(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974424
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】ガンマ線イメージング
(51)【国際特許分類】
G01T 7/00 20060101AFI20211118BHJP
G01T 3/00 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
G01T7/00 B
G01T3/00 G
【請求項の数】21
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-235438(P2019-235438)
(22)【出願日】2019年12月26日
(62)【分割の表示】特願2016-568816(P2016-568816)の分割
【原出願日】2015年5月22日
(65)【公開番号】特開2020-60591(P2020-60591A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2019年12月26日
(31)【優先権主張番号】2014901905
(32)【優先日】2014年5月22日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】500461941
【氏名又は名称】オーストラリアン ニュークリア サイエンス アンド テクノロジー オーガニゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100101063
【弁理士】
【氏名又は名称】松丸 秀和
(72)【発明者】
【氏名】ボードマン,デビッド
(72)【発明者】
【氏名】サーバット,アダム
(72)【発明者】
【氏名】フリン,アリソン
(72)【発明者】
【氏名】プロコポービッチ,デール
【審査官】
中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−142245(JP,A)
【文献】
特開平02−275400(JP,A)
【文献】
特表2010−507811(JP,A)
【文献】
米国特許第03799675(US,A)
【文献】
米国特許第08519343(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0095298(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0021613(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0043375(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0207118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 7/00
G01T 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の放射線源からの入射放射線の圧縮センシングによって前記1以上の放射線源を有するスパースシーンをイメージングする際に使用されるマスク装置において、
1つの符号化マスクあるいは2つ以上の符号化マスクを備え、
前記2つ以上の符号化マスクのそれぞれあるいは前記1つの符号化マスクが前記入射放射線の強度を変調する材料から形成されている本体を有し、
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクのそれぞれは、複数のマスクアパーチャ領域を有し、前記複数のマスクアパーチャ領域は、前記マスクアパーチャ領域とは別の領域と比較して圧縮センシング測定を再構成するのに十分に高い放射線透過性を許容し、
前記マスクパターンは、圧縮センシングのための条件を満たし、
前記1つの符号化マスクあるいは2つ以上の符号化マスクは、回転するように構成され、
前記マスク装置が2つ以上の前記符号化マスクを有する場合、少なくとも1つの前記符号化マスクが他の符号化マスクに対して回転する、マスク装置。
【請求項2】
(i)前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、円筒状であるか、
(ii)前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは半球状であり、前記マスク装置は2πの視野角を有するか、又は
(iii)前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは球状であり、前記マスク装置は4πの視野角を有する、
請求項1に記載のマスク装置。
【請求項3】
前記1以上のマスクは、それぞれ上部及び底部を有し、
前記マスク装置は、前記上部及び前記底部を覆う放射線シールドを有する請求項1または2に記載のマスク装置。
【請求項4】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、半球状、球面の一部、又は球状である請求項1に記載のマスク装置。
