(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フォーカス電極および前記半導体検出器は、前記第1法線と前記第2法線とが前記電子増倍方向に沿ってずれるように、それぞれ配置されていることを特徴とする請求項3に記載のイオン検出器。
前記第1および第2支持基板の相対位置は、前記第1および第2支持基板が物理的に分離可能な状態で、固定されていることを特徴とする請求項7に記載のイオン検出器。
前記ダイノードユニットを構成するダイノードのうち前記最終段ダイノード以外の何れかの中間ダイノードに隣接して配置された、前記中間ダイノードに到達した二次電子の少なくとも一部を捕獲するための電極を有する第2電子検出部と更に備えたことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のイオン検出器。
前記ダイノードユニットを構成するダイノードのうち前記最終段ダイノード以外の何れかの中間ダイノードを含む電極を有する第2電子検出部を更に備えたことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のイオン検出器。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0016】
(1)本実施形態に係るイオン検出器は、アナログモード出力とカウンティングモード出力の双方が可能なデュアルモード動作のみならず、カウンティングモード出力に特化したシングルモード動作を可能にする構造を備えるとともに、電子増倍機構の経時劣化が効果的に抑制可能な構造を備える。特に、本実施形態の一態様として、当該イオン検出器は、イオン入射部と、コンバージョンダイノードと、ダイノードユニットと、第1電子検出部と、フォーカス電極と、を備える。イオン入射部は、荷電粒子であるイオンを当該イオン検出器内に取り込む。コンバージョンダイノードは、イオン入射部を介して取り込まれたイオンが到達する位置に配置され、イオンの入射に応答して二次電子を放出する。ダイノードユニットは、コンバージョンダイノードから放出された二次電子をカスケード増倍するため、所定の電子増倍方向に沿って配置された複数段のダイノードで構成される。なお、少なくとも、コンバージョンダイノードおよびダイノードユニットにより当該イオン検出器の電子増倍機構が構成される。第1電子検出部は、電子増倍機能を有する半導体検出器を含み、該半導体検出器が、ダイノードユニットに含まれる最終段ダイノードから放出された二次電子が到達する位置に配置される。フォーカス電極は、最終段ダイノードから第1電子検出部へ向かう二次電子の軌道上に配置され、該最終段ダイノードから放出された二次電子を通過させるための開口を有する。
【0017】
(2)本実施形態の一態様として、ダイノードユニットに含まれる最終段ダイノードは、前記電子増倍方向と交差する方向に沿って延びた第1壁部を有するのが好ましい。この場合、フォーカス電極および半導体検出器は、最終段ダイノードの前記第1壁部により偏向された二次電子の進行方向に沿ってそれぞれ配置されている。また、本実施形態の一態様として、ダイノードユニットに含まれる最終段ダイノードの第1壁部は、電子増倍方向に直交する方向に沿って延びてもよい。この場合、フォーカス電極は、開口の中心が電子入射面の中心を通過する第1法線が電子増倍方向に直交するように、配置されるのが好ましい。同様に、半導体検出器は、当該半導体検出器の電子入射面の中心を通過する第2法線が電子増倍方向に直交するように、配置されるのが好ましい。更に、本実施形態の一態様として、フォーカス電極および半導体検出器は、第1法線と第2法線とが電子増倍方向に沿ってずれるように、それぞれ配置されているのが好ましい。
【0018】
上述のように、最終段ダイノードに設けられた第1壁部は、該最終段ダイノードから放出される二次電子の軌道を電子増倍方向に対して偏向する機能を有するため、ダイノードユニットに対するフォーカス電極および半導体検出器の設置位置を任意に設定することが可能になる。また、当該イオン検出器の小型化を考慮すれば、第1壁部は、電子増倍方向に直交する方向に沿って延びるのが好ましい。ただし、この場合、二次電子の軌道をより正確に制御するため、フォーカス電極および半導体検出器は、第1法線と第2法線とが電子増倍方向に沿ってずれるように、それぞれ配置される。
【0019】
(3)一方、本実施形態の一態様として、フォーカス電極は、その開口の中心を通過する第3法線が電子増倍方向と平行になるように、配置されてもよい。同様に、半導体検出器は、当該半導体検出器の電子入射面の中心を通過する第4法線が電子増倍方向と平行になるように、配置されてもよい。
【0020】
