(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る磁気識別装置を、図面を参照して説明する。
【0010】
<第1の実施形態>
図1は、実施形態に係る磁気識別装置の一例及び一部を示す斜視外観図である。
図1は、本実施形態の磁気センサ部10が、被検知媒体としての磁気媒体1を識別する際の様子を示している。
【0011】
磁気媒体1は、一例として、磁性体を含む紙状の媒体である。より具体的には、例えば、磁気媒体1は、紙幣のように紙に磁性体を含んだインクを印刷したものである。また、磁気媒体1は、磁性体の箔帯を織り込んだものであってもよい。また、磁性体は、保磁力が大きい硬磁性のものが好ましいが、ほとんど保磁力を持たない軟磁性のものであってもよい。
【0012】
ここで、
図1に示される例では、磁気媒体1は磁気インクが印刷された磁気印刷部11を有し、磁気印刷部11は矢印で示す媒体搬送方向(Y方向とする)に幅wが狭く、搬送方向と垂直な方向(X方向とする)に延びた直線状である。
【0013】
(磁気検知部)
例えば、本実施形態では、磁気識別装置となる磁気センサ部10は、複数の磁石2a,2b,2c(以下まとめて表す場合には磁石2とする。)と、複数の感磁素子の一例である感磁素子3a,3b(以下まとめて表す場合には感磁素子3とする。)と、が交互に並ぶことによって構成されている。
【0014】
詳細には、磁石2a,2bの間に感磁素子3aが配置され、磁石2b,2cの間に感磁素子3bが配置され、各々が略一直線上に配置されている。また、各磁石2a,2b,2cは、N極とS極とが磁極逆転して交互に並んで配置されている。すなわち、隣り合う一組の磁石2a,2bとその間に配置される感磁素子3aとで1つの磁界検出モジュール(磁気識別装置)が実質的に構成され、この磁界検出モジュールを直線的に配置することで、帯状の磁界検出領域が形成される。
【0015】
なお、これら各磁石2a,2b,2cは、Nd−Fe−B系やSm−Co系の希土類の磁石や酸化鉄系のフェライト磁石等であり、直方体状に成形されたものである。
【0016】
また、磁石2a等のNS方向は、媒体搬送面(XY面)に垂直であり、自身と隣接する磁石とは逆の極性を取るようにして、媒体搬送面に対向するように並べられる。
図1では、一例として、媒体搬送面上方(Z軸の正方向側)から見て、S,N,Sの順で並べられている。また、磁石2a,2b,2cは、媒体搬送方向(Y方向)と垂直なX軸方向にピッチpで配置されている。
【0017】
さらに、本実施形態における感磁素子3a,3bは、それぞれの検知面31a,31b(以下まとめて表す場合には検知面31とする。)が、磁石2a,2b,2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2a等のNS方向を法線とする平面4と略同一となるように配置されている(この点については後に詳述する)。なお、3つの磁石2a,2b,2cで平面4を共有するためには、磁石のサイズや材質を同じにしておくのが好ましい。
【0018】
図2は、感磁素子3a、3bの検知面31の拡大図の一例を示す図である。なお、感磁素子3の検知面31は、パーマロイ、アモルファス、微結晶構造等の高透磁率の細長い磁性薄膜部32と、銅やアルミ等の導電性金属薄膜による平面コイル33とが不図示の絶縁膜を介して積層され、それぞれ電極34に引き出されている。
【0019】
本実施形態の感磁素子3a、3bは、直交フラックスゲートである。また、感磁素子3は、励磁電極37を介して磁性薄膜部32に高周波電流を印加し、磁性薄膜部32内の磁束変化を、平面コイル33から電圧に変換したセンサ信号として電極34から取り出す。他方向よりも感磁感度の高い磁界検知方向は磁性薄膜部32の長手方向であり、
図1に示されるセンサ構成ではこれがX軸方向となるように感磁素子3a,3bが配置される。なお、この感磁素子3a,3bはバイアス磁界が不要であり、磁界ゼロで感度を有しており、本実施形態の磁気センサ部10に好適である。
【0020】
図3は、感磁素子3a、3bの磁界検知特性の一例を示す図である。
図3の例によれば、本例の感磁素子3a等は10ガウスを超えたところで飽和する。よって、本例では、ゼロ磁界に近いところでセンサを動作させることが好ましく、そのためには先に述べたように、
