(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
(化合物)
開示の化合物は、下記一般式(1)で表される。
【化2】
前記一般式(1)中、Ar
1〜Ar
3は、それぞれ独立して、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。
【0016】
二酸化炭素の電解還元においては、触媒を兼ねる電極上に二酸化炭素を保持すること、及び反応場へプロトンを供給することが、反応の効率を高める上で重要になってくる。
本発明者らは、吸着剤を用いて二酸化炭素を保持し、その細孔内や細孔近傍を反応の場とすることが有効であると考えた。吸着量の大きい吸着剤を電極上に配置すれば、そこに二酸化炭素を吸着又は保持した状態で二酸化炭素を電解でき、還元反応の高効率化が期待できるためである。
本発明者らは、吸着性能の高い多孔性金属錯体に着目した。多孔性金属錯体として代表的な、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を配位子とするM
2(dobdc)(M=Ni,Mg,Co等)は、二酸化炭素を大量、選択的に吸着し、さらに触媒活性点となり得るオープンメタルサイトを有することから好適であると期待される。しかし、これをはじめとした多くの多孔性金属錯体は、電子及びプロトンを細孔内に伝達させるのが困難である。
【0017】
そこで、本発明者らは、二酸化炭素吸着能と電子伝導、及びプロトン伝導に優れた多孔性金属錯体を得るために、検討を重ね、前記一般式(1)で表される化合物を見出した。
前記一般式(1)で表される化合物は、カルボキシ基及びヒドロキシ基を有し、金属に配位可能である。前記一般式(1)で表される化合物は、化合物の末端の三方に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸と同様に、芳香族炭化水素環に結合する2対のカルボキシ基及びヒドロキシ基を有し、それらは芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している。そのため、前記一般式(1)で表される化合物は、中心金属に配位した場合に、M
2(dobdc)と同様に、多孔性構造を形成できる。
【0018】
更に、前記一般式(1)で表される化合物は、塩基性のイミダゾール環をこの化合物の分子内に有している。塩基性のイミダゾール環は、二酸化炭素との親和性が高く、かつイミダゾール環の窒素原子部位は水素結合を形成しやすく、プロトンの伝導の向上に寄与する。
そのため、前記一般式(1)で表される化合物を配位子とした多孔性金属錯体は、細孔内に塩基性基を有するために、細孔内に二酸化炭素を保持しやすく、かつ多電子還元に必要なプロトンの伝達をより効率的に行える。
【0019】
更に、前記一般式(1)で表される化合物は、π共役系が平面的に広がったトリフェニレン骨格を化合物の中心部に有している。π共役系が平面的に広がったトリフェニレン骨格は、π電子が非局在化していることから、導電性の向上に寄与する。
そのため、前記一般式(1)で表される化合物を配位子とした多孔性金属錯体は、トリフェニレン骨格部分に存在するπ電子が、トリフェニレン骨格分子間で相互作用(π−πスタッキング)し、細孔内において電子伝導パスを形成する。その結果として、導電性を高めることができ、電子伝達をより効率的に行える。
【0020】
Ar
1、Ar
2、及びAr
3における芳香族炭化水素環に置換できる炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。
【0021】
前記芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられる。
【0022】
<化合物の製造方法>
前記一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘキサアミノトリフェニレン(HATP)と下記一般式(11)で表される化合物とを反応させる方法などが挙げられる。ヘキサアミノトリフェニレンと下記一般式(11)で表される化合物との反応は、ヘキサアミノトリフェニレンの隣接した2つのアミノ基と、前記一般式(11)のアルデヒド基とが酸素存在下で脱水縮合してイミダゾール環を形成する反応である。
【化3】
【化4】
前記一般式(11)中、Arは、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。なお、Arは、上述したAr
1、Ar
2、Ar
3と同様である。
【0023】
(吸着剤)
開示の吸着剤は、中心金属と、配位子とを含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記吸着剤は、多孔質である。
前記吸着剤は、いわゆる多孔性金属錯体である。
前記多孔性金属錯体とは、金属イオンと、アニオン性配位子とを含有する多孔性材料である。前記多孔性金属錯体(MOF)は、多孔性配位高分子(PCP)とも呼ばれることがある。
