(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱伝導層(57)が、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンド、酸化ベリリウム、ベリリウム、および窒化アルミニウムのうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載のX線源ターゲット(54)。
前記X線発生層(56)がタングステンの単層を含み、前記熱伝導層(57)がダイヤモンドの単層を含み、前記応力除去層(59)がタングステンの単層を含む、請求項1に記載のX線源ターゲット(54)。
前記熱伝導層(57)が、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンド、酸化ベリリウム、ベリリウム、および窒化アルミニウムのうちの1つまたは複数を含む、請求項8に記載のX線源ターゲット(54)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の図面は、必ずしも一定の縮尺であるとは限らないことに留意されたい。図面は、単に本発明の典型的な態様を示すためであり、したがって本発明の範囲を限定するとみなされるべきではない。図面では、図面間で同様の参照符号が同様の要素を表している。
【0011】
1つまたは複数の特定の実施形態について以下に説明する。これらの実施形態の簡潔な説明を行うために、本明細書では実際の実装形態のすべての特徴について説明しない場合がある。いかなるこのような実際の実装形態の開発においても、いかなるエンジニアリングまたは設計プロジェクトにおいてもそうであるように、開発者の特定の目標を達成するために、たとえばシステム関連およびビジネス関連の制約に従うことなど、実施によって異なる可能性がある数多くの実施時特有の決定をしなければならないということを諒解されたい。さらに、このような開発努力は複雑で時間のかかるものである可能性があるが、しかしながら本開示の恩恵を受ける当業者にとって設計、制作、製造の日常的な取り組みとなるであろうことを諒解されたい。
【0012】
本発明の様々な実施形態の要素を伝えるとき、「ある」、「この」、および「前記の」という冠詞(the articles “a,” “an,” “the,” and “said”)は、要素の1つまたは複数があることを意味するよう意図されている。「備える」、「含む」、および「有する」という用語は、包含的であって、記載した要素以外の追加の要素がある場合があることを意味するよう意図されている。さらに、以下の説明でのいかなる数値例も、非限定的であるよう意図されており、したがって追加の数値、範囲、および割合が開示する実施形態の範囲内にある。「隣接」という用語は、近くに、接近して、もしくは近接してあること、接していること、隣り合っていること、または接触していることと定義されるが、隣接は、近いが間に入る介在層(たとえば、接着層など)があることと定義される場合もあることを理解すべきである。
【0013】
上述のように、X線源によって生成されるX線フラックスは、線源のターゲット領域に投射する電子ビームのエネルギーおよび強度に依存し得る。ターゲットに堆積されるエネルギーは、X線フラックスに加えて、大量の熱を生み出す。したがって、動作の通常過程の間、線源ターゲットが、調節されなければ、ターゲットに損傷を与え得る温度に達する可能性がある。温度上昇は、ある程度までは、ターゲットを「直接冷却」とも呼ばれる対流冷却を行うことによって管理することができる。しかしながら、そのような冷却はマクロ的であり、損傷、すなわち融解が発生する可能性がある電子ビーム衝突エリアに直接隣接して行われない。微細な局部冷却がなければ、線源によって生み出されるX線のフラックス全体は制限され、潜在的に線源を、高いX線フラックス密度を必要とするものなど、いくつかの用途には適さないものにする。電子ビームがより大きい面積にわたってエネルギーを分散させるようにターゲットを回転させると、ターゲット温度を局部的に下げることができるが、それは一般的に、より大きい真空容積、およびベアリングなどの回転構成要素をさらに複雑にすることを必要とする。さらに、ターゲットを回転させることと関連する振動は、必要とされるスポットサイズが振動の振幅程度である高解像度用途の場合、極めて大きくなる。したがって、線源が、高いX線フラックスの出力を可能にする方法で実質的に連続して動作できるならば望ましいであろう。
【0014】
本開示は、X線源での熱集積を低減し、上部X線生成層でのクラッキングを低減するように構成された特徴を有するX線源を含むシステムの実施形態を提供する。たとえば、本明細書で説明する実施形態のいくつかは、上部X線発生層(すなわち、ターゲット層)と、(ターゲット層内の)X線発生材料と熱伝達して配置された中部熱伝導材料と、応力除去層と接触し、熱伝達している下部応力除去層とを有する多層X線源を含む。本明細書で使用するターゲット層は、所与の深さまたは高さでターゲット層全体にわたって連続して(すなわち、間断なくまたは途切れなく)広がるX線発生材料の層またはフィルムを含んでもよい。
