【文献】
MCCARTY, Jamesほか,"A variational conformational dynamics approach to the selection of collective variables in metadynamics",[online],2017年12月08日,[2021年9月28日検索], インターネット<URL:https://arxiv.org/pdf/1703.08777>
【文献】
谷田義明ほか,"古典ポテンシャル系のメタダイナミクスによる準安定構造探索",Journal of Computer Chemistry, Japan, [online],日本コンピュータ化学会,2016年10月19日,第15巻, 第3号,P.71-73,インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jccj/15/3/15_2016-0033/_article/-char/ja>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(安定結合構造の算出方法)
開示の安定結合構造の算出方法は、コンピュータを用いた、標的分子及び薬候補分子の安定結合構造の算出方法である。
【0013】
本発明者は、メタダイナミクスを用いた安定結合構造の探索を検討した。前記メタダイナミクスは、
図1A〜
図1Cに示すように、ポテンシャルの谷をペナルティ関数P(f)で埋めていくことで、結合構造Sが探索可能な構造空間の範囲を広げようとするものである。そのため、前記メタダイナミクスでは、シミュレーション温度を高く設定して室温のシミュレーションでは探索できない構造空間まで探索範囲を広げるシミュレーテッドアニーリングのような標的分子の変性が起こらず、かつ水分子のネットワークを壊すこともない。
前記メタダイナミクスでは、探索する構造空間が広いために複数の安定結合構造を探索することができる。
【0014】
ここで、前記メタダイナミクスとは、タブーサーチの1手法であり、座標軸に、存在確率に比例したポテンシャルを置く(ペナルティ関数を与える)ことで、一度訪れた領域への存在確率を抑制して座標上に平滑な確率分布を実現する手法である。なお、前記ペナルティ関数には、ガウス分布が用いられることが多い。
言い換えれば、前記メタダイナミクスとは、系の自由エネルギー曲面(極小)に、ペナルティ関数により微小ポテンシャルを次々と足していき、自由エネルギー表面を平滑化する手法である。
【0015】
しかし、メタダイナミクスを標的分子と薬候補分子との安定結合構造の探索に用いようとすると、探索する構造空間が広いために、標的分子と薬候補分子との安定結合構造の探索に用いる通常の2つの集団変数〔距離(例えば、標的分子の重心と薬候補分子の重心との距離)、標的分子の重心と薬候補分子の重心とを繋ぐ線と、薬候補分子の重心と薬候補分子の構成原子の1個とを繋ぐ線との成す角度〕を用いると、計算時間が非常に長くなってしまうという問題がある。
ここで、集団変数とは、探索する空間を構成する変数のことをいう。
【0016】
本発明者はそのような問題を解決するために、次のような実験事実を利用し、開示の技術を見出した。
(i)一般的に、リガンド分子(薬候補分子)は1個以上のヘテロ環を持つ。
(ii)安定結合構造では、標的分子の結合サイト内の形状とリガンド分子のヘテロ環とが合致する。
【0017】
そして、本発明者は、集団変数を特定の1つにすることにより、効率的に複数の安定結合構造が探索できることを見出し、開示の技術の完成に至った。
【0018】
開示の安定結合構造の算出方法は、コンピュータを用いた、標的分子及びヘテロ環を有する薬候補分子の安定結合構造の算出方法である。
前記安定結合構造の算出方法においては、メタダイナミクスを用いて、前記標的分子と前記薬候補分子との安定結合構造を探索する際に、前記標的分子、及び前記標的分子の結合サイトに前記薬候補分子が配置された構造空間において、二面角を集団変数として、前記標的分子と前記薬候補分子との前記安定結合構造の探索を行う。
前記二面角は、下記点A1、下記点A2、及び下記点A3から形成される面Xと、下記点A1、下記点A2、及び下記点A4から形成される面Yとがなす二面角である。
点A1は、前記標的分子の結合サイトの表面のうちで前記ヘテロ環が存在しうる領域を用いて決定される点である。前記領域が複数ある場合、前記点A1は、複数の前記領域を代表する点である。
点A2は、前記ヘテロ環を代表する点である。
点A3は、前記結合サイトを代表する点である。
点A4は、前記薬候補分子を代表する点である。
ただし、前記点A1と前記点A3とは重複せず、前記点A2と前記点A4とは重複せず、かつベクトルA1A2及びベクトルA2A3と、ベクトルA2A4とは一次独立である。
【0019】
