特許第6974823号(P6974823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974823マイクロ波解体用接着組成物、及び、接着物の解体方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974823
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】マイクロ波解体用接着組成物、及び、接着物の解体方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20211118BHJP
   C09J 125/06 20060101ALI20211118BHJP
   C09J 129/14 20060101ALI20211118BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20211118BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   C09J133/04
   C09J125/06
   C09J129/14
   C09J11/06
   C09J5/00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-102736(P2017-102736)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2017-214558(P2017-214558A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2020年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-121251(P2016-121251)
(32)【優先日】2016年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】本郷 千鶴
(72)【発明者】
【氏名】薄刃 美玲
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037355(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/018239(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/064918(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/079028(WO,A1)
【文献】 特開2009−227949(JP,A)
【文献】 特開2016−065209(JP,A)
【文献】 特開2005−290357(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0078205(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0068306(US,A1)
【文献】 特開2015−196793(JP,A)
【文献】 International of Annual Conference of ICT (2016), 47th(Energetic Materials, Synthesis, Characterization, Processing),[オンライン](検索日:2021年3月18日、公開日:2016年7月12日),インターネット:<http://publica.fraunhofer.de/documents/N-402327.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着成分とイオン液体とを含有し、
前記接着成分が、二液混合反応型アクリル系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、又は、ポリスチレンである、マイクロ波解体用接着組成物。
【請求項2】
前記イオン液体を構成するカチオンが、5員環の含窒素オニウム塩である、請求項1に記載のマイクロ波解体用接着組成物。
【請求項3】
前記イオン液体を構成するカチオンが、置換又は無置換のイミダゾリウムカチオンである、請求項1に記載のマイクロ波解体用接着組成物。
【請求項4】
前記イオン液体を構成するアニオンが、SCN(チオシアネート)、又は、イミド基を有するアニオンである、請求項2又は3に記載のマイクロ波解体用接着組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のマイクロ波解体用接着組成物により接着された2つの基材からなる接着物にマイクロ波を照射することで前記マイクロ波解体用接着組成物による接着強度を低下させ、前記2つの基材を分離する工程を含む、接着物の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波解体性接着組成物、接着物、及び、接着物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、金属、高分子等の異種材料を容易に接着することができるため、日常的な利用だけではなく、工業的にも重要である。一般的には接着性が高く、耐熱性を有する接着剤が広く使用されている。
【0003】
