(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
[マイクロニードル・シートの構造]
図1〜
図3を参照しながら、実施形態に係るマイクロニードル・シート10の構造について説明する。
図1は実施形態に係るマイクロニードル・シート10の例を示す平面図である。
図2はマイクロニードル・シート10の二つの状態を示す図である。
図3はマイクロニードル12の例を示す図である。
【0011】
マイクロニードル・シート10は、生体内に任意の活性成分(例えば薬剤)を経皮投与するための器具である。
図1の例ではマイクロニードル・シート10は帯状(細長い矩形)を呈する。マイクロニードル・シート10は、薄板状のシート本体11と、このシート本体11に形成された1以上のマイクロニードル12とを有する。本実施形態では、長辺に沿った方向をマイクロニードル・シート10(またはシート本体11)の長手方向といい、短辺に沿った方向(長手方向と直交する方向)をマイクロニードル・シート10(またはシート本体11)の幅方向という。また、長手方向および幅方向の双方と直交する方向をマイクロニードル・シート10(またはシート本体11)の厚さ方向という。
【0012】
個々のマイクロニードル12は、マイクロニードル・シート10の使用時に生体の皮膚に刺さる部分である。例えば、複数のマイクロニードル12は、シート本体11の長手方向および幅方向のそれぞれにおいて2以上のマイクロニードル12が整列するように形成されてもよい。
【0013】
マイクロニードル・シート10が提供される時点(すなわち、使用前の時点)では、マイクロニードル・シート10は曲げられていない真っ直ぐな状態である。以下ではこの状態を「第1状態」ともいう。一方、マイクロニードル・シート10が使用される際には、マイクロニードル・シート10は、マイクロニードル12の先端部の向きと交差する方向に曲面が形成されるようにシート本体11の少なくとも一部が曲げられた状態になる。以下ではこの状態を「第2状態」ともいう。例えば、マイクロニードル12の先端部の向きと直交またはほぼ直交する方向に沿って曲面が形成されるようにシート本体11が曲げられる。
図2に示すように、マイクロニードル・シート10は第1状態S1から第2状態S2に移ることが可能であり、第2状態S2から第1状態S1に戻ることも可能である。
図2に示す第2状態S2では、マイクロニードル12の先端部の向きと直交する方向に沿って曲面が形成されるようにシート本体11が曲げられている。
【0014】
「マイクロニードルの先端部」とは、マイクロニードルの先端側の領域である。より具体的には、「マイクロニードルの先端部」とは、マイクロニードルの頂点(理論的には穿刺時に最初に皮膚に接する部分)と、その頂点に近いマイクロニードルの部分とを含む領域である。
【0015】
第1状態S1では、各マイクロニードル12は、シート本体11の主面11aから立ち上がっておらず、主面11aに沿って寝た状態にある。言い換えると、複数のマイクロニードル12のそれぞれの先端部は、長手方向におけるシート本体11の一端(
図1では左方向)を向く。あるいは、各マイクロニードル12とシート本体11(主面11a)との成す角度が0°またはほぼ0°であると言い換えることもできる。なお、一部のマイクロニードル12の向きが他のマイクロニードル12の向きと異なってもよい。
【0016】
第2状態S2は、マイクロニードル12の先端部が向く方向へと進むシート本体11が鋭角に曲げられることで生ずる。この第2状態S2では、シート本体11の曲げられた部分に位置する少なくとも一つのマイクロニードル12が主面11aから立ち上がる。マイクロニードル・シート10の第1部分に位置するマイクロニードル12と主面11aとの成す角度は、その第1部分が曲げられることで変化(増加)する。具体的には、その角度は0°またはほぼ0°から、より大きな値(例えば、10〜90°の間の任意の値)に増加する。立ち上がったマイクロニードル12がそのまま皮膚へと進められると、そのマイクロニードル12は皮膚に刺さることができる。
【0017】
曲げられている第1部分が元の状態(すなわち、真っ直ぐな状態)に戻ると、第1部分に位置するマイクロニードル12と主面11aとの成す角度は変化(減少)する。例えば、その角度は再び0°またはほぼ0°になる。ただし、当然ながら、皮膚に刺さっているマイクロニードル12は、該マイクロニードル12が位置するシート本体11の箇所が真っ直ぐになっても、主面11aから立ち上がった状態である。
