(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974830
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】電線用絶縁ロープ
(51)【国際特許分類】
H02G 7/18 20060101AFI20211118BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20211118BHJP
D07B 9/00 20060101ALI20211118BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20211118BHJP
D07B 1/16 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
H02G7/18
H02G1/02
D07B9/00
D07B1/02
D07B1/16
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-157908(P2017-157908)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2019-37080(P2019-37080A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115382
【氏名又は名称】ヨツギ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】山川 卓司
(72)【発明者】
【氏名】井上 敦史
(72)【発明者】
【氏名】冨永 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】池側 勝己
【審査官】
木村 励
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−211390(JP,A)
【文献】
特開昭63−211391(JP,A)
【文献】
実開昭61−41309(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/18
H02G 1/02
D07B 9/00
D07B 1/02
D07B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束から成る芯線と、
第1の絶縁性材料から成り、前記芯線の一部を被覆する被覆層と、を含む電線用絶縁ロープであって、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分は、第1平面上で中心角が180°以上の円弧を成し、かつ前記第1平面に垂直な第2平面に関して対称に配設された反転部を有し、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆された部分は、前記反転部に連なる連接部を有し、
前記反転部および前記連接部は、第2の絶縁性材料によって被覆され、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分の先端部から基端部までの長さは、100mm以上160mm以下であることを特徴とする電線用絶縁ロープ。
【請求項2】
繊維束から成る芯線と、
第1の絶縁性材料から成り、前記芯線の一部を被覆する被覆層と、を含む電線用絶縁ロープであって、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分は、第1平面上で中心角が180°以上の円弧を成し、かつ前記第1平面に垂直な第2平面に関して対称に配設された反転部を有し、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆された部分は、前記反転部の一端に連なる第1連接部と、前記反転部の他端に連なり、前記第1平面上で前記第1連接部と並んで配設された第2連接部と、を有し、
前記反転部、前記第1連接部および前記第2連接部は、第2の絶縁性材料によって被覆され、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分の前記第1連接部および前記第2連接部間の長さは、100mm以上160mm以下であることを特徴とする電線用絶縁ロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱間に張架される架空電線の断線による垂れ下がりおよび落下を防止するために用いられる電線用絶縁ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電柱間に並列に張架される複数の架空電線間には、架空電線の劣化および台風、地震などの災害による断線時の垂れ下がりおよび落下を防止するために、電線用絶縁ロープが架け渡されている。各架空電線には、金属線を螺旋状に曲げ加工した係止具がそれぞれ装着され、各係止具には電線用絶縁ロープのリング部が掛け止められる。
