特許第6974213号(P6974213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6974213-懸架装置用スプリング 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974213
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】懸架装置用スプリング
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/12 20060101AFI20211118BHJP
   F16B 11/00 20060101ALN20211118BHJP
【FI】
   F16F1/12 N
   F16F1/12 C
   !F16B11/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-33163(P2018-33163)
(22)【出願日】2018年2月27日
(65)【公開番号】特開2019-148298(P2019-148298A)
(43)【公開日】2019年9月5日
【審査請求日】2020年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 英生
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 浩之
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−015249(JP,A)
【文献】 特開2015−190538(JP,A)
【文献】 特開平11−117982(JP,A)
【文献】 特開昭61−278635(JP,A)
【文献】 実開昭61−047113(JP,U)
【文献】 特開昭63−152706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/12
F16B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用懸架装置に用いられるスプリングにおいて、
ばね部を構成する金属製の線材であって、表面に被覆層が設けられた線材と、
前記ばね部に作用する荷重を受けるゴム製のシート部であって、前記線材が嵌り込んだ溝部を有するとともに、接着剤にて当該線材に接着されたシート部とを備え、
前記シート部には、前記溝部の内壁面に開口した流出口と当該シート部の外壁面に開口した注入口とを連通させる連通路が設けられている懸架装置用スプリング。
【請求項2】
ばね部に作用する荷重を受けるゴム製のシートであって、当該ばね部を構成するとともに表面に被覆層が設けられた金属製の線材が嵌り込む溝部を有し、かつ、接着剤にて当該線材に接着される懸架装置用ラバーシートにおいて、
前記溝部の内壁面に開口した流出口と外壁面に開口した注入口とを連通させる連通路が設けられている懸架装置用ラバーシート。
【請求項3】
ばね部を構成する金属製の線材であって、表面に被覆層が設けられた線材と、
前記ばね部に作用する荷重を受けるゴム製のシート部であって、前記線材が嵌り込んだ溝部を有するとともに、接着剤にて当該線材に接着されたシート部とを備える懸架装置用スプリングの製造に適用される接着方法において、
前記線材を前記溝部の内壁に接触させた状態で、前記シート部の外壁面から当該溝部の内壁面に接着剤を注入する注入工程を備える接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用懸架装置に用いられるスプリングに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の発明では、金属製のコイルばねとプラスチック製の保持部材とが接着材を介して接着されている。当該発明では、保持部材に接着剤が塗布された後、当該塗布された部位にコイルばねが載置されることにより、コイルばねが保持部材に接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−15249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の懸架装置用スプリングでは、以下の理由により、コイルばねが早期に損傷するおそれがある。
すなわち、保持部材に接着剤が塗布された後、当該塗布された部位にコイルばねが載置されると、塗布された接着剤の一部が、コイルばねと保持部材との接着面からはみ出してしまう可能性が極めて高い。
【0005】
車両振動や経年変化等により、接着面からはみ出した接着剤(以下、はみ出し部という。)と接着面に存在する接着剤(以下、接着層という。)との間に亀裂が発生し、はみ出し部が接着層から破断してしまう可能性がある。
【0006】
はみ出し部が破断した場合において、コイルばねに荷重が作用して当該コイルばね及び保持部材が変形すると、当該はみ出し部がコイルばねに対して相対的に変位してしまう。はみ出し部がコイルばねに対して変位すると、はみ出し部の破断箇所とコイルばねとが擦れ合ってしまう。
【0007】
はみ出し部の破断箇所とコイルばねとが擦れ合うと、コイルばねの表面に設けられた被覆層が損傷してしまうので、当該損傷した部位からコイルばねが早期に損傷してしまう。
本願は、上記点に鑑み、金属製の線材にて構成されたばね部が早期に損傷してしまうことを抑制可能な懸架装置用スプリングの一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
車両用懸架装置に用いられるスプリングは、ばね部(2)を構成する金属製の線材(2A)であって、表面に被覆層が設けられた線材(2A)と、ばね部(2)に作用する荷重を受けるゴム製のシート部(3)であって、線材(2A)が嵌り込んだ溝部(3A)を有するとともに、接着剤にて当該線材(2A)に接着されたシート部(3)とを備える。
【0009】
当該シート部(3)には、例えば、溝部(3A)の内壁面に開口した流出口(4A)と当該シート部(3)の外壁面に開口した注入口(4B)とを連通させる連通路(4)が設けられていることが望ましい。
【0010】
これにより、当該懸架装置用スプリングを製造する者は、線材(2A)を溝部(3A)の内壁に接触させた状態で、注入口(4B)から溝部(3A)の内壁面に接着剤を注入することが可能となる。
【0011】
したがって、当該懸架装置用スプリングによれば、溝部(3A)に接着剤が塗布された後、当該塗布された部位に線材(2A)が載置される場合に比べて、接着面からはみ出す接着材の量を低減することが可能となり得る。延いては、はみ出し部が接着層から破断してしまうことが抑制されるので、はみ出し部の破断に起因するばね部の早期損傷が抑制される。