前記標的分子、及び前記標的分子の結合サイトに前記薬候補分子が配置された構造空間の作成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記標的分子及び前記薬候補分子の分子動力学シミュレーションなどが挙げられる。前記構造空間は、例えば、3次元座標空間である。また、前記標的分子の結合サイトに、前記薬候補分子を、水素結合、ファンデルワールス力等を考慮して手動で配置してもよい。なお、前記標的分子、及び前記標的分子の結合サイトに前記薬候補分子が配置された状態は、エネルギーの極小値である安定結合構造であることが好ましい。ただし、必ずしも安定結合構造である必要はない。
【0020】
前記分子動力学シミュレーションは、分子動力学計算プログラムを用いて行うことができる。前記分子動力学計算プログラムとしては、例えば、AMBER、CHARMm、GROMACS、GROMOS、NAMD、myPrestoなどが挙げられる。
【0021】
前記標的分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンパク質、RNA(リボ核酸、ribonucleic acid)、DNA(デオキシリボ核酸、deoxyribonucleic acid)などが挙げられる。
【0022】
前記薬候補分子としては、ヘテロ環を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記薬候補分子は、前記ヘテロ環を1つ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。ここで、前記薬候補分子において前記ヘテロ環の数を数える際、2個以上の環が2個又はそれ以上の原子を共有して結合している場合、1つと数える。2個以上の環が軸回転不可能な二重結合を介して結合している場合も、1つと数える。一方、例えば、2個の環が、軸回転可能な単結合を介して結合している場合は、2つと数える。例えば、テオフィリン、プリンにおける前記ヘテロ環の数は1つである。
前記ヘテロ環としては、例えば、脂肪族ヘテロ環、5員環芳香族ヘテロ環、6員環芳香族ヘテロ環、多環芳香族ヘテロ環など挙げられる。
前記脂肪族ヘテロ環としては、例えば、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、キヌクリジン環、ピロリジン環、アゼチジン環、オキセタン環、アゼチジン−2−オン環、アジリジン環、トロパン環などが挙げられる。
前記5員環芳香族ヘテロ環としては、例えば、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環などが挙げられる。
前記6員環芳香族ヘテロ環としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、1,2,3−トリアジン環などが挙げられる。
前記多環芳香族ヘテロ環としては、例えば、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、フタラジン環、プテリジン環、クマリン環、クロモン環、1,4−ベンゾジアゼピン環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾフラン環、プリン環、アクリジン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環などが挙げられる。
【0023】
前記安定結合構造の探索は、溶媒中で行うことが好ましく、水中で行うことがより好ましい。そうすることにより、生体内における結合構造により近い安定結合構造を得ることができる。
【0024】
コンピュータを用いた、標的分子及び薬候補分子の安定結合構造の算出に、前記メタダイナミクスを用いる際の、前記メタダイナミクスの具体的手法については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、文献(Francesco Luigi Gervasio, Alessandro Laio, and Michele Parrinello, J. AM. CHEM. SOC. 2005,127, 2600−2607)を参照して行うことができる。
【0025】
前記メタダイナミクスを用いた前記安定結合構造の探索は、例えば、前記標的分子及び前記薬候補分子の分子動力学シミュレーションにおいて、スナップショットにおける結合構造のポテンシャルエネルギーに対して、ペナルティ関数(ペナルティポテンシャル)を付与することにより行うことができる。この際に、集団変数として、前記二面角が用いられる。
前記ペナルティ関数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常、ガウス分布型の関数である。
