(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974326
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】熱硬化性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20211118BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20211118BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20211118BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20211118BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20211118BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20211118BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/36
C08K9/06
C08K5/54
C08L83/05
C01B33/12 Z
C08L23/22
【請求項の数】22
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-536873(P2018-536873)
(86)(22)【出願日】2017年1月13日
(65)【公表番号】特表2019-502008(P2019-502008A)
(43)【公表日】2019年1月24日
(86)【国際出願番号】US2017013407
(87)【国際公開番号】WO2017123925
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2020年1月10日
(31)【優先権主張番号】62/279,280
(32)【優先日】2016年1月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514056229
【氏名又は名称】ヘンケル アイピー アンド ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】デカト、 アルフレッド エー.
(72)【発明者】
【氏名】ジン、 シュウファ
【審査官】
中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−012576(JP,A)
【文献】
特開2007−284482(JP,A)
【文献】
特表2009−509012(JP,A)
【文献】
特表2003−504474(JP,A)
【文献】
特開2011−225877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00−13/08,
C08L1/00−101/14,
C01B33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)変性シリカフィラーを形成するために、ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、及びオクチルトリメトキシシランからなる群から選択されるC1〜C30アルキル基を有する少なくとも1種のアルキルシラン、及び、C2〜C30アルケニル基を有する少なくとも1種のアルケニルシランによる処理によって変性されているシリカを含む、変性シリカフィラー;
b)エチレン、プロピレン、ブチレンのすべての異性体、ペンチレンのすべての異性体、メチルペンテン、イソプレン、及びそれらの混合物から選択されるオレフィンモノマーの重合によって形成されるポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有するエラストマー炭化水素ポリマー;
c)少なくとも2個のSiH官能基を有する水素化ケイ素架橋剤;
d)ヒドロシリル化触媒;並びに
e)任意選択で、安定化剤、酸化防止剤、可塑剤、追加のフィラー材、ハンドリング改善剤、又はヒドロシリル化触媒阻害剤のうちの1又は複数
を含む、熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項2】
アルキルシランの総量の、アルケニルシランの総量に対する重量比が、(1〜10):1である、請求項1に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記変性シリカフィラー中の前記アルキルシランと前記アルケニルシランとの総合計量が、前記変性シリカフィラーの総重量を基準として1〜15重量%である、請求項1又は2に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記変性シリカフィラーが、前記エラストマー組成物の総重量を基準として10〜40重量%の量で存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記C2〜C30アルケニル基を有するアルケニルシランが、アリルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、10−ウンデセニルトリメトキシシラン、及びドコセニルトリエトキシシランからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記アルキルシランがオクタデシルトリメトキシシランを含み、前記アルケニルシランがアリルトリメトキシシランを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項7】
ポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有する前記エラストマー炭化水素ポリマーが末端アルケニル基を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項8】
ポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有する前記エラストマー炭化水素ポリマーがポリイソブチレンを含む、請求項7に記載の熱硬化性エラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱硬化性エラストマー組成物の熱硬化生成物である、熱硬化エラストマー。
【請求項10】
アルキルシランの総量の、アルケニルシランの総量に対する重量比が、(1〜10):1である、請求項9に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項11】
前記変性シリカフィラー中の前記アルキルシランと前記アルケニルシランとの総合計量が、前記変性シリカフィラーの総重量を基準として1〜15重量%である、請求項9又は10に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項12】
前記変性シリカフィラーが、前記エラストマーの総重量を基準として10〜40重量%の量で存在する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項13】
前記アルキルシランがオクタデシルトリメトキシシランを含み、前記アルケニルシランがアリルトリメトキシシランを含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項14】
ポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有する前記エラストマー炭化水素ポリマーが末端アルケニル基を含む、請求項9〜13のいずれか1項に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項15】
ポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有する前記エラストマー炭化水素ポリマーがポリイソブチレンを含む、請求項14に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項16】
前記熱硬化エラストマーが125℃で24時間後に15%未満の圧縮永久ひずみを有する、請求項9〜15のいずれか1項に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項17】
前記熱硬化エラストマーが300psiより大きい引張強度を有する、請求項9〜16のいずれか1項に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項18】
前記熱硬化エラストマーが80〜200psiの100%における弾性率、及び200%を超える破断点伸びを有する、請求項9〜17のいずれか1項に記載の熱硬化エラストマー。
【請求項19】
ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、及びオクチルトリメトキシシランからなる群から選択されるC1〜C30アルキル基を有する少なくとも1種のアルキルシラン、及び、C2〜C30アルケニル基を有する少なくとも1種のアルケニルシランを用いた処理により変性されているシリカフィラー材を含む変性シリカフィラー材であって、前記アルキルシランの、前記アルケニルシランに対する重量比が、(1〜10):1である、変性シリカフィラー材。
【請求項20】
前記変性シリカフィラー中の前記アルキルシランと前記アルケニルシランとの総合計量が、前記変性シリカフィラーの総重量を基準として1〜15重量%である、請求項19に記載の変性シリカフィラー材。
【請求項21】
前記C2〜C30アルケニル基を有するアルケニルシランが、アリルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、10−ウンデセニルトリメトキシシラン、及びドコセニルトリエトキシシランからなる群から選択される、請求項19又は20に記載の変性シリカフィラー材。
【請求項22】
前記アルキルシランがオクタデシルトリメトキシシランを含み、前記アルケニルシランがアリルトリメトキシシランを含む、請求項19〜21のいずれか1項に記載の変性シリカフィラー材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
なし。
【0002】
連邦支援研究に関する声明
なし。
【0003】
技術分野
本開示は、一般に熱硬化性エラストマー組成物に関し、より詳細には、エラストマー組成物に優れた物理的特性及び機械的特性を提供するためにシラン変性シリカフィラー材を含有するエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
エラストマー組成物は、粘弾性を示すものであり、一部は熱可塑性であり得るが、典型的には熱硬化性組成物である。ゴムという用語は、ゴムの木から採取された天然ゴムに由来する弾性特性を有する組成物を示すのにしばしば使用されており、一方、エラストマーは、合成ゴム型組成物に使用されている。本明細書及び特許請求の範囲において、エラストマー及びゴムという用語は、互換可能に使用される。エラストマー組成物は、多くの場合、少なくとも1種のエラストマーポリマー又はゴムポリマー、フィラー材、及び架橋成分を含む。エラストマー組成物は、しばしば、シーリング材、ガスケット材、接着剤として、また成形可撓性部品の製造のために使用される。
【0005】