(4)本実施形態の一態様として、フォーカス電極は、電子増倍方向と交差する方向に沿って延びた第2壁部を有してもよい。この第2壁部の存在により、当該イオン検出器内におけるシールド効果を向上させることが可能になる。
【0021】
(5)本実施形態の一態様として、当該イオン検出器は、各部品を搭載するベース部が複数の基板に分割されているのが好ましい。例えば、当該ベース部が第1および第2支持基板で構成されている場合、第1支持基板には、少なくとも、コンバージョンダイノード、ダイノードユニット、およびフォーカス電極を含む電極ユニットが搭載される。また、第2支持基板には、第1支持基板に対して電気的に絶縁された状態で、少なくとも、第1電子検出部が搭載される。この場合、複数の支持基板同士が電気的に絶縁されているので、沿面放電の発生を効果的に抑制することが可能になる。また、本実施形態の一態様として、第1および第2支持基板の相対位置は、第1および第2支持基板が物理的に分離可能な状態で、固定されている。本実施形態の場合、カウンティングモード出力を得るための電子増倍機能(例えば特許文献1に示された構成では、ダイノードユニットの後段部分の電子増倍機能)は半導体検出器が担っている。この場合、電子入射面へのカーボン付着(carbon contamination)により、半導体検出器の交換が必要になる。したがって、電極ユニットを搭載する支持基板と半導体検出器を搭載する支持基板を物理的に分離しておくことで、当該イオン検出器における部品交換が容易になる。
【0022】
(6)本実施形態の一態様として、当該イオン検出器は、二次電子の少なくとも一部を捕獲するための電極を有する第2電子検出部を更に備えてもよい。すなわち、上述のような第1電子検出部を備えた構成(少なくともカウンティングモード出力が可能なシングルモード構成)は、更に別の電子検出部を備えることにより、マルチモードのイオン検出が可能になる。なお、デュアルモードに限定して言及すれば、第2電子検出部の電極は、ダイノードユニットを構成するダイノードのうち最終段ダイノード以外の何れかの中間ダイノードに隣接して配置されるのが好ましい。この場合、中間ダイノードに到達した二次電子の少なくとも一部が該電極により捕獲される。一方、本実施形態の一態様として、第2電子検出部の電極は、ダイノードユニットを構成するダイノードのうち最終段ダイノード以外の何れかの中間ダイノードを含んでもよい。この場合、第2電子検出部の電極として機能する中間ダイノードは接地(GND)される。
【0023】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0024】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係るイオン検出器の具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るイオン検出器100Aにおける主要部位の代表的な構成例を示す断面図である。また、
図2は、
図1に示された第1実施形態に係るイオン検出器100Aのゲート機能を説明するための図である。特に、
図2(a)は、ゲート部240を含むブリーダ回路230の構成を示し、
図2(b)は、
図2(a)中の領域Aで示された部分、特にアノード電極170の他の構造を示し、
図2(c)は、ゲート機能を実現するための各電極の電位設定の一例を示すグラフである。
【0026】
図1に示されたように、第1実施形態に係るイオン検出器100Aは、イオン入射部110、コンバージョンダイノード120、複数段のダイノードDY1〜DY15により構成されたダイノードユニット130、フォーカス電極140、および第1電子検出部に含まれる半導体検出器としてのアバランシェダイオード(以下、「AD」と記す)150を備える。なお、AD150は、電子入射面151に到達した二次電子を増倍する機能を有する半導体デバイスである。更に、当該イオン検出器100Aは、第2電子検出部700(
図5参照)の一部を構成するアノード電極170を備える。第1電子検出部のAD150からは、該AD150により電子増倍された電子が、カップリングコンデンサを介して電気信号として出力される(カウンティングモード出力)。また、第2電子検出部700のアノード電極170からは、該アノード電極170により捕獲された二次電子が電気信号として出力される(アナログモード出力)。
【0027】