【0024】
<中心金属>
中心金属としては、例えば、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<配位子>
配位子は、中心金属に配位する。
配位子は、前記一般式(1)で表される化合物である。
【0026】
<その他の成分>
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロトン伝導性物質などが挙げられる。
プロトン伝導性物質は、形成された多孔性金属錯体の細孔内に挿入し、配位子のイミダゾール環と水素結合をする物質である。プロトン伝導性物質は、細孔内で配位子のイミダゾール環と水素結合をして、水素結合パスを形成することから、吸着剤のプロトン伝導性を向上できる。
プロトン伝導性物質としては、例えば、イミダゾール誘導体、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホ基、若しくはアミノ基を官能基として有する低分子又は高分子、イオン液体、ナフィオン(登録商標)分散液などが挙げられる。
【0027】
(吸着剤の製造方法)
吸着剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一般的な多孔性金属錯体の製造方法を参照することができる。一般的な多孔性金属錯体の製造方法としては、例えば、中心金属の金属塩と、配位子と、水と、を含有する混合液を加熱する方法などが挙げられる。
混合液を加熱する方法としては、密閉容器に混合液を入れ加熱する方法であるソルボサーマル法の一種である水熱合成法が好ましい。
【0028】
混合液は、中心金属の金属塩と、配位子と、水とを含有し、更に必要に応じて有機溶媒などその他の成分を含有する。
中心金属の金属塩とは、多孔性金属錯体の中心金属の金属塩であり、中心金属は上述のものである。金属塩の対イオンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、硝酸イオン、酢酸イオンなどが挙げられる。
配位子は、中心金属に配位し、前記一般式(1)で表される。
有機溶媒としては、配位子を溶解させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノールなどが挙げられる。
混合液における金属塩と配位子との割合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、物質量比で金属塩:配位子=1:3程度が好ましい。
【0029】
混合液の加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、100℃〜110℃が好ましい。
混合液の加熱時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、3日間〜4日間が好ましい。
【0030】
(二酸化炭素還元用電極)
開示の二酸化炭素還元用電極は、金属含有部材と、吸着剤とを少なくとも有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0031】
<金属含有部材>
前記金属含有部材としては、その表面に二酸化炭素を還元可能な金属を有する部材であれば、その材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記金属含有部材を用いた二酸化炭素の還元は、通常、前記金属含有部材に通電された際に起こる。前記還元により、二酸化炭素は、ギ酸ないし一酸化炭素、ホルムアルデヒド、メタノール、メタンと、有用性の高い物質へと変化する。
【0032】
前記金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、二酸化炭素を多電子還元する能力の点で、銅、銀、金、亜鉛、インジウムが好ましい。
【0033】
前記金属含有部材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
【0034】
前記金属含有部材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、それ自体が二酸化炭素を還元可能な金属で構成されていてもよいし、芯材表面に、二酸化炭素を還元可能な金属の薄膜が配された構造であってもよい。
前記芯材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属製芯材、樹脂製芯材、ガラス製芯材などが挙げられる。前記金属製芯材は、二酸化炭素を還元可能な金属であってもよいし、二酸化炭素を還元可能な金属でなくてもよい。
前記薄膜としては、例えば、メッキ膜、スパッタ膜などが挙げられる。
【0035】
<吸着剤>
前記吸着剤は、開示の前記吸着剤である。
前記吸着剤は、前記金属含有部材の表面に配される。
【0036】
ここで、前記二酸化炭素還元用電極の一例を図を用いて説明する。
図1は、二酸化炭素還元用電極1の断面模式図である。
