(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係る制御系のブロック線図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る制御装置の操作量算出部とリミット処理部と操作量出力部の動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る制御装置のFF上限値取得部と上限値変更部の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施例に係る制御装置のFF下限値取得部と下限値変更部の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、フィードフォワードを実行せずに温度制御した場合の制御量と操作量の変化の1例を示す図である。
【
図7】
図7は、フィードフォワードを実行せずに温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の1例を示す図である。
【
図8】
図8は、操作量上限値にフィードフォワード分の変更を施し、一定時間経過後に100%に戻した場合の制御量と操作量の変化の1例を示す図である。
【
図9】
図9は、操作量上限値にフィードフォワード分の変更を施し、一定時間経過後に100%に戻した場合の制御量と操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の制御量と操作量の変化の1例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の1例を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の制御量と操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の他の例を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の制御量と操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の他の例を示す図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の制御量と操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の他の例を示す図である。
【
図18】
図18は、操作量上限値の時間に関するパラメータを本発明の実施例よりも小さい値として温度制御した場合の制御量と操作量の変化の1例を示す図である。
【
図19】
図19は、操作量上限値の時間に関するパラメータを本発明の実施例よりも小さい値として温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の1例を示す図である。
【
図20】
図20は、操作量上限値の時間に関するパラメータを本発明の実施例よりも大きい値として温度制御した場合の制御量と操作量の変化の1例を示す図である。
【
図21】
図21は、操作量上限値の時間に関するパラメータを本発明の実施例よりも大きい値として温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の1例を示す図である。
【
図22】
図22は、フィードフォワードを実行せずに温度制御した場合の制御量と操作量の変化の1例を示す図である。
【
図23】
図23は、フィードフォワードを実行せずに温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の1例を示す図である。
【
図24】
図24は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の制御量と操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図25】
図25は、本発明の実施例に係る制御装置によって温度制御した場合の操作量下限値と操作量上限値の変化の他の例を示す図である。
【
図26】
図26は、本発明の実施例に係る制御装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図27】
図27は、複数の制御ループを備えた加熱装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の原理1]