イオン入射部110は、荷電粒子であるイオンを当該イオン検出器100Aの内部に取り込むための入射口110Aと、取り込まれたイオンをコンバージョンダイノード120に導くための出射口110Bを備える。これら入射口110Aと出射口110Bの相対位置が調整されることにより、コンバージョンダイノード120へ向かうイオンの軌道が制御される(イオン入射部110のイオン軌道制御機能)。コンバージョンダイノード120は、イオン入射部110により軌道制御されたイオンの入射に応答して二次電子を当該イオン検出器100A内に放出するよう機能する電極である。ダイノードユニット130は、所定の電子増倍方向AX1に沿ってそれぞれ配置された複数段のダイノードDY1〜DY15により構成されている。すなわち、コンバージョンダイノード120から放出された二次電子は、第1段目のダイノードDY1に入射した後、該ダイノードDY1から最終段ダイノードDY15に向かってカスケード増倍される。フォーカス電極140は、最終段ダイノードDY15から放出された二次電子を、AD150の電子入射面151に導くための電極であって、該二次電子を通過させるための開口141を有する。
【0028】
アノード電極170は、ダイノードユニット130を構成するダイノードのうち第11段目のダイノード(以下、「中間ダイノード」と記す)DY11に隣接配置されている。また、中間ダイノードDY11には、該中間ダイノードDY11に到達した二次電子の一部をアノード電極170に向けて通過させるためのメッシュ構造132が設けられている。一方、中間ダイノードDY11以降のダイノード、すなわち、第12段目のダイノードDY12〜最終段ダイノードDY15の電極群は、ゲート部240(
図2(a)参照)の一部を構成するゲート電極として機能するゲートダイノード群160を構成している。なお、ゲート部240は、ゲート電極の設定電位を任意のタイミングで調節することにより、中間ダイノードDY11からAD150へ向かう二次電子の通過と遮断の切り替え制御が可能であり、当該ゲート部は、ゲート電極として少なくとも1つのダイノード(実質的には少なくとも最終段ダイノードDY15)を含んでいればよい。
【0029】
図1の構成例では、上述のコンバージョンダイノード120、ダイノードユニット130を構成する複数段のダイノードDY1〜DY15、およびフォーカス電極140により電極ユニット600(
図5参照)が構成されている。また、コンバージョンダイノード120から第11段目の中間ダイノードDY11までの前段部分で1〜10
5程度の利得が得られる。ゲート部240に含まれるゲートダイノード群160(第12段目のダイノードDY12〜最終段ダイノードDY15)は、実質的にはゲート機能を実現するためのゲート電極であるため、利得は1〜20程度であればよい。AD150の利得は、5×10
3〜10
4程度であればよい。このように、本実施形態では、従来のダイノードユニットにおける電子増倍機能の一部がAD150により実現されるため、コンバージョンダイノード120から中間ダイノードDY11までの前段部分と、第12段目のダイノードDY12から最終段ダイノードDY15までの後段部分(ゲートダイノード群160)で電子増倍能力が異なる。具体的には、コンバージョンダイノード120を含む前段部分の電子増倍率は、後段部分の電子増倍率(ゲートダイノード群160の電子増倍率)よりも大きくなる。換言すれば、コンバージョンダイノード120を含む前段部分のダイノードの段数は、後段部分のダイノードの段数よりも多くなる。
【0030】
最終段ダイノードDY15には、壁部131Aが設けられており、この壁部131Aが、最終段ダイノードDY15から放出される二次電子の軌道を、電子増倍方向AX1と交差する方向に修正するよう機能する。
図1の構成例では、当該イオン検出器100Aの小型化を考慮し、壁部131Aが、電子増倍方向AX1に直交する方向に沿って延びている。フォーカス電極140は、開口141の中心を通過する法線AX2が電子増倍方向AX1と直交するように配置されている。また、AD150も、電子入射面151の中心を通過する法線AX3が電子増倍方向AX1と直交するように配置されている。また、二次電子の軌道をより正確に制御するため、フォーカス電極140およびAD150は、それぞれの法線AX2、AX3が電子増倍方向AX1に沿ってずれるように配置される。
【0031】
コンバージョンダイノード120およびダイノードユニット130を構成するダイノードDY1〜DY15の各電位は、例えば
図2(a)に示されたブリーダ回路230により設定される。すなわち、コンバージョンダイノード120側は、V1(<GND)に設定され、最終段ダイノードDY15側がV2(>GND)に設定される。ダイノードDY1〜DY14には、直接に接続された各抵抗の電圧降下を利用して、所定の電位が設定される。なお、ゲートダイノード群160を構成するダイノードDY12〜DY15の電位設定は、ゲート部240により行われる。
図2(a)の例では、第12段目のダイノードDY12の電位はV3(<V2)に設定される。ゲート部240は、最終段ダイノードDY15の電位を電位V2と電位V3の間で切り替えるため(モード切替)、スイッチSWを有する。ここで、第11段目の中間ダイノードDY11の電位は第12段目のダイノードDY12の電位V3よりも低いため、アノード電極170の電位は、V3よりも高ければよい。一例として、第12段目のダイノードDY12が接地(GND)されている場合、アノード電極170の電位は、正電位(>GND)に設定される。
