(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スリットダイが前記乾燥領域の入口側に配設されると共に、当該スリットダイは前記テープ状繊維束の上下両面に塗工する一対のスリットダイで構成されることを特徴とする請求項1又は2の製造装置。
前記一対のスリットダイが、搬送方向上流側に前記テープ状繊維束の下面を塗工する下側スリットダイを配置し、搬送方向下流側に前記テープ状繊維束の上面を塗工する上側スリットダイを配置したことを特徴とする請求項4の製造装置。
前記乾燥領域が、乾燥炉と、前記搬送ベルトの搬送方向と直角に前記乾燥炉内を水平方向に横断する方向に配設された複数のロールを有し、当該複数のロールによって前記搬送ベルトの前記搬送経路が規定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(一方向プリプレグテープ製造装置の概略)
以下、
図1を参照して一方向プリプレグテープ製造装置の概略について説明する。
図1の製造装置100は箱状の乾燥・固化炉110を備えている。この乾燥・固化炉110は樹脂を固化する乾燥領域を形成するもので、
図1の繊維束の搬送経路(供給ロール130から引取ロール160)に向かった左右方向の長さが約6mである。そして、乾燥・固化炉110の下側に、横長矩形状の経路に沿って循環駆動される搬送ベルト120が配設されている。当該搬送ベルト120は、通気性と耐熱性、離型性を有するベルトで構成することができ、例えばガラス基材にフッ素樹脂をコーティングしたファブリックベルトや、スチールネットベルト、不織布ベルト等で構成することができる。尚、この乾燥・固化炉110の長さについては特に限定されず、乾燥温度や生産速度等に応じて適宜変更される。
【0016】
当該搬送ベルト120の横長矩形状の内側に、第2支持ロール172、第3支持ロール173、第4支持ロール174、第5支持ロール175、第6支持ロール176が、搬送ベルト120の搬送方向と直角に配設されている。そして第4支持ロール174が駆動ロールとされ、駆動モータに連結されて回転駆動されることで、搬送ベルト120が矢印方向に循環移動するようになっている。他の支持ロールは搬送ベルト120の移動により連れ回りする従動ローラとされている。
【0017】
また第2支持ロール172と第3支持ロール173との間に、後述する中間支持ロール181〜189が、所定間隔かつ搬送ベルト120の搬送方向と直角に配設されている。これら中間支持ロール181〜189は前述の第1〜第6支持ロール171〜176より小径であり、いずれも搬送ベルト120の移動により連れ回りする従動ローラとされている。
【0018】
中間支持ロール181〜189の間隔と、その前後の第2支持ロール172及び第3支持ロール173との間隔は以下の通りである。
・第2支持ロール172と中間支持ロール181の距離:0.7m
・中間支持ロール181と182の距離: 0.5m
・中間支持ロール182と183の距離: 0.5m
・中間支持ロール183と184の距離: 1.0m
・中間支持ロール184と185の距離: 0.5m
・中間支持ロール185と186の距離: 0.5m
・中間支持ロール186と187の距離: 1.0m
・中間支持ロール187と188の距離: 0.5m
・中間支持ロール188と189の距離: 0.5m
・中間支持ロール181と第3支持ロール173の距離:0.7m
【0019】
これら間隔は例示であって、すべて等間隔にしたり、ロール本数を増減したり、適宜変更可能なことは勿論である。但し、ロールの本数を増やして密に配設すると搬送ベルト120の後述する凸曲面状をより滑らかにすることができるのでより好ましいが、ロールの設備コストとメンテナンスの手間が増えるというデメリットが生じる。
【0020】
搬送ベルト120の左側(上流側)に所定距離だけ離れて繊維束Fの供給ロール130が配設されている。そして当該供給ロール130と搬送ベルト120との間に、昇降式のテンションロール140と、第1支持ロール171と、樹脂塗工部150が配設されている。
【0021】
また搬送ベルト120の右側(下流側)に所定距離だけ離れて引取ロール160が配設されている。そして当該引取ロール160と乾燥・固化炉110の間における、第3支持ロール173と第4支持ロール174との間の搬送ベルト120に、搬送ベルト120の外側に配置された水冷ロール190が、搬送ベルト120をV字状に押し下げるようにして当接している。この水冷ロール190と引取ロール160の間に、小径の案内ロール191が配設されている。
【0022】
樹脂塗工部150は
図1、
図2のように、乾燥・固化炉110の直前位置に配置された2つのスリットダイ151、152で構成されている。上流側の第1スリットダイ151と下流側の第2スリットダイ152は、繊維束Fの搬送経路の上下に配置され、上流側の第1スリットダイ151によって繊維束Fの下面に樹脂が塗工され、下流側の第2スリットダイ152によって繊維束Fの上面に樹脂が塗工される。
【0023】
第1スリットダイ151と第2スリットダイ152は、繊維束Fの進行方向において水平距離[L
2]でずらして設置されている。当該水平距離[L
2]は適宜増減調節すること
が可能である。なお、
図2において、繊維束Fは上流側のスリット151aに対して上り傾斜で進入する進入角度θで示されている。
【0024】
スリットダイを使用した従来の樹脂塗工方法では、繊維束の片側からのみの塗工が普通であるが、本発明の実施形態では上下両側から塗工する。これにより、繊維束Fの隙間にくまなくマトリクス樹脂を含浸させることができる。
【0025】
また第1スリットダイ151と第2スリットダイ152を繊維束Fの進行方向で水平距離[L
2]でずらして設置することで、各スリットダイから樹脂塗工をする際に、繊維束Fの隙間に初めから存在するエアをダイとは反対側に確実に追い出すことができる。これにより樹脂含浸率向上とボイド率低減を図ることができる。
【0026】