【0015】
X線発生材料と熱伝達している熱伝導材料は、一般的に、X線発生材料よりも高い全体的熱伝導率を有する。1つまたは複数の熱伝導材料は、一番上のターゲット層の下に配置されてもよい。熱伝導層は、一般的に、冷却効率の改善を可能にするために、電子ビームがぶつかるX線発生材料から熱を放散または拡散するように構成されるので、一般的に「熱放散」または「熱拡散」層と呼ばれる場合がある。線源ターゲット(すなわち、陽極)内の熱伝導がより良いと、エンドユーザは、線源ターゲットを同じターゲット動作温度に維持しながら、より高いパワーまたはより小さいスポットサイズで線源ターゲットを動作させることができる。代替的に、線源ターゲットは、同じX線源パワーレベルでより低い温度に維持され、したがって線源ターゲットの動作寿命を増やすことができる。前者のオプションは、より高いX線源パワーが測定暴露時間をより速くするのでよりスループットをより高め、または、より小さいスポットサイズがより小さい特徴を区別できるようにするので特徴検出可能性を改善する。後者のオプションは、ターゲットまたは管(ターゲットが管の一体部分である場合)がより低い頻度で取り替えられるので、エンドユーザの運用(変動)費用がより下がる。応力除去層は、上の2層(すなわち、X線発生層および熱伝導層)での高い応力状態を低減させ、より低い定常状態温度を示す。応力除去層は、より高いパワーレベルの使用を可能にし、走査速度の上昇、およびパートスループット(part throughput)の上昇、ならびに走査解像度の増加をもたらす。応力除去層のさらなる利点は、ターゲットがX線発生層および/または熱伝導層でのクラッキングを無くしたまたは減らしたために寿命を増やしたことである。また限られた数の層は、異なる材料の場合、より多くの層を有するターゲットで発生する場合がある層間剥離の機会を減らす。
【0016】
本明細書で説明するX線源は、固定(すなわち、非回転)陽極構造、または回転陽極構造に基づく場合があり、反射または透過X線発生のいずれかのために構成される場合がある。本明細書で使用する透過型配置は、X線ビームが、電子ビームを受ける面の反対側の線源ターゲットの表面から放出される配置である。逆に、反射配置では、X線が線源ターゲットを離れる角度は、一般的に、線源ターゲットに対する垂直面に対して鋭角をなす。これは、出力ビームにおけるX線密度を効果的に上げ、線源ターゲット上にはるかに大きい熱スポットを可能にし、それによってターゲットの熱負荷を下げる。
【0017】
最初の例として、一実装形態では、電子ビームが、X線発生(たとえば、タングステン)層または領域によって優先的に吸収される。X線発生領域に吸収された後、X線光子および熱が生成される。吸収されたエネルギーの大部分は、熱に変換される。下にある熱伝導材料は、X線発生材料よりもはるかに効果的に熱を発散する。これは、X線生成材料内の熱集中を減少させる。下部応力除去層は、上の2つのX線発生層および熱伝導層での熱応力を減少させ、基板層(たとえば、銅)を過熱および融解から保護する。X線発生材料内の最高温度は下げられるので、電子ビームのパワー(および対応するX線発生)を上げることができ、または、X線発生領域を溶かすことなく、従来の設計に対してスポットサイズを縮小させることができる。パワーの増加は、より速い試料検査、またはより長い寿命をもたらす。スポットサイズの縮小は、より小さい特徴検出可能性および解像度の向上をもたらす。
【0018】
上記を念頭に置いて、
図1を参照すると、X線画像化システム10が、被写体18(たとえば、患者またはセキュリティもしくは品質管理検査を受けているアイテム)を通してX線16のビームを投射するX線源14を含むように示されている。画像化システム10は、いくつかの文脈で説明される場合があるが、本明細書で開示するX線画像化システムは、任意の好適なタイプの画像化の文脈または任意の他のX線実装形態とともに使用される場合があることに留意されたい。たとえば、システム10は、蛍光透視システム、マンモグラフィシステム、血管造影システム、標準的放射線画像化システム、トモシンセシス(tomosynthesis)もしくはCアームシステム、コンピュータ断層撮影システム、および/または放射線療法治療システムの一部であってもよい。さらに、システム10は、医療画像化の状況に適用可能であるだけでなく、産業または製造上の品質管理、部品検査、荷物および/または包装検査などのための様々な検査システムにも適用可能であり得る。したがって、被写体18は、実験室試料、(たとえば、生検からの組織)、患者、荷物、貨物、製造部品、核燃料、または他の興味のある材料であってもよい。
【0019】
