【文献】
YEUNG, Y.A., et al.,"A therapeutic anti-VEGF antibody with increased potency independent of pharmacokinetic half-life.",CANCER RESEARCH,2010年,Vol.70, No.8,pp.3269-3277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
254番目、308番目、及び434番目の位置に、それぞれトレオニン(T)、プロリン(P)、及びアラニン(A)のアミノ酸残基を有する修飾されたヒトFcフラグメントを含み、
配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、かつ、配列番号3のアミノ酸配列を含む軽鎖を含むことを特徴とするIgG抗体。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、関連技術に存在する問題の少なくとも1つを少なくともある程度まで解決することを目的とする。この目的のために、本開示の目的は、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性を増加させ、その血清半減期を延長させるための手段を提供することである。
【0006】
本開示は、以下の発見及び研究に従って本発明者らによって達成されることに留意されたい。
【0007】
IgG抗体は、IgG抗体のヒンジ領域のN末端におけるジスルフィド結合を切断することによって、パパインで加水分解されることができ、それによって3つのフラグメント、即ち抗体結合性の2つの同一のフラグメント(即ち、Fab)及び結晶化できるフラグメント(即ち、Fc)を得ることができる。抗体の結晶化できるフラグメントFcは、様々なFc受容体及びリガンドと相互作用し、それによって、補体依存性細胞傷害(CDC)、ファゴサイトーシス、及び抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)の開始、並びにトランスサイトーシスを介した細胞バリアによる抗体の輸送を含む、抗体に対して重要なエフェクター機能を与える。更に、Fcフラグメントは、IgG様抗体の血清半減期を維持するのに重要である。
【0008】
胎児性Fc受容体(FcRn)は、上皮細胞による免疫グロブリンG(IgG)の能動輸送を担う受容体であり、非共有結合で結合されている、α鎖サブユニットとβ鎖サブユニットからなるヘテロ二量体である。IgG抗体のFcフラグメントは、2つの同一のポリペプチド鎖を含み、それぞれはその個々のFcRn結合部位によって単一のFcRn分子に結合する。成体哺乳動物において、IgG抗体は、Fcフラグメントを介してFcRnに結合し、それによってIgG抗体を分解から保護するので、Fcフラグメントは血清抗体レベルを維持する上で極めて重要である。内皮細胞によって形質膜陥入された後にFcRnに結合したIgG抗体は、血流中を循環し、一方FcRnに結合しなかったIgG抗体は、リソソームによって分解される。従って、Fcフラグメントは、IgG抗体がFcRnに結合する結合親和性にとって重要である。
【0009】
そこで、本発明者らは、IgG様抗体(即ち、Fcフラグメントの配列)の重鎖定常領域の配列を変えることで、FcRnに対する結合親和性を増加させ、IgG様抗体(特に、天然のIgG様抗体)の血清半減期を延長させる方法を提案することを試みた。即ち、本発明者らは、IgG様抗体のFcフラグメント中のアミノ酸を変異させることによって、血清半減期及びFcRnに対する結合親和性を改善することを目的とする。驚くべきことに、一連の実験設計及び調査の後、ヒトIgG様抗体のFcフラグメントにアミノ酸変異を導入することによって、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性が改善され、それによってIgG様抗体の血清半減期を増加させることができることが本発明者らによって見出された。具体的には、IgG様抗体のFcフラグメントは、アミノ酸254番目、308番目、及び434番目の位置で、野生型IgG様抗体(アミノ酸変異を含まない)におけるものとは異なるアミノ酸で変異し、それによって野生型IgG様抗体と比べて延長した血清半減期を示す最適化された抗体を得る。言い換えれば、本発明者らは、IgG様抗体の重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸を変異させることによって、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性を効果的に増加させ、その血清半減期を延長させることができることを見出した。
【0010】
