(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974797
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】正浸透水処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20211118BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20211118BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20211118BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20211118BHJP
B01D 17/025 20060101ALI20211118BHJP
B01D 17/04 20060101ALI20211118BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
C02F1/44 H
B01D61/00 500
B01D61/14 500
B01D61/02 500
B01D17/025
B01D17/04 501D
B01D61/58
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-61118(P2018-61118)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-171258(P2019-171258A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 江梨
(72)【発明者】
【氏名】辻 猛志
(72)【発明者】
【氏名】渕上 浩司
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】功刀 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐也
(72)【発明者】
【氏名】大里 彩
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−192979(JP,A)
【文献】
特表2014−512951(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0155329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
B01D 17/025
B01D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩類を含有する被処理水と、曇点を有する感温剤水溶液とを半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を半透膜を通して前記感温剤水溶液に移動させ、水で希釈された希釈感温剤水溶液と膜濃縮水を得る正浸透工程と、前記希釈感温剤水溶液を前記感温剤水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温工程と、前記加温工程で相分離した感温剤を主体とする濃厚溶液層と、水を主体とし少量の感温剤を含有する希薄溶液層とに重力分離する重力分離工程と、前記重力分離工程で分離された濃厚溶液を前記感温剤水溶液の曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透工程へ循環し、感温剤水溶液として再使用する冷却・循環工程と、前記重力分離工程で分離された希薄溶液を膜処理し、膜ろ過水を得る膜ろ過工程を有する正浸透水処理方法において、
前記希薄溶液をコアレッサーに通液して希薄溶液に残存している感温剤を分離してから膜ろ過し、その際、
コアレッサーへの希薄溶液の通液速度を、コアレッサーから流出するコアレッサー上澄水の感温剤濃度が、重力分離工程で分離された希薄溶液の温度を曇点とする濃度以下になるように設定するとともに、コアレッサーで分離された下層感温剤水溶液を重力分離工程で分離された濃厚溶液とともに前記正浸透工程へ循環することを特徴とする正浸透水処理方法。
【請求項2】
重力分離工程で分離された希薄溶液の感温剤濃度が0.01〜2.0wt.%である請求項1記載の正浸透水処理方法。
【請求項3】
コアレッサーに通液される希薄溶液の通液速度が0.04L/min/コアレッサーフィルター有効面積cm2以下である請求項1又は2に記載の正浸透水処理方法。