オペレータによる任意の操作量加算分(減算分も含む)は、制御の構造としてはフィードフォワード分として位置付けることができる。
温調計のPID演算による操作量出力は、温調計で算出される操作量MVのみにより出力飽和を判断して、積分動作に対するアンチリセットワインドアップの処理が行なわれる。したがって、定常的に残留するフィードフォワード分をフィードバック分(PID演算による操作量MV)に加算したままにしておくと、温調計側では正常に機能しなくなるという課題を解決する必要がある。例えば、出力飽和には十分に余裕のある操作量MV=60%を温調計が出力しているときに、50%のフィードフォワード分が加算されると110%になり、100%を超える出力飽和状態になるが、温調計としてはアンチリセットワインドアップの処理が実行されないという不整合が発生する。
【0018】
そこで、発明者は、フィードフォワード分を操作量下限値OLあるいは操作量上限値OHに対して適用し、フィードバック分が操作量下限値OLと操作量上限値OHの範囲内に追従できる速度で操作量下限値OLあるいは操作量上限値OHを元の値に徐々に(段階的に,略連続的に)収束させれば、フィードフォワード分はフィードバック分への加算の構造ではなくなり、理論上はフィードバック制御のみの連続的な操作量MVが出力される制御として動作させられることに想到した。これにより、PID演算にとっての不都合は発生させずに済む。
【0019】
[発明の原理2]
操作量下限値OLあるいは操作量上限値OHの時間に関するパラメータTf(第1のパラメータ)を、PIDパラメータ(例えば積分時間Ti)に連動して自動決定する。これにより、操作量下限値OLあるいは操作量上限値OHのフィードフォワード分の変化が、制御の上下動が発生する際の周期と、概ね一致するように維持し易くできる。
【0020】
また、オペレータが設定するパラメータ値が、オペレータにとっての視覚的に分かり易い物理量に維持されるように、時間に関するパラメータTfに連動してフィードフォワードの大きさを規定するパラメータKx(第2のパラメータ)を自動変更するのが好適である。例えば、オペレータが設定するパラメータ値が、常にフィードフォワードの最大印加量に対応するように、各パラメータを内部処理することが考えられる。
【0021】
[発明の原理3]
フィードフォワード分は操作量下限値OLあるいは操作量上限値OHのステップ的な変更を意味するように指定させることで、オペレータがフィードフォワード分をマニュアル操作することが容易になる。また、この操作を自動的に再現するための指示内容も簡素化できる。
【0022】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。本実施例は、上記発明の原理1、発明の原理2、発明の原理3に対応する例である。ここでは、汎用フィードバックコントローラ(PID制御の温調計)への適用例として説明する。
【0023】
制御装置は、設定値SPと制御量PVとを入力としてPID制御演算により操作量MVを算出する操作量算出部1と、操作量算出部1で算出された操作量MVを操作量限界値(操作量下限値OL、操作量上限値OH)に基づいて制限するリミット処理を行なうリミット処理部2と、リミット処理された操作量MVを制御対象に出力する操作量出力部3と、フィードフォワードを実行しない通常の制御時に適用される操作量限界値の通常値のうち、操作量上限通常値OH_Rを予め記憶する通常上限値記憶部4と、フィードフォワードを実行しない通常の制御時に適用される操作量限界値の通常値のうち、操作量下限通常値OL_Rを予め記憶する通常下限値記憶部5と、操作量上限通常値OH_Rにフィードフォワード分の変更を施した値である操作量上限目標値OH_F(操作量限界目標値)を取得するFF(feedforward)上限値取得部6と、操作量下限通常値OL_Rにフィードフォワード分の変更を施した値である操作量下限目標値OL_F(操作量限界目標値)を取得するFF下限値取得部7と、操作量上限通常値OH_Rと異なる操作量上限目標値OH_Fを取得したときに、操作量上限目標値OH_Fに近づいた後に操作量上限通常値OH_Rへと徐々に収束する操作量上限値OHを算出してリミット処理部2に設定する上限値変更部8と、操作量下限通常値OL_Rと異なる操作量下限目標値OL_Fを取得したときに、操作量下限目標値OL_Fに近づいた後に操作量下限通常値OL_Rへと徐々に収束する操作量下限値OLを算出してリミット処理部2に設定する下限値変更部9とを備えている。
【0024】