一方で、接着剤を使用すると、その高い接着性に起因して、一度接着した基材同士を分離することが難しくなり、接着した基材をリサイクルすることが困難になる課題がある。そこで、高い接着力を保持しながらも、接着された基材に外部から刺激を与えることで、接着物を容易に解体することができる接着剤、いわゆる解体性接着剤が求められている。
【0004】
非特許文献1では、熱膨張性マイクロカプセルを配合した解体性接着剤が開示されており、これを用いた接着物を加熱することで、当該マイクロカプセルを発泡、膨張させて接着物を解体することが開示されている。
【0005】
また、特許文献1では、膨張剤として、発泡開始温度の高い膨張黒鉛を配合した解体性接着剤が開示されており、これを用いた接着物を加熱することで、混入した膨張黒鉛の発泡力により解体することが開示されている(段落0026及び0028)。
さらに、前掲の非特許文献1では、ナノフェライト粒子を配合した接着剤についても紹介されており、この接着剤にマイクロ波を照射して加熱硬化させることが記載されている(図9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−106193号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤千明、「解体性接着技術−最近の進展−」、日本接着学会誌、2008年、第44巻、第4号、p.136−141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び非特許文献1で開示されている解体性接着剤は、接着物に熱を加えることにより解体を行なうものであるが、解体が必要な時にのみ解体が進行するように、日常的には露出されない特殊な刺激をトリガーとして接着物を解体する技術の開発が求められている。そのような特殊な刺激としては、マイクロ波が想定される。
【0009】
また、非特許文献1で開示されているナノフェライト粒子を配合した接着剤では、このような無機粒子の配合により接着剤の透明性が害される恐れがある。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、接着組成物の透明性等の外観を保持したまま、接着物へのマイクロ波照射による接着物の解体を実現できるマイクロ波解体性接着組成物、並びに、当該接着組成物を利用した接着物及びその解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、接着成分にイオン液体を配合することで、接着組成物の外観を損なうことなく、マイクロ波照射による接着物の解体を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、接着成分とイオン液体とを含有するマイクロ波解体性接着組成物に関する。
【0013】
また本発明は、前記マイクロ波解体性接着組成物により接着された2つの部材からなる接着物にも関する。
【0014】
さらに本発明は、前記マイクロ波解体性接着組成物により接着された2つの基材からなる接着物にマイクロ波を照射することで前記マイクロ波解体性接着組成物による接着強度を低下させ、前記2つの基材を分離する工程を含む、接着物の解体方法にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接着組成物の外観を保持したまま、接着物へのマイクロ波照射による接着物の解体を実現できるマイクロ波解体性接着組成物、並びに、当該接着組成物を利用した接着物及びその解体方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例及び比較例で作製した剪断剥離試験用の試験片を示す斜視図
図2】実施例及び比較例において測定したイオン液体濃度と引張剪断強度の関係を示すグラフ
図3】実施例及び比較例において測定したイオン液体濃度と解体に要したマイクロ波照射時間の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
(マイクロ波解体性接着組成物)
本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、少なくとも、接着成分と、イオン液体とを含有しており、2つの部材を接着するために用いられる組成物である。
【0018】
接着成分としては従来公知の接着剤を使用することができ、特に限定されないが、接着力の高い合成系接着剤を好ましく使用することができる。合成系接着剤の具体例としては、例えば、アクリル樹脂系接着剤、アクリル樹脂嫌気性接着剤、アクリル樹脂エマルション接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、α−オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、ウレタン樹脂溶剤系接着剤、ウレタン樹脂エマルション接着剤、エーテル系セルロース接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂エマルション接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂ホットメルト接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、エポキシ樹脂エマルション接着剤、塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルション接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、水性高分子−イソシアナート系接着剤、スチレン−ブタジエンゴム系ラテックス接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース接着剤、反応性ホットメルト接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリアミド樹脂ホットメルト接着剤、ポリイミド系接着剤、ポリウレタン樹脂ホットメルト接着剤、ポリオレフィン樹脂ホットメルト接着剤、ポリ酢酸ビニル樹脂ホットメルト接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、ポリベンズイミダゾール接着剤、ポリメタクリレート樹脂溶剤系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤、等が挙げられる。