【0032】
カウンティングモード出力の場合、コンバージョンダイノード120から最終段ダイノードDY15までの各電極の電位は、
図2(c)中のグラフG210に示されたように設定される。なお、フォーカス電極140の電位は、
図2(a)に示されたブリーダ回路230とは別の電源により設定される。一方、カウンティングモード出力からアナログモード出力へのスイッチSWによるモード切替が行われると、ゲートダイノード群160を構成するダイノードDY12〜DY15の電位は全てV3に設定される(
図2(c)のグラフG211A)。アノード電極170の電位はV3よりも高く設定されているため、ゲート部240による二次電子の遮蔽機能が実現される。なお、
図2(c)のグラフG211Aは、ダイノードDY12〜DY15は共通のV3に設定された場合を示しているが、第12番目のダイノードDY12がV3(=GND)に設定され、最終段ダイノードDY15がV3(<GND)に設定されることで、グラフG211Bのような電位勾配が形成されてもよい。何れの場合であっても、本実施形態は、このような二次電子の遮蔽を実現するゲート部240を備えることにより、アナログモード出力端子からの確実な信号出力が得られるとともに、AD150の劣化が効果的に抑制される。
【0033】
図3は、本実施形態に係るイオン検出器と比較例に係るイオン検出器の時間特性として、それぞれのカウンティングモード出力の波形を示すグラフである。
図3において、横軸は時間(ns)、縦軸は出力電圧(a.u.)を示す。また、グラフG310は、本実施形態に係るイオン検出器100Aのカウンティングモード出力の波形、グラフG320は、比較例に係るイオン検出器(上記特許文献1)のカウンティングモード出力の波形を、それぞれ示す。なお、グラフG310とグラフG320は、それぞれのピーク値が一致するよう正規化されたグラフである。
【0034】
比較例に係るイオン検出器において、カウンティングモード出力を得るための各電極の設定電位は、上記特許文献1の記載に従う。一方、本実施形態に係るイオン検出器100Aにおいて、カウンティングモード出力を得るための各電極の設定電位は、後述する範囲に収まっている。比較例では、アナログモード出力として電子増配機構のうち前段部分で増倍された二次電子を利用し、カウンティングモード出力として前段部分とそれに続く後段部分の双方で増倍された二次電子を利用する。これに対し、本実施形態に係るイオン検出器100Aでは、電子増倍機構のうちアナログモード出力を得るための前段部分の構造は比較例と類似しているが、比較例の後段部分(電子増倍機能)に相当する部分は、ゲート電極として機能する一部のダイノードを除き、AD150が担っている。このように、カウンティングモード出力を得るための電子増倍機構のうち特に後段部分の構造的な違いが、グラフG310およびグラフG320の形状の差として、
図3から分かる。
【0035】
すなわち、
図3において、比較例の時間特性を示すグラフG320の半値全幅が8nsであるの対し、本実施形態の時間特性を示すグラフG310の半値全幅は5nsである。このように、カウンティングモード出力を得るための電子増倍機構の一部(ゲート電極として機能するダイノードを除いた後段部分)の電子増倍機能を、AD150が担う本実施形態によれば、二次電子を捕獲する電極または入射部位までの、該二次電子の到達時間のバラツキに起因する出す力信号の時間的な広がりが抑制され、イオン検出器としての時間特性の向上が顕著になる。
【0036】
次に、
図4および
図5を参照しながら、第1実施形態に係るイオン検出器100Aの組み立て工程を説明する。なお、
図4は、第1実施形態に係るイオン検出器100Aにおけるベース部500Aの代表的な構造を説明するための組み立て工程図である。また、
図5は、第1実施形態に係るイオン検出器100Aの代表的な構成例を説明するための組み立て工程図である。
【0037】
図4に示されたように、ベース部500Aは、電気的に絶縁された状態で互いに固定される第1支持基板510Aと第2支持基板510Bを備える。第1支持基板510Aは、主に、コンバージョンダイノード120、ダイノードユニット130、およびフォーカス電極140を含む電極ユニット600(
図5参照)が搭載される。一方、第2支持基板510Bには、AD150が搭載される。
【0038】
