特許第6974788号(P6974788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974788イミダゾピロロキノリン塩及びその製造方法、並びに、医薬品、化粧品及び食品
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  • 特許6974788-イミダゾピロロキノリン塩及びその製造方法、並びに、医薬品、化粧品及び食品 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974788
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】イミダゾピロロキノリン塩及びその製造方法、並びに、医薬品、化粧品及び食品
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/16 20060101AFI20211118BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20211118BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20211118BHJP
【FI】
   C07D471/16
   A61K31/4745
   A61K8/49
   A61P43/00 107
   A61Q19/00
   A61P17/00
   A23L33/10
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-250850(P2016-250850)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-104312(P2018-104312A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−040675(JP,A)
【文献】 特開2015−189711(JP,A)
【文献】 特開平09−070296(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/027669(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007633(WO,A1)
【文献】 MITCHELL, AE et al.,Characterization of Pyrroloquinoline Quinone Amino Acid Derivatives by Electrospray Ionization Mass Spectrometry and Detection in Human Milk,Analytical Biochemistry,1999年,Vol. 269,pp. 317-325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A23L
A61K
A23K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるジナトリウム塩を含む、含水結晶。
【化1】
(式中、nは、2であり、Mは、Naである。)
【請求項2】
ピロロキノリンキノンナトリウム塩とアルギニンとの反応により析出する物質を回収し、請求項に記載の含水結晶を得る回収工程を含む、
含水結晶の製造方法。
【請求項3】
前記回収工程において、前記ピロロキノリンキノンナトリウム塩に対する前記アルギニンの使用量が、0.3質量倍以上5.0質量倍以下である、
請求項に記載の含水結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の含水結晶を含む、
医薬品。
【請求項5】
請求項1に記載の含水結晶を含む、
化粧品。
【請求項6】
請求項1に記載の含水結晶を含む、
食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾピロロキノリン塩及びその製造方法、並びに、医薬品、化粧品及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダゾピロロキノリン(以下、「IPQ」ともいう。)、特にアルギニン残基を有するイミダゾピロロキノリン(以下、「アルギニン残基イミダゾピロロキノリン」、又は「argIPQ」ともいう。)は、生理活性を有する物質であり、医薬品、又は機能性食品に使用される重要な物質である。また、argIPQ等のIPQは、食品にも含まれることが知られており(例えば、非特許文献1参照)、食品中においても機能性を有する分子である。
【0003】
