(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974469
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】スポット溶接性及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20211118BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20211118BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20211118BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20211118BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
C23C28/02
C25D5/48
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/06
C23C14/14 G
C23C14/14 C
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-534696(P2019-534696)
(86)(22)【出願日】2017年12月21日
(65)【公表番号】特表2020-509218(P2020-509218A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】KR2017015221
(87)【国際公開番号】WO2018124629
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2019年8月15日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0178836
(32)【優先日】2016年12月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】カク、 ヨン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ドゥ−ヨル
【審査官】
▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−116062(JP,A)
【文献】
特表2011−508088(JP,A)
【文献】
特開平07−207430(JP,A)
【文献】
特開平09−159428(JP,A)
【文献】
特開平07−188903(JP,A)
【文献】
特開平01−017851(JP,A)
【文献】
特開平08−003728(JP,A)
【文献】
特開平10−219475(JP,A)
【文献】
特開平03−039489(JP,A)
【文献】
特開平08−041627(JP,A)
【文献】
特表2011−515574(JP,A)
【文献】
特開平02−194162(JP,A)
【文献】
特開2003−147500(JP,A)
【文献】
特表2016−503837(JP,A)
【文献】
特開平09−228030(JP,A)
【文献】
特開平01−139755(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/091889(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第104328370(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00−28/04
C23C 14/00−14/58
C25D 5/48
C22C 38/00
C22C 38/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鉄と、
前記素地鉄上に形成されたZnめっき層と、
前記Znめっき層上に形成されたZn−Mg合金層と、を含み、
前記Znめっき層及びZn−Mg合金層の総重量に対する前記Zn−Mg合金層に含有されたMg重量の比は、0.13〜0.24であり、前記Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計は、40g/m2以下(0g/m2は除く)であり、
前記Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径は、100nm以下(0nmは除く)である、亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項2】
前記Znめっき層及びZn−Mg合金層の総重量に対する前記Zn−Mg合金層に含有されたMg重量の比は、0.157〜0.20である、請求項1に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項3】
前記Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計は、10〜35g/m2である、請求項1又は2に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項4】
前記Znめっき層は、電気Znめっき層であるか、または物理気相蒸着によるZnめっき層である、請求項1から3のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項5】