被写体は、たとえば、入射X線16を減衰または屈折させ、データ収集システム24に結合された検出器22に衝突する投射X線照射20を生成し得る。単一のユニットとして示しているが、検出器22が、独立してまたは互いとともに動作する1つまたは複数の検出ユニットを含む場合があることに留意されたい。検出器22は、被写体18を通ってまたは外れて通過する投射X線20を検知し、放射線20を表すデータを生成する。データ収集システム24は、検出器22で生成されたデータの性質に依存して、後続処理のためにデータをデジタル信号に変換する。用途に応じて、各検出器22は、各投射X線ビーム20の強度および/または位相を表し得る電気信号を作り出す。
【0020】
X線コントローラ26が、X線源14および/またはデータ収集システム24の動作を調節してもよい。コントローラ26は、X線照射16のフラックスを制御するために、およびX線源用の冷却システム、画像分析ハードウェアなど、他のシステム機能の動作を制御するまたはこれに合わせるために、パワーおよびタイミング信号をX線源14に提供してもよい。システム10が画像化システムである実施形態では、画像再構成器28(たとえば、再構成のために構成されたハードウェア)が、データ収集システム24からサンプリングされ、デジタル化されたX線データを受け取り、被写体18の異なる減衰、異なる屈折、またはそれらの組合せを表す1つまたは複数の画像を生成するために、高速再構成を行ってもよい。画像は、大容量記憶装置32に画像を記憶するプロセッサベースのコンピュータ30への入力として適用される。
【0021】
コンピュータ30はまた、キーボード、マウス、音声作動型コントローラ、または任意の他の好適な入力装置など、ある種の操作者インターフェースを有するコンソール34を介して操作者からコマンドおよび走査パラメータを受け取る。関連ディスプレイ40により、操作者はコンピュータ30からの画像および他のデータを観察することができる。コンピュータ30は、データ収集システム24およびX線コントローラ26に制御信号および情報を提供するために、操作者が与えるコマンドおよびパラメータを使用する。
【0022】
次に
図2を参照すると、検出器22とともに、X線源14の構成要素のハイレベル図が示されている。図示したX線発生の態様は、回転または固定陽極X線源14のいずれかと一致し得る反射X線発生配置と一致している。図示した実装形態では、X線源14が、X線発生材料/層56のターゲット領域に向かって電子ビーム52を放出する電子ビーム放出体(ここではエミッタコイル50として示す)を含む。X線発生層56は、タングステン、レニウム、ロジウム、およびモリブデンのうちの1つもしくは複数などの高Z材料、または電子が衝突するとX線を放出することができる他の任意の材料もしくは材料の組合せであってもよい。線源ターゲットはまた、基板58、またはX線発生材料を囲む熱伝導層もしくは他の領域など、1つまたは複数の熱伝導材料を含んでもよい。本明細書で使用するX線発生材料56の領域は、一般的に、ターゲット層または線源ターゲットのX線発生層によって包含されていると説明され、X線発生層は、いくらかの対応する厚さを有し、厚さは、所与の線源ターゲット内のX線発生層によって異なる場合がある。
【0023】
X線発生層56に入射する電子ビーム52は、検出器22の方に向けられるX線16を発生させ、X線16は検出器22に入射し、光スポット23は検出器面上に投射される焦点のエリアである。X線発生層56上の電子衝突エリアは、放出されるX線16の特定の特性を実現するために、線源ターゲット(たとえば、陽極54)上の特定の形状、厚さ、またはアスペクト比を定めてもよい。たとえば、放出されるX線ビーム16は、X線発生層56に入射するとき、電子ビーム52のサイズおよび形状に関係する特定のサイズおよび形状を有してもよい。したがって、X線ビーム16は、衝突エリアのサイズおよび形状に基づいて予測され得るX線放出エリアから線源ターゲット54を出る。図示の例では、電子ビーム52とターゲットの垂線との間の角度は、αと定義される。角度βは、検出器の垂線とターゲットの垂線との間の角度である。bがターゲット領域56における温度焦点サイズであり、cが光焦点サイズである場合、b=c/cos βとなる。さらに、この配置では、等価なターゲット角度は90−βである。
【0024】
以下でより詳細に説明するように、様々な実施形態が、応力除去層59と接触している熱伝導層57と接触しているX線発生層56をz次元に有するマルチターゲット層線源ターゲット54を採用し、熱伝導層は、X線発生層56と応力除去層59との間に挟まれている。基板層58は、銅材料または合金のような、熱伝導性を有する材料で作られる。そのような多層線源ターゲット54(たとえば、陽極)(本明細書で説明するそれぞれの層および/または層内構造および機能を含む)が、蒸着(化学気相堆積(CVD)など)、スパッタリング、原子層堆積、化学めっき、イオン注入、またはプラズマアーク堆積(plasm arc deposition)もしくはプラズマスプレー堆積などの高速堆積コーティング技法などの付加または還元製造を含む、好適な半導体製造技法などの任意の好適な技法を使用して製作されてもよい。
【0025】
