特許第6974892号(P6974892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974892癌悪液質の改善剤および癌悪液質の改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6974892
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】癌悪液質の改善剤および癌悪液質の改善方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20211118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   A61K35/32
   A61P35/00
   A61P3/00
   A61P7/00
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2021-88875(P2021-88875)
(22)【出願日】2021年5月27日
【審査請求日】2021年6月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520233113
【氏名又は名称】デクソンファーマシューティカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特表2019−514416(JP,A)
【文献】 特表2019−535691(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0133258(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0258843(US,A1)
【文献】 特開2016−065106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/12 − 35/55
A61P 35/00
A61P 3/00
A61P 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物であり、
前記培養上清が、前記歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む、癌悪液質の改善剤。
【請求項2】
癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、
歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物であり、
前記組成物が、前記培養上清から前記微小粒子を除いたものを含まない、癌悪液質の改善剤。
【請求項3】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1または2に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項4】
癌悪液質を発症した対象の体重減少を治療するための用途である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項5】
前記対象の体重減少が過去14日間に2%以上である、請求項4に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項6】
癌悪液質を発症した対象の貧血を治療するための用途である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項7】
癌悪液質を発症した対象の赤血球数、ヘモグロビン値およびヘマトクリット値の減少を抑制するための用途である、請求項6に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項8】
癌悪液質を発症した対象の血中のIL−6濃度およびTFN−α濃度の増加を抑制するための用途である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項9】
前記癌悪液質の改善剤を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、前記癌悪液質を発症した対象に投与する用途である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤。
【請求項10】
有効量の請求項1〜9のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤を、癌悪液質を発症した対象に投与することを含み、
前記癌悪液質を発症した対象が、ヒト以外の動物である、癌悪液質の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌悪液質の改善剤および癌悪液質の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌性食欲不振−悪液質症候群(CACS)と呼ばれることが多い癌悪液質は、癌の末期における多因子性症状である。癌悪液質の症状は、特に体重減少であり、その他に低栄養状態、貧血などが挙げられる。
癌の末期における悪液質を治療する方法として、生存期間を延ばせなくても、これらの症状を改善または緩和することにより生存期間におけるQOL(クオリティオブライフ)やADL(日常生活動作;activities of daily living)をできる限り高めることが求められている。
【0003】
悪液質を治療する方法として、特許文献1には、治療有効量のアナモレリンを治療有効期間にわたって1日1回ヒト癌患者に投与することを含む、患者の悪液質を治療する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019−535691号公報
【特許文献2】特表2019−514416号公報
【特許文献3】特開2018−154655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、アナモレリン以外の物質を用いて悪液質の治療をする方法が検討されている。特許文献1には、その他に酢酸メゲストロール、メラトニン、オスタリンなどの低分子化合物を用いて悪液質の治療をすることが記載されている。また、特許文献2および3には、間葉系幹細胞から分泌される細胞外小胞を含む医薬組成物が開示されており、適用される疾患として悪液質が例示されている(特許文献2の請求項6、特許文献3の[0210]など)。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、新規な癌悪液質の改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、歯髄由来幹細胞の培養上清、または培養上清に由来するエクソソーム等の微小粒子が、癌悪液質モデルマウスの悪液質の諸症状を改善できることを見出した。