前記ペナルティ関数のパラメータにおける幅、高さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ペナルティ関数は、通常、複数回付与される。前記ペナルティ関数を付与する頻度(時間間隔)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。即ち、前記分子動力学シミュレーションにおける時間刻み(time step)毎に前記ペナルティ関数を付与してもよいし、数個の時間刻みを一単位として、その一単位毎に前記ペナルティ関数を付与してもよい。その際、使用される前記ペナルティ関数のパラメータは固定されていることが好ましい。
【0026】
前記標的分子の結合サイトの決定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、標的分子の結合サイトが既知の場合は、その結合サイトを利用してもよい。結合サイトが未知の標的分子を用いる場合は、標的分子の立体構造からその表面を観察して適宜決定してもよい。例えば、標的分子の立体構造の表面において、くぼみが多い箇所をその標的分子の結合サイトとしてもよい。
【0027】
前記標的分子の結合サイトの表面のうちで前記ヘテロ環が存在しうる領域は、例えば、前記結合サイト内のくぼみである。ここで、前記くぼみとは、一般的にファンデルワールス半径で各原子を記述したときの表面が描く形状を意味する。前記くぼみには、前記ヘテロ環が相互作用しやすく、前記ヘテロ環が存在しやすい。
前記領域は、前記結合サイト内に、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0028】
前記点A1は、前記領域を用いて決定される点である。前記点A1は、例えば、前記領域の重心である。前記領域が、前記結合サイト内に複数ある場合、前記点A1は、例えば、複数の前記領域の全重原子の重心として求められる。
前記領域の重心は、例えば、前記領域の表面に存在する重原子を用いて求められる。
開示の技術において、重心は、水素原子以外の原子である重原子の質量と、位置ベクトルとから決定される。
【0029】
前記点A2は、前記ヘテロ環を代表する点である。前記点A2は、例えば、前記ヘテロ環の重心である。
【0030】
前記点A3は、前記結合サイトを代表する点である。前記点A3は、例えば、前記結合サイトの重心である。ここで、前記結合サイトは、一般的にファンデルワールス半径で各原子を記述して探索することができる。そして、前記結合サイトの重心は、例えば、前記結合子の表面に存在する重原子を用いて求められる。
【0031】
前記点A4は、前記薬候補分子を代表する点である。前記点A4は、例えば、前記薬候補分子の任意の重原子の座標である。また、例えば、前記点A4は、前記薬候補分子の重心であってもよい。
【0032】
前記集団変数である前記二面角の決定方法の一例を、
図2A、及び
図2Bを用いて説明する。
図2Aは、標的分子の結合サイトの上面模式図である。
図2Bは、標的分子の結合サイトの側面模式図である。
この例では、
図2Aに示すように、標的分子の結合サイトP内に、ヘテロ環が存在しうる3つの領域S1、S2、S3が存在している。領域S1、S2、S3は、例えば、結合サイトP内のくぼみである。これら3つのくぼみ(領域S1、S2、S3)を利用して薬候補分子Lが標的分子と結合する。この3つのくぼみ(領域S1、S2、S3)の重原子の重心を点A1とする。
【0033】
次に、領域S1に薬候補分子Lのヘテロ環が納まる場合を考える。そして、薬候補分子Lのヘテロ環の重心を点A2とし、結合サイトPの重心を点A3とする。更に、ベクトルA1A2、ベクトルA2A3と一次独立なベクトルの向きにある薬候補分子Lの構成原子をA4とする。そして、A1−A2−A3平面XとA1−A2−A4平面Yとのなす二面角Ψを、安定結合構造を探索する際の集団変数とする。このように集団変数を求めることによって、この集団変数の張る構造空間の探索範囲内で、領域S1、S2、S3を探索できることになる。また、どのような安定結合構造であっても、ここに詳述した方法で各代表点A1、A2、A3、A4を決定することで、ただ一つの集団変数による探索が可能となる。
なお、上記のように集団変数を二面角Ψのみにしても、薬候補分子L自体は構造空間を動くことができるため、薬候補分子Lは、領域S1から領域S2へ移動することもできるし、又は領域S2から領域S3へ移動することもできる。また、薬候補分子は、A1A2線を回転軸として回転可能(言い換えれば、A2の決定に関与したヘテロ環を略中心として回転可能)なため、回転も加味して各領域へのフィッティング状態を探索することもできる。
【0034】
前記安定結合構造の算出方法は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、各種周辺機器等を備えた通常のコンピュータシステム(例えば、各種ネットワークサーバ、ワークステーション、パーソナルコンピュータ等)を用いることによって実現することができる。
【0035】
ここで、開示の安定結合構造の算出方法の一例をフローチャートを用いて説明する。
図3は、開示の安定結合構造の算出方法の一例のフローチャートである。
【0036】
まず、標的分子の結合サイトに薬候補分子を配置する。