【請求項5】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクの前記複数のマスクアパーチャ領域の合計数は、2の累乗に等しい請求項1から4のいずれか1項に記載のマスク装置。
【請求項6】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、タングステン、鉛、金、タンタル、ハフニウム又はこれらの合金を含むグループから選択される材料から形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載のマスク装置。
【請求項7】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、入射ガンマ線を変調する材料から形成されている請求項1に記載のマスク装置。
【請求項8】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、入射光学的放射線又は赤外線を変調する材料から形成されている請求項1に記載のマスク装置。
【請求項9】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、入射中性子放射線を変調する材料から形成されている請求項1に記載のマスク装置。
【請求項10】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、入射ガンマ放射線及び中性子を変調する材料から形成されている請求項1に記載のマスク装置。
【請求項11】
前記複数のマスクアパーチャ領域は、ガンマ線のための変調領域と中性子のための変調領域とを有する請求項10に記載のマスク装置。
【請求項12】
前記1以上のマスクを囲む放射線シールドを有し、当該放射線シールドは、前記複数のマスク内に位置する放射線センサの視野を制限する開口を有する請求項1に記載のマスク装置。
【請求項13】
前記1つの符号化マスクまたは前記2以上の符号化マスクは、上部及び底部を有し、前記マスク装置は、前記上部及び底部を覆う放射線シールドを有する請求項12に記載のマスク装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項のマスク装置内の放射線センサで、1以上の放射線源を有するスパースシーンの圧縮センシング測定を行い、
前記1以上の放射線源からの前記入射放射線が、前記放射線センサによる検出の前に前記1つの符号化マスクあるいは前記2つ以上の符号化マスクのそれぞれを通過する、放射線検出方法。
【請求項15】
請求項14の方法を有する廃炉、汚染除去、環境モニタリング、医学イメージング、天文学、又は国防の方法。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか1項に記載のマスク装置、及び前記マスク装置内に配設された少なくとも1つの放射線センサを有する圧縮センシング放射線イメージャであって、 前記イメージャは、前記スパースシーンの圧縮センシング測定を行い、当該圧縮センシング測定から放射線イメージデータを生成する圧縮センシング放射線イメージャ。
【請求項17】
前記少なくとも1つの放射線センサは、
(i)前記放射線イメージャが、ガンマ線放射線イメージャを構成する少なくとも1つのガンマ線放射線センサ、
(ii) 前記放射線イメージャが、中性子放射線イメージャを構成する少なくとも1つの中性子放射線センサ、
(iii)前記放射線イメージャが、ガンマ線放射線イメージャ及び中性子放射線イメージャを構成する少なくとも1つのガンマ線放射線イメージャ及び少なくとも1つの中性子放射線イメージャ、
(iv)少なくとも1つの2重モードセンサ、又は
ガンマ線及び中性子を検知する少なくとも1つの2重モードセンサ
である請求項16に記載の圧縮センシング放射線イメージャ。
【請求項18】
可視域、赤外域又は他の波長域のイメージをとらえ、イメージデータを出力するように構成された請求項16または17に記載の圧縮センシング放射線イメージャ。
【請求項19】
前記放射イメージデータと、共通の視野に揃えられた光イメージあるいは赤外イメージとを重ね合わせるように構成された請求項16または17に記載の圧縮センシング放射線イメージャ。
【請求項20】
請求項16から19のいずれか1項に記載の圧縮センシング放射線イメージャで、圧縮センシング測定を行う放射線検知方法。
【請求項21】
請求項16から19のいずれか1項に記載の圧縮センシング放射線イメージャで、廃炉、汚染除去、環境モニタリング、医学イメージング、天文学、又は国防を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出に関し、詳しくは、単一の検出器及び符号化マスクを使用する圧縮センシング(compressed sensing)ガンマ線又は中性子イメージングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガンマ線イメージングは、ガンマ線を放射する放射性核種を同定し及びその位置を特定することができる重要な放射線検出能力である。ガンマ線イメージングは、以下に限定されるわけではないが、廃炉、汚染除去、環境モニタリング(すなわち、実地調査、採掘調査)、医学イメージング(SPECT)、天文学及び国防用途(すなわち、非合法な放射性物質及び核物質の発見)等、多くの用途で利用することができる。