このargIPQ等のIPQを合成する方法としては、ピロロキノリンキノンとアミノ酸とを反応させて得る方法が開示されている(例えば、非特許文献2、特許文献1参照)。
【0004】
また、これまでにIPQの類似物質として、アルギニン残基を有しないイミダゾピロロキノリンのアルカリ金属塩は開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−040675号公報
【特許文献2】特開2015−189711号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Analytical Biochemistry 269, 317-325 (1999)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,1995 ,117, p3278-3279.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の合成方法で得られるargIPQは、単一の成分ではない混合物である。また、実際に工業的な製造方法として採用することは難しい。例えば非特許文献2では、液体クロマトグラフ中のピークとしてIPQの存在を確認しているが、純度の高い状態で得られてはいないこのように単一物質として製造することは困難あり、生理活性について調べることも困難である。
【0008】
また、このargIPQは、液体クロマトグラフィーによって抽出できるが、工業的に生産するには分離のための移動相に用いる溶媒が多量に必要となり、取り扱う濃度が薄く、argIPQを結晶化させることが難しい。
【0009】
また、特許文献2に開示されるイミダゾピロロキノリンのアルカリ金属塩の物性は、主としてそれが有するカルボン酸の数により予測することが可能であるが、アルギニン残基をさらに有するイミダゾピロロキノリンについて、その塩の物性を予測することは容易ではない。加えて、従来の合成方法で得られるイミダゾピロロキノリンのアルカリ金属塩は、原料が過剰に存在するほど、反応は進行しやすいと考えられている。
【0010】
ここで、argIPQには、例えば医薬品等として調製する場合の取扱い性を向上させるため、水に対する溶解性に優れることが求められている。また、argIPQには、結晶として安定な物質であることも求められている。
【0011】
また、argIPQには、上述したように、単一物質として得ることのでき、簡易で生産性の高い製造方法が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、水に対する溶解性に優れ、アルギニン残基イミダゾピロロキノリン(argIPQ)の構造を有する、新規な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、水に対する優れた溶解性を有し、結晶とした場合に安定な物質を鋭意検討した結果、argIPQの構造を有する所定の塩である化合物が溶解性及び熱安定性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
一般式(1)で表される、化合物。
【化1】
(式中、nは、1、2、3、及び4のいずれかであり、Mは、アルカリ金属、又はアンモニウムである。)
[2]
前記Mは、アルカリ金属であり、
前記アルカリ金属は、Na、K、及びLiのいずれかである、
[1]に記載の化合物。
[3]
ジナトリウム塩である、
[2]に記載の化合物。
[4]
含水結晶である、
[3]に記載の化合物。
[5]
ピロロキノリンキノンナトリウム塩とアルギニンとの反応により析出する物質を回収し、[3]又は[4]に記載の化合物を得る回収工程を含む、
化合物の製造方法
[6]
前記回収工程において、前記ピロロキノリンキノンナトリウム塩に対する前記アルギニンの使用量が、0.3質量倍以上5.0質量倍以下である、
[5]に記載の化合物の製造方法
[7]
[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含む、
医薬品。
[8]
[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含む、
化粧品。
[9]
[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含む、
食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る化合物によれば、水に対する溶解性に優れたargIPQの構造を有する化合物を使用することが可能になる。また、本発明に係る化合物の製造方法によれば、容易で簡略に、安価に大量に当該化合物を製造することができる。さらに、当該化合物は、医薬品、化粧品、又は食品に使用される際に、容易に調製されることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アルギニン置換IPQジナトリウム3水和物の粉末X線回折の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で、適宜に変形して実施できる。