配置は、例えば、座標空間において、標的分子の結合サイトに薬候補分子を配置することで行うことができる。配置の方法としては、例えば、標的分子の立体構造データ、及び薬候補分子の立体構造データを用いて、3次元座標空間に、標的分子の立体構造、及び薬候補分子の立体構造を構築することなどが挙げられる。更に、溶媒分子中でメタダイナミクスを行う際には、溶媒分子の立体構造データを用いて、溶媒分子の立体構造を前記3次元座標空間に構築する。
立体構造データは、例えば、原子情報データ、座標情報データ及び結合情報データを有する。
これらのデータの形式は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テキストデータであってもよいし、SDF(Structure Data File)形式であってもよいし、MOLファイル形式であってもよい。
【0037】
続いて、二面角を決定する。二面角は、点A1、点A2、及び点A3から形成される面Xと、点A1、点A2、及び点A4から形成される面Yとがなす二面角として決定される。
ここで、点A1、点A2、点A3、及び点A4は、以下のとおりである。
点A1は、標的分子の結合サイトの表面のうちでヘテロ環が存在しうる領域を用いて決定される点である。
点A2は、ヘテロ環を代表する点である。
点A3は、結合サイトを代表する点である。
点A4は、薬候補分子を代表する点である。
ただし、点A1と点A3とは重複せず、点A2と点A4とは重複せず、ベクトルA1A2及びベクトルA2A3と、ベクトルA2A4とは一次独立である。
【0038】
続いて、決定された二面角のみを集団変数としてメタダイナミクス法による安定結合構造の探索を行う。
【0039】
以上により、安定結合構造が求められる。
【0040】
図4は、開示の安定結合構造の算出方法の他の一例のフローチャートである。
図4のフローチャートによる方法は、薬候補分子が2以上のヘテロ環を有する場合に有効な方法である。
【0041】
まず、標的分子の結合サイトに薬候補分子を配置する。
これは、例えば、座標空間において、標的分子の結合サイトに薬候補分子を配置することで行うことができる。配置の方法としては、例えば、標的分子の立体構造データ、及び薬候補分子の立体構造データを用いて、3次元座標空間に、標的分子の立体構造、及び薬候補分子の立体構造を構築することなどが挙げられる。更に、溶媒分子中でメタダイナミクスを行う際には、溶媒分子の立体構造データを用いて、溶媒分子の立体構造を前記3次元座標空間に構築する。
立体構造データは、例えば、原子情報データ、座標情報データ及び結合情報データを有する。
これらのデータの形式は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テキストデータであってもよいし、SDF(Structure Data File)形式であってもよいし、MOLファイル形式であってもよい。
【0042】
続いて、点A1を決定する。点A1は、標的分子の結合サイトの表面のうちでヘテロ環が存在しうる領域を用いて決定される。
【0043】
続いて、薬候補分子のヘテロ環の数をn個として設定する。探索回数値iの初期値は0である。
【0044】
続いて、点A2を決定する。点A2は、ヘテロ環を代表する点である。
【0045】
続いて、探索回数値は0のため、点3A及び点A4を決定する。そうすると、点A1、点A2、及び点A3から形成される面Xと、点A1、点A2、及び点A4から形成される面Yとがなす二面角も決定される。
ただし、点A1と点A3とは重複せず、点A2と点A4とは重複せず、かつベクトルA1A2及びベクトルA2A3と、ベクトルA2A4とは一次独立であるように各点が決定される。
【0046】
続いて、決定された二面角のみを集団変数としてメタダイナミクス法による安定結合構造の探索を行う。
【0047】
続いて、探索回数値iに1を加算する。
そして、i≦nの場合には、薬候補分子の異なるヘテロ環に対して点A2を決定する。
【0048】
続いて、探索回数値iが1以上の場合には、ベクトルA1A2及びベクトルA2A3と、ベクトルA2A4とが一次独立であるかどうかを判定する。
一次独立である場合には、点A4を変更せず、決定された二面角のみを集団変数としてメタダイナミクス法による安定結合構造の探索を行う。
一方、一次独立ではない場合には、点A4を再設定する。そうすることで二面角も再設定される。そして、再設定された二面角のみを集団変数としてメタダイナミクス法による安定結合構造の探索を行う。
【0049】
続いて、探索回数値iに1を加算する。
【0050】
そして、i≦nの場合には、薬候補分子の異なるヘテロ環に対して点A2を決定する。
一方、i>nの場合には、得られたデータの解析を実施し、安定結合構造を求める。
【0051】
(プログラム)
開示のプログラムは、コンピュータに、開示の前記安定結合構造の算出方法を実行させるプログラムである。
前記安定結合構造の算出方法の実行における好適な態様は、前記安定結合構造の算出方法における好適な態様と同じである。