【0008】
なお、歯髄由来幹細胞の悪液質に対する影響は特許文献2および3には記載されていない。特許文献2の実施例では、[0227]にDP−MSC(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)は、効果は低いが、UC−(臍帯由来の幹細胞)およびCH−MSC(胎盤繊毛膜由来の幹細胞のエクソソーム)と同様に挙動すると記載がある程度であり、歯髄由来幹細胞を用いて悪液質の検討をした実施例はなかった。特許文献3には、歯髄由来幹細胞の培養上清から得られたエクソソームを用いた実施例はなかった。
具体的に、本発明および本発明の好ましい構成は、以下のとおりである。
【0009】
[1] 癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物である、癌悪液質の改善剤。
[2] 癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、
歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物であり、
組成物が、培養上清から微小粒子を除いたものを含まない、癌悪液質の改善剤。
[3] 微小粒子がエクソソームである、[2]に記載の癌悪液質の改善剤。
[4] 癌悪液質を発症した対象の体重減少を治療するための用途である、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の癌悪液質の改善剤。
[5] 対象の体重減少が過去14日間に2%以上である、[4]に記載の癌悪液質の改善剤。
[6] 癌悪液質を発症した対象の貧血を治療するための用途である、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の癌悪液質の改善剤。
[7] 癌悪液質を発症した対象の赤血球数、ヘモグロビン値およびヘマトクリット値の減少を抑制するための用途である、[6]に記載の癌悪液質の改善剤。
[8] 癌悪液質を発症した対象の血中のIL−6濃度およびTFN−α濃度の増加を抑制するための用途である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤。
[9] 癌悪液質の改善剤を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、癌悪液質を発症した対象に投与する用途である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤。
[10] 有効量の[1]〜[9]のいずれか一項に記載の癌悪液質の改善剤を、癌悪液質を発症した対象に投与することを含む、癌悪液質の改善方法。
[11] 癌悪液質を発症した対象が、ヒト以外の動物である、[10]に記載の癌悪液質の改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な癌悪液質の改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、癌悪液質モデルマウスに対してサンプルを投与して癌悪液質の改善を評価するための実験プロトコルの概略図である。
図2図2は、癌悪液質モデルマウスに対して実施例1および2の癌悪液質の改善剤または比較例のサンプル(生理食塩水)を投与した場合の、処置日からの日数と体重(%対コントロールとして用いる正常マウス)との関係を示したグラフである。
図3図3は、正常マウスの場合と、癌悪液質モデルマウスに対して実施例1および2の癌悪液質の改善剤または比較例のサンプル(生理食塩水)を投与した場合における、血液中IL−6濃度を示したグラフである。
図4図4は、正常マウスの場合と、癌悪液質モデルマウスに対して実施例1および2の癌悪液質の改善剤または比較例のサンプル(生理食塩水)を投与した場合における、血液中TFN−α濃度を示したグラフである。
図5図5は、正常マウスの場合と、癌悪液質モデルマウスに対して実施例1および2の癌悪液質の改善剤または比較例のサンプル(生理食塩水)を投与した場合の、処置日からの日数と生存率との関係を示したグラフである。
図6図6は、正常マウスの場合と、癌悪液質モデルマウスに対して実施例2の癌悪液質の改善剤の投与量を1.25倍とした場合または比較例のサンプル(生理食塩水)を投与した場合の、処置日からの日数と生存率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[癌悪液質の改善剤]
本発明の癌悪液質の改善剤の第1の態様は、癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物である。
本発明の癌悪液質の改善剤の第2の態様は、癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物であり、組成物が、培養上清から微小粒子を除いたものを含まないものである。
本発明の癌悪液質の改善剤は、癌悪液質の改善効果を高くする観点からは、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物であることがより好ましく、歯髄由来幹細胞の培養上清であることが特に好ましい。
以下、本発明の癌悪液質の改善剤の好ましい態様を説明する。
【0014】
<癌悪液質の定義>
癌悪液質は、癌を発症した対象の悪液質を意味する。なお、本発明の癌悪液質の改善剤は、癌悪液質を改善するものであるが、癌悪液質以外の悪液質を改善できてもよい。
「悪液質」は、本発明の主要な実施態様又は下位実施態様のいずれかにおける様々な方法によって定義することができる。特に、以下の定義のいずれかを用いることができる:
(1)食欲不振、早期満腹感、体重減少、筋肉疲労、低栄養状態、貧血、及び浮腫の1つ又はこれらの組合せを特徴とする臨床的症候群であるが、好ましくはこれらの症状の3つ、4つ、5つ又は全てによって定義される臨床的症候群。
(2)過去6ヶ月間に5%以上の体重減少、及び/又は20kg/m未満の体格指数。
(3)BMI<20で、過去3又は6ヶ月間に2%を上回る体重減少。
(4)サルコペニアと一致する四肢骨格筋指数(男性<7.26kg/m;女性<5.45kg/m)では、過去3又は6ヶ月間に体重減少>2%。
(5)重度の体重、脂肪、及び筋肉の減少、並びに基礎疾患に起因するタンパク質異化の増加を特徴とする多因子症候群。
体重減少に関し、本発明の癌悪液質の改善剤が、癌悪液質を発症した対象の体重減少を治療するための用途である場合、対象の体重減少が過去14日間に2%以上である対象を治療できることが好ましい。
早期満腹感は、食事を摂取する際に早期に膨満感又は満腹感を経験する傾向を指す。