【0003】
従来のガンマ線イメージング技術は、非常に高価な検出器のアレイ上に画像をフォーカスする手法、又は単一の検出器により画像平面を緩やかにラスタスキャンする手法に基づいている。ピクセル化された検出器アレイの費用又はラスタスキャンシステムの速度の遅さは受け入れられないことも多い。フォーカスが容易な光の光子と異なり、ガンマ線光子は、透過性が非常に高いために、フォーカスが極めて困難である。ピクセル化された検出器アレイを使用するガンマ線イメージングシステムは、通常、1つのピンホール、複数のピンホール又は平面符号化アパーチャ光学素子(planar coded aperture optics )を使用する。これらのシステムは、検出器アレイ上で画像又は符号化画像を形成するために使用される。天文学及び医療用途においては、ピンホール及び符号化アパーチャ光学素子が数十年も使用されている。この種のイメージングシステムの視野は、水平方向又は垂直方向において、約30°〜40°である。
【0004】
1967年にMertzによってはじめて紹介された回転変調コリメータ(Rotating Modulation Collimator:RMC)は、通常、マスクの全長に亘って延びる平行なスリットを有する2つのマスクを使用する。マスクが回転すると、前面のマスクの投射は、光源に関して、後面のマスクを周回しているように見える。マスクの回転は、検出器において、光源の数、光源の強度、位置及びサイズに依存する変調されたカウントパターンを生成する。RMCは、以下を含む幾つかの短所を有する。すなわち、単一のRMCは、拡張された光源をイメージングすることが困難であり、視野が狭く、単一のRMCでは、回転中心軸上の光源を識別することが不可能である。これについては、「B. R. Kowash, A Rotating Modulation Imager for the Orphan Source Search Problem, PhD Thesis, 2008」に説明されている。
【0005】
多くのガンマ線イメージングアプリケーションでイメージングされるシーンは、生来的に疎であり、通常、1つ以上の点光源の検出を必要とする。背景をゼロとして、16×16の画像にサンプリングされる単一点光源の単純なケースでは、1個の非ゼロピクセルと、255個のゼロピクセルが存在する。殆どがゼロであるN個(この場合、256個)の測定を行うのではなく、よりスマートなストラテジによって、N個より遙かに少ない測定で、非ゼロピクセルの位置を判定することができるはずであることが直観的に理解される。この直観は、近年、新しい信号処理理論の発展により、圧縮センシングとして証明された。圧縮センシングは、画像形成のための新しい手法を可能にする。圧縮センシング法は、(従来のイメージング技術に比べて)僅かな測定で画像を生成することができ、低コスト(単一検出器)システムオプションを実現することができる。近年、光、赤外線の及びTHz波長のための圧縮センシングに基づく単一ピクセルイメージングシステムが開発されている。これは、例えば、「R. G. Baraniuk et al, Method and Apparatus for Compressive Imaging Device, US patent 8,199,244 B2, 2012」に説明されている。
【0006】
例えば、単一ピクセル検出器を一連のランダムマスクと組み合わせて使用し、高速画像取得を可能にするテラヘルツイメージングシステムが知られている。これについては、「W. L. Chan et al, A Single-Pixel Terahertz Imaging System Based on Compressed Sensing, Applied Physics Letters, vol. 93, 2008」に説明されている。これらの単一ピクセルイメージングシステムは、全て、ある種のレンズを使用して、画像をフォーカスし、続いて、ランダム圧縮測定を使用して、画像平面をサンプリングする。しかしながら、シーン平面をサンプリングする際は、画像を形成し、続いてサンプリングを行うのではなく、圧縮測定の実行が可能である必要がある。Huang他は、この手法を選択し、レンズを必要としない単一ピクセル光学イメージングシステムを開示している。ここでは、アパーチャアセンブリを使用して、ランダムにシーンをサンプリングし、「従来型の」画像を形成する段階はない。これについては、「G. Huang et al, Lensless Imaging by Compressive Sensing, 2013」に説明されている。
【0007】
本発明は、圧縮センシングの原理に基づくシステムを設計することによって、従来のガンマ線イメージング法の欠点を克服する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のガンマ線イメージング技術より測定を少なくできるガンマ線イメージングデバイスを提供することである。シーンの画像は、画像のピクセル数より少ない測定で生成することができる。