【0052】
前記プログラムは、使用するコンピュータシステムの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、公知の各種のプログラム言語を用いて作成することができる。
【0053】
前記プログラムは、内蔵ハードディスク、外付けハードディスクなどの記録媒体に記録しておいてもよいし、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD−ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、MOディスク(Magneto−Optical disk)、USBメモリ〔USB(Universal Serial Bus) flash drive〕などの記録媒体に記録しておいてもよい。前記プログラムをCD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、USBメモリなどの記録媒体に記録する場合には、必要に応じて随時、コンピュータシステムが有する記録媒体読取装置を通じて、これを直接、又はハードディスクにインストールして使用することができる。また、コンピュータシステムから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピュータ等)に前記プログラムを記録しておき、必要に応じて随時、前記外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じてこれを直接、又はハードディスクにインストールして使用することもできる。
前記プログラムは、複数の記録媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0054】
(コンピュータが読み取り可能な記録媒体)
開示のコンピュータが読み取り可能な記録媒体は、開示の前記プログラムを記録してなる。
前記コンピュータが読み取り可能な記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内蔵ハードディスク、外付けハードディスク、CD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、USBメモリなどが挙げられる。
前記記録媒体は、前記プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体であってもよい。前記記録媒体は、可逆的であってもよいし、不可逆的であってもよい。
【0055】
(安定結合構造の算出装置)
開示の安定結合構造の算出装置は、探索部を少なくとも備え、更に必要に応じて、その他の部を備える。
前記探索部では、メタダイナミクスを用いて、前記標的分子と前記薬候補分子との安定結合構造を探索する際に、前記標的分子、及び前記標的分子の結合サイトに前記薬候補分子が配置された構造空間において、二面角を集団変数として、前記標的分子と前記薬候補分子との前記安定結合構造の探索を行う。
前記二面角は、前記点A1、前記点A2、及び前記点A3から形成される面Xと、前記点A1、前記点A2、及び前記点A4から形成される面Yとがなす二面角である。
前記点A1は、前記標的分子の結合サイトの表面のうちで前記ヘテロ環が存在しうる領域を用いて決定される点である。前記領域が複数ある場合、前記点A1は、複数の前記領域を代表する点である。
前記点A2は、前記ヘテロ環を代表する点である。
前記点A3は、前記結合サイトを代表する点である。
前記点A4は、前記薬候補分子を代表する点である。
ただし、前記点A1と前記点A3とは重複せず、前記点A2と前記点A4とは重複せず、ベクトルA1A2及びベクトルA2A3と、ベクトルA2A4とは一次独立である。
【0056】
前記算出装置は、前記プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体をそれぞれに備える複数の算出装置であってもよい。
【0057】
図5に、開示の安定結合構造の探索装置の構成例を示す。
安定結合構造の探索装置10は、例えば、CPU11、メモリ12、記憶部13、表示部14、入力部15、出力部16、I/Oインターフェース部17等がシステムバス18を介して接続されて構成される。
【0058】
CPU(Central Processing Unit)11は、演算(四則演算、比較演算等)、ハードウエア及びソフトウエアの動作制御などを行う。
【0059】
メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などのメモリである。前記RAMは、前記ROM及び記憶部13から読み出されたOS(Operating System)及びアプリケーションプログラムなどを記憶し、CPU11の主メモリ及びワークエリアとして機能する。
【0060】