【0018】
本実施形態ではマイクロニードル12の形状は三角形であるが、その形状は何ら限定されない。
図1の例では、マイクロニードル12の大きさおよび向きが均一であるが、その大きさおよび向きの少なくとも一方が均一でなくてもよい。マイクロニードル・シート10におけるマイクロニードル12の分布は均一でもよいし均一でなくてもよい。例えば、マイクロニードル・シート10を長手方向に沿って見た場合に、1以上のマイクロニードル12を含む領域と、マイクロニードル12を含まない領域とが交互に存在するように、シート本体11に複数のマイクロニードル12が形成されてもよい。
【0019】
マイクロニードル・シート10の寸法は限定されない。具体的には、厚さの下限は5μm、10μm、20μm、30μm、40μm、または50μmでもよく、厚さの上限は1000μm、500μm、300μm、200μm、150μm、100μm、90μm、80μm、70μm、60μm、または50μmでもよい。この厚さは、シート本体11の厚さでもあり、マイクロニードル12の厚さでもある。したがって、マイクロニードル・シート10の厚さの下限は、皮膚を穿刺するマイクロニードル12の強度を考慮して定められてもよい。また、その厚さの上限はシート本体11の屈曲性、マイクロニードル12の穿刺特性などを考慮して定められてもよい。マイクロニードル・シート10の長さの下限は0.1cmでも1cmでもよく、長さの上限は50cmでも20cmでもよい。マイクロニードル・シート10の幅の下限は0.1cmでも1cmでもよく、幅の上限は60cmでも30cmでもよい。マイクロニードル・シート10の長さおよび幅の下限は活性成分の投与量を考慮して定められてもよい。その長さおよび幅の上限は生体の大きさを考慮して定められてもよい。
【0020】
図3に示すように、マイクロニードル12は穿刺のために尖鋭である。マイクロニードル12の先端部は第1外縁121および第2外縁122で構成される。第1外縁121は、頂点123から根元124に向かって延びる外縁である。第2外縁は、頂点123を挟んで第1外縁121の反対側に位置し、かつ頂点123から根元124に向かって延びる外縁である。本実施形態ではマイクロニードル12は三角形状であり、したがって、第1外縁121および第2外縁122によりマイクロニードル12の全体が構成される。しかし、上述したようにマイクロニードルの形状は限定されないので、マイクロニードルは、第1外縁、第2外縁、および1以上の更なる外縁で構成されてもよい。したがって、第1外縁および第2外縁の少なくとも一方がマイクロニードルの根元(
図3では根元124)まで至らない場合があり得る。
【0021】
尖鋭なマイクロニードルとは、マイクロニードルの先端部が許容範囲内で丸まっている場合も含む概念である。例えば、マイクロニードル12の先端部の曲率半径Rが30μm以下であれば、そのマイクロニードル12は尖鋭であるということができる。したがって、尖鋭とは、マイクロニードル12の先端部の曲率半径Rが30μm以下であることを意味してもよい。曲率半径Rが小さいほどマイクロニードル12はより尖鋭である。曲率半径は0でもよい。
図3は、曲率半径Rが0であるマイクロニードル12と、曲率半径Rが0より大きいが尖鋭であるマイクロニードル12とを示す。最終的に得られるマイクロニードル12の曲率半径Rは、マイクロニードル12を形成する段階で生ずる誤差であってもよいし、マイクロニードル・シート10の設計段階から意図的に設定された値であってもよい。
【0022】
図3に示すマイクロニードル12の先端部の角度(先端角度)αは10°以上180°未満であってもよい。先端角度αの下限は例えば10°、20°、25°、または30°でもよく、先端角度αの上限は例えば150°、120°、90°、80°、70°、60°、50°、または40°でもよい。第1外縁および第2外縁が曲線状である場合には、先端角度αは、頂点付近の第1外縁の接線と第2外縁の接線との成す角度で定義されてもよい。
【0023】
マイクロニードル12の高さ(長さ)の下限は10μm、100μm、または200μmでもよく、その高さの上限は10000μmでも1000μmでも500μmでもよい。マイクロニードル12の密度の下限は0.05本/cm
2でも1本/cm
2でもよく、その密度の上限は10000本/cm
2でも5000本/cm