なお、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152は、上下を入れ替えることも可能である。すなわち、第1スリットダイ151を繊維束Fの上側に配置し、第2スリットダイ152を繊維束Fの下側に配置することも可能である。
【0027】
各スリットダイ151、152は
図3に示すように、一対の金型間に吐出口幅wの切り欠きを有するシム151b、152bを挟み込んだもので、吐出口幅wは繊維束Fの幅よりもやや広くしてある。当該シム151b、152bを異なる厚さのものに交換することで、スリットダイ151、152の樹脂吐出口である扁平スリット151a、152aの間隔(吐出口厚みt)を調整することができる。
【0028】
樹脂の吐出量を一定にして厚みtを増大すると単位体積当りの塗工量が減少し、減少すると塗工量が増大する。なお、シム151b、152bの吐出口は1つではなく複数にして樹脂吐出口を多条化することや、吐出口幅wを広くして、複数本の繊維束Fを引き揃えた広幅のシートに一括で同時に樹脂塗工することも可能である。
【0029】
第1スリットダイ151と第2スリットダイ152は、
図2のように、それぞれのスリット151a、152aの高さ位置に関してわずかにダイギャップ[h]が付けられている。当該ダイギャップ[h]は後述するように大きすぎても小さすぎても樹脂含浸後の一方向プリプレグテープに付着する樹脂量の単位長さあたりの精度(以下、「樹脂付着精度」と称する)が悪くなり、更に繊維束Fの表面外観及び繊維束F内への樹脂の含浸が好ましくない結果となる。
【0030】
このためダイギャップ[h]は樹脂付着精度を向上するために拡繊した繊維束Fの厚み[t']に合わせて1/2t'≦h≦5t'、より好ましくは1/2t'≦h≦3t'の範囲に調整する必要がある。ダイギャップ[h]が上記範囲よりも大きすぎると、繊維束表面に樹脂が斑に付着してテープの表面品位が悪化すると共に、樹脂束内部への樹脂の含浸不良となる。したがって、このようなテープを用いてシート材を製造すると、シート内部に多数のボイドが残存して物性低下を招く。
【0031】
これとは反対にダイギャップ[h]が1/2t'よりも小さすぎると、樹脂束内部への樹脂の含浸は良好であるが、繊維束がダイと強く接触するため繊維束表面に塗工された樹脂がこそぎ落とされ、繊維束が擦過される。したがって、テープ表面に繊維束が露出したり、フィラメント切れが起きたりしてテープの表面品位が悪化する。
【0032】
スリットダイ151、152に供給される熱可塑性樹脂は、例えば粘度100−200mPa・sのものを使用することができる。具体的には、熱可塑性樹脂として、ナガセケムテックス社製の熱溶融エポキシ(主剤:XNR6850V、固化剤:XNH6850V)を主剤100重量部:硬化剤8重量部の割合で混合したものを使用することができる。混合後の溶液中には15〜20重量%の溶剤が含まれる。後述する実施例と比較例ではこのナガセケムテックス社製の熱可塑性樹脂を使用した。尚、主剤と硬化剤の配合割合、溶剤量等については乾燥条件、生産速度等に応じて適宜変更される。
【0033】
(乾燥・固化炉と搬送ベルト)
乾燥・固化炉110は、任意の加熱源(例えば電気ヒータ)を有する送風機付きの乾燥・固化炉である。炉の温度は樹脂に含まれる溶剤の蒸発温度以上とし、かつ、溶剤の発火温度の2/3以下の温度で加温送風するのが好ましい。この実施形態では170℃の温度で加温送風する。尚、この乾燥・固化炉110の加熱方法については特に限定されず、例えばクォーツヒーターやセラミックヒーターなどを加熱源とした赤外線の輻射熱による加熱方法等も使用することができる。
【0034】
乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120は、乾燥・固化炉110の入口側の第2支持ロール172と、乾燥・固化炉110の出口側の第3支持ロール173と、第2支持ロール172と第3支持ロール173との間に設置された9本の中間支持ロール181〜189で支持されている。
【0035】
中間支持ロール181〜189は、
図4に示すように、水平方向に対する各ロール間の傾斜角度[θ
n]が、それぞれ−90°<θ
1〜θ
9<+90°、より好ましくは−45°<θ
1〜θ
9<+45°で変化するように配設されている。マイナス(−)は下り傾斜、プラス(+)は上り傾斜であり、
図4では水平線に対して下り傾斜の傾斜角度が示されている。これにより、繊維束と搬送ベルトとの密着性を向上させることができる。なお、
図4の中間支持ロール181〜189の配置は、傾斜角度[θ
n]の変化を分かりやすくするために、
図1に比べて傾斜角度[θ
n]を誇張して図示している。また、各ロールの傾斜角度について、上り傾斜を含む場合は、樹脂含浸後の繊維束の搬送ベルトへの密着性の点から、
図2で示される繊維束のスリットダイへの進入角度θよりも小さいことが好ましい。
【0036】
詳しくは、搬送ベルト120の支持面で構成される搬送経路は、
図4のように、搬送ベルト120の側方から見て搬送ベルト120の支持面側(
図4で上側)で凸となる曲面状(アーチ状)とされている。この曲面状は円弧状(楕円の部分円弧を含む)であって、
図4のように下り傾斜の円弧状、上り傾斜の円弧状、又は下り傾斜と上り傾斜の円弧状を組み合わせたものであっても良い。そして当該曲面状は、望ましくは、前記ロール間の角度[θ
n]をそれぞれ−90°<θ
1〜θ
9<0°、更に望ましくは−45°<θ
1〜θ
9<0°で変化させることで、搬送方向下流側に行くにつれて次第に曲率が増大するように構成されている。尚、搬送経路は
図4で示される水平方向に対して上側に加えて、搬送ベルト120の支持面側が下側の場合は下側に凸となる円弧状とすることも可能である。
【0037】
本発明において、乾燥・固化炉110内に搬送ベルトを設けることにより、乾燥・固化炉110内で繊維束Fの含浸樹脂が固化(重合)される際、当該繊維束Fに対して搬送ベルト120から所定の面抗力が継続的に作用する。当該面抗力は、具体的には、繊維束Fと搬送ベルト120との間の密着力として作用し、当該密着力により、繊維束Fが低張力であっても、含浸樹脂が固化・減容する際の繊維束Fの乱れによる種々の弊害を抑制することができる。更に搬送ベルト120の搬送経路を曲面状とすることにより、繊維束Fと搬送ベルト120との密着性が向上し面抗力をより効率的にかけることができる。また、繊維束Fが低張力であると樹脂の含浸性が向上するので、ボイド率の低減を促進することもできる。