疲労は、一般に、疲労感(feeling of weariness)、疲れ(tiredness)、又はエネルギー不足と定義される。疲労はまた、疲労感、疲れ、又はエネルギー不足を順位付けするように設計された質問を含む、様々な評価又は自己評価に関する患者スコアの観点から定義することもできる。具体的な評価は、27項目の一般的癌治療の機能的評価(Functional Assessment of Cancer Therapy −General)(FACT−G)と、0〜4にスコア化され、疲労及び貧血関連の懸念に対する患者の認識を測定することができる、13の質問からなる疲労サブスケール(Fatigue Subscale)を含有するFACIT−Fとを含む。
【0015】
<癌悪液質の症状の改善>
本発明では、癌悪液質の症状の中でも特に、体重減少、低栄養状態、貧血の改善をできることが好ましい。これらの症状を改善することにより、生存期間におけるQOL、ADLを高めることが求められている。特に、癌悪液質を発症した対象が末期癌である場合、死亡する間際まで体重減少、低栄養状態、貧血を抑制、緩和またはコントロールしつつ、安らかに死期を迎えられることが好ましい。
以下、癌悪液質の改善剤の作用機序とあわせて説明する。
【0016】
<癌悪液質の改善剤の作用機序>
(血液中サイトカインの抑制)
血液中サイトカインの抑制により、悪液質の症状の中でも、体重減少、貧血、低栄養状態が改善される。
サイトカインとは、炎症反応と免疫応答に関与するタンパク質の総称であり、数百種類以上知られている。サイトカインは、それぞれ多彩な活性を有し、それらがバランス良く協調的に相互作用することで生体機能を維持または調節している。通常は感染症などに対する免疫応答によりサイトカインが産生・放出されるが、癌悪液質では腫瘍細胞からのサイトカインの産生・放出が無秩序になって血液中の複数種類のサイトカイン濃度が異常上昇する。特に癌悪液質の病態に炎症性サイトカインが関与し、特にIL−1、IL−6、TNFα、IFN−γが重要である。その他に抑制されるべきサイトカインの例としては、IL−2、IL−4、IL−10、IL−17、IL−18、MIG、MIP−1αなどが挙げられる。腫瘍細胞から放出されたサイトカインは、腫瘍局所の炎症反応の促進を通して宿主の免疫・炎症細胞を活性化し、いわゆるサイトカインストームを引き起こす。癌悪液質では骨格筋の減少による体重減少の病態が特徴的である。
【0017】
IL−1は、炎症や感染防御に関与する炎症性サイトカインである。
IL−2は、細胞の免疫に関与するサイトカインである。IL−2の過剰発現は、T細胞のサブセットである制御性T細胞(Treg)の選択的増加につながる。Tregは、他の細胞の免疫応答を抑制することにより末梢性寛容を維持する作用を発揮している。末梢性寛容の破綻はヒトにおいて自己免疫疾患を引き起こすと考えられている。したがって、Tregの免疫抑制能は自己免疫疾患の発症を防いでいると考えられている。また、Tregはがんにも関与しており、充実性腫瘍および血液悪性腫瘍はTreg数の増加を伴う(特開2020−002154号公報の[0007]参照)。
IL−4は、ヘルパーT細胞からTh2(ヘルパーT2型)サブセットへの分化に関与する非重複サイトカインであり、Th2は未熟B細胞からIgE産生形質細胞への分化を促進する。IgEレベルはアレルギー性喘息において上昇する。したがって、IL−4はアレルギー性喘息の発症に関連する(特開2020−002154号公報の[0008]参照)。
IL−6は、B細胞分化因子;B細胞刺激因子−2;肝細胞刺激因子;ハイブリドーマ増殖因子;および形質細胞腫増殖因子である。IL−6は代表的な炎症性サイトカインであり、また、急性炎症応答の制御、BおよびT細胞分化を含む特定の免疫応答の調節、骨代謝、血小板産生、上皮増殖、月経、神経細胞分化、神経保護、加齢、癌、アルツハイマー病において起こる炎症反応などに関与する多機能サイトカインである。IL−6は、疲労、悪液質、自己免疫疾患、骨格系の疾患、癌、心臓疾患、肥満、糖尿病、喘息、アルツハイマー病および多発性硬化症を含む、多数の疾患および障害の発展に役割を果たすと考えられている(特開2019−047787号公報の[0002]〜[0005]参照)。
IL−10は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞で産生される160アミノ酸残基のホモ二量体のタンパク質である。IL−10は、マクロファージ機能抑制、B細胞活性化などに関与することが知られている(再表2018/212237号公報の[0052]参照)。また、抗炎症性サイトカインである。
IL−17は、CD4記憶T細胞、Th17細胞で産生される132アミノ酸残基のタンパク質である。IL−17は、マクロファージ、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞からの炎症性サイトカイン産生などに関与することが知られている(再表2018/212237号公報の[0053]参照)。
IL−18は、ウイルス感染やがん活性酸素などにより、強いストレスが細胞にかかると放出される。
IFN(インターフェロン)は、ウイルス複製の阻害、免疫細胞(例えばナチュラルキラー細胞及びマクロファージなど)を活性化する機能などを有する。IFNはI型IFN、II型IFN、及びIII型IFNに分けられる。その中でもII型IFNであるIFNγは、活性化した免疫細胞により産生される多面的サイトカインであり、マクロファージ活性の増加、MHC分子の発現の増加、およびNK細胞活性の増加などの細胞応答を誘発することができる(特表2020−522254号公報の[0209]参照)。
TNF(Tumor Necrosis Factor;腫瘍壊死因子)は、代表的な炎症性サイトカインである。TNFとして、TNFα、TNFβおよびLTβが知られている。この中でもTNFαは二次リンパ器官の構造的および機能的組織化、アポトーシスおよび抗腫瘍活性、ウイルス複製の阻害、免疫調節ならびに炎症を含めたいくつもの重要な生活機能を媒介する。TNFはまた、自己免疫疾患の病理発生、急性期反応、敗血症性ショック、発熱および悪液質においても重要な役割を果たす(特開2020−079306号公報の[0004]参照)。
MIGは、1型免疫応答をつかさどるサイトカインである。マクロファージや上皮細胞、血管内皮細胞などから産生され、Th1細胞やCD8T細胞、一部のマクロファージなどを炎症部位に遊走させる。
MIP−1αは、マクロファージや線維芽細胞、上皮細胞、血管平滑筋細胞などから炎症に応じて産生されるサイトカインである。
これらの中でも、本発明の癌悪液質の改善剤は、癌悪液質を発症した対象の血中のIL−6濃度およびTFN−α濃度の増加を抑制するための用途であることが好ましい。
【0018】
(血液中の血球などの量の改善)
