特許第6974711号(P6974711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974711
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/30 20060101AFI20211118BHJP
【FI】
   B60N2/30
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-203370(P2017-203370)
(22)【出願日】2017年10月20日
(65)【公開番号】特開2019-77223(P2019-77223A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】林 昌男
(72)【発明者】
【氏名】小林 建斗
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−030659(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0197526(US,A1)
【文献】 特開2009−067309(JP,A)
【文献】 特開2009−067345(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102006030259(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションおよびシートバックの状態を、乗員が着座するときの通常状態と、当該通常状態よりも前記シートクッションがフロアの近くに配置され、かつ、前記シートクッションの上に前記シートバックが折り畳まれたダイブダウン状態と、起立した前記シートバックに重なるように前記シートクッションが折り畳まれたチップアップ状態とに切替可能な乗物用シートであって、
前記シートクッションに第1軸を中心に回動可能に連結されるとともに、前記シートバックに第2軸を中心に回動可能に連結されるアームと、
前記通常状態において、前記シートクッションが前記第1軸を中心にして下方に回動することを規制する第1規制部材と、
前記フロアに固定され、前記シートバックの下端部を第3軸を中心にして回動可能に支持するベース部材と、
前記シートクッションに対して回動可能な支持部材であって、前記ベース部材に回動可能に連結されるとともに、前記アームに回動可能に連結される支持部材と、を備え、
前記通常状態から前記チップアップ状態に切り替える場合には、前記シートクッションが前記第1軸を中心にして上方に回動可能であり、
前記支持部材の前記ベース部材との連結部分は、前後方向に移動可能であり、前記通常状態であるときに第1位置に位置し、前記ダイブダウン状態であるときに前記第1位置よりも前方の第2位置に位置することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記支持部材は、前記第1軸を中心にして前記アームに回動可能に連結されことを特徴とする請求項に記載の乗物用シート。
【請求項3】
シートクッションおよびシートバックの状態を、乗員が着座するときの通常状態と、当該通常状態よりも前記シートクッションがフロアの近くに配置され、かつ、前記シートクッションの上に前記シートバックが折り畳まれたダイブダウン状態と、起立した前記シートバックに重なるように前記シートクッションが折り畳まれたチップアップ状態とに切替可能な乗物用シートであって、
前記シートクッションに第1軸を中心に回動可能に連結されるとともに、前記シートバックに第2軸を中心に回動可能に連結されるアームと、
前記通常状態において、前記シートクッションが前記第1軸を中心にして下方に回動することを規制する第1規制部材と、
前記フロアに固定され、前記シートバックの下端部を第3軸を中心にして回動可能に支持するベース部材と、
前記シートクッションに対して回動可能な支持部材であって、前記ベース部材に回動可能に連結されるとともに、前記第1軸を中心にして前記アームに回動可能に連結される支持部材と、を備え、
前記通常状態から前記チップアップ状態に切り替える場合には、前記シートクッションが前記第1軸を中心にして上方に回動可能であり、
前記支持部材の前記ベース部材との連結部分は、前後方向に移動可能であり、
前記第1軸から前記第3軸までの距離は、前記通常状態または前記チップアップ状態のときよりも前記ダイブダウン状態のときの方が大きいことを特徴とする乗物用シート。
【請求項4】
前記連結部分は、前記通常状態であるときに第1位置に位置し、前記ダイブダウン状態であるときに前記第1位置よりも前方の第2位置に位置することを特徴とする請求項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記連結部分の移動方向は、前後方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記ダイブダウン状態であるときに、前記第1軸から前記第2軸までの距離は、前記第2軸から前記第3軸までの距離よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記通常状態であるときに、前記第3軸は、前記第1軸より後方かつ下方に位置することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記通常状態から前記ダイブダウン状態に切り替える際に、前記支持部材が前記通常状態から第1角度回動するまで、前記連結部分の前方への移動を規制する第3規制部材を備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記シートクッションが前記アームに対して前記第1軸を中心に回動することをロックするロック機構と、