【請求項4】
塩類を含有する被処理水と、曇点を有する感温剤水溶液とを半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を半透膜を通して前記感温剤水溶液に移動させ、水で希釈された希釈感温剤水溶液と膜濃縮水を得る正浸透膜処理装置と、前記希釈感温剤水溶液を前記感温剤水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温手段と、前記加温手段で加温され相分離した感温剤を主体とする濃厚溶液層と、水を主体とし少量の感温剤を含有する希薄溶液層とに重力分離する重力分離槽と、前記重力分離槽で分離された濃厚溶液を前記感温剤水溶液の曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透処理装置へ循環し、感温剤水溶液として再使用する冷却・循環手段と、前記重力分離槽で分離された希薄溶液を膜処理し、膜ろ過水を得る膜ろ過装置を有する処理装置において、前記重力分離槽と膜ろ過装置の間にコアレッサーを設け、重力分離槽で分離された希薄溶液に残存している感温剤を、コアレッサーへの希薄溶液の通液速度、コアレッサーから流出するコアレッサー上澄水の感温剤濃度が、重力分離工程で分離された希薄溶液の温度を曇点とする濃度以下になるようにして分離してから膜ろ過装置に送るとともに、コアレッサーで分離された下層感温剤水溶液を正浸透膜処理装置に送る配管が設けられていることを特徴とする正浸透水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透法で海水や廃水等から塩類を除去する方法およびそれに使用する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水から半透膜を用いて淡水を製造する方法は種々知られているが、海水に浸透圧以上の圧力を加えて水を強制的に透過させる逆浸透法が主に開発されてきた。しかし、この方法は高圧に加圧する必要があるため、設備費および運転費が嵩むという問題がある。そこで、半透膜を介して海水と海水より高濃度の溶液を接触させ、加圧せずとも浸透圧により海水中の水をこの溶液に移動させ、分離、回収することにより淡水を製造する正浸透方法が開発されている。
【0003】
そして、この正浸透法のなかで、曇点を有する感温剤を用いて曇点以上に加温することによって相分離することを利用した方法が特許文献1に開示されている。この特許文献1の方法は、曇点を有する感温剤を溶質として用いた誘引溶液を用いており、
図5に示すように、海水41を正浸透システム30に送って、そこで半透膜を介して誘引溶液44と接触させて海水41中の水を浸透圧により半透膜を透過させて誘引溶液44へ移動させる。水が誘引溶液に移動して残った濃縮海水42は正浸透システム30から流出する。一方、海水中の水で希釈された希釈誘引溶液45は加熱器を備えた沈殿システム32に送られ、そこで重力分離あるいは沈殿を生じた希釈誘引溶液はポンプ33で加圧されてろ過システム34に送られる。その際、溶質の曇点より低い温度の液49を添加することができる。ろ過システム34で濃縮された誘引溶液44は正浸透システム30に返送される。一方、ろ過された膜ろ過水48は後処理部36でさらに精製されて飲料水となる。曇点を有する感温剤には、例えばポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールを含有するポリマー,またはブチルグリコールやヘキシルグリコール等が使用され、ろ過システムのろ材にはナノろ過膜や逆浸透膜が使用される。
【0004】
一方、この沈殿システムにおける相分離の前に感温剤液滴の凝集を助けるためにコアレッサーを設ける方法も特許文献2に開示されている。この方法は、
図6に示すように、被処理水である汽水源流61が正浸透モジュール51に送られて、そこで半透膜を介して引抜溶液流63と接触させて汽水源流61中の水を浸透圧により半透膜を透過させて引抜溶液流63へ移動させる。水が引抜溶液流に移動して残った塩水流62は正浸透モジュール51から流出する。一方、汽水源流中の水で希釈された希釈引抜溶液流64は熱交換器ネットワーク56に通されて加温されてコアレッサー52に供給されて、そこで、溶液リッチ流滴が相分離器プロセス53で分離されるのに充分な大きさに凝集する。コアレッサー52で凝集が行われた希釈引抜溶液流66は相分離でプロセス53に送られて、そこで重力分離され、上層の水リッチ流67は熱交換器59を経てナノフィルター54で残存溶質が分離されて溶質なし水フィルター透過物68が取り出される。一方、下層の溶質リッチ流70は熱交換器55で熱交換され、ナノフィルター54から流出する溶質リッチ流65とミキサー57で混合される。この混合溶質リッチ流は引抜溶液流63として正浸透モジュールに返送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2010/0155329A1号明細書