第1支持基板510Aは、後方部分が垂直に立ち上がった形状を有し、第2支持基板510Bと対面する位置に開口513が設けられている。第1支持基板510Aの前方部分には、電極ユニット600に搭載されるイオン入射部110を支持するための支持部511が設けられるとともに、電極ユニット600の搭載位置を規定するための位置決めスリット512Aが設けられている。一方、第1支持基板510Aの後方部分にも、電極ユニット600搭載位置を規定するための位置決め孔512Bが設けられている。更に、開口513の周辺には、第2支持基板510Bの固定位置を規定するための固定用孔514が形成されている。
【0039】
第2支持基板510Bの上面(電極ユニット600に保持されるフォーカス電極140と対面する面)には、AD150が搭載されるとともに、該AD150を取り囲むように電圧印加用の電極パッドが形成されている。第2支持基板520Bの裏面には、カップリングコンデンサ525の一端が接続される一方、該カップリングコンデンサ525の他端は、カウンティングモード出力端子(カウンティングポート)521に差し込まれている。また、第2支持基板520Bの周囲には、固定用孔514に対応して設けられた固定用孔515が形成されている。
【0040】
固定用孔515の位置と固定用孔514の位置を一致させた状態で、第2支持基板510Bが絶縁スペーサ530を介して第1支持基板510A上に置かれる。この状態で、第2支持基板510Bの上面側から、固定用孔515、絶縁スペーサ530、固定用孔514を貫通するようにボルト520が差し込まれる。そして、第1支持基板510Aの裏面側から飛び出したボルト520の先端にナット540が取り付けられることにより、第1支持基板510Aと第2支持基板510Bの相対位置が固定される。
【0041】
上述のように、第1支持基板510Aと第2支持基板510Bは絶縁スペーサ530を介して電気的に絶縁されているので、沿面放電の発生を効果的に抑制することが可能になる。また、第1支持基板510Aに対して第2支持基板510Bは物理的に分離可能な状態で、固定されている。そのため、電子入射面151へのカーボン付着により、AD150の交換が必要になった場合に、該AD150の交換が容易になる。
【0042】
更に、
図5に示されたように、電極ユニット600は、イオン入射部110、コンバージョンダイノード120、ダイノードユニット130を構成するダイノードDY1〜DY15、フォーカス電極140、およびアノード電極170を含む第2電子検出部700を一体的に把持するための一対の絶縁性支持基板610A、610Bを備える。
【0043】
一対の絶縁性支持基板610A、610Bのうち、絶縁性支持基板610Aの後方部分には、第1支持基板510Aの後方部分に設けられた位置決め孔512Bに差し込まれる固定片611Bが設けられている。また、前方部分には、第1支持基板510Aの後方部分に設けられた位置決めスリット512Aに差し込まれる固定片611Aと、イオン入射部110を所定位置に固定するための位置決め用きり欠き部611Cが設けられている。更に、絶縁性支持基板610Aには、イオン入射部110を所定位置に固定するための位置決め孔612A、コンバージョンダイノード120およびダイノードDY1〜DY15のそれぞれを所定位置に固定するための位置決め孔612B、第2電子検出部700を所定位置に固定するための位置決めスリット612C、およびフォーカス電極140を所定位置に固定するための位置決め孔613が、それぞれ設けられている。なお、絶縁性支持基板610Bも、絶縁性支持基板610Aと同様の構造を有する。また、コンバージョンダイノード120に電位V1を供給するダイノード供給ピン660Aは、絶縁性支持基板610A側に取り付けられ、最終段ダイノードDY15に電位V2を供給するゲート供給ピン660Bは、絶縁性支持基板610B側に取り付けられる。
【0044】
ダイノードユニット130を構成するダイノードDY1〜DY15のうち、メッシュ構造132か構成される中間ダイノードDY11は、
図8(a)に示された構造を有する。すなわち、中間ダイノードDY11は、到達する二次電子を通過させるための開口620が設けられたダイノード本体DY11aと、メッシュ部631が形成されたメッシュ構造体DY11bにより構成されている。メッシュ構造体DY11bは、開口620とメッシュ部631とが一致した状態で、ダイノード本体DY11aに直接固定されている。
【0045】