図1の二酸化炭素還元用電極1は、金属含有部材2の表面に吸着剤3が層状に配置されている。
【0037】
前記吸着剤は、プロトン伝導性に優れている。そのような吸着剤が前記金属含有部材の表面に配されていることにより、プロトン(例えば、水の分解により生じたプロトン)が前記吸着剤の反応場である細孔内又は細孔近傍へ伝達される。
また、前記吸着剤は、二酸化炭素の吸着性に優れている。そのため、前記二酸化炭素還元用電極は、細孔内等に二酸化炭素を多量に吸着、保持できる。
【0038】
前記吸着剤を、前記金属含有部材の表面に配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記吸着剤を含有する塗布物を前記金属含有部材に塗布する方法、前記吸着剤自体を前記金属含有部材に吹き付ける方法などが挙げられる。
【0039】
前記塗布する方法に使用する前記塗布物は、前記吸着剤と、接着成分とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記接着成分は、導電性を有することが好ましい。そのような成分としては、例えば、カーボンペースト、導電性樹脂などが挙げられる。
前記塗布物における、前記吸着剤と、前記接着成分との割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
前記吹き付ける方法としては、例えば、エアロゾルデポジションなどが挙げられる。
【0041】
(二酸化炭素還元装置)
開示の二酸化炭素還元装置は、二酸化炭素還元用電極をカソード側の電極として有する。
【0042】
前記二酸化炭素還元装置の反応の一例を以下に示す。
前記二酸化炭素還元装置のアノード側では、例えば、アノード電極に照射された光エネルギーを利用して、以下に示す水の分解が生じる。
H
2O → 1/2O
2 + 2H
+ +2e
−
一方、前記二酸化炭素還元装置のカソード側では、例えば、以下に示す二酸化炭素の還元が生じる。
CO
2 + 2H
+ + 2e
− → HCOOH
トータルの反応式としては、例えば、以下のようになる。
H
2O + CO
2 → HCOOH + 1/2O
2
生成するギ酸は、例えば、濃縮され回収される。
【0043】
<第一の態様>
開示の二酸化炭素還元装置の第一の態様は、二酸化炭素還元用電極をカソード側の電極として有し、更に必要に応じて、カソード槽、アノード槽、プロトン透過膜などのその他の部材を有する。
前記二酸化炭素還元用電極は、開示の前記二酸化炭素還元用電極である。
【0044】
<<カソード槽>>
前記カソード槽は、前記二酸化炭素還元用電極を備える。
【0045】
<<アノード槽>>
前記アノード槽は、アノード電極を有し、更に必要に応じて、その他の部を有する。
アノード電極及びカソード電極に対して外部電源を用いて通電して行う通常の電解還元における前記アノード電極の材質としては、例えば、Ptなどが挙げられる。
一方、アノード電極に光を照射して行う二酸化炭素の電解還元(所謂人工光合成)における前記アノード電極の材質としては、例えば、水の酸化分解が可能な光励起材料や多接合半導体などが挙げられる。前記光励起材料としては、例えば、窒化物半導体層を具備するアノード電極などが挙げられる。
【0046】
<<プロトン透過膜>>
前記プロトン透過膜は、前記カソード槽と前記アノード槽との間に挟まれている。
前記プロトン透過膜は、前記カソード槽内の電解液と、前記アノード槽内の電解液とが混合することを防ぐ。
【0047】
前記プロトン透過膜は、ほぼプロトンのみがプロトン透過膜を通過し、かつ他の物質がプロトン透過膜を通過できないものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。
なお、ナフィオンは、炭素−フッ素からなる疎水性テフロン(登録商標)骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロカーボン材料である。具体的には、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体である。
【0048】
<<その他の部材>>
前記その他の部材としては、例えば、第1電解液、第2電解液、二酸化炭素供給部材、電源、光源などが挙げられる。
【0049】
−第1電解液−
前記第1電解液は、前記カソード槽内に収容される。
前記第1電解液としては、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0050】
前記第1電解液における電解質の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2mol/L以上が好ましく、1mol/L以上がより好ましい。
【0051】
−第2電解液−
前記第2電解液は、前記アノード槽内に収容される。
前記第2電解液としては、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0052】