2でもよい。密度の下限は、1mgの活性成分を投与し得るマイクロニードル12の本数および面積から換算されてもよい。密度の上限は、マイクロニードル12の形状を考慮した上での限界値で設定されてもよい。
【0024】
マイクロニードル12はシート(シート本体11)に切れ込みを入れることで形成される。したがって、個々のマイクロニードル12の厚さ(厚さ方向に沿った長さ)はシート本体11の厚さと同じである。
【0025】
皮膚に適用する活性成分の準備方法は限定されない。例えば、マイクロニードル・シート10自体に(より具体的には、マイクロニードル12自体に)予め活性成分を内包させておいてもよい。あるいは、マイクロニードル・シート10自体に予め活性成分をコーティングしておいてもよい。あるいは、マイクロニードル12を皮膚に穿刺する前にその皮膚上に活性成分を塗布しておいてもよい。あるいは、マイクロニードル12を皮膚に穿刺した後にその皮膚上に活性成分を塗布してもよい。マイクロニードル・シート10に予め活性成分をコーティングするのであれば、所定の粘度のコーティング液をなるべく均一な厚さでシート全体に塗布するのが好ましい。マイクロニードル12の先端部がシート本体11の一端を向いているので(マイクロニードル12が主面11aに沿って寝ているので)、その均一な塗布を容易に為し得る。コーティングはスクリーン印刷の原理を用いて実施してもよいし、他の方法により実施してもよい。マイクロニードル・シート10自体に活性成分を内包させることは、例えば、生分解性のシートまたは水溶性高分子を用いて作製されるシートを用いる場合に可能である。
【0026】
マイクロニードル・シート10は、主面11aが剥離ライナーにより保護された形態で提供されてもよい。剥離ライナーの材料の例としてPET等のプラスチックが挙げられる。しかし、その材料は何ら限定されるものでなく、例えば金属や他の種類の樹脂などが用いられてもよい。マイクロニードル・シート10が剥離ライナーで保護される場合には、マイクロニードル・シート10はテープや粘着剤などにより剥離ライナーの片面に固定または仮着される。
【0027】
各マイクロニードル12は、曲げられるまではシート本体11の主面11aに沿って寝た状態にある。したがって、マイクロニードル・シート10を実際に使用する前の段階で、マイクロニードル12が他の物(例えばユーザの皮膚や衣服など)に当たったり引っ掛かったりする心配がない。その結果、マイクロニードル12の取扱時の安全性を確保することができる。例えば、ユーザはマイクロニードル・シート10の保管、搬送、および、使用直前の準備を安全に行うことができる。
【0028】
[マイクロニードル・シートの製造方法]
図4〜
図6を参照しながら、実施形態に係るマイクロニードル・シートの製造方法について説明する。
図4はその製造方法の例を示すフローチャートである。
図5はその製造方法で用いられる刃型の例を示す図である。
図6はその製造方法の例を示す図である。
【0029】
マイクロニードル・シート10は、シートに切れ込みを入れてマイクロニードル12を形成することで得ることができる。
図4はその手順の一例を示す。ここで、「マイクロニードルを形成する」とは、マイクロニードルの先端部を構成する外縁を少なくとも形成することをいう。
【0030】
ステップS11では、第1面および第2面を有するシートを用意する(用意工程)。このシートには、マイクロニードル12は未だ形成されていない。第1面とはシートの一方の面(長手方向および幅方向の双方に広がる面)のことをいい、第2面とは第1面の反対側の面のことをいう。シートの第1面および第2面のいずれか一方がシート本体11の主面11aになる。
【0031】
シートの材料は限定されない。例えば、その材料は、樹脂、水溶性高分子、生分解性素材、生体吸収性素材、金属、またはセラミックのいずれかであってもよい。材料のより具体的な例として、プルラン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、でんぷん、サクラン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ナイロン、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、およびポリグルタミン酸を挙げることができる。あるいは、シートはこれらの材料を組み合わせて作製されてもよい。
【0032】
