特許第6974250号(P6974250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974250アルミニウムワイヤーハーネスの端子用銅合金材及び端子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974250
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】アルミニウムワイヤーハーネスの端子用銅合金材及び端子
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20211118BHJP
   C22C 9/01 20060101ALI20211118BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20211118BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20211118BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20211118BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211118BHJP
   H01B 7/00 20060101ALN20211118BHJP
【FI】
   C22C9/06
   C22C9/01
   C22F1/08 B
   C22F1/08 C
   H01B1/02 A
   H01B5/02 Z
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !H01B7/00 301
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 650A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-90223(P2018-90223)
(22)【出願日】2018年5月8日
(65)【公開番号】特開2019-196514(P2019-196514A)
(43)【公開日】2019年11月14日
【審査請求日】2020年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】野村 幸矢
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−266541(JP,A)
【文献】 特開2013−020862(JP,A)
【文献】 特開2014−164965(JP,A)
【文献】 特開2019−151867(JP,A)
【文献】 特開平06−128708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/06
C22C 9/01
C22F 1/08
H01B 1/02
H01B 5/02
C22F 1/00
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:0.4〜2.2質量%、Ni:0.4〜4.0質量%を含み、残部Cu及び不可避不純物からなり、導電率が23%IACS以上であることを特徴とするアルミニウムワイヤーハーネスの端子用銅合金材。
【請求項2】
Al:0.4〜2.2質量%、Ni:0.4〜4.0質量%を含み、残部Cu及び不可避不純物からなり、導電率が23%IACS以上である銅合金材からなることを特徴とするアルミニウムワイヤーハーネス用銅合金端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムへの耐接触腐食性に優れ、アルミニウムワイヤーハーネス(電線としてアルミニウム線を用いたワイヤーハーネス)の端子用として好適に用いられる銅合金材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のコネクタは、エンジン直上に設置されたECU(Electrical Control Unit)などの接続に使用される高性能端子と、車内全体に張り巡らされるワイヤーハーネスの相互接続に使用される汎用端子に分類できる。高性能端子にはCu−Ni−Si合金、Cu−Ni−Sn−P合金、Cu−Mg合金などが使用される。これに対して汎用端子には、7/3黄銅(C2600)や6/4黄銅(C2800)が大量に使用されている。
【0003】
一般に、ワイヤーハーネスには銅線が用いられているが、自動車の軽量化に対する要求が強いことから、ワイヤーハーネスの軽量化が検討され、銅線より軽量なアルミニウム線(純アルミニウム線又はアルミニウム合金線)を用いたワイヤーハーネス(アルミニウムワイヤーハーネス)の開発が進められている。このアルミニウムワイヤーハーネスでは、アルミニウム線と銅合金端子が接触する。このとき、Snめっきされた銅合金端子のプレス切断面(基材が露出)とアルミニウム線が接触し、銅合金端子(基材)とアルミニウム線の間で異種金属接触腐食が生じることが懸念されている。