前記第2電解液における電解質の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2mol/L以上が好ましく、1mol/L以上がより好ましい。
【0053】
−二酸化炭素供給部材−
前記二酸化炭素供給部材としては、前記カソード槽に二酸化炭素を供給する部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0054】
−電源−
前記電源としては、直流電流を印加可能な部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
−光源−
前記光源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キセノンランプなどが挙げられる。
前記光源は、アノード電極に光を照射して行う二酸化炭素の電解還元(所謂人工光合成)において、前記アノード電極に光を照射するために用いられる。
【0056】
ここで、開示の二酸化炭素還元装置の第一の態様の一例を図を用いて説明する。
図2は、二酸化炭素還元装置100Aの断面模式図である。
図2の二酸化炭素還元装置100Aは、カソード槽110と、アノード槽120と、プロトン透過膜130と、二酸化炭素供給部材140と、定電圧電源装置150と、参照電極160とを有する。
カソード槽110とアノード槽120との間には、プロトン透過膜130が挟まれている。
カソード槽110には、第1電解液112が収容されている。そして、カソード槽110内において、二酸化炭素還元用電極1と、参照電極160とが、第1電解液112に浸されている。
アノード槽120には、第2電解液122が収容されている。そして、アノード槽120内において、アノード電極121が、第2電解液122に浸されている。
【0057】
二酸化炭素供給部材140は、例えば、中空の棒状部材であり、その一方の先端が第1電解液112に浸っており、第1電解液112に二酸化炭素を供給する。
そのため、第1電解液112には二酸化炭素が溶解している。
【0058】
二酸化炭素還元装置100Aにおいては、定電圧電源装置150により、カソード電極である二酸化炭素還元用電極1と、アノード電極121との間に電圧が印加される。そうすると、アノード側では、水の酸化分解が生じ、一方、カソード側では、二酸化炭素の還元が生じる。カソード側では、吸着剤3の作用により、金属含有部材2の表面に二酸化炭素を保持できる。更に、吸着剤3のプロトン伝導性が高められている。そのため、二酸化炭素の還元を効率的に行うことができる。
【0059】
図3は、二酸化炭素還元装置100Bの断面模式図である。
図3の二酸化炭素還元装置100Bは、カソード槽110と、アノード槽120と、プロトン透過膜130と、二酸化炭素供給部材140と、光源170とを有する。
カソード槽110とアノード槽120との間には、プロトン透過膜130が挟まれている。
カソード槽110には、第1電解液112が収容されている。そして、カソード槽110内において、二酸化炭素還元用電極1が、第1電解液112に浸されている。
アノード槽120には、第2電解液122が収容されている。そして、アノード槽120内において、アノード電極121が、第2電解液122に浸されている。アノード電極121は、二酸化炭素還元用光化学電極である。
【0060】
二酸化炭素供給部材140は、例えば、中空の棒状部材であり、その一方の先端が第1電解液112に浸っており、第1電解液112に二酸化炭素を供給する。
そのため、第1電解液112には二酸化炭素が溶解している。
【0061】
二酸化炭素還元装置100Bにおいては、光源170からの光がアノード電極121に照射されたアノード槽120では、水の酸化分解が生じる。その反応によって、導線180により接続されたアノード電極121とカソード電極である二酸化炭素還元用電極1との間に起電力が生じる。その起電力により、カソード側では、二酸化炭素の還元が生じる。カソード側では、吸着剤3の作用により、金属含有部材2の表面に二酸化炭素を保持できる。更に、吸着剤3のプロトン伝導性が高められている。そのため、二酸化炭素の還元を効率的に行うことができる。
【0062】
<第二の態様>
開示の二酸化炭素還元装置の第二の態様は、アノード電極と、保液膜と、プロトン透過膜と、カソード電極とを有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0063】
<<アノード電極>>
前記アノード電極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
アノード電極及びカソード電極に対して外部電源を用いて通電して行う通常の電解還元における前記アノード電極の材質としては、例えば、Ptなどが挙げられる。
一方、アノード電極に光を照射して行う二酸化炭素の電解還元(所謂人工光合成)における前記アノード電極の材質としては、例えば、水の酸化分解が可能な光励起材料や多接合半導体などが挙げられる。前記光励起材料としては、例えば、窒化物半導体層を具備するアノード電極などが挙げられる。