上記の通り、マイクロニードル・シート10は、シートに切れ込みを入れてマイクロニードル12を形成することで得られる。したがって、シートの材料は、マイクロニードル・シート10およびマイクロニードル12の材料でもある。「シートの材料」とは、製作者がマイクロニードル・シート10およびマイクロニードル12を作製するために意図的に用いる物質のことである。シートまたはマイクロニードル・シート10の製造過程において、材料として選択されなかった物質(例えば、微量の不純物)が意図せず混入したり、そのような意図しない物質を完全に除去しきれなかったりすることがあり得る。マイクロニードル・シート10は、製作者が意図する材料に加えて、その者が意図しない物質も最終的に含んでもよい。
【0033】
ステップS12では、シートの第1面から第2面までの範囲に第1の切れ込みを入れることで、マイクロニードル12の先端部を構成する第1外縁121を形成する(第1切込工程)。すなわち、シートの第1面から第2面に亘って第1の切れ込みを入れることで第1外縁121を形成する。「第1面から第2面までの範囲に第1の切れ込みを入れる」こと、すなわち、「第1面から第2面に亘って第1の切れ込みを入れる」ことは、切れ込みを入れる方向に依存しないことに留意されたい。したがって、第1面から第2面に向かって第1の切れ込みが入れられてもよいし、第2面から第1面に向かって第1の切れ込みが入れられてもよい。第1の切れ込みは第1面から第2面までの範囲に形成されるので、第1の切れ込みはシートを厚さ方向に貫通する。したがって、シートには、第1の切れ込みによる空隙が生ずる。
【0034】
図3を参照しながら上述したように、マイクロニードル12の先端部は、マイクロニードル12の頂点123を挟んで向かい合う第1外縁121および第2外縁122により構成される。ステップS12では、第1外縁121は形成されるが第2外縁122は形成されない。したがって、この段階ではマイクロニードル12の先端部は未だ形成されない。すなわち、ステップS12(第1切込工程)は、マイクロニードル12の先端部を形成することなく第1外縁121を形成する工程であるということができる。
【0035】
ステップS13では、シートの第1面から第2面までの範囲に第2の切れ込みを入れることで、マイクロニードル12の先端部を構成する第2外縁122を形成する(第2切込工程)。すなわち、シートの第1面から第2面に亘って第2の切れ込みを入れることで第2外縁122を形成する。「第1面から第2面までの範囲に第2の切れ込みを入れる」こと、すなわち、「第1面から第2面に亘って第2の切れ込みを入れる」ことも、切れ込みを入れる方向に依存しないことに留意されたい。したがって、第1面から第2面に向かって第2の切れ込みが入れられてもよいし、第2面から第1面に向かって第2の切れ込みが入れられてもよい。第2の切れ込みは、第1の切れ込みと同様にシートを厚さ方向に貫通し、かつ第1の切れ込みとつながる。
【0036】
このステップS13はステップS12の後に行われる。すなわち、第1外縁121が形成された後に第2外縁122が形成される。この段階で第1外縁121および第2外縁122の双方が形成され、その結果、マイクロニードル12の先端部が形成される。マイクロニードル12の先端部の周囲には、第1および第2の切れ込みによる空隙が生ずる。ここで、「マイクロニードルの先端部を形成する」とは、該先端部に対応するマイクロニードルの外縁を形成することをいう。
【0037】
ステップS14では、シートを裁断することで、1枚のシートから複数のマイクロニードル・シート10を生成する(裁断工程)。例えば、
図1に示す帯状のマイクロニードル・シート10は、ステップS11〜S13で処理されたシートを機械方向および幅方向に沿って裁断することで得られてもよい。ここで、機械方向とは、マイクロニードル・シート10を製造する際のシートの送り方向である。幅方向とは、機械方向およびシートの厚さ方向の双方と直交する方向である。
【0038】
上述したように、マイクロニードルは、第1外縁および第2外縁の双方と異なる更なる外縁で構成されてもよい。したがって、本実施形態に係るマイクロニードル・シートの製造方法は、ステップS11〜S14に加えて、該更なる外縁を形成するための工程を含んでもよい。言い換えると、マイクロニードルの全体は、ステップS12,S13の2段階で形成されてもよいし、これら2工程と更なる1以上の工程とにより形成されてもよい。
【0039】
ステップS14(裁断工程)は必須ではない。例えば、ステップS11(用意工程)において、完成時のマイクロニードル・シート10の形状および寸法を有するシートを用意した場合には、ステップS14を省略することができる。
