特許第6974837号(P6974837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974837
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】スペーサ
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20211118BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20211118BHJP
   F02F 1/18 20060101ALI20211118BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20211118BHJP
   F01P 11/02 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   F02F1/14 A
   F01P3/02 A
   F02F1/18 F
   F02F1/14 D
   F02F1/14 Z
   F02F1/10 D
   F01P11/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-235559(P2017-235559)
(22)【出願日】2017年12月7日
(65)【公開番号】特開2019-100318(P2019-100318A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−128256(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0306833(US,A1)
【文献】 特開2012−7478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/14
F01P 3/02
F02F 1/18
F02F 1/10
F01P 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサであって、
前記シリンダボアに対応する形状の円弧部を含むスペーサ本体と、
前記スペーサ本体の前記シリンダボア側の側面に取付けられ、所定の外的要因が付加されたことを契機として前記冷却水流路の幅方向に膨大化する多孔質体と、を備え、
前記スペーサ本体の円弧部には、前記シリンダボアとは反対側に凹む形状の凹所が設けられ、
前記多孔質体は、前記スペーサ本体の凹所に対応する部分に、当該凹所に倣うように前記シリンダボアとは反対側に凹む形状の凹部を含むことを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサにおいて、
前記凹部は、前記冷却水流路の深さ方向に延び、前記冷却水流路の深さ方向における前記多孔質体の両端部に達しない長さに形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項3】
請求項1に記載のスペーサにおいて、
前記凹部は、前記冷却水流路の深さ方向に延び、前記冷却水流路の深さ方向における前記多孔質体の両端部に達する長さに形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項4】
請求項3に記載のスペーサにおいて、
前記冷却水流路の壁面には、冷却水を排出するドレーン孔が設けられており、
前記凹部は、前記ドレーン孔よりも鉛直方向上側から、冷却水を前記ドレーン孔に導くように延びる形状とされていることを特徴とするスペーサ。
【請求項5】
請求項1に記載のスペーサにおいて、
前記凹部は、前記冷却水流路の周方向に延び、前記冷却水流路の周方向における前記多孔質体の両端部に達する長さに形成されていることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
前記内燃機関の冷却水流路には、流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を規制するためのスペーサが開口部から挿入されて配置される(例えば、特許文献1〜3参照)。これらの特許文献1〜3に開示されたスペーサ(規制部材)では、合成樹脂等からなるスペーサ本体(支持体、基体)のシリンダボア側の側面に、冷却水と接触すると膨大化して、冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する部材が取付けられている。このようにスペーサ本体に取付けられる部材は、膨大化する前は嵩低い(厚みが薄い)ため、当該スペーサを、冷却水流路内に挿入する際には挿入抵抗を小さくして挿入を円滑にし、冷却水流路内に配置した後は膨大化して、冷却水の流通を規制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−7478号公報