通常上限値記憶部4と通常下限値記憶部5とは、通常限界値記憶部10を構成している。FF上限値取得部6とFF下限値取得部7とは、限界値取得部11を構成している。上限値変更部8と下限値変更部9とは、限界値変更部12を構成している。
図2は本実施例の制御系のブロック線図である。
図2のPは制御対象を示している。
【0025】
次に、本実施例の制御装置の動作を
図3〜
図5を参照して説明する。
図3は操作量算出部1とリミット処理部2と操作量出力部3の動作を示すフローチャート、
図4はFF上限値取得部6と上限値変更部8の動作を説明するフローチャート、
図5はFF下限値取得部7と下限値変更部9の動作を説明するフローチャートである。
【0026】
設定値SP(例えば温度設定値)は、制御装置のオペレータなどによって設定され、操作量算出部1に入力される(
図3ステップS100)。
制御量PV(例えば温度計測値)は、図示しない計測器(例えば被加熱物の温度を計測する温度センサ)によって計測され、操作量算出部1に入力される(
図3ステップS101)。
【0027】
操作量算出部1は、設定値SPと制御量PVとを入力として、制御量PVが設定値SPと一致するように、例えば以下の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MVを算出する(
図3ステップS102)。
MV=(100/Pb){1+(1/Tis)+Tds}(SP−PV)
・・・(1)
Pbは比例帯、Tiは積分時間、Tdは微分時間、sはラプラス演算子である。
【0028】
リミット処理部2は、操作量算出部1で算出された操作量MVを所定の操作量下限値OL以上の値に制限する下限リミット処理と、操作量MVを操作量上限値OH以下の値に制限する上限リミット処理とを行なう(
図3ステップS103)。
IF MV<OL THEN MV’=OL ・・・(2)
IF MV>OH THEN MV’=OH ・・・(3)
つまり、リミット処理部2は、操作量MVが操作量下限値OLより小さい場合、操作量MV’=OLとし、操作量MVが操作量上限値OHより大きい場合、操作量MV’=OHとする。
【0029】
操作量出力部3は、リミット処理部2でリミット処理された操作量MV’を制御対象に出力する(
図3ステップS104)。操作量MV’の出力先は、ヒータやバルブなどの操作部(不図示)である。ヒータの場合には、操作量MV’の実際の出力先は、ヒータに電力を供給する電力調整器(不図示)となる。
【0030】
制御装置は、
図3のステップS100〜S104の処理を例えばオペレータの指示によって制御が終了するまで(
図3ステップS105においてYES)、制御周期毎に実行する。
【0031】
次に、通常上限値記憶部4には、フィードフォワードを実行しない通常の制御時に適用する操作量上限値OH(以下、操作量上限通常値OH_R)が予め記憶されている。通常下限値記憶部5には、フィードフォワードを実行しない通常の制御時に適用する操作量下限値OL(以下、操作量下限通常値OL_R)が予め記憶されている。
【0032】
FF上限値取得部6は、操作量上限通常値OH_Rにフィードフォワード分の変更を施した値である操作量上限目標値OH_Fを取得する。具体的には、FF上限値取得部6は、外部から入力された操作量上限目標値OH_Fを取得するが、予め規定されたタイミングで通信により送られた値を取得する形態や、オペレータが入力機能を利用して適宜入力した値を取得する形態や、操作量算出部1に入力される設定値SPの変更に伴い自動生成される値を取得する形態などがある。
【0033】
FF下限値取得部7は、操作量下限通常値OL_Rにフィードフォワード分の変更を施した値である操作量下限目標値OL_Fを取得する。FF上限値取得部6と同様に、FF下限値取得部7は、外部から入力された操作量下限目標値OL_Fを取得する。操作量下限目標値OL_Fを取得する形態としては、FF上限値取得部6と同様に、予め規定されたタイミングで通信により送られた値を取得する形態や、オペレータが入力機能を利用して適宜入力した値を取得する形態や、操作量算出部1に入力される設定値SPの変更に伴い自動生成される値を取得する形態などがある。
【0034】
つまり、本実施例の制御装置が適用されるシステムにおいて、例えば制御中に想定される外乱を抑制するために、上位装置から制御装置に対して規定のタイミングまたは設定値SPの変更のタイミングで操作量上限目標値OH_F、操作量下限目標値OL_Fを自動的に入力したり、制御中にオペレータが操作量上限目標値OH_F、操作量下限目標値OL_Fを手動で入力したりすることが考えられる。
