特許第6974795号(P6974795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974795下水処理設備における好気槽の曝気風量制御方法と設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974795
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】下水処理設備における好気槽の曝気風量制御方法と設備
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20211118BHJP
   C02F 3/30 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   C02F3/12 J
   C02F3/30 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-39282(P2018-39282)
(22)【出願日】2018年3月6日
(65)【公開番号】特開2019-150795(P2019-150795A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】井村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】坂下 尚紀
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/183087(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0283796(US,A1)
【文献】 特開昭63−039698(JP,A)
【文献】 特開2003−010883(JP,A)
【文献】 特開2005−125229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 3/28− 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア態窒素を酸化して硝酸態窒素を生成させる好気槽を有する下水処理設備において、好気槽入口のアンモニア態窒素濃度および硝酸態窒素濃度と好気槽出口の硝酸態窒素濃度を測定し、これらの濃度から好気槽出口のアンモニア態窒素濃度を求め、この好気槽出口のアンモニア態窒素濃度を用いて好気槽内の下水に吹き込む風量を制御することを特徴とする、下水処理設備における好気槽に送風する曝気風量の制御方法。
【請求項2】
アンモニア態窒素を酸化して硝酸態窒素を生成させる好気槽を有する下水処理設備において、好気槽流入水の硝酸態窒素濃度が3mg/L以下であり、好気槽入口のアンモニア態窒素濃度と好気槽出口の硝酸態窒素濃度を測定し、これらの濃度から好気槽出口のアンモニア態窒素濃度を求め、この好気槽出口のアンモニア態窒素濃度を用いて好気槽内の下水に吹き込む風量を制御することを特徴とする、下水処理設備における好気槽に送風する曝気風量の制御方法。
【請求項3】
アンモニア態窒素を酸化して硝酸態窒素を生成させる好気槽を有する下水処理設備において、好気槽入口のアンモニア態窒素濃度を測定するNH−N計および硝酸態窒素濃度を測定するNO−N計と、好気槽出口の硝酸態窒素濃度を測定するNO−N計が設けられていて、これらの3つの計器の指示値から好気槽に送風する風量を制御する制御機構を備えたことを特徴とする下水処理設備。
【請求項4】
好気槽の流出水が返送されて、該流出水に含まれている硝酸態窒素を還元して窒素を生成させ、その流出水を好気槽に流入させる無酸素槽が設けられ、好気槽入口のアンモニア態窒素濃度を測定するNH−N計および硝酸態窒素濃度を測定するNO−N計が無酸素槽に設けられている請求項3記載の下水処理設備。
【請求項5】
アンモニア態窒素を酸化して硝酸態窒素を生成させる好気槽を有する下水処理設備において、好気槽流入水の硝酸態窒素濃度が3mg/L以下であり、好気槽入口のアンモニア態窒素濃度を測定するNH−N計と好気槽出口の硝酸態窒素濃度を測定するNO−N計が設けられていて、これらの2つの計器の指示値から好気槽に送風する風量を制御する制御機構を備えたことを特徴とする下水処理設備。
【請求項6】