【特許文献2】特許第5985609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
感温剤を用いて正浸透法で淡水を製造する場合には、相分離した希薄溶液には感温剤が残存しているので希薄溶液から淡水を製造する際には希薄溶液からこれを除去する必要があり、そのために特許文献1、特許文献2のいずれの方法においてもナノフィルターや逆浸透膜等による膜ろ過を行っている。ところが、希薄溶液をそのまま膜ろ過すると感温剤がナノフィルターや逆浸透の膜表面に付着してファウリングが生じ膜透過速度が経時的に低下することから、膜ろ過工程に設備コストや運転コストがかかっている。
【0007】
本発明の目的は、感温剤を用いた正浸透法で淡水を製造する方法において、膜ろ過工程の負担を安価で効率よく低減できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく種々検討の結果、コアレッサーに着目した。特許文献2ではコアレッサーは、正浸透モジュールから排出される感温剤を多量に含む希釈感温剤水溶液における感温剤の凝集に使用しているが、本発明者らが検討した結果、希釈感温剤水溶液から感温剤の濃厚溶液を分離した、少量の感温剤が残存している希薄溶液にも凝集している感温剤が存在し、これをコアレッサーで効率よく凝集分離させることができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
塩類を含有する被処理水と、曇点を有する感温剤水溶液とを半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を正浸透膜を通して前記感温剤水溶液に移動させ、水で希釈された希釈感温剤水溶液と膜濃縮水を得る正浸透工程と、前記希釈感温剤水溶液を前記感温剤水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温工程と、前記加温工程で相分離した感温剤を主体とする濃厚溶液層と、水を主体とし少量の感温剤を含有する希薄溶液層とに重力分離する重力分離工程と、前記重力分離工程で分離された濃厚溶液を前記感温剤水溶液の曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透工程へ循環し、感温剤水溶液として再使用する冷却・循環工程と、前記重力分離工程で分離された希薄溶液を膜処理し、膜ろ過水を得る膜ろ過工程を有する正浸透水処理方法において、前記希薄溶液をコアレッサーに通液して希薄溶液に残存している感温剤を分離してから膜ろ過することを特徴とする正浸透水処理方法と、
塩類を含有する被処理水と、曇点を有する感温剤水溶液とを半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を半透膜を通して前記感温剤水溶液に移動させ、水で希釈された希釈感温剤水溶液と膜濃縮水を得る正浸透膜処理装置と、前記希釈感温剤水溶液を前記感温剤水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温手段と、前記加温手段で加温され相分離した感温剤を主体とする濃厚溶液層と、水を主体とし少量の感温剤を含有する希薄溶液層とに重力分離する重力分離槽と、前記重力分離槽で分離された濃厚溶液を前記感温剤水溶液の曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透処理装置へ循環し、感温剤水溶液として再使用する冷却・循環手段と、前記重力分離槽で分離された希薄溶液を膜処理し、膜ろ過水を得る膜ろ過装置を有する処理装置において、前記重力分離槽と膜ろ過装置の間にコアレッサーを設け、重力分離槽で分離された希薄溶液に残存している感温剤を分離してから膜ろ過装置に送ることを特徴とする正浸透水処理装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、感温剤を用いた正浸透法で淡水を製造する方法において、膜ろ過工程の負担を安価で効率よく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施態様の装置の概略構成を示す図である。
