【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトの掲載日 :平成29年8月8日 ウェブサイトのアドレス: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002914917312894?_rdoc=1&_fmt=high&_origin=gateway&_docanchor=&md5=b8429449ccfc9c30159a5f9aeaa92ffb ・開催日 :平成29年9月8日 集会名、開催場所:PCI Optimization by Physiology and Imaging 2017、じゅうろくプラザ(岐阜市橋本町1丁目10番地11) ・開催日 :平成29年10月26日 集会名、開催場所:Complex Cardiovascular Therapeutics 2017、神戸国際会議場(神戸市中央区港島中町六丁目11−1) ・開催日 :平成29年10月27日 Complex Cardiovascular Therapeutics 2017、神戸国際会議場(神戸市中央区港島中町六丁目11−1) ・開催日 :平成29年11月13日 集会名、開催場所:アメリカ心臓協会、Scientific Sessions、アナハイムコンベンションセンター(800 W Katella Avenue Anaheim CA 92802) ・開催日 :平成29年11月16日 集会名、開催場所:7▲th▼ Chiba X−Pert Forum、ホテルミラマーレ「ローズルーム」(千葉県千葉市中央区本千葉町15−1) ・開催日 :平成29年11月27日 集会名、開催場所:PCI Optimization by Physiology and Imaging 2017 FFR Workshop、岐阜ハートセンター内(岐阜県岐阜市薮田南4丁目14−4) ・開催日 :平成29年11月30日 集会名、開催場所:OCT FFR講演会、セントジュードメディカル名古屋営業所(愛知県名古屋市東区東桜1丁目13−3) ・開催日 :平成29年12月2日 集会名、開催場所:33▲rd▼ PICASSO Seminar in Nagoya、今池ガスビル(愛知県名古屋市千種区今池1丁目8−8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・開催日 :平成30年1月11日 集会名、開催場所:OCT Workshop in NTT東日本関東病院(東京都品川区東五反田5−9−22) ・開催日:平成30年1月17日 集会名、開催場所:X−Pert Forum@香川、東急REIホテル(香川県高松市兵庫町9−9) ・開催日:平成30年1月23日 集会名、開催場所:豊橋ハートセンターハートカンファレンス、豊橋ハートセンターハートホール(愛知県豊橋市大山町五分取21−1) ・ウェブサイトの掲載日 :平成30年1月25日 ウェブサイトのアドレス: https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ−17−1042/_article/−char/en
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
冠動脈の断面積のうち、正常部の断面積である正常冠動脈面積と、狭窄部の断面積である病変冠動脈面積と、予め定められた血液粘度、血液比重及び病変長とに基づいて、冠血流予備能を算出する第1の算出手順と、
前記第1の算出手順において算出される前記冠血流予備能と、予め定められた安静時冠血流速度とに基づいて、狭窄部における冠動脈の圧力損失を算出する第2の算出手順と、
前記第2の算出手順において算出される前記圧力損失に基づいて、冠血流予備量比を算出する第3の算出手順と、
を有する冠血流予備量比の算出方法。
冠動脈の断面積のうち、正常部の断面積である正常冠動脈面積と、狭窄部の断面積である病変冠動脈面積と、予め定められた血液粘度、血液比重及び病変長とに基づいて、冠血流予備能を算出する第1の算出部と、
前記第1の算出部が算出する前記冠血流予備能と、予め定められた安静時冠血流速度とに基づいて、狭窄部における冠動脈の圧力損失を算出する第2の算出部と、
前記第2の算出部が算出する前記圧力損失に基づいて、冠血流予備量比を算出する第3の算出部と、
を備える冠血流予備量比の算出装置。
【背景技術】
【0002】