【0004】
特許文献1,2には、銅合金端子の表面に電極電位がアルミニウムに近い被覆層を形成し、これによりアルミニウム線の接触腐食を防止する技術が開示されている。しかし、この場合もSnめっきの場合と同様に、端子を製造する工程において行われるプレス打ち抜きにより、切断面に基材が露出し、基材とアルミニウム線が接触し、これによりアルミニウム線に接触腐食が発生する可能性がある。
【0005】
一方、アルミニウムの異種金属接触腐食の防止のため、プレス打ち抜き後、後めっきによるプレス切断面の被覆又は防水樹脂によるシーリングを行い、基材が露出した部分をなくして、端子の基材とアルミニウム線との接触を防止する方法も考えられる。しかし、この方法は製造コストが掛かるほか、めっきの未着や樹脂シーリングの欠陥があれば、そこからアルミニウム線の接触腐食が進行する。自動車1台あたり、ワイヤーハーネスの端子は1000〜3000個も使用されており、上記方法では、アルミニウム線の接触腐食を防止する上で十分な信頼性が確保できるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−20862号公報
【特許文献2】特開2017−203214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウムワイヤーハーネスの銅合金端子は、表面の全部又は一部がめっきや防水樹脂等の被覆層に覆われていない場合でも、銅−アルミニウム異種金属接触によるアルミニウムワイヤーの接触腐食が抑制できることが好ましい。
このような異種金属接触によるアルミニウムワイヤーの腐食を抑制するには、端子用銅合金に銅よりも電極電位がアルミニウムに近い合金元素を多量に添加する方法がまず考えられる。しかし、ほとんどの実用銅合金の電極電位は、溶媒元素である銅のフェルミ準位を反映するのでこの方法は効果が弱い。また、高濃度の合金化は導電率の低下を招く。
【0008】
ワイヤーハーネスの性能評価試験では、ワイヤーハーネス全体に過電流を規定の時間だけ通電し、発火・発煙する箇所がないか試験を行うが、銅合金端子の導電率が従来使われている黄銅よりも低いと、そこに発熱が集中してしまう。このため、銅合金端子の導電率が黄銅より低い場合、ワイヤーハーネス全体の設計を見直す必要が出てくる。
従って、本発明の目的は、黄銅と比べて同等以上の導電率を有し、黄銅よりもアルミニウムワイヤーの異種金属接触腐食を軽減できる端子用銅合金材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅合金材は、アルミニウムワイヤーハーネスの端子として使用されるもので、Al:0.4〜2.2質量%、Ni:0.4〜4.0質量%を含み、残部Cu及び不可避不純物からなり、導電率が23%IACS以上であることを特徴とし、アルミニウムへの耐接触腐食性に優れる(アルミニウムに接触腐食が発生するのを抑制できる)。
この銅合金材は、板材、条材、線材、棒材のいずれかの形態を有する。本発明において、アルミニウムとは、純アルミニウム及びアルミニウム合金を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る銅合金材は、黄銅よりもアルミニウムへの耐接触腐食性に優れ、この銅合金材をアルミニウムワイヤーハーネスにおいてアルミニウム線の圧着端子として用いた場合、アルミニウムワイヤーの接触腐食が従来の黄銅端子に比べて軽減される。これにより、アルミニウムワイヤーハーネス全体の信頼性を向上させることができる。そして、本発明に係る銅合金材は、黄銅と比べて同等以上の導電率を有するから、この銅合金材をアルミニウム線の端子として用いた場合、従来のワイヤーハーネスを設計変更なしでそのまま使用できる。また、本発明に係る銅合金材は、応力緩和率が黄銅に比べて小さく、アルミニウム線の圧着端子として用いた場合、高温雰囲気及び通電発熱により端子が加熱されたとき、アルミニウム線との間で接合強度の低下が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の電極間電圧の測定における電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、本発明に係る銅合金材について、詳細に説明する。
[銅合金材の組成]
本発明に係る銅合金材は、Al:0.4〜2.2質量%、Ni:0.4〜4.0質量%を含み、残部が基本的にCu及び不可避不純物からなり、アルミニウムワイヤーハーネスの端子用である。以下、上記各元素の作用について説明する。
【0013】
(Al)