【0040】
実施形態に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、マイクロニードル12を予めシート本体11の主面11aから立ち上げる必要がない。したがって、マイクロニードル・シート10を容易かつ安価に製造することができる。
【0041】
シートに2段階で切れ込みを入れるために2種類の刃型が用いられてもよい。すなわち、第1の切れ込みを入れるための刃型と、第2の切れ込みを入れるための刃型とが用いられてもよい。刃型とは、少なくとも一つの刃を有する物品、部品、または装置のことをいう。
図5はその2種類の刃型の例である第1刃型21および第2刃型22を示す。
図5の例では第1刃211および第2刃221の断面形状はほぼ三角形であるが、刃の形状はこれに限定されず、任意の方針で設計されてよい。
【0042】
第1刃型21は、機械方向MDに対して予め定められた角度だけ傾くように配置された1以上の直線状の第1刃211を備える。第2刃型22は、1以上の第1刃211に対応する位置に配置された1以上の直線状の第2刃221を備える。第1刃型21は1以上の第1刃211の集合であり、第2刃型22は1以上の第2刃221の集合であるともいえる。第2刃221の傾斜方向は第1刃211の傾斜方向とは逆である。例えば、機械方向MDに対する第1刃211の傾斜角度が+θであれば、機械方向MDに対する第2刃221の傾斜角度は−θであってもよい。ここで、刃の傾斜方向とは、機械方向に対して刃先の延び方向が傾いている状態での該延び方向のことをいう。刃の傾斜角度とは、刃先の延び方向と機械方向との成す角度である。
【0043】
刃はシートを貫通する必要があるので、刃の高さ(根元から刃先までの長さ)はシートの厚さを考慮して設定されてもよい。例えば、刃の高さはシートの厚さ以上でもよい。
【0044】
刃を構成する材料は限定されない。例えば、錆びにくく、かつ活性成分に影響を与えないステンレス製の刃が用いられてもよい。
【0045】
図6は、第1刃型21および第2刃型22を用いるマイクロニードル・シート10の製造方法の例を示す。まず、シート1を用意し(ステップS11)、続いて、第1刃型21を用いてシート1に第1の切れ込み31を入れることで第1外縁121を形成する(ステップS12)。この段階では、第1刃211に対応する直線状の第1の切れ込み31がシート1に形成されるだけであり、したがって、マイクロニードル12の先端部は形成されない。続いて、第2刃型22を用いてシート1に第2の切れ込み32を入れることで第2外縁122を形成する(ステップS13)。この段階で初めてマイクロニードル12の先端部が形成される。その後、必要に応じてシート1を裁断することでマイクロニードル・シート10を得る(ステップS14)。
【0046】
図6に示すように、ステップS13(第2切込工程)では、第2の切れ込み32が第1の切れ込み31と交差するように第2の切れ込み32を入れてもよい。「第2の切れ込みが第1の切れ込みと交差する」とは、第2の切れ込みが第1の切れ込みの途中の部分を横切るように形成されることをいう。この場合には、第1の切れ込み31および第2の切れ込み32により、マイクロニードル・シート10のシート本体11には、第1外縁121および第2外縁122が形成されるとともに、マイクロニードル12の先端部の付近にX字状の切れ込み33が形成される。第1の切れ込み31と交差するように第2の切れ込み32を入れることで、先端部が鋭利なマイクロニードル12を確実に形成することができる。例えば、マイクロニードル12の先端角度を小さく設定した場合にも尖鋭なマイクロニードル12を確実に形成できる。
【0047】
X字状の切れ込み33はマイクロニードル・シート10の必須の構成要素ではない。一つのマイクロニードル・シート10において、先端部付近にX字状の切れ込み33が形成されたマイクロニードル12と、先端部付近にX字状の切れ込み33が存在しないマイクロニードル12とが混在してもよい。
【0048】
図6の例では、第1刃型21を用いて第1の切れ込み31を入れ、第2刃型22を用いて第2の切れ込み32を入れる。しかし、刃型と切れ込みとの間の「第1」「第2」の関係は便宜的なものであることに留意されたい。したがって、第2刃型22を用いて第1の切れ込み31を入れ、第1刃型21を用いて第2の切れ込み32を入れてもよい。
【0049】
[変形例]