したがって、一つの態様においては、実施形態における本開示は、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性を増加させ、その血清半減期を延長させる方法を提供する。実施形態においては、前記方法は、前記IgG様抗体の重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸を変異させることを含む。したがって、得られた修飾されたIgG様抗体は、特異的抗原に対する結合親和性を維持しながら、FcRnに対する結合親和性を効果的に増加させ、血清半減期を延長させた。
【0011】
更に、前記IgG様抗体の重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸を変異させる方法としては、254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸を変異させることが達成可能であれば、特に限定されず、例としては化学誘導法、部位特異的変異誘発などが挙げられることに留意されたい。一般的に、変異されたアミノ酸に対応する特定のヌクレオチドで、IgG様抗体をコードする遺伝子におけるヌクレオチド(254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸に対応する)を変異させることによって、アミノ酸変異は、遺伝子レベルで得られることができ、それによって変異されたコード遺伝子に基づいて、IgG様抗体変異体(本明細書では「修飾されたIgG様抗体」とも呼ばれる)を得ることができる。したがって、この態様から、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性を増加させ、その血清半減期を延長させる方法は、既知のIgG様抗体と比較して、FcRnに対する結合親和性が増加し、血清半減期が延長したIgG様抗体変異体を調製する方法として見なされることができる。
【0012】
実施形態においては、前記IgG様抗体の前記重鎖定常領域の前記FcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置の前記アミノ酸が、それぞれトレオニン、プロリン、及びアラニンに変異される。したがって、IgG様抗体の血清半減期は延長され、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性は、著しく増加される。
【0013】
別の態様においては、実施形態における本開示は、修飾されたIgG様抗体を提供する。実施形態においては、修飾されたIgG様抗体は、野生型IgG様抗体に対して、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置でアミノ酸変異を有する。驚くべきことに、修飾されたIgG様抗体が、野生型IgG様抗体と比較して、FcRnに対する増加した結合親和性及び延長された血清半減期を示しながら、特異的抗原に対する結合親和性を維持することを本発明者らによって見出された。
【0014】
実施形態においては、前記野生型IgG様抗体に対して、前記修飾されたIgG様抗体の前記重鎖定常領域の前記FcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置の前記アミノ酸変異が、それぞれトレオニン、プロリン、及びアラニンである。したがって、修飾されたIgG様抗体は、野生型IgG様抗体と比較して、延長した血清半減期及びFcRnに対する顕著に増加した結合親和性を示す。
【0015】
更なる態様において、実施形態における本開示は、上記に記載された修飾されたIgG様抗体を調製する方法を提供する。実施形態においては、前記方法は、標的IgG様抗体をコードする核酸配列を前記標的IgG様抗体のアミノ酸配列に係る遺伝子合成を介して生成することと;前記標的IgG様抗体をコードする前記核酸配列を含む発現ベクターを構築することと;前記発現ベクターで抗体産生細胞をトランスフェクトし、前記抗体産生細胞が、前記標的IgG様抗体を発現し、分泌するようにすることと、を含み、前記標的IgG様抗体は、前記修飾されたIgG様抗体である。
【0016】
したがって、野生型IgG様抗体に対して、FcRnに対する増加した結合親和性及び延長した血清半減期を示す修飾されたIgG様抗体(即ち、標的IgG様抗体)は、容易且つ効果的な方法で調製されることができる。言い換えれば、実施形態によれば、上記に記載された方法を用いることによって、FcRnに対する強い結合親和性及び延長した血清半減期を有する、新しいIgG様抗体を調製することができる。更に、修飾されたIgG様抗体とその特異的抗原との間の結合親和性は、野生型IgG様抗体に対して維持されることに留意されたい。
【0017】