Cu−Al二元系合金の平衡状態図では、Alの希薄な領域ではCuとAlは完全に固溶し合っているが、銅合金中のAlは、りん脱酸銅中のPと同じく、転位などの線欠陥あるいは積層欠陥などの面欠陥に著しく偏析している。つまり、銅合金中ではAl濃度の濃淡が存在する。そして、その濃淡部自体が電解質溶液中では局部電池となり、Alとの接触電位差を緩和する。これにより、ワイヤーハーネス中のアルミニウムワイヤーの接触腐食が軽減される。また、Alは銅合金の加工硬化能を向上させ、銅合金の強化に寄与し、さらに固溶元素として作用するため銅合金の応力緩和率の低下にも寄与する。しかし、Al含有量が0.4質量%未満の場合は、その効果が不足する。一方、Alは銅合金の導電率を著しく低下させ、含有量が2.2質量%を超えると、Niの共添下において導電率が23%IACSを下回る。
従って、Al含有量は0.4〜2.2質量%の範囲内とする。Al含有量の下限値は、アルミニウムワイヤーの接触腐食を軽減し、応力緩和率を低下させるとの観点から好ましくは0.5質量%、上限値は、導電率の低下を抑えるとの観点から好ましくは1.8質量%である。
【0014】
(Ni)
銅合金中のAlは転位に強く固着するが、その相互作用は温度上昇とともに消失する。この現象は回復過程(硬さや弾性率が時間の経過とともに低減していく)として観察される。この現象は80℃以上で顕著となり、それに伴い応力緩和も生じやすい。また、この現象によりAlの局所化(偏析)が緩和されるので、アルミニウムワイヤーの接触腐食を軽減する効果も低下する。このような現象を防止するには、転位に固着したAlが拡散により離脱するのを抑制する元素が必要である。この作用を持った元素がNiである。また、Niは固溶元素として作用するため、銅合金の応力緩和率の低下にも寄与する。しかし、Ni含有量が0.4質量%未満では、Alの離脱を抑制する作用が不足する。一方、4.0質量%を超えるとAlの共添下において導電率が23%IACSを下回る。
従って、Ni含有量は0.4〜4.0質量%の範囲内とする。Ni含有量の下限値は、アルミニウムワイヤーの接触腐食を軽減し、応力緩和率を低下させるとの観点から好ましくは0.5質量%、上限値は、導電率の低下を抑えるとの観点から好ましくは3.5質量%、より好ましくは2.8質量%である。
【0016】
[銅合金材の特性]
(導電率)
自動車用に使われる黄銅はC2600(Cu−30質量%Zn)やC2800(Cu−40質量%Zn)が多く、その導電率の実績は26〜28%IACS程度である。一方、非特許文献「若い技術者のための機械・金属材料 第2版(丸善株式会社、平成14年3月10日発行)」、p.311によれば、Zn含有量30〜40質量%のCu−Zn合金の導電率の最小値は23%IACSである。そこで、本発明では、黄銅製端子の導電率を前提として構築されたアルミニウムワイヤーハーネスに、全体の設計変更なしで適用できる銅合金端子を提供するとの観点から、導電率の下限を23%IACSと設定した。本発明に係る銅合金材において、各合金元素又は不可避不純物は、銅合金材の導電率が23%IACS未満に低下しない範囲で含有される。
【0017】
(耐接触腐食性)
銅合金材が先に説明した組成を有するとき、前記銅合金材はアルミニウムへの耐接触腐食性が黄銅よりも優れる(アルミニウムの接触腐食が抑制される)。後述する実施例において、アルミニウムへの耐接触腐食性は、(1)アルミニウムと前記銅合金材を室温に保持した塩水内で接触させた場合の、前記アルミニウムの接触腐食量(重量減少率)、及び(2)アルミニウムと前記銅合金材を室温に保持した塩水中に非接触で浸漬し、通電させたときに測定される通電電圧、の2つで評価される。ここで室温とは、気温が20℃から40℃に保たれた状態で、各測定に使用する機材及び材料がこの温度と平衡している状態であることを意味する。
【0018】
(応力緩和率)
銅合金材が先に説明した組成を有するとき、前記銅合金材の応力緩和率は黄銅に比べて小さい。銅合金材の応力緩和率が小さいと、アルミニウム線の圧着端子として使用時に、高温雰囲気及び通電発熱により端子が加熱されたときでも、アルミニウム線との間で接合強度の低下が生じにくい。
【0019】
[銅合金材の被覆層]
本発明に係る銅合金材はベア材のままで用い得るが、前記銅合金材を基材(母材)として、必要に応じて、表面被覆層を形成することができる。その表面被覆層自体は端子用銅合金材等において周知のものでよく、例えば次のようなものが好適である。
銅合金材表面に形成されたSn又はSn合金層。
銅合金材表面に形成されたCu−Sn合金層とSn又はSn合金層。この表面被覆層は、例えば銅合金材表面にCuめっきとSn又はSn合金めっきをこの順にした後、リフロー処理を行って形成される。Cu−Sn合金層はCuめっきのCuとSn又はSn合金めっきのSnにより形成される。
銅合金材表面に形成されたNi層とSn又はSn合金層。