上述したように、マイクロニードルの形状は限定されない。例えば、マイクロニードルは
図7に示すような形状を有してもよい。
図7は4種類の形状を示し、それぞれの種類について、X字状の切れ込み33が形成される場合と、その切れ込みが形成されない場合とを示す。マイクロニードル12Aの形状は三角形に近いが、第1外縁121Aおよび第2外縁122Aはマイクロニードル12Aの内側に向かって凸である弧状を呈する。マイクロニードル12Bの形状も三角形に近いが、第1外縁121Bおよび第2外縁122Bは、マイクロニードル12Bの外側に向かって凸である弧状を呈する。マイクロニードル12Cは、矩形の根元と三角形の先端部とを組み合わせたような形状を呈する。先端部を構成する第1外縁121Cおよび第2外縁122Cは直線状である。マイクロニードル12Dは、矩形の根元と菱形状の先端部とを組み合わせたような形状を呈する。菱形形状の先端側を構成する第1外縁121Dおよび第2外縁122Dは直線状である。
図3および
図7の例ではマイクロニードルの形状が線対称であるが、その形状は線対称でなくてもよい。
【0050】
本実施形態ではマイクロニードル・シート10が帯状である。しかし、マイクロニードル・シートの形状は限定されず、例えば円または楕円でもよいし、八角形などの他の多角形でもよいし、より複雑な形状でもよい。
【0051】
図6に示す例では、第1の切れ込みを入れる刃型と第2の切れ込みを入れる刃型とが別々であるが、一つの刃型で第1および第2の切れ込みを入れてもよい。例えば、唯一の刃型で第1の切れ込みを入れた後に、マイクロニードルの先端角度の分だけシートを回転させる。そして、回転後のシートにその刃型で第2の切れ込みを入れることで、マイクロニードルの先端部を形成することができる。
【0052】
本実施形態では第1の切れ込みおよび第2の切れ込みを入れるために刃型を用いるが、これらの切れ込みを入れるための物品、部品、または装置の構成は限定されない。例えば、刃型以外のカッターが用いられてもよいし、レーザ光が用いられてもよい。
【0053】
本実施形態では、個々のマイクロニードル12は、シート本体11が真っ直ぐな状態では寝た状態であり、シート本体11が曲げられることで、曲げられた部分にあるマイクロニードル12が初めて立ち上がる。すなわち、本実施形態に係る製造方法により形成されたマイクロニードル12は、マイクロニードル・シート10が提供される時点(すなわち、使用前の時点)では寝た状態である。しかし、本実施形態に係る製造方法で形成されたマイクロニードルは、その製造工程において主面から立ち上げられてもよい。すなわち、マイクロニードル・シートが提供される時点でマイクロニードルが既に主面から立ちあがっていてもよい。
【0054】
[効果]
以上説明したように、本発明の一側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法は、少なくとも一つのマイクロニードルを有するマイクロニードル・シートの製造方法であって、第1面および第2面を有するシートを用意する用意工程と、シートの第1面から第2面までの範囲に第1の切れ込みを入れることで、マイクロニードルの先端部を構成する第1外縁を形成する第1切込工程と、第1外縁を形成した後に、シートの第1面から第2面までの範囲に第2の切れ込みを入れることで、マイクロニードルの先端部を構成する第2外縁を形成し、これによりマイクロニードルの先端部を形成する第2切込工程とを含む。
【0055】
このような側面においては、シートに2段階で切れ込みを入れることで、マイクロニードルの先端部を構成する二つの外縁(第1外縁および第2外縁)が一度に形成されるのではなく別々に形成される。この手法により、マイクロニードルの先端部を鋭利にすることができる。
【0056】
本発明者らは、マイクロニードルの形成について鋭意検討した結果、マイクロニードルの先端部を構成する二つの外縁を一度にではなく別々に形成することで尖鋭なマイクロニードルを形成できることを見出した。マイクロニードルの先端部に対応するV字状の刃を用いて1段階で切れ込みを入れると、先端部が欠けたり丸まったりしたマイクロニードルが形成されやすい。シートに複数のマイクロニードルを形成した場合には、一部のマイクロニードルは尖鋭であるが他のマイクロニードルについては先端が欠けたり丸まったりしてしまう傾向がある。この傾向は、マイクロニードルの先端角度を小さくするほど顕著になる。これは、品質が悪いマイクロニードル・シートを意味する。一方、シートに2段階で切れ込みを入れると、先端部が欠けたり丸まったりするマイクロニードルの数が大幅に減り、マイクロニードル・シートの品質を上げることができる。例えば、マイクロニードル・シートを構成する複数のマイクロニードルのほとんど、またはほぼすべて、またはすべてを尖鋭にすることができる。