【0018】
<argIPQ塩>
本実施形態の化合物(以下、「アルギニン残基イミダゾピロロキノリン塩」、又は「argIPQ塩」ともいう。)は、一般式(1)で表される化合物である。ここで、「argIPQ塩」とは、5−(3−グアニジノプロピル)−7−オキソ−7,10−ジヒドロイミダゾ[4,5,1−ij]ピロロ[2,3−f]キノリン−1,3,9−トリカルボン酸の塩である。
【0019】
【化2】
(式中、nは、1、2、3、及び4のいずれかであり、Mは、アルカリ金属、又はアンモニウムである。)
【0020】
本実施形態の化合物によれば、水に対する溶解性に優れたargIPQの構造を有する化合物を使用することが可能になる。その要因は、次のように考えている(ただし、要因はこれに限定されない。)。従来のargIPQの構造を有する化合物は、塩基性のグアニジン基と酸性のカルボン酸とを共に有するために分子内塩を形成しやすいことに起因して、水和しにくく、また、水に対する溶解性に乏しい。しかし、本実施形態の化合物は、カルボン酸にアルカリ金属又はアンモニウムがイオン結合されていることに起因して、水和がアルカリ金属又はアンモニウムのカチオン側で生じやすくなり、水に対する溶解性に優れる。
【0021】
本実施形態の化合物は、argIPQとアルカリ金属、又はアンモニウムとの塩である。argIPQに対して付加するアルカリ金属の数(n)は、1、2、3、及び4個のいずれかであり、好ましくは2、3、及び4個のいずれかであり、より好ましくは2個である。アルカリ金属は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、及びリチウム(Li)のいずれかであることが好ましく、より好ましくはナトリウム(Na)、及びカリウム(K)のいずれかであり、さらに好ましくはナトリウム(Na)である。アルカリ金属が、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、及びリチウム(Li)のいずれかであることにより、argIPQ塩の水に対する溶解性がより向上する傾向にある。また、アルカリ金属が、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)のいずれかであることにより、ヒトへの有害な作用を及ぼすおそれが少なく、アルカリ性の溶液として用いた際にアミン臭が発生しづらい傾向にある。
【0022】
argIPQの分子構造中には、水素イオンが脱離しやすい箇所としてカルボン酸3つとイミダゾール基上の4つあるが、いずれが脱離して塩を形成してもよい。一般的には、脱離する箇所を特定することは困難であり、脱離する箇所はargIPQ塩の結晶状態によっても変化する可能性がある。また、本実施形態のargIPQ塩は、アルカリ金属化合物が共存していてもよい。
【0023】
本実施形態のargIPQ塩は、含水塩であってもよい。含水塩は水和物とも称し、例えばargIPQ塩の一水和物、二水和物、三水和物、又は四水和物が挙げられる。
【0024】
本実施形態のargIPQ塩は、結晶性の高いargIPQのジナトリウム塩であることが、より安定した結晶を形成することができるため、より好ましい。argIPQのジナトリウム塩としては、例えば下記式で表される化合物が挙げられる。
【0025】
【化3】
【0026】
argIPQ塩はアルギニンの置換部分にグアニジン構造を有しているため、その部分でイオンを形成する可能性がある。argIPQ塩はジナトリウム塩であると、析出時に結晶化しやすい。また、ジナトリウム塩は優れた結晶性で析出するために、純度が高く、優れた水に対する溶解性を有している。さらに、ジナトリウム塩は含水結晶であることがより好ましく、三水和物、及び一水和物の含水結晶であることが結晶性の観点からさらに好ましい。ジナトリウム塩が、含水結晶であることにより、argIPQ塩の水に対する溶解性がより向上する傾向にある。また、含水結晶であることにより、吸湿による重量変化を受けにくくなり、工業的に利用しやすい傾向にある。
【0027】
<argIPQ塩の製造方法>