前記ロック機構によるロックを解除する解除部材であって、前記第1軸に対して、前方かつ下側に位置するように前記シートクッションに設けられる解除部材と、を備えことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記ロック機構は、前記チップアップ状態のときにロック状態となり、前記ダイブダウン状態のときにアンロック状態となり、
前記ダイブダウン状態において、前記解除部材は、前記フロアで支持されることで、前記シートクッションの脚として機能することを特徴とする請求項9に記載の乗物用シート。
【請求項11】
前記解除部材は、
前記ロック機構によるロックを許可するロック許可位置と、前記ロック機構によるロックを解除する解除位置とに移動可能な操作部材と、
前記操作部材を前記ロック許可位置に付勢する圧縮コイルばねと、を備え、
前記圧縮コイルばねは、前記通常状態から前記ダイブダウン状態に切り替えるときの前記フロア側から伝わる衝撃を吸収することを特徴とする請求項10に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションおよびシートバックの状態を切替可能な乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗物用シートとして、シートクッションおよびシートバックの状態を、乗員が着座するときの通常状態と、シートクッションの上にシートバックが折り畳まれたダイブダウン状態と、起立したシートバックに重なるようにシートクッションが折り畳まれたチップアップ状態とに切替可能なものが知られている(特許文献1参照)。具体的に、この技術では、シートバックに回動可能に設けられたアームにシートクッションが固定されている。そして、通常状態からチップアップ状態への切替時には、シートクッションが、シートバックとアームとの連結部分を中心にしてアームとともに回動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−067309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、通常状態からチップアップ状態への切替時においてシートクッションがシートバックとアームとの連結部分を中心にして回動するので、シートクッションの回転半径が大きくなり、乗物用シートの前方に大きなスペースが必要になるといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、通常状態からチップアップ状態への切替時におけるシートクッションの回転半径を小さくして、チップアップ状態へ切り替えるのに必要なスペースを小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決する本発明は、シートクッションおよびシートバックの状態を、乗員が着座するときの通常状態と、当該通常状態よりも前記シートクッションがフロアの近くに配置され、かつ、前記シートクッションの上に前記シートバックが折り畳まれたダイブダウン状態と、起立した前記シートバックに重なるように前記シートクッションが折り畳まれたチップアップ状態とに切替可能な乗物用シートであって、前記シートクッションに第1軸を中心に回動可能に連結されるとともに、前記シートバックに第2軸を中心に回動可能に連結されるアームと、前記通常状態において、前記シートクッションが前記第1軸を中心にして下方に回動することを規制する第1規制部材と、を備え、前記通常状態から前記チップアップ状態に切り替える場合には、前記シートクッションが前記第1軸を中心にして上方に回動可能となっていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、従来のようなシートバックとアームとの連結部分を中心にしてシートクッションが回動することでチップアップ状態となる構造に比べ、シートクッションの回転半径を小さくすることができるので、チップアップ状態へ切り替えるのに必要なスペースを小さくすることができる。
【0008】
また、前記乗物用シートは、前記シートクッションに対して回動可能であり、前記フロアで支持される支持部材を備えていてもよい。
【0009】
これによれば、シートクッションを支持部材を介してフロアで支持することができるので、通常状態においてシートクッションをフロアで良好に支持することができる。また、ダイブダウン状態へ切り替えた場合に、支持部材を回動させることが可能となるので、シートクッションの下面をフロアで安定して支持することができる。
【0010】
また、前記乗物用シートは、前記フロアに固定され、前記シートバックの下端部を第3軸を中心にして回動可能に支持するベース部材を備え、前記支持部材は、前記ベース部材に回動可能に連結されるとともに、前記アームに回動可能に連結され、前記支持部材の前記ベース部材との連結部分は、前後方向に移動可能となっていてもよい。
【0011】
これによれば、ダイブダウン状態への切替をスムーズに行うことができる。
【0012】
また、前記第1軸から前記第3軸までの距離は、前記通常状態または前記チップアップ状態のときよりも前記ダイブダウン状態のときの方が大きくてもよい。
【0013】
これによれば、ダイブダウン状態においてシートクッションの位置を第3軸から遠ざけることができるので、シートクッションとベース部材の干渉を抑えることができる。
【0014】
また、前記通常状態であるときに、前記第1軸は、前記第2軸よりも前方かつ下方に位置していてもよい。
【0015】
これによれば、ダイブダウン状態への切替を良好に行うことができる。
【0016】
また、前記乗物用シートは、前記通常状態であるときに、前記支持部材の上端部が前記第3軸に近づくように前記支持部材が前記ベース部材に対して回動することを規制する第2規制部材を備えていてもよい。
【0017】
これによれば、通常状態であるときに、支持部材が後に倒れるのを第2規制部材によって規制することができるので、乗物用シートを通常状態に良好に維持することができる。
【0018】
また、前記連結部分は、前記通常状態であるときに第1位置に位置し、前記ダイブダウン状態であるときに前記第1位置よりも前方の第2位置に位置してもよい。