【0038】
すなわち、
1)繊維束にかかる張力を低くしても、樹脂の重合収縮に伴う繊維束Fの幅方向収縮を適度に抑制してその薄層・広幅状態を維持することができる。
2)必要以上に繊維束に負荷がかからないため、フィラメント切れによる毛羽立ちといった繊維の破損を抑制することができる。
3)繊維の破損によるボイドの発生を抑制することができる。
4)低ボイド化又はボイドレス化によりプリプレグテープの品質・強度を向上することができる。なお、曲率を漸増させないで一定曲率とした場合であっても、繊維束Fと搬送ベルト120との間に所定の密着力が得られ、当該密着力は繊維束Fが低張力であっても安定的に維持することができる。
【0039】
(一方向プリプレグテープの製造)
一方向プリプレグテープ製造装置100は以上のように構成されている。この製造装置100に、あらかじめ拡繊した繊維束F(厚み[t']と幅[w'])を供給ロール130から供給し、樹脂塗工部150で後述の製造条件でマトリクスとしての熱可塑性樹脂を含浸させる。
【0040】
樹脂塗工部150のスリットダイ151、152に対して熱可塑性樹脂が所定圧で定量供給されると、スリットダイ151、152の扁平スリット151a、152aから吐出された樹脂が、拡繊された繊維束Fに含浸される。扁平スリット151a、152aの口の大きさは、スリットダイ151、152に挟み込むシム151b、152bの厚み[t]とシム151b、152bの切込みの大きさ(吐出口の幅[w])で決まり、スリット部の口の大きさによって樹脂の吐出圧[p]が変化する。
【0041】
テープ状繊維束Fにスリットダイ151、152から吐出された樹脂が塗工・含浸された後、当該樹脂含浸した繊維束Fは、第2支持ロール172の位置で、循環駆動する搬送ベルト120上に引き取られる。そして当該繊維束Fは乾燥・固化炉110内で
図4のように上凸状に屈曲して走行する搬送ベルトに載せられた状態で乾燥・固化炉110を通過する。
【0042】
乾燥・固化炉110の内部温度は約170℃に設定されており、繊維束Fの樹脂は乾燥・固化炉110を通過する際に、加熱により乾燥・固化(重合)し、一方向プリプレグテープとなる。この際、搬送ベルト120の上凸状の屈曲形状のため、繊維束Fに対して搬送ベルト120から所定の面抗力が継続的に作用する。当該面抗力により繊維束Fと搬送ベルト120との間の適度の密着力が維持され、当該密着力により含浸樹脂が固化・減容する際の繊維束Fの乱れが抑制される。
【0043】
乾燥・固化炉110から出た一方向プリプレグテープは、第3支持ロール173から第4支持ロール174に移動する間に、その上面に水冷ロール190が当接されて冷却される。冷却された一方向プリプレグテープは、第4支持ロール174の位置で搬送ベルト120から離脱し、案内ロール191を介して、引取ロール160に巻き取られる。以上の工程を経ることにより、繊維束Fに熱可塑性樹脂が十分に含浸され、低ボイド率で表面平滑性が高く、広幅・薄層の繊維束Fで構成された一方向プリプレグテープを得る事ができる。
【0044】
(実施例と比較例)
次に、本発明の一方向プリプレグテープの性能を確認するため、実施例1〜
15と比較例1〜
2の複数のプリプレグテープの試作を行った結果について、
図5A〜
図5Cを参照して説明する。試作に使用した強化繊維と樹脂の種類及び乾燥・固化条件は、比較する試作品間でボイド率や表面品位に優劣が出ないように選定した。但し、
図5Cの実施例9、10と比較例
1〜2は、搬送ベルトの有無やベルト形状の相違によるテープの性能を比較検討するため、ベルト条件を後述するように設定している。
【0045】
一方、以下の値はそれぞれ変化させて試作を行った。
・スリットダイ151、152に挟み込むシム151b、152bの厚み[t]と吐出口の幅[w]
・繊維束Fに掛かる張力[T]
・スリットダイ151、152の上下間の距離(ダイギャップ)[h]
・水平方向に対する支持ロール間の傾斜角度[θ]
・第2スリットダイ152と搬送ベルト120の第2支持ロール172の軸心までの水平距離[L
1]
【0046】
(一方向プリプレグテープの製造条件)
・塗工ダイについて(
図3)
t(μm):10≦t≦200
w(mm): 1.1w'≦w≦1.5w'(w':繊維束Fの幅)
【0047】
・含浸機構について(
図2)
L
1(第2スリットダイ152から第2支持ロール172の軸心までの水平距離):0mm<L
1≦200mm
θ(第1、2支持ロール171、172間の繊維束Fの搬送路と水平方向とのなす角度):0°<θ≦5°
h(上下のスリットダイ151、152間のダイギャップ):1/2t'≦h≦3t'(t':繊維束Fの厚み)
T(繊維束Fに掛かる張力):0.003cN/本≦T≦0.1cN/本
【0048】
・乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120の形状
θ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)
・樹脂粘度:100−200mPa・s
・乾燥温度:170℃
【0049】
(使用した繊維束とマトリクス樹脂の種類)
繊維束Fに使用した強化繊維は、
A)Formosa社製の炭素繊維TAIRYFIL−TC36P(総フィラメント数12000本、単糸直径7μm)(以下「強化繊維A」と称す)、
B)三菱ケミカル社製のPYROFIL TR50S15L(総フィラメント数15000本、単糸直径7μm)(以下「強化繊維B」と称す)、
C)三菱ケミカル社製のPYROFIL TRH50 60M(総フィラメント数60000本、単糸直径7μm)(以下「強化繊維C」と称す)
である。またマトリクス樹脂はナガセケムテックス社製の熱溶融エポキシ(主剤:XNR6850V、固化剤:XNH6850V)を主剤100重量部:硬化剤8重量部の割合で混合し、15〜20重量%の溶剤が含まれるものを使用した。