一対の絶縁性支持基板610A、610Bによって把持される構成要素のうち、イオン入射部110には、入射口110Aが設けられた前面に、位置決め用切欠き部611Cに嵌め込まれる固定片と、絶縁性支持基板610A、610Bそれぞれの位置決め孔612Aに差し込まれる固定片111が設けられている。コンバージョンダイノード120、ダイノードDY1〜DY15にも、位置決め孔612Bに差し込まれる固定片が設けられている。フォーカス電極140には、位置決め孔613に差し込まれる固定片142が設けられている。第2電子検出部700は、GND電位に設定される筐体と、アナログモード出力端子(アナログポート)710と、ハーメチック(絶縁部材)720と、アノード電極170を備える。アナログモード出力端子710とハーメチック720は、筐体上部に固定されている。なお、ハーメチック720は、アノード電極170とGND電位を絶縁するための絶縁部材である。当該第2電子検出部700の筐体側面には、一対の絶縁性支持基板610A、610Bそれぞれに設けられた位置決めスリット612Cに差し込まれる固定片730が設けられている。最終的に、一対の絶縁性支持基板610A、610Bの相対位置がボルトにより固定されることにより、これら構成要素が一対の絶縁性支持基板610A、610Bに把持される。
【0046】
なお、
図5に示されたように、絶縁性支持基板610Aの外側側面には、ブリーダ回路230として機能する金属板640が取り付けられ、GND配線650を介して、第12段目のダイノードDY12と第1支持基板510A(GND電位に設定)が電気的に接続されている。
【0047】
以上の組み立て工程を経て得られた電極ユニット600がベース部500Aに取り付けられることにより、
図6(a)に示されたようなイオン検出器100Aが得られる。なお、
図6(a)は、
図4および
図5に示された工程を経て得られたイオン検出器100Aの構造を説明するための斜視図である。また、
図6(b)は、
図6(a)中のI−I線に沿ったイオン検出器100Aの断面図である。なお、
図1に示された断面図も、
図6(a)中のI−I線に沿った断面図に相当している。また、
図6(a)中に示された配線670Aは、AD150のバイアス線、配線670Bは、フォーカス電極140に所定電位を設定するための供給線である。
【0048】
一例として、第1実施形態に係るイオン検出器100Aにおける各部位の設定電位について言及すると、イオン入射部110と第2電子検出部700の筐体部分の電位はGNDに設定される。ダイノード供給ピン660Aにより設定されるコンバージョンダイノード120の電位は、0V〜−3000Vの負電位である。第12段目のダイノードDY12の電位はGNDに設定される。ゲート供給ピン660Bにより設定される最終段ダイノードDY15の電位は、カウンティングモード出力の場合、+300V〜+600Vである。フォーカス電極140の電位は、+600V〜+1000Vである。AD150のバイアス電圧は+3500Vである。
【0049】
(第2実施形態)
図7(a)は、第2実施形態に係るイオン検出器100Bにおけるベース部500B(特に第1支持基板)の他の構造例を示す斜視図であり、
図7(b)は、ベース部500Bが適用されたイオン検出器100Bの断面図である。第2実施形態に係るイオン検出器100Bの構造は、
図7(a)に示されたベース部500Bを除き、第1実施形態と同様である。そのため、イオン検出器100Bにおいても、最終段ダイノードDY15の壁部131Bは、電子増倍方向AX1に直交する方向に沿って延びた形状を有する。
【0050】
図7(a)に示されたように、イオン検出器100Bのベース部500Bは、第1実施形態と同様に、電気的に絶縁された状態で互いに固定された第1支持基板510Aおよび第2支持基板510Bにより構成されている。ただし、この第2実施形態において、第1支持基板510Aには、その前方部分および後方部分のそれぞれに、前方固定用バネ550Aおよび後方固定用バネ550Bが設けられている。一方、ベース部500Bに搭載される電極ユニット600には、
図7(b)に示されたように、前方固定用バネ550Aに当接される前方固定用ポール560Aと、後方固定用バネ550Bに当接される前方固定用ポール560Aが設けられる。なお、この第2実施形態における電極ユニット600も、第1実施形態と同様に、イオン入射部110、コンバージョンダイノード120、ダイノードユニット130、フォーカス電極140、および第2電子検出部700のそれぞれが一対の絶縁性支持基板610A、610Bにより把持された構造を有する。
【0051】
上述のような構造を有するベース部500Bに電極ユニット600が搭載されると(すなわち、電極ユニット600がベース部500Bに装着されると)、ベース部500Bの前方固定用バネ550Aおよび後方固定用バネ550Bの弾性力により、電極ユニット600の前方固定用ポール560Aおよび後方固定用ポール560Bがベース部500Bに押される。これにより、電極ユニット600がベース部500Bに安定的に固定される。
【0052】
次に、第1および第2実施形態に係るイオン検出器100A、100Bの何れにも適用可能な第2電子検出部700(アナログモード出力)の電極構造を、
図8(a)および
図8(b)を参照しながら詳細に説明する。なお、
図8(a)および