【0009】
本発明の他の目的は、従来のアパーチャベースのガンマ線イメージング技術より視野が大きいガンマ線イメージングデバイスを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、ガンマ線についてシーンをランダムにサンプリングすることができるマスク装置を提供することである。このようなシーンのランダムプロジェクションを用いて、画像を再構成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、1つ以上の回転マスクによって取り囲まれた単一の検出器を備えるイメージング装置を提供する。
【0012】
好ましい実施形態においては、マスクは、円筒状、半球状、部分球状、又は球状である。
【0013】
本発明をより明瞭にするために、以下の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】単一の検出器、マスク及び270度シールドの概略図である。
【
図2】
図1の単一の検出器、マスク及びシールド、並びに更なる上部シールド及び下部シールドを示す概略図である。
【
図3】単一の検出器及び2つの入れ子状の回転する円筒状のマスクの概略図である。
【
図4】単一の検出器及び2つの同心マスクのアパーチャの整列及び傾斜を示す概略図である。
【
図5】アパーチャシステムとして移動するスロットを示す2つの同心マスクの概略図である。
【
図6】基板に接合された浮いている要素を有するマスクの概略図である。
【
図7】共通平面上の単一の検出器及び2つの同心の半球状のマスクの概略図である。
【
図10】本発明の動作の方法を示すフローチャートである。
【
図11】個別のガンマ線及び中性子遮蔽要素を有する符号化マスクの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
イメージャレイアウト及びセンシング
図1及び
図2に示すように、単一のガンマ線検出器10は、検出器10を取り囲み又は閉じ込めるマスク11の中心に配置されている。検出器は、1又は複数のマスクの中央に位置し、望ましくは、マスク11の中心軸又は回転軸にある。ここでは、円筒状又は球状マスク11を使用してもよい。非中心の検出器位置を用いてもよいが、この場合、視野が僅かに異なる。更に複数の検出器12、13を使用してもよく、これらの更なる検出器は、異なる位置に設けてもよい。複数の検出器を使用することによって、イメージング時間を短縮することができる。
【0016】
オプションの円筒状又は他の放射線シールド14は、円弧状開口15を有していてもよく、これによって、視野は、開口15によって画定される弧に制限される。マスク11は、ステッパモータ駆動ターンテーブル19、直接ギア付きステッパモータ20又は使用されている符号化マスク又は光学技術に応じた手法によって、断続回転(indexed)又は回転(rotated)させてもよい。ステッパモータ20、ギア21、並びに例えば、収集され処理されたデータから画像を生成するための表示及び印刷能力を有する制御コンピュータ22を用いることにより、データ収集及びマスクの調整された動き/回転を自動化することができる。マスクの動きは、離散的なステップで行ってもよく、連続運動として行ってもよい。
【0017】
円筒状のマスク11を使用する場合、通常、
図2に示すように、上部及び底部をシールド16、17で覆う必要があり、これによって、遮蔽されていないマスク11の開いたアパーチャ18を通った放射線のみが検出器に到達する。
【0018】
圧縮センシングガンマ線イメージャは、如何なるガンマ線感知センサ10、12、13と共に使用してもよい。例えば、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化セシウム(CsI)、ゲルマニウム酸ビスマス(BGO)、テルル化カドミウム(CdTe)、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、高純度ゲルマニウム(High Purity Germanium:HPGe)、ヨウ化ストロンチウム(SrI
2)及びCLYC等の物質に基づく典型的なガンマ線検出器システムを使用してもよい。測定された各光子のエネルギを判定する分光検出器を用いて、イメージングされている放射性核種を同定することができる。グロスカウント(gross counts)のみを記録する非分光検出器は、放射線ホットスポットに関する包括的な情報を提供する。他の放射線検出設備、例えば、線量率計をセンサとして使用することもでき、この場合、視野内の線量がマッピングされる。
【0019】
好ましい実施形態では、検出された各ガンマ線光子のエネルギを測定する分光検出器を使用する。あらゆる特定のエネルギビン又はエネルギビン範囲からの光子カウント値を一組の測定からの観察されたデータとして使用することができる。所与の関心ピーク領域(例えば、60keV
241Amライン)について観察された光子カウントデータを再構成することにより、放射性核種が存在する場合、