図2を参照すると、一般的に熱伝導層57は、X線発生ターゲット材料/層によって示される熱伝導性よりも高い熱伝導性を有する。非限定的な例として、熱伝導層57は、限定はしないが、高配向性熱分解グラファイト(HOPG: highly ordered pyrolytic graphite)、ダイヤモンドを含む炭素ベースの材料、ならびに/またはベリリウム、酸化ベリリウム(BeO)、および窒化アルミニウムなどの金属ベースの材料、またはそれらの任意の組合せを含んでもよい。銀−ダイヤモンドなどの合金材料もまた使用され得る。以下のTable 1(表1)は、層57についてのいくつかの例示的な熱伝導材料の組成、熱伝導率、熱膨張係数(CTE)、密度、および融点を提供する。
【0027】
線源ターゲット54内の熱伝導層、構造、または領域は、対応して異なる熱伝導組成、異なる厚さを有してもよく、および/または線源ターゲット54内の所与の領域におけるそれぞれの熱伝導ニーズに応じて互いとは異なるように製作されてもよいことに留意されたい。しかしながら、異なるように作成されるときでも、そのような領域は、X線発生材料から熱を伝えるように形成される場合、依然として本明細書で使用するように熱伝導層(または領域)を構成する。さらに、本明細書で説明するように、様々な実施形態では線源ターゲット54内の(z次元の)それぞれの深さが、たとえばその深さで期待される電子ビーム入射エネルギーに対応するために、その深さで見られるX線発生材料の厚さを決定してもよい。すなわち、線源ターゲット54内に異なる深さで形成されるX線発生材料の層または領域は、異なる厚さを有するように形成され得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、線源ターゲット54の所与の層内に見られるX線発生材料または層56は、所与のx−y平面の断面で、たとえば、x−y平面に形成されたそれぞれの層内の個別の「プラグ」または「リング」として見られるとき、線源ターゲット54の有効表面積に対する限られた範囲にわたって設けられてもよい。特に、本明細書の裏付けとして行われた研究が、アクティブなX線発生層56を電子ビーム52(すなわち、プラグ)のサイズに制限すると、最大パワーの増加が可能になり得ることを示している。そのような配置では、熱伝達は、X線発生層56の下の熱伝導層によって、限られたエリアのX線発生層/領域56から離れて促進され得るが、横方向に(すなわち、同じ層内に)配設された熱伝導材料によっても促進され得る。
【0029】
図3は、本開示の態様による、X線発生層56、熱伝導層57、および応力除去層59を有するX線源54の断面斜視図を示す。X線源ターゲット54は、電子ビームによって衝突されると、X線を発生するように構成された構造を含む。この構造は、X線発生材料で形成されたX線発生層56を含む。熱伝導層57が、X線発生層56に隣接し、それと接触し、これと熱伝達している。熱伝導層57は、X線発生層56の下に形成される。応力除去層59が、熱伝導層57に隣接し、それと接触し、これの下にある。事実上、熱伝導層57は、X線発生層56と応力除去層59との間に挟まれている。基板58は、X線発生層56、熱伝導層57、および応力除去層59を支持する熱伝導基板であり、銅または銅合金で形成されてもよい。
【0030】
X線発生層56は、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、または銀のうちの1つまたは複数で形成される。単に一例として、X線発生層56は、タングステンで形成され、深さ約0.1mmであり、約20mmの長さ/幅および/または直径を有してもよい。電子ビーム450kV線源が約100μm〜2,000μmで動作する場合、電子ビームは、X線発生層56に約100μm侵入する。しかしながら、X線発生層56の厚さは、約40μm〜約0.2mm、または記載した範囲よりも上または下の、特定の用途での必要に応じた任意の好適な厚さに及んでもよい。
【0031】
熱伝導層57は、限定はしないが高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンドを含む炭素ベースの材料、および/または酸化ベリリウム(BeO)、炭化ケイ素(SiC)、銅−モリブデン(Cu−Mo)、無酸素高熱伝導率銅(OFHC)などの金属ベースの材料、またはそれらの任意の組合せで形成される。単に一例として、熱伝導層57は、X線発生層56の下部に結合され、ダイヤモンドで形成され、層57は、厚さ約40μm〜約1.2mmであってもよい。しかしながら、熱伝導層57の厚さは、特定の用途での必要に応じた任意の好適な厚さであってもよい。
【0032】