エラストマー組成物は粘弾性を示し(これは、粘性と弾性の両方を有することを意味する)、また分子間力が非常に弱く、他の材料と比較して一般にヤング率が低く、破壊ひずみが大きい。エラストマーポリマーは、そのガラス転移温度を超える温度で存在する非晶質ポリマーであり、そのためかなりのセグメント運動が可能である。したがって、周囲温度では、エラストマーは比較的柔らかく変形可能である。エラストマーの長いポリマー鎖は硬化中に架橋され、これには加硫が含まれ得る。弾性は、長いポリマー鎖が再構成して印加された応力を分散させる能力に由来する。ポリマー鎖間の共有結合性の架橋により、エラストマーは、応力が除去されると元の構造に確実に戻ることができる。この極度の可撓性の結果として、エラストマーは、個々の材料に応じて、永久変形(permanent deformation)することなく、その初期サイズから少なくとも200%反復的に伸張することができる。架橋されていないか、又は短く、再構成が容易でない鎖では、印加された応力は永久変形をもたらすことになるであろう。議論したように、エラストマー組成物は、ガスケット材など、シール可能な組成物及び部品に特別な用途を見出す。これらは、燃料電池、エンジン部品シーリング、水密シール、及び他のシーリング用途におけるものを含めたあらゆる種類のガスケットに使用される。
【0006】
ケイ素、酸素、炭素、及び水素の骨格からなるシリコーン系ゴムは、圧縮永久ひずみなどの良好な弾性特性と機械的性質とを有するが、非常に高い湿気及びガス透過性を有する傾向にあり、このことは本開示では望ましくない。ポリイソブチレン(ポリオレフィン炭化水素)は、良好な機械的特性に加えて、湿気及びガス不透過性であるという望ましい利点を有する合成型のゴムである。良好な機械的特性に加えてガス及び湿気不透過性であることは、本開示に係るエラストマー組成物にとって非常に望ましい。
【0007】
本明細書において論じるように、シーリング用途に使用されるエラストマー組成物に望まれる特性は:低い圧縮永久ひずみ、高い引張強度、高い弾性値、高い伸び、比較的低い粘度、並びに湿気及びガスに対する低い透過性である。従来のエラストマーの問題としては、高い圧縮永久ひずみ、低い引張強度、低い弾性率、低い伸び、高い粘度、並びに高い湿気及びガス透過性が挙げられている。エラストマーの特性を改善するための従来の試みとしては、トリビニルシクロヘキサンなどのアルケニル含有モノマーを添加して、エラストマーの特性を改善することが挙げられるが、得られるエラストマーは、一般に、145psiを超える引張強度を有することはなく、また伸びは150%未満である。他の従来の試みとしては、ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)などの疎水性ケイ素化合物で処理したシリカフィラー材の添加が挙げられている。HMDZは、窒素上の2つの水素原子に代えてトリメチルシリル基を有するアンモニアの誘導体である。これらの変性シリカフィラーは、ヒドロシリル化架橋剤、例えば:1,2−ポリブタジエン;1,6ヘキサンジオールジアクリレート;トリメチルプロパントリアクリレート;及び、トリアリルイソシアヌレートとともに使用される。変性シリカと組み合わせたこれらの架橋剤は、エラストマーの特性をある程度改善することができるが、大部分の配合物の圧縮永久ひずみは、これらの変性を行ったとしても依然として20%を上回る。材料の圧縮永久ひずみは、印加された力が取り除かれた後も残る永久変形である。この用語は、通常、エラストマーなどの軟質材料に適用され、エラストマーのシーリング能力の尺度である。圧縮永久ひずみが低いほど、変形が小さく、それによりシーリング挙動が良好になる。加えて、生成されたエラストマー組成物は、通常、配合物の粘度を有用というには高過ぎる粘度まで上昇させることなく、機械的特性の改善に十分なフィラーを収容することはできない。
【0008】
低い圧縮永久ひずみ、高い引張強度、高い弾性率、高い伸び、比較的低い粘度、並びに低い湿気及びガス透過性をもたらすエラストマー組成物を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、この開示は、エラストマー組成物の特性を著しく改善する明確に変性されたシリカフィラー材を含む熱硬化性エラストマー組成物を提供する。改善された特性としては、低い圧縮永久ひずみ、高い引張強度、高い弾性率、高い伸び、比較的低い粘度、高い湿気バリア性、及び高いガス不透過性が挙げられる。エラストマー組成物から生成されるエラストマー生成物は、例えば燃料電池において、シーラント又はガスケット材として使用することができる。
【0010】
一実施形態では、本開示は、a)変性シリカフィラーを形成するためにC
1〜C
30アルキル基を有する少なくとも1つのアルキルシラン及びC
2〜C
30アルケニル基を有する少なくとも1つのアルケニルシランによる処理によって変性されているシリカを含む、変性シリカフィラー;b)ポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有するエラストマー炭化水素ポリマー;c)少なくとも2個のSiH官能基を有する水素化ケイ素架橋剤;d)ヒドロシリル化触媒;並びに、e)任意選択で、安定化剤、酸化防止剤、可塑剤、追加のフィラー材、ハンドリング改善剤、又はヒドロシリル化触媒阻害剤のうちの1又は複数を含む、熱硬化性エラストマー組成物である。
【0011】
別の実施形態では、本開示は、a)変性シリカフィラーを形成するためにC
1〜C
30アルキル基を有する少なくとも1種のアルキルシラン及びC
2〜C
30アルケニル基を有する少なくとも1種のアルケニルシランによる処理によって変性されているシリカを含む、変性シリカフィラー;b)ポリオレフィン骨格及び官能性アルケニル基を有するエラストマー炭化水素ポリマー;c)少なくとも2個のSiH官能基を有する水素化ケイ素架橋剤;d)ヒドロシリル化触媒;並びに、e)任意選択で、安定化剤、酸化防止剤、可塑剤、追加のフィラー材、ハンドリング改善剤、又はヒドロシリル化触媒阻害剤のうちの1又は複数を含む、熱硬化(heat cured)エラストマーである。