前記素地鉄は、重量%で、C:0.10〜1.0%、Si:0.5〜3%、Mn:1.0〜25%、Al:0.01〜10%、P:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項6】
前記素地鉄に含まれるC、Si、Mn、P及びSの含量は、下記関係式1を満たす、請求項5に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
[関係式1][C]+[Mn]/20+[Si]/30+2[P]+4[S]≧0.3
(ここで、[C]、[Mn]、[Si]、[P]及び[S]はそれぞれ、該当元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項7】
前記素地鉄は、微細組織として、オーステナイト及び残留オーステナイトのうち1種以上を含む、請求項5又は6に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項8】
Znめっき層が形成されたZnめっき鋼板を準備する段階と、
真空チャンバー内で電磁力によってコーティング物質を浮揚及び加熱して蒸着蒸気を生成し、前記蒸着蒸気を前記Znめっき鋼板の表面に誘導噴出してMg蒸着層を形成する段階と、
前記Mg蒸着層が形成されたZnめっき鋼板を250℃以上320℃未満の温度で熱処理してZn−Mg合金層を形成する段階と、を含み、
前記浮揚したコーティング物質の温度は、700℃以上であり、
前記Znめっき層及びMg蒸着層の総重量に対する前記Mg蒸着層の重量の比は、0.13〜0.24であり、前記Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計は、40g/m2以下(0g/m2は除く)であり、
前記Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径は、100nm以下(0nmは除く)である、亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記Znめっき層及びMg蒸着層の総重量に対する前記Mg蒸着層の重量の比は、0.157〜0.20である、請求項8に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記Znめっき層は、電気めっきもしくは物理気相蒸着によって形成される、請求項8又は9に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記真空チャンバーの内部の真空度は、1.0×10−3mbar〜1.0×10−5mbarである、請求項8から10のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理は、誘導加熱または紫外線加熱方式によって3sec〜100sec間行われる、請求項8から11のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接性及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材に関し、より詳細には、自動車、家電製品及び建築資材などに適用することができるスポット溶接性及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極方式によって鉄の腐食を抑制する亜鉛めっき法は、防食性能及び経済性に優れるため、高耐食特性を有する鋼材の製造に広く用いられており、自動車、家電製品及び建築資材など産業全般にわたって亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼材に対する需要が増加している。
【0003】
このような亜鉛めっき鋼材は、腐食環境に露出した場合、鉄よりも酸化還元電位の低い亜鉛が先に腐食されて鋼材の腐食が抑制される犠牲方式(Sacrificial Corrosion Protection)の特性を有する。さらに、めっき層の亜鉛が酸化しながら鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成させて鋼材を酸化雰囲気から遮断することにより、鋼材の耐腐食性を向上させる。
【0004】
しかし、産業の高度化によって大気汚染が増加し、腐食環境が悪化しており、資源及びエネルギー節約に対する厳格な規制が行われているため、従来の亜鉛めっき鋼材よりも優れた耐食性を有する鋼材に対する開発の必要性が高まっている。その一環として、めっき層にマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金めっき鋼材の製造技術に関する研究が多様に行われている。
【0005】
一方、亜鉛めっき鋼材もしくは亜鉛合金めっき鋼材(以下、「亜鉛系めっき鋼材」という)は、一般に加工などによって部品に加工された後、スポット溶接などで溶接されて製品として用いられるが、微細組織として、オーステナイトまたは残留オーステナイトを含む高強度鋼材、高P添加高強度IF(Interstitial Free)鋼材などを素地とする亜鉛系めっき鋼材の場合、スポット溶接において溶融状態である亜鉛が素地鉄の結晶粒界に沿って浸透して脆性クラックを引き起こす、いわゆる液体金属脆化(LME、Liquid Metal Embrittlement)が発生するという問題がある。
【0006】
図1はスポット溶接によってLME亀裂が発生した溶接部材の溶接部を拡大して観察した写真である。