図8(b)は、本実施形態(第1〜第4実施形態)に適用可能な第2電子検出部700の種々の電極構造の例を示す図である。
【0053】
図8(a)に示されたように、第1および第2実施形態に係るイオン検出器100A、100Bにおいて、第2電子検出部700のアノード電極170は、一端がアナログモード出力端子(アナログポート)710に接続される一方、他端が、アノード電極170とGNDとを絶縁するためのハーメチック(絶縁部材)720に接続されている。このアノード電極170に隣接する中間ダイノードDY11は、互いに接触したダイノード本体DY11aとメッシュ構造体DY11bにより構成されている(ダイノード本体DY11aとメッシュ構造体DY11bは同電位に設定される)。ダイノード本体DY11aには、到達した二次電子を通過させるための開口620が設けられている。メッシュ構造体DY11bには、メッシュ部631が設けられており、これら開口620およびメッシュ部631により、
図1等に示された中間ダイノードDY11のメッシュ構造132が構成される。
【0054】
図8(a)に示された電極構造において、中間ダイノードDY11のメッシュ開口率70%(=0.7)程度に設定されている。なお、メッシュ開口率は、ダイノード本体DY11aに設けられた開口620の開口面積に対する、メッシュ構造体DY11bにおけるメッシュ開口の総面積の比で与えられる。
【0055】
図8(b)に示された電極構造では、アノード電極170が中間ダイノードDY11に直接接触している(中間ダイノードDY11がアノード電極170に含まれる)。したがって、
図8(b)の電極構造では、中間ダイノードDY11にメッシュ構造132(
図1等参照)は不要である。ただし、
図8(b)の電極構造の場合、
図2(a)に示されたブリーダ回路230の構造は、領域A内の構造が
図2(b)に示された構造に置き換えられる。すなわち、上述の第1および第2実施形態に係るイオン検出器100A、100Bに
図8(b)の電極構造が適用された場合、ゲート部240では、
図2(a)および
図2(b)に示されたように、第12段目のダイノードDY12に替え、V3に設定される位置が配線231を介して変更される。ただし、中間ダイノードDY11はアノード電極170に含まれるため、ブリーダ回路230からは電気的に分離されている。
【0056】
図8(b)の電極構造が採用された場合でも、カウンティングモード出力の場合、コンバージョンダイノード120から最終段ダイノードDY15までの各電極の電位は、
図2(c)中のグラフG210に平行なグラフとなる。このとき、フォーカス電極140の電位は、
図2(a)に示されたブリーダ回路230とは別の電源により設定される。一方、カウンティングモード出力からアナログモード出力へのスイッチSWによるモード切替が行われると、ゲートダイノード群160を構成するダイノードDY12〜DY15の電位は全てV3またはV3よりも低い負電位に設定される。なお、ダイノードDY12〜DY15の設定電位は一致する必要はない。
図2(c)のグラフG211Bに示されたように、第10段目のダイノードDY10と第12段目のダイノードDY12との間に位置する、配線231に接続された部分(中間ダイノードDY11はブリーダ回路230からは電気的に分離されている)が電位V3(=GND)に設定される一方、最終段ダイノードDY15が電位V3(<GND)に設定されることで、
図2(c)のグラフG211Bに示されたような電位勾配が形成されてもよい。また、中間ダイノードDY11を含むアノード電極170の電位は正電位であるため、ゲート部240による二次電子の遮蔽機能が実現される。
【0057】
(第3および第4実施形態)
図9(a)および
図9(b)は、本実施形態に係るイオン検出器の種々の変形例を示す断面図である。なお、
図9(a)および
図9(b)の何れも、
図1と同様に、本実施形態に係るイオン検出器における主要部位が示されている。また、
図9(a)および
図9(b)に示された断面図は、
図6(a)中のI−I線に沿った断面図に相当している。すなわち、第3および第4実施形態に係るイオン検出器100C、100Dは、何れも、最終段ダイノードDY15の壁部131C、131Dの構造、フォーカス電極140の設置位置、およびAD150の設置位置を除き、第1実施形態に係るイオン検出器100Aと同様の構造を備える。
【0058】
図9(a)に示された、第3実施形態に係るイオン検出器100Cにおいて、最終段ダイノードDY15は、電子増倍方向AX1と鋭角に交差する方向に沿って延びた壁部131Cを有する。すなわち、