近年、各国において虚血性心疾患が増加している。虚血性心疾患の治療には心筋虚血評価が重要である。心筋虚血評価のゴールデンスタンダードとして、冠血流予備量比FFRが知られている。この冠血流予備量比FFRの値を利用して、すなわち、冠血流予備量比FFRが0.75以下、又は0.8以下の場合にのみ冠動脈治療を施すことにより、労作性狭心症患者の生命予後を改善させることができることが知られている。各国においてこの冠血流予備量比FFRの値を利用した冠動脈治療が年々高まっている。
【0003】
冠血流予備量比FFRは、最大冠充血時(冠動脈の最大血流速度時を指す。)の冠動脈狭窄前後の圧力の比で表せられる。従来、冠血流予備量比FFRは、侵襲的な冠動脈カテーテル検査により、冠動脈内の圧力を直接測定可能なワイヤーを冠動脈内に挿入することにより計測される。しかしながら、この冠動脈カテーテル検査は侵襲的な検査方法であるため、冠動脈狭窄を有するすべての症例において施行することは容易ではない。また、冠動脈カテーテル検査による冠血流予備量比FFR計測によると、薬剤による最大冠充血が得られないため冠血流予備量比FFRを過小評価することや、カテーテルの冠動脈への楔入により冠血流予備量比FFRを過小評価することなどにより、正確な冠血流予備量比FFRが得られないという課題があった。
【0004】
また、冠動脈CAの構造評価の手法として、従来は冠動脈造影検査が使用されてきた。診断機器の開発進化により、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography ;OCT、又はOptical Frequency Domain Imaging;OFDI)、血管内超音波検査(intravascular ultrasound;IVUS)、心臓コンピュータ断層撮影(Computed Tomography;CT)、心臓MRI(Magnetic Resonance Imaging)などが使用されている。心臓CT及び心臓MRIでは、侵襲的なカテーテル検査を行うことなく、簡便に冠動脈を評価することが可能である。また、IVUS、OCT及びOFDIでは、冠動脈構造を詳細に評価することが可能である。
【0005】
IVUSは、100[μm]程度の空間分解能を有しているとされる。OCT及びOFDIは、10[μm]程度の空間分解能を有しているとされる。いずれも、冠動脈構造の詳細な評価に有効である。
【0006】
ここで、流体力学方程式(例えば、ナビエ・ストークス方程式)を用い、心臓CT、OCT及びOFDIなどによって得られた冠動脈三次元構造情報により、冠血流予備量比FFRを計算することが可能になっている(例えば、特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の従来技術によると、流体力学方程式の求解に多くの計算量を要するため、冠血流予備量比FFRを算出するまでに多くの時間を要することがあるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は冠動脈の構造の情報から簡便に冠血流予備量比を算出することができる冠血流予備量比の算出方法、冠血流予備量比の算出装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、冠動脈の断面積のうち、正常部の断面積である正常冠動脈面積と、狭窄部の断面積である病変冠動脈面積と、予め定められた血液粘度、血液比重及び病変長とに基づいて、冠血流予備能を算出する第1の算出手順と、前記第1の算出手順において算出される前記冠血流予備能と、予め定められた安静時冠血流速度とに基づいて、狭窄部における冠動脈の圧力損失を算出する第2の算出手順と、前記第2の算出手順において算出される前記圧力損失に基づいて、冠血流予備量比を算出する第3の算出手順と、を有する冠血流予備量比の算出方法である。
【0011】