【0035】
上限値変更部8は、FF上限値取得部6が操作量上限通常値OH_Rと異なる操作量上限目標値OH_Fを取得したときに(
図4ステップS200においてYES)、操作量上限目標値OH_Fに近づいた後に操作量上限通常値OH_Rへと徐々に収束する操作量上限値OHを算出し(
図4ステップS201)、算出した操作量上限値OHをリミット処理部2に設定する(
図4ステップS202)。具体的には、上限値変更部8は、下記のような伝達関数式で操作量上限値OHを算出する。
OH=OH_R+{Kxs/(1+Tfs)
2}(OH_F−OH_R)
・・・(4)
【0036】
式(4)のTfは、操作量上限値OHの時間に関するパラメータである。上限値変更部8は、操作量算出部1に設定されているPIDパラメータ、具体的には積分時間Tiのα倍の値をTfとすればよい(Tf=αTi、所定値αは例えば0.1〜2.0)。これにより、操作量上限値OHのフィードフォワード分の変化が、制御の上下動が発生する際の周期と概ね一致するようになる。また、操作量上限値OHの変化の開始時点からフィードフォワード分が最大印加量に到達するまでの経過時間が、パラメータTfの時間に概ね一致するようになる(後述する
図11、
図13、
図15、
図17の操作量上限値OH)。
【0037】
式(4)のKxはフィードフォワードの大きさを規定するパラメータである。上限値変更部8は、パラメータTfのβ倍の値をKxとすればよい(Kx=βTf、所定値βは例えば2.75)。これにより、フィードフォワード分の最大印加量が、操作量上限目標値OH_Fに概ね一致するようになる(後述する
図11、
図13、
図15、
図17の操作量上限値OH)。
【0038】
一方、下限値変更部9は、FF下限値取得部7が操作量下限通常値OL_Rと異なる操作量下限目標値OL_Fを取得したときに(
図5ステップS300においてYES)、操作量下限目標値OL_Fに近づいた後に操作量下限通常値OL_Rへと徐々に収束する操作量下限値OLを算出し(
図5ステップS301)、算出した操作量下限値OLをリミット処理部2に設定する(
図5ステップS302)。具体的には、下限値変更部9は、下記のような伝達関数式で操作量下限値OLを算出する。
OL=OL_R+{Kxs/(1+Tfs)
2}(OL_F−OL_R)
・・・(5)
【0039】
上限値変更部8と同様に、下限値変更部9は、積分時間Tiのα倍の値をTfとすればよい(Tf=αTi、所定値αは例えば0.1〜2.0)。また、下限値変更部9は、パラメータTfのβ倍の値をKxとすればよい(Kx=βTf、所定値βは例えば2.75)。これにより、フィードフォワード分の最大印加量が、操作量下限目標値OL_Fに概ね一致するようになる。
【0040】
なお、FF上限値取得部6が操作量上限通常値OH_Rと異なる操作量上限目標値OH_Fを取得した後は、上限値変更部8は、操作量上限値OHの算出と設定を繰り返し実行する。操作量上限値OHは最終的には操作量上限通常値OH_Rに収束する。同様に、FF下限値取得部7が操作量下限通常値OL_Rと異なる操作量下限目標値OL_Fを取得した後は、下限値変更部9は、操作量下限値OLの算出と設定を繰り返し実行する。操作量下限値OLは、最終的には操作量下限通常値OL_Rに収束する。
【0041】
本実施例で採用している式(4)、式(5)の伝達関数は、上記発明の原理1、発明の原理2に適合する典型例であり、これに限られない。例えば伝達関数の分母の2次遅れを同一の時定数Tfにしているが、異なる時定数に変更することや、次数を変更することは可能である。また、時定数の次数やバランスの選び方に応じて係数βを調整すれば、必ず発明の原理2に適合させられる。
【0042】
本実施例におけるFF上限値取得部6と上限値変更部8の構成、あるいはFF下限値取得部7と下限値変更部9の構成であれば、オペレータが入力機能を利用して、任意のタイミングにて操作量下限値OLあるいは操作量上限値OHのステップ的な変更を意味するように指定すれば、本発明のフィードフォワードの処理を適切に開始できる。すなわち、発明の原理3に該当する。
【0043】
以下、シミュレーションにより本実施例の効果を検証する。以下の例では、制御対象を、プロセスゲインKp=8、プロセス時定数Tp=200秒、プロセスむだ時間Lp=50秒の1次遅れ伝達関数で近似できる加熱制御系とする。すなわち、制御対象のモデル数式Gpは次式のように記述できる。
Gp=Kpexp(−Lps)/(1+Tps) ・・・(6)
【0044】
