(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974955
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】クロスバー構造および最適化問題解探索システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/8239 20060101AFI20211118BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20211118BHJP
H01L 45/00 20060101ALI20211118BHJP
G06N 3/06 20060101ALI20211118BHJP
H01L 49/00 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
H01L27/105 448
H01L45/00 Z
G06N3/06
H01L49/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-63895(P2017-63895)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-166194(P2018-166194A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年3月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/超高速・低消費電力ビッグデータ処理を実現・利活用する脳型推論集積システムの研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(74)【代理人】
【識別番号】100120581
【弁理士】
【氏名又は名称】市原 政喜
(72)【発明者】
【氏名】青野 真士
【審査官】
宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0293678(US,A1)
【文献】
特開2012−256657(JP,A)
【文献】
特開2014−085733(JP,A)
【文献】
C. Lutz et al.,Ag2S atomic switch-based 'tug of war' for decision making,Nanoscale,2016年,Vol. 8,14031 - 14036
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 45/00
G06N 3/06
H01L 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のクロスバー構造を用いて、複数の論理変数(x1〜xN)からなる論理式で記述された複数の論理的制約条件をすべて充足できるような論理変数に対する真偽値の割り当てを解とする組合せ最適化問題を最適化問題として解く最適化問題の解探索システムであって、
前記所定のクロスバー構造が、
固体電解質電極と二つの金属電極AおよびBとの間のナノメートルオーダーの間隙において、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを備え;
該原子スイッチでは、固体電解質電極内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極A側に成長したフィラメントを構成する原子数と電極B側に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、固体電解質電極に対して、金属電極A側または金属電極B側への電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは、複数の金属電極Aが並行に並べられた層と複数の金属電極Bが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質電極が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されたクロスバー構造であり、
前記組合せ最適化問題を最適化問題として解く際に;
各論理変数の真の値(xi=1)と偽の値(xi=0)を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいて、それぞれ固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面で金属フィラメントが成長した状態に対応させ;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
各論理的制約条件に対し、それに関与する論理変数の現時点での真偽値の割り当てによってはその論理的制約条件を充足できないときは、対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面に形成された金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側に電圧を印加する処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【請求項2】
所定のクロスバー構造を用いて、多層のニューラルネットによる学習を行う最適化問題の解探索システムであって、
前記所定のクロスバー構造が、
固体電解質電極と二つの金属電極AおよびBとの間のナノメートルオーダーの間隙において、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを備え;
該原子スイッチでは、固体電解質電極内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極A側に成長したフィラメントを構成する原子数と電極B側に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、固体電解質電極に対して、金属電極A側または金属電極B側への電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは、複数の金属電極Aが並行に並べられた層と複数の金属電極Bが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質電極が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されたクロスバー構造であり、
前記学習を行う際に;
第k層にニューロンがN個あり、第k±1層にニューロンがM個ある二層のオートエンコーダーにおいて、第k層のニューロンは第k±1層のすべてのニューロンに結合されており、このとき結合部の数はN×Mになり、各結合部の正の重み係数Xi,j,+と負の重み係数Xi,j,-を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいてそれぞれ金属電極A側またはB側で成長した金属フィラメントの成長高さによって決まるコンダクタンスに対応させ、ここで綱引き型原子スイッチの排他的性質から、各結合部が正の重み係数と負の重み係数を同時にとることはない;