また、本発明の一実施形態は、上述の冠血流予備量比の算出方法のうち、前記第1の算出手順において、予め定められた拡張期定数に基づく拡張期冠血流予備能と、予め定められた収縮期定数に基づく収縮期冠血流予備能とを、前記冠血流予備能としてそれぞれ算出し、前記第2の算出手順において、前記拡張期冠血流予備能に基づく拡張期圧力損失と、算出された前記収縮期冠血流予備能に基づく収縮期圧力損失とを、前記圧力損失として算出し、前記第3の算出手順において、前記拡張期圧力損失と、前記収縮期圧力損失とに基づいて、前記冠血流予備量比を算出する。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、上述の冠血流予備量比の算出方法のうち、前記第2の算出手順において、予め定められた左冠動脈の血流速度に基づく左冠動脈拡張期圧力損失と、予め定められた右冠動脈の血流速度に基づく右冠動脈拡張期圧力損失とのいずれかが、前記拡張期圧力損失として算出される。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、上述の冠血流予備量比の算出方法のうち、前記第1の算出手順において、次式に基づいて前記冠血流予備能を算出する。
10+[(100−10)/c×SFR]=100−(F×Vb×SFR)−[S×(Vb×SFR)
2]
ただし、
F=(8πμL/As)(An/As)、
S=(ρ/2)((An/As)−1)
2、
SFR:冠血流予備能、Vb:安静時冠動脈血流速度、c:定数、An:正常冠動脈面積、As:病変冠動脈面積、μ:血液粘度、ρ:血液比重、L:病変長。
【0014】
また、本発明の一実施形態は、上述の冠血流予備量比の算出方法のうち、前記第2の算出手順において、次式に基づいて前記圧力損失を算出する。
ΔP=(F×Vb×SFR)+[S×(Vb×SFR)
2]
ただし、
F=(8πμL/As)(An/As)、
S=(ρ/2)((An/As)−1)
2、
ΔP:圧力損失、Vb:安静時冠動脈血流速度、SFR:冠血流予備能、An:正常冠動脈面積、As:病変冠動脈面積、μ:血液粘度、ρ:血液比重、L:病変長。
【0015】
また、本発明の一実施形態は、冠動脈の断面積のうち、正常部の断面積である正常冠動脈面積と、狭窄部の断面積である病変冠動脈面積と、予め定められた血液粘度、血液比重及び病変長とに基づいて、冠血流予備能を算出する第1の算出部と、前記第1の算出部が算出する前記冠血流予備能と、予め定められた安静時冠血流速度とに基づいて、狭窄部における冠動脈の圧力損失を算出する第2の算出部と、前記第2の算出部が算出する前記圧力損失に基づいて、冠血流予備量比を算出する第3の算出部とを備える冠血流予備量比の算出装置である。
【0016】
また、本発明の一実施形態は、コンピュータに、冠動脈の断面積のうち、正常部の断面積である正常冠動脈面積と、狭窄部の断面積である病変冠動脈面積と、予め定められた血液粘度、血液比重及び病変長とに基づいて、冠血流予備能を算出する第1の算出手順と、前記第1の算出手順において算出される前記冠血流予備能と、予め定められた安静時冠血流速度とに基づいて、狭窄部における冠動脈の圧力損失を算出する第2の算出手順と、前記第2の算出手順において算出される前記圧力損失に基づいて、冠血流予備量比を算出する第3の算出手順とを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、冠動脈の構造の情報から簡便に冠血流予備量比を算出することができる冠血流予備量比の算出方法、冠血流予備量比の算出装置及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態では、一例として、本発明が算出装置10によって実施され、冠血流予備量比FFRが算出装置10のコンピュータによって自動的に算出されるものとして説明するが、これに限られない。本発明は、算出装置10を用いずに(例えば、手計算によって)実施されてもよい。
【0020】
図1は、本実施形態の冠血流予備量比FFRの算出システム1の構成の一例を示す図である。冠血流予備量比FFRの算出システム1は、算出装置10と冠動脈画像生成装置20とを備える。
【0021】
冠動脈画像生成装置20は、冠動脈CAの構造を示す冠動脈画像Pを生成する装置である。例えば、冠動脈画像生成装置20は、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography ;OCT、又はOptical Frequency Domain Imaging;OFDI)、血管内超音波検査(intravascular ultrasound;IVUS)、心臓コンピュータ断層撮影(Computed Tomography;CT)、心臓MRI(Magnetic Resonance Imaging)、冠動脈造影画像(Coronary angiography;CAG)などの各種の測定手法によって冠動脈CAの構造を測定する。
【0022】