本発明の癌悪液質の改善剤は、血液中の血球などの量の改善をできることが好ましく、赤血球数、ヘモグロビン値(血色素数)、血小板数、ヘマトクリット値の改善をできることがより好ましい。本発明の癌悪液質の改善剤は、癌悪液質を発症した対象の赤血球数、ヘモグロビン値およびヘマトクリット値の減少を抑制するための用途であることが特に好ましい。これらを改善することにより、低栄養状態、貧血が改善される。
【0019】
(癌のタイプ)
本発明の癌悪液質の改善剤は、任意のタイプの癌において実施することができるが、これらの方法の各々は好ましくは、一般に癌悪液質に伴うタイプの癌において実施される。関連のある癌の非限例には、例えば、乳癌、前立腺癌、多発性骨髄腫、移行細胞癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(NSCLC))、腎癌、甲状腺癌、及び副甲状腺機能亢進症を引き起こす他の癌、腺癌、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性リンパ球性白血病)、リンパ腫(例えば、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、腸癌、結腸直腸癌、直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、胆管癌、胆嚢癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、子宮頸癌、膀胱癌、神経芽細胞腫、肉腫、骨肉腫、悪性黒色腫、扁平上皮癌、原発性骨癌(例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、アダマンチノーマ、巨細胞腫、及び脊索腫)と続発性(転移性)骨癌の両方を含む骨癌、軟部組織肉腫、基底細胞癌、血管肉腫(angiosarcoma)、血管肉腫(hemangiosarcoma)、粘液肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫(骨原性肉腫)、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、精巣癌、子宮癌、消化管癌、中皮腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、Waldenstromaマクログロブリン血症、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、気管支癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、上皮癌、神経膠腫、神経膠芽細胞腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、網膜芽細胞腫、髄様癌、胸腺腫などが含まれる。好ましい実施態様において癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)、さらに好ましくは切除不能なIII期又はIV期のNSCLCである。
【0020】
<癌悪質液の改善剤の成分>
本発明の癌悪液質の改善剤の有効成分は、歯髄由来幹細胞の培養上清であり、または歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子である。
【0021】
本発明の癌悪液質の改善剤は、従来の癌悪液質の改善剤として用いることができる組成物と比較して、大量生産しやすい、従来は産業廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞の培養上清が、ヒト歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の癌悪液質の改善剤をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞の培養上清が、癌悪液質の患者からの歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の癌悪液質の改善剤をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の癌悪液質の改善剤は、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来するため、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、歯髄由来幹細胞の培養上清またはそれに由来する微小粒子を用いた組成物により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の癌悪液質の改善剤を用いた場合は細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、本発明の癌悪液質の改善剤は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0022】
(歯髄由来幹細胞の培養上清)
−歯髄由来幹細胞−
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0023】
歯髄由来幹細胞は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する本発明の癌悪液質の改善剤投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
【0024】
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−ベータ(TGF−β)−1および−3、TGF−α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くのタンパク質が含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を用いることが好ましい。