【0019】
これによれば、通常状態からダイブダウン状態へ良好に切り替えることができる。
【0020】
また、前記乗物用シートは、前記通常状態から前記ダイブダウン状態に切り替える際に、前記支持部材が前記通常状態から第1角度回動するまで、前記連結部分の前方への移動を規制する第3規制部材を備えていてもよい。
【0021】
これによれば、通常状態からダイブダウン状態に切り替える場合には、支持部材を最初に回動させた後、連結部分をスライド移動させることができるので、支持部材を含むリンク機構の動きを安定させることができる。
【0022】
また、前記乗物用シートは、前記シートクッションが前記アームに対して前記第1軸を中心に回動することをロックするロック機構を備え、前記ロック機構は、前記チップアップ状態のときにロック状態となり、前記ダイブダウン状態のときにアンロック状態となるように構成されていてもよい。
【0023】
これによれば、ダイブダウン状態ではロック機構がアンロック状態となっているので、ロック機構のロックを操作レバーなどで解除する操作を行うことなく、シートバックを起こすだけで、ダイブダウン状態から通常状態に切り替えることができる。
【0024】
また、前記シートクッションの下側には、前記ロック機構によるロックを解除する解除部材が設けられ、前記ダイブダウン状態において、前記解除部材が乗物のフロアで支持されていてもよい。
【0025】
これによれば、解除部材をダイブダウン状態でのシートクッションの脚として利用することができるので、例えば解除部材とは別の脚部材をシートクッションに設ける構成と比べ、部品点数を減らしてコストを低減することができる。
【0026】
また、前記解除部材は、前記ロック機構によるロックを許可するロック許可位置と、前記ロック機構によるロックを解除する解除位置とに移動可能な操作部材と、前記操作部材を前記ロック許可位置に付勢する付勢部材と、を備え、前記付勢部材は、前記通常状態から前記ダイブダウン状態に切り替えるときの前記フロア側から伝わる衝撃を吸収するように構成されていてもよい。
【0027】
これによれば、通常状態からダイブダウン状態に切り替える際に、解除部材の付勢部材がダンパとして機能するので、乗物用シートまたは乗物のフロアに加わる衝撃を抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、通常状態からチップアップ状態への切替時におけるシートクッションの回転半径を小さくして、チップアップ状態へ切り替えるのに必要なスペースを小さくすることができる。
【0029】
また、シートクッションに対して回動可能であり、フロアで支持される支持部材を設けることで、支持部材を介してシートクッションをフロアで良好に支持することができる。また、ダイブダウン状態へ切り替えた場合に、支持部材を回動させることが可能となるので、シートクッションの下面をフロアで安定して支持することができる。
【0030】
また、支持部材のベース部材との連結部分を前後方向に移動可能とすることで、ダイブダウン状態への切替をスムーズに行うことができる。
【0031】
また、ダイブダウン状態のときの第1軸から第3軸までの距離を、通常状態またはチップアップ状態のときよりも大きくすることで、ダイブダウン状態においてシートクッションの位置を第3軸から遠ざけることができるので、シートクッションとベース部材の干渉を抑えることができる。
【0032】
また、通常状態であるときに第1軸を第2軸よりも前方かつ下方に位置させることで、ダイブダウン状態への切替を良好に行うことができる。
【0033】
また、通常状態であるときに支持部材が後に倒れるのを第2規制部材によって規制することで、乗物用シートを通常状態に良好に維持することができる。
【0034】
また、連結部分を、通常状態であるときに第1位置に位置させ、ダイブダウン状態であるときに第1位置よりも前方の第2位置に位置させることで、通常状態からダイブダウン状態へ良好に切り替えることができる。
【0035】
また、ダイブダウン状態への切替時において支持部材が通常状態から第1角度回動するまで連結部分の前方への移動を規制する第3規制部材を設けることで、支持部材を含むリンク機構の動きを安定させることができる。
【0036】
また、シートクッションがアームに対して回動することをロックするロック機構をダイブダウン状態においてアンロック状態となるように構成することで、ロック機構のロックを操作レバーなどで解除する操作を行うことなく、シートバックを起こすだけで、ダイブダウン状態から通常状態に切り替えることができる。
【0037】
また、ロック機構によるロックを解除する解除部材をダイブダウン状態でのシートクッションの脚として利用することで、例えば解除部材とは別の脚部材をシートクッションに設ける構成と比べ、部品点数を減らしてコストを低減することができる。
【0038】
また、通常状態からダイブダウン状態に切り替える際に、解除部材の付勢部材をダンパとして機能させることで、乗物用シートまたは乗物のフロアに加わる衝撃を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の一実施形態に係る通常状態の車両用シートを示す図(a)と、支持孔内の突起を示す図(b)である。
図2】チップアップ状態の車両用シートを示す図である。
図3】ダイブダウン状態の車両用シートを示す図である。
図4】通常状態またはダイブダウン状態においてロック解除レバーが操作されているときのロック機構の状態を示す図(a)と、チップアップ状態においてロック解除レバーが操作されていないときのロック機構の状態を示す図(b)である。
図5】ロック解除レバーの構造を示す図であり、操作部材がロック許可位置に位置する状態を示す図(a)と、操作部材が解除位置に位置する状態を示す図(b)と、操作部材が衝撃吸収位置に位置する状態を示す図(c)である。
