【0019】
[銅合金材の被覆層]
本発明に係る銅合金材はベア材のままで用い得るが、前記銅合金材を基材(母材)として、必要に応じて、表面被覆層を形成することができる。その表面被覆層自体は端子用銅合金材等において周知のものでよく、例えば次のようなものが好適である。
銅合金材表面に形成されたSn又はSn合金層。
銅合金材表面に形成されたCu−Sn合金層とSn又はSn合金層。この表面被覆層は、例えば銅合金材表面にCuめっきとSn又はSn合金めっきをこの順にした後、リフロー処理を行って形成される。Cu−Sn合金層はCuめっきのCuとSn又はSn合金めっきのSnにより形成される。
銅合金材表面に形成されたNi層とSn又はSn合金層。
銅合金材表面に形成されたNi層とCu−Sn合金層とSn又はSn合金層。この表面被覆層は、例えば銅合金材表面にNiめっき、Cuめっき、Sn又はSn合金めっきをこの順にした後、リフロー処理を行って形成される。
銅合金材表面に形成されたNi層とCu層とCu−Sn合金層とSn又はSn合金層。Cu−Sn合金層は、例えば銅合金材表面にNiめっき、Cuめっき、Sn又はSn合金めっきをした後、リフロー処理を行うことにより形成できる。Cu−Sn合金層の形成に使われなかったCuめっきが銅層として残存する。
【実施例】
【0021】
銅合金(No.1〜18)をクリプトル炉において大気中で木炭被覆下で溶解し、表1〜3に示す組成を有する厚さ45mm、幅180mm、長さ45mmの鋳塊を得た。続いて、表1〜3に示す条件で均質化処理後、その温度で熱間圧延を開始し、15mm厚の熱延板を得た。
この熱延板に対し、表1〜3の熱延後の工程の欄に示す工程及び条件で冷間圧延及び焼鈍を行い、いずれも最終冷間圧延で板厚0.25mmに仕上げ、最後に低温焼鈍を行った。この低温焼鈍は加熱保持した硝石炉に20秒間材料を浸漬して水中冷却する方法で行った。なお、表1〜3の熱延以降の工程の欄において、tは板厚(単位:mm)である。
得られた板厚0.25mmの冷延材を供試材として、室温下(約25℃)で、下記要領で機械的性質(0.2%耐力、伸び)、導電率、応力緩和率、耐接触腐食性(アルミニウム腐食減少率、通電電圧)を測定した。アルミニウム腐食減少率の測定試験には、Ni下地めっき及びSnめっきした供試材を用い、その他の測定試験には、表面被覆していない供試材(ベア材)を用いた。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
(機械的性質の測定)
各供試材から、長手方向が圧延方向となるように、JIS5号引張り試験片を機械加工にて作製し、JIS−Z2241に準拠して引張り試験を実施して、0.2%耐力及び伸び(破断伸び)を測定した。耐力は永久伸び0.2%に相当する引張り強さである。
(導電率の測定)
導電率は、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジを用いた四端子法で測定した。
【0026】
(応力緩和率の測定)
応力緩和率は、片持ち梁方式によって測定した。各供試材から、長手方向が圧延方向に直角方向となる試験片(幅10mm、長さ60mm)を切り出した。試験片の一端を剛体試験台に固定し、固定端から一定距離(スパン長さ)の位置で試験片に10mmの初期たわみ変位dを与え、固定端に0.2%耐力の80%に相当する表面応力を負荷した。スパン長さは、日本伸銅協会技術標準(JCBA−T309:2004)に規定されている「銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」により算出した。試験片を剛体試験台に取り付けた状態で、150℃に保持されたオーブン中に装入し、1000時間保持した後に取り出し、初期たわみ変位d(10mm)を取り去ったときの永久たわみ変位δを測定し、応力緩和率SRRT=(δ/d)×100を計算した。
【0027】
(耐接触腐食性の測定)
(1)アルミニウム腐食減少率の測定
アルミニウム腐食減少率とは、銅合金材からなる試験片とアルミニウムとを室温に保持した塩水内で接触させた場合の、前記アルミニウムの接触腐食量(重量減少)の割合(%)を意味する。
各供試材の全面に0.1μm厚のNi下地めっき及び1μm厚の電気光沢Snめっきを行った後、270℃でリフロー処理し、次いで実操業のプレス加工を想定して四辺をシャー切断し、正方形(辺の長さ1cm)の試験片を作成した。この試験片の端面(シャー切断した面)には基材(銅合金)が露出している。アルミニウム減少率の測定には、各供試材から採取した前記試験片と、板厚0.5mmで矩形(2cm×1.5cm)のアルミニウム板(純アルミニウム板:市販のJISA1050P)を用いた。前記試験片及びアルミニウム板を無水エタノールで溶剤脱脂したのち、試験片をアルミニウム板の平面中心に載せ、面圧1.5kg/cm