図1においてナゲット(Nugget)の上下部に発生したクラックはタイプAクラック、溶接肩部で発生したクラックはタイプBクラック、溶接での電極の誤整列(misalignment)によって鋼板の内部に発生したクラックはタイプCクラックという。このうち、タイプB及びCクラックは、材料の剛性に大きな影響を及ぼすため、溶接においてクラックの発生を防止することが当技術分野において核心となる要件である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の様々な目的の一つは、スポット溶接性及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、素地鉄、上記素地鉄上に形成されたZnめっき層、及び上記Znめっき層上に形成され、Zn及びMgの相互拡散によって得られたZn−Mg合金層を含み、上記Znめっき層及びZn−Mg合金層の総重量に対する上記Zn−Mg合金層に含有されたMg重量の比は、0.13〜0.24であり、上記Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計は、40g/m
2以下(0g/m
2は除く)である亜鉛合金めっき鋼材を提供する。
【0009】
本発明の他の側面は、Znめっき層が形成されたZnめっき鋼板を準備する段階と、真空チャンバー内で電磁力によってコーティング物質を浮揚及び加熱して蒸着蒸気を生成し、上記蒸着蒸気を上記Znめっき鋼板の表面に誘導噴出してMg蒸着層を形成する段階と、上記Mg蒸着層が形成されたZnめっき鋼板を250℃以上320℃未満の温度で熱処理してZn−Mg合金層を形成する段階と、を含み、上記Znめっき層及びMg蒸着層の総重量に対する上記Mg蒸着層の重量の比は、0.13〜0.24であり、上記Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計は、40g/m
2以下(0g/m
2は除く)である亜鉛合金めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の様々な効果の一つとして、本発明による亜鉛合金めっき鋼材は、スポット溶接性に優れる。これにより、微細組織として、オーステナイトまたは残留オーステナイトを含む高強度鋼材、高P添加高強度IF(Interstitial Free)鋼材などを素地とした場合でも、液体金属脆化(LME、Liquid Metal Embrittlement)の発生が効果的に抑制されるという利点がある。
【0011】
また、本発明による多層亜鉛合金めっき鋼材は、少ない付着量でも優れた耐食性を確保することができる。これにより、環境に優しく、且つ経済性に優れるという利点がある。
【0012】
本発明の多様で有益な利点と効果は、上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】スポット溶接によってLME亀裂が発生した溶接部材の溶接部を拡大して観察した写真である。
【
図3】めっき鋼材の腐食過程を示した模式図である。
【
図5】発明例5の亜鉛合金めっき鋼材を対象にスポット溶接した後の溶接部を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
Zn−Mg合金めっき鋼材の場合、Mgの含量が増加するにつれて耐食性の側面では有利であるが、スポット溶接性の側面では不利であることが知られている。したがって、通常めっき層内のMgの含量を最大10重量%程度で管理している。これは、Zn−Mgめっき層内の融点が低いZn−Mg系金属間化合物が容易に溶解して液体金属脆化を引き起こすためである。しかし、本発明者らがさらに研究を行った結果、めっき層内のMg含量が10重量%を超える場合でも、その平均含量が一定の範囲内に該当するとともに、Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均結晶粒サイズが一定の範囲内に該当する場合、むしろスポット溶接性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
以下、スポット溶接性及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材について詳細に説明する。
【0016】
本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、素地鉄と上記素地鉄上に順次に形成されたZnめっき層及びZn−Mg合金層を含む。本発明では、上記素地鉄の形態については特に限定せず、例えば、鋼板または鋼線材であることができる。
【0017】
また、本発明では、素地鉄の合金組成についても特に限定しないが、一例として、素地鉄は、重量%で、C:0.10〜1.0%、Si:0.5〜3%、Mn:1.0〜25%、Al:0.01〜10%、P:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含むことができ、この場合、上記C、Si、Mn、P及びSの含量は、下記関係式1を満たすことができる。一方、上述の組成を有する素地鉄は、微細組織として、オーステナイトまたは残留オーステナイトを含むことができる。
[関係式1][C]+[Mn]/20+[Si]/30+2[P]+4[S]≧0.3
(ここで、[C]、[Mn]、[Si]、[P]及び[S]はそれぞれ、該当元素の含量(重量%)を意味する)
【0018】
上述の合金組成と微細組織を有する場合、スポット溶接において液体金属脆化(LME)が主に問題になる可能性があり、その理由は次の通りである。即ち、オーステナイトまたは残留オーステナイト組織は、他の組織に比べて結晶粒界が脆弱である。そのため、スポット溶接によって応力が作用すると、液状の溶融亜鉛が溶接部上のオーステナイトまたは残留オーステナイト組織の結晶粒界に浸透して亀裂を発生させ、これにより、脆性破壊である液体金属脆化を起こす。