【0050】
拡繊した繊維束Fに熱可塑性樹脂を塗工・含浸して一方向プリプレグテープ(FRTP)を製造する際、溶剤による表面張力や、溶剤の乾燥による樹脂の減容ないし固化収縮により、テープの幅方向では収縮が起きる。これに対してテープの厚み方向では繊維束の層間に樹脂が含浸するので見掛けの厚みが増大する。その為、拡繊した繊維束Fの幅[t']は、一方向プリプレグテープの目標とする幅の1.0〜1.2倍にするが、厚み[w']は、目標とする厚みの0.8〜1.0倍にするのがよい。
【0051】
繊維束Fに使用する強化繊維は典型的には炭素繊維であるが、その他の例えばアラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維なども使用可能である。また、これら強化繊維は数千本以上のフィラメントで構成されるものが好ましく、前記12000本に限らず、例えば3000〜60000本の範囲のものも使用可能である。また、使用する強化繊維は一種だけでなく、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0052】
また、マトリクス樹脂は前記ナガセケムテックス社製の「熱溶融エポキシ」のような熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂も使用可能である。熱可塑性樹脂は反応性樹脂(現場重合型樹脂)や非晶性樹脂が特に好ましく、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、変性ポリアミド樹脂等が好適に利用される。また、樹脂を溶かす溶剤については、メチルエチルケトン(MEK)、シクロペンタノン、ジメチルアセトアミド(DMAc)、2−メチルー2−ピロリドン(NMP)等を使用することができる。
【0053】
現場重合型熱可塑性樹脂は、成形コストを削減し得る熱可塑性樹脂として近年注目を集めている。現在実用化されている熱可塑性樹脂複合材料では、成形時の樹脂は溶融粘度が高いポリマーの状態であるため含浸工程で高温高圧が必要となり、その結果成形コストが高くなっている。
【0054】
現場重合型熱可塑性樹脂を用いて複合材料を成形すると、強化繊維へ低粘度なモノマーの状態で含浸することができる。この含浸後に樹脂を反応させ、架橋構造を持たない直鎖状ポリマー(架橋構造を持たないため熱可塑性を示す)とする。現場重合型熱可塑性樹脂を用いることで、熱硬化性樹脂の易含浸性と、熱可塑性樹脂の再加工性及びリサイクル性を兼備した複合材料が得られる。
【0055】
(目標とする一方向プリプレグテープの寸法・性状)
目標とする一方向プリプレグテープの平均厚みは、好ましくは30〜200μm、より好ましくは50μm〜150μmである。平均厚みが下限の30μm以下であると、厚み方向の繊維含有本数が少なく、樹脂含浸した際に繊維割れを起こす。また、平均厚みが上限の200μm以上であると、多数の一方向プリプレグテープ片を積層してシート化する際の積層数が少なく、シートの強化物性のバラつきが大きくなってしまう。
【0056】
一方向プリプレグテープの平均幅は、一方向プリプレグテープの平均厚みと、使用する原糸の単糸直径及びフィラメント数に依存する。例えば単糸直径7μm、フィラメント数12000本の原糸を使用した場合、テープ平均幅は好ましくは7mm〜40mm、より好ましくは10mm〜30mmである。
【0057】
一方向プリプレグテープ中の強化繊維体積含有量[Vf]は、得られた一方向プリプレグテープの目付から平均炭素繊維目付を引くことにより得られた樹脂目付と、炭素繊維・熱可塑性樹脂の密度より算出して求める。強化繊維体積含有量[Vf]と樹脂体積含有量[Vr]の和は、Vf+Vr=100%となる。試作した一方向プリプレグテープ100mあたりランダムに10か所1m分の一方向プリプレグテープを抜き出して重量を測定し、平均値と、平均値に対する平均偏差の割合[%](樹脂付着精度)を算出した。
【0058】
一方向プリプレグテープ中の強化繊維体積含有率[Vf]は、Vf=30%〜60%になるように制御する。その際の樹脂付着精度は2%以内が好ましく、より好ましくは1%以内である。強化繊維体積含有率[Vf]が上限の60%より高くなると樹脂の未含浸部が増えてボイドレス化が困難になり、下限の30%より低くなるとシート化した際の機械強度を確保するのが困難になる。
【0059】
また、樹脂付着精度が2%以上であると、シート化した際に部分的な強化繊維体積含有率[Vf]の偏りが発生し、シートの機械強度にバラつきが生じる。ここで「樹脂付着精度」とは、試作した一方向プリプレグテープ100mあたりランダムに抜き出した10か所の1m分の一方向プリプレグテープの重量を測定し、樹脂体積含有率[Vr]を算出して、当該10か所の[Vr]測定値の相加平均値からの各測定値の平均偏差を相加平均値に対するパーセント[%]で表したものである。例えば[Vr]=60%(平均値)のプリプレグテープで樹脂付着精度が2.0%の場合、[Vr]=58〜62%となる。
【0060】
本発明により得られる一方向プリプレグテープは、繊維間にボイドが含まれることなく樹脂が均一に含浸した状態となっているため、これを用いて得られるシート材はその機械的強度を高めやすい。そのため、多数の一方向プリプレグテープ片を積層し、加熱・加圧して得られた平均厚み2mmを有するシートにおいて、JIS−K7052又はJIS−K7075に従い測定した時、そのボイド率は0〜0.4%を有する。
【0061】
一方向プリプレグテープの表面品位は、テープ表面に均一に樹脂が塗工され、繊維がむき出しになった部分がなくて表面平滑性が高く、毛羽やフィラメント切れなどの強化繊維の破損がなく、繊維方向の隙間(繊維割れ)がないことが好ましい。繊維がむき出しになった部分や、繊維割れがあると、テープ内に繊維過多や樹脂過多の箇所が多くなる、及びテープ内部にボイドが含まれる、又はこれらの何れかにより、シート化した際の物性低下を招く。また、毛羽やフィラメント切れ一方向プリプレグテープ内の強化繊維の破損はシート化した際の機械的強度を確保するのが困難になる。