2の樹脂製クリップで挟み込んだ。試験片は、切断バリがアルミニウム板の方を向かないように、アルミニウム板の上に載せた。また、アルミニウム板は試験前に重量を測定しておいた。クリップで挟んだ試験片とアルミニウム板を、4%NaCl水溶液中に24時間浸漬した後取り出した。アルミニウム板から腐食生成物や塩分などをナイロンブラシで流水中にて除去し、アルミニウム板を乾燥させ重量を測定した。試験前のアルミニウム板の重量w0と試験後のアルミニウム板の重量wから、試験後のアルミニウム板の重量の減少率(100×(w0−w)/w0)を計算した。
【0028】
(2)通電電圧の測定
この試験は、銅合金材とアルミニウムが直接は接触していないが塩水を介して電気的に接触した場合に、前記アルミニウムに腐食減肉が生じることを想定した試験である。通電電圧の測定には、各供試材から採取した矩形(5cm×2cm)の試験片と、板厚0.5mmで矩形(5cm×2cm)のアルミニウム板(純アルミニウム板:市販のJISA1050P)を用いた。通電電圧の測定のための電気回路を
図1に示す。
アルミニウム板1は、直径1cmの円孔2aが開いたテフロン(登録商標)シート2で包んだ。自動車バッテリを想定した14V定電圧電源3の+極にアルミニウム板1と負荷を想定した0.25Wの白熱電球4を並列に接続し、−極をアースに接続する。アルミニウム板1は電源3の+極以外には接続しない。電球4に接続する他方の電線(電源3の+極に接続しない方の電線)はアースに接続する。中央部に高さ2mm、幅2mmのリブ5aを持つナイロン板5に、テフロンシート2に包んだアルミニウム板1と試験片6を、リブ5aに沿わせて固定する。このとき、アルミニウム板1と試験片6は圧延面が同じ方向を向き、リブ5aとアルミニウム板1の間及びリブ5aと試験片6の間は、できるだけ隙間が無いように固定する。0.25Wの白熱電球7の一方の電線を試験片6に取り付け、他方の電線をアースに接続し、電球7に並列に電圧計8を接続する。
【0029】
電圧計8で測定される電圧をモニタして、塩水浸漬後の通電開始後150秒経過時点の電圧を測定した。アルミニウム板1と試験片6を固定したナイロン板5を、150ppmNaCl水溶液9を入れた槽10に浸漬して通電すると、アルミニウム板1と試験片6は直接接続していないので、大部分の電流は電源3につないだ電球4で消費される。アルミニウム板1が腐食し、試験片6に水素が発生すると、NaCl水溶液を介して電気的に接触しているアルミニウム板1と試験片6の間に電流が流れやすくなり、試験片6側に接続された電球7の両端の電圧が増加する。アルミニウム板1をテフロン(登録商標)シート2で覆ったのは、腐食を促進するためで、アルミニウム板1の露出面積が試験片6側にくらべて小さくなればなるほど腐食が進行しやすくなる。
【0030】
表1〜3に示すように、従来材のNo.17(C2600)は、アルミニウム腐食減少率が0.009質量%、通電電圧が0.021Vであり、同じく従来材のNo.18(C2800)は、アルミニウム腐食減少率が0.008質量%、通電電圧が0.020Vであった。
発明例No.1〜11は、AlとNiの含有量が規定の範囲内であり、導電率が23%IACS以上であり、アルミニウムに対する耐接触腐食性が従来材である黄銅(No.17,18)より優れる。より具体的にいえば、No.1〜11は、アルミニウム腐食減少率が0.008質量%以下、電極間電圧が0.019V以下で、No.17と比べると、アルミニウム腐食減少率と通電電圧が共に低い。また、No.1〜9,11は、No.18と比べると、アルミニウム腐食減少率と通電電圧が共に低く、No.10は、No.18と比べると、アルミニウム腐食減少率は同等であるが、通電電圧が低い。
【0031】
一方、比較例No.12はAl含有量が過剰なため、導電率が22%IACSと低くなった。
比較例No.13はNi含有量が不足しているため、黄銅(No.17,18)を越える耐接触腐食性が得られなかった。また、応力緩和率が黄銅より大きい。
比較例No.14はAl含有量が不足しているため、黄銅(No.17,18)を越える耐接触腐食性が得られなかった。また、応力緩和率が黄銅より大きい。
比較例No.15はNi含有量が過剰なため、導電率が21%IACSと低くなった。
比較例No.16はNi含有量が不足しているため、Alの拡散を抑制できずAlの偏析が小さくなり、黄銅(No.17,18)を越える耐接触腐食性が得られず、また、応力緩和率が黄銅より大きくなった。