特許第6974872号(P6974872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974872
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】ヘテロ二本鎖型antimiR
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20211118BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   C12N15/113 ZZNA
   A61K48/00
   A61P43/00 111
   A61K31/713
【請求項の数】6
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2019-527055(P2019-527055)
(86)(22)【出願日】2018年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2018024785
(87)【国際公開番号】WO2019004420
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2019年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-129594(P2017-129594)
(32)【優先日】2017年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業」チーム型研究(CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」「画期的な新規核酸医薬の分子技術の構築」「ヘテロ2本鎖核酸の臨床応用のための分子技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 耕太郎
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−502134(JP,A)
【文献】 特表2016−524588(JP,A)
【文献】 特表2016−509837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 ー 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的miRNAにハイブリダイズして、該標的miRNAの機能を阻害する、15塩基長の第1の核酸鎖、および
該第1の核酸鎖に相補的な第2の核酸鎖
を含む、二本鎖核酸複合体であって、
該第1の核酸鎖は、天然ヌクレオシドおよび非天然ヌクレオシドで構成されるミックスマーであり、
該第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して5個のホスホロチオエート結合および5個の2’-O-メチル修飾ヌクレオシドを含み、かつ
3'末端から連続して5個のホスホロチオエート結合および5個の2’-O-メチル修飾ヌクレオシドを含み、さらに、ホスホジエステル結合で連結された5個の連続した天然リボヌクレオシドを含む、
二本鎖核酸複合体。
【請求項2】
前記ミックスマーが、BNA/DNAミックスマーである、請求項1に記載の二本鎖核酸複合体。
【請求項3】
前記第2の核酸鎖が、標識機能、精製機能、および標的送達機能から選択される機能を有する機能性部分をさらに含む、請求項1または2に記載の二本鎖核酸複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の二本鎖核酸複合体と、薬学的に許容可能な担体とを含む、医薬組成物。
【請求項5】
標的miRNAにハイブリダイズして、該標的miRNAの機能を阻害する、15塩基長の第1の核酸鎖、および
該第1の核酸鎖に相補的な第2の核酸鎖
を含む、二本鎖核酸複合体であって、
該第1の核酸鎖は、天然ヌクレオシドおよび非天然ヌクレオシドで構成されるミックスマーであり、
該第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して少なくとも3つのホスホロチオエート結合および0〜5個の2’-O-メチル修飾ヌクレオシドを含み、かつ
3'末端から連続して少なくとも3つのホスホロチオエート結合および0〜5個の2’-O-メチル修飾ヌクレオシドを含み、
さらに、ホスホジエステル結合またはホスホロチオエート結合で連結された5〜7個の天然リボヌクレオシドを含む、
二本鎖核酸複合体。
【請求項6】
標的miRNAにハイブリダイズして、該標的miRNAの機能を阻害する、12〜22塩基長の第1の核酸鎖、および
該第1の核酸鎖に相補的な第2の核酸鎖
を含む、二本鎖核酸複合体であって、
該第1の核酸鎖は、天然ヌクレオシドおよび非天然ヌクレオシドで構成されるミックスマーであり、
該第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して少なくとも3つのホスホロチオエート結合および0〜5個の2’-O-メチル修飾ヌクレオシドを含み、かつ
3'末端から連続して少なくとも3つのホスホロチオエート結合および0〜5個の2’-O-メチル修飾ヌクレオシドを含み、
さらに、ホスホジエステル結合またはホスホロチオエート結合で連結された5〜7個の天然リボヌクレオシドを含む、
二本鎖核酸複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的マイクロRNAの機能を阻害する二本鎖核酸複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNA(miRNA)は、約20〜25塩基長の内在性一本鎖ノンコーディングRNAである。ヒトゲノムには千個以上のmiRNAがコードされていると考えられている。miRNAは、遺伝子の転写後発現調節に関与している。典型的には、miRNAは標的となるメッセンジャーRNA(mRNA)にハイブリダイズし、翻訳阻害等を介してタンパク質生産を抑制する。miRNAは、発生、細胞分化、細胞増殖、アポトーシスおよび代謝などの様々な生物学的プロセスに関与し得る。
【0003】
近年、核酸医薬と呼ばれる医薬品の開発において、オリゴヌクレオチドが関心を集めている。特に、標的遺伝子の高い選択性および低毒性の点を考慮して、アンチセンス法を利用する核酸医薬の開発が積極的に進められている。一般に、アンチセンス法は、標的遺伝子のmRNAセンス鎖の部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド)を細胞に導入することにより、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を選択的に改変または阻害する方法を含むが、miRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞に導入し、miRNAへの結合によってmiRNAの機能を阻害することもできる。
【0004】
miR-122は、肝臓で高発現しているmiRNAである。ミラヴィルセン(Miravirsen)と称される、miR-122を標的とする一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドについて報告されている(非特許文献1および2)。miR-122は、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAの安定性および増殖に重要であり、miR-122を標的とする一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドをHCV遺伝子型1型の慢性感染患者に投与すると、HCV RNA濃度が低下することも報告されている(非特許文献1)。
【0005】
miR-21を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドは、肝細胞がんの増殖を抑制することが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
アンチセンス法を利用した核酸として、本発明者らは、転写産物にハイブリダイズした際にRNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む第1の核酸鎖(アンチセンスオリゴヌクレオチド)とそれに対する相補鎖とをアニーリングさせた二本鎖核酸複合体を開発した(特許文献1)。
【0007】
本発明者らはまた、エクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸(特許文献2)を開発した。
【0008】
本発明者らはまた、付加ヌクレオチドがギャップマー(アンチセンスオリゴヌクレオチド)の5'末端、3'末端、もしくは5'末端と3'末端の両方に付加されている短いギャップマーアンチセンスオリゴヌクレオチド(特許文献3)、ならびに治療用オリゴヌクレオチドを送達するための二本鎖剤を開発した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/089283号
【特許文献2】国際公開第2014/203518号
【特許文献3】国際公開第2014/132671号
【特許文献4】国際公開第2014/192310号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Janssen HL et al., Treatment of HCV Infection by Targeting MicroRNA, N. Engl. J. Med., 2013, 368(18):1685-1694
【非特許文献2】Elmen J et al., LNA-mediated microRNA silencing in non-human primates. Nature, 2008, 452(7189):896-899
【非特許文献3】Wagenaar TR, et al., Anti-miR-21 Suppresses Hepatocellular Carcinoma Growth via Broad Transcriptional Network Deregulation, Mol. Cancer Res., 2015, 13(6):1009-1021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、標的miRNAの機能を効率的に阻害する核酸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、標的miRNAにハイブリダイズして、その機能を阻害する従来の一本鎖ミックスマー型アンチセンスオリゴヌクレオチドに、修飾ヌクレオシド間結合および糖修飾ヌクレオシドのうちの少なくとも一方を含む相補鎖をアニールさせた二本鎖核酸複合体が、標的miRNAの機能をより効率的に阻害できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1]標的miRNAにハイブリダイズして、該標的miRNAの機能を阻害する、6〜30塩基長の第1の核酸鎖、および
該第1の核酸鎖に相補的な第2の核酸鎖
を含む、二本鎖核酸複合体であって、
該第1の核酸鎖は、天然ヌクレオシドおよび非天然ヌクレオシドで構成されるミックスマーであり、
該第2の核酸鎖は、1つ以上の修飾ヌクレオシド間結合および1つ以上の糖修飾ヌクレオシドのうちの少なくとも一方を含む、二本鎖核酸複合体。
[2]前記第2の核酸鎖が、
(a)5'末端から連続して前記修飾ヌクレオシド間結合を含み、かつ、3'末端から連続して前記修飾ヌクレオシド間結合を含むか、
(b)5'末端から連続して前記修飾ヌクレオシド間結合を含み、かつ、3'末端から連続して前記糖修飾ヌクレオシドを含むか、
(c)5'末端から連続して前記糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して前記修飾ヌクレオシド間結合を含むか、
(d)5'末端から連続して前記糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して前記糖修飾ヌクレオシドを含むか、または
(e)5'末端から連続して前記修飾ヌクレオシド間結合および前記糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して前記修飾ヌクレオシド間結合および前記糖修飾ヌクレオシドを含む、[1]に記載の二本鎖核酸複合体。
[3]前記第2の核酸鎖が、
5'末端から連続して少なくとも4つの修飾ヌクレオシド間結合および/または少なくとも4つの糖修飾ヌクレオシドを含み、
3'末端から連続して少なくとも4つの修飾ヌクレオシド間結合および/または少なくとも4つの糖修飾ヌクレオシドを含み、さらに、
1個の天然リボヌクレオシド、またはホスホジエステル結合で連結された2〜8個の連続した天然リボヌクレオシドを含む、[1]または[2]に記載の二本鎖核酸複合体。
[4]前記第2の核酸鎖のヌクレオシド間結合の少なくとも50%が、修飾ヌクレオシド間結合である、[1]〜[3]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体。
[5]前記第1の核酸鎖のヌクレオシド間結合の少なくとも50%が、修飾ヌクレオシド間結合である、[1]〜[4]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体。
[6]前記修飾ヌクレオシド間結合が、ホスホロチオエート結合である、[1]〜[5]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体。
[7]前記糖修飾ヌクレオシドが、2'-O-メチル化糖を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体。