図1の平面4に感磁素子3a、3bの検知面を置くことが好ましい。但し、使用する感磁素子によっては平面4に配置するよりも、僅かにNS方向のいずれかにずらして配置することでより好適になることがあるが、その場合でも本発明が適用できる。
【0021】
(磁界発生部)
図1に戻り、感磁素子3に対して媒体搬送面とは反対側に、磁界発生部5が配置される。磁界発生部5は、銅やアルミニウム等の非磁性の導電体からなる電流パターン51を形成し、電流パターン51は、感磁素子3の磁界検知方向、すなわち磁性薄膜部32の長手方向(X方向)と直交する方向に延びるように配置され、不図示の電流を通電するための接続部を用いて、通電手段と接続される。
図1では、感磁素子3a,3bの下面側(Z軸の負方向側)に配置された各検知面31a,31bに対向して磁界発生部5a,5bが設置されている。このような位置に配置するため、感磁素子3と磁気媒体1の間に検知対象物以外のものを配置することがなくなり、感磁素子と磁気媒体との距離が
短い構成を可能とするため、磁気媒体通過に伴う磁界変化感度が向上する。(つまりスペーシング特性に優れる。)このとき、磁界発生部5a,5bは少なくとも、各検知面31a,31bの対面において電流パターン51a,51b(以下まとめて表す場合には電流パターン51とする。)が平行(電流の通電方向が平行)で、且つ、X方向に等幅であることが望ましい。上記のようにすることで、後に記述する通電により発生する磁界を、概ね同じ大きさ、方向に揃えることができる。
【0022】
図4は、本実施形態の感磁素子3a、3b、3c、3d、磁石2a、2b、2c、2d、電流パターン51a,51b、51c、51dを一例とする磁界発生部5をZ軸の正方向とY軸の負方向から見た概念図を上下の図でそれぞれ表している。磁石2が磁極を逆転させてZ軸の正方向側にS,N,S・・・と並ぶように等間隔に配置され、磁石2の間には、感磁素子3が磁石2と同じ間隔で配置されている。さらに言えば、感磁素子3の磁界検知部である磁性薄膜部32a、32b、32c、32d(以下まとめて表す場合には磁性薄膜部32とする。)が等間隔に配置されている。電流パターン51a、51b、51c、51dは、それぞれ感磁素子3の対面に配置され、複数の感磁素子3a,3b,3c,3dに対応して、電流パターン51a,51b,51c,51dも等間隔に、平行に配置されている。すなわち、電流パターン51a、51b、51c、51dに対する通電方向が平行であり、電流パターン51a、51b、51c、51dの感磁素子3のZ軸の負方向側(感磁素子対向部分)における通電方向における中心線が等間隔に配置されている。
このとき、電流パターン51の幅は、磁性薄膜部32の幅よりも大きいと、磁性薄膜全域に均一に磁界を印加することができ、好適である。
【0023】
電流パターン51a,51b,51c,51dに通電される電流の向きは、互い違いに逆向きあるいは全て同方向とするのが好ましい。まず、各電流パターン51の電流の向きが互い違いに逆向きであるときを説明する。
【0024】
図4の下側の図では、電流パターン51a,51cの電流の向きが紙面奥方向(Y軸の正方向)、電流パターン51b、51dの電流の向きが紙面手前方向(Y軸の負方向)となるように磁界発生部5を形成する。電流の印加がないとき、感磁素子3aの検知面では検知方向の磁界成分Hxは生じていない。磁気印刷部11が通過した際に感磁素子3aの検知面に生じる感磁結果としての磁界変化は、磁石2a,2bの形成する磁界が、磁気媒体1に印刷された磁気印刷部11により変化を受け、+x方向成分が生じ、感磁素子3aで磁界変化として検出することができる。電流パターン51に通電した場合、電流パター
ン51aでは、概ね時計回りの磁界が発生し、検知面31aでは+x方向の磁界成分が生じる。同様に検知面31bでは磁気媒体1の通過に伴い、−x方向の磁界成分が生じ、電流パターン51への通電時にも、電流パターン51bから発生する磁界によって、−x方向の磁界が印加される。すなわち、電流パターン51に互い違いに電流を通電することによって、磁気媒体1が通過したときと同様の磁界変化を生じさせることが可能である。このような、互い違いに電流を通電するための磁界発生部5は、つづら折り形状が一例として挙げられる。
【0025】
