泡を含むことなく安定して試料液を採取できるようにすることになり、これによって長期にわたって連続的に安定して測定対象液体中の目的成分を定量できるようになる。試料水への気泡の混入をより確実に防ぐためには、大気圧よりも高い圧力で液体流通部81の内部に試料水が供給されるようにすることが好ましい。
図1に示した試料液採取部200では、試料採取装置60の流出口85に接続する配管68に背圧弁61を設けることにより、液体流通部81の内部の圧力を高めている。背圧弁61は、圧力を調整できる圧力調整手段として設けられており、例えば、ボール弁、リリーフ弁などを用いてもよい。微細な気泡を含む試料水であっても、その気体の溶解度以上の圧力とすることで、液体流通部81への気泡混入を防止することができる。当然のことながら、背圧弁61の設定圧力は、母管20での原水の圧力よりも低い圧力とされる。測定対象液体の性状などにより気泡の発生の恐れがない場合には、背圧弁61を設けない構成とすることもできる。
【0023】
次に、送液部300について説明する。送液部300は、FIA装置で構成された測定部100に対し、試料液採取部200において原水から採取した試料水と既知量の目的物質(ここで示す例では尿素)を含有する標準液とのいずれかを選択して供給するものである。送液部300は、異なる濃度の標準液を貯える2つの容器62,63と、配管65を介して供給される試料水と標準液の容器62,63内にそれぞれ貯えられた標準液との中から1つを選択する選択弁64と、サンプリング弁10と、キャリア水を供給するためのポンプP1と、試料水などを吸引することによって試料水などをサンプリング弁10に供給するポンプP4と、を備えている。
【0024】
選択弁64は、配管65により供給される試料水、配管66を介して供給される容器62内の標準液、及び配管67を介して供給される容器63内の標準液のいずれか1つを選択して、サンプリング弁10に対し、選択弁64に接続する配管70を介してその選択された液体を供給するものである。ポンプP4を駆動することにより、選択弁64で選択された液体がサンプリング弁10に対して常時供給されることになる。ここで説明する例では、目的物質(ここでは尿素)の濃度が異なる2つの標準液を用意しているが、標準液の数は2に限定されるものではない。2次曲線などの曲線で検量線を表現したい場合などには、3種類以上の異なる濃度の標準液を用意する。単一の標準液のみを使用することも可能であるが、定量精度の観点からすると、濃度が異なる少なくとも2以上の標準液を使用することが好ましい。検量線を自動で設定する機能を必要としないときは、容器62,63や選択弁64を設けずに、試料水の配管65をサンプリング弁10の後述するポート2に直接接続すればよい。
【0025】
次に、サンプリング弁10について説明する。サンプリング弁10には、試料水または標準液のうちの選択弁64により選択されたものが供給されている。説明の簡素化のため、以下のサンプリング弁10に関する説明において試料水と呼ぶときは、標準液である場合も含むものとする。
【0026】
サンプリング弁10は、FIA法において試料液をFIA装置に供給するために一般的に用いられる構成のものであり、六方弁11とサンプルループ12とを備えている。六方弁11は、図示丸付き数字で示される6個のポートを備えている。選択弁64からの配管70はポート2に接続している。また、ポンプP1を介してキャリア水が供給される配管23がポート6に接続し、ポンプP4を介して試料水を排水するための配管25がポート3に接続している。ポート1とポート4との間には、所定容量の試料水を採取するためのサンプルループ12が接続している。ポート5には、サンプリング弁11の出口となる配管24の一端が接続している。キャリア水は、尿素を実質含まない水であり、例えば純水である。配管24は、測定部100内に設けられるものであるが、その一端が送液部300まで延びている配管である。
【0027】
六方弁11においてポートXとポートYとが連通することを(X−Y)と表すこととすると、六方弁11は、(1−2)、(3−4)、(5−6)である第1の状態と、(2−3)、(4−5)、(6−1)である第2の状態とを切り替えられるようになっている。
図1において、第1の状態でのポート間の接続関係は実線で示され、第2の状態でのポート間の接続は点線で示されている。第1の状態においてキャリア水は、配管23→ポート6→ポート5→配管24と流れてサンプリング弁10から下流側すなわち測定部100に流出する。試料水は、配管70→ポート2→ポート1→サンプルループ12→ポート4→ポート3と流れて配管25から排出される。この第1の状態から第2の状態に切り替わると、試料水は、配管70→ポート2→ポート3と流れて配管25から排出され、また、キャリア水は、配管23→ポート6→ポート1→サンプルループ12→ポート4→ポート5→配管24と流れ、下流側へ流出する。このとき、第1の状態であったときに既に流入してサンプルループ12内を満たしている試料水は、キャリア水に先立ってポート5から配管24へと流れ込み、サンプリング弁10から測定部100へと流れる。配管24に流れる試料水の体積すなわち測定部100での測定対象となる試料水の体積は、サンプルループ12によって規定される。したがって、第1の状態と第2の状態とを繰り返し切り替えることによって(例えば六方弁11を図示矢印方向に回転することによって)、所定容量の試料水を繰り返して測定部100に送り込むことができる。第1の状態と第2の状態との切り替えは、後述する反応に必要な滞留時間、測定部100に設けられる検出器32で尿素が検出されるまでの時間を考慮して、所定の時間ごとに行うことができる。また、検出器32に導入した試料水が検出器32から排出されたことを検知して切り替えを行うこともできる。このように、第1の状態と第2の状態との切り替えを自動的に行うようにすることで、尿素を連続的に定量することができる。