241Amの位置が得られる。更なる関心領域について観察された光子データを再構成することにより、更なる放射性核種の位置を得ることができる。
【0020】
何らかの1又は複数の中性子感知センサ10、12、13と共に圧縮センシング中性子イメージャを用いてもよい。
【0021】
これに限定されるわけではないが、CLYCを含む二重方式(dual modality)センサ10、12、13を用いて、ガンマ線及び中性子の両方の変調を測定してもよい。
【0022】
本発明の教示は、適切なマスク及び検出器を用いることによって、如何なる波長の放射線(又は如何なる粒子)に適用してもよいことは明らかである。
【0023】
マスク及びマスクアパーチャ
マスクパターン開口又はアパーチャは、好ましくは、行及び列によって構成される。マスクパターン開口18の位置は、例えば、ランダムに形成してもよい。例えば、16×16の可能なアパーチャマスクは、合計256個の番号付きアパーチャを有する。この場合、乱数発生器を用いて、1から256の間の128個のアパーチャ番号をランダムに選択する。そして、これらの128個の番号のアパーチャを開アパーチャとして設定する。(元の256個の番号からの)残りの128個の位置は、ゼロ(閉アパーチャ)として設定する。これによって、50%開いているマスクパターンが実現する。マスクコラムが断続回転又は回転する回転マスクでは、開/閉アパーチャのランダムな選択は、マスク全体ではなく、行毎に行ってもよい。これによって、各マスク行が(例えば)50%開いていることを確実にでき、行の開アパーチャの数が多すぎたり少なすぎたりして画像再構成に影響が生じる状況を防止できる。
【0024】
システムの幾何学的形状は、空間分解能を画定する。アパーチャ寸法は、望ましくは、検出器寸法と等しいか、これより大きい必要がある。例えば、システムが0.5cm×0.5cmの寸法のアパーチャ18を有する場合、検出器の断面積は、0.5cm×0.5cm以下である必要がある。検出器がマスクから離れているほど、空間分解能が向上する。
【0025】
なお、アパーチャの寸法より大きい検出器を使用してもよいが、この場合、隣接するアパーチャの視野の間で重なりが大きくなる。この重なり(空間分解能の劣化/不鮮明化)は、マスクの応答関数をデコンボリューションすることによって取り除くことができる。
【0026】
好ましいアパーチャ断面形状は、正方形である。アパーチャの好ましい数は、必須ではないが、2の累乗(すなわち、64、128、256、512、1024)である。マスクアパーチャ間の分離は最小又はゼロであることが望ましい。
【0027】
マスク厚は、用途に依存する。高エネルギ光子(例えば、
60Coからの1.3MeV光子)のイメージングの場合、2cmの鉛の総マスク厚によって、1.3MeV光子の約72%が減衰される。
【0028】
マスク材料は、入射放射線の強さを十分に変調できる本体材料から形成される。高エネルギガンマ線の場合、通常、ガンマ放射線を吸収(減衰)する原子番号(Z)が大きく密度が高い材料が選択される。典型的な材料は、以下に限定されるわけではないが、タングステン、鉛、金、タンタル、ハフニウム及びこれらの合金又は合成物(すなわち、3D印刷−タングステン粉末をエポキシに混合)を含むことができる。低エネルギガンマ線光子の場合、低Zから中Zの材料、例えば、鋼によって、十分に光子強度を変調することができる。好ましい実施形態においては、マスク材料は、光子強度を変調するために光子を減衰させる。他の実施形態として、光子強度の十分な変調を示すものであれば、例えば、コンプトン散乱等の他の相互作用メカニズムを使用してもよい。
【0029】
中性子放射線のイメージングについては、マスク本体は、中性子強度を変調する必要があり、したがって、マスク材料は、中性子相互作用が高い断面を必要とする。中性子マスク本体材料は、以下に限定されるわけではないが、ハフニウム、ガドリニウム、カドミウム、ホウ素添加材料、水素リッチ材料及びこれらの組合せを含むことができる。
【0030】
マスクは、ガンマ線及び中性子の変調を可能にする材料から設計してもよい。ハフニウムのような単一の材料がガンマ線及び中性子の両方の強度の変調に適切である場合がある。複数の材料の使用、例えば、タングステン及びカドミウムの組合せがガンマ線及び中性子の両方の強度の変調に適する場合もある。ガンマ線マスクのための開いたアパーチャは、ガンマ線強度の変調に影響しない何らかの水素リッチ材料から構成してもよい。そして、これらの水素リッチアパーチャは、中性子マスクについては、閉じたアパーチャ又は変調領域となる。拡張によって、これらのマスク材料を使用して、如何なるEM波長(すなわち、光、赤外線の、THz等)又は如何なる粒子(すなわち、電子、陽子等)の強度も変調することができる。
【0031】
図11に示すように、符号化マスクは、ガンマ線及び中性子を個別に変調することができ、すなわち、幾つかのマスク領域は、ガンマ線のみを遮蔽するために使用され、他の幾つかのマスク領域は、中性子のみを遮蔽するために使用される。
図11の例では、マスク領域の1つのサブセット(黒塗りで表されている)は、ガンマ線のみを変調する材料から形成されている。マスク領域の他のサブセット92(白色で表現されている。)は、ガンマ線ではなく、中性子のみを変調する。このタイプのマスクは、本明細書によって開示又は示唆される如何なる技術、材料、形状又は構成に基づいて形成してもよい。