図2は、冠動脈CAの構造の一例を示す図である。同図には、右冠動脈RCAを造影した冠動脈造影画像Pcの一例を示す。血液は、冠動脈CA内を位置Pos3から位置Pos2を経て位置Pos1に向かう方向BFに流れる。冠動脈CAの測定対象範囲のうち、位置Pos1が最遠位、位置Pos3が最近位である。この一例の場合、位置Pos2、すなわち右冠動脈近位部において高度の狭窄が認められる。
【0023】
図1に戻り、冠動脈画像生成装置20は、冠動脈CAの構造の測定結果を冠動脈画像Pとして生成する。冠動脈画像生成装置20は、生成した冠動脈画像Pを算出装置10に出力する。
なお、この一例では、冠動脈画像生成装置20は、算出装置10に対して冠動脈画像Pを供給するとして説明するがこれに限られない。算出装置10に供給される冠動脈CAの構造情報には、少なくとも冠動脈CAの各部の断面積を示す情報が含まれていればよく、画像以外の情報であってもかまわない。
【0024】
算出装置10は、取得部110と、演算部120と、表示部130とを備えている。
取得部110は、冠動脈画像生成装置20が出力する冠動脈画像Pを取得する。
演算部120は、CPU(Central Processing Unit)などを備えており、取得部110が取得した冠動脈画像Pに基づいて、冠血流予備量比FFRを算出するための各種の演算を行う。
表示部130は、液晶ディスプレイなどの表示デバイスを備えており、演算部120による演算結果(例えば、冠血流予備量比FFR)を表示する。なお、算出装置10は、表示部130に代えて、又は加えて、演算部120による演算結果を他の装置に出力する出力部(不図示)を備えていてもよい。
この演算部120による冠血流予備量比FFRの算出手順について、
図3を参照して説明する。
【0025】
図3は、本実施形態の算出装置10の動作の一例を示す図である。
(ステップST10)取得部110は、冠動脈画像生成装置20から冠動脈画像Pを取得する。取得部110は、取得した冠動脈画像Pを演算部120に供給する。
(ステップST20)演算部120は、取得部110から取得した冠動脈画像Pに基づいて、正常冠動脈面積An及び病変冠動脈面積Asを算出する。ここで、演算部120が取得する冠動脈画像Pの一例を
図4及び
図5に示す。
【0026】
図4は、冠動脈長軸画像Plaの一例を示す図である。
図5は、冠動脈断面画像Pcsの一例を示す図である。
図5(A)の冠動脈断面画像Pcs1は、
図4の位置Pos1における冠動脈CAの断面を示す。
図5(B)の冠動脈断面画像Pcs2は、
図4の位置Pos2における冠動脈CAの断面を示す。
図5(C)の冠動脈断面画像Pcs3は、
図4の位置Pos3における冠動脈CAの断面を示す。
【0027】
演算部120は、取得部110から取得した冠動脈長軸画像Plaに基づいて、冠動脈CAの狭窄部(病変部)の位置と正常部の位置とを判定する。具体的には、演算部120は、冠動脈長軸画像Plaが示す冠動脈CAの最遠位から最近位までの間において、冠動脈CAの直径(又は断面積)が最も小さい位置(この一例では、位置Pos2)を狭窄部であると判定する。また、演算部120は、狭窄部よりも近位であって、冠動脈CAの直径(又は断面積)が最も大きい位置(この一例では、位置Pos3)を正常部であると判定する。
【0028】
なお、この一例では、演算部120は、冠動脈長軸画像Plaを画像処理することによって冠動脈CAの狭窄部(病変部)の位置と正常部の位置とを自動的に判定するとして説明したが、これに限られない。演算部120は、冠動脈長軸画像Plaを表示部130に表示させて、算出装置10のオペレータに冠動脈CAの狭窄部の位置と正常部の位置とを、タッチパネルやマウスなどの操作デバイス(いずれも不図示)により指示させてもよい。この場合、演算部120は、操作デバイスによって取得される座標情報に基づいて、冠動脈CAの狭窄部の位置と正常部の位置とを判定する。
【0029】
演算部120は、正常部(この一例では位置Pos3)における冠動脈CAの断面積を正常冠動脈面積Anとして算出する。また、演算部120は、狭窄部(病変部;この一例では位置Pos2)における冠動脈CAの断面積を病変冠動脈面積Asとして算出する。
なお、この一例では、正常冠動脈面積Anは、8.42[mm
2]であり、病変冠動脈面積Asは、1.05[mm
2]である。
【0030】
図3に戻り説明を続ける。
(ステップST30)演算部120は、ステップST20において算出した正常冠動脈面積An及び病変冠動脈面積Asに基づいて、粘性摩擦圧損係数Fと剥離圧損係数Sとを算出する。