【
図2】そのコアレッサーの概略構造を示す図である。
【
図3】感温剤濃度と曇点の関係の一例を示すグラフである。
【
図4】実施例で得られたコアレッサー透過流束とコアレッサー上澄水の感温剤濃度との関係を示すグラフである。
【
図5】従来の感温剤を用いた正浸透法の概略構成を示す図である。
【
図6】従来の別の感温剤を用いた正浸透法の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法で処理される被処理水は水を溶媒とし、塩類を含有する溶液であり、海水、かん水、廃水などである。
【0013】
正浸透工程
正浸透工程は、必要によりろ過処理した被処理水と、感温剤を水に溶解した高浸透圧の水溶液を半透膜を介して接触させ、被処理水中の水を半透膜を通して感温剤水溶液に移動させ、水で希釈された希釈感温剤水溶液と膜濃縮水を得る工程である。
【0014】
感温剤は、低温では親水性で水によく溶けるが、ある温度以上になると疎水性化し溶解度が低下する物質であり、水溶性〜不水溶性に変化する温度が下限臨界温度あるいは曇点と呼ばれる。この温度に達すると疎水性化した感温剤が凝集して白濁が起こる。
【0015】
この感温剤は、各種界面活性剤、分散剤、乳化剤などとして利用されており、例示すれば、アルコール、アルキル基または脂肪酸とエチレンオキサイドの化合物、アルコール、アルキル基または脂肪酸とプロピレンオキサイドの化合物、アクリルアミドとアルキル基の化合物、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、アミノ酸およびその誘導体、ブチルグリコールやヘキシルグリコールなどのグリコールなどであり、好ましくは、ポリエチレングリコールとポリプロピレン/ポリブチレングリコールの共重合体、グリセロールエトキシレートブトキシレート、トリメチロールプロパンエトキシブトキシレート等である。本発明において使用する感温剤としては、曇点が30℃〜80℃の範囲、特に40℃〜60℃の範囲のものが好ましい。そのために、HLB値が10以上の非イオン性界面活性剤とそれよりHLB値が低い非イオン性界面活性剤、脂肪酸あるいはアルコールを組み合わせて曇点を上記の範囲に調節するといった方法を取ることもできる。
【0016】
感温剤水溶液の濃度は、感温剤水溶液の浸透圧が、被処理液の浸透圧より十分高くなるように調整しなければならない。
【0017】
半透膜は水を選択的に透過できるものがよく、正浸透(Forward Osmosis)膜が好ましいが、逆浸透膜も使用できる。材質は特に制限されないが、例示すれば、酢酸セルロース系、ポリアミド系、ポリエチレンイミン系、ポリスルホン系、ポリベンゾイミダゾール系のものなどを挙げることができる。半透膜の形態も特に制限されず、平膜、管状膜、中空糸などいずれであってもよい。
【0018】
この半透膜を装着する装置は通常は円筒形あるいは箱型の容器内に半透膜を設置して、この半透膜で仕切られた一方の室に被処理水を流し、他方の室に感温剤水溶液を流せるものであり、公知の半透膜装置を用いることができ、市販品を用いることもできる。
【0019】
正浸透工程で被処理水を半透膜を介して感温剤水溶液と接触させると浸透圧の差によって被処理水中の水が半透膜を通って感温剤水溶液に移動する。
【0020】
加温工程
正浸透工程で被処理水から水が移動して希釈された希釈感温剤水溶液を曇点以上の温度まで加温して、感温剤の少なくとも一部を凝集させる。この凝集とは、感温剤の濃厚溶液が分離したものである。
【0021】
加温工程における加温温度は、例えば熱交換器へ導入する熱媒体の流量や温度の調整で制御できる。
【0022】
この加温工程の熱源には、次の重力分離工程で分離された濃厚溶液の顕熱を使用することができる。
【0023】
重力分離工程
前記加温工程で相分離した感温剤を主体とする濃厚溶液層と水を主体とし少量の感温剤を含有する希薄溶液層に重力分離する。この重力分離は曇点以上の液温で重力分離槽内で静置することによって行うことができる。その際、前記加温工程で凝集した感温剤の濃厚溶液は重力分離槽に投入されると、感温剤の比重が水より重い場合は、濃厚溶液の微細液滴は速やかに沈降し、液滴同士が合一して重力分離槽下部に濃厚溶液層が形成される。一方、感温剤の比重が水より軽い場合、例えば、ブチルグリコールやヘキシルグリコールを感温剤に用いた場合は、濃厚溶液層が上層になり希薄溶液層が下層になる。
【0024】