【0032】
マスクは、単一であっても複数であってもよく、入れ子状、長方形状、円形状、円弧状、半球状又は球状であってもよい。符号化マスクセンシングのために必要とされる連続的な測定は、現在のマスクを新たなマスクに置換すること又は1以上のマスクの回転の何らかの形式を使用することによって得られる新しいマスクパターンを必要とする。平らなマスク形状は、前方に臨むのみであり、検出器及びマスクジオメトリによって視野角度が画定されるので、視野が限定されている。
【0033】
円弧状、円筒状又は球状マスクの長所は、大きな視野(FOV)を実現できる点である。現在市販されているピンホール/符号化アパーチャガンマ線カメラ(pinhole/coded aperture gamma-ray cameras)は、約30°〜40°の水平及び垂直のFOVを有している。直立した円筒状のマスクの実施形態は、360°の水平FOVを有し、半球状のマスクの実施形態は、2πのFOVを有し、球状マスクの実施形態は、略4πのFOVを有する。他の実施形態は、以下に限定されるわけではないが、楕円体、円錐、直方体又は六角形の形状のマスクを含むことができる。
【0034】
単一の円筒状のマスクの実施形態の場合、マスクを1列回転させることによって、新しい測定のための所望のFOVを有する新しいマスクパターンが構成される。単一の円筒状のマスクの実施形態では、放射線シールドを用いて、FOVを制限することができ、したがって、より多くの測定を可能にする多数の列を有することができる(
図2参照)。単一の円筒状マスクの手法の短所は、より多くの測定を実行するために、より多くの列が必要である点であり、このため、シリンダの直径が大きくなり、システム全体の物理的サイズが大きくなる。
【0035】
図3に示すように、各マスク本体35、36がコンピュータ22によって個別に移動又は断続回転することができる入れ子状、すなわちマスク内にマスクを入れ込んだ構成を利用する手法(又は二重又は複数マスク法)では、2つのマスクパターンの可能な組合せの数から遙かに多くの測定が可能になる。好ましい実施形態においては、二重マスク法は、円筒内に円筒を入れ込んだ構成を有する(
図3参照)。各マスクは、
図2に示す単一マスクについて提案した手法と同様に、センシング軸又はイメージング軸を中心に独立して回転し、この軸に沿って検出器を設けてもよい。多数のマスクパターン(したがって、測定)によって、360°のFOVをイメージングすることができる、より小型の(1本のシリンダの列の総数がより少ない)システムが実現する。二重半球状又は球状マスク設計についても、同様の説明を適用することができる。二重マスク法では、組み合わされたマスクの開口率は、約50%とすることができるが、この率は、マスクの回転に伴って変化する。一方のマスクが回転角度で断続回転を行って一回転すると、他方のマスクが1列だけ断続回転するようにしてもよく、これによって、列の数の2乗に相当する数の仮想マスクが生成される。他の実施形態においては、マスクが交互に又は非交互に1列だけ反対方向に回転するような構成としてもよい。各仮想マスクは、次のマスクが生成される前に、放射線測定のために使用される。各マスクは、1方向のみに回転すればよい。
【0036】
マスクアパーチャの断面又は投影形状(projected shape)は、以下に限定されるわけではないが、正方形、長方形、円形、三角形及び六角形等であってもよい。マスクアパーチャ間は、分離しても分離しなくてもよい。単一マスクシステムの好ましい実施形態では、マスクアパーチャ形状は、四角形である。
【0037】
図4に示すように、二重マスクの実施形態では、内側マスク30及び外側マスク31の寸法及び向きは、異なっていてもよく、内側及び外側マスクの両方が検出器33に対して同じFOVを生成するように、傾斜32を有していてもよい(但し、互いの辺は、整列される)。これらのアパーチャ34の3次元形状は、以下に限定されるわけではないが、台形プリズム及び円錐を含むことができる。
【0038】
図5に示すように、開いたアパーチャは、一方のマスク上の螺旋線41の形状又は他の構造である開構造と、他方のマスク上の垂直スリット43等の他の形状の開構造との連続的な開構造の重なりによって形成してもよい。マスク42、44がそれぞれ他方に対して互いに回転することによって、符号化アパーチャが生成される。
【0039】