記憶部13は、各種プログラム及びデータを記憶する装置であり、例えば、ハードディスクである。記憶部13には、CPU11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。
前記プログラムは、記憶部13に格納され、メモリ12のRAM(主メモリ)にロードされ、CPU11により実行される。
【0061】
表示部14は、表示装置であり、例えば、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置である。
入力部15は、各種データの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(例えば、マウス等)などである。
出力部16は、各種データの出力装置であり、例えば、プリンタである。
I/Oインターフェース部17は、各種の外部装置を接続するためのインターフェースである。例えば、CD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、USBメモリなどのデータの入出力を可能にする。
【0062】
図6に、開示の安定結合構造の探索装置の他の構成例を示す。
図6の構成例は、クラウド型の構成例であり、CPU11が、記憶部13等とは独立している。この構成例では、ネットワークインターフェース部19、20を介して、記憶部13等を格納するコンピュータ30と、CPU11を格納するコンピュータ40とが接続される。
ネットワークインターフェース部19、20は、インターネットを利用して、通信を行うハードウエアである。
【0063】
図7に、開示の安定結合構造の探索装置の他の構成例を示す。
図7の構成例は、クラウド型の構成例であり、記憶部13が、CPU11等とは独立している。この構成例では、ネットワークインターフェース部19、20を介して、CPU11等を格納するコンピュータ30と、記憶部13を格納するコンピュータ40とが接続される。
【0064】
表示部14は、表示装置であり、例えば、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置である。
入力部15は、各種データの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(例えば、マウス等)などである。
出力部16は、各種データの出力装置であり、例えば、プリンタである。
I/Oインターフェース部17は、各種の外部装置を接続するためのインターフェースである。例えば、CD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、USBメモリなどのデータの入出力を可能にする。
【実施例】
【0065】
以下、開示の技術について説明するが、開示の技術は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
標的分子としてRNA、及び薬候補分子としてテオフィリンを用いた。これらの結合構造(複合体)の結合自由エネルギーの実験値は、−8.9kcal/molである〔プロテインデータバンク(PDB)のPDB ID:1O15参照〕。テオフィリンにおけるヘテロ環はヘテロ縮合環1つである。
図3に示すフローにしたがって、開示の安定結合構造の探索方法を実施した。RNAの結合サイトの表面にテオフィリンを配置した後、二面角Ψ1は、
図8に示すように設定した。ここで、
図8に示す点A1〜点A4は以下のとおりである。dは、点A2と点A3の距離である。
点A1は、RNAのアミノ酸残基A7、C8、及びG26の重原子の重心である。
点A2は、テオフィリンのヘテロ環の重原子の重心である。
点A3は、RNAのアミノ酸残基C22、及びU24の重原子の重心である。
点A4は、テオフィリンの環の構成原子の一つが位置する座標である。
【0067】
上記で設定した集団変数としての二面角Ψ1を用いて、標的分子としてのRNA、及び薬候補分子としてのテオフィリンの安定結合構造を、メタダイナミクス法を用いた分子動力学シミュレーションにより求めた。
計算には、80コアのCPU〔E5−2697A V4 (2.6GHz)〕を搭載したコンピュータを用いた。その結果、5日間で計算が終了した。ここで、探索空間を薬候補分子が自由に動き回れるようになった時点を終了と判断した。
なお、従来技術として、同コンピュータを用い、集団変数を距離と角度の2つとした場合には、計算に約3ヶ月要する。
計算によって得られた自由エネルギー面を
図9に示す。
図9には、安定結合構造に関する4箇所(P1、P2、P3、P4)の極小値が観察された。これらの結合自由エネルギーを求めた。結果を表1に示した。表1の結果から求められる結合自由エネルギーの計算結果は−9.1kcal/mol(0.41:統計誤差)であり、実験値−8.9kcal/molとよく一致していた。即ち、短時間で精度の良い計算結果が得られた。
【0068】
【表1】
【0069】
表1中の数値の単位は、kcal/molである。カッコ内はブートストラップ法による統計誤差である。