また、電流パターン51a,51b,51c,51dの同方向に電流を通電した場合でも、電流による磁界で感磁素子3に磁界が印加され、磁界に応じた出力が得られるため、後に記載する感度補正に用いることができる。同方向に電流を印加するための磁界発生部5としては、はしご形状が一例として挙げられる。
【0026】
(感磁素子、磁石、磁界発生部の配置について)
図5に、感磁素子3と、磁界発生部5と、磁石2と、が組み付けられる様子を示した分解斜視図を示す。説明の簡略化のために感磁素子3は4個の場合を示すが、任意の複数個でも趣旨は同じである。感磁素子3は、磁石を設置するための開口部を備えた回路基板6に接続(実装)される。また、感磁素子3は、検知面31が回路基板6側を向き、接続されている。磁界発生部5は、銅箔で形成された電流パターン51であり、感磁素子3を接続した基板6とは異なる回路基板53の外層に形成されている。回路基板53には、回路基板6と同様に磁石2を設置するための開口が空いている。このとき、回路基板6及び回路基板53に設けた磁石設置のための開口は両者間で同じ形状である必要はない。磁石2が設置できれば、例えば回路基板6は長方形の形状、回路基板53に設けた空間が長穴、といったように異なる形状でも良い。感磁素子3を接続する回路基板6と、磁界発生部5を設けた回路基板53は、接着などによって物理的に取り付けられ、それらの相対位置が変動しないようになっている。
【0027】
図6は、感磁素子3と、回路基板6a、6b(以下まとめて表す場合には回路基板6とする。)と、回路基板53a、53b(以下まとめて表す場合には回路基板53とする。)と、磁石2と、が取り付けられた状態の平面図をそれぞれ示している。ここで、回路基板6a、6bおよび回路基板53a、53bはそれぞれ、感磁素子3a、3bの下部の部分を示しており、基板全体としては回路基板6や回路基板53として単一の基板であっても良く、
図7においては回路基板53が単一の基板である例を示している。磁石2は、回路基板6に接続された感磁素子3の検知面31を含む平面(XY平面)が、磁石2のNS
の中点に来るように、回路基板6及び回路基板53に設けた磁石設置のための開口を貫通して設置される。
【0028】
感磁素子3の検知面31をZ軸の負方向側に向けて配置し、回路基板53の外層のうちZ軸の正方向側に磁界発生部5を形成し、磁界発生部5側を回路基板6との接続面に使用することで、検知面31と磁界発生部5とを回路基板6を挟んで隣接させ、効率的に磁界発生部5からの磁界を検知面31に印加することができ好適である。回路基板6を絶縁部として検知面31と磁界発生部5との間に配置することによって、検知面31の磁性薄膜部32と電流パターン51との短絡も防ぐことが出来る。回路基板6を絶縁部として検知面31と磁界発生部5との間に配置するための他の例として、磁界発生部5を回路基板6
の外装のうちZ軸の負方向側に設けてもよく、回路基板6の中間層などに代表される内部に設けてもよい。磁界発生部5と検知面31とが同一とならなければ短絡を防ぐことができ、好適である。
【0029】
なお、回路基板53上に設けた電流パターン51が回路基板6に隣接するようにして回路基板6に回路基板53が取り付けられる際には、それぞれの回路基板に設けた磁石設置のための開口の位置を揃えて回路基板6と回路基板53とが対向するようにして配置される。
【0030】
磁界発生部5は、つづら折り状に形成された電流パターン51と、電流を外部から通電するための外部入力端子である接続部52a、52bからなる。回路基板53には磁石2を設置するための開口が設けられているため、電流パターン51がつづら折り状であることは、磁石2を設置するための開口を避け、上述の実条件と同じく、隣り合う検知面31間で互いに逆方向の磁界変化を誘起させる構造のために好適である。
【0031】
接続部52a、52bは、回路基板53の両端部まで延び、回路基板53と回路基板6とを接続する際に回路基板6の両端部に位置するように設けられる。なお、必ずしも両端に接続部52a、52bを設ける必要はなく、一端側にまとめて接続部52a、52bの両者が配置されるように引き回してもよい。
【0032】
なお、磁石2を感磁素子3側から回路基板53に実装するようにして、磁石2を設置するための開口の下部が閉じられた空間を形成してもよい。
【0033】
また、