【特許文献2】特開2016−156277号公報
【特許文献3】特開2017−115613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記のように膨大化する部材は、膨大化によってシリンダボア側の壁面に接触するが、その接触度合を調整することが難しく、前面の全体が前記壁面に接触してしまうことは避けられない。そのため、冷却水の流れが当該部材によって堰き止められ、接触した部分でのシリンダボア壁の冷却性が低下することにもなる。
【0005】
また、前記のように膨大化する部材は、スペーサ本体のシリンダボア側の面に取付けられるから、膨大化する際には、取付面側はスペーサ本体に規制されるため、表面側に曲率半径が小さくなるよう周方向に収縮しようとする力が作用する。その結果、膨大化に伴って表面に凹所(凸状)のしわがランダムに発生する。このしわの発生の原理を、図8(a)(b)を参照して概略的に説明する。図8(a)(b)は、内燃機関のシリンダブロックの一部(全体は図1を参照)を示している。図例のシリンダブロック100には、シリンダボア101を取り囲むように冷却水流路102が形成され、冷却水流路102内には、スペーサ103が配置されている。スペーサ103は、樹脂の成型体からなるスペーサ本体104と、スペーサ本体104のシリンダボア101側の側面104aに取り付けられた多孔質体105とを備える。図例の多孔質体105は、特許文献2及び3に例示されたようなシート状のセルロース系スポンジからなる。図8(a)は、多孔質体105が圧縮状態に維持された状態を、図8(b)は、多孔質体105が冷却水に接触することによって圧縮前の状態に復元(膨大化)し冷却水流路102のシリンダボア101側の内壁面102aに接触した状態を、それぞれ示している。この多孔質体105の復元の過程で、多孔質体105の表面105a側に、曲率半径が小さくなるよう周方向に収縮しようとする力が作用し、表面105aに複数のしわ105bがランダムに発生する。このように、複数のしわ105bがランダムに発生すると、しわ105bの部分が冷却水の流通路となり、多孔質体105によるシリンダボア壁101aの過冷却抑制機能が安定しなくなる。
【0006】
本発明は、前記に鑑みなされたもので、冷却水による冷却機能及び多孔質体による過冷却抑制機能を適正に調整することができるスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスペーサは、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサであって、前記シリンダボアに対応する形状の円弧部を含むスペーサ本体と、前記スペーサ本体の前記シリンダボア側の側面に取付けられ、所定の外的要因が付加されたことを契機として前記冷却水流路の幅方向に膨大化する多孔質体と、を備え、前記スペーサ本体の円弧部には、前記シリンダボアとは反対側に凹む形状の凹所が設けられ、前記多孔質体は、前記スペーサ本体の凹所に対応する部分に、当該凹所に倣うように前記シリンダボアとは反対側に凹む形状の凹部を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のスペーサによれば、多孔質体は、シリンダボアとは反対側に凹む凹部を含むから、所定の外的要因の付加によって冷却水流路の幅方向に膨大化する際、その表面側の曲率半径が小さくなるように収縮しようとする力が当該凹部に吸収される。したがって、凹部以外の部分でしわが発生することを抑制でき、多孔質体による過冷却抑制機能の安定化を図ることができる。また、適切な箇所に凹部を設定することにより、多孔質体により冷却水を堰き止める領域を減らし、これによって、冷却水による冷却性能を精細に調整することができる。
【0009】
本発明に係るスペーサにおいて、前記凹部は、前記冷却水流路の深さ方向に延び、前記冷却水流路の深さ方向における前記多孔質体の両端部に達しない長さに形成されているものとしてもよい。
これによれば、凹部は、冷却水流路の深さ方向に延びるも、深さ方向の両端部に達しない長さに形成されているので、当該凹部を通じて前記深さ方向に沿って冷却水が流れることを抑制できる。これによって、多孔質体によるシリンダボア壁の過冷却抑制機能が低下することを未然に回避することができる。
【0010】
本発明に係るスペーサにおいて、前記凹部は、前記冷却水流路の深さ方向に延び、前記冷却水流路の深さ方向における前記多孔質体の両端部に達する長さに形成されているものとしてもよい。