使用される抗体産生細胞の種類は、修飾されたIgG様抗体が効率よく発現、及び分泌されることができるのであれば、特に限定されず、例えば、抗体産生細胞は、マウス、ラット、ウサギ、ヒトなどに由来する細胞であることができる。実施形態においては、前記抗体産生細胞は、293細胞である。したがって、修飾されたIgG様抗体は、高収率かつ優れた効果で容易に製造されることができる。
【0018】
更に、発現ベクターの種類及び具体的なトランスフェクション方法は、修飾されたIgG様抗体が発現されることができるのであれば、特に限定されない。
【0019】
更に、本明細書で用いられる「アミノ酸」という用語は、特定の定義された位置に存在することができる20個の天然アミノ酸又はその非天然類似体の任意の1つを意味することに留意されたい。前記20個の天然アミノ酸は、3文字コード又は1文字コードに略されることができる。
【表1】
【0020】
254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸などの「n番目の位置のアミノ酸」という表現は、タンパク質のアミノ酸配列における特定のアミノ酸位置を指す。本開示のFcフラグメントについて、アミノ酸位置は、KabatにおけるEUインデックスに従って番号付けされることができる。
【0021】
本開示の更なる態様及び利点は、部分的に以下の説明に記載され、その一部は、その説明から明らかになるか、又は本開示の実施から理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の実施例を詳細に参照する。当業者であれば、以下の実施例は説明のためのものであり、本開示の範囲を限定するものと解釈されることができないことを理解するであろう。具体的な技術又は条件が実施例において明記されていない場合、当技術分野における文献(例えば、J.Sambrookら(Huang PTにより翻訳)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Science Pressを参照)に記載されている技術又は条件に従って、又は製品の説明書に従って、工程が行われる。試薬又は機器の製造元が明記されていない場合、試薬又は機器は、例えば、Illumina Companyから商業的に利用可能であることがある。
【0024】
実施例1 H8L2抗体のタンパク質発現
ヒト化H2L2抗体(PD−1に対するIgG様抗体)において、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸は、それぞれトレオニン、プロリン、及びアラニンに変異し、PD−1に対するIgG様抗体H8L2(即ち、H8L2抗体)として名付けられたバリアントを得る。
【0025】
即ち、目的のH8L2抗体は、重鎖定常領域のFcRn−結合部位におけるアミノ酸位置254番目でトレオニン変異、アミノ酸位置308番目でプロリン変異、及びアミノ酸位置434番目でアラニン変異を有し、残ったアミノ酸は、ヒト化H2L2抗体と比較して変わらなかった。
【0026】
実際には、遺伝子合成を介して形成されたヒト化H8L2抗体をコードする核酸配列を発現ベクターで構築し、哺乳類細胞293細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後、哺乳類細胞293細胞によって、ヒト化H8L2抗体が発現され、分泌された。次いで、得られたヒト化H8L2抗体をプロテイン−Aアフィニティーカラムで精製し、精製されたヒト化H8L2抗体を得た。
【0027】
上記に記載されるように、ヒト化H2L2抗体とヒト化H8L2抗体との間の差は、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸のみにあるので、参考までに単にH8L2抗体のアミノ酸配列を提供する。
【0028】
ヒト化H8L2抗体の重鎖は、下記のアミノ酸配列のものである。
【化1】
H8L2抗体の重鎖可変領域に下線を引き、H8L2抗体の変異部位(H2L2抗体に対して)は、四角で囲み、それぞれ、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸変異である。
【0029】
具体的には、H8L2抗体の重鎖定常領域のFcRn−結合部位におけるアミノ酸変異について、ヒト化H2L2抗体と比較して、254番目の位置のアミノ酸は、セリンからトレオニンに変異し、308番目の位置のアミノ酸は、バリンからプロリンに変異し、
434番目の位置のアミノ酸は、アスパラギンからアラニンに変異している。
【0030】
ヒト化H8L2抗体の重鎖をコードする核酸配列は、下記の通りである。
【化2】
重鎖可変領域をコードする核酸配列に線が引かれる。
【0031】
ヒト化H8L2抗体の軽鎖は、下記のアミノ酸配列のものである。
【化3】
H8L2抗体の軽鎖可変領域に下線が引かれる。
【0032】