【0025】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2−(5−ベンゾ[1,3]ジオキソール−4−イル−2−tert−ブチル−1H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジン、3−(6−メチルピリジン−2−イル)−4−(4−キノリル)−1−フェニルチオカルバモイル−1H−ピラゾール(A−83−01)、2−[(5−クロロ−2−フルオロフェニル)プテリジン−4−イル]ピリジン−4−イルアミン(SD−208)、3−[(ピリジン−2−イル)−4−(4−キノニル)]−1H−ピラゾール、2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA−83−01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y−27632、H−1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY−27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK−3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO−acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase−ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI−1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86−9766)、SL327、U0126−EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0026】
本発明の癌悪質液の改善剤を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清や、それに由来する微小粒子を含む組成物は、歯髄由来幹細胞等以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。本発明の癌悪質液の改善剤は、歯髄由来幹細胞等以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
本発明の癌悪質液の改善剤は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
【0027】
−歯髄由来幹細胞の培養上清の調製方法−
歯髄由来幹細胞またはこの不死化幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞を培養して得られる培養液である。例えば歯髄由来幹細胞の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0028】
歯髄由来幹細胞の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
【0029】
なお、「歯髄由来幹細胞等の培養上清」は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞を含まず、歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0030】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を得ることができる。
【0031】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞の種類に応じた歯髄由来幹細胞の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞の培養には、エクソソームを多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0032】
本発明でエクソソームの調製に用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0033】
(微小粒子)
微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落する。そのため、微小粒子は、歯髄由来幹細胞の培養上清に含まれる。
歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子は、培養上清に含まれた状態で用いてもよく、または培養上清から精製した状態で用いてもよい。微小粒子が培養上清から精製された微小粒子であることが好ましい。
微小粒子の由来は、公知の方法で判別することができる。例えば、微小粒子は、J Stem Cell Res Ther (2018) 8:2に記載の方法で、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞などのいずれの幹細胞に由来するか判別することができる。具体的には、微小粒子のmiRNAパターンに基づいて、それぞれの微小粒子の由来を判別することができる。
【0034】
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10〜1000nmであることが好ましく、30〜500nmであることがより好ましく、50〜150nmであることが特に好ましい。
また、微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明に用いられる微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0035】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0036】
−微小粒子の含有量−
本発明の癌悪液質の改善剤は、微小粒子の含有量は特に制限はない。本発明の癌悪液質の改善剤は、微小粒子を0.5×10個以上含むことが好ましく、1.0×10個以上含むことがより好ましく、2.0×10個以上含むことが特に好ましく、2.5×10個以上含むことがより特に好ましく、1.0×10個以上含むことがさらにより特に好ましい。
また、本発明の癌悪液質の改善剤は、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。本発明の癌悪液質の改善剤は微小粒子を1.0×10個/mL以上含むことが好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがより好ましく、4.0×10個/mL以上含むことが特に好ましく、5.0×10個/mL以上含むことがより特に好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがさらにより特に好ましい。
本発明の癌悪液質の改善剤の好ましい態様は、微小粒子をこのように多量または高濃度で含むことにより、血液中の血球などの量を高く維持でき、(特に炎症性の)サイトカイン量を抑制でき、生存期間をある程度長くできる傾向がある。
【0037】
−微小粒子の調製方法−
歯髄由来幹細胞等の培養上清から、微小粒子を精製して、微小粒子を調製することができる。