【0003】
このような電線用絶縁ロープの従来技術は、たとえば特許文献1に記載されている。この従来技術では、電線連結用ロープに、使用時に巻付けグリップ金具に施工しやすくするために、把持用リングが設けられ、把持用リングは絶縁性樹脂によって被覆された芯材繊維をリング状にしてスリーブで固定した後、耐摩耗性に優れる高密度ポリエチレン樹脂によって射出成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−34434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術では、リング状の芯材繊維は、押出成形によって、軟質のシリコーン樹脂などの絶縁性樹脂で被覆され、反転した端部とその付け根部とがスリーブによって結束され、その外側が高密度ポリエチレン樹脂が射出成形された構成であるので、芯材繊維に高密度ポリエチレン樹脂が充分に浸透せず、高密度ポリエチレン樹脂から成る被覆層と芯材繊維との付着力が小さく、把持用リングの引張り強度が低いという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、高い引張り強度を有する電線用絶縁ロープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維束から成る芯線と、
第1の絶縁性材料から成り、前記芯線の一部を被覆する被覆層と、を含む電線用絶縁ロープであって、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分は、第1平面上で中心角が180°以上の円弧を成し、かつ前記第1平面に垂直な第2平面に関して対称に配設された反転部を有し、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆された部分は、前記反転部に連なる連接部を有し、
前記反転部および前記連接部は、第2の絶縁性材料によって被覆され
、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分の先端部から基端部までの長さは、100mm以上160mm以下であることを特徴とする電線用絶縁ロープである。
【0008】
また本発明は、繊維束から成る芯線と、
第1の絶縁性材料から成り、前記芯線の一部を被覆する被覆層と、を含む電線用絶縁ロープであって、
前記芯線
の、前記被覆層によって被覆されていない部分は、第1平面上で中心角が180°以上の円弧を成し、かつ前記第1平面に垂直な第2平面に関して対称に配設された反転部を有し、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆された部分は、前記反転部の一端に連なる第1連接部と、前記反転部の他端に連なり、前記第
1平面上で前記第1連接部と並んで配設された第2連接部と、を有し、
前記反転部、前記第1連接部および前記第2連接部は、第2の絶縁性材料によって被覆され
、
前記芯線の、前記被覆層によって被覆されていない部分の前記第1連接部および前記第2連接部間の長さは、100mm以上160mm以下であることを特徴とする電線用絶縁ロープである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維束から成る芯線と、第1の絶縁性材料から成り、芯線の一部を被覆する被覆層とを含み、芯線の被覆層によって被覆されていない部分は、
先端部から基端部までの長さは、100mm以上160mm以下であり、第1平面上で中心角が180°以上の円弧を成し、かつ第1平面に垂直な第2平面に関して対称に配設された反転部を有
する。また芯線の被覆層によって被覆された部分は、反転部に連なる連接部を有し、反転部および連接部は、第2の絶縁性材料によって被覆されている。
【0010】
このような構成によって、第1平面上において180°以上の円弧を成す反転部には、第2の絶縁性材料が直接、浸透し、芯線と第2の絶縁性材料との接合強度を向上し、高い引張り強度を得ることができる。また、反転部および連接部が第2の絶縁性材料によって被覆されているので、散水、降雨などによる水の芯線への浸入が防がれ、水の付着による芯線の劣化を抑制し、引張り強度の低下を防止して、耐久性を向上することができる。
【0011】
また本発明によれば、繊維束から成る芯線と、第1の絶縁性材料から成り、芯線の一部を被覆する被覆層とを含み、芯線
の、前記被覆層によって被覆されていない部分は、
先端部から基端部までの長さは、100mm以上160mm以下であり、第1平面上で中心角が180°以上の円弧を成し、かつ第1平面に垂直な第2平面に関して対称に配設された反転部を有