[8]前記ミックスマーが、BNA/DNAミックスマーである、[1]〜[7]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体。
[9]前記第2の核酸鎖が、標識機能、精製機能、および標的送達機能から選択される機能を有する機能性部分をさらに含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の二本鎖核酸複合体と、薬学的に許容可能な担体とを含む、医薬組成物。
【0014】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-129594号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、標的miRNAの機能を効率的に阻害する核酸が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体の例を示す模式図である。
図2図2は、様々な天然ヌクレオチドおよび非天然ヌクレオチドの構造を示す図である。
図3図3は、実施例1で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図4図4は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例1に記載される実験の結果を示すグラフである。図中、PBSは対照用である。「****」は、p<0.0001を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図5図5は、実施例2に記載される、核酸剤の投与量および相対的miR-122レベルの関係を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
図6図6は、実施例3に記載される、核酸剤の標的miRNAへの結合能を評価した実験の結果を示す写真である。
図7図7は、実施例4に記載される、miR-122を標的とする二本鎖核酸複合体の、miR-122の下流標的遺伝子への脱抑制効果を評価した実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図8図8は、実施例4に記載される、miR-122を標的とする二本鎖核酸複合体の、総血清コレステロールの低下率への影響を評価した実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図9図9は、実施例5に記載される、一実施形態に係る二本鎖核酸複合体の肝毒性を評価した実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
図10図10は、実施例5に記載される、一実施形態に係る二本鎖核酸複合体の腎毒性を評価した実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図11図11は、実施例6で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図12図12は、実施例6に記載される、miR-21を標的とする二本鎖核酸複合体の、miR-21の下流標的遺伝子への脱抑制効果を評価した実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図13図13は、実施例7で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図14図14は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例7に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図15図15は、実施例8で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図16図16は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例8に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。「n.s.」は、有意差がないことを示す。
図17図17は、実施例9で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図18図18は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例9に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図19図19は、実施例10で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図20図20は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例10に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示し、「****」は、p<0.0001を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図21-1】図21-1は、実施例11で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図21-2】図21−1の続きである。
図22図22は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例11に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図23-1】図23-1は、実施例12で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図23-2】図23−1の続きである。
図24図24は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例12に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図25図25は、実施例13で用いた核酸剤の構造の模式図である。それぞれの核酸剤について、左から、核酸剤の名称、核酸剤を構成するオリゴヌクレオチドの名称、および構造が示される。
図26図26は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的miRNA(miR-122)抑制効果を示す、実施例13に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
図27図27は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的mRNA(Taf7 mRNA)抑制効果を示す、実施例14に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示し、「**」は、p<0.01を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
<核酸複合体>
本発明は、核酸複合体に関する。核酸複合体は、第1の核酸鎖と、第1の核酸鎖に相補的な第2の核酸鎖とを含む。第1の核酸鎖は、第2の核酸鎖とアニールして、二本鎖構造を形成し、二本鎖核酸複合体を形成し得る。
【0018】
本明細書において用語「核酸」は、ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドと同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。
【0019】
用語「核酸鎖」、「ヌクレオチド鎖」または「鎖」もまた、本明細書中でオリゴヌクレオチドを指すために使用される。
【0020】
本明細書において用語「核酸塩基」または「塩基」とは、別の核酸の塩基と対合可能な複素環部分を意味する。本明細書において用語「相補的」は、水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)または非ワトソン-クリック塩基対(フーグスティーン型塩基対など)が形成され得る関係を意味する。
【0021】
一実施形態に係る核酸複合体において、第1の核酸鎖は、標的マイクロRNA(標的miRNA)にハイブリダイズして、該標的miRNAの機能を阻害し得るヌクレオチド鎖である。miRNAは、標的メッセンジャーRNA(標的mRNA)に相補的に結合し、mRNAのタンパク質への翻訳を阻害するか、またはmRNAの分解を誘導することによって、遺伝子の発現を抑制すると考えられている。いかなる理論にも拘束されないが、第1の核酸鎖は、標的miRNAにハイブリダイズして、該miRNAのmRNAへの結合を阻害することによって、miRNAの機能を阻害し得る。第1の核酸鎖は、標的miRNAにハイブリダイズして、標的miRNAの量(レベル)を低減させることによって、miRNAの機能を阻害してもよい。
【0022】
本明細書において、第1の核酸鎖は、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」、「miRNAアンチセンスオリゴヌクレオチド」または「アンチセンス核酸」と称することもある。
【0023】
本明細書において「アンチセンス効果」とは、標的miRNAと、該miRNAの少なくとも部分配列に相補的な鎖とがハイブリダイズすることによって生じる、標的miRNAのレベルの抑制または標的miRNAの機能の阻害を指す。
【0024】
本発明の一実施形態に係る核酸複合体の模式図を図1a〜cに示す。核酸複合体は、第1の核酸鎖と第2の核酸鎖から構成され得る(図1a)。後述するように、核酸複合体の第2の核酸鎖には、5'末端および3'末端の一方または両方に少なくとも1つの機能性部分「X」が連結していてもよい。図1bは、第2の核酸鎖の5'末端に機能性部分「X」が連結している核酸複合体の模式図を示す。図1cは、第2の核酸鎖の3'末端に機能性部分「X」が連結している核酸複合体の模式図を示す。
【0025】
マイクロRNA(miRNA)は、約20〜25塩基長の一本鎖のノンコーディングRNAである。miRNA経路は次のように説明することができる。まず、ゲノム上のmiRNA遺伝子から数百〜数千塩基長の一本鎖RNAが転写される。転写されたRNAは、ステムループ構造を形成し、pri-miRNA(primary miRNA)と称される。次いで、核内でRNaseIII様酵素(Drosha)によって、pri-miRNA分子の一部が切断され、約70塩基長のステムループ構造を有するpre-miRNA(precursor miRNA)が生成される。次いで、pre-miRNA分子は、輸送タンパク質(Exportin-5)によって細胞核内から細胞質へ輸送される。次いで、細胞質において、別のRNaseIII酵素(Dicer)によってpre-miRNAが切断され二本鎖miRNAが生成される。二本鎖miRNAはArgonauteタンパク質を含むRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれる。RISCに取り込まれた二本鎖miRNAはRISC中で2つの一本鎖分子となり、より不安定な一本鎖は分解され、残った一本鎖miRNAは成熟miRNAとなる。成熟miRNAは、相補的な塩基配列を有するmRNAに結合し、mRNAの翻訳を阻害するか、またはmRNAの分解を誘導することによって、様々な遺伝子の発現を抑制すると考えられている。
【0026】
標的miRNAは、いずれのmiRNAであってもよい。標的miRNAは、成熟miRNAであり得る。標的miRNAの例としては、miR-122、miR-21、miR-98、miR-34c、miR-155、miR-34、Let-7、miR-208、miR-195、miR-221、miR-103、miR-105、およびmiR-10b等が挙げられる(例えば、Li Z & Rana TM, Nature Reviews Drug Discovery, 2014, 13:622-638を参照)。マイクロRNAの塩基配列は、例えば、NCBI(米国国立生物工学情報センター)データベース、およびmiRBaseデータベース(Kozomara A, Griffiths-Jones S. NAR 2014 42:D68-D73;Kozomara A, Griffiths-Jones S. NAR 2011 39:D152-D157;Griffiths-Jones S, Saini HK, van Dongen S, Enright AJ. NAR 2008 36:D154-D158;Griffiths-Jones S, Grocock RJ, van Dongen S, Bateman A, Enright AJ. NAR 2006 34:D140-D144;Griffiths-Jones S. NAR 2004 32:D109-D111)などの利用可能なデータベースから入手できる。
【0027】
標的miRNAが由来する生物も、いずれの生物であってもよいが、例えば哺乳動物、例えば霊長類(例えば、カニクイザル、チンパンジーおよびヒト)および非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ネコ、イヌ、モルモット、ラットおよびマウス)であってよく、好ましくはヒトである。
【0028】
マウスmiR-122の塩基配列を、配列番号1に示す。ヒトmiR-122の塩基配列は、マウスのものと同じである。マウスmiR-21の塩基配列を、配列番号2に示す。ヒトmiR-21の塩基配列は、マウスのものと同じである。
【0029】
第1の核酸鎖は、標的miRNAの少なくとも一部にハイブリダイズし得る塩基配列を含んでよい。第1の核酸鎖は、miRNAの1〜20位(miRNAの5'末端から1番目から20番目)、1〜18位、2〜17位、2〜16位、2〜14位、2〜12位、2〜10位、または2〜8位の塩基配列にハイブリダイズし得る塩基配列を含んでよい。一実施形態では、第1の核酸鎖は、miRNAの2〜16位の塩基配列にハイブリダイズし得る塩基配列を含み得る。