ヒト化H8L2抗体の軽鎖をコードする核酸は、下記のヌクレオチド配列のものである。
【化4】
軽鎖可変領域をコードする核酸配列に線が引かれる。
【0033】
実施例2 組み換えのヒト化H8L2抗体のELISA実験
ヒト化H2L2抗体及び実施例1で調製したヒト化H8L2抗体を、以下に詳細に記載されるように、比較のためにELISA結合実験及び競合ELISA実験に付した。
【0034】
2.1 18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のELISA結合実験
具体的には、ELISA結合実験を下記の通り行った。
【0035】
工程a):抗体コーティング
ELISAプレートを0.25μg/ml(ウェル当たり100μl)の濃度のPD−1−his抗原で塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。
【0036】
工程b):ブロッキング
PBSバッファ中1%BSAを用いて、PD−1−his抗原で塗布したELISAプレートを37℃で2時間ブロッキングし、1%Tween−20を含む1×PBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた。
【0037】
工程c):一次抗体によるインキュベーション
18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体を、それぞれ2μg/mlから1:3ずつ段階希釈し、7つの勾配抗体溶液を得た。ブランクコントロールとしてのPBS溶液と共に、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のそれぞれの7つの勾配抗体溶液を、ブロッキングしたELISAプレートにそれぞれ添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0038】
工程d):二次抗体とのインキュベーション
ELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、二次抗体として、1:10000希釈のヤギ抗ヒトIgG−HRP(H+L)(ウェル当たり100μl)を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0039】
工程e)発色(developing)
ELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、再び穏やかに叩いて乾燥させた後、発色剤(developer)としての3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)をウェル当たり100μl添加し、5分間〜10分間室温でインキュベーションした。
【0040】
工程f):発色の終了
ウェル当たり50μlの2MのH
2SO
4溶液を添加して、発色を終了させた。
【0041】
工程g):読み(reading)
マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で各ウェル中の溶液の吸光度を測定した。
【0042】
図1は結果を示し、PD−1に結合するH8L2及びH2L2のEC
50値は、それぞれ0.04nM及び0.05nMであると算出される。
図1から分かるように、FcRN−結合部位における変異は、PD−1への抗体の結合に影響を及ぼさない。
【表2】
【0043】
2.2 PDL1と、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体との競合ELISA実験
具体的には、以下のようにして競合ELISA実験を行った。
【0044】
工程a):抗体コーティング
96ウェルELISAプレートを0.5μg/ml(ウェル当たり50μl)の濃度のPD−1−hIgGFc抗原で塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。
【0045】
工程b):ブロッキング
PBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、37℃で2時間、PBSバッファ中1%BSAで、96ウェルELISAプレートをブロッキングし、1%Tween−20を含有する1×PBSTバッファで3回洗浄した。
【0046】
工程c):一次抗体によるインキュベーション
18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体を、それぞれ6μg/mlから1:3ずつ段階希釈し、7つの勾配抗体溶液を得た。ブランクコントロールとしてのPBS溶液と共に、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のそれぞれの7つの勾配抗体溶液(ウェル当たり50μl)を、ブロッキングした96ウェルELISAプレートにそれぞれ添加し、室温で10分間インキュベーションした。