本実施形態のargIPQ塩の製造方法は、ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩と、アルギニンとを反応させる工程を有する。この工程は、エタノール等の有機溶媒、水、又はその両方を使用できるが、水を使用した水溶液で反応させるのが好ましい。また、反応は加温状態で行うことが好ましく、より好ましくは20℃〜180℃で行い、さらに好ましくは50℃〜130℃で行う。このような温度範囲とすることにより、反応物が適度な時間内に製造され、工業的に好ましい。また、このような温度範囲で行うことにより、加圧容器等が必要にならない。
【0028】
本実施形態のargIPQ塩の製造方法によれば、従来の精製工程を簡略できる。ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩と、アルギニンとの反応により得られるargIPQ塩が析出するため、未反応のピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩やアルギニンと容易に分離することができる。
【0029】
反応時に使用する際、特に工業的に反応させる際のピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩の濃度は、ピロロキノリンキノンのアルカリ金属又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩とアルギニンとの合計量(100質量%)に対して、好ましくは0.05質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上70質量%以下である。上記濃度が上記範囲にあることにより、直接的にargIPQ塩を得ることができる傾向にある。
【0030】
ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩に対するアルギニンの使用量は、0.3質量倍以上5.0質量倍以下であることが好ましい。アルギニンの使用量がこのような範囲にあることにより、反応性がより向上する傾向にある。
【0031】
反応の際のpHは、特に制限されないが、2〜7であることで反応が進行しやすい傾向にある。
【0032】
反応は、溶液状態、又は懸濁状態で行うことができる。
【0033】
反応の進行は、液体クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィー等の一般的な分析手法が使用できる。また、本実施形態の製造方法では、反応物から目的とするargIPQ塩が析出し、これを公知の方法でさらに精製することができる。さらに精製する方法としては、再結晶や各種クロマトグラフィーで精製することができ、argIPQ塩の純度を上げることができる
【0034】
反応温度を0〜100℃に調整することでargIPQ塩が結晶として析出しやすい傾向にある。一般的には反応時、一方の過剰により、より反応が進行するとされるは、本発明では適切な範囲がある。
【0035】
ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩は、どのような態様であってもよいが、例えば反応の系内でピロロキノリンキノンのフリー体とアルカリ金属化合物とを中和することで形成してもよい。また、ピロロキノリンキノンのフリー体の場合、反応時にアルカリ金属塩、例えば塩化ナトリウムを共存させることで形成することもできる。また、「フリー体」とは、塩を形成しないピロロキノリンキノンを意味する。
【0036】
ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩は、ピロロキノリンキノンと、ナトリウム、カリウム、リチウム、及びアンモニウムのいずれかとの塩であることが好ましい。形成時のカチオン部は、析出時に共存するカチオンによって決定される。ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩は、より好ましくはナトリウム塩であり、さらに好ましくはジナトリウム塩である。
【0037】
本実施形態のargIPQ塩の製造方法において、ピロロキノリンキノンのアルカリ金属、又はピロロキノリンキノンのアンモニウム塩と、アルギニンとを反応させる工程は、ピロロキノリンキノンジナトリウムとアルギニンとの反応により析出する物質を回収し、argIPQジナトリウム塩を得る回収工程であることが、argIPQ塩をより容易に精製することができるため好ましい。このような回収工程を含むことにより、水中で反応させて析出したargIPQジナトリウム塩を、未反応のピロロキノリンキノンジナトリウムやアルギニンとより容易に分離することができる。
【0038】
より具体的な製造方法について記載する。ピロロキノリンキノンジナトリウムとアルギニンとを水に混合する。この時の温度は、0℃〜120℃が使用できるが、好ましくは20℃〜100℃である。反応時間は、1時間から5日間が好ましい。argIPQ塩が結晶として析出してくるので、ろ過又は遠心分離で結晶を分離し、純度の高いargIPQ塩を得ることができる。得られた結晶は洗浄及び乾燥を一般的な方法で行う。argIPQジナトリウムは含水結晶であり、かつ三水和物として得られる傾向にある。さらにその三水和物を乾燥し、その一水和物結晶を得ることもできる。