【0030】
第1の核酸鎖は、標的miRNAの少なくとも一部と完全に相補的な塩基配列を含むことは必ずしも必要ではなく、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%以上)相補的な塩基配列を含んでいればよい。配列の相補性は、BLASTプログラムなどを使用することによって決定することができる。第1の核酸鎖と標的miRNAとは、それらの配列が相補的である場合にハイブリダイズし得る。
【0031】
ハイブリダイゼーション条件は、例えば、低ストリンジェントな条件および高ストリンジェントな条件などのストリンジェントな条件であってもよい。低ストリンジェントな条件は、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度および塩濃度などの条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウムおよび15mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0032】
当業者であれば、鎖間の相補度を考慮して、2本の鎖がハイブリダイズし得る条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。また、当業者であれば、例えば標的miRNAの塩基配列の情報に基づいて、標的miRNAの少なくとも一部に相補的なアンチセンス核酸(第1の核酸鎖)を容易に設計することができる。
【0033】
第2の核酸鎖は、原則として、第1の核酸鎖に相補的である。ただし、第2の核酸鎖は、第1の核酸鎖と完全に相補的な塩基配列を含むことは必ずしも必要ではなく、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%以上)相補的な塩基配列を含んでいればよい。配列の相補性は、BLASTプログラムなどを使用することによって決定することができる。第1の核酸鎖と第2の核酸鎖とは、それらの配列が相補的である場合にアニーリングし得る。当業者であれば、2本の核酸鎖がアニーリングできる条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。
【0034】
第1の核酸鎖および第2の核酸鎖の塩基長の下限は、それぞれ独立して、6塩基長、7塩基長、8塩基長、9塩基長、10塩基長、11塩基長、12塩基長、13塩基長、14塩基長または15塩基長であってよいが、特に限定されない。第1の核酸鎖および第2の核酸鎖の塩基長の上限は、それぞれ独立して、30塩基長、25塩基長、24塩基長、23塩基長、22塩基長、21塩基長、20塩基長、19塩基長、18塩基長、17塩基長または16塩基長であってよい。第1の核酸鎖および第2の核酸鎖の塩基長の具体的範囲は、それぞれ独立して、例えば、6〜30塩基長、8〜25塩基長、10〜20塩基長、12〜18塩基長、または14〜16塩基長であってもよい。第1の核酸鎖および第2の核酸鎖は、同じ長さであっても、異なる長さ(例えば、1〜3塩基異なる長さ)であってもよい。第1の核酸鎖と、第2の核酸鎖とが形成する二重鎖構造は、バルジを含んでいてもよい。特定の例において、長さの選択は、例えば費用および合成収率に加えて、miRNA機能阻害の強度、ならびに標的miRNAに対する核酸鎖の特異性によって決まる。
【0035】
一般に、「ヌクレオシド」は、塩基および糖の組み合わせである。ヌクレオシドの核酸塩基(塩基としても知られる)部分は、通常は、複素環式塩基部分である。「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに含む。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドでは、リン酸基は、糖の2'、3'、または5'ヒドロキシル部分に連結可能である。通常は、糖の3'位と隣の糖の5'位がリン酸エステル構造で結合される。オリゴヌクレオチドは、互いに隣接するヌクレオシドの共有結合によって形成され、直鎖ポリマーオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチド構造の内部で、リン酸基は、一般に、オリゴヌクレオチドのヌクレオシド間結合を形成するとみなされている。
【0036】
本発明において、核酸鎖は、天然ヌクレオチドおよび/または非天然ヌクレオチドで構成され得る。本明細書において「天然ヌクレオチド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオチドおよびRNA中に見られるリボヌクレオチドを含む。本明細書において、「デオキシリボヌクレオチド」および「リボヌクレオチド」は、それぞれ、「DNAヌクレオチド」および「RNAヌクレオチド」と称することもある。
【0037】
本明細書において「天然ヌクレオシド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオシドおよびRNA中に見られるリボヌクレオシドを含む。本明細書において、「デオキシリボヌクレオシド」および「リボヌクレオシド」は、それぞれ、「DNAヌクレオシド」および「RNAヌクレオシド」と称することもある。
【0038】
「非天然ヌクレオチド」は、天然ヌクレオチド以外の任意のヌクレオチドを指し、修飾ヌクレオチドおよびヌクレオチド模倣体を含む。同様に、本明細書において「非天然ヌクレオシド」は、天然ヌクレオシド以外の任意のヌクレオシドを指し、修飾ヌクレオシドおよびヌクレオシド模倣体を含む。本明細書において「修飾ヌクレオチド」とは、修飾糖部分、修飾ヌクレオシド間結合、および修飾核酸塩基のいずれか1つ以上を有するヌクレオチドを意味する。本明細書において「修飾ヌクレオシド」とは、修飾糖部分および/または修飾核酸塩基を有するヌクレオシドを意味する。非天然オリゴヌクレオチドを含む核酸鎖は、多くの場合、例えば、細胞取り込みの強化、核酸標的への親和性の強化、ヌクレアーゼ存在下での安定性の増加、または阻害活性の増加等の望ましい特性により、天然型よりも好ましい。
【0039】
本明細書において「修飾ヌクレオシド間結合」とは、天然に存在するヌクレオシド間結合(すなわち、ホスホジエステル結合)からの置換または任意の変化を有するヌクレオシド間結合を指す。修飾ヌクレオシド間結合には、リン原子を含むヌクレオシド間結合、およびリン原子を含まないヌクレオシド間結合が含まれる。代表的なリン含有ヌクレオシド間結合としては、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホトリエステル結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ボラノホスフェート結合、およびホスホロアミデート結合が挙げられるが、これらに限定されない。ホスホロチオエート結合は、ホスホジエステル結合の非架橋酸素原子を硫黄原子に置換したヌクレオシド間結合を指す。リン含有および非リン含有結合の調製方法は周知である。修飾ヌクレオシド間結合は、ヌクレアーゼ耐性が天然に存在するヌクレオシド間結合よりも高い結合であることが好ましい。当業者には、ヌクレアーゼ耐性が天然に存在するヌクレオシド間結合よりも高い結合は知られている。
【0040】
本明細書において「修飾核酸塩基」または「修飾塩基」とは、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、またはウラシル以外のあらゆる核酸塩基を意味する。「非修飾核酸塩基」または「非修飾塩基」(天然核酸塩基)とは、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を意味する。修飾核酸塩基の例としては、5-メチルシトシン、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシンまたはN4-メチルシトシン;5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシルまたは5-ヨードウラシル;2-チオチミン;N6-メチルアデニンまたは8-ブロモアデニン;ならびにN2-メチルグアニンまたは8-ブロモグアニン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書において「修飾糖」とは、天然糖部分(すなわち、DNA(2'-H)またはRNA(2'-OH)中に認められる糖部分)からの置換および/または任意の変化を有する糖を指す。本明細書において、核酸鎖は、場合により、糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。「糖修飾ヌクレオシド」とは、修飾糖を含む修飾ヌクレオシドを指す。糖修飾ヌクレオシドは、ヌクレアーゼ安定性の強化、結合親和性の増加、または他の何らかの有益な生物学的特性を核酸鎖に付与し得る。
【0042】
特定の実施形態では、ヌクレオシドは、化学修飾リボフラノース環部分を含む。化学修飾リボフラノース環の例としては、限定するものではないが、置換基(5'または2'置換基を含む)の付加、非ジェミナル環原子の架橋形成による二環式核酸(架橋核酸、BNA)の形成、リボシル環酸素原子のS、N(R)、またはC(R1)(R2)(R、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、C1-C12アルキル、または保護基を表す)での置換、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
糖修飾ヌクレオシドの例としては、限定するものではないが、5'-ビニル、5'-メチル(RまたはS)、4'-S、2'-F(2'-フルオロ基)、2'-OCH3(2'-OMe基もしくは2'-O-メチル基)、および2'-O(CH2)2OCH3(2'-O-MOE基)置換基を含むヌクレオシドが挙げられる。2'位の置換基はまた、アリル、アミノ、アジド、チオ、-O-アリル、-O-C1-C10アルキル、-OCF3、-O(CH2)2SCH3、-O(CH2)2-O-N(Rm)(Rn)、および-O-CH2-C(=O)-N(Rm)(Rn)から選択することができ、各RmおよびRnは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換C1-C10アルキルである。本明細書において「2'-修飾糖」は、2'位で修飾されたフラノシル糖を意味する。2'-修飾糖としては、例えば、2'-O-メチル化糖が挙げられる。
【0044】
糖修飾ヌクレオシドのさらなる例としては、二環式ヌクレオシドが挙げられる。本明細書において「二環式ヌクレオシド」は、二環式糖部分を含む修飾ヌクレオシドを指す。二環式糖部分を含む核酸は、一般に架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)と称される。本明細書において、二環式糖部分を含むヌクレオシドは、「架橋ヌクレオシド」と称することもある。
【0045】
二環式糖は、2'位の炭素原子および4'位の炭素原子が2つ以上の原子によって架橋されている糖であってよい。二環式糖の例は当業者に公知である。二環式糖を含む核酸(BNA)の1つのサブグループは、4'-(CH2)p-O-2'、4'-(CH2)p-CH2-2'、4'-(CH2)p-S-2'、4'-(CH2)p-OCO-2'、4'-(CH2)n-N(R3)-O-(CH2)m-2'[式中、p、mおよびnは、それぞれ1〜4の整数、0〜2の整数、および1〜3の整数を表し;またR3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、およびユニット置換基(蛍光もしくは化学発光標識分子、核酸切断活性を有する機能性基、細胞内または核内局在化シグナルペプチド等)を表す]により架橋された2'位の炭素原子と4'位の炭素原子を有すると説明することができる。さらに、特定の実施形態によるBNAに関し、3'位の炭素原子上のOR2置換基および5'位の炭素原子上のOR1置換基において、R1およびR2は、典型的には水素原子であるが、互いに同一であっても異なっていてもよく、さらにまた、核酸合成のためのヒドロキシル基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成のための保護基によって保護されているリン酸基、または-P(R4)R5(ここで、R4およびR5は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれヒドロキシル基、核酸合成のための保護基によって保護されているヒドロキシル基、メルカプト基、核酸合成のための保護基によって保護されているメルカプト基、アミノ基、1〜5個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜5個の炭素原子を有するアルキルチオ基、1〜6個の炭素原子を有するシアノアルコキシ基、または1〜5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されているアミノ基を表す)であってもよい。このようなBNAの非限定的な例としては、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA(LNA(Locked Nucleic Acid(登録商標))、2',4'-BNAとしても知られている)、例えば、α-L-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNAもしくはβ-D-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA、エチレンオキシ(4'-(CH2)2-O-2')BNA(ENAとしても知られている)、β-D-チオ(4'-CH2-S-2')BNA、アミノオキシ(4'-CH2-O-N(R3)-2')BNA、オキシアミノ(4'-CH2-N(R3)-O-2')BNA(2',4'-BNANCとしても知られている)、2',4'-BNAcoc、3'-アミノ-2',4'-BNA、5'-メチルBNA、(4'-CH(CH3)-O-2')BNA(cEt BNAとしても知られている)、(4'-CH(CH2OCH3)-O-2')BNA(cMOE BNAとしても知られている)、アミドBNA(4'-C(O)-N(R)-2')BNA(R=HまたはMe)(AmNAとしても知られている)、および当業者に公知の他のBNAが挙げられる。