図5では、回路基板53上に磁界発生部5がパターンニングされているが、空いている回路基板53上のスペースに同様に銅箔でベタパターンを形成しても良い。このようにすることで、回路基板6を取り付ける際に平面度を保つことができる。また、新たに接続部を設けることで、回路のグランドなどにも利用することができる。
【0034】
図7に回路基板53及び磁界発生部5の平面図を示す。また説明のため、
図7には感磁素子3の外形を表示している。
図7(A)では、各感磁素子1個に対して、電流パターン51が1つ設置される1:1の構造になっている。
図7(B)では、電流パターン51は、1個の感磁素子に対向して2つずつ形成されており、感磁素子3に対して電流パターン51が1:2の関係になっている。
図7(B)のとき、接続部52aと52bの間は、一筆書きのパターンであり、ひとつの感磁素子3の対面では、同方向の電流が通電される。このような構成とすることで、磁界発生部5で発生する磁界を増強することができ、より少ない電流印加で、感度補正等の機能を満たすことができる。加えて、電流パターン51は、感磁素子3の磁界検知方向に対して垂直に延びており、垂直に延びた部分が感磁素子3の幅(Y軸方向)よりも大きく、より好ましくは、感磁素子3の幅よりも大きい磁石2の幅を超えるような長さになっている。こうすることによって、電流パターン51の通電時に感磁素子3に対して及ぼす磁界の向きを揃えることができ、各感磁素子3に対して同様の強度で磁界を分布させることができる。それによって、後述の感度補正の精度を向上することが出来る。
【0035】
また、
図5では、磁界発生部5を回路基板6とは異なる基板53に設けた構成について説明を行ったが、本発明は上記の構成に限定されない。例えば、
図8に示すように、感磁素子3を接続(実装)する回路基板6における感磁素子3とは反対側の外層に対し、上記実施形態で説明した銅箔の電流パターン51を形成しても良い。こうすることによって、部品貼りあわせ手番、部品点数の削減が可能となる。
【0036】
また、電流パターン51を回路基板6の内層に形成しても良い。
【0037】
(磁気識別装置の構成)
図9は、本実施形態に係るマルチチャンネルセンサの回路構成の一例を示す図である。本実施形態のマルチチャンネルセンサでは、
図5に示される構成を有するセンサ駆動部が、センサ接続部62a、62b(以下まとめて表す場合にはセンサ接続部62とする。)を介してフラックスゲートの動作のために磁性薄膜部32に高周波電流を印加する発振回路71と接続されるとともに、磁気センサ部10を構成する各感磁素子3の平面コイル33(
図2参照)から出力信号(センサ電圧)を取り出すための検波回路72(センサ電圧取得部)と接続されている。その後、検波回路72で取り出された出力信号は、増幅回路
73で増幅され、アナログ―デジタルコンバータ(以下ADC)を通してデジタル変換され、演算処理部74で所定の処理を行う。所定の処理とは、AD変換を行ったデジタル値を基に加算や減算などの演算を行うことなどが含まれる。また、磁界発生部5と、磁界発生部5に接続端子を介して電流を通電するための通電回路75と、通電回路の電流通電を制御するための通電制御部76(電流印加部)を有する。通電制御部76は、演算処理部74がその機能を兼ねても良いし、演算処理部74とは別のIC等により構成しても良い。
【0038】
本実施形態の磁気識別装置では、隣り合う各感磁素子3同士では、逆極性の出力がなされる。そのため、隣り合う感磁素子3の出力で差動検出を行うことが有効である。
図9では、各感磁素子3の出力が、演算処理部74に設けられたADCでデジタル値に変換され、演算処理部74内部で差動、すなわち減算処理を行う構成になっているが、ADCの前に回路的に差動増幅しておいても良い。
【0039】
また、
図9では、全ての感磁素子3の出力が増幅回路73の後段に設けられたADCに接続されているが、ADCの前にマルチプレクサを設け、任意の出力のみをADCでAD変換しても良い。演算処理部74のADC端子数に合わせて適宜選択されるのが良い。
【0040】
(感度補正方法)
次に感度補正の方法について説明する。感度補正は、全ての感磁素子3に対して、同じ大きさの磁界(基準磁界)を印加し、基準磁界に対する各感磁素子3の出力を取得して、種々の方法で出力差をなくす補正を施すことである。以下、一例について説明する。
【0041】
図10は、
図7(A)の磁界発生部5と、電流印加部を接続した図である。