【0028】
次に、FIA装置である測定部100について説明する。本実施形態では、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法による尿素の定量に対してFIA法を適用する。そのため、尿素の定量に用いる反応試薬として、ジアセチルモノオキシム酢酸溶液(以下、試薬Aともいう)とアンチピリン含有試薬液(以下、試薬Bともいう)を使用する。ここではジアセチルモノオキシムと併用される試薬としてアンチピリン含有試薬液を用いる場合を説明するが、ジアセチルモノオキシムと併用される試薬はアンチピリン含有試薬液に限定されるものではない。試薬A及び試薬Bは、それぞれ、貯槽41,42に貯えられる。
【0029】
本発明者らは、これらの試薬を調製後、尿素の連続定量のために長期間(例えば数日間以上)にわたって室温に保持した場合に吸光度測定でのピーク強度が低下すること、及び、このピーク強度の低下は試薬(特に試薬B)を冷蔵することにより防ぐことができることを見出している。安定した定量を行うためには吸光度測定でのピーク強度が低下しないことが好ましいので、本実施形態での測定部100では、貯槽41,42を冷蔵部40内に設けている。試薬Aはジアセチルモノオキシムを酢酸溶液に溶解させて調製されるが、冷蔵部40を設ける場合には、調製自体を貯槽41で行う、あるいは、試薬Aをその調製後、貯槽41に貯えるようにする。同様に、試薬Bは、アンチピリンを例えば硫酸に溶解させて調製されるが、調製自体を貯槽42で行う、あるいは、試薬Bをその調製後、貯槽42に貯えるようにする。冷蔵部40は、貯槽41,42を遮光するとともに、貯槽41,42を冷却し、これによって、貯槽41,42内の試薬A、試薬Bの温度を20℃以下、好ましくは3℃以上20℃以下、より好ましくは5℃以上15℃以下に維持する。なお、試薬Aを貯える貯槽41については、遮光保管できるものであれば、必ずしも冷蔵部40内に配置する必要はない。試薬の冷蔵温度は、5℃未満であっても、試薬において結晶の析出が生じなければ差し支えない。衛生試験法(非特許文献1)には、アンチピリンを硫酸に溶解させたアンチピリン硫酸溶液について、褐色瓶に保管すれば2〜3箇月は使用できることと、結晶が析出し室温に戻しても再溶解しないため冷蔵保管は適さないこととが記載されているが、本発明者らは、衛生試験法にしたがって調整されたアンチピリン硫酸溶液は3℃でも結晶化しないことを実験により確認した。
【0030】
貯槽41には配管26の一端が接続し、配管26の他端は混合部43により配管24に接続している。配管26には、試薬Aを所定の流量で配管24に送り込むためのポンプP2が設けられている。同様に貯槽42には配管27の一端が接続し、配管27の他端は混合部44により、送液部300からの配管24に接続している。配管27には、試薬Bを所定の流量で配管24に送り込むためのポンプP3が設けられている。混合部43,44は、それぞれ、試薬A、試薬Bを配管24内の液体の流れに対して均一に混合する機能を有する。配管24の他端は、反応恒温槽30内に設けられた反応コイル31の入口に接続している。反応コイル31は、その内部においてアンチピリンの存在下での尿素とジアセチルモノオキシムとによる発色反応を起こさせるものであり、その長さと反応コイル31の内部での流速とは、反応に必要な滞留時間に応じて適宜に選択される。反応恒温槽30は、反応コイル31を反応に適した温度まで昇温するものであって、例えば、50℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上120℃以下の温度に反応コイル31を加熱する。
【0031】
反応コイル31の末端すなわち出口には、反応コイル31から流れ出る液を対象として、発色反応によって液中に生じた発色の吸光度を測定するための検出器32が設けられている。検出器32は、例えば、波長460nm付近での吸光度を測定して検出結果として出力する。検出器32の出口には、ポンプP1からサンプリング弁10、配管24及び反応コイル31を経て検出器32に至る管路に対して背圧を与える背圧コイル33が設けられている。検出器32の出口と背圧コイル33の入口との間の位置に対し、圧力計PIが接続している。背圧コイル33の出口から、このFIA装置の排液が流出する。
【0032】