【0062】
(一方向プリプレグテープの性能評価方法)
一方向プリプレグテープの厚み及び幅の測定は、デジタルノギス及びマイクロゲージを使用して行った。試作した一方向プリプレグテープ100mあたりランダムに10か所測定し、一方向プリプレグテープの厚み及び幅を平均値として算出した。
【0063】
一方向プリプレグテープ中の樹脂体積含有量[Vr]は、得られた一方向プリプレグテープの目付から平均炭素繊維目付を引くことにより得られた樹脂目付と、炭素繊維・熱可塑性樹脂の密度より算出して求める。樹脂体積含有量[Vr]と強化繊維体積含有量[Vf]の和は、Vr+Vf=100%となる。試作した一方向プリプレグテープ100mあたりランダムに10か所測定し、平均値と、平均値に対する平均偏差の割合[%](樹脂付着精度)を算出した。
【0064】
一方向プリプレグテープ中の樹脂体積含有量[Vr]及び樹脂付着精度は、本実施例においても上記した方法で算出した。
【0065】
以下の実施例1〜5と
実施例11〜15から、スリットダイ151、152のシム151b、152bの厚さ[t]と吐出口の幅[w]、樹脂塗布後の空走距離[L
1]、進入角度[θ]、ダイギャップ[h]、繊維束Fに掛かる張力[T]の適否を検討する(
図5A、
図5B参照)。
【0066】
(スリットダイ151、152のシムの厚さ[t]と吐出口の幅[w]の検討)
[
実施例11]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μm(
殆どの比較例・実施例で共通)に拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸させ、Vr60%、Vf40%(
殆どの比較例・実施例で共通)の一方向プリプレグテープの製造を目的として試作した。
【0067】
前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を100μm、吐出口の幅[w]を16mmとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の角度[θ]を0°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172の軸心までの水平距離[L
1]を260mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm(全ての比較例・実施例で共通)、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、糸速(引取速度)を5m/min(全ての比較例・実施例で共通)で実施した。
【0068】
結果、吐出圧[p]は100kPaであり、得られた一方向プリプレグテープは、Vf39%(樹脂付着精度2.0%)、平均幅8mm、平均厚み180μmであり、ボイド率が0.7%とやや高く、表面品位は、テープ端に繊維がむき出しになった部分があり、樹脂ムラがみられた他、毛羽も見られたが、繊維割れは見られなかった(総合評価×)。
【0069】
[
実施例12]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を400μm、吐出口の幅[w]を16mmとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の角度[θ]を0°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172の軸心までの水平距離[L
1]を260mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0070】
結果、吐出圧[p]は20kPaであり、得られた一方向プリプレグテープは、Vf38%(樹脂付着精度5.0%)、平均幅7mm、平均厚み200μmであり、ボイド率が1.0%と高く、表面品位は、テープ端に繊維がむき出しになった部分があり、樹脂ムラがみられた他、毛羽も見られたが、繊維割れは見られなかった(総合評価×)。
【0071】
[実施例1]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を100μm、吐出口の幅[w]を22mmとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の角度[θ]を0°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を260mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0072】
結果、吐出圧[p]は90kPaであり、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.5%)、平均幅9mm、平均厚み160μmであり、ボイド率が0.4%と低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0073】
実施例11、12と実施例1より、樹脂の吐出圧[p]はスリットダイ151、152のスリット部の大きさが小さい程上昇し、吐出圧[p]が高い程、強化繊維体積含有量[Vf]のコントロールと樹脂付着精度が向上する。その為、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚み[t]より薄いことが好ましく、10μm≦t≦200μmの範囲が好ましい。
【0074】
吐出口幅[w]は拡繊した繊維束Fの幅より広くした方が一方向プリプレグテープの幅方向への樹脂塗工が安定し、表面品位と強化繊維体積含有含浸量[Vr]のコントロール、樹脂付着精度が向上する。一方で、吐出口幅[w]が繊維束幅「w'」よりも広過ぎる場合、繊維束に対して塗工しきれない樹脂がロスとなるため、好ましくは繊維束Fの幅[w']に対し、1.1w'≦w≦1.5w'の範囲で吐出口幅[w]を広くすることが望ましい。
【0075】
(樹脂塗布後の空走距離[L