【0012】
別の実施形態では、本開示は、C
1〜C
30アルキル基を有する少なくとも1種のアルキルシラン及びC
2〜C
30アルケニル基を有する少なくとも1種のアルケニルシランによる処理によって変性されているシリカフィラー材を含む変性シリカフィラー材であり、ここでアルキルシランの、アルケニルシランに対する重量比は、(1〜10):1である。
【0013】
本開示のこれら及び他の特徴及び利点は、好ましい実施形態の詳細な説明から当業者にはより明らかになるであろう。詳細な説明に添付される図面を下記に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい実施形態の詳細な説明
本開示は、変性シリカフィラー材、及び、特に燃料電池のための、シーリング材又はガスケットとして使用される熱硬化性エラストマー組成物におけるその使用に関する。該組成物は、(A)2種以上のシランで処理されたシリカフィラー材であって、該2種以上のシランが、少なくともアルキルシランとアルケニルシランとを、互いに特定の重量比で含む、シリカフィラー材;(B)ポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有するエラストマー炭化水素ポリマー;(C)少なくとも2個のSiH官能基を有する水素化ケイ素架橋剤;並びに、(D)ヒドロシリル化触媒を含む。組成物は、一成分系又は二成分系のいずれでもよい。一成分系では、配合のすべての成分が単一の配合物中にある。二成分系では、第一成分が少なくとも2個のSiH官能基を有する水素化ケイ素架橋剤を含み、第二成分がヒドロシリル化触媒を含む。2つの部分は別々に保管され、混合組成物が使用される直前にのみ混合される。
【0015】
以下の定義は、別段の記載がない限り、本明細書及び特許請求の範囲に適用される。ポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有する炭化水素ポリマーという用語は、以下を意味する。ポリオレフィン骨格を有する炭化水素ポリマーは、オレフィンモノマーの重合から形成される主鎖を有する炭化水素ポリマーである。オレフィンモノマーはアルケンであり、これはその構造中に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有することを意味する。これらのオレフィンモノマーのいくつかとしては、例として、しかし限定するものではないが、エチレン、プロピレン、ブチレンのすべての異性体、ペンチレンのすべての異性体、メチルペンテン、イソプレン、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なオレフィンモノマーは、少なくとも1つのC=C二重結合を有するC
2〜C
30のものを含む。本開示に係るポリマーは、官能性アルケニル基を含有し、これは、ポリマーがヒドロシリル化反応において機能することができるアルケニル基を有することを意味する。アルケニル基という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する基を意味する。好ましくは、ポリマーは末端アルケニル基を有する。これらの末端アルケニル基は、エンド型、エキソ型、又はアリル型を含めたいくつかの形態を取ることができる。エンド型は以下の構造(−CH=C(CH
3)
2)を有し、一方、エキソ型は以下の構造(−CH
2−C(CH
3)=CH
2)を有する。アリル型は、構造(−CH
2−CH=CH
2)を有する。本明細書に記載されるようなポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有するこのような炭化水素ポリマーには、数多くの商業的供給源がある。「PIB」と略されるポリイソブチレンは、イソブチレン単位のホモポリマーを指し、本開示に係るポリオレフィン骨格を有する炭化水素ポリマーの一例である。ブチルゴムは、当業者に理解されるように、イソブチレンモノマーとイソプレンモノマーとのコポリマーであり、典型的には、これらのコポリマーは、90〜99.2モル%のイソブチレン及び10〜0.8モル%のイソプレンを含む。ブチルゴムは、本開示に係るポリオレフィン骨格を有する炭化水素ポリマーの別の例である。アルキル基は、単一のH基の除去によってアルカンから誘導される置換基を意味し、これは、完全に飽和した炭化水素基であることを意味する。最も単純なアルキル基は(−CH
3)である。アルケニル基は、アルケンから誘導される置換基を意味し、これは少なくとも1つの不飽和炭素−炭素二重結合を有する炭化水素であることを意味する。最も単純なアルケニル基は(−CH=CH
2)である。アルケニル基はまた、構造(−CH=CH−)におけるように内部に位置する炭素−炭素二重結合を有することもできる。シリカフィラーという用語は、二酸化ケイ素系フィラーを意味し、これはフィラーの重量で大部分の成分がSiO
2であることを意味する。好ましいシリカフィラーは、当業者に知られているようにヒュームドシリカから形成される。シランという用語は、4つの置換基が結合しているケイ素原子、Si(R)
4(ここで、ケイ素原子は完全に飽和している)を含有する構造を指す。最も単純なシランは、R基が全て水素であるSi(H)