図9(a)の構成例では、最終段ダイノードDY15に設けられた壁部131Cにより、最終段ダイノードDY15から放出された二次電子が電子増倍方向AX1と鋭角に交差する方向に沿って進むように、該二次電子の軌道が修正されている。フォーカス電極140も、開口141の中心を通過する法線AX2が電子増倍方向AX1と鋭角に交差するように配置されている。同様に、AD150も、電子入射面151の中心を通過する法線AX3が電子増倍方向AX1と鋭角に交差するように配置されている。また、二次電子の軌道をより正確に制御するため、フォーカス電極140およびAD150は、それぞれの法線AX2、AX3が互いにずれるように配置される。
【0059】
上述のように、最終段ダイノードDY15に設けられた壁部131Cが、該最終段ダイノードDY15から放出される二次電子の軌道を制御しているので、ダイノードユニット130に対するフォーカス電極140およびAD150の設置位置を任意に設定することが可能になる。
【0060】
一方、
図9(b)に示された、第4実施形態に係るイオン検出器100Dにおいて、最終段ダイノードDY15も壁部131Dを有するが、この壁部131Dは、実質的に最終段ダイノードDY15から放出された二次電子の軌道を偏向する機能はない。すなわち、第4実施形態において、最終段ダイノードDY15に設けられた壁部131Dは実質的には不要であるが、該最終段ダイノードDY15から放出された二次電子の軌道に影響されない程度の長さであれば実用上の問題は生じない。したがって、第4実施形態におけるフォーカス電極140およびAD150は、電子増倍方向AX1に沿ってそれぞれ配置される。
【0061】
具体的には、第4実施形態において、フォーカス電極140は、開口141の中心を通過する法線AX2が電子増倍方向AX1と平行になるように、配置される。同様に、AD150も、電子入射面151の中心を通過する法線AX3が電子増倍方向AX1と平行になるように、配置される。また、最終段ダイノードDY15からAD150の電子入射面151へ向かう二次電子の軌道を安定させるため、フォーカス電極140およびAD150は、それぞれの法線AX2、AX3が互いにずれるように配置される。
【0062】
(第5実施形態)
第5実施形態に係るイオン検出器は、アノードモード出力を得るための構造およびゲート部240を除き、
図1に示された第1実施形態および
図7に示された第2実施形態と同様の構造(基本構造)を備える。なお、フォーカス電極140およびAD150の設置位置を無視すれば、当該第5実施形態に係るイオン検出器は、
図9(a)および
図9(b)に示された第3および第4実施形態とも同様の基本構造を備える。この第5実施形態には、
図2(a)および
図2(b)に示されたブリーダ回路230のうち、ダイノードDY12〜DY15により構成されたゲートダイノード群160を除き、ゲート部240は不要である。すなわち、第5実施形態に係るイオン検出器は、カウンティングモード出力のみを行うシングルモードのイオン検出器である。なお、
図1を参照すれば、第5実施形態の構成から除外される、アノードモード出力を得るための構造には、コンバージョンダイノード120とダイノードDY1〜DY11により増倍された二次電子を捕獲するためのアノード電極170と、中間ダイノードDY11に到達した二次電子の一部をアノード電極170側へ通過させるためのメッシュ構造132が含まれる。したがって、第5実施形態におけるダイノードDY11の構造は、
図8(b)に示された構造と同様な構造を有する。
【0063】
したがって、第5実施形態に係るイオン検出器は、イオン入射部110、コンバージョンダイノード120、ゲートダイノード群160を含むダイノードユニット130、フォーカス電極140、およびAD150を備える。この構成において、イオン入射部110の電位はGNDに設定される。また、入射口110Aと出射口110Bの相対位置を調整することにより、イオン入射部110がイオンの軌道を制御する。コンバージョンダイノード120と、ダイノードユニット130を構成するダイノードDY1〜DY15のそれぞれは、ブリーダ回路230(
図2(a)および
図2(b)に示された構成のうち、ゲートダイノード群160を除くゲート部240が排除された構成)により所定の電位に設定される。具体的には、コンバージョンダイノード120の電位は、0〜−6500Vに設定される。一方、最終段ダイノードDY15の電位は、+300V〜+600Vに設定される。コンバージョンダイノード120と最終段ダイノードDY15の間に配置されたダイノードDY1〜DY14の設定電位は、ブリーダ回路230を構成する、直列接続された各抵抗の電圧降下により決まる。なお、第1および第2実施形態と同様に、フォーカス電極140の電位は、+600V〜+1000Vに設定される。また、AD150に印加される電圧(GNDを基準とした電位差)は、+3500Vである。
【0064】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。