【0047】
工程d):リガンドとのインキュベーション
ウェル当たり50μlで、0.6μg/mlのPDL1−mIgG2aFc溶液を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0048】
工程e):二次抗体とのインキュベーション
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、二次抗体としての1:5000希釈のヤギ抗マウスIgG−HRP(H+L)(ウェル当たり50μl)を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0049】
工程f):発色
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、再び穏やかに叩いて乾燥させた後、発色剤としてのTMBをウェル当たり50μl添加し、5分間〜10分間室温でインキュベーションした。
【0050】
工程g):発色の終了
ウェル当たり50μlの2MのH
2SO
4溶液を添加して、発色を終了させた。
【0051】
工程h):読み
マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で各ウェル中の溶液の吸光度を測定した。
【0052】
図2は結果を示し、PD−L1の存在下でPD−1に競合的に結合するH8L2抗体及びH2L2抗体のEC
50値は、それぞれ0.474nM及び0.783nMであり、FcRN−結合部位における変異は、PD−L1の存在下で、PD−1に対する競合的な結合に影響を及ぼさないことを実証する。
【表3】
【0053】
2.3 PDL2と、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体との競合ELISA実験
具体的には、以下のようにして競合ELISA実験を行った。
【0054】
工程a):抗体コーティング
96ウェルELISAプレートを1.0μg/ml(ウェル当たり100μl)の濃度のPD−1−hIgGFc抗原で塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。
【0055】
工程b):ブロッキング
PBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、37℃で2時間、PBSバッファ中1%BSAで、96ウェルELISAプレートをブロッキングし、1%Tween−20を含有する1×PBSTバッファで4回洗浄した。
【0056】
工程c):一次抗体によるインキュベーション
18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体を、それぞれ20μg/mlから1:3ずつ段階希釈し、7つの勾配抗体溶液を得た。ブランクコントロールとしてPBS溶液と共に、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のそれぞれの7つの勾配抗体溶液(ウェル当たり50μl)を、ブロッキングした96ウェルELISAプレートにそれぞれ添加し、室温で10分間インキュベーションした。
【0057】
工程d):リガンドとのインキュベーション
1.0μg/mlのPDL2−his tag溶液をウェル当たり50μl添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0058】
工程e):二次抗体とのインキュベーション
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで5回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、1:750希釈(ウェル当たり50μl)で、二次抗体としてのHRP−結合モノクローナルマウス抗his tagを添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0059】
工程f):発色
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで6回洗浄し、再び穏やかに叩いて乾燥させた後、発色剤としてのTMBをウェル当たり100μl添加し、30分間室温でインキュベーションした。
【0060】
工程g):発色の終了
ウェル当たり50μlの2MのH
2SO
4溶液を添加して、発色を終了させた。
【0061】
工程h):読み
マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で各ウェル中の溶液の吸光度を測定した。
【0062】
図3は結果を示し、PDL2の存在下でPD−1に競合的に結合するH8L2抗体及びH2L2抗体のEC