【0019】
しかし、本発明では、後述するように、液状の溶融亜鉛が残留する時間を最小化したため、上述の合金組成と微細組織を有する鋼材を素地として亜鉛合金めっき鋼材を製造しても、液体金属脆化の発生が効果的に抑制される。但し、素地鉄の合金組成が上記範囲を満たさない場合でも、本発明が適用され得る。
【0020】
Znめっき層は、素地鉄上に形成されて素地鉄を腐食環境から保護する役割を果たし、電気めっき、溶融めっき、物理気相蒸着法(PVD、Physical Vapor Deposition)のいずれか一つの方法によって形成されることができる。
【0021】
但し、Znめっき層が溶融めっきによって形成される場合、素地鉄とZnめっき層の界面には必然的に高抵抗であるFe
2Al
5が存在し、溶接中の電極に非導電性Al
2O
3が生成され、めっき層の厚さ偏差が相対的に大きくてスポット溶接性の側面で不利である。それを考慮すると、上記Znめっき層は、電気めっき層であるか、または物理気相蒸着によるめっき層であることがより好ましい。
【0022】
Zn−Mg合金層は、Znめっき層上に形成され、後述のように、Znめっき層とMg蒸着層内のZn及びMgの相互拡散によって得られる。
【0023】
本発明は、Znめっき層及びZn−Mg合金層の総重量に対するZn−Mg合金層に含有されたMg重量の比が0.13〜0.24であることを特徴とする。より好ましいMg重量の比は、0.157〜0.20である。
【0024】
Zn−Mg合金層は、その組織として、Zn単相、Mg単相、Mg
2Zn
11合金相、MgZn
2合金相、MgZn合金相、Mg
7Zn
3合金相などを含むことができる。本発明者らは、Znめっき層及びZn−Mg合金層の総重量に対するZn−Mg合金層に含有されたMg重量の比が上述の範囲に制御される場合、スポット溶接において溶接部上のZnめっき層及びZn−Mg合金層は溶融して90面積%以上(100面積%含む)のMgZn
2合金相を含む単層の合金層に変化し、この場合、液体金属脆化(LME)が効果的に抑制されることを見出した。これは、Mg−Zn二元系合金の相平衡図である
図2から分かるように、めっき層の融点が高いため、溶融しためっき層が液状に残留する時間が最小となるためであると考えられる。一方、本発明では、溶接部上のめっき層中のMgZn
2合金相以外の残部組織については特に限定しないが、制限されない一例によると、MgZn
2合金相以外の残部は、Mg
2Zn
11合金相であることができる。
【0025】
ここで、相(phase)分率の測定は、一般的なXRDを用いたスタンダードレスリートベルト定量分析(standardless Rietveld quantitative analysis)方法と共に、より精密なTEM−ASTAR(TEM−based crystal orientation mapping technique)を用いて分析及び測定することができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。一方、高温in−situ放射光XRDを用いてZn−Mg合金めっき層の相変態過程を分析することができる。より具体的には、試料を1.3℃/sec、11.3℃/secの加熱速度と、780℃の加熱温度で加熱しながら、加熱及び冷却の熱サイクルの間、XRDスペクトル(spectrum)を1秒ごとに1つのフレーム(frame)ずつ総900フレーム(frame)のXRDスペクトル(spectrum)を連続測定することによりZn−Mg合金めっき層の相変態過程を分析することができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0026】
本発明者らのさらなる研究結果によると、Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径は、めっき鋼材の耐食性に大きな影響を及ぼす。
図3はめっき鋼材の腐食過程を示した模式図であり、
図3の(a)は、結晶粒サイズが微細な場合の模式図であり、
図3の(b)は、結晶粒サイズが粗大な場合の模式図である。
図3を参照すると、結晶粒サイズが微細である場合、腐食の進行において相対的に緻密で均一な腐食生成物が形成され、相対的に腐食遅延に役立つことが分かる。
【0027】
また、Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径は、めっき鋼材のスポット溶接性にも大きな影響を及ぼす。結晶粒の平均粒径が一定レベル以下であると、タイプBクラックの発生が顕著に減少する。これは、溶融しためっき層内の原子の移動が活発に起こり、目的とする組織の確保に有利であるためであると考えられる。
【0028】
このように、めっき鋼材の耐食性及びスポット溶接性の両側面を考慮すると、Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径の上限を適切に管理する必要があり、Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径は100nm以下(0nmは除く)となるように管理することが好ましい。ここで、平均粒径は、めっき層の厚さ方向の断面を観察して検出した結晶粒の平均長径を意味する。
【0029】
一例によると、Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計は、40g/m