4である。アルキルシランという用語は、4つのR置換基のうちの少なくとも1つがアルキル基であるシランを意味する。アルケニルシランという用語は、4つのR置換基のうちの少なくとも1つがアルケニル基であるシランを意味する。水素化ケイ素(silicon−hydride)架橋剤は、ヒドロシリル化反応に関与してエラストマー組成物中のポリマー鎖を架橋することができる少なくとも2個のSiH官能基を有する構造を意味する。ヒドロシリル化反応において、SiH基は、不飽和結合を介して付加され、Si基への共有結合を形成する。ヒドロシリル化がアルケンにおいて行われる場合、得られるものはアルキルシランであり、一方、アルキンとの反応はビニルシランを生成する。ヒドロシリル化触媒は、ヒドロシリル化反応を触媒する触媒を意味する。ヒドロシリル化反応は、本開示に係るエラストマー組成物中で、水素化ケイ素架橋剤を用いて、アルケニル官能基を含有するポリマー鎖を架橋するために使用される。以下の標準的な略語が使用される:mはメートル、gはグラム、Lはリットル、mgはミリグラム、mlはミリリットル、そしてmmolはミリモルである。別段の記載がない限り、重量%という用語は、特定された組成物の総重量に対する百分率としての重量を意味する。
【0016】
本開示は、シーリング材として、特にエレクトロニクス、パワートレイン、及び他の多くの自動車用途において使用されるもののようなエラストマーガスケットの形成において特別な用途を見出すエラストマー組成物を提供する。これらのエラストマーガスケットは、燃料電池シーリング用途に特に有用である。燃料電池には、効率利用に必要とされる密閉セルの大規模スタックの形成を可能にするために、数多くの薄いガスケットが必要である。燃料電池ガスケットの望ましい特性は、本明細書に記載されるように、低い圧縮永久ひずみ;低い粘度;高い値の引張強度、弾性率、及び伸び;並びに、ガス及び湿気に対する低い透過性である。
【0017】
好ましくは、本開示に係る熱硬化性エラストマー組成物は、以下の成分を含む:(A)少なくとも2種のシラン(シランのうちの1種がアルキルシランであり、シランのうちのもう1種がアルケニルシランである)による処理によって変性されているシリカフィラー;(B)ポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有する炭化水素ポリマーを含むポリマー成分;(C)少なくとも2個のSiH官能基を含有する水素化ケイ素架橋剤;並びに(D)ヒドロシリル化触媒。追加の任意選択の成分としては:酸化防止剤及び安定化剤、可塑剤、ハンドリングを改善するためのアルケニル官能性モノマー、室温硬化を防止するためのヒドロシリル化触媒阻害剤、並びにアルミナ及び/又はカーボンブラックなどの他のフィラー材を挙げることができる。
【0018】
好適なベースシリカフィラー(本開示に従って変性しようとするシリカフィラーを意味する)は、ヒュームドシリカ生成物などの様々な二酸化ケイ素(SiO
2)生成物のうちの任意のもの、好ましくは少なくとも35m
2/gの比表面積(BET)を与えるのに十分な粒子サイズを有するものを含むことができる。好ましくは、ヒュームドシリカは、本開示に従う方法以外のいずれの方法でも前処理又は変性されていない。ヒュームドシリカは、多種多様な供給源から購入することができ、Evonikから、Aerosil(登録商標)ブランドで、例えば、Aerosil(登録商標)OX−50(35〜65m
2/gの比表面積(BET)を有するヒュームドシリカである)又はAerosil(登録商標)200(175〜225m
2/gの比表面積(BET)を有するヒュームドシリカである)が挙げられる。
【0019】
本開示に係る変性シリカフィラーを製造するのに好適なシランは、少なくとも1種のアルキルシラン及び少なくとも1種のアルケニルシランを含む。アルキルシランは、Si原子に結合した少なくとも1つのアルキル基を含むシランを意味する。本開示のための好適なアルキルシランの例としては、アルキル基のサイズがC
1〜C
30であるものが挙げられる。好ましいアルキルシランの例としては、ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシルシラン、及びオクタデシルトリ
メトキシシランが挙げられる。アルケニル官能性シランは、そのR置換基のうちの少なくとも1つとしてアルケニル基を含むシランを意味する。単一のアルケニル基を有する好適なアルケニル官能化シランの例としては、アリルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、10−ウンデセニルトリメトキシシラン、及びドコセニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0020】
シリカフィラーは、本開示に係るシラン変性剤で前処理することができ、あるいは、シリカフィラーを、エラストマー組成物の形成中にアルキルシラン及びアルケニルシランを用いてin situで処理することもできる。変性シリカフィラーは、オレフィン骨格ポリマーとの相溶性がより高く、オレフィン系ポリマーに共有結合させることができる。エラストマー組成物への変性シリカフィラーの添加は、圧縮永久ひずみを低下させることにより圧縮永久ひずみを改善する。変性シリカフィラーの添加は、引張強度、弾性率、及び伸びが上昇させることによって機械的特性を改善する。エラストマー組成物への変性シリカフィラーの添加は粘度を高レベルに上昇させない。好ましくは、変性は、アルケニルシラン1に対してアルキルシラン1〜10、より好ましくはアルケニルシラン1に対してアルキルシラン2〜5の重量比を使用して行われる。好ましくは、シリカフィラーを変性するのに使用されるシランの総量は、変性シリカフィラーの総重量を基準にして1〜15重量%、より好ましくは変性シリカフィラーの総重量を基準として2〜10重量%の範囲である。変性シリカフィラーは、好ましくは、エラストマー組成物中で、エラストマー組成物の総重量を基準にして10〜40重量%のレベル、より好ましくは15〜30重量%のレベルで使用される。変性シリカフィラーは、エラストマー組成物の粘度を使用できなくなるレベルまで増大させることなく、従来のフィラーよりもはるかに高いレベルで使用することができる。変性シリカフィラーは、エラストマー組成物の圧縮永久ひずみを減少させながら、引張強度、弾性率、及び伸びの値を上昇させる。
【0021】