図10(A)の接続部52a、52bと、電流印加部が
図10(B)のように接続される。
図10(B)では、OPアンプと、磁界発生部5と、抵抗R1を用いて定電流回路を形成している。また、電流印加部は、
図9に示す通電制御部76と接続され、任意のタイミングで磁界発生部5に電流が通電される。例えば、感度補正以外のタイミングでは、通電制御部76からLow信号(0V)が出力され、磁界発生部5両端(接続部52a、52b間)の電位差がなく、電流が通電されず、磁界発生部5に磁界が発生しない。感度補正を行うタイミングでは、High(任意の電圧)が通電制御部76から出力され、磁界発生部5の両端に電位差が生じ、電流が通電され、磁界が発生する。このとき、
図4のように感磁素子3に対して磁界が印加される。全ての感磁素子3に対して同じ電流に起因する磁界が印加され、感磁素子3の検知部に印加される磁界の検知方向成分の絶対値は同じとなるため、基準磁界となり得る。
【0042】
図11は、
図10の磁界発生部5に電流を通電し、感磁素子3a〜3d各々の出力を同じ時間間隔で検出した場合の出力(電圧)を示した図である。磁界発生部5に通電した場合、理想的な感磁素子を用いた場合、
図11(A)のように、出力の基準電圧(ベース電圧)に対して、同じ変化量を示す。しかし現実には、
図11(B)のように、感磁素子や、検出回路の個々の個体差の影響を受けて、出力変化量にバラつきが生じる。
【0043】
上記バラつきの補正は以下のように実施する。まず、磁界発生部に通電する以前のタイミングで、各感磁素子3の検出出力を取得し、基準電圧Vref(例えば感磁素子3aの出力をVref1,感磁素子3bの出力をVref2・・・とする)とする。次に、磁界発生部5に通電した場合に、順次あるいは任意の順番で各感磁素子3から取得した磁界検出結果に基づく出力をVmとする。(同じく感磁素子3aの出力はVm1、感磁素子3bの出力はVm2・・・とする)。各感磁素子3の磁界発生部5からの磁界の有無の出力差
の絶対値|Vm−Vref|を演算する。これらの絶対値の値が同じになるように感度補正係数αを決定する。感度補正係数αは、任意の感磁素子の出力を基準にしても良いし、特定の値を基準にしても良い。例えば、感磁素子3aの出力差の絶対値に対して、感磁素子3bの出力差の絶対値の比を計算した結果、1.1倍だった場合、感磁素子3bは、感磁素子3aに対して感度が1.1倍高いことになるため、1/1.1つまり、感磁素子3bの出力結果に0.91倍すると感磁素子3aと概ね同じ感度となる。すなわち、本実施形態においては、出力差の絶対値|Vm−Vref|の比の逆数を感度補正係数αとしている。
【0044】
上記実施形態では、無磁界時の出力の測定を行い、その後、磁界発生部5への通電時の各出力を測定しているが、これらはこの順番である必要はない。例えば、先に磁界発生部5に通電して、各出力の測定を行い、その後に、通電を停止し、基準電圧の取得を行っても良い。また、各感磁素子3毎に通電の有無を切り替えても良い。すなわち、感磁素子3aの磁界有無時の出力を取得し、次に感磁素子3bの磁界有無時の各出力を取得するように切り替えながら感度の補正を行っても良い。
【0045】
上記の補正は、例えば磁気識別装置が出荷される前に行うことによって、出力の工程確認と、感度の補正を同時に行うことができ、安定した性能の磁気識別装置を提供することができる。
【0046】
また、感度の調整としては、上述した感度の補正以外にも、上述したような感度測定を行い、磁石2、感磁素子3の相対位置を変更する感度調整工程を行ってもよい。
【0047】
また、感磁素子3としては、経年劣化に伴い、検出感度が低下してくる。そのため、感度の補正を磁気媒体の識別を行う前に毎回行うことが好ましく、その場合、磁気識別装置の識別精度を保つことが出来る。なお、必ずしも毎回行う必要はなく、一例としては、所定の磁界検出パターンであっても、そのピーク値が以前同様のパターンを検出したときよりも低下した、あるいは所定の値よりも低下したことを検知すると、磁気識別動作の終了時や次の磁気識別動作の開始時に感度の補正を行うようにしてもよい。
【0048】
また、感度の補正を行う際に、感度補正係数αが第一の所定値を超える際には、感磁素子3の寿命だと判断して、ユーザに対する報知を行ってもよいし、特定の感磁素子3xの感度補正係数αが第二の所定値を超える際には、感磁素子3x以外の感磁素子に対する感度補正係数αの値に、さらに感度補正係数βを乗算することによって、各感磁素子3同士の相対的な感度を所望の値に保つように制御してもよい。