第k層に2値の教師データ(U’1,U’2, …U’N)が与えられており、第k±1層に2値の教師データ(U’N+1,U’N+2,…U’ N+M)が与えられている場合に、オートエンコーダーは、第k層のあるデータが与えられたときに、それらの重み付け線形和に閾値関数fを適用して得られる第k±1層のデータが、第k±1層の教師データと一致するような重み係数行列(X1,N+1,+, X1,N+1,-,…. XN,M,+, XN,M,-)を解として求める処理を行い;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U1, …Ui, …UN)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)
Uj=f(ΣiXi,j,+Ui+Xi,j,−Ui)
ここで、f(x)=1 (x>θ(閾値)のとき);0(それ以外のとき)
が、教師データU’jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側に電圧を印加することを第k±1層のすべてのニューロンについて反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に、第k±1層のニューロンのベクトル(UN+1,UN+2, …UN+M)と教師データ(U’N+1,U’N+2, …U’ N+M)がすべて一致するような、重み係数行列(X1,N+1,+, X1,N+1,-,…. XN,M,+, XN,M,-)が解として得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【請求項3】
所定のクロスバー構造を用いて、複数の論理変数(x1〜xN)からなる論理式で記述された複数の論理的制約条件をすべて充足できるような論理変数に対する真偽値の割り当てを解とする組合せ最適化問題を最適化問題として解く最適化問題の解探索システムであって、
前記所定のクロスバー構造が、
対向する金属電極CおよびDの間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、さらに固体電解質中に金属電極Eが設けられ、これらの金属電極に電圧を印加すると固体電解質から金属原子が析出して金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを備え;
該原子スイッチでは、電極Eを取り囲む固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極Cに成長したフィラメントを構成する原子数と電極Dに成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、電極Eに対して、金属電極Cまたは金属電極Dへの電圧の印加により、前記金属電極C及び金属電極Dの一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極Cが並行に並べられた層と複数の金属電極Dが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質および金属電極Eが並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されるクロスバー構造であり、
前記組合せ最適化問題を最適化問題として解く際に;
各論理変数の真の値(xi=1)と偽の値(xi=0)を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいて、それぞれ金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面で金属フィラメントが成長した状態に対応させ;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
各論理的制約条件に対し、それに関与する論理変数の現時点での真偽値の割り当てによってはその論理的制約条件を充足できないときは、対応する各綱引き型原子スイッチにおいて金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面に形成された金属フィラメントが収縮するように金属電極D側もしくはC側に電圧を印加する処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【請求項4】
所定のクロスバー構造を用いて、多層のニューラルネットによる学習を行う最適化問題の解探索システムであって、
前記所定のクロスバー構造が、
対向する金属電極CおよびDの間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、さらに固体電解質中に金属電極Eが設けられ、これらの金属電極に電圧を印加すると固体電解質から金属原子が析出して金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを備え;
該原子スイッチでは、電極Eを取り囲む固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極Cに成長したフィラメントを構成する原子数と電極Dに成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、電極Eに対して、金属電極Cまたは金属電極Dへの電圧の印加により、前記金属電極C及び金属電極Dの一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極Cが並行に並べられた層と複数の金属電極Dが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質および金属電極Eが並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されるクロスバー構造であり、
前記学習を行う際に;
第k層にニューロンがN個あり、第k±1層にニューロンがM個ある二層のオートエンコーダーにおいて、第k層のニューロンは第k±1層のすべてのニューロンに結合されており、このとき結合部の数はN×Mになり、各結合部の正の重み係数Xi,j,+と負の重み係数Xi,j,-を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいてそれぞれ金属電極C側またはD側で成長した金属フィラメントの成長高さによって決まるコンダクタンスに対応させ、ここで綱引き型原子スイッチの排他的性質から、各結合部が正の重み係数と負の重み係数を同時にとることはない;
第k層に2値の教師データ(U’1,U’2, …U’N)が与えられており、第k±1層に2値の教師データ(U’N+1,U’N+2,…U’ N+M)が与えられている場合に、オートエンコーダーは、第k層のあるデータが与えられたときに、それらの重み付け線形和に閾値関数fを適用して得られる第k±1層のデータが、第k±1層の教師データと一致するような重み係数行列(X1,N+1,+, X1,N+1,-,…. XN,M,+, XN,M,-)を解として求める処理を行い;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U1, …Ui, …UN)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)