銅合金材表面に形成されたNi層とCu−Sn合金層とSn又はSn合金層。この表面被覆層は、例えば銅合金材表面にNiめっき、Cuめっき、Sn又はSn合金めっきをこの順にした後、リフロー処理を行って形成される。
銅合金材表面に形成されたNi層とCu層とCu−Sn合金層とSn又はSn合金層。Cu−Sn合金層は、例えば銅合金材表面にNiめっき、Cuめっき、Sn又はSn合金めっきをした後、リフロー処理を行うことにより形成できる。Cu−Sn合金層の形成に使われなかったCuめっきが銅層として残存する。
【0020】
[銅合金材の製造方法]
本発明に係る銅合金材は、例えば、鋳塊を均質化熱処理し、続いて熱間圧延した後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して製造することができる。冷間圧延の開始以後、最終板厚まで冷間圧延される間、焼鈍(軟化焼鈍)は1回行うだけでよいが、パススケジュール等の関係から、2回以上の焼鈍を行うこともできる。最終冷間圧延後の焼鈍は低温焼鈍とする。各加熱工程の好ましい条件を例示すると、次のとおりである。
均質化熱処理は、雰囲気温度800〜950℃、保持時間30分〜2時間の範囲から選択する。均質化熱処理後、そのまま熱間圧延を行う。最終冷間圧延前の焼鈍の条件は、バッチ焼鈍であれば、雰囲気温度350〜400℃、保持時間1〜3時間の範囲から選択し、連続焼鈍であれば、実体温度500〜700℃、保持時間10〜60秒の範囲から選択する。冷間圧延の間に2回以上の焼鈍を行う場合、上工程で行われる焼鈍の条件は、バッチ焼鈍であれば上記と同じ範囲から選択し、連続焼鈍であれば実体温度650〜700℃、保持時間10〜60秒の範囲から選択する。
【実施例】
【0021】
銅合金(No.1〜18)をクリプトル炉において大気中で木炭被覆下で溶解し、表1〜3に示す組成を有する厚さ45mm、幅180mm、長さ45mmの鋳塊を得た。続いて、表1〜3に示す条件で均質化処理後、その温度で熱間圧延を開始し、15mm厚の熱延板を得た。
この熱延板に対し、表1〜3の熱延後の工程の欄に示す工程及び条件で冷間圧延及び焼鈍を行い、いずれも最終冷間圧延で板厚0.25mmに仕上げ、最後に低温焼鈍を行った。この低温焼鈍は加熱保持した硝石炉に20秒間材料を浸漬して水中冷却する方法で行った。なお、表1〜3の熱延以降の工程の欄において、tは板厚(単位:mm)である。
得られた板厚0.25mmの冷延材を供試材として、室温下(約25℃)で、下記要領で機械的性質(0.2%耐力、伸び)、導電率、応力緩和率、耐接触腐食性(アルミニウム腐食減少率、通電電圧)を測定した。アルミニウム腐食減少率の測定試験には、Ni下地めっき及びSnめっきした供試材を用い、その他の測定試験には、表面被覆していない供試材(ベア材)を用いた。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
(機械的性質の測定)
各供試材から、長手方向が圧延方向となるように、JIS5号引張り試験片を機械加工にて作製し、JIS−Z2241に準拠して引張り試験を実施して、0.2%耐力及び伸び(破断伸び)を測定した。耐力は永久伸び0.2%に相当する引張り強さである。
(導電率の測定)
導電率は、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジを用いた四端子法で測定した。
【0026】
(応力緩和率の測定)
応力緩和率は、片持ち梁方式によって測定した。各供試材から、長手方向が圧延方向に直角方向となる試験片(幅10mm、長さ60mm)を切り出した。試験片の一端を剛体試験台に固定し、固定端から一定距離(スパン長さ)の位置で試験片に10mmの初期たわみ変位dを与え、固定端に0.2%耐力の80%に相当する表面応力を負荷した。スパン長さは、日本伸銅協会技術標準(JCBA−T309:2004)に規定されている「銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」により算出した。試験片を剛体試験台に取り付けた状態で、150℃に保持されたオーブン中に装入し、1000時間保持した後に取り出し、初期たわみ変位d(10mm)を取り去ったときの永久たわみ変位δを測定し、応力緩和率SRRT=(δ/d)×100を計算した。
【0027】
(耐接触腐食性の測定)
(1)アルミニウム腐食減少率の測定
アルミニウム腐食減少率とは、銅合金材からなる試験片とアルミニウムとを室温に保持した塩水内で接触させた場合の、前記アルミニウムの接触腐食量(重量減少)の割合(%)を意味する。