【0064】
<<保液膜>>
前記保液膜としては、電解液を保持可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層状の吸水材などが挙げられる。前記層状の吸水材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層状の多孔体などが挙げられる。
前記保液膜としては、市販品を用いることができる。前記市販品としては、例えば、ユニチカ株式会社製の高機能多孔板「ユニベックスSB」などが挙げられる。係る多孔板は、ポリエステル繊維からなる吸水性の多孔板である。
【0065】
前記保液膜の形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
<<プロトン透過膜>>
前記プロトン透過膜は、例えば、前記保液膜と、前記カソード電極との間に挟まれている。
前記プロトン透過膜は、前記保液膜に保持された電解液が、前記カソード電極と接触することを防ぐ。
【0067】
前記プロトン透過膜は、ほぼプロトンのみがプロトン透過膜を通過し、かつ他の物質がプロトン透過膜を通過できないものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。
なお、ナフィオンは、炭素−フッ素からなる疎水性テフロン(登録商標)骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロカーボン材料である。具体的には、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体である。
【0068】
<<カソード電極>>
前記カソード電極は、開示の前記二酸化炭素還元用電極である。
前記カソード電極において、前記吸着剤は、少なくとも前記プロトン透過膜側の前記金属含有部材の表面に配されることが好ましい。
【0069】
<<その他の部材>>
前記その他の部材としては、例えば、電解液、電源、光源などが挙げられる。
【0070】
−電解液−
前記電解液は、前記保液膜に保持される。
前記電解液としては、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0071】
前記電解液における電解質の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2mol/L以上が好ましく、1mol/L以上がより好ましく、2mol/L以上が特に好ましい。
【0072】
−電源−
前記電源としては、直流電流を印加可能な部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0073】
−光源−
前記光源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キセノンランプなどが挙げられる。
前記光源は、アノード電極に光を照射して行う二酸化炭素の電解還元(所謂人工光合成)において、前記アノード電極に光を照射するために用いられる。
【0074】
ここで、開示の二酸化炭素還元装置の第二の態様の一例を図を用いて説明する。
図4は、二酸化炭素還元装置10Aの断面模式図である。
二酸化炭素還元装置10Aは、アノード電極12と、保液膜13と、プロトン透過膜14と、カソード電極である二酸化炭素還元用電極1とをこの順で有する。更に、定電圧電源装置15を有する。
二酸化炭素還元用電極1においては、金属含有部材2の表面(片面)に吸着剤3が層状に配置されている。
アノード電極12は保液膜13と接しており、保液膜13はプロトン透過膜14と接しており、プロトン透過膜14は二酸化炭素還元用電極1の吸着剤3と接している。
保液膜13には、電解液が保持されている。
【0075】
二酸化炭素還元装置10Aにおいては、定電圧電源装置15により、二酸化炭素還元用電極1と、アノード電極12との間に電圧が印加される。そうすると、アノード側では、水の酸化分解が生じ、一方、カソード側では、二酸化炭素の還元が生じる。カソード側では、吸着剤3の作用により、金属含有部材2の表面に二酸化炭素を保持できる。更に、吸着剤3のプロトン伝導性が高められている。そのため、二酸化炭素の還元を効率的に行うことができる。
更に、電解液が保液膜13に保持されているため、電解液への二酸化炭素の溶解、及び電解液への生成物の溶解が少ない。加えて、プロトン透過膜14により、電解液と吸着剤との接触が防がれているため、吸着剤の細孔へ電解液が進入することを防ぐことができる。したがって、反応場への二酸化炭素の供給、及び反応場からの生成物の回収を効率的に行うことができる。
【0076】
図5は、二酸化炭素還元装置10Bの断面模式図である。
二酸化炭素還元装置10Bは、アノード電極12と、保液膜13と、プロトン透過膜14と、カソード電極である二酸化炭素還元用電極1とをこの順で有する。更に、光源16を有する。