【0049】
<第2の実施形態>
本実施形態では、磁界発生部として
図12のような、はしご状の電流パターン151を備えた磁界発生部105を用いた場合について説明する。
図12の場合、各感磁素子3の検知面31の対面側に設置された電流パターン151に流れる電流の向きは、各感磁素子3の対面側において同一になる。さらには、各感磁素子3の検知面31に印加される磁界も同じ向きとなり、出力も同じ方向(増える、あるいは減る方向)に変化する。出力が同じ方向に変化するため、第1の実施形態のように、絶対値を認識する必要がなく、単純に磁界有無での出力差を検出し、感度補正に利用することができるため、感度補正のためのアルゴリズムが簡単となり、有益である。
【0050】
<第3の実施形態>
これまでの実施形態では、磁界発生部5に通電することで、一定磁界が存在するときの出力と、無通電時の出力の2つの出力差から感度補正を行う方法について説明を行ってきた。しかし、無通電時において、磁気識別装置が取り付けられた環境の磁界に影響されて、出力が安定しないことが懸念される。演算処理部74にデジタル−アナログ変換器(以下DAC)を備え、あるいは接続し、任意の電圧を用いることで、上記の課題を解決する方法を本実施形態では説明する。さらに、本実施形態では例示的に
図9における通電制御部76が、DACである場合を説明する。すなわち、DACを用いて、印加電圧Vaと、Vaよりも小さい印加電圧Vbとを入力したときの動作を説明する。
【0051】
図13は、Va及びVbの電圧を交互に切り替えたときの、各感磁素子3a及び3bの検出出力を示している。感磁素子3aでは、対面の電流パターン51aに通電された場合、プラスの磁界が発生するため、Va及びVbの通電の間に検出される電圧は、基準電圧よりもともに大きくなり、常にVa通電時に検出される電圧が大きくなる。すなわち、Va印加時の検出電圧Vm1aと、Vb印加時の検出電圧Vm1bの差は、常に正となる。
【0052】
基準電圧が変動している場合でも、Vm1aとVm1bは、基準電圧に磁界変動分の電圧が加わっているため、両者をCPU上などで減算すると、基準電圧の影響分をキャンセルすることができる。
【0053】
上記のように、基準電圧の変化の影響を受けることなく、感度補正を行うことができ、より高精度な磁気識別装置を実現できる。
【0054】
<第4の実施形態>
これまでの実施形態では、感度補正を行う機能を有した磁気識別装置について種々説明を行ってきた。本実施形態では、感度補正に加え、自己診断を行うことが可能な磁気識別装置について説明を行う。
【0055】
演算処理部74は、前回の感度補正係数αや、磁界有無時の出力差など、感度補正に使用したデータを保存しておく。任意のタイミングで感度補正を行ったとき、各感磁素子3間での感度出力の比較を行っていると、全体の検知チャンネルの感度低下を認識できず、故障等の発見が遅れる可能性がある。
【0056】
本実施形態では、各感磁素子3同士の比較だけでなく、各感磁素子3、例えば感磁素子3aの前回の感度補正時のデータと、最新の感度補正時のデータを比較する機能を有する。さらに、上記2つのデータを比較し、一定の割合以上の変化をしていた場合、上位装置に警告を示す機能を有するのが好ましい。
【0057】
<第5の実施形態>
図14は、本実施形態に係る磁気識別装置を自動預け払い機(ATM機)へ搭載して紙幣識別装置を実現した場合の構成例を示す図である。
図14(A)では、本実施形態の磁気センサ部10の上面図を上部に、上面図における破線Dで切断した場合の断面図を下部に示している。本体14は剛性のあるアルミダイキャストやプラスチック材料で成形され、感磁素子3の電極34が回路基板6に対して接続できるように、媒体搬送面とは反対側に検知面31を向けて回路基板6に接続される。磁石2や感磁素子3の上部には媒体搬送面を形成するための摺動板12が配置される。摺動板12は、磁石2との間に所定の距離を空けるようにして設けられてもよく、磁石2によって形成される磁界における感磁素子3の感度に合わせて距離を調整することが好ましい。摺動板12にはリン青銅や洋白等の非磁性の銅合金の薄板を用いることができる。必要により耐摩耗のめっきを施しても良い。感磁素子3を備えた回路基板6は、接続線13を通して発振回路71や検波回路72と接続される。接続線13はワイヤーでも良いし、端子ピンやフレキシブルフラットケーブル(FFC)等でも良い。