する。また芯線の被覆層によって被覆された部分は、反転部の一端に連なる第1連接部と、反転部の他端に連なり、第2平面上で第1連接部と並んで配設された第2連接部とを有し、反転部、第1連接部および第2連接部は、第2の絶縁性材料によって被覆されている。
【0012】
このような構成によって、第1連接部と第2連接部とは、第2平面上で重なり、左右両側の架空電線へ各ロープ本体が互いに干渉せず、両側に引き廻し易い。また、第1平面上で180°以上の円弧を成す反転部の芯線には、第2の絶縁性材料が浸透し、第1連接部および第2連接部の被覆層が第2の絶縁性材料によって被覆されているので、散水、降雨などによって水の芯線への浸入が防がれ、水の付着による芯線の劣化を抑制し、引張り強度の低下を防止して、耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の電線用絶縁ロープ1のリング部2aを拡大した正面図である。
【
図2】リング部2aを
図1の右方から見た側面図である。
【
図3】
図2の切断面線III−IIIから見たリング部2aの断面図である。
【
図4】電線用絶縁ロープ1を架空電線3a,3bに装着した状態を示す斜視図である。
【
図6】
図5の切断面線VI−VIから見た拡大断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態の電線用絶縁ロープ1aのリング部2aを拡大した正面図である。
【
図8】電線用絶縁ロープ1aを架空電線3a,3b,3cに装着した状態を示す斜視図である。
【
図9】電線用絶縁ロープ1aの外観を示す図である。
【
図10】
図9の切断面線X−Xから見た拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の一実施形態の電線用絶縁ロープ1のリング部2aを拡大した正面図であり、
図2はリング部2aを
図1の右方から見た側面図であり、
図3は
図2の切断面線III−IIIから見たリング部2aの断面図であり、
図4は電線用絶縁ロープ1を架空電線3a,3bに装着した状態を示す斜視図である。本実施形態の電線用絶縁ロープ1は、ロープ本体13と、ロープ本体13の長手方向両端部にそれぞれ設けられるリング部2a,2bとを有する。一方のリング部2aは、繊維束から成る芯線4と、第1の絶縁性材料から成り、芯線4の一部を被覆する被覆層5とを含んで構成される。他方のリング部2bは、前述の一方のリング部2aと同様に構成される。以下の説明において、総称する場合には、添え字a,bを省略して、「リング部2」と記す。
【0015】
芯線4の被覆層5によって被覆されていない部分4bは、第1平面S1上で中心角θが180°以上の円弧を成し、かつ第1平面S1に垂直な第2平面S2に関して対称に配設された反転部6を有する。芯線4の被覆層5によって被覆された部分4aは、反転部6に連なる連接部7を有し、反転部6および連接部7は、第2の絶縁性材料によって被覆されている。
【0016】
芯線4は、ポリエステル繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート、炭素繊維などの編成組織から成る紐状体によって構成される。
【0017】
第1の絶縁性材料としては、絶縁性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、シリコーンゴム、EPDMゴム、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどの各種の材料が挙げられ、好ましくは電気絶縁性、耐トラッキング性、耐候性、柔軟性、難燃性などの点で優れた難燃性シリコーンゴムを用いることができる。
【0018】
また、第2の絶縁性材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリスチレンやポリ塩化ビニルなどのポリビニル系樹脂、ABS樹脂やスチレン/アクリル酸共重合体などの各種の共重合体樹脂、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニルなどのフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの各種の材料またはそれらの難燃材料が挙げられ、好ましくは絶縁性、耐トラッキング性、耐候性、耐摩耗性、難燃性などの点で優れた難燃性ポリエチレンを用いることができる。
【0019】
このような電線用絶縁ロープ1は、ロープ本体13の被覆層5をその端部から長さLにわたって剥離し、第2の絶縁性材料と同一の樹脂から成るスペーサ9に嵌合させ、金型に収容して射出成形によって製造することができる。また、ロープ本体13は、芯線4を第1の絶縁性材料とともに押出成形することによって、芯線4が被覆層5によって被覆されたロープ本体13が製造される。
【0020】
図5は電線用絶縁ロープ1の外観を示す図であり、
図6は