図6】通常状態からダイブダウン状態へ切り替える場合において、支持部材が通常状態から第1角度だけ回動した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1(a)に示すように、乗物用シートの一例としての車両用シートSは、例えば3列シートの2列目のシートに使用されるシートであり、シートクッションS1と、シートバックS2とを主に備えている。なお、本発明において、前後、左右、上下は、シートに座る乗員を基準とする。
【0041】
シートクッションS1は、図示せぬシートクッションフレームと、シートクッションパッドS12と、表皮材S13とを備えている。シートクッションフレームは、シートクッションS1の骨格をなす部材であり、金属などから構成されている。シートクッションパッドS12は、ウレタンフォームなどからなり、シートクッションフレームで支持されている。表皮材S13は、合成皮革や布地などからなり、シートクッションパッドS12を覆っている。
【0042】
シートバックS2は、シートバックフレームS21と、シートバックパッドS22と、表皮材S23とを備えている。シートバックフレームS21は、シートバックS2の骨格をなす部材であり、金属などから構成されている。シートバックパッドS22は、ウレタンフォームなどからなり、シートバックフレームS21で支持されている。表皮材S23は、合成皮革や布地などからなり、シートバックパッドS22を覆っている。
【0043】
車両用シートSは、シートクッションS1およびシートバックS2の状態を、図1に示す通常状態と、図2に示すチップアップ状態と、図3に示すダイブダウン状態とに切替可能な状態切替機構1を備えている。ここで、通常状態とは、乗員が着座するときの状態をいう。通常状態において、シートクッションS1の上面(座面)は、略上方を向き、シートバックS2の前面(乗員支持面)は、略前方を向いている。詳しくは、通常状態において、シートバックS2の前面の向きは、リクライニング機構2の操作によって、乗員の好みに応じた角度となっている。
【0044】
また、チップアップ状態とは、起立したシートバックS2に重なるようにシートクッションS1が折り畳まれた状態をいう。チップアップ状態において、シートクッションS1の上面は、シートバックS2の前面に重ね合わされており、シートクッションS1およびシートバックS2がともに起立した状態となっている。詳しくは、シートクッションS1およびシートバックS2のフロアFの上面に対する角度は、45°以上となっている。
【0045】
また、ダイブダウン状態とは、通常状態よりもシートクッションS1がフロアFの近くに配置され、かつ、シートクッションS1の上にシートバックS2が折り畳まれた状態をいう。本実施形態では、ダイブダウン状態において、シートバックS2の前面がシートクッションS1の上面に重ね合わされており、シートバックS2およびシートクッションS1が、フロアFの上面に対して略平行に配置されている。
【0046】
状態切替機構1は、シートバックフレームS21と、アーム10と、支持部材20と、ベース部材30とを備えている。シートバックフレームS21は、左右方向に離れて配置される左右のサイドフレームS24を有している。アーム10、支持部材20およびベース部材30は、車両用シートSの左右に1つずつ設けられている。
【0047】
アーム10は、シートクッションS1に第1軸A1を中心に回動可能に連結されるとともに、シートバックS2に第2軸A2を中心に回動可能に連結されている。詳しくは、アーム10は、シートクッションフレームに回動可能に連結されるとともに、シートバックフレームS21に回動可能に連結されている。アーム10は、L字形状に形成されている。詳しくは、アーム10は、通常状態においてシートバックS2に沿って延びる第1部位11と、第1部位11の下端から前方に向けて延びる第2部位12とを有している。そして、通常状態であるときに、第1軸A1は、第2軸A2よりも前方かつ下方に位置している。アーム10の第2部位12には、支持部材20の上端部が第1軸A1を中心に回動可能に連結されている。詳しくは、支持部材20は、第1軸A1を中心にして、シートクッションS1に回動可能に連結されるとともに、アーム10にも回動可能に連結されている。また、第1軸A1は、シートクッションS1の後端部に配置されている。
【0048】
シートバックフレームS21の下端部は、ベース部材30によって回動可能に支持されている。ベース部材30は、フロアFの上面から突出するようにフロアFに固定されている。
【0049】
左右のサイドフレームS24の下端部は、左右方向に延びる連結部材S25によって連結されている。そして、連結部材S25の左右両端部が、それぞれ左右のベース部材30に連結されることで、連結部材S25を中心としてシートバックフレームS21が回動可能となっている。なお、以下の説明では、シートバックフレームS21の回動中心を、第3軸A3とも称する。通常状態において、第3軸A3は、第2軸A2よりも前方かつ下方であって、かつ、第1軸A1よりも後方かつ下方の位置に配置されている。
【0050】
また、シートバックフレームS21の下端部は、リクライニング機構2を介してベース部材30に連結されている。そして、シートバックS2は、リクライニング機構2によってロックされることで、乗員の好みに応じた角度に保持されるようになっている。また、シートバックS2の上部には、リクライニング機構2によるロックを解除するためのリクライニング解除レバーL1が設けられている。
【0051】
また、ベース部材30は、支持部材20の下端部を回動可能、かつ、スライド移動可能に支持する支持孔31を有している。支持孔31は、ベース部材30を左右方向に貫通して設けられている。支持孔31は、前方から後方に向かうにつれて上方に位置するように、前後方向に対して傾斜している。
【0052】
左右の支持部材20の下端部は、左右方向に延びる連結部材21によって連結されている。そして、連結部材21の左右の端部が、それぞれ左右のベース部材30の支持孔31内に入り込んで支持孔31で支持されることで、支持部材20が連結部材21を中心として回動可能、かつ、スライド移動可能となっている。なお、以下の説明では、支持部材20の回動中心を、第4軸A4とも称する。通常状態において、第4軸A4は、第3軸A3よりも前方かつ下方であって、かつ、第1軸A1よりも前方かつ下方の位置に配置されている。