好気槽の流出水が返送されて、該流出水に含まれている硝酸態窒素を還元して窒素を生成させ、その流出水を好気槽に流入させる無酸素槽が設けられ、好気槽入口のアンモニア態窒素濃度を測定するNH−N計が無酸素槽に設けられている請求項5記載の下水処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理設備に設けられる好気槽の曝気風量を制御する方法と設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理場の好気槽は、曝気のためのブロワが多量の電力を消費することから、下水中もしくは汚泥中のNH−N(アンモニア態窒素)濃度を測定し、送風量を必要最小限に制御する試みがなされてきた。方式としては、好気槽内に設置されたNH−N計の指示値をもとに風量をフィードバック制御する方式(特許文献1、2)と、好気槽流入水のNH−N濃度をNH−N計で測定しその指示値をもとに風量をフィードフォワード制御する方式(特許文献2、3)などが知られている。
【0003】
特許文献1の発明は、好気槽を有する生物反応槽により水処理を行うに当たり、曝気風量目標値に従って前記好気槽に空気を供給する曝気装置を備えた下水処理場の曝気風量制御装置において、
前記好気槽内のNH−N濃度を計測するNH−N計と、
前記好気槽の放流水のNH−N濃度目標値を設定する制御目標設定手段と、
計測されたNH−N濃度が設定されたNH−N濃度目標に近づくよう曝気風量目標値を演算するNH−Nコントローラと、
を備え、前記NH−N計を前記好気槽の総長さに対して、出口部分から上流方向に25〜35%遡った位置に設置し、かつ、NH−N濃度の制御目標値を1mg/L〜3mg/Lに設定した、ことを特徴とする下水処理場の曝気流量制御装置に関わるものである。NH−N計と溶存酸素濃度計は図4に示すように好気槽の出口から離して設けられている。
【0004】
特許文献2の発明は、被処理水を酸化処理する好気槽中の溶存酸素濃度以外の水質値を推定する好気槽中水質値推定部で推定する水質値が、ブロワから酸素を吹き込むことで変動する水質値であり、ブロワの風量を演算するブロワ風量演算部が、好気槽内の溶存酸素濃度の目標値と、好気槽内の溶存酸素濃度を推定する溶存酸素濃度推定部による溶存酸素濃度の推定値に基づき演算されたブロワ風量と、好気槽中の溶存酸素濃度以外の水質値の目標値と好気槽中水質推定部による好気槽中の水質値の推定値に基づき演算されたブロワ風量のうち、大きいブロワ風量を出力することを特徴とするものである。図5に示すように、NH−N計と溶存酸素濃度計が好気槽に設けられているが、NH−N計は出口から離して設けられている。NH−N計はさらに無酸素槽にも設けられている。
【0005】
特許文献3の発明は、非処理水の生物処理に供される空気の供給量を制御する曝気制御装置であって、
前記被処理水とこの被処理水を生物処理する反応槽の水質データを硝化速度の推定を行う生物反応モデルに供して当該被処理水の硝化速度を推定し当該硝化速度に基づく目標処理水質を満たすための必要硝化速度に基づき当該反応槽に対する空気供給の制御因子の設定値を決定する設定値演算部と、
前記決定された設定値の適否の判定に基づき前記空気供給の制御信号を生成する設定値判定部と、
前記制御信号に基づき前記反応槽に供される空気の流量を制御する制御部とを備えた曝気制御装置に関わるものである。図6に示すように好気槽には溶存酸素濃度計のみが設けられ、NH−N計は無酸素槽から送られる流入水を測定するように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4509579号公報
【特許文献2】特開2017−100092号公報
【特許文献3】特開2017−109170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
好気槽でNH−Nの酸化を適正に行わせるためには好気槽出口のNH−Nの残存濃度を知る必要があるが、電極式NH−N計を好気槽出口に設置することができないことが問題として挙げられる。電極式NH−N計は低NH−N濃度溶液で使用すると、誤差が大きい、電極の寿命が短いなどの問題が生じるためである。よって、好気槽出口の水質をモニタリングせずに風量制御を行うこととなるため、水質基準を超過しないよう十分に安全側の制御を行わざるを得ない。そのため省エネルギー性が小さいという問題がある。
【0008】
そこで、特許文献1、2に示すように、NH−N計を好気槽の出口から離して設けて、その測定値を基にフィードバック制御を行う場合、その原理上、流入水NH−N濃度が急上昇したとしても、NH−N計に達するまで制御に反映されない。つまり流入水質の変動により処理不良が発生するリスクがある。