Uj=f(ΣiXi,j,+Ui+Xi,j,−Ui)
ここで、f(x)=1 (x>θ(閾値)のとき);0(それ以外のとき)
が、教師データU’jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極D側もしくはC側に電圧を印加することを第k±1層のすべてのニューロンについて反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に、第k±1層のニューロンのベクトル(UN+1,UN+2, …UN+M)と教師データ(U’N+1,U’N+2, …U’ N+M)がすべて一致するような、重み係数行列(X1,N+1,+, X1,N+1,-,…. XN,M,+, XN,M,-)が解として得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【請求項5】
所定のクロスバー構造を用いて、複数の論理変数(x1〜xN)からなる論理式で記述された複数の論理的制約条件をすべて充足できるような論理変数に対する真偽値の割り当てを解とする組合せ最適化問題を最適化問題として解く最適化問題の解探索システムであって、
前記所定のクロスバー構造が、
金属電極Fとこれに対向する2つの金属電極G1およびG2との間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを備え;
該原子スイッチでは、固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、金属電極G1に成長したフィラメントを構成する原子数と金属電極G2に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、前記金属電極Fに対して、前記金属電極G1側またはG2側への電圧の印加により、前記金属電極G1または金属電極G2の一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントではフィラメントが収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極G1が並行に並べられた層と複数の金属電極G1およびG2が並行に並べられた層の間に複数の固体電解質が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されるクロスバー構造であり、
前記組合せ最適化問題を最適化問題として解く際に;
各論理変数の真の値(xi=1)と偽の値(xi=0)を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいて、それぞれ金属電極G1もしくはG2表面で金属フィラメントが成長した状態に対応させ;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
各論理的制約条件に対し、それに関与する論理変数の現時点での真偽値の割り当てによってはその論理的制約条件を充足できないときは、対応する各綱引き型原子スイッチにおいて金属電極G1もしくはG2表面に形成された金属フィラメントが収縮するように金属電極G2もしくはG1に電圧を印加する処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【請求項6】
所定のクロスバー構造を用いて、多層のニューラルネットによる学習を行う最適化問題の解探索システムであって、
前記所定のクロスバー構造が、
金属電極Fとこれに対向する2つの金属電極G1およびG2との間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを備え;
該原子スイッチでは、固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、金属電極G1に成長したフィラメントを構成する原子数と金属電極G2に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、前記金属電極Fに対して、前記金属電極G1側またはG2側への電圧の印加により、前記金属電極G1または金属電極G2の一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントではフィラメントが収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極G1が並行に並べられた層と複数の金属電極G1およびG2が並行に並べられた層の間に複数の固体電解質が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されるクロスバー構造であり、
前記学習を行う際に;
第k層にニューロンがN個あり、第k±1層にニューロンがM個ある二層のオートエンコーダーにおいて、第k層のニューロンは第k±1層のすべてのニューロンに結合されており、このとき結合部の数はN×Mになり、各結合部の正の重み係数Xi,j,+と負の重み係数Xi,j,-を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいてそれぞれ金属電極G1またはG2で成長した金属フィラメントの成長高さによって決まるコンダクタンスに対応させ、ここで綱引き型原子スイッチの排他的性質から、各結合部が正の重み係数と負の重み係数を同時にとることはない;
第k層に2値の教師データ(U’1,U’2, …U’N)が与えられており、第k±1層に2値の教師データ(U’N+1,U’N+2,…U’ N+M)が与えられている場合に、オートエンコーダーは、第k層のあるデータが与えられたときに、それらの重み付け線形和に閾値関数fを適用して得られる第k±1層のデータが、第k±1層の教師データと一致するような重み係数行列(X1,N+1,+, X1,N+1,-,…. XN,M,+, XN,M,-)を解として求める処理を行い;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U1, …Ui, …UN)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)
Uj=f(ΣiXi,j,+Ui+Xi,j,−Ui)
ここで、f(x)=1 (x>θ(閾値)のとき);0(それ以外のとき)
が、教師データU’jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて金属電極G1もしくはG2表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極G2もしくはG1に電圧を印加することを第k±1層のすべてのニューロンについて反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に、第k±1層のニューロンのベクトル(UN+1,UN+2, …UN+M)と教師データ(U’N+1,U’N+2, …U’ N+M)がすべて一致するような、重み係数行列(X1,N+1,+, X1,N+1,-,…. XN,M,+, XN,M,-)が解として得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の最適化問題の解探索システムであって、