【0046】
本明細書において、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')架橋を有する二環式ヌクレオシドを、LNAヌクレオシドと称することもある。
【0047】
修飾糖の調製方法は、当業者に周知である。修飾糖部分を有するヌクレオチドにおいて、核酸塩基部分(天然、修飾、またはそれらの組み合わせ)は、適切な核酸標的とのハイブリダイゼーションのために維持されてよい。
【0048】
本明細書において「ヌクレオシド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において糖または糖および塩基、ならびに必ずではないが結合を置換するために使用される構造体を含む。「オリゴマー化合物」とは、核酸分子の少なくともある領域にハイブリダイズ可能な連結したモノマーサブユニットのポリマーを意味する。ヌクレオシド模倣体としては、例えば、モルホリノ、シクロヘキセニル、シクロヘキシル、テトラヒドロピラニル、二環式または三環式糖模倣体、例えば、非フラノース糖単位を有するヌクレオシド模倣体が挙げられる。「ヌクレオチド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において、ヌクレオシドおよび結合を置換するために使用される構造体を含む。ヌクレオチド模倣体としては、例えば、ペプチド核酸またはモルホリノ核酸(-N(H)-C(=O)-O-または他の非ホスホジエステル結合によって結合されるモルホリノ)が挙げられる。ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid、PNA)は、糖の代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合で結合した主鎖を有するヌクレオチド模倣体である。モルホリノ核酸の構造の一例は、図2に示される。「模倣体」とは、糖、核酸塩基、およびヌクレオシド間結合の少なくとも1つを置換する基を指す。一般に、模倣体は、糖または糖−ヌクレオシド間結合の組み合わせの代わりに使用され、核酸塩基は、選択される標的に対するハイブリダイゼーションのために維持される。
【0049】
一般的には、修飾は、同一鎖中のヌクレオチドが独立して異なる修飾を受けることができるように実施することができる。また、酵素的切断に対する抵抗性を与えるため、同一のヌクレオチドが、修飾ヌクレオシド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。同一のヌクレオチドはまた、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。同一のヌクレオチドはまた、修飾ヌクレオシド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合)を有し、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有し、さらに、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を有することができる。
【0050】
核酸鎖における非天然ヌクレオチドの数、種類および位置は、本発明の核酸複合体によって提供されるアンチセンス効果などに影響を及ぼし得る。修飾の選択は、例えば、標的miRNAの配列によって異なり得るが、当業者であれば、アンチセンス法に関連する文献(例えば、WO 2007/143315、WO 2008/043753、およびWO 2008/049085)の説明を参照することによって好適な実施形態を決定することができる。さらに、修飾後の核酸複合体が有するアンチセンス効果が測定される場合、このようにして得られた測定値が修飾前の核酸複合体の測定値と比較して有意に低くない場合(例えば、修飾後に得られた測定値が、修飾前の核酸複合体の測定値の70%以上、80%以上または90%以上である場合)、関連修飾を評価することができる。
【0051】
アンチセンス効果の測定は、被験核酸化合物を細胞または被験体(例えばマウス)などに導入し、ノーザンブロッティングおよび定量PCRなどの公知技術を適切に使用して細胞内の標的miRNAのレベルを測定することによって、例えば以下の実施例に示されるように、実施することができる。
【0052】
また、アンチセンス効果の測定は、被験核酸化合物を被験体(例えばマウス)などに導入し、被験体の標的臓器(例えば肝臓)における標的miRNAのレベルを測定することによって行ってもよい。
【0053】
測定された標的miRNAのレベルが、陰性対照(例えばビヒクル投与または無処置)と比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%減少している場合に、被験核酸化合物がアンチセンス効果をもたらし得ることが示される。一実施形態に係る核酸複合体は、第1の核酸鎖のみより高い(例えば2倍以上高い)アンチセンス効果を有し得る。
【0054】
あるいは、アンチセンス効果の測定は、被験核酸化合物を細胞または被験体(例えばマウス)などに導入し、ノーザンブロッティング、定量PCRおよびウエスタンブロッティングなどの公知技術を適切に使用して、標的miRNAによって制御されている標的遺伝子のmRNAまたはその遺伝子から翻訳されたタンパク質の量を測定することによって行ってもよい。
【0055】
測定されたmRNAまたはタンパク質の量が、陰性対照(例えばビヒクル投与または無処置)と比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%増加している場合に、被験核酸化合物がアンチセンス効果をもたらし得ることが示される。
【0056】
第1の核酸鎖を構成するヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(天然デオキシリボヌクレオシド、天然リボヌクレオシド、または両者)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0057】
第1の核酸鎖のヌクレオシド組成の1つの実施形態はミックスマー(mixmer)である。本明細書において「ミックスマー」とは、周期的または無作為セグメント長の交互型のヌクレオシドで構成される核酸鎖を意味する。ミックスマーは、天然ヌクレオシド(例えば、天然デオキシリボヌクレオシド)および非天然ヌクレオシド(例えば、二環式ヌクレオシド、好ましくはLNAヌクレオシド)を含み得る。本明細書において、天然デオキシリボヌクレオシドおよび架橋ヌクレオシドで構成されるミックスマーを、「BNA/DNAミックスマー」と称する。架橋ヌクレオシドは、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を含んでもよい。本明細書において、天然デオキシリボヌクレオシドおよびLNAヌクレオシドで構成されるミックスマーを、「LNA/DNAミックスマー」と称する。ミックスマーは、必ずしも2種のヌクレオシドだけを含むように制限される必要はない。ミックスマーは、天然もしくは修飾のヌクレオシドまたはヌクレオシド模倣体であるか否かに関わらず、任意の数の種のヌクレオシドを含み得る。
【0058】
一実施形態では、ミックスマーは、4個以上の連続する天然ヌクレオシドを含まない。ミックスマーは、3個以上の連続する天然ヌクレオシドを含まないものであってもよい。さらなる一実施形態では、ミックスマーは、3個以上または4個以上連続する天然デオキシリボヌクレオシドを含まない。さらなる一実施形態では、ミックスマーは、3個以上または4個以上連続する天然リボヌクレオシドを含まない。
【0059】
一実施形態では、ミックスマーは、3個以上または4個以上連続する非天然ヌクレオシドを含まない。さらなる一実施形態では、ミックスマーは、3個以上または4個以上連続する二環式ヌクレオシド(例えば、LNAヌクレオシド)を含まない。
【0060】
第1の核酸鎖におけるヌクレオシド間結合は、天然に存在するヌクレオシド間結合および/または修飾ヌクレオシド間結合であってよい。
【0061】
第1の核酸鎖は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または少なくとも10個の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよい。第1の核酸鎖は、5'末端から連続して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよい。第1の核酸鎖は、3'末端から連続して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよい。本明細書において、例えば、「5'末端から連続して2個修飾ヌクレオシド間結合を含む」とは、5'末端に最も近接するヌクレオシド間結合と、これに隣接する、3'末端方向に位置するヌクレオシド間結合とが修飾ヌクレオシド間結合であることを指す。このような末端における修飾ヌクレオシド間結合は、核酸鎖の望ましくない分解を阻止することができるために好ましい。
【0062】
一実施形態では、第1の核酸鎖のヌクレオシド間結合の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%は、修飾ヌクレオシド間結合であってよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0063】
第2の核酸鎖を構成するヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、または両者)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0064】
第2の核酸鎖は、1つ以上の修飾ヌクレオシド間結合および1つ以上の糖修飾ヌクレオシドのうちの少なくとも一方を含み得る。すなわち、第2の核酸鎖は、1つ以上の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよく、1つ以上の糖修飾ヌクレオシドを含んでもよく、または1つ以上の修飾ヌクレオシド間結合と1つ以上の糖修飾ヌクレオシドの両方を含んでもよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。糖修飾ヌクレオシドは、2'-修飾糖、例えば2'-O-メチル化糖を含んでもよい。
【0065】
第2の核酸鎖は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または少なくとも10個の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよい。第2の核酸鎖は、5'末端から連続して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよい。第2の核酸鎖は、3'末端から連続して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の修飾ヌクレオシド間結合を含んでもよい。
【0066】
第2の核酸鎖におけるヌクレオシド間結合の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。
【0067】
第2の核酸鎖は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または少なくとも10個の糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。第2の核酸鎖は、5'末端から連続して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個、例えば1〜5個または1〜3個の糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。第2の核酸鎖は、3'末端から連続して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個、例えば1〜5個または1〜3個の糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。本明細書において、例えば、「5'末端から連続して2個の糖修飾ヌクレオシドを含む」とは、最も5'末端側に位置するヌクレオシドと、これに隣接する、3'末端方向に位置するヌクレオシドとが糖修飾ヌクレオシドであることを指す。このような末端における糖修飾ヌクレオシドは、核酸鎖の望ましくない分解を阻止することができるために好ましい。
【0068】
一実施形態では、第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含むか、
5'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含むか、
5'末端から連続して少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含むか、または
5'末端から連続して少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。
【0069】
さらなる実施形態では、第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合および少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含むか、
5'末端から連続して少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合および少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含むか、