マスクパターンは、ランダム、疑似ランダム、非ランダム又は決定論的に設計してもよい。マスクパターンは、通常、圧縮センシングを機能させるために、定義された条件を満たす必要がある。再構成プロセスでは、行列の形式によるマスクパターンの表現を使用する。再構成において使用されるセンシング行列は、巡回行列又はテプリッツ行列であってもよく、これによって、演算速度を高めることができる。好ましい実施形態においては、各マスク要素が1(開−100%の透過)又は0(閉−0%の透過)の等しい確率を有する疑似乱数マスクパターンを生成する。閉マスク要素の透過率は、100%未満の値である必要があり、例えば、0%であることが望ましいが、画像を再構成するために効果的に強度を変調する目的では、50%の透過率でも十分である。透過率は、エネルギがより高いガンマ線の透過性の増加と関係を有する。例えば、10mmの鉛からなる閉マスク要素は、60keVのガンマ線光子に対して透過率が0%であるが、1332keVのガンマ線光子に対しては、この透過率は、約53%となることがある。開アパーチャ及び閉アパーチャの透過率が近すぎると、画像を再構成するために十分に光子強度を変調できないことがある。例えば、開アパーチャ及び閉アパーチャの透過率がそれぞれ100%及び90%だとすると、これらは、光子強度の十分な変調を行うには近すぎる。所与のエネルギについて、マスク内に3レベル以上の透過率があってもよく、例えば、3レベルの透過率は、33%、66%及び100%であってもよい。他のレベルの透過率は、25%、50%、75%及び100%、又は0.16%、4%及び100%であってもよい。後者の例では、低い側の2つの透過率が近いために、3レベルの透過率が2レベルの透過率に効果的に近似し、再構成時間が短くなり、再構成品質が高まり、測定を少なくできる可能性がある。透過のレベルは、0%〜100%の間の2以上のレベルをカバーしてもよい。センシング行列の値は、特定のガンマ線エネルギについての減衰値であってもよい。異なるガンマ線エネルギの再構成のために、異なる減衰値、したがって異なるセンシング行列を使用してもよい。
【0040】
図6に示すように、マスク構造が自立(self-supporting)するように、如何なる形状のマスクのマスクパターンを生成してもよい。例えば、浮いている(floating)又は取り付けられていない(unattached)「閉」要素50のアレイを有するマスクパターンを非マスキング基板51に固定し、接着し又は取り付けてもよい。このように、放射線不透過マスク要素50は、互いに取り付けるのではなく、基板51によって取り付けてもよい。これに代えて、浮いている又は取り付けられていない「閉」要素50を有さないマスクパターンを選択してもよく、このマスクパターンは、基板51を必要としないが、外側の閉要素50を共通の構造に取り付けることを必要とする。
【0041】
図7〜
図9に示すように、1又は複数のマスクは、半球状又は部分球状、例えば、任意の切断平面より上のキャップ又はオプションとして2つの平面間のセグメントであってもよい。
図7は、球面キャップの形状の2つの入れ子状の同心マスクである内側キャップ61及び外側キャップ62を表しており、これらは、それぞれの縁部(すなわち、最も下の行)が共通平面内にある半球である。一方又は両方のマスク61、62は、データサンプリング位置に回転し、データがサンプリング又は取得される際に、列63、64及び両方の行が整列し又は揃えられる。2つのマスクの行と列の数は同じである。各行は、球における2つの平行な平面の間の帯状の区域に相当する。ある例では、
図3の場合と同様に、内側の半球状のマスク61は、一方向に1列だけ断続回転し、外側マスク62は、反対方向に、単一の列によって定義される角度だけ断続回転又は回転する。同時に両方のマスクを動かすことによって、一方のマスクを静止させて、他方のマスクだけ動かす場合に比べて、マスク要素が開く又は閉じる変化が大きくなる。この構成により、縁65、66を含む平面より上の空間全体の単一検出器符号化マスクイメージングが可能になる。
【0042】
図8及び
図9は、2つのマスク又は、オプションとして、同心の球形である2対の入れ子状マスク71、72の使用を例示している。このような構成により、中心検出器又は複数の検出器の周りの空間の全てをイメージングできる。各球状マスク又はマスク対71、72は、2つの半球状のマスク又は
図7に示すマスク対から形成してもよい。この構成内の各マスクは、システムのコンピュータ22(
図2参照)によって駆動されるターンテーブル又はステッパモータ構成を含む自らの駆動システムを有する。
【0043】
マスクの幾何学的設計
マスク設計は、対象となる放射線イメージング用途の要求によって決定される。システムの幾何学的構成は、例えば、空間分解能、FOV及び感度等のシステム効率に影響する。重要な幾何学的パラメータは、検出器寸法、検出器からマスクまでの距離、アパーチャ寸法(すなわち、厚さ、長さ及び幅)、マスクから光源までの距離、隔壁の厚さ、マスクアパーチャの数及び検出器の中心と2つの近接するマスクアパーチャによって画定される弧の角度等を含む。例えば、マスクアパーチャが小さい程、空間分解能が高くなる。
【0044】
再構成アルゴリズム