前記固体電解質電極または固体電解質が硫化物系材料、酸化物系材料または高分子系材料である最適化問題の解探索システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の最適化問題の解探索システムであって、
前記金属電極がPt、Cu,Au,TiまたはAgである最適化問題の解探索システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子スイッチを有するクロスバー構造、ならびに学習、組合せ最適化問題および意思決定問題等の最適化問題の解探索システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ニューラルネットワークは生物の神経ネットワークの構造と機能を模倣するという観点から生まれた学習アルゴリズムである。ニューラルネットワークにおける学習は、ニューロンと呼ばれる積和演算素子を結合するシナプスの結合強度の係数ベクトルを、入力データと出力データの望ましい対応関係を表現する状態へと収束させる処理である。これを回路として実装する際は、結合強度は設置される抵抗変化素子のコンダクタンスにより表現される。従来、学習処理は外部システムやそこで実行されるソフトウェアを介して行われ、求まった各々の結合強度を事後的に各抵抗変化素子に書き込むことが多い。すなわち、学習処理は回路の外部で行われ、回路は分類処理のためにだけ使用される。このため、回路を組み込まれた機器が外部との通信を介さずにその場でリアルタイムに学習を行うことが要求される応用場面への展開が難しいという問題があった。一方、学習処理を回路の内部で行う技術も少数存在するが、その場合の学習モデルは、「バックプロパゲーション」のように高度な数値計算を要求するものであったために、学習のための回路が複雑化、大規模化してしまうという問題があり、種々の検討がなされている(特許文献1、2および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−242477号公報
【特許文献2】特開2014−85733号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nanoscale,2016,8,14031-14036
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決し、ニューラルネットが持つパターン認識や特徴抽出などの分類機能と、それを実現するために必要となる学習機能とを、従来よりも簡便で小型かつ低消費電力の回路を用いて実現するハードウェアの構成を提供し、この回路が組み込まれた機器の環境からの入力データを手掛かりに、回路自体がその場でリアルタイムに効率良く学習を行えるようにすることを課題とするものである。さらに詳しくは、本発明は、綱引き型と呼ばれる原子スイッチを有するクロスバー構造、ならびにそれを用いる学習、組合せ最適化問題および意思決定問題等の最適化問題の解探索システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するために、以下の発明を提供するものである。
(1)固体電解質電極と二つの金属電極AおよびBとの間のナノメートルオーダーの間隙において、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチであり;
該原子スイッチでは、固体電解質電極内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極A側に成長したフィラメントを構成する原子数と電極B側に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、固体電解質電極に対して、金属電極A側または金属電極B側への電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極Aが並行に並べられた層と複数の金属電極Bが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質電極が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されることを特徴とするクロスバー構造。
【0007】
(2)対向する金属電極CおよびDの間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、さらに固体電解質中に金属電極Eが設けられ、これらの金属電極に電圧を印加すると固体電解質から金属原子が析出して金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチであり;
該原子スイッチは、金属電極Eの金属電極C側またはD側表面で金属フィラメントが形成された状態にあり、他方の金属電極D側またはC側表面で金属フィラメントが形成されていない状態のときに、金属フィラメントを構成する原子がその総数をおおむね保存するように制限することにより、金属電極D側またはC側への電圧の印加による新たな金属フィラメントの成長が、金属電極C側またはD側に成長した金属フィラメントの収縮を引き起こす綱引き型原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極Cが並行に並べられた層と複数の金属電極Dが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質および金属電極Eが並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されることを特徴とするクロスバー構造。
【0008】
(3)金属電極Fとこれに対向する2つの金属電極G1およびG2との間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチであり;
該原子スイッチでは、固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極G1に成長したフィラメントを構成する原子数と電極G2に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、電極Eに対して、金属電極G1側またはG2側への電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントではフィラメントが収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチであり;
該綱引き型原子スイッチは複数の金属電極G1が並行に並べられた層と複数の金属電極G1およびG2が並行に並べられた層の間に複数の固体電解質が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成されることを特徴とするクロスバー構造。
【0009】
(4)固体電解質電極または固体電解質が硫化物系材料、酸化物系材料または高分子系材料である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のクロスバー構造。
【0010】
(5)金属電極A〜G2がPt、Cu,Au,TiまたはAgである上記(1)〜(4)のいずれかに記載のクロスバー構造。