重力分離された希薄溶液の感温剤の含有量は100〜20000mg/L程度、通常1000〜10000mg/L程度であり、感温剤は一部が溶解し、一部は懸濁状態になっている。
【0025】
本発明では、この希薄溶液をコアレッサーに通液して、残存している感温剤粒子を凝集させて分離するところに特徴がある。
【0026】
コアレッサーは、ナイロンやポリプロピレン等の疎水性素材またはガラス繊維等の親水性素材よりなるフィルターを持った油水分離器であり、油滴を含む水を通すとこの油滴を凝集して成長させ、大きな粒子にして浮上分離させるものである。これを、重力分離された希薄溶液に適用すると、コアレッサーのフィルターは曇点以上となっているこの希薄溶液中の少量の感温剤を効率よく捕集して1〜2mmΦの大きさにさらに凝集させ、重力分離により感温剤を沈殿させる。その構造例を
図2に示す。この装置では、希薄溶液は下部から導入され、筒状のフィルターで希薄溶液に含まれている微細な感温剤粒子を捕集して成長させ、フィルターの下部から落下させて底部から引抜回収される。フィルターを通過したコアレッサー上澄水は上部から排出される。このコアレッサー上澄水の感温剤濃度は50〜15000mg/L程度、通常500〜5000mg/L程度である。これにより、高濃度の感温剤をコアレッサーの装置下部から回収することが可能である。それゆえ、コアレッサーを分離槽後段に適用することで、小規模な設備で感温剤の回収量を増大させ、効率的な感温剤再利用システムを確立できる。さらに、コアレッサー上層の溶液中の感温剤は低濃度化するため、プロセス最終段の膜ろ過工程における溶液ろ過の負荷も軽減される。
【0027】
このコアレッサーへの希薄溶液の通液速度は、コアレッサーから流出するコアレッサー上澄水の感温剤濃度が、希薄溶液の温度を曇点とする感温剤濃度以下になるように定めることが感温剤の分離効率を高める点で望ましい。この通液速度はコアレッサーに通液される希薄溶液の通液速度とコアレッサーから流出するコアレッサー上澄水の感温剤濃度との関係を求め、該通液速度とコアレッサー上澄水の感温剤濃度が、重力分離工程で分離された希薄溶液の温度を曇点とする濃度以下になるように設定することができる。
【0028】
冷却・循環工程
前記重力分離工程で分離された濃厚溶液は、感温剤水溶液の曇点より低い温度に冷却することで凝集した感温剤を感温剤水溶液として再生する。この温度は広い範囲で採用可能であるが、経済性を考慮すると常温かそれより高い温度が好ましい。この冷却熱源としては、被処理水あるいは正浸透工程において得られた希釈感温剤水溶液を用いることがエネルギーの効率利用の点で好ましい。
【0029】
一方、コアレッサーで回収した感温剤は相分離工程で分離された濃厚溶液とともに正浸透工程へ返送することができる。
【0030】
再生した感温剤水溶液はそのまま循環して再利用できる。
【0031】
膜ろ過工程
一方、前記重力分離工程で分離されコアレッサーで感温剤をさらに除去された希薄溶液は、ナノろ過膜や逆浸透膜などで膜ろ過して、そこに主に溶解して残存している感温剤を除去する。膜ろ過水は淡水であり、飲料水などに利用できる。膜ろ過されないで残った膜濃縮水は、感温剤が含まれているので、重力分離工程に循環するのがよい。あるいは、濃縮して感温剤水溶液として正浸透工程に直接返送することもできる。
【0032】
一方、正浸透工程で得られた膜濃縮水は塩類を高濃度で含んでいるので、これを濃縮して塩類を析出させて分離し、有効利用することができる。
【0033】
この本発明の一実施態様を
図1に示す。
【0034】
これは、海水から淡水を製造する装置であり、海水は海水供給ポンプ5により正浸透モジュール1に導入され、正浸透膜2を介して感温剤水溶液13と向流接触する。そこで、海水中の水が正浸透膜2を通って感温剤水溶液13に移動し、それによって濃縮された濃縮海水12が排出される。一方、水の移動によって希釈された希釈感温剤水溶液14は加温熱交換器6で曇点以上に加温されて、感温剤を主体とする濃厚溶液相と水を主体として少量の感温剤を含有する希薄溶液相に相分離し、重力分離槽3に送られる。そこで、濃厚溶液層と希薄溶液層に分層して別々に取り出される。
【0035】
取り出された希薄溶液17はコアレッサー19に入って微小粒子となっている感温剤がそこで捕集される。コアレッサー上澄水22は、冷却熱交換器9で冷却されて、希薄溶液供給ポンプ10で仕上膜モジュール4に送られてそこで感温剤が除去され、膜ろ過水18は淡水として取り出される。仕上膜モジュール4で分離された感温剤を含む膜濃縮水15は、正浸透モジュール1を出て加温熱交換器6に入る前の希釈感温剤水溶液14に返送されて合流する。