1]、進入角度[θ]の検討)
[実施例2]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を100μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を90kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を0°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を180mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0076】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.5%)、平均幅11mm、平均厚み135μmであり、ボイド率が0.4%と低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0077】
[実施例3]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイに挟むシム151b、152bの厚さ[t]を100μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を90kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を180mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0078】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.5%)、平均幅12mm、平均厚み125μmであり、ボイド率が0.4%と低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0079】
実施例1〜3より、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]が短い事によって、樹脂含浸後に、樹脂の表面張力による幅収縮を起こす前に繊維束Fの広幅・薄層を維持したまま搬送ベルトに接触させ、面抗力をかけることができる。作業性から0mm<L
1≦200mmの範囲が好ましく、より広幅・薄層を維持するためには0mm<L
1≦150mmが望ましい。
【0080】
また、第2支持ロール172を第1支持ロール171よりも上部に設置し、第1、2支持ロール間の繊維束Fの搬送路と水平方向とのなす角度[θ]を0°以上にすることで、樹脂含浸させた繊維束Fを搬送ベルトにより密接に接触させることができ、一方向プリプレグテープの広幅・薄層をより維持できる。角度[θ]は0°<θ≦5°の範囲が好ましい。
【0081】
(ダイギャップ[h]の検討)
[
実施例13]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を100μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を90kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を0μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を180mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0082】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度2.5%)、平均幅12mm、平均厚み125μmであり、ボイド率が0.6%とやや高く、表面品位は、繊維がむき出しになっている部分があり、樹脂ムラが見られた他、毛羽、繊維割れも見られた(総合評価×)。
【0083】
[
実施例14]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を100μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を90kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を400μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を180mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0084】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf42%(樹脂付着精度2.5%)、平均幅12mm、平均厚み125μmであり、ボイド率が1.2%と高く、表面品位はテープ表面にまだら模様に樹脂塗工されて樹脂ムラがあり、繊維がむき出しになっている部分が見られたが、毛羽、繊維割れは見られなかった(総合評価×)。
【0085】
実施例3と
実施例13、14より、ダイギャップ[h]は得られる拡繊した繊維束Fの厚み[t']に合わせて調整することが必要であることが分かる。ダイギャップ[h]が狭すぎると拡繊した繊維束Fがスリットダイ151、152に接触し、塗工した樹脂がそぎ落とされて樹脂ムラが起き、樹脂付着精度が低下する。
【0086】
また、スリットダイ151、152に接触することで強化繊維の破損を起こし、表面外観の悪化を起こす。逆に広すぎると樹脂がテープ基材上に均一に塗工されず、樹脂ムラが起き、強化繊維体積含有率[Vf]のコントロール、樹脂付着精度が低下する。そのため、繊維束Fの厚み[t']に対してダイギャップ[h]は、1/2t'≦t≦3t'の範囲にするのが好ましい。
【0087】
(繊維束Fに掛かる張力[T]の検討)
[実施例4]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を50μm、吐出口の幅[w]を22mmとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を110mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0088】