また、操作量算出部1に設定されるPIDパラメータを、比例帯Pb=200℃、積分時間Ti=150秒、微分時間Td=0秒(すなわちPI制御)とし、設定値SPを100℃から350℃に変更する昇温とした。なお、操作量上限値OHのみ変更する場合を示すが、後述のように操作量下限値OLを変更してもよい。
【0045】
図6、
図7は本実施例の効果を確認するための比較対象を示す図であり、
図6はフィードフォワードを実行せずに温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図7はこの場合の操作量下限値OL=0%、操作量上限値OH=100%を示す図である。
図6の例では、400秒付近で制御量PV(温度)が大きく下降することに連動して、600秒以降でも制御量PVの下降が目立ち、明確な整定とは言えない状態が発生している。
【0046】
図8、
図9は操作量上限値OHにフィードフォワード分の変更を施し、一定時間経過後に直ちに100%に戻した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図であり、不連続なフィードバック制御の問題点を示す図である。
図8の例では、設定値SPの100℃から350℃への変更と同時に操作量上限値OHを100%から65%に変更して125秒間維持した後に100%に戻し、
図9の例では、設定値SPの変更と同時に操作量上限値OHを100%から65%に変更して85秒間維持した後に100%に戻している。
【0047】
図8の例では、操作量上限値OH=65%を125秒間維持するので、400秒付近で制御量PV(温度)が大きく下降することをある程度抑制できており、600秒以降での制御量PVの下降が目立たなくなり、
図6に比べると早い時間に整定状態に到達したと言える。一方、
図9の例では、操作量上限値OH=65%を85秒間だけ維持するので、
図8に比べると操作量上限値OHを65%に変更した効果が明らかに不十分であり、むしろ
図6に近い結果と言える。
【0048】
このように、操作量上限値OHを一定時間経過後に直ちに100%に戻す場合、操作量MVの大きさが不連続かつ極端に異なる時点を生じさせることになるので、一定時間の長さの選び方次第で制御結果が大きく異なることが起こり得る。換言するならば、
図8のように操作量上限値OH=65%を125秒間維持することで一旦は良好な制御結果を得られたとしても、制御対象の特性が若干でも変化したときに、制御結果が急激かつ明確に劣化することも起こり得る。
【0049】
図10は本実施例においてパラメータTf=60.0秒(Tf=0.4Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図11はこの場合の操作量上限値OHの変化を示す図である(操作量下限値OLは0%で固定)。この例では、操作量上限目標値OH_F=65%、パラメータKx=165.0、パラメータTf=60.0秒とした。
【0050】
図8の例と同様に、400秒付近で制御量PV(温度)が大きく下降することをある程度抑制できているので、600秒以降での制御量PVの下降が目立たなくなり、
図6に比べると早い時間に整定状態に到達したと言える。
【0051】
図12は本実施例においてパラメータTf=80.0秒(Tf=0.53Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図13はこの場合の操作量上限値OHの変化を示す図である(操作量下限値OLは0%で固定)。この例では、操作量上限目標値OH_F=65%、パラメータKx=220.0、パラメータTf=80.0秒とした。
図12によれば、
図10の場合と同等の制御結果が得られていることが分かる。
【0052】
図14は本実施例においてパラメータTf=100.0秒(Tf=0.67Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図15はこの場合の操作量上限値OHの変化を示す図である(操作量下限値OLは0%で固定)。この例では、操作量上限目標値OH_F=65%、パラメータKx=275.0、パラメータTf=100.0秒とした。
図14によれば、
図10、
図12の場合と同等の制御結果が得られていることが分かる。
【0053】
図16は本実施例においてパラメータTf=120.0秒(Tf=0.8Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図17はこの場合の操作量上限値OHの変化を示す図である(操作量下限値OLは0%で固定)。この例では、操作量上限目標値OH_F=65%、パラメータKx=330.0、パラメータTf=120.0秒とした。