本開示に係るポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有する炭化水素ポリマーを含むポリマー成分とは、ポリマー骨格が、本明細書に記載されるようなオレフィンモノマーの重合によって形成されることを意味する。好適なモノマーとしては、例であって限定するものではないが、エチレン、プロピレン、ブチレンのすべての異性体、ペンチレンのすべての異性体、メチルペンテン、イソプレン、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なオレフィンモノマーは、モノマー中に少なくとも1個のC=C二重結合を有するC
2〜C
30のものを含む。ポリマーはさらに官能性アルケニル基を含み、これは、ポリマーがヒドロシリル化反応において機能することができるアルケニル基を有することを意味する。アルケニル基という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する基を意味する。好ましくは、ポリマーは末端アルケニル基を有する。これらの末端アルケニル基は、エンド型、エキソ型、又はアリル型を含めたいくつかの形態を取ることができる。エンド型は以下の構造(−CH=C(CH
3)
2)を有し、一方エキソ型は以下の構造(−CH
2−C(CH
3)=CH
2)を有する。アリル型は、構造(−CH
2−CH=CH
2)を有する。本明細書に記載されるようなポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有するこのような炭化水素ポリマーには、多くの商業的供給源がある。好ましくは、本開示に係るポリオレフィン骨格を有し、官能性アルケニル基を含有する炭化水素ポリマーは、2,000〜50,000、より好ましくは5,000〜20,000の数平均分子量を有する。好適な例としては、大阪、日本のカネカから入手可能なジアリル末端ポリイソブチレン、例えば、例であり限定するものではないが、およそ5,000の分子量を有するEP200A;約10,000の分子量を有するEP400A;及びおよそ20,000の分子量を有するEP600Aが挙げられる。本開示に係る好適なポリマーの他の例としては、エンド及びエキソ末端アルケニル基を有するポリイソブチレン、例えば、一方又は両方の末端に末端炭素−炭素二重結合官能基を含む、BASFからのGlissopal(登録商標)PIBが挙げられる。好ましくは、本開示に係るポリマーは、エラストマー組成物の総重量を基準として、30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%の範囲で使用される。
【0022】
エラストマー組成物は、ヒドロシリル化反応に関与してエラストマー組成物中のポリマー鎖を架橋することができる少なくとも2個のSiH官能基を有する水素化ケイ素架橋剤をさらに含む。このような水素化ケイ素架橋剤は、当業者によく知られており、1つの好適な例はポリ(ジメチルシロキサン−コ−メチルヒドロシラン)である。好ましくは、水素化ケイ素架橋剤は、オレフィン骨格を有するポリマーとの相溶性を高めるために、長鎖アルケンで変性されている。一例は、CR300(ポリアルキル水素シリコーン)である。変性剤の好適な例は、1−ドデセン、1−テトラデセンのような長鎖アルケン、及びリニアレンダイマー(Linealene dimer)A−20(C
20H
40)のようなオレフィンである。シラン架橋剤の分子構造は限定されず、直鎖、分枝、環状、櫛状、星状、樹状、及び/又は修飾型であり得る。異なる分子構造を有するシラン架橋剤の組み合わせを使用することができる。1つの有利なシラン架橋剤が構造1に示されており、ここで、該構造は少なくとも2個の水素化ケイ素官能基を有する:
【0024】
(式中、R
1、R
2、R
3、R’
1、R’
2、R’
3、R
4、R
5、及びR
6は、各々独立して、水素;メチル基:フェニル基;1〜20個の炭素原子を含有する置換炭化水素;1〜20個の炭素原子を含有する非置換炭化水素から選択される。ヒドリド基は、各々独立して、末端であってもペンダントであってもよい。Xは1〜1,000の整数であり;yは1〜1000の整数である。有利には、R
1、R’
1、R
2、R’
2、R
3、及びR’
3のうちの少なくとも2つはHである。ひとつの架橋剤において、R
1又はR’
1はHであり、R
2、R’
2、R
3、及びR’
3のうちの1つはHである。)
【0025】
水素化ケイ素架橋剤は、ポリマー中のアルケニル基の、水素化ケイ素架橋剤中のSiH基に対するモル比が、(0.8〜1.5):1、より好ましくは(0.9〜1.2):1となるようにエラストマー組成物中に存在する。
【0026】
ヒドロシリル化触媒は、アルケン又はアルキンに見られるもののような不飽和結合を介したSiH結合の付加を触媒してアルキルシラン又はアルケニルシランを形成する触媒である。ヒドロシリル化触媒は、典型的には白金系であり、当業者によく知られている。この反応のための有用なヒドロシリル化触媒としては、米国特許第3,159,601号及び第3,159,662号に記載の白金炭化水素錯体などの、白金又は白金含有錯体;米国特許第3,220,972号に記載の白金アルコラート触媒、米国特許第3,814,730号に記載の白金錯体、並びに米国特許第3,516,946号に記載の塩化白金−オレフィン錯体が挙げられ;これらの各々の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。白金又は白金含有触媒に関連するこれらの特許の各々は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。望ましくは、白金又は白金含有錯体は、ジカルボニル白金シクロビニル錯体、白金シクロビニル錯体、白金ジビニル錯体、又はそれらの組み合わせである。有用な触媒は、St.Louis MoのSigma−Aldrichから入手可能である。一般的な例としては、白金(0)−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。他のエラストマー組成物と同様に、好ましくは、本発明のエラストマー組成物は、室温で、及びある程度の熱を加えることなく反応が起こるのを防止するために、低レベルの触媒阻害剤を用いて配合される。ヒドロシリル化触媒阻害剤は、当業者によく知られており、単に例としては、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールが挙げられる。