結果、吐出圧[p]は200kPaであり、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.0%)、平均幅15.0mm、平均厚み100μmであり、ボイド率が0.2%ときわめて低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0089】
[実施例5]
強化繊維Aを使用し、平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂含浸を施し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を50μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を200kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.003cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を110mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0090】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.0%)、平均幅10.0mm、平均厚み145μmであり、ボイド率が0.2%ときわめて低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0091】
[実施例6]
強化繊維Bを使用して、平均幅18mmに拡繊した繊維束Fを使用した以外は実施例4と同様の製造方法で一方向プリプレグテープを製作した。
【0092】
結果得られた一方向プリプレグテープはVf40%(樹脂付着精度1.0%)、平均幅が15.0mm、平均厚みが125μmであり、ボイド率が0.2%と極めて低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0093】
[実施例7]
強化繊維束Bを使用して、平均幅18mmに拡繊した繊維束Fを使用し、繊維束にかかる張力Tを0.06cN/本とした以外は実施例4と同様の製造方法で一方向プリプレグテープを製作した。
【0094】
結果得られた一方向プリプレグテープはVf40%(樹脂付着精度1.5%)、平均幅が15.5mm、平均厚みが115μmであり、ボイド率が0.3%と極めて低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0095】
[実施例8]
強化繊維Cを使用して、平均幅が60mm、平均厚み50μmに拡繊した繊維束Fを使用し、吐出口の幅[w]を72mm、吐出圧[p]を150kPa、繊維束にかかる張力を0.006cN/本とした以外は実施例4と同様の製造方法で一方向プリプレグテープを製作した。
【0096】
結果得られた一方向プリプレグテープはVf40%(樹脂付着精度1.3%)、平均幅が54.0mm、平均厚みが140μmであり、ボイド率が0.2%と極めて低く、表面品位は繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れなく良好であった(総合評価○)。
【0097】
[
実施例15]
強化繊維Bを使用して、平均幅18mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fを使用し、繊維束にかかる張力Tを0.1cN/本とした以外は実施例4と同様の製造方法で一方向プリプレグテープを製作した。
【0098】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度2.5%)、平均幅13.0mm、平均厚み140μmであり、ボイド率が0.6%とやや高く、表面品位は、繊維むき出し、樹脂ムラは見られなかったが、フィラメント切れ、繊維割れが見られ、テンションロール140や樹脂塗工部150に強化繊維が破損し発生した毛羽が付着するようになった(総合評価×)。
【0099】
実施例4〜8と
実施例15より、繊維束Fに掛かる張力[T]は、張力が高すぎる場合、繊維が引き揃えられて繊維束F内部への樹脂含浸性が悪くなり、樹脂付着精度が低下する。また工程間のロール・ガイド類で擦れて強化繊維が破損し、毛羽が発生、繊維割れを引き起こす。
【0100】
一方で張力が低すぎると、工程間のロール・ガイド類に接触した際、拡繊した繊維束Fの端が折れ込んで狭窄してしまい、薄層・広幅が維持できない。その為、繊維束Fに掛かる張力[T]は低張力である事が好ましく、更に好ましくは0.003cN/本≦T≦0.06cN/本の範囲が好ましい。
【0101】
実施例11〜15と実施例1〜8で得られた一方向プリプレグテープをシート化し、JIS−7052あるいはJIS−7075に従ってボイド率の測定を行った。
【0102】
結果、
実施例11〜15の一方向プリプレグテープは、いずれもシート化した際のボイド率が0.6〜1.2%と高く、樹脂含浸状態が悪い。これに対して実施例1〜8の一方向プリプレグテープは、シート化した際のボイド率が0.2〜0.4%と低く、樹脂含浸状態が良好であった。
【0103】
(搬送ベルトの搬送面の曲率の検討)(
図5C)
[比較例
1]
強化繊維Aを使用して平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を50μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を200kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を110mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ
1=θ
2=・・・=θ
9(0°<θ
1〜θ
9<1°)の形状とし、糸速(引取速度)を5m/minで実施した。