【0032】
具体的には、演算部120は、算出した正常冠動脈面積An及び病変冠動脈面積Asを式(1)に代入し、粘性摩擦圧損係数F及び剥離圧損係数Sを得る。
式(1)に示される血液粘度μ、血液比重ρ、病変長Lは予め定められている。具体的には、血液粘度μ=4.0×10
−3[Pa・s]、血液比重ρ=1050[kg/m
3]、病変長L=100[μm]である。
【0033】
ここで、粘性摩擦圧損係数Fは、冠動脈CAの各断面について式(1)によって求められた値の、全断面を合計した値として算出される。この一例では、演算部120は、100[μm]ごとに式(1)に基づいて粘性摩擦圧損係数Fを算出し、算出した粘性摩擦圧損係数Fの合計値を得る。また、剥離圧損係数Sは、正常冠動脈面積Anと病変冠動脈面積Asとを用いて算出される。
【0034】
この一例では、演算部120は、粘性摩擦圧損係数F=0.10655[mmHgs/cm]、剥離圧損係数S=0.01949[mmHgs
2/cm
2]と算出する。
【0035】
(ステップST40)演算部120は、ステップST30において算出した粘性摩擦圧損係数F及び剥離圧損係数Sに基づいて、拡張期冠血流予備能SFRd及び収縮期冠血流予備能SFRsを算出する。
【0036】
図6は、本実施形態の演算部120が算出する拡張期冠血流予備能SFRdの一例を示す図である。
【0038】
ただし、式(2)において安静時冠動脈血流速度Vb=20[cm/s]である。
この
図6には、狭窄遠位の冠動脈圧を縦軸に、拡張期冠血流予備能SFRdを横軸にした場合の、式(2)の左辺のグラフの軌跡L1と、式(2)の右辺のグラフの軌跡L2を示す。演算部120は、式(2)の両辺の軌跡(軌跡L1及び軌跡L2)の交点を、拡張期冠血流予備能SFRdとして算出する。この一例では、演算部120は、拡張期冠血流予備能SFRd=2.21を算出する。
【0039】
図7は、本実施形態の演算部120が算出する収縮期冠血流予備能SFRsの一例を示す図である。
【0041】
ただし、式(3)において安静時冠動脈血流速度Vb=20[cm/s]である。
この
図7には、狭窄遠位の冠動脈圧を縦軸に、収縮期冠血流予備能SFRsを横軸にした場合の、式(3)の左辺のグラフの軌跡L3と、式(3)の右辺のグラフの軌跡L4とが示される。演算部120は、式(2)の両辺の軌跡(軌跡L3及び軌跡L4)の交点を、収縮期冠血流予備能SFRsとして算出する。この一例では、演算部120は、収縮期冠血流予備能SFRs=1.56を算出する。
【0042】
なお、安静時冠動脈血流速度Vbについて、拡張期についての式(2)及び収縮期についての式(3)において共通の値(20[cm/s])が用いられる。以降の各式においては、安静時冠動脈血流速度Vbについて、拡張期と収縮期とで互いに異なる値が用いられる。
【0043】
ここで、本実施形態の算出手順のうち、上述したステップST10からステップST40までを第1の算出手順とも称する。この第1の算出手順においては、冠動脈CAの断面積のうち、正常部の断面積である正常冠動脈面積Anと、狭窄部の断面積である病変冠動脈面積Asと、予め定められた血液粘度μ、血液比重ρ及び病変長Lとに基づいて、冠血流予備能SFRを算出する。
【0044】
また、本実施形態の算出手順では、第1の算出手順において、予め定められた拡張期定数(例えば、4.2)に基づく拡張期冠血流予備能SFRdと、予め定められた収縮期定数(例えば、2)に基づく収縮期冠血流予備能SFRsとを、冠血流予備能SFRとしてそれぞれ算出する。
【0045】
以下のステップST50からステップST90において、演算部120は、圧力損失ΔPに基づいて、冠血流予備量比FFRを算出する。ここで、冠血流予備量比FFRの算出には、拡張期の圧力損失ΔP(拡張期圧損ΔPd)と収縮期の圧力損失ΔP(収縮期圧損ΔPs)とが用いられる。収縮期圧損ΔPsは、左冠動脈LCAと右冠動脈RCAとで共通の値になる。一方、拡張期圧損ΔPdは、左冠動脈LCAと右冠動脈RCAとで互いに異なる値になる(左冠動脈拡張期圧損ΔPdL、右冠動脈拡張期圧損ΔPdR)。そこで、演算部120は、測定対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAの場合と、右冠動脈RCAの場合とで、互いに異なる算出式によって拡張期の圧力損失ΔPを算出する。