【0053】
連結部材21の左右の端部、つまり支持部材20のベース部材30との連結部分は、支持孔31で支持されることによって、略前後方向に移動可能となっている。連結部材21の左右の端部は、断面視円形状に形成されており、通常状態であるときに第1位置(図1(a)の位置)に位置し、ダイブダウン状態であるときに第1位置よりも前方かつ下方の第2位置(図3の位置)に位置するようになっている。詳しくは、第1位置は、支持孔31の後端に対応した位置であり、第2位置は、支持孔31の前端に対応した位置である。
【0054】
図1(b)に示すように、支持孔31内には、第3規制部材の一例としての突起32が形成されている。ここで、図1(b)は、突起32を分かりやすく説明するために、図1(a)の支持孔31をデフォルメして図示したものである。
【0055】
突起32は、連結部材21の第1位置から第2位置への移動を規制するための突起であり、所定の仮想線LAよりも支持孔31内に向けて突出することで、通常状態において連結部材21の端部を第1位置に保持している。ここで、仮想線LAは、第1位置に位置する連結部材21の中心と第2位置に位置する連結部材21の中心を結んだ直線LBと略平行で、かつ、各位置に位置する連結部材21の下端同士を結ぶ線である。
【0056】
突起32は、通常状態からダイブダウン状態に切り替える際に、支持部材20が通常状態から第1角度回動するまで、連結部材21の端部の前方への移動を規制している(図6参照)。突起32は、断面視三角形状の突起であり、通常状態において連結部材21の端部に接触する後側傾斜面32Aと、後側傾斜面32Aの前側に配置される前側傾斜面32Bとを有する。仮想線LAに対する後側傾斜面32Aの角度は、前側傾斜面32Bよりも大きくなっている。これにより、連結部材21の端部が突起32を後側から前側に向けて乗り越える際の抵抗力が、突起32を前側から後側に向けて乗り越える際の抵抗力よりも大きくなっている。
【0057】
図1(a)に戻って、支持部材20は、ベース部材30を介してフロアFで支持されている。支持部材20は、その上端部が第1軸A1を中心にしてシートクッションS1およびアーム10に対して回動可能になるとともに、その下端部がベース部材30に対して回動可能かつ前後方向にスライド移動可能になっている。支持部材20は、その上端部に、第1規制面20Aと、第2規制面20Bとを有している。第1規制面20Aは、シートクッションS1に設けられた係合ピンS14に係合することで、通常状態において、シートクッションS1が第1軸A1を中心にして下方に回動することを規制している。つまり、支持部材20は、第1規制部材の一例として機能している。
【0058】
支持部材20の後方への回動は、シートバックS2のベース部材30に対する回動がリクライニング機構2によってロックされることで規制されている。詳しくは、シートバックS2、アーム10、支持部材20およびベース部材30は、自由度が1の四節リンクであり、リクライニング機構2によってシートバックS2の回動がロックされることで、自由度が0の三節リンクとなる。そのため、リクライニング機構2をロックすると、支持部材20の後方への回動が規制される。ここで、本実施形態では、リクライニング機構2は、第2規制部材の一例であり、通常状態であるときに、支持部材20の上端部が第3軸A3に近づくように支持部材20がベース部材30に対して回動することを規制している。
【0059】
図4(a)に示すように、車両用シートSは、シートクッションS1がアーム10に対して第1軸A1を中心に回動することをロックするロック機構40を備えている。ロック機構40は、図4(a)に示す通常状態およびダイブダウン状態のときにアンロック状態となり、図4(b)に示すチップアップ状態のときにロック状態となるように構成されている。言い換えると、ロック機構40は、シートクッションS1とアーム10の第2部位12とが略平行となるときにアンロック状態となり、シートクッションS1とアーム10の第2部位12とが略直交するときにロック状態となるように構成されている。
【0060】
詳しくは、ロック機構40は、アーム10に一体に設けられる被係合部材13と、被係合部材13に係合可能なロック片41と、ロック片41を作動させるための作動アーム42とを主に備えている。なお、ロック機構40は、シートクッションフレームの左右のフレームの内側に設けられ、前述した係合ピンS14(図1参照)は、左右のフレームの外側に設けられている。
【0061】
被係合部材13は、円板状に形成されており、第1軸A1を介してアーム10に固定されている。被係合部材13の外周面には、チップアップ状態において、ロック片41の爪部41Aと係合可能な係合溝13Aが形成されている。
【0062】
ロック片41は、シートクッションS1に回動可能に設けられている。ロック片41は、係合溝13Aに係合可能な爪部41Aと、作動アーム42と係合可能な係合孔41Bとを有している。
【0063】
作動アーム42は、シートクッションS1に回動可能に設けられている。作動アーム42は、係合孔41Bに係合可能な係合片42Aと、ワイヤ43が取り付けられる取付部42Bとを有している。作動アーム42と、シートクッションS1に設けられたステイS15との間には、引張バネ44が取り付けられている。
【0064】
引張バネ44は、作動アーム42を図示反時計回りに付勢することで、ロック片41をロック方向に付勢している。詳しくは、引張バネ44の付勢力によって作動アーム42が図示反時計回りに回動すると、作動アーム42の係合片42Aが係合孔41Bの縁を図示時計回り方向に押圧する。これにより、ロック片41が図示時計回りに回動して、爪部41Aが第1軸A1に向けて移動するので、爪部41Aを係合溝13Aに係合させることが可能となっている(図4(b)参照)。
【0065】