【0009】
一方、特許文献2、3に示されているフィードフォワード制御は好気槽流入水のNH−N濃度を測定し、それをもとに必要風量を推定して、必要最小限の散気を行う方法である。ただし、NH−N濃度から必要風量を正確に推定することは一般に難しく、特許文献2ではフィードフォワード制御を補助的に使用するにとどまっている。また、特許文献3のように活性汚泥モデル(ASM)などを利用し、必要風量を予測する方法も考えられるが、正確な予測を行うためには処理の実態を把握し、それに合わせてパラメータを随時修正する必要がある。パラメータ校正は好気槽出口NH−N濃度の実績値をもとに行う必要がある。ただし前述のように好気槽出口NH−N濃度は連続測定困難であるという問題点がある。
【0010】
本発明の目的は、好気槽の出口にアンモニア計を設けることなく、出口のNH−N濃度を正確に求め、好気槽の適正な空気の曝気量を定めることができる方法と設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する手段を開発するべく鋭意検討を進め、好気槽出口のような低NH−N濃度でも使用可能なNO−N(硝酸態窒素)計を利用することを考えた。そして、好気槽入口のNH−N濃度およびNO−N濃度と好槽出口のNO−N濃度を測定すれば好気槽出口のNH−N濃度を正確に求めることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち、本発明は、
NH−Nを酸化してNO−Nを生成させる好気槽を有する下水処理設備において、好気槽入口のNH−N濃度およびNO−N濃度と好気槽出口のNO−N濃度を測定し、これらの濃度から好気槽出口のNH−N濃度を求め、この推定した好気槽出口のNH−N濃度を用いて好気槽内の下水に吹き込む風量を制御することを特徴とする、下水処理設備における好気槽に送風する曝気風量の制御方法と、
NH−Nを酸化してNO−Nを生成させる好気槽を有する下水処理設備において、好気槽入口のNH−N濃度を測定するNH−N計およびNO−N濃度を測定するNO−N計と、好気槽出口のNO−N濃度を測定するNO−N計が設けられていて、これらの3つの計器の指示値から好気槽に送風する風量を制御する制御機構を備えたことを特徴とする下水処理設備を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来困難であった下水処理設備における好気槽出口のNH−N濃度を連続して正確に推定することができる。また、本発明の方法は、フィードフォワード制御のため流入NH−N濃度の変動に対応可能であり、フィードフォワード制御のパラメータを好気槽出口(処理水)NH−N濃度をもとに補正可能となり、予測精度を向上させることができる。本発明によって曝気量を適正に制御してブロワの使用電力量を節減でき、また、好気槽の運転を安定させて処理不良が発生しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施態様を模式的に示した図である。
図2】本発明の実施例で得られたNH−N濃度とNO−N濃度の経時変化を実測値と推定値で示すグラフである。
図3】曝気量を一定量として得られたNH−N濃度とNO−N濃度の経時変化を実測値と推定値で示すグラフである。
図4】特許文献1の曝気風量制御方法を模式的に示す図である。
図5】特許文献2の曝気風量制御方法を模式的に示す図である。
図6】特許文献3の曝気風量制御方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
下水処理設備における下水に含まれるNH−Nの処理は一般的に好気槽を用いて行なわれており、好気槽ではNH−Nが硝化菌によってNO−Nへと酸化される。無酸素槽が組み合わされている場合は、この無酸素槽で溶存酸素のない状態で微生物がNOの酸素を利用するためNOをNにまで還元している。好気槽内の液は無酸素槽に返送されるが一部は抜き出されて最終沈澱池へ送られる。また無酸素槽を設けず、好気槽の硝化処理のみを行う下水処理設備も存在する。
【0016】
好気槽は、通常は箱形又は円筒形で、槽内を好気的条件にするために空気等の散気機構を設ける。この散気機構は、散気板、散気筒、フレキシブルチューブ、ディスクディフューザー、多孔管等のいずれでもよく、これらに空気等を送るブロワも設置される。
【0017】