以下、演算部120によるステップST50からステップST90の動作を具体的に説明する。なお、以下の説明において圧力損失のことを「圧損」とも称する。
【0046】
(ステップST50)演算部120は、測定対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAであるのか、右冠動脈RCAであるのかを判定する。なお、演算部120は、この判定を冠動脈画像生成装置20からの情報に基づいて自動的に行ってもよい。演算部120は、算出対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAであると判定した場合(ステップST50;YES)には、処理をステップST60に進める。演算部120は、算出対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAでない(つまり、右冠動脈RCAである)と判定した場合(ステップST50;NO)には、処理をステップST70に進める。
【0047】
(ステップST60)演算部120は、式(4)に基づいて、左冠動脈拡張期圧損ΔPdLを算出する。
【0049】
ここで、安静時左冠動脈拡張期血流速度VdL=20[cm/s]である。
【0050】
(ステップST70)演算部120は、式(5)に基づいて、右冠動脈拡張期圧損ΔPdRを算出する。
【0052】
ここで、安静時右冠動脈拡張期血流速度VdR=15[cm/s]である。
【0053】
この具体例では、
図2に示すように測定対象の冠動脈CAは、右冠動脈RCAである。この場合、演算部120は、ステップST70において次のように演算を行う。
演算部120は、ステップST30において算出した粘性摩擦圧損係数F及び剥離圧損係数Sと、ステップST40において算出した拡張期冠血流予備能SFRdとを、式(5)に代入し、右冠動脈拡張期圧損ΔPdRを得る。この一例では、演算部120は、右冠動脈拡張期圧損ΔPdR=24.8[mmHg]である。
【0054】
(ステップST80)演算部120は、式(6)に基づいて、収縮期圧損ΔPsを算出する。
【0056】
ここで、安静時収縮期血流速度Vs=10[cm/s]である。なお、安静時左冠動脈収縮期血流速度VsL及び安静時右冠動脈収縮期血流速度VsRは、いずれも10[cm/s]である。このため、測定対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAの場合と右冠動脈RCAの場合とのいずれの場合も共通に、安静時収縮期血流速度Vs(=10[cm/s])を定数として用いる。
【0057】
具体的には、演算部120は、ステップST30において算出した粘性摩擦圧損係数F及び剥離圧損係数Sと、ステップST40において算出した収縮期冠血流予備能SFRsとを、式(6)に代入し、収縮期圧損ΔPsを得る。この一例では、演算部120は、収縮期圧損ΔPs=6.37[mmHg]である。
【0058】
ここで、本実施形態の算出手順のうち、上述したステップST60からステップST80までを第2の算出手順とも称する。この第2の算出手順においては、第1の算出手順において算出される冠血流予備能SFRと、予め定められた安静時冠動脈血流速度Vbとに基づいて、狭窄部における冠動脈CAの圧力損失ΔPを算出する。
【0059】
また、本実施形態の算出手順では、第2の算出手順において、拡張期冠血流予備能SFRdに基づく拡張期圧損ΔPdと、算出された収縮期冠血流予備能SFRsに基づく収縮期圧損ΔPsとを、圧力損失ΔPとして算出する。
【0060】
また、本実施形態の算出手順では、第2の算出手順において、予め定められた安静時左冠動脈拡張期血流速度VdLに基づく左冠動脈拡張期圧損ΔPdLと、予め定められた安静時右冠動脈拡張期血流速度VdRに基づく右冠動脈拡張期圧損ΔPdRとのいずれかが、拡張期圧損ΔPdとして算出される。すなわち、本実施形態の算出手順は、測定対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAであるのか、右冠動脈RCAであるのかによって、左冠動脈拡張期圧損ΔPdL及び右冠動脈拡張期圧損ΔPdRのいずれかを算出する。
なお、本実施形態の算出手順は、左冠動脈LCAの構造情報と、右冠動脈RCAの構造情報との両方が存在する場合には、左冠動脈拡張期圧損ΔPdL及び右冠動脈拡張期圧損ΔPdRの両方を算出してもよい。
【0061】
(ステップST90)演算部120は、式(7)に基づいて、冠血流予備量比FFRを算出する。