図16によれば、
図10、
図12、
図14の場合と同等の制御結果が得られていることが分かる。
【0054】
このように、本実施例によれば、不連続なフィードバック制御の問題点を緩和するという効果が得られる。すなわち、フィードフォワード制御を追加適用する場合に、不具合の発生を低減することができ、オペレータにとっての利便性を向上させることができる。
【0055】
図18は上記発明の原理2の効果を確認するため、パラメータTfを本実施例よりも小さい値Tf=8.0秒(Tf=0.053Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図19はこの場合の操作量上限値OHの変化を示す図である(操作量下限値OLは0%で固定)。この例では、操作量上限目標値OH_F=65%,Kx=22.0,Tf=8.0秒とした。
【0056】
この
図18、
図19の例は、積分時間Tiに対しパラメータTfが小さ過ぎて、実質的に積分時間Tiを参照しない設定例と見なせる。制御の挙動に対し、フィードフォワードの動作が短時間で完了してしまうため、フィードフォワードの効果がほとんど得られない。
【0057】
図20は上記発明の原理2の効果を確認するため、パラメータTfを本実施例よりも大きい値Tf=800.0秒(Tf=5.3Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図21はこの場合の操作量上限値OHの変化を示す図である(操作量下限値OLは0%で固定)。この例では、操作量上限目標値OH_F=65%、パラメータKx=2200.0、パラメータTf=800.0秒とした。
【0058】
この
図20、
図21の例は、積分時間Tiに対しパラメータTfが大き過ぎて、実質的に積分時間Tiを参照しない設定例と見なせる。制御の挙動に対し、フィードフォワードの動作が長時間で遅れ傾向になるため、フィードフォワードの効果がほとんど得られない。
【0059】
次に、別のシミュレーションにより本実施例の効果を検証する。以下の例では、制御対象を、プロセスゲインKp=8、プロセス時定数Tp=200秒、プロセスむだ時間Lp=50秒の1次遅れ伝達関数に近似できる加熱制御系とし、操作量算出部1に設定されるPIDパラメータを、比例帯Pb=600℃、積分時間Ti=200秒、微分時間Td=0秒(すなわちPI制御)とした。そして、設定値SP=制御量PV=300℃で整定している状態で降温外乱が発生したものとする。なお、操作量下限値OLのみ変更する場合を示すが、上記のように操作量上限値OHを変更してもよい。
【0060】
図22は本実施例の効果を確認するための比較対象を示す図であり、
図22はフィードフォワードを実行せずに温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図23はこの場合の操作量下限値OL=0%、操作量上限値OH=100%を示す図である。
図22の例では、100秒付近から制御量PV(温度)が大きく下降し、約220℃まで到達する。外乱応答により整定するのは1000秒付近になる。
【0061】
図24は本実施例においてパラメータTf=20.0秒(Tf=0.1Tiに相当)として温度制御した場合の制御量PVと操作量MVの変化の例を示す図、
図25はこの場合の操作量下限値OLの変化を示す図である(操作量上限値OHは100%で固定)。この例では、操作量上限目標値OL_F=100%、パラメータKx=55.0、パラメータTf=20.0秒とした。
【0062】
図24によれば、
図22の場合と同様に100秒付近で制御量PV(温度)が大きく下降することを、255℃程度までに抑制できていることが分かる。さらに、外乱応答により整定するのは700秒付近であり、
図22の場合に比べると早い時間に整定状態に到達できると言える。
【0063】
本実施例で説明した制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図26に示す。コンピュータは、CPU600と、記憶装置601と、インターフェース装置(以下、I/Fと略する)602とを備えている。I/F602には、例えば温度センサや電力調整器が接続される。このようなコンピュータにおいて、本実施例の制御方法を実現させるためのプログラムは記憶装置601に格納される。CPU600は、記憶装置601に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。