本発明においては、この好気槽の入口のNH−N濃度を測定するためのNH−N計とNO−N濃度を測定するためのNO−N計と好気槽の出口のNO−N濃度を測定するためのNO−N計を設ける。好気槽の入口のNH−N濃度を測定するNH−N計とNO−N濃度を測定するNO−N計は、好気槽の入口付近に設ける外、好気槽の流入水の流路に設けてもよい。また、通常は好気槽の上流側に最初沈殿池や無酸素槽が設けられており、最初沈殿池や無酸素槽内ではNH−Nは分解されないのでNH−N計は好気槽の前段槽のNH−N濃度を測定するものであってもよい。一方、NO−Nは無酸素槽でNに還元されるのでNO−N計は好気層の前段槽が無酸素槽である場合は、その出口付近がよい。好気槽の出口のNO−N濃度を測定するNO−N計は、好気槽の出口付近に設ける外、好気槽からの流出水の流路に設けてもよく、また、流出水が集められる最終沈殿池などに設けてもよい。これらは、それぞれNH−N濃度、NO−N濃度を連続的に測定できるものであればよく、その名称は問わない。
【0018】
都市下水の場合、下水処理設備への流入水のNH−N濃度は被処理水である下水等の性状に依存し、大きく時間変動することが多いが、通常10〜100mg/L程度、特に20〜50mg/L程度である。またNO−N濃度は10mg/L以下程度、で特に検出限界以下であることが多い。好気槽流入水のNH−N濃度、NO−N濃度は処理方式に大きく依存するが、それぞれ3〜50mg/L程度、10mg/L以下程度である。特に好気槽の前段に無酸素槽を設けた下水処理設備では好気槽流入水のNO−N濃度は通常検出限界以下となる。
【0019】
本発明における好気槽出口のNH−N濃度は次のようにして求める。
【0020】
すなわち、好気槽入口のNH−N濃度をCNH4,in、NO−N濃度をCNO3,in、好気槽出口NO−N濃度をCNO3,out、とする。好気槽入口のKj−N(ケルダール窒素)濃度CKj,inとCNH4,inとの比は一定であるとして、β=CNH4,in/Ckj,inとする。この比βを一定とすることは広く認められており、下記の日本下水道協会の出版物「下水道施工計画・設計指針と解説」にも採用されている。そして、好気条件においてKj−NのうちNO−Nに変化する割合も一定であるとして、α=CNO3,out(t)/Ckj,in(t−Δt)とする。CNO3,out(t)は、時刻tにおける好気槽出口のNO−N濃度と、Ckj,in(t−Δt)は時刻t−Δtにおける好気槽入口のKj−N濃度を表わしている。Δtは好気槽の滞留時間を示している。従って、αはt−Δtの時に好気槽に流入した水のKj−N濃度とその水が流出したときのNO−N濃度の比を示している。
【0021】
一般的に、好気槽入口の流入水に含まれるT−N(全窒素)濃度はKj−N濃度とNO−N濃度の和であるから、好気槽入口のT−N濃度は、
【0022】
【数1】
で表わされ、完全硝化を仮定した場合の好気槽出口におけるNO−N濃度を
C´NO3,outとすると、
【0023】
【数2】
となる。ただし、一般に無酸素槽出口においてNO−Nは完全脱窒しており、ほとんどの場合CNO3.inは1未満である。故に好気槽入口におけるNO−N計の設置を省略し、CNO3.in=0としても大きな誤差は生じえない。
好気槽出口におけるNH−N濃度の推定値C´NH4,outは、
【0024】
【数3】
となる。
【0025】
上記の好気槽入口のKj−N濃度(Ckj,in)は、NH−N濃度(CNH4,in)やNO−N濃度(CNO3,in)を測定した流入水のケルダール濃度をケルダール分析法で定量して求める。そうするとこの流入水のβはCNH4,in/Ckj,inで求めることができるが、季節変動などによって変化する恐れがある。そのため、1ヶ月に1回程度、好気槽流入水のT−NおよびNH−Nの分析(例えばJIS K 0102に準じた方法)を行い、βを補正することが望ましい。
【0026】
次に、αはCNO3,out(t)/Ckj,in(t−Δt)であり、Δtは好気槽内の滞留時間であり、これは好気槽内の水量を流入水の流入速度で割ったものである。従ってαはCkj,inとそれを測定したΔt時間後の流出水のCNO3,outとの比になる。αについても季節変動などによって変化する恐れがある。そのため、1ヶ月に1回程度、好気槽流出水のNH−Nの分析(例えばJIS K
0102に準じた方法)を行い、正しくNH−Nを予測できるようαを補正することが望ましい。
【0027】