これによれば、凹部は、冷却水流路の深さ方向に延びて、深さ方向の両端部に達する長さに形成されているので、当該凹部を通じて前記深さ方向に沿って冷却水が流れることを促進できる。したがって、凹部の数及び位置を適宜設定することによって、冷却水流路の深さ方向及び周方向におけるシリンダボア壁に対する冷却水による冷却性能を精細に調整することができるようになる。
この場合、前記冷却水流路の壁面には、冷却水を排出するドレーン孔が設けられており、前記凹部は、前記ドレーン孔よりも鉛直方向上側から、冷却水を前記ドレーン孔に導くように延びる形状とされているものとしてもよい。
これによれば、内燃機関の通常の稼動時には、凹部は前記と同様の作用を奏する一方、冷却水の交換時にドレーン孔より冷却水を排出する際には、冷却水が凹部に沿ってドレーン孔に向かって円滑に案内されるため、冷却水の排出性を向上させることができる。
【0011】
本発明に係るスペーサにおいて、前記凹部は、前記冷却水流路の周方向に延び、前記冷却水流路の周方向における前記多孔質体の両端部に達する長さに形成されているものとしてもよい。
これによれば、凹部が冷却水流路の周方向に延び、多孔質体の周方向両端部に達する長さに形成されているから、冷却水流路のシリンダボア側の内壁面と多孔質体との間に周方向に沿った冷却水の流通路が形成される。したがって、凹部の数及び位置を適宜設定することによって、冷却水流路の深さ方向及び周方向におけるシリンダボア壁に対する冷却水による冷却性能を精細に調整することができるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスペーサによれば、冷却水による冷却機能及び多孔質体による過冷却抑制機能を適正に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るスペーサを内燃機関の冷却水流路内に配置した状態の一例を示す概略的横断平面図である。
図2】本発明に係るスペーサの第一の実施形態を示し、(a)は図1のX部の拡大図である。(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が膨大化した状態を示す(a)と同様図である。
図3図2(a)におけるY方向から見た展開図である。
図4】本発明に係るスペーサの第二の実施形態を示し、図2(a)におけるY方向に相当する方向から見た展開図である。
図5】本発明に係るスペーサの第三の実施形態を示し、(a)は図1のX部に相当する部分の拡大図である。(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が膨大化した状態を示す(a)と同様図である。
図6】本発明に係るスペーサの第四の実施形態を示し、(a)は図1のX部に相当する部分の拡大図である。(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が膨大化した状態を示す(a)と同様図である。
図7】本発明に係るスペーサの第五の実施形態を示し、(a)は図2のY方向に相当する方向から見た展開図である。(b)は(a)のZ―Z線矢示断面図であり、(c)は(b)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が膨大化した状態を示す(b)と同様図である。
図8】(a)(b)は、従来のスペーサにおける多孔質体のしわ発生の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について、図1図7を参照して説明する。図1図3は、本発明に係るスペーサの第一の実施形態を示し、図1は、同実施形態のスペーサを、内燃機関10におけるシリンダブロック1の冷却水流路3内に配置した状態を示している。図1に示すシリンダブロック1は、3気筒の自動車用エンジン(内燃機関)10を構成するものであり、3個のシリンダボア(気筒)2…が隣接状態で直列に連なるように設けられている。1a…は、シリンダヘッド(不図示)をヘッドガスケット(不図示)を介して(シリンダブロック1に合体締結させるためのボルト(不図示)用挿通孔である。3個のシリンダボア2…の周囲には、これらシリンダボア2…を取り囲むようにオープンデッキタイプの溝形状の冷却水流路3が一連に形成されている。シリンダブロック1の適所には、この冷却水流路3に通じる冷却水導入口4と冷却水導出口5とが設けられている。冷却水導出口5は、不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して冷却水導入口4に配管接続される。これによって、冷却水流路3とラジエータとの間で冷却水(不凍液も含む)が循環するように構成される。なお、シリンダヘッドにも冷却水流路(不図示)が設けられる場合は、シリンダブロック1の冷却水流路3と、シリンダヘッドの冷却水流路とが連通するよう構成される。この場合は、シリンダブロック1には、前記冷却水導出口がなくても良く、シリンダヘッドに冷却水導出口が設けられ、これにラジエータに通じる配管が接続される。