【0063】
ここで、式(7)の各定数は、最大冠充血時の血圧(拡張期血圧:60[mmHg]、収縮期血圧:120[mmHg]、全心周期に対する拡張時間の割合(2/3)と、この全心周期に対する拡張時間の割合を考慮した平均血圧:80[mmHg])とに基づいて定められている。
【0064】
ここで、本実施形態の算出手順のうち、上述したステップST90を第3の算出手順とも称する。この第3の算出手順においては、第2の算出手順において算出される圧力損失ΔPに基づいて、冠血流予備量比FFRを算出する。
【0065】
また、本実施形態の算出手順では、第3の算出手順において、拡張期圧損ΔPdと、収縮期圧損ΔPsとに基づいて、冠血流予備量比FFRを算出する。
【0066】
図8は、本実施形態の算出方法による算出結果と従来の測定方法による測定結果との相関の一例を示す図である。同図には、本実施形態の算出方法によって算出された冠血流予備量比FFR(縦軸)と、従来の圧力測定ワイヤーによって計測された冠血流予備量比FFR(横軸)との相関の一例を示す。本実施形態の算出方法による冠血流予備量比FFRの算出結果と、従来の方法による冠血流予備量比FFRの計測結果との間に、強い相関が認められる。
【0067】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態の算出装置10は、冠動脈CAの正常冠動脈面積Anと病変冠動脈面積Asとに基づいて冠血流予備量比FFRを求める算出方法を採用している。したがって、算出装置10は、冠動脈CA内の圧力損失を直接測定することなく、簡便に冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0068】
ここで、仮に、上述した式(1)のパラメータである「血流速度V」を簡単に求めることができるのであれば、式(1)に正常冠動脈面積Anと病変冠動脈面積Asと血流速度Vとを代入することにより、冠血流予備量比FFRを容易に算出することができる。
しかしながら、冠動脈CAに狭窄などの病変がある場合には、この血流速度Vが一意に定められないことから、従来は、式(1)と、正常冠動脈面積An及び病変冠動脈面積Asだけでは、冠血流予備量比FFRを求めることができなかった。すなわち、安静時血流速度は冠動脈CAの病変によらずほぼ一定であるのに対し、最大冠充血時の血流速度は冠動脈CAの病変によって変化してしまうため、従来技術において、最大冠充血時の血流速度Vをいかにして求めるのかという課題があった。
【0069】
本実施形態の算出方法は、安静時血流速度を所定値とする一方で、最大冠充血時の血流速度を、上述した式(2)及び式(3)、つまり安静時血流速度に冠血流予備能を掛けたもので示した。本実施形態の算出方法は、最大冠充血時の血流速度を安静時血流速度に冠血流予備能を掛けたもので示すことにより、冠動脈CAの正常冠動脈面積Anと病変冠動脈面積Asとに基づいて冠血流予備量比FFRを求めることができる。
【0070】
また、最大冠充血時の血流速度は、病態(例えば、拡張型心筋症や心肥大、大動脈弁狭窄症など)によって特徴的な波形パターンを有する。本実施形態の算出方法は、最大冠充血時の血流速度を式(2)及び式(3)によって簡易にモデル化しているため、このような病態によって特徴的な波形パターンを当てはめたうえで、冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0071】
また、従来のカテーテル検査による冠血流予備量比FFRの計測手法では、薬剤による最大冠充血を得ることが困難である場合がある。このため、従来のカテーテル検査による計測手法では、冠血流予備量比FFRを過小評価することがあった。また、従来のカテーテル検査による計測手法では、カテーテルの冠動脈CAへの楔入によって冠血流予備量比FFRを過小評価することがあった。
また、従来、弁膜症が冠動脈CAの血流速度Vに影響を及ぼすことが知られている。特に重症弁膜症を発症している場合、冠動脈CAの血流速度Vの最大値(最大冠血流速度)が低下する傾向がある。このため、カテーテル検査によって狭窄部前後の差圧を直接計測する従来の方法では、重症弁膜症による血流速度Vへの影響を受けてしまい、弁膜症の治療後に比べて冠血流予備量比FFRを過大評価する傾向があった。