二酸化炭素還元用電極1においては、金属含有部材2の表面(片面)に吸着剤3が層状に配置されている。
アノード電極12は保液膜13と接しており、保液膜13はプロトン透過膜14と接しており、プロトン透過膜14は二酸化炭素還元用電極1の吸着剤3と接している。
保液膜13には、電解液が保持されている。
アノード電極12は、二酸化炭素還元用光化学電極である。
【0077】
二酸化炭素還元装置10Bにおいては、光源16からの光がアノード電極12に照射されることで、アノード電極12表面では、水の酸化分解が生じる。その反応によって、導線17により接続されたアノード電極12と二酸化炭素還元用電極1との間に起電力が生じる。その起電力により、カソード側では、二酸化炭素の還元が生じる。カソード側では、吸着剤3の作用により、金属含有部材2の表面に二酸化炭素を保持できる。更に、吸着剤3のプロトン伝導性が高められている。そのため、二酸化炭素の還元を効率的に行うことができる。
更に、電解液が保液膜13に保持されているため、電解液への二酸化炭素の溶解、及び電解液への生成物の溶解が少ない。加えて、プロトン透過膜14により、電解液と吸着剤との接触が防がれているため、吸着剤の細孔へ電解液が進入することを防ぐことができる。したがって、反応場への二酸化炭素の供給、及び反応場からの生成物の回収を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0078】
以下、開示の技術について説明するが、開示の技術は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
(比較例1)
CO
2吸着性能を有する多孔性金属錯体として、Ni
2(dobdc)錯体を合成し、評価した。Ni
2(dobdc)錯体は、下記構造の化合物を配位子として有する錯体である。
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(下記構造式)のTHF(テトラヒドロフラン)溶液と、酢酸ニッケル四水和物の水溶液とを、1:2(2,5−ジヒドロキシテレフタル酸:酢酸ニッケル四水和物)のモル比で混合し、耐圧容器を用い、110℃で3日間加熱するソルボサーマル法により、黄色粉末であるNi
2(dobdc)錯体を得た。合成は、以下の文献を参考にして行った。
<文献>
Liu, J.; Tian, J.; Thallapally, P. K.; McGrail, B. P. J. Phys. Chem. C 2012, 116, 9575−9581.
【化5】
【0080】
得られた粉末試料について、CO
2吸着特性をガス/蒸気吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した結果、
図7の吸着等温線が得られた。
また、得られた粉末試料を直径5mm、厚さ0.3mmのペレットに成形し、I−V測定装置(キーサイト社製、B2901A)を用いて電気抵抗率を測定した結果、表1の値を得た。
【0081】
(比較例2)
多孔性金属錯体Cu(mipt)錯体を下記文献の方法に従い、ソルボサーマル法を用いて合成した。Cu(mipt)錯体は、下記構造の化合物を配位子として有する錯体である。具体的には、下記構造式で表される5−メチルイソフタル酸と、硝酸銅六水和物とを、DMF+MeOH中、100℃で4日間加熱することで、青白色の錯体粉末を得た。
<文献>
N. L. Rosi, J. Kim, M. Eddaoudi, B. Chen, M. O’Keeffe, O. M. Yaghi, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 1504−1518
【化6】
【0082】
得られた粉末試料について、CO
2吸着特性をガス/蒸気吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した結果、
図7の吸着等温線が得られた。
また、得られた粉末試料を直径5mm、厚さ0.3mmのペレットに成形し、I−V測定装置(キーサイト社製、B2901A)を用いて電気抵抗率を測定した結果、表1の値を得た。
【0083】
(実施例1)
2,3,6,7,10,11−ヘキサブロモトリフェニレン(和光純薬株式会社製)を原料として、下記文献の方法で2,3,6,7,10,11−ヘキサアミノトリフェニレン6塩酸塩(HATP)を合成した。得られたHATPと5−ホルミルサリチル酸(和光純薬株式会社製)とをモル比1:3で、−30℃、窒素雰囲気下で、ジメチルホルムアミド(DMF)中で混合、3時間撹拌した後、常温に戻してから空気を通気し、130℃、24時間加熱することで、下記構造の化合物(配位子)を得た。得られた配位子について赤外分光光度計でIRスペクトルを測定したところ、HATPにおいて3000cm
−1付近に観測されるν(N−H)が消失しており、またホルミルサリチル酸において1650cm
−1付近に観測されるν(C=O)が一部消失していることから、アミノ基とアルデヒドとの縮合反応が生じていることが確認された(