5'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合および少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含むか、または
5'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合および少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から連続して少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。
【0070】
さらなる実施形態では、第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合および少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含み、かつ、
3'末端から連続して少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合および少なくとも1つの糖修飾ヌクレオシドを含んでもよい。
【0071】
第2の核酸鎖は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の(例えば連続した)天然リボヌクレオシドを含んでもよい。第2の核酸鎖は、1〜15個、1〜13個、1〜9個、1〜8個、2〜7個、3〜6個または4〜5個の(例えば連続した)天然リボヌクレオシドを含んでもよい。連続した天然リボヌクレオシドは、ホスホジエステル結合で連結されていてもよいし、または修飾ヌクレオシド間結合で連結されていてもよい。第2の核酸鎖を構成するヌクレオシドの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%が、天然ヌクレオシド(例えば天然リボヌクレオシド)であってもよい。
【0072】
特定の実施形態では、第2の核酸鎖は、
5'末端から連続して少なくとも4つの修飾ヌクレオシド間結合および/または少なくとも4つの糖修飾ヌクレオシドを含み、
3'末端から連続して少なくとも4つの修飾ヌクレオシド間結合および/または少なくとも4つの糖修飾ヌクレオシドを含み、さらに、
1個の天然リボヌクレオシド、またはホスホジエステル結合で連結された2〜8個の連続した天然リボヌクレオシドを(例えば上記以外の位置に、例えば非末端位置に)含んでもよい。第2の核酸鎖は、例えばホスホジエステル結合で連結された3〜7個、4個〜6個、又は5個の連続した天然リボヌクレオシドを(例えば上記以外の位置に、例えば非末端位置に)含んでもよい。
【0073】
第2の核酸鎖は、上記の修飾ヌクレオシド間結合および糖修飾ヌクレオシドの任意の組み合わせを含んでよい。
【0074】
第2の核酸鎖は、生体内で酵素によって切断可能であってよい。また、第2の核酸鎖は、切断前に第1の核酸鎖に効率的にハイブリダイズし、切断後に第1の核酸鎖から効率的に乖離するものであってよい。第2の核酸鎖は、このハイブリダイズおよび乖離を可能にするのに適切な結合親和性を有する非天然ヌクレオシドを含んでよい。
【0075】
第2の核酸鎖は、生体内で切断された後に第1の核酸鎖からの乖離に有利な構造を含んでもよい。前記構造は、例えば、乖離に有利な修飾ヌクレオチドを含み得る。前記構造は、例えば、乖離に有利な修飾ヌクレオシド間結合を含み得る。前記構造は、例えば、第1の核酸鎖に相補的でない配列を含み得る。前記構造の非限定的例として、ミスマッチ及びバルジ構造が挙げられる。
【0076】
一実施形態では、第2の核酸鎖は、ポリヌクレオチドに結合された少なくとも1つの「機能性部分(X)」を含み得る。機能性部分は、第2の核酸鎖の5'末端に連結されていてよく(図1b)、または3'末端に連結されていてもよい(図1c)。あるいは、機能性部分は、ポリヌクレオチドの内部のヌクレオチドに連結されていてもよい。他の実施形態において、第2の核酸鎖は、2つ以上の機能性部分を含み、これらはポリヌクレオチドの複数の位置に連結されていてもよく、および/またはポリヌクレオチドの1つの位置に一群として連結されていてもよい。
【0077】
第2の核酸鎖と機能性部分との間の結合は、直接結合であってもよいし、別の物質によって介在される間接結合であってもよい。しかし、特定の実施形態においては、機能性部分が、共有結合、イオン性結合、水素結合などを介して第2の核酸鎖に直接結合されていることが好ましく、またより安定した結合を得ることができるという点から考えると、共有結合がより好ましい。機能性部分はまた、切断可能な連結基を介して第2の核酸鎖に結合されていてもよい。例えば、機能性部分は、ジスルフィド結合を介して連結されていてもよい。
【0078】
機能性部分が、核酸複合体および/または機能性部分が結合している鎖に所望の機能を与える限り、特定の実施形態による「機能性部分」の構造について特定の限定はない。所望の機能としては、標識機能、精製機能、および送達機能が挙げられる。標識機能を与える部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどの化合物が挙げられる。精製機能を与える部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチドなどの化合物が挙げられる。
【0079】
一部の実施形態において、機能性部分は、細胞への輸送を増強する役割を果たす。例えば、特定のペプチドタグは、オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされると、オリゴヌクレオチドの細胞取り込みを増強することが示されている。例としては、HaiFang Yinら、Human Molecular Genetics, Vol. 17(24), 3909-3918 (2008年)およびその参考文献中に開示されるアルギニンリッチペプチドP007およびBペプチドが挙げられる。
【0080】
さらに、本発明に係る核酸複合体(または第1の核酸鎖)を体内の標的部位または標的領域に高特異性および高効率で送達し、これにより関連核酸による標的miRNAの発現を極めて効果的に抑制するという観点から、本発明の一部の実施形態の核酸複合体を体内の「標的部位」に送達する活性を有する分子が、機能性部分として第2の核酸鎖に結合していることが好ましい。
【0081】
「標的送達機能」を有する部分は、本発明の特定の実施形態の核酸複合体を肝臓などに高特異性および高効率で送達し得るという観点から、例えば、脂質であってよい。このような脂質の例としては、コレステロールおよび脂肪酸などの脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンA、およびビタミンD);ビタミンKなどの脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン);アシル-CoAなどの中間代謝産物;糖脂質、グリセリド、およびそれらの誘導体が挙げられる。しかし、これらの中でも、より高い安全性を有するという点から考えて、特定の実施形態において、コレステロールおよびビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)が使用される。しかしながら、本発明の特定の実施形態の核酸複合体は、脂質と結合していないものであってもよい。
【0082】
さらに、本発明の特定の実施形態の核酸複合体を高特異性および高効率で脳に送達し得るという観点から、特定の実施形態による「機能性部分」の例として、糖(例えば、グルコースおよびスクロース)が挙げられる。
【0083】
また、様々な臓器の細胞表面上に存在する様々なタンパク質に結合することにより本発明の特定の実施形態の核酸複合体を様々な臓器に高特異性および高効率で送達し得るという観点から、特定の実施形態による「機能性部分」の例として、ペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体リガンドならびに抗体および/またはそのフラグメント)が挙げられる。
【0084】
当業者であれば、公知の方法を適切に選択することによって、本発明の様々な実施形態による核酸複合体を構成する第1の核酸鎖および第2の核酸鎖を製造することができる。例えば、本発明の一部の実施形態による核酸は、標的miRNAの塩基配列の情報に基づいて核酸のそれぞれの塩基配列を設計し、市販の自動核酸合成装置(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)の製品、ベックマン・コールター社(Beckman Coulter, Inc.)の製品など)を使用することによって核酸を合成し、その後、結果として得られたオリゴヌクレオチドを逆相カラムなどを使用して精製することにより製造することができる。この方法で製造した核酸を適切な緩衝溶液中で混合し、約90℃〜98℃で数分間(例えば5分間)変性させ、その後核酸を約30℃〜70℃で約1〜8時間アニールし、このようにして本発明の一部の実施形態の核酸複合体を製造することができる。アニールした核酸複合体の作製は、このような時間および温度プロトコルに限定されない。鎖のアニーリングを促進するのに適した条件は、当技術分野において周知である。さらに、機能性部分が結合している核酸複合体は、機能性部分が予め結合された核酸種を使用し、上記の合成、精製およびアニーリングを実施することによって製造することができる。機能性部分を核酸に連結するための多数の方法が、当技術分野において周知である。あるいは、一部の実施形態に係る核酸鎖は、塩基配列ならびに修飾部位もしくは種類を指定して、製造業者(例えば、ジーンデザイン社)に注文し、入手することもできる。
【0085】
一部の実施形態による核酸複合体は、後述の実施例に示すとおり、生体内(特に肝臓)に効率的に送達され、効果的に標的miRNAレベルを抑制し、標的miRNAの機能を阻害する(標的miRNAが制御している標的遺伝子の発現を脱抑制する)ことができる。したがって、一部の実施形態による核酸複合体は、標的miRNAレベルの抑制または標的miRNAの機能の阻害に使用するためのものであってよい。
【0086】
本出願人は、エクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸を報告している(国際公開第2014/203518号を参照)。一般的に、遺伝子から転写により、エクソンおよびイントロンからなるプレメッセンジャーRNA(mRNA)が生じ、細胞核内でプレmRNAからイントロンが除去され(スプライシング)、成熟mRNAが生成され、次いで、タンパク質への翻訳が生じる。前記のエクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸は、細胞核内への送達が増強され、増強したエクソンスキッピング効果をもたらすことができる(国際公開第2014/203518号を参照)。一方、本発明は、細胞核内ではなく、細胞質に存在するmiRNAを標的とする二本鎖核酸複合体に関する。よって、エクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸と、本発明に係る二本鎖核酸複合体とは、標的が異なり、さらに、作用する細胞内の部位が異なる。
<組成物および治療/予防方法>
本発明は、標的miRNAレベルを抑制する、または標的miRNAの機能を阻害するための、上記の核酸複合体を有効成分として含む組成物も提供する。組成物は医薬組成物であってもよい。本明細書では、用語「標的miRNAレベル」は、「標的miRNAの発現量」と互換的に用いられる。
【0087】
本発明の一部の実施形態の核酸複合体を含む組成物は、公知の製薬法により製剤化することができる。例えば、本組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、微粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、解膠剤(peptizer)、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、コーティング剤、軟膏、硬膏剤(plaster)、パップ剤(cataplasm)、経皮剤、ローション剤、吸入剤、エアロゾル剤、点眼剤、注射剤および坐剤の形態で、経口的にまたは非経口的に使用することができる。
【0088】
これらの製剤の製剤化に関して、薬学的に許容可能な担体または食品および飲料品として許容可能な担体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物性油、溶媒、基剤、乳化剤、懸濁化剤、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、香味料、香料、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、増粘剤、矯味剤、溶解助剤、および他の添加剤を適切に組み込むことができる。
【0089】
組成物の投与形態は特に限定されず、例としては、経口投与または非経口投与、より具体的には、静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、くも膜下腔内投与、皮下投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、気管気管支投与、直腸投与、眼内投与、および筋肉内投与、ならびに輸血による投与などが挙げられる。
【0090】
組成物は、被験体としてヒトを含む動物に使用することができる。しかし、ヒトを除く動物には特定の限定はなく、様々な家畜、家禽、ペット、実験動物などが一部の実施形態の被験体となり得る。
【0091】