【0027】
本開示に係るエラストマー組成物はまた、当業者に知られているような追加の任意選択の成分、例えば、安定化剤及び酸化防止剤、可塑剤、追加のフィラー及びハンドリング改善剤を含むことができる。例えば、安定化酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(Irganox(登録商標)1010の商品名でBASFにより販売されている)などの立体障害フェノール化合物を挙げることができる。他のフィラーとしては、例として、アルミナ又はカーボンブラックが挙げられる。可塑剤としては、Chevron PhillipsによってSynfluid(登録商標)ブランドで提供されるポリアルファオレフィン(PAO)潤滑剤などの様々な潤滑剤が挙げられる。特定の好適なPAOとしては、例であり限定するものではないが、Chevron PhillipsからのPAO 9 cStが挙げられる。ハンドリング改善剤としては、リニアレンダイマーA−20(C
20H
40)などの炭化水素可塑剤又はアルケニル官能性モノマーが挙げられる。使用される場合、可塑剤は、好ましくはエラストマー組成物の1.0〜15.0重量%、より好ましくは5〜12重量%を構成し、一方、アルケニル官能性モノマーは、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%の範囲のレベルで使用される。
【0028】
本開示に係る熱硬化性エラストマー組成物は、以下のように配合及び硬化される。ポリマーは、任意の可塑剤及びアルケニルモノマー及び水素化シリコン架橋剤と混合される。次いで、全てのフィラーが液体と混合される。いったんすべてが混合されたら、それを真空に供し、次いでヒドロシリル化触媒阻害剤を添加する。次いで、ヒドロシリル化触媒を添加し、成分を完全に混合する。次いで混合された材料を熱硬化させてエラストマーゴムを形成することができる。熱硬化温度は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定されるオンセット温度によって決定することができる。好ましくは、本開示に係る熱硬化性エラストマーは、100℃以上の温度で、組成物を架橋するのに十分な時間、熱硬化させることができる。数秒から数時間又はそれ以上の時間が、用途に応じて有用であり得る。
【0029】
本開示に従って製造した熱硬化エラストマーは、低い圧縮永久ひずみ、高い引張強度、高い弾性率、高い伸び、比較的低い粘度、並びに低い湿気及びガス透過性を有する。材料の圧縮永久ひずみは、材料に印加された力が取り除かれたときに残る永久変形を指す。該用語は、通常、エラストマーのような軟質材料に適用してそのシーリング能力を測定し、圧縮永久ひずみが低いほど変形が小さく、シーリング性能がより良好である。本開示に係る熱硬化エラストマー組成物は、好ましくは125℃で24時間試験したときに15%以下の圧縮永久ひずみ値を有し、次いでエラストマーが室温に冷却されたときに圧縮が解放される。本開示に係る熱硬化エラストマーは、300psiを超える、より好ましくは400psi以上の引張強度値を有する。本開示に係る熱硬化エラストマーは、100%における弾性率が80psi〜200psiであり、かつ200%を超える伸びを有する。本開示に係る未硬化エラストマーは、25℃で12秒
−1のせん断速度で測定した場合、好ましくは100Pa.s〜10,000Pa.s、より好ましくは200Pa.s〜800Pa.sの粘度を有する。
【実施例】
【0030】
[試験方法]
未硬化エラストマー試料の粘度は、Haake,150RheoStressを使用して、25℃で、12秒
−1のせん断速度で測定し、結果は、別段の記載がない限り、Pa.sとして記録した。
【0031】
ショアA硬度は、ASTM D2240−05の方法を使用して測定した。
【0032】
引張強度、弾性率、及び破断点伸びは、ASTM D412−98Aの方法を使用して測定した。
【0033】
圧縮永久ひずみは、ASTM D395の方法を使用して、125℃で24時間測定し、試料を取り出す前に室温に冷却した。
【0034】
[実施例]
本開示の第1の例では、本開示に従って前処理したシリカフィラーを含有するエラストマー組成物(下記の例1)を、疎水性化合物HMDZ(2個の水素がトリメチルシリル基で置き換えられているアンモニア系化合物)のみで処理された市販のシリカフィラーを含有する2つの比較用エラストマー組成物(下記の例2及び例3)と比較した。市販の比較用シリカフィラーは、EvonikからAerosil(登録商標)ブランドで入手したものであり、本開示に従って処理されたものではない。本開示に係るシリカフィラーは、ヒュームドシリカ、Evonik Aerosil(登録商標)OX 50をベースとするものであった。ヒュームドシリカは、全フィラー重量を基準として1〜5重量%のレベルのアルキルシラン及び総重量を基準として0.2〜2重量%のレベルのアルケニルシランで、in−situで処理することができ、あるいは前処理することもできる。アルキルシランとアルケニルシランの両方を同時に組成物に添加する。組成物を下記表1に列挙する。組成物は、以下のようにして調製した:ポリオレフィンポリマー、潤滑剤、及び安定化剤を、安定化剤のすべてが混合物に溶解するまで、110℃の温度で2時間超混合した。次いで混合物を80℃に冷却した。次いで、シリカフィラー及びアルミナフィラーを添加し、完全に混合した。混合物を真空に供して気泡を除去した。次いで混合物を50℃未満に冷却し、水素化ケイ素架橋剤及び触媒阻害剤を添加し、混合物を完全に混合した。次いで混合物を25℃未満に冷却し、ヒドロシリル化触媒を添加し、完全に混合した。組成物を、200psiの圧力下、2つのテフロン(登録商標)型の間で1ミリメートルの厚さで、130℃で1時間加熱硬化させた。Si−Hの、アルケニル基に対する化学量論比は、アルケニル基とSi−H基の合計モルに基づいて計算したモル比であり、下記実施例では、アルケニル基の一部はアリルトリメトキシシランが寄与している。