本実施形態の液体分析装置では、上述のように六方弁11を駆動して第1の状態と第2の状態との間で切り替えを行い、また、選択弁64により試料水またはいずれかの標準液を選択するために、制御部50がさらに設けられている。制御部50には、検出器32での検出結果が入力する。制御部50は、選択弁64とサンプリング弁10(特に六方弁11)とを制御するとともに、選択弁64により標準液を選択したときの検出結果に基づいて検量線を算出し、試料水を選択したときには、算出した検量線に対して試料水に対する検出結果を当てはめることにより、試料水中の尿素濃度を決定して定量結果として出力する処理を行う。制御部50は、検量線の算出あるいは尿素濃度の決定に際しては、検出器32から入力する検出結果におけるピーク値(すなわちピーク強度)、あるいは、検出結果を時間について積分することによって得られるピーク面積を算出して使用する。その際、キャリア水が流れているときの吸光度をベースラインとし、このベースラインに対するピーク強度あるいはピーク面積を求めるようにする。
【0033】
次に、連続的に尿素の定量を行うときの検量線の算出について説明する。本実施形態の液体分析装置を用い、予め定めた時間間隔tで尿素濃度を測定することにより、長期間にわたって連続的に試料水における尿素濃度の測定を行う場合を考える。このとき、制御部50は、まず、選択弁64を制御して、容器62,63内の標準液が順次、サンプリング弁10に供給されるようにし、さらにサンプリング弁10を制御して、これら標準液についての測定を実行する。そして、各標準液について検出器32によって得られた検出結果に基づき、制御部50は検量線を算出する。続いて制御部50は、選択弁64を制御して試料水がサンプリング弁10に供給されるようにし、サンプリング弁10を制御して時間間隔tごとに試料水が配管24に導入されるようにする。制御部50は、試料水について検出器32から得られた結果を先に生成した検量線に当てはめることにより、試料水中の尿素濃度を決定し、定量結果として出力する。これにより、時間間隔tごとに尿素濃度が求められたことになる。
【0034】
連続的な定量を行う測定期間が長期間であって、その期間中での各試薬の変性や検出器32の検出特性の変動が懸念されるような場合には、制御部50は、検量線算出間隔T(ただしT≧t)ごとに、検量線を引き直す処理、すなわち検量線を再算出する処理を行う。検量線を再算出する処理では、制御部50は、試料水の測定に影響を及ぼさないタイミングで選択弁64を制御して標準液を選択し、その状態でサンプリング弁10を制御して標準液が配管24に導入されるようにする。そして、そのときの検出器32からの検出結果に基づいて、検量線を再算出する。検量線の再算出後は、再算出された検量線に基づいて試料水での尿素濃度を求めるようにする。本実施形態では、2種類の標準液を用いて検量線を算出するが、試料水の測定間隔tの間に両方の標準液についての測定を行うだけの時間を確保できない場合であれば、一方の標準液について測定を行い、続けて試料水の1回の測定を行い、その後、他方の標準液について測定を行って検量線を再算出すればよい。なお、標準液の消費を抑えるともに試料水の分析結果におけるタイムラグを避けるために、標準液について測定を行うために必要な期間以外の期間においては、選択弁64が試料水を選択するようにすることが好ましい。言い換えれば、刻々と変化する原水中の尿素濃度を遅滞なく知るためには、試料水を給送のためのポンプP4がサンプリング弁10の出口側に設けられていることも踏まえて、検量線設定のために最小限必要となる期間を除き、選択弁64が試料水を選択して試料水が配管70を流れるようにすることが好ましい。検量線算出間隔Tは、使用する試薬や測定部100の構成に応じ、任意に設定できるようにすることが好ましい。また、長期にわたる測定期間の途中でも検量線算出間隔Tを適宜に変更できるようにすることが好ましい。例えば、測定環境温度が異なる条件下では、吸光度測定におけるピーク強度の低下割合が異なる。検量線算出間隔Tは、測定開始直後は等間隔で設定し、検量線算出間隔T間の前後で算出された標準液のピーク強度の低下割合が一定の範囲を上回る場合は、検量線算出間隔Tを自動で短縮することができる。また検量線算出間隔T間の前後で算出された標準液のピーク強度の低下割合がある一定の範囲内に収まる場合は、検量線算出間隔Tを自動で延ばすことができる。検量線算出間隔Tを延ばすことにより、標準液の使用量を削減することが可能になる。なお検量線算出間隔Tは試料水の組成、性状によって異なる。
【0035】
本実施形態の装置では、上述した試料採取装置60を使用するとともにFIA法を利用するので、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法によって試料水中の尿素をオンラインで長期間にわたって連続的に測定することができ、しかもその期間中、試薬や装置における変動が起きたとしても検量線が自動的に再算出されるので、長期にわたって安定かつ高精度に尿素の定量を行うことができる。また、反応に用いる試薬A(ジアセチルモノオキシム酢酸溶液)及び試薬B(アンチピリン含有試薬液)として、特に試薬Bについて、それらの試薬の調製後、20℃以下に維持されたものを使用することにより、長期にわたって、より安定して尿素の連続的な定量を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0036】
20 母管
60 試料採取装置
61 背圧弁
81 液体流通部
82 下蓋
83 上蓋
84 流入口
85 流出口
91 細管
92 先端開口
100 測定部
200 試料液採取部
300 送液部