【0039】
本実施形態のargIPQ塩は、ハードカプセル、ソフトカプセル、又は錠剤の形態で提供することができる。その際、他の添加物等と混合してよい。
【0040】
argIPQ塩は、その高い水に対する溶解性を利用して、医薬品、化粧品、食品、及び飼料として使用することができ、特に点滴液、注射液、及び飲料として使用することもできる。例えば、argIPQ塩は、乳化物と混合し、化粧用クリーム、ケーキに配合することも容易である。また、argIPQ塩は、米、又は麦の粉との混合も容易で、それを利用した食品に使用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこの実施例に何ら限定されるものではない。以下に示す実施例、比較例においては、特に断りがない限り、試薬は和光純薬製の試薬を用いた。また、紫外線吸収スペクトルは、島津製作所社製商品名「UV1800」を使用した。液体クロマトグラフィー(LC)は、島津製作所社製商品名「LC−2010」を使用して以下の条件で測定した。
・LC条件
測定波長:259nm
測定温度:40℃、
カラム:YMC−Pack ODS−A 150mm、4.6mm
移動相:30mMの酢酸−70mM酢酸アンモニウム
【0042】
[実施例1]argIPQの合成(原料:PQQジナトリウム)
PQQジナトリウム(三菱瓦斯化学社製商品名「BioPQQ」)1gとアルギニン1gとを水20mLと混合し、30分以上室温で攪拌し、混合物を得た。この混合物を70℃に加熱して、1日間反応させた。反応後、液中に黄色い固体が析出したことを確認した。その後、室温に冷やし、濾過して黄色固体を得た。その黄色固体をエタノール10mLで洗い、室温で12時間、減圧乾燥し、黄色い結晶1.3gを得た。
【0043】
得られた結晶の液体クロマトグラフィーを測定した。ピークは23.7分に現れ、液体クロマトグラフィーから求めた純度は99%であった。
得られた結晶は、含水物であり、元素分析による結果からargIPQジナトリウム三水和物を確認した。下記に元素分析の結果と、argIPQジナトリウム三水和物の理論値を示す。
元素分析:C 38.73、H 4.47、N 14.56
計算値:C 38.73、H 4.47、N 14.56
【0044】
得られた結晶の分子構造を次のように、核磁気共鳴法によって同定した。得られた結晶にそれが飽和するまで重メタノールを加え、その後、遠心分離して固体を除去して核磁気共鳴装置(JEOL社製の商品名「JNM−ECA500スペクトルメーター」)により測定した。結果を下記に示す。
1H−NMR(内部標準:トリメチルシラン(TMS)))
ケミカルシフト(ppm)、(積分比)、分裂パターンの順に示す。
2.17(2)t、3.27(4)m、7.27(1)s、7.81s(1)
上記の結果、及び上記元素分析の結果より、結晶の分子構造がargIPQジナトリウムであることを同定した。
【0045】
得られた結晶の粉末X線回折を測定し、2θ5.371の位置に特徴的なピークを確認した(図1)。また、確認したピークを、下記表にまとめた。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例2]argIPQ(原料:PQQトリナトリウム)
PQQジナトリウム(三菱瓦斯化学社製商品「BioPQQ」)40gを水0.4Lと混合して、混合物を得た。その後、25%水酸化ナトリウム水溶液と塩酸とを適量添加して、混合物のpHを7に調整した。次に、混合物に、食塩83gと水500mLとを撹拌して混合し、50℃で3日間結晶化させた。その後、室温に冷却し、濾過して赤色固体を得た。その赤色固体をエタノール10mLで洗い、室温で12時間減圧乾燥し、PQQトリナトリウム42.9gを得た。
【0048】
得られたPQQトリナトリウム1gとアルギニン1gと、水25mLとを混合し、30分以上室温で攪拌し、混合物を得た。この混合物を70℃に加熱して、3日間反応させた。反応後、液中に黄色い固体が析出したことを確認した。その後、室温に冷やし、濾過して黄色固体を得た。その黄色固体をエタノール10mLで洗い、室温で12時間減圧乾燥し、黄色い結晶0.76gを得た。
【0049】
得られた結晶の液体クロマトグラフィーを測定すると、実施例1における液体クロマトグラフィーと同じ溶出時間であった。純度は99%であった。
得られた結晶は、含水物であり、元素分析による結果からargIPQジナトリウム三水和物であることを確認した。下記に元素分析の結果と、argIPQジナトリウム三水和物の理論値を示す。