各供試材の全面に0.1μm厚のNi下地めっき及び1μm厚の電気光沢Snめっきを行った後、270℃でリフロー処理し、次いで実操業のプレス加工を想定して四辺をシャー切断し、正方形(辺の長さ1cm)の試験片を作成した。この試験片の端面(シャー切断した面)には基材(銅合金)が露出している。アルミニウム減少率の測定には、各供試材から採取した前記試験片と、板厚0.5mmで矩形(2cm×1.5cm)のアルミニウム板(純アルミニウム板:市販のJISA1050P)を用いた。前記試験片及びアルミニウム板を無水エタノールで溶剤脱脂したのち、試験片をアルミニウム板の平面中心に載せ、面圧1.5kg/cmの樹脂製クリップで挟み込んだ。試験片は、切断バリがアルミニウム板の方を向かないように、アルミニウム板の上に載せた。また、アルミニウム板は試験前に重量を測定しておいた。クリップで挟んだ試験片とアルミニウム板を、4%NaCl水溶液中に24時間浸漬した後取り出した。アルミニウム板から腐食生成物や塩分などをナイロンブラシで流水中にて除去し、アルミニウム板を乾燥させ重量を測定した。試験前のアルミニウム板の重量w0と試験後のアルミニウム板の重量wから、試験後のアルミニウム板の重量の減少率(100×(w0−w)/w0)を計算した。
【0028】
(2)通電電圧の測定
この試験は、銅合金材とアルミニウムが直接は接触していないが塩水を介して電気的に接触した場合に、前記アルミニウムに腐食減肉が生じることを想定した試験である。通電電圧の測定には、各供試材から採取した矩形(5cm×2cm)の試験片と、板厚0.5mmで矩形(5cm×2cm)のアルミニウム板(純アルミニウム板:市販のJISA1050P)を用いた。通電電圧の測定のための電気回路を図1に示す。
アルミニウム板1は、直径1cmの円孔2aが開いたテフロン(登録商標)シート2で包んだ。自動車バッテリを想定した14V定電圧電源3の+極にアルミニウム板1と負荷を想定した0.25Wの白熱電球4を並列に接続し、−極をアースに接続する。アルミニウム板1は電源3の+極以外には接続しない。電球4に接続する他方の電線(電源3の+極に接続しない方の電線)はアースに接続する。中央部に高さ2mm、幅2mmのリブ5aを持つナイロン板5に、テフロンシート2に包んだアルミニウム板1と試験片6を、リブ5aに沿わせて固定する。このとき、アルミニウム板1と試験片6は圧延面が同じ方向を向き、リブ5aとアルミニウム板1の間及びリブ5aと試験片6の間は、できるだけ隙間が無いように固定する。0.25Wの白熱電球7の一方の電線を試験片6に取り付け、他方の電線をアースに接続し、電球7に並列に電圧計8を接続する。
【0029】
電圧計8で測定される電圧をモニタして、塩水浸漬後の通電開始後150秒経過時点の電圧を測定した。アルミニウム板1と試験片6を固定したナイロン板5を、150ppmNaCl水溶液9を入れた槽10に浸漬して通電すると、アルミニウム板1と試験片6は直接接続していないので、大部分の電流は電源3につないだ電球4で消費される。アルミニウム板1が腐食し、試験片6に水素が発生すると、NaCl水溶液を介して電気的に接触しているアルミニウム板1と試験片6の間に電流が流れやすくなり、試験片6側に接続された電球7の両端の電圧が増加する。アルミニウム板1をテフロン(登録商標)シート2で覆ったのは、腐食を促進するためで、アルミニウム板1の露出面積が試験片6側にくらべて小さくなればなるほど腐食が進行しやすくなる。
【0030】
表1〜3に示すように、従来材のNo.17(C2600)は、アルミニウム腐食減少率が0.009質量%、通電電圧が0.021Vであり、同じく従来材のNo.18(C2800)は、アルミニウム腐食減少率が0.008質量%、通電電圧が0.020Vであった。
発明例No.1〜11は、AlとNiの含有量が規定の範囲内であり、導電率が23%IACS以上であり、アルミニウムに対する耐接触腐食性が従来材である黄銅(No.17,18)より優れる。より具体的にいえば、No.1〜11は、アルミニウム腐食減少率が0.008質量%以下、電極間電圧が0.019V以下で、No.17と比べると、アルミニウム腐食減少率と通電電圧が共に低い。また、No.1〜9,11は、No.18と比べると、アルミニウム腐食減少率と通電電圧が共に低く、No.10は、No.18と比べると、アルミニウム腐食減少率は同等であるが、通電電圧が低い。
【0031】
一方、比較例No.12はAl含有量が過剰なため、導電率が22%IACSと低くなった。
比較例No.13はNi含有量が不足しているため、黄銅(No.17,18)を越える耐接触腐食性が得られなかった。また、応力緩和率が黄銅より大きい。
比較例No.14はAl含有量が不足しているため、黄銅(No.17,18)を越える耐接触腐食性が得られなかった。また、応力緩和率が黄銅より大きい。
比較例No.15はNi含有量が過剰なため、導電率が21%IACSと低くなった。
比較例No.16はNi含有量が不足しているため、Alの拡散を抑制できずAlの偏析が小さくなり、黄銅(No.17,18)を越える耐接触腐食性が得られず、また、応力緩和率が黄銅より大きくなった。
【符号の説明】
【0032】
1 アルミニウム板
3 電源
6 試験片
8 電圧計
図1