さらには、汎用ポリマーであるポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等も接着成分として使用することができる。
【0019】
このうち、イオン液体と混和する接着剤を使用することが好ましく、特に、アクリル系接着剤が好ましい。アクリル系接着剤としては、接着時に化学反応を伴わない第一世代のアクリル系接着剤、ラジカル重合反応により接着する第二世代のアクリル系接着剤、紫外線などのエネルギー照射によって硬化する第三世代のアクリル系接着剤が知られている。なかでも第二世代のアクリル系接着剤(SGA)は、少なくともアクリルモノマー、エラストマー、及び触媒から構成される二液混合反応型アクリル系接着剤であり、二液を混合することで室温においてラジカル重合が開始し、硬化が行われる。SGAは室温においても硬化速度が速く、紫外線照射装置や熱風乾燥炉などの硬化装置を使用せずに硬化を実施することができる。また、耐薬品性や優れた力学物性を有するため、電気電子機器、建築など多くの分野で利用されており、本発明でも好適に用いることができる。
【0020】
本発明では、接着成分にイオン液体を混合して接着組成物を構成する。イオン液体とは、100℃以下又は150℃以下の温度において液体で存在する塩を指し、低融点溶融塩などとも言われる。イオン液体は高い誘電性を有しており、これにマイクロ波を照射することで、温度上昇が顕著に生じることが知られている。また、イオン液体は透明であるため、これを接着剤に配合しても接着剤の透明性等の外観を損ねることがない。さらにイオン液体は非揮発性であり、接着物から揮発して消失することもない。
【0021】
イオン液体としては特に限定されず、公知のものを使用することができる。イオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピロリン骨格を有するカチオン、ピロール骨格を有するカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ビラゾリニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン等の含窒素オニウム塩;トリアルキルスルホニウムカチオン等の含硫黄オニウム塩;テトラアルキルホスホニウムカチオン等の含リンオニウム塩等が挙げられる。このうち、含窒素オニウム塩が好ましく、特に、5員環の含窒素オニウム塩がより好ましい。
【0022】
上述した各種含窒素オニウム塩は、少なくとも1個の置換基を有するものであってもよいし、無置換のものであってもよい。そのような置換基としては特に限定されないが、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等の炭素数1〜20の炭化水素基や、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0023】
含窒素オニウム塩のなかでも、置換又は無置換のイミダゾリウムカチオンが好ましく、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、及び、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムカチオンが最も好ましい。
【0024】
イオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、SCN;(FSO、(CFSO、(CSO、(CFSO)(CFCO)N、(CN)等のイミド基を有するアニオン;AlCl、AlCl、BF、PF、ClO、NO;F、Cl、Br、I等のハロゲン化物イオン;CHCOO、CFCOO、CCOO等のカルボキシレート系アニオン;CHSO、CFSO、CSO、p−トルエンスルホネートアニオン等のスルホネート系アニオン;CHOSO、COSO、COSO、C13OSO、C17OSO、2−(2−メトキシエチル)エチルサルフェートアニオン等のサルフェート系アニオン;(CN)、(CFSO、AsF、SbF、NbF、TaF、B(CN)、(CPF等が挙げられる。このうち、SCN(チオシアネート)、及び、イミド基を有するアニオンが最も好ましい。また、イミド基を有するアニオンの中では、窒素原子にスルホニル基が結合したイミド基を有するアニオンが好ましい。
【0025】
本発明において、イオン液体としては、上述したカチオンとアニオンを組み合わせたものを使用できる。具体例としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・チオシアネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・アイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロマイド、トリブチルメチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・クロライド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・チオシアネート等が挙げられる。なお、イオン液体は1種類のみを配合してもよいし、2種類以上を組み合わせて配合してもよい。