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。本発明の癌悪液質の改善剤からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100〜20000gで、1〜30分間である。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10〜1000nmであることが好ましく、30〜500nmであることがより好ましく、50〜150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV−可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、特定の酵素活性などを使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019−524824号公報の[0034]〜[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0038】
<その他の成分>
本発明の癌悪液質の改善剤は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
本発明の癌悪液質の改善剤は、歯髄由来幹細胞の培養上清それ自体または微小粒子それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象への歯髄由来幹細胞の培養上清や微小粒子の投与を促進することである。
【0039】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0040】
本発明の癌悪液質の改善剤は、従来公知の癌悪液質の改善剤の有効成分を含んでいてもよい。当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
【0041】
一方、本発明の癌悪液質の改善剤は、所定の物質を含まないことが好ましい。
例えば、本発明の癌悪液質の改善剤は、歯髄由来幹細胞を含まないことが好ましい。
また、本発明の癌悪液質の改善剤は、MCP−1を含まないことが好ましい。ただし、MCP−1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018−023343号公報の[0014]〜[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、本発明の癌悪液質の改善剤は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、本発明の癌悪液質の改善剤は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、本発明の癌悪液質の改善剤は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
本発明の癌悪液質の改善剤は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
<癌悪液質の改善剤の製造方法>
本発明の癌悪液質の改善剤の製造方法は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞の培養上清を上記した方法で調製し、癌悪液質の改善剤を調製してもよい。続けて歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の癌悪液質の改善剤を調製してもよい。あるいは、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の癌悪液質の改善剤を調製してもよい。さらには、廃棄処理されていた歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物を譲り受けて(またはその組成物を適宜精製して)、そこから微小粒子を精製して、本発明の癌悪液質の改善剤を調製してもよい。
【0043】
本発明の癌悪液質の改善剤の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、本発明の癌悪液質の改善剤は、歯髄由来幹細胞の培養上清を容器に充填してなる形態;微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;歯髄由来幹細胞の培養上清または微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば−20℃〜−196℃とすることができる。
【0044】
[癌悪液質の改善方法]
本発明の癌悪液質の改善方法は、有効量の本発明の癌悪液質の改善剤を、癌悪液質を発症した対象に投与することを含む。
【0045】
本発明の癌悪液質の改善剤を、癌悪液質を発症した対象に投与する工程は特に制限はない。
投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引、点滴、局所投与、点鼻薬などを挙げることができ、侵襲が少ないことが好ましい。局所投与の方法としては、注射が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。局所投与する場合、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与などを挙げることができ、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与または腹腔内投与であることがより好ましい。
癌悪液質を発症した対象に投与された本発明の癌悪液質の改善剤は対象の体内を循環し、所定の組織に到達してもよい。
投与回数および投与間隔は、特に制限はない。投与回数は1週間当たり1回以上とすることができ、5回以上であることが好ましく、6回以上であることがより好ましく、7回以上であることが特に好ましい。投与間隔は、1時間〜1週間であることが好ましく、半日間〜1週間であることがより好ましく、1日(毎日1回)であることが特に好ましい。ただし、投与対象の生物種や投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
本発明の癌悪液質の改善剤は、癌悪液質の改善剤を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、癌悪液質を発症した対象に投与する用途であることが好ましい。投与対象がヒトである場合は、1週間当たりの投与回数は多い方が好ましく、治療有効期間にわたって1週間に5回以上投与することが好ましく、毎日投与することが好ましい。
2.0×10個/mlの濃度の歯髄由来幹細胞の培養上清を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり0.1〜5mlであることが好ましく、0.3〜3mlであることがより好ましく、0.5〜1mlであることがより特に好ましい。
0.1×10個/μgの濃度の微小粒子を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり1〜50μgであることが好ましく、3〜30μgであることがより好ましく、5〜25μgであることがより特に好ましい。