2以下(0g/m
2は除く)であることができる。Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計が大きければ大きいほど耐食性の側面では有利であるが、付着量の増加によってスポット溶接において液体金属脆化(LME)が生じることがあるため、溶接性の側面を考慮して、その上限を上記範囲に限定することができる。一方、耐食性及びスポット溶接性の両側面をすべて考慮したZnめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計のより好ましい範囲は10〜35g/m
2であり、さらに好ましい範囲は15〜30g/m
2である。
【0030】
以上で説明した本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、様々な方法で製造されることができ、その製造方法は特に制限されない。但し、その一実施形態として、次のような方法により製造されることができる。
【0031】
まず、14重量%以上のHCl水溶液を用いて素地鉄の表面を酸洗、リンス及び乾燥して表面の異物を除去し、プラズマ及びイオンビームなどを用いて自然酸化膜を除去した後、ZnめっきしてZnめっき層が形成されたZnめっき鋼材を準備する。上述のように、素地鉄上のZnめっき層は、電気めっき、物理気相蒸着によって形成されることができる。
【0032】
次に、Znめっき層上にMg蒸着層を形成する。このとき、Mg蒸着層は、電磁攪拌(Electromagnetic Stirring)効果を有する電磁浮揚物理気相蒸着法によって形成することが好ましい。
【0033】
ここで、電磁浮揚物理気相蒸着法とは、交流電磁場を生成する一対の電磁コイルに高周波電源を印加して電磁力を発生させると、コーティング物質(本発明の場合はMg)が交流電磁場に囲まれた空間で外部の助けなしに空中に浮上するようになり、このように浮上したコーティング物質が大量の蒸着蒸気(金属蒸気)を発生させる現象を用いることを意味する。
図4にはこのような電磁浮揚物理気相蒸着のための装置の模式図が示されている。
図4を参照すると、上述の方法によって形成された大量の蒸着蒸気は、蒸気分配ボックス(vapor distribution box)の多数のノズルを介して被コーティング材の表面に高速で噴射されて蒸着層を形成する。
【0034】
通常の真空蒸着装置では、コーティング物質がるつぼの内部に備えられ、コーティング物質の気化は、このようなコーティング物質が備えられたるつぼの加熱によって行われる。この場合、るつぼの溶融、るつぼによる熱損失などのために、コーティング物質自体に十分な熱エネルギーを供給することが困難になる。これにより、蒸着速度が遅くなるだけでなく、蒸着層をなす結晶粒サイズを微細化するにも一定の限界がある。
【0035】
しかし、これとは異なり、電磁浮揚物理気相蒸着法によって蒸着を行うと、通常の真空蒸着法とは異なり、温度による制約条件がないため、コーティング物質をより高温に露出させることができる。これにより、高速蒸着が可能になるだけでなく、結果的に、形成された蒸着層をなす結晶粒サイズの微細化を達成することができるという利点がある。
【0036】
蒸着工程での真空蒸着チャンバーの内部の真空度は1.0×10
−3mbar〜1.0×10
−5mbarの条件に調整することが好ましい。この場合、蒸着層の形成過程で酸化物が形成されることによって発生する脆性の増加及び物性の低下を効果的に防止することができる。
【0037】
蒸着工程において浮揚するコーティング物質の温度は、700℃以上に調整することが好ましく、800℃以上に調整することがより好ましく、1000℃以上に調整することがさらに好ましい。もし、その温度が700℃未満であると、結晶粒微細化の効果を十分に確保できない恐れがある。一方、浮揚するコーティング物質の温度が高ければ高いほど、目的とする技術的効果を達成するのに有利であるため、本発明では、その上限については特に限定しない。しかし、その温度が一定のレベル以上であると、その効果が飽和するだけでなく、工程コストが上昇しすぎるため、それを考慮すると、その上限を1500℃に限定することができる。
【0038】
蒸着前後のZnめっき鋼材の温度は、100℃以下に調整することが好ましい。もし、100℃を超えると、鋼板の幅方向の温度不均一による幅方向の反曲によって、出側多段差等減圧システムを通過する際に真空度の維持を妨げることがある。
【0039】
次に、Mg蒸着層が形成されたZnめっき鋼材を250℃以上の温度で熱処理してZn−Mg合金層を形成する。ここで、熱処理温度を250℃以上に限定した理由は、熱処理温度が250℃未満であると、Znめっき層とMg蒸着層内のZn及びMgの相互拡散が容易に起こらないことがあるためである。一方、本発明では、熱処理温度の上限については、特に限定しないが、もし、その温度が320℃以上であると、素地鉄とZnめっき層の界面に脆い(brittle)亜鉛と鉄の合金相が形成されてシーラー(Sealer)密着性の側面で不利になるため、それを考慮すると、その上限を320℃未満に限定することができる。
【0040】
本発明では、熱処理方法については特に限定しないが、例えば、誘導加熱または紫外線加熱方式によって行われることができ、このときの加熱時間は3sec〜100secであることができる。もし、加熱時間が3sec未満であると、合金化が十分に起こらず、Mg蒸着層が一部残留することがあり、一方、100secを超えると、鋼板とZnめっき層間の合金化が行われる恐れがある。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0042】