50値は、それぞれ1.83nM及び1.58nMであり、FcRN−結合部位における変異は、PDL2の存在下で、PD−1に対する競合的な結合に影響を及ぼさないことを実証する。
【表4】
【0063】
実施例3 Fortebio分子間相互作用機器を用いたH8L2抗体及びH2L2抗体の速度論的特性パラメータの決定
【0064】
比較のために、Fortebio分子間相互作用機器を用いて、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の速度論的特性パラメータを決定し、詳細を下記に記載する。
【0065】
SAセンサーの表面にビオチン標識PD−1抗原を固定化した。PBSTバッファで平衡化した後、PBSTを用いて1:3で段階希釈したH8L2抗体(それぞれ200nM、66.67nM、22.22nM、7.41nM、2.47nM、0.82nM、0.27nM、及び0nM)をビオチン標識PD−1抗原に結合するためのSAセンサーに適用し、その後、解離(disassociation)のためにPBSTをSAセンサーに適用した。H2L2抗体についてのアッセイは、H8L2抗体と同じである。H8L2抗体及びH2L2抗体の速度論的特性パラメータの結果を
図4に示し、FcRN−結合部位における変異は抗体の速度論的特性パラメータに影響を及ぼさないことが理解できる。
【0066】
実施例4 混合リンパ反応下のPD1に対する抗体の生物学的活性のアッセイ
比較のために、混合リンパ反応(MLR)により、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の刺激下で、IL−2分泌及びIFNγ分泌についてTリンパ球を分析し、以下に詳細に記載される。
【0067】
MLRについては、DC細胞の抗原提示機能下で、T細胞がIL−2及びIFNγを分泌するように、異なるヒト供給源からのT細胞(TC)及び樹状細胞(DC)を混合した。具体的には、サイトカインGM−CSF及びIL−4の誘導下で血中の単球が未成熟DC細胞に分化し、その後、未成熟DC細胞が腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)の刺激を介して成熟するように誘導された。続いて、成熟DC細胞と同種異系(allogeneic)TC細胞を混合し、5日間培養した後、細胞上清中の分泌されたIL−2及びIFNγを決定した。この実施例では、TC細胞(ウェル当たり1×10
5)及び成熟DC細胞(ウェル当たり1×10
4)を96ウェルプレート中で混合し、その後個々の抗体の存在下で、8つの勾配濃度(即ち、10μM〜0.09765625nM)で5日間培養し、その後細胞上清中のIL−2の量をIL−2アッセイキットで検出した。同様に、TC細胞(ウェル当たり1×10
5)及び成熟DC細胞(ウェル当たり1×10
4)を96ウェルプレート中で混合し、その後個々の抗体の存在下で、5つの勾配濃度(即ち、300nM〜0.1nM)で5日間培養し、その後、細胞上清中のIFNγの量をIFNγアッセイキットで検出した。
【0068】
図5は、それぞれH8L2抗体及びH2L2抗体の刺激下でT細胞によって分泌されたIL−2の含有量を示し、H8L2抗体及びH2L2抗体は、T細胞を刺激し、効果的にIL−2を分泌することができることが分かり、FcRN−結合部位における変異が抗体の刺激下で、T細胞によるIL−2分泌に影響を及ぼさないことを実証する。
【0069】
図6は、それぞれH8L2抗体及びH2L2抗体の刺激下でT細胞によって分泌されたIFNγの含有量を示し、H8L2抗体及びH2L2抗体は、T細胞を刺激し、効果的にIFNγを分泌することができることが分かり、FcRN−結合部位における変異が抗体の刺激下で、T細胞によるIFNγ分泌に影響を及ぼさないことを実証する。
図6中の「IgG」は、コントロールとしてのアイソタイプ抗体である。
【0070】
実施例5 カニクイザル
(Macaca fascicularis)の血清濃度研究
カニクイザル
(Macaca fascicularis)における、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の血清濃度を比較のためにそれぞれ検出し、以下に詳細に記載する。
【0071】
4頭のカニクイザル
(Macaca fascicularis)について、1群当たり2頭の動物で、それらの体重として2つの群に無作為に分け、それぞれH8L2群とH2L2群と名付けた。それぞれ投与前、及び投与後5分間、5時間、24時間、72時間、168時間、及び240時間で、全血をサンプリングして、1mg/kgの用量で各群をその個々の抗体で静脈内注射により投与した。血清を全血から分離し、H8L2抗体及びH2L2抗体の含有量をそれぞれELISA法によって測定し、
図7及び下記の表で見ることができる。