図5の切断面線VI−VIから見た拡大断面図である。電線用絶縁ロープ1は、螺旋状の吊り具10a,10bにリング部2a,2bが装着され、各リング部2a,2bが電線用絶縁ロープ1とともに、2本の架空電線3a,3bにそれぞれ掛止められる。
【0021】
これによって、突風、地震などの自然災害時に一方の架空電線3a(または3b)が落下または垂れ下がっても、他方の架空電線3b(または3a)に、落下または垂れ下がった架空電線3a(または3b)が電線用絶縁ロープ1によって吊下げられ、地上まで落下または垂れ下がってしまうことが防止される。
【0022】
したがって、たとえ架空電線3a,3bが高圧送電線などの直径が大きく、重量も大きい電線であっても、リング部2a,2bとロープ本体13とは高い引張り強度を有するので、架空電線3a,3bの落下時または垂れ下がり時の大きな慣性力に抗することができ、ロープ本体13がリング部2a,2bから抜け出てしまうなどの破壊や損傷が防がれ、各電線3a,3bが地上まで落下し、または垂れ下がってしまうことを阻止することができる。
【0023】
また、電線用絶縁ロープ1は、第1平面S1上において180°以上の円弧を成す反転部6には、第2の絶縁性材料が直接、浸透しているので、芯線4と第2の絶縁性材料との接合強度を向上し、高い引張り強度を得ることができる。また、反転部6および連接部7が第2の絶縁性材料によって被覆されているので、散水、降雨などによる水の芯線4への浸入が防がれ、水の付着による芯線4の劣化を抑制し、引張り強度の低下を防止して、耐久性を向上することができる。本件発明者は、本実施形態の電線用絶縁ロープ1について、リング部2aに対するロープ本体13の引張り強度を測定したところ、250kgf以上の引張り強度を有することが確認された。
【0024】
本件発明者は、絶縁ロープ1のリング部2a,2bの引張り強度を確認するため、芯線4の被覆層5を剥離した長さおよび位置を異ならせた試料1〜20について、架空電線10を挿入した状態でロープ本体13に引張り力を作用させ、そのときの破断荷重を測定して、各試料1〜20の引張り強度を測定したところ、次の表1の結果を得た。この引張り強度の測定試験において、表1に示す芯線4の先端部の位置は、
図3の符号a1〜a
6とし、基端部の位置は
図3のb1〜b5とし、引張り力は、株式会社島津製作所製、型番AGS−Jの引張り試験機を用いた
【0026】
上記の表1から明らかなように、芯線4の先端部がa1,a2,a3であって、かつ基端部がb1,b2の位置で、剥離長さが100mm以上あれば、芯線4に第2の絶縁性材料が充分に浸透し、所要の引張り強度(本実施例では、270kgf以上)が得られることが確認された。
【0027】
図7は本発明の他の実施形態の電線用絶縁ロープ1aのリング部2bを拡大した正面図であり、
図8は電線用絶縁ロープ1aを架空電線3a,3b,3cに装着した状態を示す斜視図であり、
図9は電線用絶縁ロープ1aの外観を示す図であり、
図10は
図9の切断面線X−Xから見た拡大断面図である。なお、前述の実施形態と対応する部分には、同一の参照符を付す。本実施形態の電線用絶縁ロープ1aは、3本の架空電線3a,3b,3cに吊り具10a,10b,10cによって掛け止められる。一端側のリング部2aと中央のリング部2bとは、ロープ本体13aによって繋がり、中央のリング部2bと他端側のリング部2cとは、もう1つのロープ本体13bによって繋がっている。
【0028】
芯線4は繊維束から成り、被覆層5は第1の絶縁性材料から成り、芯線4の一部を被覆し、芯線4が、第1平面S1上で中心角θが180°以上の円弧を成し、かつ第1平面S1に垂直な第2平面S2に関して対称に配設された反転部6を有する点は、前述の実施形態と同様である。本実施形態では、中央のリング部2bにおいて、芯線4の被覆層5によって被覆された部分4aは、反転部6の一端に連なる第1連接部7aと、反転部6の他端に連なり、第2平面S2上で第1連接部7aと並んで配設された第2連接部7bとを有し、反転部6、第1連接部7aおよび第2連接部7bは、第2の絶縁性材料によって被覆されている。
【0029】
このような構成を採用することによって、第1連接部7aと第2連接部7bとは、第2平面上において重なって配設され、両側の架空電線3a,3bへ各ロープ本体13を引き廻し易く、互いに干渉しない。また、第1平面S1上で180°以上の円弧を成す反転部6の芯線4には、第2の絶縁性材料が浸透し、第1連接部7aおよび第2連接部7bの被覆層5が第2の絶縁性材料によって被覆されているので、散水、降雨などによって水の芯線への浸入が防がれ、水の付着による芯線4の劣化を抑制し、引張り強度の低下を防止して、耐久性を向上することができる。
【符号の説明】
【0030】
1,1a 電線用絶縁ロープ
2a,2b リング部
3a,3b 架空電線
4 芯線
5 被覆層
6 反転部
7;7a,7b 連接部
9 スペーサ
10a,10b 吊り具
13 ロープ本体
S1 第1平面
S2 第2平面
θ 中心角