医薬組成物により治療される疾患としては、中枢神経系疾患、代謝疾患、腫瘍、および感染症などが挙げられる。中枢神経系疾患としては、特に限定されないが、例えば、脳腫瘍、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症、ピック病、筋萎縮性側索硬化症などが挙げられる。
【0092】
組成物が投与または摂取される場合、投与量または摂取量は、被験体の年齢、体重、症状および健康状態、組成物の種類(医薬品、食品および飲料品等)などに従って適切に選択することができる。例えば、組成物の摂取有効量は、核酸複合体0.0000001mg/kg/日〜1000000mg/kg/日、0.00001mg/kg/日〜10000mg/kg/日または0.001mg/kg/日〜100mg/kg/日であり得る。
【0093】
本発明はまた、一部の実施形態の核酸複合体または組成物をその必要がある被験体に投与することを含む、標的miRNAレベルを抑制する方法を提供する。
【0094】
本発明はまた、一部の実施形態の核酸複合体または組成物をその必要がある被験体に投与することを含む、標的miRNAの機能を阻害する方法を提供する。
【0095】
本発明はまた、一部の実施形態の核酸複合体または組成物をその必要がある被験体に投与することを含む、標的miRNAレベルの増加に関連する疾患を治療または予防する方法を提供する。
【0096】
本発明はまた、一部の実施形態の、miR-122の機能を阻害する核酸複合体または組成物をその必要がある被験体に投与することを含む、C型肝炎ウイルス感染症の治療または予防方法を提供する。前述のように、miR-122は、肝臓で高発現しているmiRNAであり、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAの安定性および増殖に重要である。C型肝炎ウイルス感染症の治療は、HCV RNAレベルの低下を含み得る。HCV RNAレベルは、定量RT-PCRなどの技術を用いて当業者であれば容易に決定できる。C型肝炎ウイルスは、遺伝子型1型であってよい。
【0097】
本発明はまた、一部の実施形態の、miR-21の機能を阻害する核酸複合体または組成物をその必要がある被験体に投与することを含む、疾患の治療または予防方法を提供する。本発明の対象となる疾患としては、がん、アルポート症候群、心筋肥大、心繊維症、全身性エリテマトーデス(SLE)などが挙げられる。がんの例としては、肝細胞がん、肺がん、卵巣がん、頭頸部がん、大腸がん、肺がん、肝細胞がん、脳腫瘍、食道がん、前立腺がん、膵臓がん、甲状腺がんなどが挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0099】
以下の実施例1〜10で用いるオリゴヌクレオチドの配列を表1にまとめて示す。全てのオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
【0100】
【表1】
【0101】
[実施例1]
(miR-122を標的とする二本鎖核酸複合体の、miR-122抑制効果)
一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。具体的には、一実施形態の二本鎖剤であるヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド-アンチセンスmiRNA(heteroduplex oligonucleotide-antimiR、以下「HDO-antimiR」と称する)のマイクロRNA抑制効果を、従来の一本鎖LNA/DNAミックスマー型のマイクロRNA抑制薬(以下「antimiR」と称する)を対照として用いて評価した。
【0102】
実施例1で対照として用いたantimiRは、マウスマイクロRNA-122(miR-122)(配列番号1)の2〜16位に相補的な15merのLNA/DNAミックスマー(オリゴヌクレオチド名: LNA/DNA antimiR-122)とした。このLNA/DNAミックスマーを構成するヌクレオシドは、8個のLNAヌクレオシドおよび7個の天然デオキシリボヌクレオシドとした。このLNA/DNAミックスマーは、これらのヌクレオシドがホスホロチオエート結合を介して結合することによって形成されたオリゴヌクレオチドである。このLNA/DNAミックスマーは、最大2個連続したLNAヌクレオシドおよび最大2個連続したDNAヌクレオシドを有する(図3a)。
【0103】
二本鎖剤「HDO-antimiR」は、上記のLNA/DNAミックスマー(第1の核酸鎖)と、第1の核酸鎖に完全に相補的な第2の核酸鎖(第1の核酸鎖にアニールする相補鎖;オリゴヌクレオチド名: antimiR-122 cRNA(6OM 6PS))とからなり、二本鎖構造を形成する(図3b)。第2の核酸鎖を構成するヌクレオシドは、5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシド、3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシド、およびそれらの間に位置する9個の天然リボヌクレオシドとした。第2の核酸鎖のヌクレオシド間結合は、5'末端から3個のホスホロチオエート結合、3'末端から3個のホスホロチオエート結合、およびそれら以外の位置におけるホスホジエステル結合とした。
【0104】
実施例1で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図3に示す。
【0105】
第1の核酸鎖と第2の核酸鎖とを等モル量で混合した溶液を、95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールさせて上記の二本鎖剤(二本鎖核酸複合体)を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0106】
体重20〜25gの4週齢の雌のICRマウス(日本チャールスリバー社)を使用した。それぞれの核酸剤を、マウス(n=5)に尾静脈を通じて23.56nmol/kgの量で静脈内注射した。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して肝臓を摘出した。
【0107】
摘出した肝臓から、マイクロRNAを含む全RNAを、MagNA Pure 96 Cellular RNA Large Volume Kit(Roche)を用いてMagNA Pure 96システム(Roche)によりプロトコルに従って抽出した。TaqMan MicroRNA Assays(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific))を使用してプロトコルに従って、RNAからcDNAを合成し、合成したcDNAを用いて定量RT-PCRを行った。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(旧ライフ・テクノロジーズ社(Life Technologies Corp))によって設計および製造された製品であった。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、miR-122の発現量を、U6(内部標準遺伝子)の発現量で除算し、得られた値について、各群の平均値および標準誤差を算出した。PBS投与群の平均値が1となるように、各群の相対的miR-122レベルを算出した。各群の結果を比較し、さらにボンフェローニ検定によって評価した。
(結果)
実施例1の結果を図4のグラフに示す。一本鎖antimiRおよび二本鎖剤HDO-antimiRは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、miR-122レベルを抑制した。本発明の一実施形態に係る二本鎖HDO-antimiRは、一本鎖antimiRよりも統計的に有意にmiR-122レベルを抑制した。
【0108】
この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体は、従来の一本鎖ミックスマー型アンチセンス核酸と比べて、高いアンチセンス効果(標的miRNAレベルの抑制)をもたらすことが示された。
[実施例2]
(50%有効量分析)
一実施形態に係る二本鎖核酸剤について、50%のマイクロRNA抑制を達成する投与量(50%有効量、Effective dose 50%(ED50))を評価した。実施例1で用いた二本鎖HDO-antimiRを、一本鎖antimiRと比較して評価した。
【0109】
実施例1で用いた一本鎖antimiRを、5.9、23.6、58.9または117.8nmol/kgの量でマウス(n=5)に尾静脈を通じて投与した。また、実施例1で用いた二本鎖HDO-antimiRを、0.04、0.59、5.9、または23.6nmol/kgの量でマウス(n=5)に尾静脈を通じて投与した。陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0110】
実施例1に記載したように、マウス肝臓の抽出、肝臓からのRNAの抽出、cDNA合成および定量RT-PCRにより、肝臓における相対的miR-122レベルを算出した。投与量および相対的miR-122レベルの値から、Prism version 6.05(GraphPad Software)を用いて各核酸剤のED50値を算出した。
(結果)
投与量および相対的miR-122レベルの関係を図5のグラフに示す。一本鎖antimiRのED50値は9.46nmol/kgであったのに対し、二本鎖HDO-antimiRのED50値は0.63nmol/kgであり、二本鎖HDO-antimiRが、一本鎖antimiRと比較して、約15倍の抑制効果の向上を示したことが示された。この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体は、従来の一本鎖ミックスマー型アンチセンス核酸と比べて、非常に強く、濃度依存的に、標的miRNAを抑制できることが示された。
[実施例3]
(標的miRNAへの結合能の評価)
一実施形態に係る二本鎖核酸剤のmiRNA抑制効果向上の機序を検証する実験を行った。従来の一本鎖剤のmiRNA抑制薬は、miRNAのプロセッシング過程後の最終産物である成熟miRNAに直接結合して機能を阻害することが知られている。成熟miRNAに対するプローブを用いたノーザンブロット法によって、成熟標的miRNAへの二本鎖剤の結合能を、一本鎖剤と比較して評価した。
【0111】
実施例1に記載したように、一本鎖剤antimiRまたは二本鎖剤HDO-antimiRをマウスに投与し、マウスから肝臓を摘出し、肝臓からRNAを抽出した。一本鎖剤投与群および二本鎖剤投与群からの全RNA(30μg)を、各レーンにロードし、18%ポリアクリルアミド/尿素ゲル上で電気泳動によって分離した。化学合成した成熟miR-122、および成熟miR-122と実施例1で用いたantimiRとを予め加熱および冷却処理して調製した二重鎖を、サイズマーカーとして別のレーンに含めた。電気泳動後のゲルを、Hybond-N+メンブレン(GEヘルスケア社(旧アマシャム・バイオサイエンス社(Amersham Biosciences))に転写した。このメンブレンに、成熟miR-122を認識するプローブ(miRCURY LNA Detection Probe、Exiqon)または内部標準U6小分子RNAを認識するプローブ(5'-TGGTGCGTATGCGTAGCATTGGTATTCA-3'、配列番号3)をハイブリダイズさせ、Gene Images CDP-star Detection Kit(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。
(結果)
実施例3の結果を図6に示す。一本鎖antimiR投与群から得られたRNAにおいて、多くの成熟miR-122は一本鎖のまま残存しており、成熟miR-122の一部のみがantimiRと結合していた。一方、二本鎖HDO-antimiR投与群から得られたRNAでは、成熟miR-122のほぼ全てがアンチセンス鎖と結合して二重鎖を形成していることが示された。
【0112】
これらの結果から、miRNAのプロセッシング過程の最終産物である成熟miRNAに対して、二本鎖HDO-antimiRは、一本鎖antimiRと比較して、高い結合能を有することが示された。この結合能の向上が、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体による、標的miRNA抑制の向上をもたらすことが示された。
[実施例4]
(miR-122を標的とする二本鎖核酸複合体の、miR-122の下流標的遺伝子への脱抑制効果)
miR-122は、アルドラーゼA(ALDOA)および分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(BCKDK)mRNAの発現を抑制的に制御している(Elmen J et al., LNA-mediated microRNA silencing in non-human primates. Nature, 2008, 452(7189):896-899)。実施例1で用いた、miR-122を標的とするHDO-antimiRは、miR-122に結合してその機能を阻害し、結果的に、ALDOAおよびBCKDK mRNAの発現量は増加する(すなわち脱抑制される)ことが予測される。実施例1で用いた、miR-122を標的とするHDO-antimiRによる、ALDOAおよびBCKDK mRNAの発現量に対する脱抑制効果を評価した。ALDOA発現量と相関がある総血清コレステロール値も評価した(Elmen J et al., 上掲)。
【0113】
実施例1で用いた対照一本鎖剤antimiRおよび二本鎖剤HDO-antimiRを使用した。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0114】