【0035】
【表1】
次いで熱硬化エラストマーを、さまざまな物理的及び機械的パラメータについて上記のように試験した。これらの試験の結果を下記表2に示す。
【0036】
【表2】
エラストマー組成物の物理的特性は全て、所望の用途におけるその有用性に関係している。したがって、配合物を評価するためには、粘度、硬度、引張強度、弾性率、伸び、及び圧縮永久ひずみを一緒に評価しなければならない。結果は、比較例2及び3と比較して、本開示に従って調製したエラストマー組成物(実施例1)の値の向上を示す。実施例1の粘度は、比較用エラストマー組成物の粘度よりもはるかに低く、実際、例2よりも2倍超低い。比較例の粘度は多くの用途において有用であるには高すぎる。本開示に従って調製したエラストマーのショアA硬度は、比較組成物のショアA硬度よりもはるかに高い。本開示に係るエラストマーの引張強度は高く、比較用エラストマーの引張強度と同程度である。本開示に係るエラストマーの100%における弾性率は、いずれの比較用エラストマーに見られる弾性率よりも著しく高い。弾性率は、比較用組成物で見られる弾性率に対して、本開示に従って調製したエラストマーでは2倍超高い。エラストマーは、265%〜384%の範囲の伸びを有する。本開示に係るエラストマーは、比較用配合物よりも破断点伸びが小さい。本開示に係るエラストマーの圧縮永久ひずみも1%と非常に低い。全体として、本開示に係るエラストマーは、比較例に比べてより好ましい特性を有する。これらには、低い粘度、高いショア硬度、引張強度が含まれ、破断点伸びはすべての試料にわたって同程度であり、弾性率は本発明に係るエラストマーの方がはるかに高く、そして圧縮永久ひずみは非常に低い。
【0037】
本開示の第2の例では、本開示に係るエラストマーを調製し、シランのうちの1つであるアルキルシランのみで処理したシリカフィラーを含有する比較用エラストマー組成物に対して試験した。エラストマー配合物を下記表3に示す。実施例4は本開示に係るものであり、一方、例5(比較例)は本開示に係るものではない。いずれのエラストマー組成物でも、シリカフィラーを、1又は複数のシランでin situで処理した。実施例4は、5:1の重量比のアルキルシランとアルケニルシランの両方で処理した。比較例5は、アルキルシランのみで処理したものであり、したがって、本開示に係るものではない。エラストマーは以下のように調製した。ポリオレフィンポリマー、潤滑剤、及び安定化剤を、安定化剤が完全に溶解するまで、110℃でおよそ2時間混合した。次いで混合物を80℃に冷却し、アルケニルシラン及びアルキルシランを記載のとおり混合物に添加した。次いで未処理のシリカフィラーを混合物に添加した。次いで混合物を真空に供してあらゆる副生成物を除去した。次に、アルミナ及びカーボンフィラーをその中に添加して混合した。次いで混合物を50℃に冷却し、水素化ケイ素架橋剤及び触媒阻害剤を添加した。次いで混合物を25℃未満に冷却し、その中に触媒を添加して混合した。これらの例は上記のように硬化させた。
【0038】
【表3】
【0039】
硬化に続いて、試料の物理的特性及び機械的特性を試験した。結果を下記表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
結果は、本開示に係るシリカフィラーの二重シラン処理は、in situで行った場合であっても有効であることを示す。ショアA硬度は、本開示に係るものではないエラストマーと比較して、本開示に係るエラストマーの方が高かった。引張強度は両方の配合物について同じであり、十分に高い。本開示に係るエラストマーの弾性率は、本開示に係るものではないエラストマーの弾性率よりも著しく高かった。弾性率はほぼ2倍に増加した。本開示の破断点伸びは、本開示に係るものではないエラストマーの破断点伸びよりも低かった。本開示に係るエラストマーは、本開示に係るものではない比較エラストマーで見られるよりも一著しく良好な圧縮永久ひずみ値を有していた。要約すると、本発明に係るエラストマーの特性全体が、比較例よりもはるかに良好であった。
【0042】
本発明に係るエラストマー組成物はまた、現在使用されているシリコーンゴムガスケット材と比較して、はるかに低い酸素及び湿度透過性を示した。下記表4に示すように、本発明に係る実施例4を、酸素透過性及び透湿性について、市販のシリコーンゴムガスケット材と比較した。本発明のエラストマー組成物は、はるかに低い酸素透過性及び透湿率を有するという点で著しく良好であった。酸素透過性は、Mocon Oxtran 2/60を使用して、100%O
2で、室温及び相対湿度0%で試験した。透湿率は、1mm厚の硬化エラストマー又はシリコーンゴムフィルムを使用して、Mocon Permatran Wにて、相対湿度100%で40℃で測定した。
【0043】
【表5】
【0044】
前述の発明は、関連する法的基準に従って記載されているので、その説明は本質的に限定ではなく例示的なものである。開示された実施形態に対する変形及び変更は、当業者には明らかであり得、本発明の範囲内に入る。従って、本発明がもたらす法的保護の範囲は、以下の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定することができる。