(実施例)
重量%で、C:0.16%、Si:1.43%、Mn:2.56%、Al:0.04%、P:0.006%、S:0.0029%、残部がFe及び不可避不純物を含む、厚さ1.4mmの自動車用高強度冷延鋼板上に、下記表1に示す厚さを有する電気亜鉛めっき層が形成された電気亜鉛めっき鋼板を準備し、
図4の装置(真空度3.2×10
−3mbar)を用いて下記表1に示す厚さを有するMg蒸着層を形成した。すべての例において、Mg蒸着層を形成する際に一対の電磁コイルに印加される電流は1.2kA、一対の電磁コイルに印加される周波数は、蒸着物質2kgを基準に60kHz、浮揚したコーティング物質の温度は1000℃、蒸気分配ボックスの温度は900℃と、一定にした。また、蒸着前後の素地鉄の温度は60℃に維持した。Mg蒸着層が形成された電気亜鉛めっき鋼板は、エグジットストリップロック(Exit Strip−lock)を通過した後に大気中に出て、誘導加熱を用いた熱処理ゾーン(Zone)で合金化熱処理を行った。すべての例において、熱処理温度は280℃、熱処理時間は10secと一定にした。
【0043】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)法によって製造された亜鉛合金めっき鋼材の総付着量とMg重量の比を測定した。より具体的には、亜鉛合金めっき鋼材を80mm×80mmサイズの試験片に切断し、表面を脱脂した後に高精度の秤を用いて1次坪量(W1:0.0000g)した。その後、試験片表面の前面部にクランプを用いてO−リング54.5mm dia専用カラムを付着させて溶液が漏れないように密着させた。以後、30ccの1:3HCl溶液に投入し、インヒビター(inhibitor)を2〜3滴投入した。表面でのH
2ガスの発生が終了した後、溶液を100ccマスフラスコに捕集した。このとき、洗浄ビンを用いて表面の残量をすべて捕集して100cc以下に捕集した。以後、試験片を完全に乾燥させた後に2次坪量(W2)し、1次坪量値と2次坪量値の差を単位面積で割った値を亜鉛合金めっき鋼材の総付着量とした。一方、捕集された溶液を対象に、ICP法によりMg含量を測定し、それをMg重量の比とした。
【0044】
次に、Zn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径を測定した。測定の結果、すべての例のZn−Mg合金層をなす結晶粒の平均粒径は100nm以下であることが分かった。
【0045】
次に、製造された亜鉛合金めっき鋼材について溶接性及び耐食性を評価し、その結果を下記表1に共に示した。
【0046】
より具体的に、溶接性は、SEP1220−2規格に従って亜鉛合金めっき鋼材を40mm×120mmサイズの試験片に切断し、各試験片に対して総100回のスポット溶接を行った後にタイプBクラックの有無及びその大きさを測定し、下記に示す基準で評価した。
1.非常に優秀:すべての試験片でタイプBクラックが発生していない場合
2.優秀:一部もしくはすべての試験片でタイプBクラックが発生し、タイプBクラックの平均長さが素地鉄(冷延鋼板)の厚さの0.1倍以下である場合
3.普通:一部もしくはすべての試験片でタイプBクラックが発生し、タイプBクラックの平均長さが素地鉄(冷延鋼板)の厚さの0.2倍未満である場合
4.不良:一部もしくはすべての試験片でタイプBクラックが発生し、タイプBクラックの平均長さが素地鉄(冷延鋼板)の厚さの0.2倍を超える場合
【0047】
耐食性は、それぞれの多層亜鉛合金めっき鋼材を75mm×150mmサイズの試験片に切断した後、JISZ2371に準拠して塩水噴霧試験を行って初期赤錆の発生時間を測定し、下記に示す基準で評価した。
1.優秀:片面付着量60g/m
2の亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)に比べて赤錆の発生時間が2倍以上長い場合
2.通常:片面付着量60g/m
2の亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)に比べて赤錆の発生時間が同等レベルであるか、または2倍未満長い場合
3.不良:片面付着量60g/m
2の亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)に比べて赤錆の発生時間が短い場合
【0048】
【表1】
【0049】
表1を参照すると、本発明で提供するすべての条件を満たす発明例1〜13は、耐食性だけでなく、スポット溶接性に非常に優れることが確認できる。さらに、より優れたスポット溶接性を確保するためには、Mg重量の比が0.157〜0.20に該当し、Znめっき層及びZn−Mg合金層の付着量の合計を35g/m
2以下に制御することが好ましいことが確認できる。
【0050】
これに対し、比較例1〜6は、Mg重量の比が本発明で提案する範囲を外れ、スポット溶接性に劣ることが確認できる。
【0051】
一方、
図5は発明例5の亜鉛合金めっき鋼材を対象にスポット溶接後の溶接部を観察した写真である。
図5を参照すると、本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、溶接部にタイプBクラックだけでなく、タイプCクラックも全く発生していないことが視覚的に確認できる。
【0052】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。