その他の動物への体重当たりの投与量の好ましい範囲は、モデルマウスへの体重(約25g)当たりの投与量から比例関係を用いて計算することができる。ただし、投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
【0046】
本発明の癌悪液質の改善剤を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。本発明の癌悪液質の改善剤を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましい。
【0047】
本発明の癌悪液質の改善剤は、従来公知の癌悪液質の改善剤と併用してもよい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例と比較例または参考例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0049】
[実施例1]
<実験プロトコル>
図1に示した実験プロトコルにしたがって、癌悪液質モデルマウスに対してサンプルを投与した後、全採血を行い、悪液質の改善を評価した。
【0050】
<致死的な癌悪液質モデルマウスの調製>
正常マウスとして用いる7週齢のヌードマウス(Balb/c−nu/nu)に対して、B16−F10−luc−G5 cells(B16−luc cells)を1x10cells皮下移植して、致死的な癌悪液質モデルマウスを調製した。この条件は、18日間以内にマウスがすべて死亡する過酷な条件である。
【0051】
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製して、培養上清を分取した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
調製した歯髄由来幹細胞の培養上清を実施例1の癌悪液質の改善剤サンプルとした。
【0052】
<サンプルの投与>
癌悪液質モデルマウスを調製した処置日(day 0)と、処置日からの日数が7日後および14日後に、癌悪液質モデルマウスの尾静脈から実施例1のサンプルをマウス1匹あたり0.5ml(エクソソームにして1.0x10個)投与した。
【0053】
[実施例2]
<エクソソームの調製>
実施例1で得られた歯髄由来幹細胞の培養上清から、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の方法で精製した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000×gで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000×gで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソームを含む組成物(濃縮溶液)は、−80℃で保管した。
歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームを含む組成物を、実施例2の癌悪液質の改善剤サンプルとした。
【0054】
各実施例の癌悪液質の改善剤に含まれる微小粒子の平均粒径、濃度を評価した。
各実施例の癌悪液質の改善剤に含まれる微小粒子の平均粒径は50〜150nmであった。
各実施例の癌悪液質の改善剤は1.0×10個/ml以上の高濃度エクソソーム溶液であり、特に実施例1の癌悪液質の改善剤は2.0×10個/mlの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られた各実施例の癌悪液質の改善剤の成分を公知の方法で分析した。その結果、各実施例の癌悪液質の改善剤は、歯髄由来幹細胞の幹細胞を含まず、MCP−1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP−1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、各実施例の癌悪液質の改善剤の有効成分であることがわかった。
【0055】
実施例1で調製した癌悪液質モデルマウスに対して、実施例1のサンプルの代わりに実施例2のサンプルを20μg(エクソソームにして2.0x10個)投与した以外は実施例1と同様にして、サンプルの投与を行った。
【0056】
[比較例1]
実施例1で調製した癌悪液質モデルマウスに対して、実施例1のサンプルの代わりに比較例1のサンプルとして生理食塩水を同量の0.5ml投与した以外は実施例1と同様にして、サンプルの投与を行った。
【0057】
[評価]
(体重減少の評価)
癌悪液質モデルマウスを調製した処置日(day 0)と、処置日からの日数が7日後、14日後および21日後に、癌悪液質モデルマウスの体重を測定した。各群n=10とし、例えば実施例1では、実施例1のサンプルを投与したマウス10匹の平均体重を求めた。
7週齢のヌードマウス(Balb/c−nu/nu)を正常マウスの参考例として用いた。参考例1の正常マウスの体重をコントロール(100%)として、各実施例および比較例のサンプルを投与したマウス10匹の体重(%対コントロール)を求めた。得られた結果を図2に示した。
図2の結果から、癌悪液質モデルマウスに対して、本発明の癌悪液質の改善剤を投与することにより、生理食塩水を投与した場合よりも、体重減少を抑制できることがわかった。
この結果から、本発明の癌悪液質の改善剤は、悪液質の患者の体重減少を抑制することにより、骨格筋量なども維持して、貧血も改善し、QOLおよびADLを改善できると予測される。
なお、このような体重減少の抑制の作用機序は、後述する実施例の結果から炎症性サイトカインの抑制やサイトカインストームの抑制などによるものと考えられる。
【0058】
(血液中の血球などの評価)
癌悪液質モデルマウスを調製した処置日(day 0)から21日後に全採血を行った。その後、血液中の赤血球数(単位:万/μL)、ヘモグロビン値(血色素。単位g/dL)、血小板数(単位:万/μL )、ヘマトクリット値(%)を定量した。
表1の結果から、癌悪液質モデルマウスに対して、本発明の癌悪液質の改善剤を投与することにより、生理食塩水を投与した場合よりも、赤血球数、ヘモグロビン値(血色素)、血小板数およびヘマトクリット値を高く維持できることがわかった。
また、生理食塩水を投与した比較例1の癌悪液質モデルマウスでは貧血様症状がみられたが、本発明の癌悪液質の改善剤を投与した癌悪液質モデルマウスでは貧血様症状は特にみられなかった。
これらの結果から、本発明の癌悪液質の改善剤は、悪液質の患者の貧血を改善することにより、QOLおよびADLを改善できると予測される。
【0059】
【表1】
【0060】
(血液中サイトカイン量の評価)