応力除去層59は、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、または銀のうちの1つまたは複数で形成される。単に一例として、応力除去層59は、タングステンで形成され、深さ約1mmであり、約20mmの長さ/幅および/または直径を有してもよい。3つのすべての層が、基板58内に含まれ、基板58によって支持され、基板58は、銅または銅合金で形成されてもよい。応力除去層59は、熱伝導層57の下部に結合され、熱伝導層57とX線発生層56の両方での応力を除去するように機能する。様々な層での応力は、その中にクラッキングを引き起こす場合があり、クラックはターゲット54の寿命を減らし、したがってクラッキングを回避すること、または少なくともかなりの時間の間遅らせることができれば望ましい。さらに言えば層56、57、および59ならびに任意のターゲット層は、蝋付け、接着剤、または蒸気もしくは液体堆積手法を使用した直接堆積によって、互いに結合されてもよい。堆積熱エクスカーション(deposition thermal excursion)または蝋付けプロセスステップなどの材料処理ステップが、関連する加熱および冷却サイクルの間に層に応力を引き起こす。層56、57はまた、ターゲットの動作中に熱膨張および収縮応力を受ける。これらの熱誘起応力が、層間剥離およびクラッキングを層に発生させることがある。応力除去層59の追加は、X線発生層56および熱伝導層57に誘起される温度差を緩和することによって、X線発生層56および熱伝導層57が受ける応力を大いに軽減する。応力除去層59は(その熱伝導特性のために)、より多くの熱が制御された方法で基板59に向けられるようにし、基板の過熱が発生せず、上の2層(すなわち、X線発生層56および熱伝導層57)の温度差が、望ましいレベルまで緩和され、それによってターゲット54において全体的な応力軽減がもたらされる。X線発生層では、インターフェースが受ける動作温度が高いために、高導電層への層の直接堆積が望ましいことに留意する。
【0033】
図4は、多層X線源ターゲット54を製造するための方法60のフローチャートを示す。方法60は、熱伝導基板58を形成または提供する形成するステップ62を含む。ステップ62は、銅基板を提供または形成することを含んでもよい。別の形成するステップ64は、熱伝導基板58上に応力除去層59を形成する。応力除去層59は、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、銀のうちの1つまたは複数である。応力除去層59を基板58に結合するために、蝋付けまたは接着剤が使用されてもよい。ステップ66において、熱伝導層57が、応力除去層59上に形成される。熱伝導層57は、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンド、酸化ベリリウム、炭化ケイ素、銅−モリブデン、銅、タングステン−銅合金、または銀−ダイヤモンドのうちの1つまたは複数である。熱伝導性層57を応力除去層59に結合するために、蝋付けまたは接着剤が使用されてもよい。ステップ68において、X線発生層56が、熱伝導層57上に形成される。X線発生層56は、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、銀のうちの1つまたは複数である。X線発生層56を熱伝導層57に結合するために、直接堆積が使用されてもよい。上記の方法の結果、熱伝導層57は、X線発生層56と応力除去層59との間に挟まれている。X線発生層56は、熱アーク堆積源によって熱伝導層57上に直接堆積されてもよい。熱アーク堆積から得られる密接な結合は、蝋付けの接合が耐えることができない非常に高い動作温度に耐えることができる。
【0034】
本実施形態の技術的効果は、限定はしないが、応力を軽減し、クラッキングの可能性を軽減して高温で動作することができる多層線源ターゲット構造を含む。いくつかの技術的実施形態は、単一の熱伝導層の上部に形成されたX線発生材料の単層を含み、単一の熱伝導層は、銅または他の高い熱伝導材料に埋め込まれた単一の応力除去層の上部に形成され、またはX線発生層は、タングステンの単層を含み、熱伝導層は、ダイヤモンドの単層を含み、応力除去層は、タングステンの単層を含む。本明細書で開示するように、X線発生構造は、焦点サイズまたはkVに関して限定されず、したがって、100μm〜1,000μmの焦点、ならびに他の焦点サイズ、ならびに100kV〜450kV(またはそれ以上)の用途に適用され得る。
【0035】
本明細書は、最良の様態を含めて本発明を開示するために、また当業者であれば、任意のデバイスまたはシステムを作成して使用すること、および組み込まれた任意の方法を行うことを含めて、本発明を実践できるようにするために、例を使用している。本発明の特許性を有する範囲は、特許請求の範囲によって規定され、当業者であれば思い付く他の例も含むことができる。このような他の例が、特許請求の範囲の文字通りの言葉と違わない構造的要素を有する場合、または、特許請求の範囲の文字通りの言葉とはわずかな違いのある等価な構造的要素を含む場合、これらは特許請求の範囲の範囲内であるものとする。
【0036】
さらに本発明の態様は、以下の項の主題によって提供される。
【0037】
[項1]X線源ターゲットであって、電子ビームによって衝突されるとX線を発生するように構成された構造を備え、この構造が、X線発生材料を含むX線発生層と、X線発生層に隣接し、それと熱伝達している熱伝導層と、熱伝導層に隣接している応力除去層とを含み、熱伝導層が、X線発生層と応力除去層との間に挟まれている、X線源ターゲット。
【0038】