【0015】
冷却水流路3は、シリンダボア2を取り囲むよう形成された円弧形状部3a…と、隣接するシリンダボア2,2間部分に互いに接近して対をなすよう形成されたくびれ形状部3b…とを有している。くびれ形状部3b…の溝幅は、冷却水流路3の他の円弧形状部3aの溝幅より大きい。そして、冷却水流路3の両内壁面は、前記円弧形状部3a…及びくびれ形状部3bに対応するよう形成され、シリンダボア2側の内壁面(内側内壁面)3cと、シリンダボア2とは反対側の内壁面(外側内壁面)3dとにより構成される。各シリンダボア2内には、その軸方向に沿って往復動するピストン(不図示)が設けられ、ピストンは、その外周部に取り付けられたピストンリング(不図示)を介してシリンダボア壁2aの内周面2aaを摺接し得るように構成されている。なお、本実施形態における冷却水流路3の周方向cとは、シリンダボア2…を平面視した状態でシリンダボア2…を取り囲む環形状を基準とする方向である。冷却水流路3の深さ方向(鉛直方向)bとは、冷却水流路3の周方向cに直交するとともに、各シリンダボア2…の中心軸に平行な方向(図3参照)である。
【0016】
冷却水流路3内には、スペーサ6が配置される。本実施形態のスペーサ6は、シリンダボア2…に対応する形状の円弧部7aを含むスペーサ本体7と、スペーサ本体7のシリンダボア2側の側面70に取付けられ、所定の外的要因が付加されたことを契機として冷却水流路3の幅方向aに膨大化する多孔質体8と、を備える。また、スペーサ本体7の円弧部7aであって、シリンダボア2側の側面70にシリンダボア2とは反対側に凹む形状の凹所71が設けられている。多孔質体8は、スペーサ本体7の凹所71に対応する部分に、当該凹所71に倣うようにシリンダボア2とは反対側に凹む形状の凹部81を含む。凹所71は、冷却水流路3の周方向cに沿った幅が、圧縮状態の多孔質体8の厚みの少なくとも2倍以上に形成されている。また、凹所71は、冷却水流路3の幅方向aに沿った幅が、圧縮状態の多孔質体8の厚み以上に形成されている。
【0017】
本実施形態におけるスペーサ6のスペーサ本体7は、樹脂の成型体からなり、3個のシリンダボア2…の連なり方向に沿った中心線の片側に位置する冷却水流路3内に配置される半筒状(半割状)に形成されている。本実施形態のスペーサ本体7は、冷却水流路3の円弧形状部3aに位置する3個の円弧部7a…と、冷却水流路3のくびれ形状部3b,3bに位置し隣接する円弧部7a,7a間を繋ぐ2個の屈曲部7b,7bとを有している。そして、各円弧部7aには、周方向cに沿って略等間隔に配された断面方形の3個の凹所71が、スペーサ本体7における前記深さ方向bの上下両端部70a,70bに達しない長さに形成されている。
【0018】
本実施形態におけるスペーサ6の多孔質体8は、圧縮状態のセルロース系スポンジからなり、当該セルロース系スポンジは圧縮状態に維持され、水に接触すると、これが外的要因の付加となり、これを契機として圧縮前の状態に復元する特性を有する。さらに具体的には、セルロース系スポンジとは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材である。セルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。また、セルロース系スポンジは、多孔質の素材であり、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。セルロース系スポンジ(多孔質体8)のスペーサ本体7に対する一体化は、圧縮された状態のセルロース系スポンジをスペーサ本体7とともにインサート成型することによってなされる。したがって、スペーサ本体7を構成する樹脂材料の一部がセルロース系スポンジに含浸した状態で、セルロース系スポンジはスペーサ本体7のシリンダボア2側の側面70に固着している。多孔質体8の凹部81は、スペーサ本体7の凹所71に対応する部分に、シリンダボア2側の側面80からシリンダボア2とは反対側に凹み、当該凹所71に倣うように、前記インサート成型時に断面方形に賦形される。そして、本実施形態における多孔質体8の凹部81は、冷却水流路3の深さ方向bに延びるも、前記深さ方向bにおける多孔質体8の上下両端部80a,80bに達しない長さ(多孔質体8の深さ方向bに沿った幅より短い長さ)に形成されている。
【0019】