【0026】
本発明のマイクロ波解体性接着組成物におけるイオン液体の配合量は、本発明のマイクロ波解体性接着組成物が所望の接着力及び解体能を示す限り特に限定されないが、配合量が少なくなると、解体能が低下する傾向にあり、また、配合量が多すぎると、接着組成物の接着力が低下する恐れがある。その観点から、本発明のマイクロ波解体性接着組成物全体に対するイオン液体の濃度は、1〜50重量%程度が好ましく、5〜40重量%程度がより好ましく、10〜30重量%程度がさらに好ましく、12〜25重量%程度が特に好ましく、15〜20重量%程度が最も好ましい。
【0027】
本発明のマイクロ波解体性接着組成物には、接着成分とイオン液体以外の成分が配合されてもよい。そのような他の成分としては、一般的な接着組成物に配合される成分が挙げられ、例えば、耐熱安定剤、耐光安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防カビ剤、発泡剤等が挙げられる。
【0028】
本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、イオン液体が配合されており、これによってマイクロ波照射による接着物の解体を実現するものであるので、特許文献1及び非特許文献1に記載されているような熱膨張性マイクロカプセルや膨張黒鉛等の熱膨張剤が配合されている必要はなく、熱膨張剤が配合されていなくとも接着物の解体を実現することができる。
【0029】
(接着物)
本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、第一の被接着基材と第二の被接着基材とを接着して接着物を作製するために用いられる。本発明のマイクロ波解体性接着組成物を適用する方法は特に限定されず、通常の接着組成物と同様の適用方法であってよい。例えば、第一の被接着基材の所定の接着面に本発明のマイクロ波解体性接着組成物を塗布し、その塗布面を第二の被接着基材の所定の接着面に重ね合わせて、所定時間固定することで、接着を行なうことができる。前記固定は、常温で行なってもよいし、加熱下で行なってもよい。また、マイクロ波解体性接着組成物を基材に塗布する際は、手作業によって塗布してもよいし、ロールコーターやスプレーコーター等、公知の塗布装置を使用してもよい。
【0030】
本発明のマイクロ波解体性接着組成物を適用できる被接着基材を構成する材料の種類は、金属、セラミックス、樹脂、木材など特に限定されない。本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、異種の材料からなる2つの基材を接着するのに適用してもよいし、また、同種の材料からなる2つの基材を接着するのに適用してもよい。本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、イオン液体を必須成分としており、例えばフェライト粒子のような、接着組成物の透明性等の外観を損ねる成分を配合する必要がないので、例えば合わせガラス等の、透明性が高い接着物を製造するための接着組成物として好適に使用できる利点がある。
【0031】
本発明のマイクロ波解体性接着組成物を適用可能な用途としては特に限定されず、種々の分野を想定することができるが、具体例を挙げると、自動車など、異種材から構成され、利用終了後に解体、リサイクルが必要な構造接着分野;カーペット、壁材など、必要に応じて剥離が求められる建材分野;スマートフォンなど、使用後にリサイクルが求められる電材分野;ガラス、アクリル樹脂などの透明材料から構成される接着物に関し、接着後に解体が求められる分野等が挙げられる。より具体的な適用例を挙げると、本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、合わせガラスを製造する際に2枚のガラス板を接着する接着剤として好適に使用することができる。また、本発明のマイクロ波解体性接着組成物は、ITO(酸化インジウムスズ)等の導電性材料からなる透明電極を基材に接着する接着剤としても好適に使用することもできる。
【0032】
(解体方法)
本発明により作製された接着物は、解体が必要な時に、マイクロ波を照射することで解体することができる。本発明のマイクロ波解体性接着組成物は高誘電性のイオン液体を含むものであるので、マイクロ波照射により接着層の温度が急激に上昇し、これにより接着層の接着強度が低下して接着物の解体が可能になると推測される。
【0033】
本発明において、接着物の解体は、接着物にマイクロ波を照射しながら2つの基材が分離するような荷重を接着物にかけることで行なうことができる。また、接着物にマイクロ波を照射した後速やかに、荷重を接着物にかけることでも行なうことができる。マイクロ波を照射する装置としては特に限定されず、家庭用の電子レンジを使用することも可能である。
【0034】