元素分析:C 38.58、H 4.47、N 14.17
計算値:C 38.73、H 4.47、N 14.56
【0050】
[実施例3]argIPQ(原料:PQQフリー)
PQQジナトリウム(三菱瓦斯化学社製商品名「BioPQQ」)と塩酸との反応によりPQQフリー体を得た。
【0051】
得られたPQQフリー体1gと25%水酸化ナトリウム水溶液0.8gとアルギニン1gと水25mLとを混合し、30分以上室温で攪拌し、混合物を得た。この混合物を70℃に加熱して、3日間反応させた。反応後、液中に黄色い固体が析出したことを確認した。その後、室温に冷やした、濾過して固体を得た。その固体をエタノール10mLで洗い、室温で12時間減圧乾燥し、黄色い結晶0.69gを得た。
【0052】
得られた結晶は、含水物であり、元素分析結果による結果からargIPQジナトリウム三水和物であることを確認した。下記に元素分析の結果と、argIPQジナトリウム三水和物の理論値を示す。
【0053】
得られた結晶の液体クロマトグラフィーを測定すると、実施例1における液体クロマトグラフィーの結果と一致した。純度99%であった。
元素分析:C 38.50、H 4.35、N 14.03
計算値:C 38.73、H 4.47、N 14.56
【0054】
[比較例1]ナトリウムを含まない物質の場合
実施例1で得られたargIPQジナトリウム三水和物0.30gを水200mLと混合し、濃塩酸1gを加え、室温で一晩攪拌し、溶液を得た。濃塩酸を加えた後のpH、1.5であった。その後、この溶液を濾過し、エタノールで洗浄し、析出物を得た。得られた析出物を1日間減圧乾燥し、オレンジ色の固体0.23gを得た。
【0055】
得られた固体について、ナトリウム(Na)電極を使用して固体に含まれるナトリウム量と、原料であるargIPQジナトリウム三水和物に含まれるナトリウム量とを測定した結果、その固体に含まれるナトリウム量は、原料のナトリウム量の1/70であった。
【0056】
(溶解度)
実施例1で得られたargIPQジナトリウム三水和物(以下、「実施例1のサンプル」ともいう。)、及び比較例1で得られたオレンジ色の固体のサンプル(以下、「比較例1のサンプル」ともいう。)について、それぞれ約20mgを水1mLと混合し、5分超音波で処理した。下記の温度(23℃又は50℃)で1時間放置し、その後に遠心分離し、0.5μmのフィルターでろ過し、水中に溶けているサンプルの濃度を吸収波長260nmにおける吸光度より求めた。下記にその溶解度を示す。また、水1mLをエタノール1mLに替え、温度(23℃又は50℃)を下記の温度(23℃)に変更した以外は上記と同様にして求めた溶解度を示す。
・実施例1のサンプル
23℃:37g/L(水)
50℃:47g/L(水)
23℃:0.4g/L(エタノール)
・比較例1のサンプル
23℃:0.7g/L(水)
50℃:1.1g/L(水)
23℃:7.1g/L(エタノール)
【0057】
水への溶解度は、実施例1のサンプルがアルカリ金属を含まない比較例1のサンプルと比較して高いことが少なくとも確認された。また、エタノールへの溶解度は、予想外にも、実施例1のサンプルよりもアルカリ金属を含まない比較例1のサンプルの方が高いことが確認された。
【0058】
(細胞活性試験)
ヒト子宮がん細胞(HeLa細胞)を、5%CO2濃度、37℃のインキュベーターで培養した。その後、ヒト子宮がん細胞を96ウェルに1000個/ウェルなるように撒き、1晩培養した。次に、実施例1のサンプルを1g/Lになるようにリン酸バッファーに懸濁したものを使用して15.6mg/mLになるように加えた。その2日後に、同仁化学社製商品名「cell counting kit 8」を使用して、ヒト子宮がん細胞の細胞数を測定した。
実施例1のサンプルを添加せずに、1晩培養後にその2日間後のヒト子宮がん細胞の細胞数を100とすると、実施例1のサンプル15.6mg/Lを用いたときの細胞数は112であった。
【0059】
ここで検証した細胞増殖を促進する効果は、実施例のサンプルを化粧品の成分として用いた場合には、皮膚の細胞を増やし、皮膚の状態を改善する効果として機能することが期待できる。また、実施例のサンプルを医薬品、又は食品の成分として用いた場合には、生物(特にヒト)に投与してその体内で、損傷している臓器の細胞活性や機能が低下している臓器を改善する効果として機能することが期待できる。
【0060】
実施例1のサンプルは、細胞増殖を進める働きがあることが少なくとも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るargIPQ塩は、医薬品、化粧品、食品(特に、機能性食品)、飼料等の分野で有用である。
図1