前記のように構成されるスペーサ6は、内燃機関10における冷却水流路3内に、その開口部30(図7(b)(c)参照)から挿入されて配置される。図1及び図2(a)は、スペーサ6が冷却水流路3内に配置された状態を示している。冷却水流路3内へのスペーサ6の配置に際しては、多孔質体8が圧縮状態に維持されているから、多孔質体8が冷却水流路3の内側内壁部3cに干渉し難く、スムースに挿入される。次いで、シリンダブロック1の上面にシリンダヘッドがヘッドガスケットを介して締結一体とされ、その後冷却水流路3内に冷却水導入口4から冷却水が導入される。そして、シリンダヘッドの燃焼室内での燃焼ガスの爆発作用によって、シリンダボア2内のピストンが上下昇降動作を繰り返し、内燃機関10は稼動状態となる。
【0020】
前記のように、冷却水流路3内に冷却水が導入されると、セルロース系スポンジからなる多孔質体8に冷却水が接触し、多孔質体8が復元してシリンダボア2側(反圧縮方向)に膨大化する。この復元に伴って、多孔質体8の表面(シリンダボア2側の側面)80が冷却水流路3の内側内壁面(シリンダボア2側の壁面)3cに当接する。図2(b)は、多孔質体8が膨大化した状態を示している。多孔質体8は、冷却水流路3を流れる冷却水の冷却能力がシリンダボア壁2aに対して過剰な箇所に設けられており、多孔質体8が膨大化すると、多孔質体8は冷却水の流れを堰き止める。そして、多孔質体8は、シリンダボア壁2aに対する冷却水の冷却能力を低下させるようになり、過冷却抑制機能を発揮してシリンダボア壁2aに対する冷却状態を適正に調整する。この多孔質体8の復元による膨大化の際、多孔質体8の表面80側に曲率半径が小さくなるように周方向cに収縮しようとする力が作用するが、この力は多孔質体8の表面80側に設けられた凹部81に吸収される。つまり、多孔質体8が膨大化した際に発生するしわは、凹部81側に集中する。したがって、凹部81以外の部分でしわが発生することを抑制でき、多孔質体8による過冷却抑制機能の安定化を図ることができる。また、多孔質体8の膨大化の際に、凹部81における多孔質体8は、その形状が凹部81以外の部分と異なるため、前記反圧縮方向以外の方向にも復元する。そのため、凹部81は、図2(b)に示すように元の形状から変形した状態で残る。したがって、適切な箇所に凹部81を設定することにより、多孔質体8により冷却水を堰き止める領域を減らし、これによって、冷却水による冷却性能を精細に調整することができる。さらに、本実施形態では、凹部81は、冷却水流路3の深さ方向bに延びるも、多孔質体8における深さ方向bの上下両端部80a,80bに達しない長さに形成されているので、凹部81において冷却水が滞留する傾向にある。したがって、冷却水が当該凹部81を通じて前記深さ方向bに沿って流れることを抑制できる。これによって、多孔質体8におけるしわの発生を抑制するとともに、多孔質体8による過冷却抑制機能が過度に下がることを未然に回避することができる。
【0021】
図4は本発明に係るスペーサの第二の実施形態を示している。本実施形態のスペーサ6では、多孔質体8に設けられる凹部81が、深さ方向bに延び、且つ、多孔質体8の深さ方向bにおける上下両端部80a,80bに達する長さに形成されている。また、スペーサ本体7に設けられる凹所71は、スペーサ本体7の深さ方向bに延び、且つ、スペーサ本体7の深さ方向bにおける上下両端部80a,80bに達する長さに形成されている。さらに、本実施形態では、冷却水流路3における外側内壁面3dの底壁面3eの近傍位置に、シリンダブロック1の外部に通じるドレーン孔5aが設けられている。スペーサ本体7における3個の凹所71…のうちの中央の凹所71の下端部が、このドレーン孔5aにほぼ対応するように位置付けられている。そして、スペーサ本体7に設けられる前記中央の凹所71に倣うように多孔質体8に設けられる凹部81は、ドレーン孔5aよりも鉛直方向上側から、冷却水をドレーン孔5aに導くように延びる形状とされている。このドレーン孔5aは、冷却水流路3の底壁面3eにシリンダブロック1の外部に通じるように設けられていてもよい。なお、全ての実施形態における冷却水流路3の深さ方向bは、必ずしも鉛直方向に一致するものではない。
【0022】
本実施形態では、凹部81は、前記と同様に多孔質体8におけるしわの発生を抑制する。加えて、凹部81は、冷却水流路3の深さ方向bに延びて、深さ方向bにおける上下両端部80a,80bに達する長さに形成されているので、当該凹部81を通じて前記深さ方向bに沿って冷却水が流れることを促進できる。特に、多孔質体8の膨大化後にも、シリンダボア壁2aと多孔質体8との間に多孔質体8における上下両端部80a,80b間に連通する変形した凹部81が残存するから、この凹部81によって深さ方向bに沿った冷却水の流通路が構成される。したがって、凹部81の数及び位置を適宜設定することによって、冷却水流路3の深さ方向b及び周方向cにおけるシリンダボア壁2aの冷却水による冷却性能を精細に調整することができるようになる。