本発明では、こうして、好気槽入口のNH−N濃度とNO−N濃度、と好気槽出口のNO−N濃度を連続的に計測し、それらの値から好気槽出口のNH−N濃度を算出し、必要な酸素量をブロワ制御装置に指令して適性風量で好気槽を運転することができる。しかしながら前述のように都市下水等では流入水のNO−N濃度が検出限界以であることが多く、その場合、好気槽入口のNO−N濃度は測定する必要がない。
【0028】
本発明では、フィードフォワード制御を行うので、これを「下水道施設計画・施設指針と解説 後編 1994年版」、社団法人日本下水道協会、p69〜73に基づく必要酸素量の計算方法を用いて説明する。
【0029】
(1)好気槽入口NH−N計の指示値CNH4,inをもとにケルダール窒素濃度
СKj−N,in=CNH4,in/βと推測する。
【0030】
(2)Kj−NのうちNO−Nに変化するものの割合をαとする(1−α)は微生物増殖に使用され、活性汚泥として同化代謝に利用される)。また好気槽流入水量をQ(m/day)とする。Kj−N1kgあたり分解に必要な酸素は4.57kg−O/kg−Kj−Nとされるため、単位水量当たりの必要酸素量Oは下記のようになる。
=4.57[kg−O/kg−Kj−N]・α[−]・CKj−N,in[kg−Kj−N/m]・Q[m/day]
=4.57QCKj−N,inα[kg−O/day]
=4.57QCNH4,inα/β[kg−O/day]
※式中の角カッコ内は単位を表す。
【0031】
(3)必要な酸素量をブロワ制御装置ヘ指令し、ブロワ制御装置は水温や酸素溶解効率をもとに送風量を決定する。
【0032】
こうして、得られた好気槽出口のNH−N濃度から、必要酸素量Oを求め送風量を定めることができる。
【実施例】
【0033】
循環型硝化脱窒法を採用した実験装置に図1に示す配置でNH−N計およびNO−N計を設置し都市下水を用いて実験を行った。
【0034】
この装置は、図面左方の無酸素槽と右方の好気槽からなっており、下水は無酸素槽に流入し、そこで脱窒菌によりNO−Nが還元されてNガスとなって槽から放出される。無酸素槽から排出された下水は空気がブロワから送られて散気槽から曝気されている好気槽に流入して、そこで硝化菌により下水に含まれるNH−Nが酸化されてNO−Nに変わる。そして、好気槽内の下水の多くは返送ラインを通って無酸素槽に返送され、一部は系外に抜き出される。無酸素槽の中央付近にはNH−N計、出口付近にはNO−N計が設置され、好気槽の出口付近にはNO−N計が設置されている。これらで検知された信号はNH−Nフィードフォワードコントローラに送られ、そこで必要酸素量が算出されてブロワ制御機に送られ、その投与によりブロワの送風量が制御されている。
【0035】
無酸素槽に流入させる下水のNH−N濃度は10〜35mg/L、NO−N濃度は1未満〜5mg/L、Kj−Nは10〜40mg/Lであり、流量は10m/dayとした。好気槽入口のKj−Nは3〜15mg/Lで大きな変動が認められた。好気槽内の水量は2mであり、従って、滞留時間は4.8hrである。
【0036】
好気槽入口のNH−N濃度とNO−N濃度および好気槽出口のNO−N濃度を連続測定し、風量をコントロールして運転を行って得られた好気槽出口のNO−N濃度(mg/L)とNH−N濃度(mg/L)の3時間毎の経時変化を図2に示す。図中のNO−N濃度は□がNO−N計の測定値を、●が完全硝化を仮定して求めた推定値を示しており、図面から両者がよく一致していることが分かる。NH−N濃度は□がインドフェノール青吸光光度法でJIS K 0102に基づき分析した分析値を、●が本発明法における推定値を示しており、両者がよく一致していることが分かる。
【0037】
一方、曝気風量は必要酸素量4.57QCNH4,inα/β(kg−O/day)を酸素溶解効率で除して求めた。
【0038】
一定として運転を行って得られた好気槽出口のNO−N濃度とNH−N濃度の3時間毎の経時変化を図3に示す。図中のNO−N濃度は硝化不良の時間帯で推定値(●)と測定値(□)が一致していないことが分かる。一方NH−N濃度は推定値(●)と手分析値(□)がほぼ一致していた。
αおよびβは短時間で変動する値ではなく、ほぼ定数として扱って良い。校正頻度は1ヶ月に1回程度で十分である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の方法は、下水処理場の好気槽の曝気量を正確に推定することができ、それによって無駄な曝気をなくすことができるので各下水処理場で幅広く利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6