【表5】
【0072】
実施例6 カニクイザル
(Macaca fascicularis)の薬物動態研究
カニクイザル
(Macaca fascicularis)における、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の薬物動態を比較のために試験し、詳細を下記に記載する。
【0073】
24頭のカニクイザル
(Macaca fascicularis)について、1群当たり6頭の動物(各群において雄と雌半分)で、それらの体重として4つの群に無作為に分け、それぞれH2L2群(10mg/kg)と、異なる投与量における3つのH8L2群(投与量が低い1mg/kg、中程度の3mg/kg、及び高い10mg/kg)と名付けた。静脈内注射により、各群にその個々の抗体を投与し、それぞれ投与前、及び投与後5分間、30分間、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、144時間、及び216時間で全血をサンプリングした。全血から血清を分離し、PhoenixWinNonlin(Pharsight)6.4によって計算された関連する薬物動態パラメータを用いて、H8L2抗体及びH2L2抗体の含有量をそれぞれ、ELISA法によって測定した。
【0074】
単回投与前には、全カニクイザルの個体におけるH2L2抗体及びH8L2抗体の血清濃度は、定量の下限値よりも低い。投与後、3つのH8L2群のカニクイザルにおけるH8L2抗体の血清濃度は、投与量につれて上昇し、低投与量群(即ち、1mg/kg)、中投与量群(即ち、3mg/kg)、及び高投与量群(即ち、10mg/kg)の有効平均半減期は、それぞれ、215.72時間(
図8を参照)、288.78時間(
図9を参照)、及び268.92時間(
図10を参照)である。更に、野生型H2L2群の有効平均半減期(10mg/kgの投与量)は224時間である(
図11を参照)。10mg/kgの同じ投与量下で、H8L2群は野生型H2L2群よりも長い有効平均半減期を示すことが見られる(
図12を参照)。
【0075】
実施例7 ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の皮下移植腫瘍MiXenoモデルにおけるH8L2抗体の抗腫瘍効果
NSGマウスにおいてヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株を用いて樹立された皮下移植腫瘍MiXenoモデルを使用することによって、実施例1で調製したH8L2抗体の抗腫瘍効果を調査し、詳細を下記に記載する。
【0076】
非肥満性糖尿病(NOD)、Prkdc
scid、及びIL2rg
null欠失又は変異を特徴とするNSGマウスは、最も高い免疫不全を有すので、ヒト由来細胞及び組織に対して拒絶することなく、ヒト由来細胞移植に最も適したツールとなる。上記に基づき、本発明者らは、NSGマウスへのヒト末梢血単核細胞(PBMC)の養子移植によって樹立された移植片対宿主病(GVHD)モデルによって、in vivoでのH8L2抗体の薬学的効果を評価した。また、本発明者らは、NSGマウスを用いて皮下移植腫瘍モデル(即ち、MiXenoモデル)を樹立し、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の皮下移植腫瘍MiXenoモデルにおけるH8L2抗体の抗腫瘍効果を更に見出した。
【0077】
具体的には、0日目(Day0)にマウス当たり5×10
6細胞の用量で、各40頭のNCGマウス(32頭の実験用マウス及び予備用に8頭のマウス)の背面右側に、皮下注射によってHCC827細胞を接種した。接種後6日目(Day6)に、66mm
3までの腫瘍の大きさを有する32頭のNCGマウスを1群当たり8頭のマウスで4つの群に分け、そして各マウスを0.1mlのPBMC(PBSバッファ中で懸濁)の尾静脈内移植に付した。表1に示されるように、4つの群(即ち、32頭のマウス)において、H8L2 5mg/kg処置群(群1)、H8L2 10mg/kg処置群(群2)、ポジティブコントロールとしてのOpdivo 5mg/kg処置群(群3)、及びコントロールとしてのアイソタイプ抗体(ヒトIgG4)5mg/kg群(群4)をそれぞれ接種後6日目、9日目、13日目、16日目、19日目、及び22日目に、全部で6回の投与によって、尾静脈を介して皮下投与した。相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)に従って有効性を評価し、マウスの体重変化及び死亡によって、安全性を評価した。
【0079】