解体を実現するためのマイクロ波照射条件は特に限定されず、適宜決定することができる。一例として、マイクロ波の周波数は300MHz〜3THz、出力は10〜10000W程度であり、マイクロ波を接着物に照射する時間は1秒〜10分間程度である。また、本発明のマイクロ波解体性接着組成物が示す解体能を所望の程度のものとするために、当該組成物に含まれる接着成分やイオン液体の種類に応じて、照射するマイクロ波の周波数を適宜調節することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(調製例)
以下の接着成分及びイオン液体を用いて本発明のマイクロ波解体性接着組成物を調製した。なお、以下の各組成物ではイオン液体の濃度を20重量%とした。
【0037】
接着成分としては以下を使用した。
SGA:第二世代アクリル系接着剤(デンカ株式会社、ハードロックNS−700S20)
エポキシ接着剤:主剤としてエピコート828、硬化剤としてメチル−1,2,3,6,−テトラヒドロフタル酸無水物、及び、促進剤として1−メチルイミダゾールを100:87.5:1.5の重量比で混合したもの。
ポリビニルアルコール:水にPVA(日本合成化学社製ゴーセノールNH−18)を5重量%混合したもの。
ポリメタクリル酸メチル:THF溶液にPMMA(三菱レイヨン社製アクリペットVH)を5重量%混合したもの。
ポリスチレン:THF溶液にPS(旭化成工業社製スタイロン679)を10重量%混合したもの。
ポリビニルブチラール:THF溶液にPVB(積水化学工業エスレックBH−3)を5重量%混合したもの。
【0038】
イオン液体としては以下を使用した。
(a)1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・チオシアネート
(b)トリブチルメチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
(c)トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・クロライド
(d)1−ブチル−1メチルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
(e)1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
(f)1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェート
(g)1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボレート
(h)1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・アイオダイド
(i)1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロマイド
(j)1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・チオシアネート
【0039】
各接着組成物について粘度を評価し、その結果を表1及び2に示した。表1及び2では、評価した結果を以下の基準で分類した。
高高:100,000mPa・s以上
高:10,000〜100,000mPa・s
中:1,000〜10,000mPa・s
低:100〜1,000mPa・s
低低:100mPa・s以下
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
<結果>
表1及び2に記載の接着成分とイオン液体とを含有するマイクロ波解体性接着組成物は、上記のとおり、粘度が、高高〜低低まで分類することができ、用いる基材に応じて、適宜、本発明の解体性接着組成物を選択し使用することができる。
【0043】
(実施例1〜3及び比較例)
以下の実施例及び比較例では、イオン液体として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・チオシアネート(Sigma−Aldlich社)を使用し、接着剤として、第二世代アクリル系接着剤:SGA(デンカ株式会社、ハードロックNS−700S20)を使用した。
【0044】
比較例では、接着剤にイオン液体を添加せず、そのまま、接着組成物として使用した。
【0045】
各実施例では、接着剤に対し、濃度が15重量%(実施例1)、16.7重量%(実施例2)、又は20重量%(実施例3:表1中のNo.1)になるような量でイオン液体を添加し、混合することで、各接着組成物を製造した。
【0046】
(剪断剥離試験)
接着基板としてポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社)を幅100mm,長さ35mmの大きさに切り出したものを使用した。接着領域を確定するために幅100mm×長さ15mmの穴を設けたスペーサーとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み30μm)を使用した。接着基板の平滑な表面上にスペーサーを配置して、スペーサーの穴から露出した基板表面に各実施例又は比較例の接着組成物を塗布した後、もう一枚のポリイミドフィルムを重ね合わせて接着し、一日間室温で接着組成物を硬化させた。得られた接着物から、接着領域が幅15mm×長さ15mmになるように長さ方向に切り出したものを、剪断剥離試験用の試験片とした。
【0047】
図1は、この試験片を示す斜視図である。図1中、試験片10は、2枚の接着基板11と、両基板に挟まれた接着層12とから構成される。接着層の大きさは幅15mm×長さ15mmである。
【0048】
作製された各試験片について、引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAGS−1kND)を用いて、室温で、引張速度を50mm/minとして、引張剪断強度を測定した。結果を図2に示した。