[項2]X線発生層が、タングステン、レニウム、ロジウム、およびモリブデンのうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0039】
[項3]熱伝導層が、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンド、酸化ベリリウム、ベリリウム、および窒化アルミニウムのうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0040】
[項4]応力除去層が、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、銅、銀のうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0041】
[項5]X線発生層がタングステンを含み、熱伝導層がダイヤモンドを含み、応力除去層がタングステンを含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0042】
[項6]X線発生層がタングステンの単層を含み、熱伝導層がダイヤモンドの単層を含み、応力除去層がタングステンの単層を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0043】
[項7]X線発生層と、熱伝導層と、応力除去層とを支持する熱伝導基板をさらに含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0044】
[項8]熱伝導基板が銅からなる、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0045】
[項9]X線源ターゲットであって、電子ビームによって衝突されるとX線を発生するように構成された構造を備え、この構造が、基板と、基板上に形成された応力除去層と、応力除去層上に形成された熱伝導層と、熱伝導層上に形成された、X線発生材料を含むX線発生層とを含み、熱伝導層が、X線発生層と応力除去層との間に挟まれている、X線源ターゲット。
【0046】
[項10]X線発生層が、タングステン、レニウム、ロジウム、およびモリブデンのうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0047】
[項11]熱伝導層が、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンド、酸化ベリリウム、ベリリウム、および窒化アルミニウムのうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0048】
[項12]応力除去層が、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、銅、銀のうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0049】
[項13]X線発生層がタングステンを含み、熱伝導層がダイヤモンドを含み、応力除去層がタングステンを含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0050】
[項14]X線発生層がタングステンの単層を含み、熱伝導層がダイヤモンドの単層を含み、応力除去層がタングステンの単層を含む、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0051】
[項15]基板が銅からなる、任意の前項に記載のX線源ターゲット。
【0052】
[項16]多層X線源ターゲットを製造するための方法であって、熱伝導基板を形成するステップと、熱伝導基板上に応力除去層を形成するステップと、応力除去層上に熱伝導層を形成するステップと、熱伝導層上にX線発生層を形成するステップとを含み、熱伝導層が、X線発生層と応力除去層との間に挟まれている、方法。
【0053】
[項17]熱伝導基板が銅からなる、任意の前項に記載の方法。
【0054】
[項18]応力除去層が、タングステン、モリブデン、チタン−ジルコニウム−モリブデン合金(TZM)、タングステン−レニウム合金、銅−タングステン合金、クロム、鉄、コバルト、銅、銀のうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載の方法。
【0055】
[項19]熱伝導層が、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ダイヤモンド、酸化ベリリウム、ベリリウム、および窒化アルミニウムのうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載の方法。
【0056】
[項20]X線発生層が、タングステン、レニウム、ロジウム、およびモリブデンのうちの1つまたは複数を含む、任意の前項に記載の方法。
【0057】
[項21]X線発生層が、熱アーク堆積源によって熱伝導層上に直接堆積される、任意の前項に記載の方法。