癌悪液質モデルマウスを調製した処置日(day 0)から21日後に全採血を行った。その後、血液中のIL−6およびTNF−αの定量をImmune Monitoring 48−Plex Mouse ProcartaPlex(登録商標) Panel(Invitrogen社製)で行った。あわせて、参考例1とした正常マウスについても、全採血を行い、血液中に含まれるサイトカインの定量を同様に行った。得られた結果を図3および図4に示した。
図3および図4の結果から、癌悪液質モデルマウスに対して、本発明の癌悪液質の改善剤を投与することにより、生理食塩水を投与した場合よりも、血液中のIL−6およびTNF−α濃度の増加を抑制できることがわかった。
これらの結果から、本発明の癌悪液質の改善剤は、悪液質の患者の炎症性サイトカイン産生を抑制することにより、食欲を増加すること、または、腫瘍局所の炎症反応の抑制やサイトカインストームの抑制によって代謝異常を改善することなどにより、QOLおよびADLを改善できると予測される。
【0061】
(致死的な癌悪液質マウスモデルの生存率の評価(1))
癌悪液質モデルマウスを調製した処置日(day 0)から1日ごとに、各群(n=10)のマウスの生存率を確認した。得られた結果を図5に示した。
図5の結果から、癌悪液質モデルマウスに対して、本発明の癌悪液質の改善剤を実施例1および2のエクソソーム濃度で投与した場合、生理食塩水を投与した場合よりも若干ながら平均的な生存日数を伸ばすことができ、若干ながら生存率を高められることがわかった。
【0062】
[実施例11]
(致死的な癌悪液質マウスモデルの生存率の評価(2))
癌悪液質モデルマウスに対して、実施例2のサンプル(歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム)を25μg(エクソソームにして2.5x10個)投与した以外は実施例2と同様にして、実施例11の生存率の評価を行った。なお、実施例11のサンプル投与量は、実施例2のサンプル投与量の1.25倍となる。実施例11はn=10で行った。得られた結果を図6に示した。
図6の結果から、癌悪液質モデルマウスに対して、本発明の癌悪液質の改善剤を実施例11のエクソソーム濃度まで高めて投与した場合、生理食塩水を投与した場合よりも平均的な生存日数を伸ばすことができ、生存率を高められることがわかった。
【0063】
[実施例21]
<in vitroでのサイトカインストーム抑制の確認>
実施例2の血液中のサイトカイン量の評価の結果を補強する目的で、癌悪液質モデルマウスの代わりにサイトカインストームを誘導した致死的障害マウスモデルを用いて、本発明の癌悪質の改善剤のサイトカインストーム抑制の効果を確認した。
ヒト末梢血単核細胞(peripheral−blood mononuclear cell;PBMC)を用いたサイトカインストームの誘導を行い、実施例2のサンプルによるサイトカインストーム抑制効果を、以下の方法でin vitroで確認した。
ヒトPMBCを培養し、サイトカインストーム誘導剤であるコンカナバリンA(Con−A、富士フイルム和光純薬(株)製)にて刺激し、サイトカインストームを誘導した。
この系に、実施例2のサンプルおよびコントロールである生理食塩水のうち1種類を添加する処理をし、ヒトPMBCの培養上清に含まれるサイトカインの定量をサイトカイン測定ELISAキット(R&D Systems製、商品名Quantikine ELISA kit)で行った。定量化したサイトカインは、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−17、IFNγおよびTNFαである。
実施例2のサンプルの添加は、PMBCの細胞あたり、100particlesとなるように処理した。実施例2のサンプルでの処理後、48時間後のサイトカイン量を測定した(N=6)。
得られた結果を下記表2に示した。
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例22]
<in vivoでのサイトカインストーム抑制の確認>
マウスモデルにおけるサイトカインストームの誘導を行い、実施例2のサンプルによるサイトカインストーム抑制効果を、以下の方法でin vivoで確認した。
C57BL/6J系統の8週令のマウスを1群あたり6匹ずつ用いた。
各マウスに対して、サイトカインストーム誘導剤であるリポポリサッカライド(LPS)をマウスの腹腔内に20mg/kg body weightずつ投与した。なお、リポポリサッカライド(LPS。エンドトキシン)の投与により炎症性サイトカインの濃度上昇などの敗血症の症状が惹起され、サイトカインストームを誘導できる(Medical Hypotheses (2020) 144,109865)。
リポポリサッカライド投与直後に、各マウスの尾静脈から実施例2のサンプル(超遠心法によって精製)およびコントロールである生理食塩水のうち1種類を、それぞれ同量の10μg投与した。なお、実施例21のサンプル投与量は、実施例2のサンプル投与量の0.5倍となる。
24時間後に全採血を行い、マウスのサイトカインストームにおける血清を分取した。マウスのサイトカインストームにおける血清に含まれるサイトカインの定量をImmune Monitoring 48−Plex Mouse ProcartaPlex(登録商標) Panel(Invitrogen社製)で行った。あわせて、リポポリサッカライドを投与する前の正常マウスについても、全採血を行い、血清に含まれるサイトカインの定量を同様に行った。定量化したサイトカインは、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−17、IFNγおよびTNFαである。
得られた結果を下記表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
上記表2および表3より、本発明の癌悪液質の改善剤である実施例2のサンプルは、サイトカインストームを誘導されて各サイトカイン量が多くなった動物(マウス)に対して投与されることで、生理食塩水を投与したコントロールと比較して、血液中および/または血清中のサイトカイン量をIL−6およびTNFα以外のサイトカインについても顕著に抑制でき、サイトカインストームを抑制できることがわかった。これらの結果から、本発明の癌悪液質の改善剤は、悪液質の患者の炎症性サイトカインやサイトカインストームを抑制することにより、食欲を増加し、代謝異常を改善することなどにより、体重減少、貧血、低栄養状態を改善し、QOLおよびADLを改善できると予測される。
【要約】
【課題】新規な癌悪液質の改善剤の提供。
【解決手段】癌悪液質を発症した対象に投与される用途の癌悪液質の改善剤であって、
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物である、癌悪液質の改善剤;癌悪液質の改善方法。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6