図6)。
得られた配位子と酢酸ニッケル6水和物(和光純薬製)とをモル比1:3でDMF/水(DMF:水=1:1)中で混合し、110℃で水熱合成することで、多孔性金属錯体を得た。
<文献>
L. Chen, J. Kim, T. Ishizuka, Y. Honsho, A. Saeki, S. Seki, H. Ihee, D. Jiang, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 7287−7292
【化7】
【0084】
得られた粉末試料について、CO
2吸着特性をガス/蒸気吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した結果、
図7の吸着等温線が得られ、1気圧で約20cm
3g
−3と、比較例2より大きい二酸化炭素を吸着する能力を有していることが確認された。
また、この粉末試料を直径5mm、厚さ0.3mmのペレットに成形し、I−V測定装置(キーサイト社製、B2901A)を用いて電気抵抗率を測定した結果、表1の値を得、比較例1より導電率が高くなっていることが確認された。
【0085】
【表1】
【0086】
更に以下の付記を開示する。
(付記1)
中心金属と、前記中心金属に配位する配位子と、を有する多孔性金属錯体であり、
前記配位子が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする吸着剤。
【化8】
前記一般式(1)中、Ar
1〜Ar
3は、それぞれ独立して、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。
(付記2)
Ar
1における前記芳香族炭化水素環が、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環であり、
Ar
2における前記芳香族炭化水素環が、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環であり、
Ar
3における前記芳香族炭化水素環が、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環である、
付記1に記載の吸着剤。
(付記3)
前記中心金属が、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、鉄、及びコバルトから選択される少なくともいずれかである付記1から2のいずれかに記載の吸着剤。
(付記4)
金属塩と、前記金属塩の金属と結合可能な配位子と、水と、を含有する混合液を加熱することを含む吸着剤の製造方法であって、
前記配位子が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする吸着剤の製造方法。
【化9】
前記一般式(1)中、Ar
1〜Ar
3は、それぞれ独立して、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。
(付記5)
下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。
【化10】
前記一般式(1)中、Ar
1〜Ar
3は、それぞれ独立して、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。
(付記6)
二酸化炭素を還元可能な金属を有する金属含有部材と、
前記金属含有部材の表面に、吸着剤と、を有し、
前記吸着剤が、中心金属と、前記中心金属に配位する配位子と、を有する多孔性金属錯体であり、
前記配位子が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする二酸化炭素還元用電極。
【化11】
前記一般式(1)中、Ar
1〜Ar
3は、それぞれ独立して、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。
(付記7)
前記金属含有部材の材質が、銅、銀、金、亜鉛、及びインジウムの少なくともいずれかである付記6に記載の二酸化炭素還元用電極。
(付記8)
二酸化炭素還元用電極をカソード側の電極として有する二酸化炭素還元装置であって、
前記二酸化炭素還元用電極が、二酸化炭素を還元可能な金属を有する金属含有部材と、前記金属含有部材の表面に吸着剤と、を有し、
前記吸着剤が、中心金属と、前記中心金属に配位する配位子とを有する多孔性金属錯体であり、
前記配位子が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【化12】
前記一般式(1)中、Ar
1〜Ar
3は、それぞれ独立して、非置換、又は炭素数1〜4のアルキル基による置換の芳香族炭化水素環を表す(ただし、前記芳香族炭化水素環に結合するカルボキシ基及びヒドロキシ基は、前記芳香族炭化水素環における隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合している)。