作動アーム42の取付部42Bは、ワイヤ43を介して、図1(a)に示す解除部材の一例としてのロック解除レバーL2に接続されている。これにより、ロック解除レバーL2を引っ張ると、図4(a)に示すように、作動アーム42が引張バネ44の付勢力に抗して図示時計回りに回動して、作動アーム42の係合片42Aが係合孔41Bの縁を図示反時計回り方向に押圧するようになっている。そして、このように係合片42Aが係合孔41Bの縁を押圧することで、ロック片41が図示反時計回りに回動して、爪部41Aが第1軸A1から離れる方向に移動するので、爪部41Aを係合溝13Aから外すことが可能となっている。なお、図4(a)に示すような通常状態またはダイブダウン状態においては、爪部41Aの第1軸A1を中心とする位相が、係合溝13Aの位相とずれているため、ロック解除レバーL2から手を離すと、爪部41Aは被係合部材13の外周面上に接触しているだけのアンロック状態(図示省略)となっている。
【0066】
また、ステイS15とロック片41との間には、弾性部材45が設けられている。これにより、ロック解除レバーL2を引っ張ることでロック機構40をアンロック状態にした場合には、作動アーム42の係合片42Aと弾性部材45との間でロック片41が保持されるので、アンロック状態におけるロック片41のガタツキを抑えることが可能となっている。
【0067】
図1(a)に示すように、ロック解除レバーL2は、ロック機構40によるロックを解除するための部材であり、シートクッションS1の下側に設けられている。詳しくは、ロック解除レバーL2は、通常状態において、シートクッションS1の下面の前側部分に設けられている。そして、図3に示すダイブダウン状態において、ロック解除レバーL2は、フロアFで支持されている。一方、シートクッションS1の下面の後側部分には、ダイブダウン状態においてフロアFで支持される脚部S16が設けられている。そのため、ダイブダウン状態においては、前側のロック解除レバーL2と後側の脚部S16とがフロアFに接触することで、シートクッションS1がフロアFに安定した姿勢で支持されている。
【0068】
図5(a)に示すように、ロック解除レバーL2は、操作部材L21と、付勢部材の一例としての圧縮コイルばねL22とを備えている。操作部材L21は、シートクッションS1に設けられたブラケットB1に回動可能に支持されている。
【0069】
操作部材L21は、ワイヤ43が取り付けられるワイヤ取付部L23を有している。そして、操作部材L21は、図5(a)に示すロック許可位置と、図5(b)に示す解除位置と、図5(c)に示す衝撃吸収位置とに回動可能となっている。
【0070】
圧縮コイルばねL22は、一端がシートクッションS1に固定され、他端が操作部材L21に固定されている。圧縮コイルばねL22は、操作部材L21をロック許可位置に付勢している。
【0071】
ここで、ロック許可位置は、ロック機構40(図4参照)によるロックを許可する位置である。ロック許可位置において、圧縮コイルばねL21は、自然長の状態となっている。また、ロック許可位置において、ワイヤ43は多少弛んだ状態となっており、ロック機構40のロック片41が引張バネ44の付勢力によって被係合部材13に押し付けられた状態となっている。
【0072】
解除位置は、ロック機構40によるロックを解除する位置である。解除位置において、圧縮コイルばねL22は、自然長よりも長くなるように変形している。また、解除位置において、ワイヤ43は、張った状態となっており、ロック機構40の作動アーム42を引張バネ44の付勢力に抗して引っ張っている。そのため、解除位置において、ロック機構40のロック片41は、被係合部材13から離れた状態となっている。
【0073】
衝撃吸収位置は、ダイブダウン状態において操作部材L21がフロアFに支持されているときの位置である。衝撃吸収位置において、圧縮コイルばねL22は、自然長よりも短くなるように変形している。つまり、圧縮コイルばねL22は、通常状態からダイブダウン状態に切り替えたときに、自然長から圧縮変形することで、フロアF側から伝わる衝撃を吸収することが可能となっている。また、衝撃吸収位置において、ワイヤ43は多少弛んだ状態となっており、ロック機構40のロック片41が引張バネ44の付勢力によって被係合部材13に押し付けられた状態となっている。
【0074】
次に、本実施形態に係る車両用シートSの操作方法について説明する。
図1(a)に示す通常状態においては、リクライニング機構2のロックによってシートバックS2の回動が規制されることで、シートバックS2、アーム10、支持部材20およびベース部材30が自由度0の三節リンクとなるので、シートバックS2、アーム10および支持部材20の姿勢が固定されている。また、シートクッションS1は、姿勢が固定されている支持部材20の第1規制面20Aに係合ピンS14が係合することで、下方に回動することが規制されている。そのため、車両用シートSを、通常状態に良好に維持することができる。
【0075】
通常状態からチップアップ状態に切り替える場合には、まず、乗員がシートクッションS1の前端部を上方に持ち上げていくことで、シートクッションS1を第1軸A1を中心にして上方に回動させていく。通常状態においてはロック機構40がアンロック状態となっているため、乗員は、ロック解除レバーL2を操作することなく、そのままシートクッションS1の前端部を持ち上げていって、シートクッションS1を回動させることができる。
【0076】
図2に示すように、乗員がシートクッションS1の係合ピンS14が第2規制面20Bに当接するまでシートクッションS1を回動させると、図4(b)に示すように、ロック片41の爪部41Aの位相が係合溝13Aの位相に一致して、引張バネ44の付勢力によって爪部41Aが係合溝13Aに係合する。これにより、ロック機構40がロック状態となるので、車両用シートSを、チップアップ状態に良好に維持することができる。
【0077】