それぞれの核酸剤を、マウス(n=5)に尾静脈を通じて0.14または0.35μmol/kgの量で静脈内注射した。注射は1週間に3回(0、3及び7日目に)行った。陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。最後の注射の168時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して肝臓を摘出した。注射時、最後の注射の168時間後、および肝臓組織を採取した際に血液を採取した。
【0115】
実施例1に記載したように、摘出した肝臓からRNAを抽出し、RNAからcDNAを合成し、合成したcDNAを用いて定量RT-PCRを行った。但し、定量RT-PCRでは、ALDOA、BCKDK、および内部標準遺伝子βActin(ActB)のmRNA量を定量した。得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、ALDOA mRNA発現量をβActin mRNA発現量で除算し、BCKDK mRNA発現量をβActin mRNA発現量で除算し、得られた値について、平均値および標準誤差を算出した。PBS投与群の平均値が1となるように、各群の相対的ALDOA mRNAレベルおよび相対的BCKDK mRNAレベルを算出した。各群の結果を比較し、さらにボンフェローニ検定によって評価した。
【0116】
総血清コレステロールの低下率(%)を、注射後0時間(注射時)の総血清コレステロール値から注射168時間後の総血清コレステロール値を減算し、得られた値を注射後0時間(注射時)の総血清コレステロール値で除算し、得られた値を100倍することによって算出した。各群の平均値および標準誤差を算出した。各群の結果を比較し、さらにボンフェローニ検定によって評価した。
(結果)
実施例4の結果を図7および8のグラフに示す。二本鎖剤HDO-antimiRは、一本鎖antimiRと比較して、miR-122の下流標的(ALDOAおよびBCKDK)mRNAの発現量の統計的に有意な上昇(すなわち下流標的遺伝子の脱抑制)を示した(図7aおよびb)。miR-122の下流標的(ALDOAおよびBCKDK)mRNAの発現量の上昇の程度は、用量0.35μmol/kgで、用量0.14μmol/kgよりも大きかった。
【0117】
また、二本鎖剤HDO-antimiRは、一本鎖antimiRと比較して、総血清コレステロール(ALDOA発現量と相関する)の統計的に有意な低下を示した(図8)。総血清コレステロールの低下の程度は、用量0.35μmol/kgで、用量0.14μmol/kgよりも大きかった。
【0118】
これらの結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体は、miRNAの下流標的遺伝子に対する脱抑制効果を用量依存的に示し、その効果は、一本鎖antimiRより高いことが示された。
[実施例5]
(二本鎖核酸複合体による肝毒性および腎毒性の評価)
一実施形態に係る二本鎖核酸剤による肝毒性および腎毒性を評価した。
【0119】
実施例4に記載したように、核酸剤をマウスに投与し、血液を採取した。肝毒性の指標として、注射168時間後の血清中のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の活性値、ならびに総ビリルビンを測定した。腎毒性の指標として、注射168時間後の血清中のBUN(尿素窒素)およびクレアチニン値を測定した。
(結果)
実施例5の結果を図9および10のグラフに示す。一本鎖antimiRと二本鎖HDO-antimiRはともに、AST、ALTおよび総ビリルビンに影響を与えず、肝毒性を示さなかった(図9a〜c)。
【0120】
一方、一本鎖antimiRを0.35μmol/kgで投与した群では、血清中BUNおよびクレアチニンはPBS群に比べて有意に上昇し、腎毒性を示した。しかし、二本鎖HDO-antimiRを投与した群では、用量0.35μmol/kgおよび0.14μmol/kgの両方において、血清中BUNおよびクレアチニンは上昇しなかった(図10aおよびb)。このことは、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体が、一本鎖antimiRで生じる腎毒性を改善することを示す。
[実施例6]
(miR-21を標的とする二本鎖核酸複合体の、miR-21の下流標的遺伝子への脱抑制効果)
実施例1〜5で標的としたmiR-122とは異なるマイクロRNAであるマイクロRNA-21(miR-21)を標的とする、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。具体的には、二本鎖核酸剤の、miR-21の下流標的遺伝子であるSpg20(Spastic Paraplegia 20)およびTaf7(TATA-Box Binding Protein Associated Factor 7) mRNAの発現に対する脱抑制効果を評価した。
【0121】
実施例6で対照として用いたantimiRは、マウスマイクロRNA-21(miR-21)(配列番号2)の2〜16位に相補的な15merのLNA/DNAミックスマー(オリゴヌクレオチド名: LNA/DNA antimiR-21)とした。このLNA/DNAミックスマーを構成するヌクレオシドは、8個のLNAヌクレオシドおよび7個の天然デオキシリボヌクレオシドとした。このLNA/DNAミックスマーは、これらのヌクレオシドがホスホロチオエート結合を介して結合することによって形成されたオリゴヌクレオチドである。このLNA/DNAミックスマーは、最大2個連続したLNAヌクレオシドおよび最大2個連続したDNAヌクレオシドを有する(図11a)。
【0122】
二本鎖剤「HDO-antimiR」は、上記のLNA/DNAミックスマー(第1の核酸鎖)と、第1の核酸鎖に完全に相補的な第2の核酸鎖(第1の核酸鎖にアニールする相補鎖;オリゴヌクレオチド名: antimiR-21 cRNA(6OM 6PS))とからなり、二本鎖構造を形成する(図11b)。第2の核酸鎖を構成するヌクレオシドは、5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシド、3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシド、およびそれらの間に位置する9個の天然リボヌクレオシドとした。第2の核酸鎖のヌクレオシド間結合は、5'末端から3個のホスホロチオエート結合、3'末端から3個のホスホロチオエート結合、およびそれら以外の位置におけるホスホジエステル結合とした。
【0123】
実施例6で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図11に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0124】
それぞれの核酸剤を、マウス(n=5)に尾静脈を通じて5または20nmol/kgの量で静脈内注射した。実施例1に記載したように、マウス肝臓の摘出、肝臓からのRNAの抽出、cDNA合成および定量RT-PCRを行った。但し、定量RT-PCRでは、Spg20、Taf7、および内部標準遺伝子βActin(ActB)のmRNA量を定量した。得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、Spg20 mRNA発現量をβActin mRNA発現量で除算し、Taf7 mRNA発現量をβActin mRNA発現量で除算し、得られた値について、各群の平均値および標準誤差を算出した。PBS投与群の平均値が1となるように、各群の相対的Spg20 mRNAレベルおよび相対的Taf7 mRNAレベルを算出した。各群の結果を比較し、さらにボンフェローニ検定によって評価した。
(結果)
実施例6の結果を図12のグラフに示す。二本鎖剤HDO-antimiRは、一本鎖antimiRと比較して、miR-21の下流標的(Spg20およびTaf7)mRNAの発現量の統計的に有意な上昇(すなわち下流標的遺伝子の脱抑制)を示した(図12)。miR-21の下流標的(Spg20およびTaf7)mRNAの発現量の上昇の程度は、用量20nmol/kgで、用量5nmol/kgよりも大きかった。
【0125】
これらの結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体の効果はmiR-122特異的ではなく、二本鎖核酸複合体は様々なmiRNAを標的とし得ることが示された。また、二本鎖核酸複合体は、miRNA下流標的遺伝子に対する脱抑制効果を用量依存的に示し、その効果は、一本鎖antimiRより高いことが示された。
[実施例7]
(リガンド分子を結合させた二本鎖核酸複合体)
miR-122を標的とし、ビタミンEリガンド分子(α-トコフェロール:Toc)を結合させた、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。α-トコフェロールを結合させた核酸剤は、肝臓へ効率的に送達されることが知られている(例えば国際公開第2013/089283号を参照)。
【0126】
対照は、実施例1で用いた、miR-122を標的とする従来の一本鎖剤(antimiR)、およびその5'末端にα-トコフェロールを結合させた一本鎖剤(Toc-antimiR)とした(図13aおよびb)。実施例1で用いた二本鎖剤(HDO-antimiR、図13c)、およびその第2の核酸鎖(LNA/DNAミックスマーである第1の核酸鎖と相補的な鎖)の5'末端にα-トコフェロールを結合させた二本鎖剤(Toc-HDO-antimiR、図13d)を用い、それらのmiR-122抑制効果を評価した。実施例7で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図13に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0127】
それぞれの核酸剤を、マウス(n=4)に尾静脈を通じて0.05μmol/kgの量で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1と同様である。
(結果)
実施例7の結果を図14のグラフに示す。トコフェロールを結合させた二本鎖剤Toc-HDO-antimiRは、一本鎖antimiRおよびToc-antimiRと比較して、統計的に有意なmiR-122発現抑制を示した。また、トコフェロールを結合させた二本鎖剤Toc-HDO-antimiRは、トコフェロールのない二本鎖剤HDO-antimiRと比較して、miR-122の発現を抑制する傾向を示した。この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体にリガンド分子を結合させることによって、標的miRNAに対する抑制効果が増加することが示された。
[実施例8]
(化学修飾の、二本鎖核酸複合体の活性に対する効果の評価)
第2の核酸鎖の化学修飾が異なる、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。
【0128】
対照は、実施例1で用いた、miR-122を標的とする従来の一本鎖LNA/DNAミックスマー(antimiR)とした(図15a)。このLNA/DNAミックスマー(第1の核酸鎖)と、第1の核酸鎖に相補的な、様々な化学修飾を有する第2の核酸鎖とからなる4種類の二本鎖剤のmiR-122抑制効果を評価した。以下の4種類の二本鎖剤を用いた:
第2の核酸鎖が未修飾(天然型RNA)である二本鎖剤(「HDO-antimiR (0OM 0PS)」、図15b);
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドを有する二本鎖剤(「HDO-antimiR (6OM 0PS)」、図15c);
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から3個のホスホロチオエート結合および3'末端から3個のホスホロチオエート結合を有する二本鎖剤(「HDO-antimiR (0OM 6PS)」、図15d);ならびに
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3個のホスホロチオエート結合を有し、かつ、3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3個のホスホロチオエート結合を有する二本鎖剤(「HDO-antimiR (6OM 6PS)」、図15e)。
【0129】
実施例8で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図15に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0130】
それぞれの核酸剤を、マウス(n=4)に尾静脈を通じて0.24μmol/kgの量で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1と同様である。
(結果)
実施例8の結果を図16のグラフに示す。二本鎖剤HDO-antimiR (6OM 0PS)は、一本鎖antimiRと比較して、miR-122の発現を抑制する傾向を示した。二本鎖剤HDO-antimiR (0OM 6PS)およびHDO-antimiR (6OM 6PS)は、一本鎖antimiRと比較して、miR-122の発現を統計的に有意に抑制した。この結果から、二本鎖核酸複合体の第2の核酸鎖が、修飾ヌクレオシド間結合(ホスホロチオエート結合)および/または糖修飾(2'-O-メチル修飾)ヌクレオシドを含む場合に、一本鎖剤と比較して、マイクロRNA抑制活性が増加することが示された。
[実施例9]
(化学修飾の、二本鎖核酸複合体の活性に対する効果のさらなる評価)
第2の核酸鎖の化学修飾が異なる、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験をさらに行った。
【0131】