【0049】
各実施例及び比較例で作製した試験片では、いずれも1.0MPa近傍の引張剪断強度を示した。このことから、接着剤にイオン液体を添加しても、接着組成物が示す接着強度は変化せず、ほぼ一定の値を示すことが明らかとなった。
【0050】
また、破断した各試験片の破断面を観察したところ、イオン液体を添加していない比較例1の試験片では、界面破壊が生じていることが観察された。一方、イオン液体を16.7重量%濃度で添加した実施例2の試験片でも、界面破壊が観察された。このことからも、イオン液体の添加が、接着組成物の接着力に影響を及ぼさないことが分かる。
【0051】
(マイクロ波応答剥離試験)
接着基板としてポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社)を幅100mm,長さ25mmの大きさに切り出したものを使用し、スペーサーとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み30μm)を使用した。接着基板の平滑な表面上に各実施例又は比較例の接着組成物を塗布した後、接着領域が幅100mm×長さ5mmとなるようにもう一枚のポリイミドフィルムに重ね合わせて接着し、一日間室温で接着組成物を硬化させた。得られた接着物から、接着領域が幅10mm×長さ5mmになるように切り出したものを、マイクロ波応答剥離試験用の試験片とした。なお、この試験片は、接着領域の大きさを上記のように変更した以外は、図1の試験片とおおよそ同じものである。
【0052】
マイクロ波照射装置としては、出力が500Wの市販の家庭用電子レンジ(TWIN BIRD社製、DR−D259)を使用した。
【0053】
作製された試験片の上下に2箇所ずつ穴を空けた。上側の穴に通した糸で電子レンジ内に試験片を吊るし、下側の穴に通した糸を用いて500gの荷重を試験片に掛けた。その状態で、周波数2450MHz、出力500Wの条件で5分間、マイクロ波を試験片に照射し、解体に至るまでのマイクロ波照射時間(マイクロ波の照射開始から、接着部分が下にずれて、荷重を掛けた側の接着基板が落下するまでに要する時間)を測定した。結果を図3に示した。
【0054】
イオン液体を15重量%濃度で添加した実施例1の試験片では、マイクロ波照射開始後150秒で解体が生じた。イオン液体を16.7重量%濃度で添加した実施例2の試験片では、マイクロ波照射開始後30秒で解体が生じた。イオン液体を20重量%濃度で添加した実施例3の試験片では、マイクロ波照射開始後20秒で解体が生じた。一方、イオン液体を添加していない比較例1の試験片では、解体は生じなかった。
【0055】
以上により、接着剤にイオン液体が添加された接着組成物では、マイクロ波の照射によって接着強度が低下し、接着物の解体が生じることが分かる。また、イオン液体の濃度が増加するに従い、マイクロ波照射による解体をより短時間で実現できることが分かる。
【0056】
(マイクロ波照射時の温度測定試験)
切り出した接着領域を25mm×5mmに変更した以外は上記と同様に作製した試験片を剥離して、接着面が表面に露出させた。露出した接着面に、蛍光式光ファイバー温度計(安立計器株式会社製、FL−2000)の温度検出部の先端を粘着テープで直接固定し、その状態で、電子レンジ内でマイクロ波(周波数2450MHz、出力500W)を30秒間照射し、そのときの温度の経時的変化をメモリハイコーダー(日置電気株式会社製、8807)で測定した。
【0057】
その結果、イオン液体を添加していない比較例1の試験片では、接着面の温度が室温から約30℃までわずかに上昇するのが確認された。一方、イオン液体を16.7重量%濃度で添加した実施例2の試験片では、室温から約45℃まで急激な温度上昇が確認された。この結果より、イオン液体が添加された接着組成物から形成された接着層では、マイクロ波照射により急激に温度が上昇することが分かり、このために、マイクロ波照射による解体が実現するものと推測される。
【0058】
(実施例4)
この実施例では、イオン液体として、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用し、接着剤として、汎用ポリマーであるポリスチレンを使用した。接着剤に対し、濃度が20重量%になる量のイオン液体を添加し、混合することで、接着組成物を製造した(表2中のNo.47)。この接着組成物を用いて、上記のマイクロ波応答剥離試験を行なったところ、マイクロ波照射開始後100秒で解体が生じた。
【0059】
(実施例5)
イオン液体の濃度を30重量%に変更した以外は実施例4と同様にして接着組成物を製造した。この接着組成物を用いて、上記のマイクロ波応答剥離試験を行なったところ、マイクロ波照射開始後90秒で解体が生じた。
【0060】
(実施例6)
この実施例では、イオン液体として、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用し、接着剤として、ポリビニルブチラールを使用し、接着基板としてスライドガラス(MICRO SLIDE GLASS、松波硝子工業株式会社)を使用した。接着剤に対し、濃度が20重量%になる量のイオン液体を添加し、混合することで、接着組成物を製造した(表2中のNo.50)。この接着組成物を用いて、上記のマイクロ波応答剥離試験を行なったところ、マイクロ波照射開始後161秒で解体が生じた。
【符号の説明】
【0061】
10 試験片
11 接着基板
12 接着層
図1
図2
図3