多くの再構成アルゴリズムが圧縮センシングのために使用されている。例えば、勾配投影法(gradient projection methods)、繰返し縮小/閾値法(iterative shrinkage/thresholding methods)及びマッチング追跡法(matching pursuit methods)等がある。これらについては、「R. M. Willett, R. F. Marcia and J. M. Nichols, Compressed Sensing for Practical Optical Imaging Systems: a Tutorial, Optical Engineering vol. 50(7), July 2011」に説明されている。これらの手法又は他の幾つかの適切な手法の何れも圧縮センシング測定の再構成に使用できる。ANSTO圧縮センシングのインプリメンテーションは、スパース再構成のための勾配投影(Gradient Projection for Sparse Reconstruction:GPSR)アルゴリズムを使用している。これについては、「Gradient Projection for Sparse Reconstruction: Application to Compressed Sensing and Other Inverse Problems, by M. A. Figueiredo, R. D. Nowak, S. J. Wright, Journal of Selected Topics in Signal Processing, December 2007」に説明されている。
【0045】
画像融合(Image fusion)
圧縮センシング測定の後に生成されるガンマ線画像は、同じ視野に揃えられた光画像に重ねてもよい。また、中性子画像を光画像に重ねてもよい。光画像に放射線画像を重ねることにより、ユーザのために放射線源の位置を視覚化することができる。放射線画像は、他の如何なる波長(例えば、赤外線)における画像と重ねてもよい。
【0046】
方法
図10に示すように、光源は、放射線80を出射する。この放射線80は、上述したように、1又は複数のマスク81を通過する。システムのコンピュータ22は、検出器10を動作させ、又は動作中の検出器82から読出値を受け取る。そして、検出器は、測定された値83をコンピュータ22に送信する。コンピュータは、値及び1又は複数のマスクの位置を保存し、これらを使用して、画像に再構成されるデータをコンパイルする。そして、コンピュータは、1又は複数のモータによって1又は複数のマスクを駆動し、次の測定位置に回転又は断続回転させる。プロセスが繰り返されると、放射線は、実質的に、新しいマスク又はマスク方向81を通過する。
【0047】
本発明を特定の具体例を参照して説明したが、本発明は、他の多くの形式で実現できることは、当業者にとって明らかである。
【0048】
ここで使用する、共通の対象物を記述する「第1」、「第2」、「第3」等の順序に関する修飾語は、特に明記しない限り、単に、同様の対象物の異なる例に言及しているにすぎず、このように記述した対象物が時間的に、空間的に、ランクとして又は他の如何なる形式で所与の順序である必要があるという意味を意図するものではない。
【0049】
本明細書を通して、「一実施形態」、「実施形態」又は「具体例」等の言及は、実施形態に関連して記述される特定の特徴、構造体又は特徴が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書内の様々な箇所で使用する「一実施形態において」又は「具体例において」等の句は、必ずしも同じ実施形態又は具体例を指しているわけではないが、同じ実施形態又は具体例を指している場合もある。更に、本開示によって当業者にとって明らかなように、特定の特徴、構造又は特徴は、1つ以上の実施形態において適切な如何なる手法で組み合わせてもよい。
【0050】
なお、本発明の例示的な実施形態に関する上記の説明では、本開示を合理化し、1つ以上の本発明の様々な側面の理解を補助する目的で、本発明の様々な特徴を単一の実施形態、図面又はその説明にまとめている。但し、この開示の手法は、特許請求される発明が、各請求項に明示的に示されている特徴以外の特徴を必要とするといった意図を表しているとは解釈されない。すなわち、以下の請求項は、本発明の側面が、上述した単一の実施形態の全ての特徴より少ない特徴でも成立することを反映している。詳細な説明に続く何れの請求項も、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の個別の実施形態として成立するものとする。
【0051】
以下の議論からも明らかなように、本明細書において、特に言及しない限り、例えば「処理」、「演算」、「計算」、「判定」又はこれらに類似する用語を使用する説明は、マイクロプロセッサ、コントローラ若しくはコンピュータシステム、又はデータを処理及び/又は変換するこれらに類する電子演算又は信号処理デバイスの動作及び/又は処理を指す。
【0052】
更に、ここに記述する幾つかの実施形態は、他の実施形態に含まれていない特徴を含むことがあるが、異なる実施形態の特徴の組合せも本発明の範囲内であり、この組合せが異なる実施形態を構成することは、当業者にとって明らかである。例えば、特許請求の範囲において請求される実施形態は、如何なる組合せで使用してもよい。
【0053】
すなわち、これまで本発明の好ましいと考えられる実施形態を記述したが、本発明の精神を逸脱することなく、これらに他の更なる修正を加えることができ、このような全ての変更及び修正は、本発明の範囲に含まれることは、当業者にとって明らかである。
【0054】
特定の構成の詳細を参照して本発明を説明してきたが、これらは、例示的なものであると理解され、本発明の範囲又は思想を限定するものではない。