チップアップ状態から通常状態に切り替える場合には、図2に示すように、まず、乗員がロック解除レバーL2を引っ張ることで、ロック機構40によるロックを解除する。その後、乗員は、ロック解除レバーL2を引っ張った状態で、シートクッションS1を下方に回動させる。そして、乗員がシートクッションS1の係合ピンS14が第1規制面20Aに当接するまでシートクッションS1を回動させると、第1規制面20AによってシートクッションS1の回動が止められて、車両用シートSが通常状態となる。
【0078】
通常状態からダイブダウン状態に切り替える場合には、図6に示すように、まず、乗員がリクライニング解除レバーL1を操作することによって、リクライニング機構2によるロックを解除する。これにより、シートバックS2、アーム10、支持部材20およびベース部材30が自由度1の四節リンクとなるので、シートバックS2を前方に倒していくと、シートバックS2の回動に伴って、支持部材20が前方に徐々に倒れていく。
【0079】
支持部材20が通常状態から第1角度だけ回動すると、シートクッションS1に設けられたロック解除レバーL2と脚部S16がフロアFに当接する。この際、図5(a),(c)の順で示すように、ロック解除レバーL2の操作部材L21がロック許可位置から衝撃吸収位置に回動するので、シートクッションS1のフロアFとの当接時における衝撃を圧縮コイルばねL22によって吸収することができる。
【0080】
シートクッションS1がフロアFで支持されると、支持部材20がそれ以上回動しなくなる。その後、乗員がシートバックS2をさらに倒していくと、アーム10を介してシートクッションS1が前方に押される。これにより、前方に押されるシートクッションS1によって支持部材20が引っ張られるので、連結部材21の端部が突起32の先端を乗り越えて、支持孔31内を前方にスライド移動していく。
【0081】
そして、図3に示すように連結部材21の端部が支持孔31の前端に当接すると、シートバックS2がシートクッションS1の上に折り畳まれたダイブダウン状態となる。なお、ダイブダウン状態においては、リクライニング機構2は、ロック状態であってもよいし、アンロック状態であってもよい。ただし、ダイブダウン状態においてリクライニング機構2をアンロック状態とした場合には、ダイブダウン状態から通常状態に切り替える際に、リクライニング解除レバーL1の操作が不要となるので、このように構成するのが好ましい。
【0082】
前述したように、通常状態からダイブダウン状態に切り替える場合には、シートクッションS1が前方に移動することで、アーム10は第2軸A2を中心にして図示時計回りに回動する。そのため、第1軸A1から第3軸A3までの距離は、通常状態またはチップアップ状態のときよりもダイブダウン状態のときの方が大きくなっている。
【0083】
詳しくは、ダイブダウン状態のときの各軸A1〜A4の位置は、以下のようになっている。第1軸A1は、第2軸A2よりも前方かつ下方であって、かつ、第4軸A4よりも前方かつ上方の位置に配置されている。第2軸A2は、第3軸A3よりも前方かつ上方であって、かつ、第4軸A4よりも前方かつ上方の位置に配置されている。第4軸A4は、第3軸A3よりも前方かつ下方の位置に配置されている。第3軸A3から第4軸A4までの距離は、通常状態またはチップアップ状態のときよりもダイブダウン状態のときの方が大きくなっている。
【0084】
ダイブダウン状態から通常状態に切り替える場合には、乗員がシートバックS2を後方に引き起こしていくと、アーム10を介してシートクッションS1が後方に引っ張られていく。これにより、後方に引っ張られるシートクッションS1によって支持部材20が後方に押されるので、連結部材21の端部が支持孔31内を後方にスライド移動していく。
【0085】
その後、図1(b)に示すように、連結部材21の端部が突起32の先端を乗り越えて支持孔31の後端に当接すると、図6に示すように、支持部材20が第4軸A4を中心にして上方に回動する。そして、シートバックS2をリクライニング機構2によってロック可能な位置まで回動して、その位置でリクライニング機構2がロック状態になると、図1(a)に示すように、車両用シートSが通常状態となる。
【0086】
以上のような本実施形態の車両用シートにおいて、次の各効果を奏することができる。
通常状態からチップアップ状態へ切り替える場合にはシートクッションS1を第1軸A1を中心にして上方に回動させればよいので、従来のようなシートバックとアームとの連結部分を中心にしてシートクッションが回動することでチップアップ状態となる構造に比べ、シートクッションS1の回転半径を小さくすることができる。そのため、本実施形態では、チップアップ状態へ切り替えるのに必要なスペースを小さくすることができる。
【0087】
シートクッションS1を支持部材20を介してフロアFで支持しているので、通常状態においてシートクッションS1をフロアFで良好に支持することができる。また、ダイブダウン状態へ切り替えた場合には、支持部材20が回動するので、シートクッションS1の下面をフロアFで安定して支持することができる。
【0088】
支持部材20のベース部材30との連結部分である、連結部材21の端部がベース部材30に対して前後方向に移動可能となっているので、ダイブダウン状態への切替をスムーズに行うことができる。
【0089】
ダイブダウン状態のときの第1軸A1から第3軸A3までの距離を、通常状態またはチップアップ状態のときよりも大きくすることで、ダイブダウン状態においてシートクッションS1の位置を第3軸A3から遠ざけることができるので、シートクッションS1とベース部材30の干渉を抑えることができる。
【0090】
通常状態であるときに、第1軸A1が第2軸A2よりも前方かつ下方に位置するので、ダイブダウン状態への切替を良好に行うことができる。
【0091】
通常状態であるときに支持部材20が後に倒れるのを規制するリクライニング機構2を設けたので、車両用シートSを通常状態に良好に維持することができる。
【0092】
連結部材21の端部が、通常状態であるときに第1位置に位置し、ダイブダウン状態であるときに第1位置よりも前方の第2位置に位置するので、通常状態からダイブダウン状態へ良好に切り替えることができる。