対照は、実施例1で用いた、miR-122を標的とする従来の一本鎖LNA/DNAミックスマー(antimiR)とした(図17a)。このLNA/DNAミックスマー(第1の核酸鎖)と、第1の核酸鎖に相補的な、様々な化学修飾を有する第2の核酸鎖とからなる2種類の二本鎖剤のmiR-122抑制効果を評価した。以下の2種類の二本鎖剤を用いた:
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3個のホスホロチオエート結合を有し、かつ、3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシド3個のホスホロチオエート結合を有する二本鎖剤(「HDO-antimiR (6OM 6PS)」、図17b);ならびに
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドを有し、かつ、全てのヌクレオシド間結合がホスホロチオエート結合である二本鎖剤(「HDO-antimiR (6OM 14PS)」、図17c)。
【0132】
実施例9で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図17に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0133】
それぞれの核酸剤を、マウス(n=4)に尾静脈を通じて0.24μmol/kgの量で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1と同様である。
(結果)
実施例9の結果を図18のグラフに示す。二本鎖剤HDO-antimiR (6OM 6PS)およびHDO-antimiR (6OM 14PS)はともに、一本鎖antimiRと比較して、miR-122の発現を統計的に有意に抑制した。この結果から、全てのヌクレオシド間結合がホスホロチオエート結合である二本鎖核酸複合体が、標的miRNAを効率的に抑制できることが示された。
[実施例10]
(第2の核酸鎖の連続天然リボヌクレオシドの長さの、二本鎖核酸複合体の活性に対する効果の評価)
第2の核酸鎖の連続天然リボヌクレオシドの長さが異なる、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。
【0134】
miR-122を標的とする15塩基長の一本鎖LNA/DNAミックスマー(第1の核酸鎖)と、第1の核酸鎖に相補的な15塩基長の第2の核酸鎖とからなる3種類の二本鎖剤のmiR-122抑制効果を評価した。以下の3種類の二本鎖剤を用いた:
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から1個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび1個のホスホロチオエート結合を有し、かつ、3'末端から1個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび1個のホスホロチオエート結合を有する(第2の核酸鎖が13塩基長の連続天然リボヌクレオシドを有する)二本鎖剤(「HDO-antimiR (2OM 2PS)」、図19a);
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3個のホスホロチオエート結合を有し、かつ、3'末端から3個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび3個のホスホロチオエート結合を有する(第2の核酸鎖が9塩基長の連続天然リボヌクレオシドを有する)二本鎖剤(「HDO-antimiR (6OM 6PS)」、図19b);ならびに
第2の核酸鎖が、天然型RNAに対して5'末端から5個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび5個のホスホロチオエート結合を有し、かつ、3'末端から5個の2'-O-メチルリボヌクレオシドおよび5個のホスホロチオエート結合を有する(第2の核酸鎖が5塩基長の連続天然リボヌクレオシドを有する)二本鎖剤(「HDO-antimiR (10OM 10PS)」、図19c)。
【0135】
実施例10で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図19に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0136】
それぞれの核酸剤を、マウス(n=4)に尾静脈を通じて5.9または23.6nmol/kgの量で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1と同様である。
(結果)
実施例10の結果を図20のグラフに示す。HDO-antimiR (10OM 10PS)は最も効率的にmiR-122を抑制し、HDO-antimiR (6OM 6PS)およびHDO-antimiR (2OM 2PS)もmiR-122を抑制した(図20)。この結果から、第2の核酸鎖が様々な長さの連続天然リボヌクレオシドを有する場合に、標的miRNAが大きく抑制されることが示された。
【0137】
特に、連続天然リボヌクレオシドの長さが短くなるほど、miRNA抑制活性が増大する傾向が示された。本出願人は、転写産物にハイブリダイズする第1の核酸鎖と、RNaseHによって切断される第2の核酸鎖とを含む二本鎖核酸複合体を用いて、細胞内の転写産物レベルを低減することを以前記載している(国際公開第2013/089283号を参照)。従来の知見に基づけば、第2の核酸鎖がRNaseによる分解に感受性の天然リボヌクレオシドを多数(例えば、連続7個以上)有することが、二本鎖核酸複合体が機能する上で有利に働くと予想される。しかし、本発明では、実施例10の結果に示されるように、連続天然リボヌクレオシドの長さは5塩基長で十分であり、むしろ、連続天然リボヌクレオシドの長さが短いほど活性が増加する傾向が示された。この結果は、国際公開第2013/089283号などに記載される従来の知見に基づくと、予想外であるといえる。
[実施例11]
以下の実施例11〜14で用いるオリゴヌクレオチドの配列を表2にまとめて示す。全てのオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
【0138】
【表2】
【0139】
第2鎖の中央部にある未修飾RNAの鎖長が異なる、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を、実施例10よりさらに詳細に検討を行った。
【0140】
中央部の未修飾RNAが13塩基長「HDO-antimiR (2OM 2PS)、図21a」、11塩基長「HDO-antimiR (4OM 4PS)、図21b」、9塩基長「HDO-antimiR (6OM 6PS)、図21c」、7塩基長「HDO-antimiR (8OM 8PS)、図21d」、5塩基長「HDO-antimiR (10OM 10PS)、図21e」、3塩基長「HDO-antimiR (12OM 12PS)、図21f」、1塩基長「HDO-antimiR (14OM 14PS)、図21g」であり、その他はホスホロチオエート結合を含む2'-O-メチルリボヌクレオシドである2本鎖剤として用いて比較検討した。実施例11で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表2および図21に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。標的は実施例1と同じmiR-122とした。実施例11で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および図21に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.24μmol/kgの量(n=5)で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1に記載した方法と同様である。
(結果)
実施例の結果は、図22のグラフに示される。2本鎖剤のHDO-antimiR (2OM 2PS)、HDO-antimiR (4OM 4PS)、HDO-antimiR (6OM 6PS)、HDO-antimiR (8OM 8PS)、HDO-antimiR (10OM 10PS)、HDO-antimiR (12OM 12PS)、HDO-antimiR (14OM 14PS)は1本鎖antimiRよりもmiR-122の発現を統計的に有意に抑制していた。特に中央部の未修飾RNAが5塩基長である「HDO-antimiR (10OM 10PS)」においてmiR-122抑制効果が最も高く、第2鎖の中央部の未修飾RNAの鎖長は最適な鎖長が存在することが明らかとなった。
[実施例12]
第2鎖の第1鎖への結合能力が異なる、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。
【0141】
実施例8で使用した「HDO-antimiR (0OM 6PS)」を2本鎖剤の基準として、第2鎖の第1鎖への結合能力を低下させた2本鎖剤として、第2鎖中に第1鎖と非相補配列(mismatch)を有する3種の2本鎖剤を合成した。つまり、第2鎖の5’末端、中央、3’末端にmismatchを3塩基ずつ有する2本鎖剤をそれぞれ「HDO-antimiR (5’ mismatch)、図23a」、「HDO-antimiR (center mismatch)、図23b」、「HDO-antimiR (3’ mismatch)、図23c」として合成した。また、第2鎖の第1鎖への結合能力を上昇させた2本鎖剤として、第2鎖中にLNA修飾を有した3種の2本鎖剤を合成した。つまり、第2鎖の5’末端、中央、3’末端にLNAを3塩基ずつ有する2本鎖剤をそれぞれ「HDO-antimiR (5’ LNA)、図23d」、「HDO-antimiR (center LNA)、図23e」、「HDO-antimiR (3’ LNA)、図23f」として合成した。標的は実施例1と同じmiR-122とした。実施例12で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表2および図23に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて5.9nmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1に記載した方法と同様である。
(結果)
実施例の結果は、図24のグラフに示される。7種の2本鎖剤全てが1本鎖antimiRよりもmiR-122の発現を統計的に有意に抑制していた。第2鎖の第1鎖への結合能力を低下又は上昇させたいずれの2本鎖剤でも高いmiR-122抑制効果を示していることから、結合能力の差によるmiR抑制効果への影響は少ないことが明らかとなった。
[実施例13]
第2鎖がRNAとは異なるDNAであり、かつRNAで構成されるバルジ領域を有する、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。
【0142】
実施例8で使用した「HDO-antimiR (0OM 6PS)」を2本鎖剤の基準として、第2鎖をDNAとした2種の2本鎖剤を合成した。つまり、第2鎖を全てDNAとした「HDO-cDNA、図25a」、さらに第2鎖を全てDNAとしかつバルジ領域を含む「HDO-cDNA buldge、図25b」を合成した。標的は実施例1と同じmiR-122とした。実施例13で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表2および図25に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて5.9nmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびmiR-122発現解析方法は実施例1に記載した方法と同様である。
(結果)
実施例の結果は、図26のグラフに示される。3種の2本鎖剤全てが1本鎖antimiRよりもmiR-122の発現を統計的に有意に抑制していた。第2鎖をRNAからDNAに置換させたいずれの2本鎖剤でも高いmiR抑制効果を示していることが明らかとなった。
[実施例14]
肝臓以外の臓器における、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。具体的には実施例6で用いたmiR-21を標的とする、一実施形態に係る二本鎖核酸剤の有用性をmiR-21の下流標的遺伝子であるTaf7 mRNAの発現に対する脱抑制効果を脾臓、副腎で検証するin vivo実験を行った。
【0143】
実施例6で使用した「anti-miR」、及び「HDO-antimiR」を合成した。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて1.98μmol/kg、または7.93μmol/kgの量 (n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびTaf7 mRNA発現解析方法は実施例6に記載した方法と同様である。
(結果)
実施例の結果は、図27のグラフに示される。脾臓及び副腎の両方において、miR-21の下流標的Taf 7 mRNAの発現レベルの上昇の程度は、2本鎖剤は1本鎖剤よりもどちらの用量においても大きく、7.93μmol/kgにおいては統計的に有意であった。この結果より、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体の効果は肝特異的ではなく、様々な臓器を標的とし得ることが示された。
【0144】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21-1】
図21-2】
図22
図23-1】
図23-2】
図24
図25
図26
図27
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]