さらに、本実施形態では、冷却水流路3における底壁面3eの近傍の外側内壁面3dに、冷却水の前記ドレーン孔5aが設けられており、冷却水流路3内の冷却水を交換する際は、ドレーン孔5aの栓(不図示)を開くことによって、冷却水が排出される。このとき、冷却水は、多孔質体8の周方向cにおける中央の凹部81に沿って、鉛直方向上側よりドレーン孔5aに向かって円滑に案内されるため、冷却水の排出性を向上させることができる。
なお、ドレーン孔5aに対応する凹部81は中央部の凹部81に限らず、他の部位の凹部81であってもよく、シリンダブロック1の仕様に応じて対応する凹部81の位置が適宜設定される。
【0023】
図5(a)(b)は,本発明に係るスペーサの第三の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ6では、スペーサ本体7に設けられる凹所71及び多孔質体8に設けられる凹部81が、第一の実施形態或いは第二の実施形態と同様に冷却水流路3の深さ方向bに延びるよう形成されている。しかし、凹所71の断面形状が略三角形であり、多孔質体8の凹部81も凹所71に倣い断面形状が略三角形である点で、本実施形態のスペーサ本体6は第一の実施形態或いは第二の実施形態と異なる。そして、図5(b)に示すように、多孔質体8の膨大化後の凹部81は、もとの断面三角形状から変形するも、第一の実施形態或いは第二の実施形態とは異なった断面形状で残存する。この結果、凹部81と冷却水流路3の内側内壁面3cとの間に、第一の実施形態或いは第二の実施形態と同様に冷却水の流通路を確保することができる。これによって、冷却水による冷却性能を精細に調整することができる。
その他の構成は、第一の実施形態或いは第二の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0024】
図6(a)(b)は、本発明に係るスペーサの第四の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ6では、スペーサ本体7に1個の凹所71が冷却水流路3の深さ方向bに延びるように設けられている。しかし、凹所71は、冷却水流路3の周方向cにおける中央部がシリンダボア2とは反対側に最も深く凹むほぼ左右対称の2段形状とされている。多孔質体8に設けられる凹部81も、スペーサ本体7の凹所71に倣うように凹む2段形状とされている。そして、図6(b)に示すように、多孔質体8の膨大化後の凹部81は、もとの断面2段形状から変形するも、第一〜第三の実施形態とは異なった断面形状で且つ大きな断面積で残存する。この結果、凹部81と冷却水流路3の内側内壁面3cとの間に、第一〜第三の実施形態と同様に冷却水の流通路を確保することができる。これによって、凹部81による冷却水の流通路の断面積が大きいことも勘案して、冷却水による冷却性能を精細に調整することができる。
このような凹所71及び凹部81も、1個に限らず前記実施形態と同様に複数個設けてもよい。その他の構成は、第一〜第三の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0025】
図7(a)(b)(c)は、本発明に係るスペーサの第五の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ6では、スペーサ本体7のシリンダボア2側の側面70に、冷却水流路3の周方向cに延びる複数(図例では3個)の凹所71…が、シリンダボア2とは反対側に凹むように設けられている。複数の凹所71…は断面方形で、冷却水流路3の深さ方向bに平行且つ等間隔で設けられている。また、スペーサ本体7のシリンダボア2側の側面70には、前記と同様の多孔質体8が取付けられている。多孔質体8のシリンダボア2側の側面80には、前記凹所71…に倣うようにシリンダボア2とは反対側に凹む形状の複数(図例では3個)の凹部81…が設けられている。本実施形態では、複数の凹部81…は、いずれも、多孔質体8の前記周方向cの両端部80c,80dに達する長さに形成されている。
【0026】
本実施形態においても、冷却水流路3に冷却水が供給されると、多孔質体8が復元によって冷却水流路3の幅方向aに沿ってシリンダボア2側に膨大化する。そして、多孔質体8のシリンダボア2側の側面(表面)80が、冷却水流路3の内側内壁面3cに当接する。このとき、多孔質体8の凹部81…は変形した状態で残存し、多孔質体8と内側内壁面3cとの間に、凹部81…による多孔質体8における周方向cの両端部80c,80dに通じる冷却水の流通路が形成される。したがって、凹部81の数及び位置を適宜設定することによって、冷却水流路の深さ方向b及び周方向cにおけるシリンダボア壁2aに対する冷却水による冷却性能を精細に調整することができるようになる。