【0036】
重力分離槽3で分層された感温剤の濃厚溶液20は、コアレッサー19で回収されたコアレッサー下層感温剤水溶液21とともに感温剤水溶液ポンプ8により、冷却熱交換器7で冷却されて感温剤水溶液13に再生され、正浸透モジュール1に返送される。
【0037】
こうして海水から連続して淡水が製造される。
【実施例】
【0038】
コアレッサーによる感温剤の分離
使用した感温剤:ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体
コアレッサー:外寸700W×700L×700H,有効容積13.5L,コアレッサーフィルター70Φ×250H:ポリプロピレン製
重力分離槽から流出した上澄水である希薄溶液(感温剤濃度2.8%、88℃)を透過流束を変えてコアレッサーに通液し、コアレッサー上澄水の感温剤濃度を測定するとともに、88℃での白濁状態を目視観察した。
【0039】
実験結果を表1、
図4に示す。図中◆は透明、●は白濁したことを表している。
【0040】
【表1】
【0041】
図4より、コアレッサー上澄液の白濁は透過流束が0.037L/min/cm
2と0.044L/min/cm
2との間で始まることがわかる。この結果から、凝集白濁した感温剤を捕捉するというコアレッサーの性能が発揮される最大透過流束を0.04L/min/cm
2とみなし、本実験条件におけるコアレッサーの運転条件を、透過流束0.04L/min/cm
2以下と決定した。
【0042】
こうして、コアレッサーが凝集白濁した感温剤を捕捉する機能を有することを確認した。
【0043】
この感温剤の濃度と曇点の関係を測定した結果を
図3に示す。
【0044】
図3より、感温剤濃度2.8%の分離槽上澄液をコアレッサーに通液した結果、コアレッサー上澄液の感温剤濃度を白濁が始まる0.9%以下に低下させられることがわかる。
【0045】
上記の結果を基に、
図1に示す装置の各部位における流量と感温剤濃度を求めた結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2のとおり、コアレッサーで分離した感温剤をFO膜へ高濃度で返送できることを確認した。
【0048】
次に表3に、従来技術で40%濃度の感温剤をコアレッサーに流入させた場合と、本発明による分離槽上澄水をコンプレッサーに流入させた場合のコアレッサーの圧力損失の計算値を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
実施例にて使用したコアレッサーでは、コアレッサーフィルターの圧力損失98kPa以下での運転を求めており、この感温剤の場合には表3のように圧力損失が98kPaを越える従来技術では使用できない。本発明では、コアレッサー流入フィルターの圧力損失を98kPa以下まで低減し、コアレッサーの適用を可能にしている。
【0051】
なお、FO膜の吸水側(感温剤循環側)の圧力損失は50〜500kPa程度であり、本発明でのコアレッサーの圧力損失7.93kPaは、設備全体にかかるランニングコストにおいて大変軽微なものとなる。
【0052】
このコアレッサーへの希薄溶液の通液速度は、コアレッサーから流出するコアレッサー上澄水の感温剤濃度が、希薄溶液の温度を曇点とする感温剤濃度以下になるように定めることが感温剤の分離効率を高める点で望ましい。この通液速度はコアレッサーに通液される希薄溶液の通液速度とコアレッサーから流出するコアレッサー上澄水の感温剤濃度との関係を求め、該通液速度とコアレッサー上澄水の感温剤濃度が、重力分離工程で分離された希薄溶液の温度を曇点とする濃度以下になるように設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、海水から淡水の製造や、廃水の脱塩などに広く利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 正浸透モジュール
2 正浸透膜
3 重力分離槽
4 仕上膜モジュール
5 海水供給ポンプ
6 加温熱交換器
7 冷却熱交換器
8 感温剤水溶液供給ポンプ
9 冷却熱交換器
10 希薄溶液供給ポンプ
11 海水(被処理水)
12 濃縮海水(膜濃縮水)
13 濃厚溶液(感温剤水溶液)
14 希釈感温剤水溶液
15 膜濃縮水
16 希釈感温剤水溶液
17 希薄溶液
18 淡水(膜ろ過水)
19 コアレッサー
20 濃厚溶液
21 コアレッサー下層感温剤水溶液
22 コアレッサー上澄水