【0058】
図14(B)の紙幣識別装置8は、紙幣9の搬送メカ81が組み込まれており、ローラー82等で規制される搬送面に
図1に示される本実施形態の磁気センサ部10と、光学ラインセンサ83a,83bとが配置されている。紙幣識別装置8は、そのセンサ出力を照合して、紙幣9の真贋判定や金種判別を行う。
【0059】
紙幣9の長手方向に全域、隙間なく磁気パターンを検出したい場合、
図14(A)のように、長手方向に感磁素子3、磁石2を、紙幣の長手方向の長さと同じか、それ以上の長さになるように配置するのが好ましい。
【0060】
図15では、感磁素子3と磁石2を直線上に並べた構成を示しており、
図15(A)にその全体構成を示し、
図15(B)にはその端部の拡大図を示している。この例では、65個の磁石2と、隣接する磁石の間には、64個の感磁素子3を配置している。また、すべての感磁素子3の検知面の対面側には、磁界発生部5が配置され、これまで開示してきたように、感度補正や、自己診断の機能を発揮することが可能になっている。
【0061】
ここで、感磁素子3が設けられる回路基板6の両端部には、切り欠き61が設けられている。すなわち、磁界発生部5が設けられる回路基板53の両端部に設けられた接続部52a、52bが、回路基板6に設けた切り欠き61から露出するようになっている。
【0062】
したがって、回路基板6と回路基板53とが取り付けられたときに、回路基板6に設けられたセンサ接続部62と回路基板53に設けられた接続部52とが、Y軸方向に並んで配置されることとなる。
【0063】
この構成により、磁界発生部5に対して外部からの通電を容易に行うことができる。また、接続部52とセンサ接続部62とが並んで配置されていることにより、通電のための配線等の取り付け作業性も向上できる。
【0064】
なお、接続部52とセンサ接続部62は、磁気媒体を搬送する領域すなわち感磁素子3が配置された領域から十分に離れていることが好ましく、本実施形態においては、磁石2の外側に電流パターン51の一部を設けた更に搬送幅方向外側に設けている。
【0065】
この構成によれば、接続部に対する取り付け構造等を設けるためのスペースを媒体搬送面よりも外側の領域に設けることができる。この場合、接続部に対する通電を行うための配線からの磁界が感磁素子3に及ぼす影響も抑えることができるため、好適である。
【0066】
なお、以上説明した実施形態においては、媒体を媒体搬送面に沿って搬送し、その結果磁石2が形成する磁界へ及ぼす影響を感磁素子3で検出する構成を説明したがそれに限られず、媒体が配置される媒体載置面(媒体対向面)に対して感磁素子3、磁石2を含む構造を相対的に移動させてもよい。
【0067】
また、磁石2と感磁素子3とを直線上に配置したが、必ずしもそうではなくてもよい。例えば、磁石2と感磁素子3とを結ぶ直線が、磁石2を頂点として折れ曲がるようにジグザグに配置してもよい。磁石2と感磁素子3と他の磁石2との3つが直線上に並ぶ磁界検出モジュールの組が複数配置されていればよく、その場合、磁石2の形状としては、XY面上において、線対称となるようにするのが好ましく、その一例としては円形や正方形である。その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更を行うことが可能である。
【0068】
さらに、
図16は、本発明の磁気識別装置を自動預け払い機(ATM機)へ搭載して実現した紙幣識別装置における、感度補正方法及び感度異常のフローチャートである。ただし、
図16における上位装置とは、例えば
図9における上位装置であり、
図14(B)の紙幣識別装置8内に搭載されて、紙幣の真贋判定や金種判別を行うコンピュータ等を指す。以下、
図16に沿って感度補正及び感度異常判定の方法の一例を説明する。
【0069】
本実施形態の磁気識別装置では、