その他の構成は、前記各実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0027】
なお、スペーサ本体7に設けられる凹所71及び多孔質体8に設けられる凹部81の数や形状或いは位置は、例示したものに限らず、しわの発生抑制機能や、冷却性能等さらには求められる仕様等に応じて適宜設定される。例えば、第二の実施形態で示される冷却水流路3の深さ方向bに延びる凹所71及び凹部81と第五の実施形態で示される冷却水流路3の周方向cに延びる凹所71及び凹部81とをそれぞれ設けてもよい。また、凹所71及び凹部81は、深さ方向b或いは周方向cに沿ったものを例示したが、これに限らず、深さ方向b或いは周方向cに対して傾斜したものでもよく、さらには、連続したものに限らず断続的なものでもよい。また、第二の実施形態において、冷却水流路3に設けられるドレーン孔5aと凹部81との位置関係を規定したが、冷却水流路3にドレーン孔5aが存在する場合は、他の実施形態においてもドレーン孔5aと凹部81との位置関係を同様に規定してもよい。
【0028】
また、多孔質体8を構成する素材としては、前記セルロース系スポンジ以外に、水膨潤性スポンジや、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された発泡体又は非発泡性の多孔質体からなるものでもよい。
また、セルロース系スポンジとして、種々の種類のものが挙げられるが、特に限定されない。例えば、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、気泡の大きさ(径)が0.1〜5mm程度のセルロース系スポンジを用いてもよい。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものが好ましいが、これに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ−テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、或いは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。
さらに、多孔質体8は、インサート成型に限らず、接着剤等や適宜治具による機械的な固着によって、支持体7に一体化してもよい。
【0029】
加えて、スペーサ本体7が合成樹脂の成型体からなる例について述べたが、金属など、多孔質体8を構成する素材より剛性を有するものであれば、他の材料からなるものであってもよい。また、スペーサ本体7に対して多孔質体8を固着させる位置(冷却水流路3の深さ方向bの位置、周方向cの位置)や多孔質体8の数(冷却水流路3の深さ方向bの数、周方向cの数)は、冷却水流路3内におけるスペーサ6の安定性、或いは、冷却水流路3内を流通する冷却水の冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。例えば、前記実施形態では、多孔質体8は、スペーサ本体7の円弧部7a毎に設けられているが、スペーサ本体7の全て(複数)の円弧部7aに対応するような帯状の多孔質体8をスペーサ本体7に取り付けてもよい。また、スペーサ本体7の形状は、実施形態では、半筒状(半割状)のものを例示したが、冷却水流路3の全周に及ぶ全筒状のものであってもよい。或いは、スペーサ本体7の形状は、シリンダボア2に対応する円弧部を含むものであれば、半割状より小さな部分スペーサを構成するものであってもよい。このような部分スペーサの場合は、冷却水流路3内に複数配置してもよく、配置する部分スペーサの数は、冷却水流路3内のスペースや求められる仕様等に応じて適宜設定してもよい。
さらにまた、本発明のスペーサが適用される内燃機関として、3気筒の内燃機関を例示したが、これに限らず他の気筒数の内燃機関にも適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 内燃機関
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 冷却水流路
5a ドレーン孔
6 スペーサ
7 スペーサ本体
7a 円弧部
70 シリンダボア側の側面
71 凹所
8 多孔質体
81 凹部
80a,80b 深さ方向における両端部
80c,80d 周方向における両端部
a 幅方向
b 深さ方向
c 周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8