表2を参照すると、コントロールとしてのアイソタイプ抗体(ヒトIgG4)5mg/kg群に対して、H8L2 10mg/kg処置群は、腫瘍細胞の接種後9日目及び13日目に、腫瘍増殖の有意な抑制を示し、相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)は、それぞれ、30%(p=0.007)及び30%(p=0.039)であり、H8L2 5mg/kg処置群も、腫瘍細胞の接種後9日目及び13日目に、腫瘍増殖の有意な抑制を示し、相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)は、それぞれ、18%(p=0.049)及び25%(p=0.041)であるが、一方、Opdivo 5mg/kg処置群は、腫瘍細胞の接種後9日目及び13日目に、腫瘍増殖の有意な抑制を示さず、相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)は、それぞれ、17%(p=0.084)及び23%(p=0.073)である。結果は、H8L2抗体が、ポジティブコントロールとして使用されるOpdivo群よりも更に良好な有効性で、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の腫瘍MiXenoモデルの腫瘍増殖を有意に抑制することができることを実証する。更に、H8L2 5mg/kg処置群及びH8L2 10mg/kg処置群は、最初の投与から16日間以内に(即ち、接種後6日目から22日目)に、Opdivo 5mg/kg処置群と同様の薬剤関連毒性(重度の体重減少又は死亡など)を発症せず、H8L2抗体の処置に対する良好な寛容性を示す。
【0081】
H8L2抗体(即ち、PD−1に対するモノクローナル抗体)は、それぞれ10mg/kg及び5mg/kgの投与量で注射した場合、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の腫瘍MiXenoモデルにおいて腫瘍増殖の有意な抑制を示し、10mg/kgの投与量でH8L2抗体が腫瘍増殖の更に有意な抑制を示し、ポジティブコントロールとしてのOpdivo 5mg/kg処置群よりも良好な有効性を示し、10mg/kg及び5mg/kgの両方の用量下で担癌マウスにおける良好な寛容性を有する。
【0082】
実施例8 MC38マウス結腸直腸癌細胞株のHuGEMMモデルにおけるH8L2抗体の抗腫瘍効果
結腸直腸癌の処置に対する実施例1で調製したH8L2抗体の有効性は、PD−1 HuGEMM MC38保有マウスにおいて臨床前に検証され、下記に詳細に記載される。
【0083】
MC38細胞株は、C57BL/6マウスに由来するマウス結腸直腸癌細胞株である。PD−1 HuGEMMモデルは、C57BL/6マウス中のPD−L1タンパク質分子と相互作用するマウスPD−1タンパク質の幾つかのフラグメントを対応するヒト由来タンパク質で置き換えることによって遺伝子操作されたモデル化マウスである。
【0084】
マウス1頭当たり1×10
6細胞の用量で、皮下注射により各対象マウスの右側にMC38細胞を接種した。134mm
3までの腫瘍の大きさを有するマウスを腫瘍の大きさとして4つの群に無作為に分け、1群当たり8頭のマウス及びケージ当たり4頭のマウスとし、群1〜群4と名付け、それぞれ、H8L2 5mg/kg処置群、H8L2 10mg/kg処置群、ポジティブコントロールとしてのKeytruda 10mg/kg処置群、及びコントロールとしてのアイソタイプ抗体(ヒトIgG4)5mg/kg群である。各群に対応する抗体をマウスの尾静脈を介して静脈内投与し、合計6回投与した(表3を参照)。
【表8】
【0085】
群分け後13日目に、群1のマウスは、1933.67mm
3までの平均腫瘍の大きさを有し、群2(Keytruda 10mg/kg処置群、高用量)、群3(H8L2 5mg/kg処置群、低用量)、及び群4(H8L2 10mg/kg処置群、高用量)は、それぞれ85%、93%、及び90%の腫瘍増殖抑制(TGI)(%)を有し(表4を参照)、4つの群は、それぞれ8.72%、0.94%、−2.07%、及び1.68%の体重変化率を有する。各マウスは、有意な予想外の体重減少又は死亡を示さない。群2〜群4は、群1と比較して抑制効果において統計的に有意な差を示し、それぞれP<0.05である。
【表9】
【0086】
群2〜群4では、T−C値(マウスの腫瘍の大きさが1000mm
3までに達したとき)は、それぞれ10日、14日、及び14日超(>14日)であった。更に、群2〜群4については、55日目に実験が完了したときに、1ヵ月以上も腫瘍が完全に退行したマウスが、それぞれ3頭、5頭、及び5頭残った(表5を参照)。
【表10】
【0087】
H8L2抗体(5mg/kg及び10mg/kgのそれぞれの用量において)は、PD−1 HuGEMM MC38保有マウスにおいて、統計的に有意な抗腫瘍効果を示し、Keytruda 10mg/kg処置群と比較して腫瘍の完全な退行においてより効果的である。