【0057】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、第1外縁が、マイクロニードルの頂点からマイクロニードルの根元に向かって延びる外縁であり、第2外縁が、頂点を挟んで第1外縁の反対側に位置し、かつ頂点から根元に向かって延びる外縁であってもよい。2段階目の切れ込みである第2の切れ込みを入れて初めてマイクロニードルの頂点が形成されるので、マイクロニードルの先端部を鋭利にすることができる。
【0058】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、第1切込工程では、第1刃型により第1の切れ込みを入れ、第2切込工程では、第1刃型とは異なる第2刃型により第2の切れ込みを入れもよい。2種類の刃型を用いることで製造工程が単純になるので、マイクロニードル・シートを高速に製造することができる。また、製造に用いる物品、部品、または装置を安価で構築することができる。ひいては、マイクロニードル・シートの製造コストを抑えることができる。
【0059】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、第1刃型が、直線状の第1刃の集合であり、第2刃型が、直線状の第2刃の集合であってもよい。切れ込みを入れるための刃を直線状にすることでマイクロニードル・シートを製造するための物品、部品、または装置を安価で構築できる。ひいては、マイクロニードル・シートの製造コストを抑えることができる。
【0060】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、機械方向に対する第1刃の傾斜角度が+θであり、機械方向に対する第2刃の傾斜角度が−θであってもよい。機械方向に沿った軸を対称軸と見立てた場合に第1刃および第2刃の傾きが線対称になるように第1刃型および第2刃型が配される。この配置により、マイクロニードル・シートを製造するための物品、部品、または装置の構成が単純になるので、その分、マイクロニードル・シートの製造コストを抑えることが可能になる。
【0061】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、第2切込工程では、第2の切れ込みが第1の切れ込みと交差するように第2の切れ込みを入れてもよい。第1の切れ込みの一端とつながるように第2の切れ込みを入れるのではなく、第1の切れ込みの途中の部分を横切るように第2の切れ込みを入れることで、マイクロニードルの先端部をより確実に鋭利にすることができる。
【0062】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、第2切込工程では、マイクロニードルの先端部の曲率半径が30μm以下になるようにマイクロニードルの先端部を形成してもよい。このように曲率半径を設定することで、皮膚を確実に穿刺するマイクロニードルを得ることができる。
【0063】
本発明者らは、2段階で切れ込みを入れるのではなく一度の切れ込みだけでマイクロニードルの先端部を形成しようとすると、先端部の曲率半径が30μm以下であるマイクロニードルを安定して作製することができないことを見出した。この一つの要因として、曲率半径が30μm以下である切れ込みを入れるためのV字型の刃を用意することが困難であることが挙げられる。曲率半径が30μm以下である切れ込みを安定して形成するためのV字型の刃を製造するにはコストが掛かり、そのV字型の刃を低コストで実現しようとすると技術的な限界に遭遇する。一方で本発明者らは、2段階で切れ込みを入れることで、先端部の曲率半径を30μm以下に設定した場合でも、特別なコストを掛けることなく、尖鋭なマイクロニードルを安定して作製できることを見出した。
【0064】
他の側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法では、マイクロニードルの先端部を形成した後に、シートを裁断することでシートから複数のマイクロニードル・シートを生成してもよい。マイクロニードルを形成した後にマイクロニードル・シートの外形を形成することで、マイクロニードル・シートを効率良く製造することができる。