【0104】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.0%)、平均幅8mm、平均厚み180μmであり、表面品位は、繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽は見られなかったが、繊維割れが見られた(総合評価×)。
【0105】
[実施例9]
強化繊維Aを使用して平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を50μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を200kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を110mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ
1>θ
2>・・・>θ
9(θ
1〜θ
4>0°、θ
5=0°、θ
6〜θ
9<0°)の形状とし、引取速度を5m/minで実施した。
【0106】
傾斜角度は1°<θ
1~θ
9<−1°とし、具体的な傾斜角度[θ
n]は次の通りである。
θ
1:0.86°、θ
2:0.80°、θ
3:0.69°、θ
4:0.40°、θ
5:0.00°、θ
6:−0.40°、θ
7:−0.69°、θ
8:−0.80°、θ
9:−0.86°
当該θ
nの大きさは、
図2の樹脂塗工部150のθよりも小さくするのが好ましい。
【0107】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.0%)、平均幅12mm、平均厚み125μであり、表面品位は、繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れがなく良好なものであった(総合評価○)。
【0108】
[実施例10]
強化繊維Aを使用して平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を50μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を200kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152から搬送ベルト120の第2支持ロール172までの距離[L
1]を110mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の
水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥・固化炉110内の搬送ベルト120をθ1>θ2>・・・>θ9(θ1〜θ9<0°)の形状とし、糸速(引取速度)を5m/minで実施した。
【0109】
傾斜角度は0°<θ
1~θ
9<−1°とし、具体的な傾斜角度[θ
n]は次の通りである。
θ
1:−0.01°、θ
2:−0.02°、θ
3:−0.07°、θ
4:−0.15°、θ
5:−0.19°、θ
6:−0.25°、θ
7:−0.27°、θ
8:−0.30°、θ
9:−0.52°
【0110】
結果、得られた一方向プリプレグテープは、Vf40%(樹脂付着精度1.0%)、平均幅15mm、平均厚み100μmであり、表面品位は、繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽、繊維割れがなく良好なものであった(総合評価○)。
【0111】
[比較例
2]
強化繊維Aを使用して平均幅16mm、平均厚み40μmに拡繊した繊維束Fに樹脂を含浸し、Vr60%、Vf40%の一方向プリプレグテープの製造を目的として製作した。前述した製造方法で一方向プリプレグテープを製作し、スリットダイ151、152に挟むシム151b、152bの厚さ[t]を50μm、吐出口の幅[w]を22mm、吐出圧[p]を200kPaとし、繊維束Fに掛かる張力[T]を0.02cN/本、ダイギャップ[h]を100μm、第1支持ロール171と第2支持ロール172間の進入角度[θ]を1°、第2スリットダイ152の吐出口から第2支持ロール172間の距離[L
1]を110mm、第1スリットダイ151と第2スリットダイ152間の水平距離[L
2]を3.3mm、乾燥炉内のでの繊維束Fの搬送、乾燥・固化には搬送ベルトを用いずに、糸速(引取速度)を5m/minで実施した。
【0112】
結果、Vf40%では繊維束Fの幅方向の収縮が大きく、ロッド状になってしまい、工程間の屈曲部で折れて破損してしまい、作製できなかった。そのため樹脂吐出量を減らし、得られた一方向プリプレグテープは、Vf50%(樹脂付着精度4.0%)、平均幅6mm、平均厚み250μmであり、表面品位は、繊維むき出し、樹脂ムラ、毛羽は見られなかったが、繊維割れが見られた(総合評価×)。
【0113】
図5Cの実施例9、10と比較例
1、2より、樹脂含浸後の繊維束Fを搬送ベルト120上で乾燥・固化させることにより、一方向プリプレグテープの広幅・薄層を維持することができることが分かる。乾燥・固化炉110中での繊維束Fの搬送ベルト120への接触が甘いと(低面抗力・低密着力)、繊維束Fに十分な面抗力が掛からず、樹脂の体積減少や硬化収縮による繊維束Fの収縮が起こりやすい。
【0114】
このため繊維束Fの広幅・薄層を維持できないか、もしくは繊維割れを起こす可能性が高い。搬送ベルト120の形状は、繊維束Fに、より効率よく面抗力をかけるために、円弧状に近いことが好ましい。また、進行方向に対して曲率が漸増、すなわち進行方向に対して益々下がり続ける円弧形状であることがより好ましい。
【0115】
以上、本発明の実施形態と実施例・比較例について述べたが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、乾燥・固化炉110の水平方向長さや、中間支持ロール181〜189の本数・間隔等は、適宜変更可能である。また乾燥・固化炉110の形式は任意であり、送風機付きの乾燥・固化炉を輻射熱方式に変更することも可能である。