また、従来のカテーテル検査による冠血流予備量比FFRの計測手法では、手技の巧拙によって、冠血流予備量比FFRの過大評価や過小評価が生じることがあった。さらに従来の計測手法では、急性心筋梗塞後、心不全の増悪時には冠動脈血流が低下しており、冠血流予備量比FFRの過大評価を生じる傾向があった。
本実施形態の算出方法は、冠動脈CAの構造に基づいて冠血流予備量比FFRを推定するため、冠血流予備量比FFRの過大評価や過小評価を抑制することができるため、比較的正確な冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0072】
また、正常冠動脈面積Anや病変冠動脈面積Asが侵襲的なカテーテル検査を行わない手法(例えば、心臓CT又は心臓MRI)によって取得されている場合、本実施形態の算出装置10によれば、非侵襲的に冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0073】
また、本実施形態の算出方法によれば、上述した比較的簡便な数式に基づいて冠血流予備量比FFRを算出するため、演算量が比較的少なくて済み、演算処理に多くの時間を要さない。つまり、算出装置10によれば、比較的高速に冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0074】
また、本実施形態の算出方法によれば、心臓の全心周期を拡張期と収縮期との2相にわけ、この拡張期と収縮期と2相のみによって冠血流予備量比FFRを算出する。したがって、本実施形態の算出方法によれば、例えば、全心周期にわたって算出する場合に比べて演算量を少なくすることができる。
ここで、冠動脈CA内の血流速度Vは、拡張期が速く収縮期が遅いという特徴的なパターンを示す。また、冠動脈CAの血流速度Vは、拡張期内や収縮期内でもダイナミックに変化する。従来、流体力学によって冠動脈CAの血流速度Vに基づき解析的に冠血流予備量比FFRを求める手法においては、詳細な冠動脈CAの血流モデルと、単一の冠動脈CAの血流速度Vとを用いる方法があった。しかしながら、この従来の手法によると、単一の冠動脈CAの血流速度Vを用いる場合には、推定される冠血流予備量比FFRと真の冠血流予備量比FFRとの誤差が大きくなる、すなわち算出の精度が低くなるという課題があった。また、この従来の手法によると、詳細な冠動脈CAの血流モデルを使用する場合には、圧力損失の計算時間が非常に長くなるという課題があった。
本実施形態の算出方法によれば、複雑な心周期を拡張期と収縮期との2相のみに単純化して分割することにより、計算を単純化させ計算時間を短縮し、かつより正確な冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0075】
また、本実施形態の算出装置10は、安静時血流速度に基づいて冠動脈CAの圧力損失を算出することにより、冠血流予備量比FFRを算出する。ここで、左冠動脈LCAと右冠動脈RCAとは、安静時血流速度が互いに異なる。本実施形態の算出装置10は、測定対象の冠動脈CAが左冠動脈LCAと右冠動脈RCAとのいずれであるかによって、安静時血流速度を使い分ける。したがって、本実施形態の算出装置10によれば、左冠動脈LCAと右冠動脈RCAとの安静時血流速度が互いに異なっていたとしても、より正確に冠血流予備量比FFRを算出することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した実施形態に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0077】
なお、上記の実施形態における算出装置が備える各部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
【0078】
なお、算出装置が備える各部は、メモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、算出装置が備える各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0079】
また、算出装置が備える各部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、制御部が備える各部による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0080】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。