【0065】
本発明の一側面に係るマイクロニードル・シートは、主面を有するシート本体と、シート本体に形成された、先端部を有する1以上のマイクロニードルと、1以上のマイクロニードルのうちの少なくとも一つのマイクロニードルの先端部の付近に形成されたX字状の切れ込みとを備える。
【0066】
少なくとも一部のマイクロニードルの先端部の付近にX字状の切れ込みが形成されているならば、このマイクロニードル・シートは、本発明の一側面に係るマイクロニードル・シートの製造方法により作製されたものといえる。したがって、尖鋭なマイクロニードルを有するそのマイクロニードル・シートにより皮膚を確実に穿刺することができる。
【0067】
他の側面に係るマイクロニードル・シートでは、シート本体が曲げられていない第1状態では、1以上のマイクロニードルのそれぞれの先端部がシート本体の一端を向き、シート本体が曲げられた第2状態では、1以上のマイクロニードルのうち、シート本体の曲げられた部分に位置する少なくとも一つのマイクロニードルが主面から立ち上がってもよい。シート本体が曲げられたときに初めて少なくとも一つのマイクロニードルが立つので、マイクロニードル12の取扱時の安全性をより確実に確保することができる。
【0068】
他の側面に係るマイクロニードル・シートでは、第2状態から第1状態に戻ると、立ち上がっていた少なくとも一つのマイクロニードルと主面との成す角度が減少してもよい。シート本体が曲げられたときだけ少なくとも一つのマイクロニードルが立つので、マイクロニードル12の取扱時の安全性をより確実に確保することができる。
【0069】
他の側面に係るマイクロニードル・シートでは、1以上のマイクロニードルの先端部の曲率半径が30μm以下であってもよい。このように曲率半径を設定することで、皮膚を確実に穿刺するマイクロニードルを得ることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0071】
PVA製のシートを用意し、上記実施形態で説明したようにそのシートに2段階で切れ込みを入れることで、実施例に係るマイクロニードル・シートを作製した。個々のマイクロニードルの設計に関しては、形状を三角形とし、高さ(根元から先端までの長さ)を500μmとし、先端角度を45°とし、曲率半径を0とした。マイクロニードルの密度は256本/cm
2とした。支持体、粘着剤、およびライナーを用意し、これらの部材と作製したマイクロニードル・シートとを用いて製剤を作製した。この製剤を専用のアプリケータにセットした。
【0072】
固定したヘアレスラットの皮膚上でそのアプリケータを動かすことで製剤(マイクロニードル・シート)を該皮膚に適用し、適用直後に皮膚から製剤を剥がした。製剤を適用した箇所にローダミン染色を施し、蛍光マイクロスコープ(525μm)でその適用箇所を撮影した。撮影画像を用いてマイクロニードルの穿刺の痕を観察し、穿刺の均一の程度を評価した。
【0073】
比較例として、PVA製のシートを用意し、V字状の刃の集合である刃型を用いてそのシートに1段階で切れ込みを入れることで、比較例に係るマイクロニードル・シートを作製した。個々のマイクロニードルの設計に関しては、形状を三角形とし、高さ(根元から先端までの長さ)を500μmとし、先端角度を45°とし、曲率半径を30μmとした。マイクロニードルの密度は256本/cm
2とした。このマイクロニードル・シートを用いて実施例と同じ手法で製剤を作製した。そして、実施例と同様に、ヘアレスラットの皮膚に製剤を適用し、蛍光マイクロスコープを用いて穿刺の均一の程度を評価した。
【0074】
これらの実施例および比較例で得られた撮影画像を
図8に示す。この図から明らかなように、実施例の方が比較例よりも、適用範囲の全体が確実に穿刺されており、穿刺の均一性が明らかに高い。これは、実施例の方が比較例よりも、尖鋭な複数のマイクロニードルを安定して作製できたことを示すといえる。
【0075】
プルラン製のシートおよびPET製のシートについてもPVA製のシートと同様の実験を行った。これら2種類のシートについても、シートに2段階で切れ込みを入れてマイクロニードルを形成する方が、1段階で切れ込みを入れる手法よりも、穿刺の均一性を高めることができた。
【0076】
以上、本発明をその実施形態および実施例に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。