図17に示す通電制御部76と、通電回路75と、磁界発生部5を用いて説明を行う。通電制御部76は、演算処理部74のデジタルI/O(76a)と、インバータ76b等のロジック回路によって構成され、感度補正を行わないときには、デジタルI/OでHiを出力する。通電回路75では、通電制御部76のインバータ76bの出力信号をOPアンプ75aで受けており、感度補正を行わないとき(信号がHiのとき)では、インバータ76bの出力はLowになり、接続されるOPアンプ75aの出力と磁界発生部5にはグランドとの間に電位差がなく電流が通電されず、磁界は発生しない。
【0070】
まず、上位装置側でステップS101に示すアイドル状態からステップS102に進み、取引の有無を確認する。上位装置は、紙幣等の取引がないと判定しているときにステップS103に進み、磁気識別装置側に感度補正及び感度異常判定の開始コマンドを送信する。次いで、下位装置の一例としての磁気識別装置では、ステップS201におけるアイドル状態の際に、ステップS202で開始コマンドを上位装置から受信すると、ステップS203に進み、各CH(チャンネル)のベース電圧を取得する。
【0071】
次に、ステップS204に進み、通電制御部76からHiの信号が出力され、先に説明した通り、磁界発生部5に基準磁界が発生し、ステップS205で各CHの出力を取得する。各CHの出力の取得・保存が完了するとステップS206に進み、通電制御部76の出力をLowとし、通電を終了する。
【0072】
ステップS205で各CHの出力の取得を行うとき、
図11(B)に示すような出力が得られており、ステップS207では、先に説明した方法等を用いて各CHの感度を演算子、ステップS208にて感度補正係数αをCH毎に決定する。次いで、ステップS209に進み、感度補正係数αの閾値判定を行う。この閾値は、任意に設定され、ある範囲内(第1の値以上で第2の値以下)であると設定しても良いし、ある所定の値以下であれば正常であると設定することもできる。また、このときに異常と判定する条件の一例としては、各CHの出力を所定の感度まで持ち上げるための感度補正係数が所定の値より大きいときに異常と判定するようにしても良い。これは、各CHの出力が小さい程、感度補正係数は大きな値となるためである。
【0073】
ステップS209における判定によって、上記感度補正係数αが正常であるとき、ステップS210に進み、各感度補正係数αを演算処理部74内に保存(RAM等に格納)する。保存の終了後、ステップS211に進み、正常・異常の判定結果を上位装置に送信する。上位装置では、ステップS104で判定結果を受信し、ステップS105で、磁気識別装置に感度補正・判定の終了のコマンドを送信する。尚、ステップS209における磁気識別装置からの判定結果が異常であった場合、ステップS104で判定結果が異常だったことを受信した上位装置ではさらに使用者(整備者等、取引者)に警告を示す信号或は画面表示等を行うことができる。
【0074】
ステップS105で終了コマンドを送信した上位装置はステップS106に進み、アイドル状態に戻る。一方、ステップS212で上位装置から終了コマンドを受信した磁気識別装置は、ステップS213に進み、アイドル状態に戻ることで、一連の制御を終了する。
【0075】
上記では、演算処理部のデジタルI/O出力の2点(HiもしくはLow)に基づいて感度補正係数を決定する方法について説明したが、感度補正係数の決定については上述の方法に限らない。例えば、通電制御部76は、DACと、OPアンプ等を用いたバッファ回路によって構成されても良い。このとき、第3の実施形態に開示したように2点電位を印加した際の各出力の差分で感度補正係数の演算あるいは自己診断を行っても良いが、DACを用いて3点の出力を用いて同様の機能を実現しても良い。3点の電位(すなわち3点の磁界の大きさ)を用いることで出力特性の傾きをより正確に得ることができ、より詳しい異常状態の判別を行うことができる。ひいては、メンテナンス等の際に、異常原因の特定が容易になり、メンテナンス作業時間の短縮化が図れる。
【0076】
また、3種類の電位を用いる方法として、演算処理部74の内部あるいは演算処理部と分離されて接続されたDACから3種類の電圧を時間軸でシリアルに出力する方法とは異なる方法で実現しても良い。例えば、
図17で磁界発生部5とグランド間に直列に接続された抵抗R1をデジタルポテンショメータにし、演算処理部74でR1の抵抗値を制御しても良い。DACよりも分解能が小さく、より高精度に電流を磁界発生部に印加したい場合に有益であり、より高精度に感度補正機能を実現することができる。