【0012】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係るスプリングを示す図である。
図2】第1実施形態におけるシート部を示す図である。
図3】第1実施形態における接着層を示す図である。
図4】第1実施形態における連通路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の「発明の実施形態」は、本願発明の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されるものではない。
【0015】
なお、各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載されたものである。本明細書に記載された発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。
【0016】
少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位は、「1つの」等の断りがされた場合を除き、少なくとも1つ設けられている。つまり、「1つの」等の断りがない場合には、当該部材は2以上設けられていてもよい。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態は、懸架装置用スプリング及び懸架装置用ラバーシートを車両の前輪用懸架装置に適用したものである。
【0018】
1.懸架装置用スプリング及び懸架装置用ラバーシートの構成
図1に示される懸架装置用スプリング1(以下、スプリング1という。)は、ばね部2及びシート部3等を少なくとも備える。
【0019】
ばね部2は、金属製の線材2Aにより構成されたばねである。線材2Aの表面には、当該線材2A全体を覆う被覆層2Bが設けられている。なお、本実施形態に係るばね部2は、コイル状に成形されたコイルばねである。被覆層2Bは、熱硬化樹脂等の樹脂にて形成された薄膜である。
【0020】
シート部3は、ばね部2に作用する荷重を受ける懸架装置用ラバーシートの一例である。当該シート部3は、ゴム等の弾性変形可能な樹脂にて構成されている。シート部3には、図2に示されるように、線材2Aが嵌り込む溝部3Aが設けられている。
【0021】
溝部3Aは、座巻部を構成する線材2Aが嵌り込む溝である。つまり、シート部3は、コイル状に構成されたばね部2の軸線方向一端に配置され、座巻部を構成する線材2Aに接触する(図1参照)。以下の説明に係る線材2Aは、線材2Aのうち座巻部を構成する部分である。
【0022】
線材2Aは、接着剤にてシート部3、つまり溝部3Aの内壁面に接着されている。このため、線材2Aと溝部3Aの内壁面との間には、図3に示されるように、当該接着材による接着層ADが形成されている。
【0023】
そして、シート部3には、図4に示されるように、連通路4が設けられている。連通路4は、溝部3Aの内壁面に接着剤を注入する際に利用される接着剤注入路である。つまり、連通路4は、後述される注入工程の施工時に利用される通路である。
【0024】
具体的には、溝部3Aの内壁面には、少なくとも1つの流出口4Aが開口している。シート部3の外壁面には、少なくとも1つの注入口4Bが開口している。連通路4は、それら流出口4Aと注入口4Bとを繋ぐように連通させる。
【0025】
2.線材とシート部との接着方法
シート部3、つまり溝部3Aの内壁面と線材2Aとの接着は、少なくとも注入工程を含む接着方法により施行される。
【0026】
(1)接着作業を行う者又は接着作業装置(以下、作業者等という。)は、先ず、線材2Aを溝部3Aの内壁に接触させるように、既に被覆層2Bが成形されているばね部2をシート部3に載置する載置工程を施行する。
【0027】
(2)次に、作業者等は、線材2Aを溝部3Aの内壁に接触させた状態で、シート部3の外壁面から当該溝部3Aの内壁面に接着剤を注入する注入工程を施行する。つまり、作業者等は、注入器(図示せず。)を用いて、予め決められた量の接着剤を、予め決められた圧力にて注入口4Bから連通路4内に注入する。
【0028】
これにより、流出口4Aから溝部3A内に流出した接着剤は、溝部3Aの内壁面に沿うように当該内壁面全体に拡がる。その後、作業者等は、所定温度の雰囲気中にてスプリング1を予め決められた時間加熱する接着剤硬化工程を施行する。なお、硬化工程は、常温の雰囲気中で施行されてもよい。
【0029】
3.本実施形態に係るスプリング等の特徴
スプリング1を製造する者、つまり作業者等は、上述したように、線材2Aを溝部3Aの内壁に接触させた状態で、注入口4Bから溝部3Aの内壁面に接着剤を注入することが可能となる。
【0030】
したがって、本実施形態に係るスプリング1によれば、溝部3Aに接着剤が塗布された後、当該塗布された部位に線材2Aが載置される場合(特許文献1に記載のスプリング)に比べて、接着面からはみ出す接着材の量を低減することが可能となり得る。延いては、はみ出し部が接着層ADから破断してしまうことが抑制されるので、はみ出し部の破断に起因するばね部の早期損傷が抑制される。
【0031】
(その他の実施形態)
上述の実施形態に係る接着方法では、連通路4を利用して注入工程が施行された。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、接着材を注入可能な注射針を有する注入器であれば、連通路4が設けられていないシート部3であっても、接着剤の注入を施行することができ得る。
【0032】
上述の実施形態に係るシート部3は、1つの注入口4B及び2つの流出口4Aを有するものであった。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、複数の注入口4B及び1つ若しくは3つ以上の流出口4Aを有する連通路4、又は複数の連通路4を有するシート部3であってもよい。
【0033】
上述の実施形態に係るばね部2は、コイルばねであった。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、ばね部2は、コイルばね以外のばねであってもよい。
【0034】
上述の実施形態に係る連通路4、注入口4B及び流出口4Aは、円形状の断面形状を有するものであった。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
さらに、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1… 懸架装置用スプリング
2… ばね部
2A… 線材
2B… 被覆層
3… シート部
3A… 溝部
4… 連通路
4A… 流出口
4B… 注入口
AD… 接着層
図1
図2
図3
図4