【0093】
通常状態からダイブダウン状態に切り替える際には、突起32によって、支持部材20が通常状態から第1角度回動するまで、連結部材21の端部の前方への移動が規制されるので、支持部材20を含むリンク機構の動きを安定させることができる。
【0094】
ダイブダウン状態ではロック機構40がアンロック状態となっているので、ロック解除レバーL2の操作を行うことなく、シートバックS2を引き起こすだけで、ダイブダウン状態から通常状態に切り替えることができる。
【0095】
通常状態ではロック機構40がアンロック状態となっているので、ロック解除レバーL2の操作を行うことなく、シートクッションS1の前端部を持ち上げるだけで、通常状態からチップアップ状態に切り替えることができる。
【0096】
ロック解除レバーL2をダイブダウン状態でのシートクッションS1の脚として利用することができるので、例えばロック解除レバーL2とは別の脚部材をシートクッションS1の前端部に設ける構成と比べ、部品点数を減らしてコストを低減することができる。
【0097】
通常状態からダイブダウン状態に切り替えたときに、ロック解除レバーL2の圧縮コイルばねL22がダンパとして機能するので、車両用シートSまたは車両のフロアFに加わる衝撃を抑えることができる。
【0098】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以下の他の形態に示すように、適宜変形して実施することが可能である。
【0099】
前記実施形態では、第1規制部材として第1規制面20Aを有する支持部材20を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1規制部材は、アームに設けられ、アームに対するシートクッションの回動を規制する部材であってもよい。
【0100】
前記実施形態では、シートクッションS1に支持部材20を設けたが、本発明はこれに限定されず、支持部材はなくてもよい。つまり、シートクッションをアームのみで支持するように構成してもよい。この場合、例えば、シートバックに対するアームの回動を規制する部材を設ければよい。
【0101】
前記実施形態では、支持部材20をシートクッションS1およびアーム10の両方に回動可能に連結したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、支持部材は、第1軸とは異なる軸で、シートクッションのみに回動可能に連結されていてもよい。また、例えば、支持部材は、第1軸とは異なる軸で、アームのみに回動可能に連結されていてもよい。
【0102】
前記実施形態では、連結部材21の端部のスライド移動方向を、前後方向に対して傾斜した方向、詳しくは前斜め下方に向かう方向としたが、本発明はこれに限定されず、スライド移動方向は、例えば、水平であってもよいし、前斜め上方に向かう方向であってもよい。
【0103】
前記実施形態では、第1軸A1を第2軸A2よりも前方かつ下方に配置したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1軸は、第2軸よりも前方であって、かつ、第2軸と上下方向の位置が同じであってもよい。
【0104】
前記実施形態では、第2規制部材としてリクライニング機構2を例示したが、本発明はこれに限定されず、第2規制部材は、例えば、シートバックに対するアームの回動をロックまたは解除する機構であってもよいし、アームに対する支持部材の回動をロックまたは解除する機構であってもよいし、ベース部材に対する支持部材の回動をロックまたは解除する機構であってもよい。また、第2規制部材は、シートバックを車両のフレームに対してロックまたは解除する機構(例えば、フレームに設けたストライカに、シートバックに設けたラッチ機構が係合する構造)などであってもよい。
【0105】
前記実施形態では、第3規制部材として突起32を例示したが、本発明はこれに限定されず、第3規制部材は、例えば、前記実施形態における支持孔31内に突出する突出位置と、支持孔31内から退避する退避位置とに進退可能な部材であってもよい。
【0106】
シートクッションのアームに対する回動をロックするロック機構は、前記実施形態のようなロック機構40に限らず、どのような構造であってもよい。例えば、前記実施形態における係合溝13Aに係合する係合位置と、係合溝13Aから外れた離脱位置とに、直線的に移動可能なロック片と、ロック片を係合位置に向けて付勢する付勢部材と、ロック片を付勢部材の付勢力に抗して移動させるためのワイヤとを備えたロック機構であってもよい。
【0107】
前記実施形態では、解除部材として、回動可能な操作部材L21を備えたロック解除レバーL2を例示したが、本発明はこれに限定されず、解除部材は、例えば、直線的にスライド移動可能な操作部材を備えた構造であってもよい。また、解除部材の付勢部材は、前記実施形態のような圧縮コイルばねL22に限らず、例えば、引張バネやトーションバネなどであってもよい。
【0108】
車両用シートSの各状態における各軸A1〜A4の位置は、前記実施形態に限定されず、適宜変更してもよい。
【0109】
前記実施形態では、アーム10をL字形状に形成したが、本発明はこれに限定されず、アームの形状は任意である。
【0110】
前記実施形態では、乗物用シートとして、自動車で使用される車両用シートSを例示したが、本発明はこれに限定されず、その他の乗物用シート、例えば、船舶や航空機などの他の乗物で使用されるシートに適用することもできる。
【0111】
また、前記した実施形態および変形例で説明した各要素を、任意に組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0112】
2 リクライニング機構
10 アーム
20 支持部材
A1 第1軸
A2 第2軸
F フロア
S 車両用シート
S1 シートクッション
S2 シートバック
図1
図2
図3
図4
図5
図6