【0011】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のクロスバー構造を用いて最適化問題の解を探索するシステムであり;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
すべてのクロスバー結節点の綱引き型原子スイッチの金属フィラメント成長状態に応じて、所定の規則に従い、個々の金属フィラメントの成長と収縮を誘導する電圧の印加状態を決定する処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【0012】
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のクロスバー構造を用いて、複数の論理変数(x
1〜x
N)からなる論理式で記述された複数の論理的制約条件をすべて充足できるような論理変数に対する真偽値の割り当てを解とする組合せ最適化問題を最適化問題として解く際に;
各論理変数の真の値(x
i=1)と偽の値(x
i=0)を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいて、それぞれ固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面で金属フィラメントが成長した状態に対応させ;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;
各論理的制約条件に対し、それに関与する論理変数の現時点での真偽値の割り当てによってはその論理的制約条件を充足できないときは、対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面に形成された金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加する処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【0013】
(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のクロスバー構造を用いて、多層のニューラルネットによる学習を行う際に;
第k層にニューロンがN個あり、第k±1層にニューロンがM個ある二層のオートエンコーダーにおいて、第k層のニューロンは第k±1層のすべてのニューロンに結合されており、このとき結合部の数はN×Mになり、各結合部の正の重み係数X
i,j,+と負の重み係数X
i,j,-を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいてそれぞれ金属電極A側またはB側で成長した金属フィラメントの成長高さによって決まるコンダクタンスに対応させ、ここで綱引き型原子スイッチの排他的性質から、各結合部が正の重み係数と負の重み係数を同時にとることはない;
第k層に2値の教師データ(U’
1,U’
2, …U’
N)が与えられており、第k±1層に2値の教師データ(U’
N+1,U’
N+2,..U’
N+M)が与えられている場合に、オートエンコーダーは、第k層のあるデータが与えられたときに、それらの重み付け線形和に閾値関数fを適用して得られる第k±1層のデータが、第k±1層の教師データと一致するような重み係数行列(X
1,N+1,+, X
1,N+1,-,…X
N,M,+, X
N,M,-)を解として求める処理を行い;
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提として;第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U
1,…U
i,…U
N)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)
U
j=f(Σ
iX
i,j,+U
i+X
i,j,−U
i)
ここで、f(x)=1 (x>θ(閾値)のとき);0(それ以外のとき)
が、教師データU’
jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加することを第k±1層のすべてのニューロンについて反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;
最終的に、第k±1層のニューロンのベクトル(U
N+1,U
N+2,..U
N+M)と教師データ(U’
N+1,U’
N+2,…U’
N+M)がすべて一致するような、重み係数行列(X
1,N+1,+, X
1,N+1,-,… X
N,M,+, X
N,M,-)が解として得られることを特徴とする最適化問題の解探索システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、学習、組合せ最適化問題および意思決定問題等の最適化問題の解探索をリアルタイムで実行できるハードウェアシステムを従来よりも簡便で小型かつ低消費電力で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のクロスバー構造の一例を示す模式図。
【
図2】本発明のクロスバー構造を用いて、ニューラルネットによる学習を綱引き型原子スイッチによるオートエンコーダーで実装した例を示す。
【
図3】本発明のクロスバー構造とオートエンコーダーでの実装を示す平面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(クロスバー構造1)
本発明のクロスバー構造は、1つの実施態様において、固体電解質電極と二つの金属電極AおよびBとの間のナノメートルオーダー、たとえば50nm程度以下、好ましくは10nm以下、の間隙において、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチからなる。
【0017】
固体電解質電極の固体電解質は、外部から加えられた電場により金属イオンが移動し、金属原子として析出および再イオン化し得る固体であり、金属イオンとしては1価の銀イオン、銅イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンおよび2価の鉄イオン、ニッケルイオン等が挙げられ、たとえばAg
2S,Cu
2S等の硫化物系材料、酸化タンタル、ジルコニア等の酸化物系材料、上記金属イオンを含むポリエチレンオキシド等の高分子系材料が挙げられる。
【0018】
金属電極は、Pt、Cu,Au,Ti、Ag等が好適に使用される。
【0019】
印加電圧は、通常1mV〜1V程度、好ましくは10〜500mVと小さいので、消費電力を小さくし得る。
【0020】
その原子スイッチでは、固体電解質電極内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極A側に成長したフィラメントを構成する原子数と電極B側に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、固体電解質電極に対して、金属電極A側または金属電極B側への電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチである。
【0021】
上記の「原子数の総和を一定に」することは、1箇所の金属フィラメントを構成するが、外部から新たに供給されないようにすることにより、金属原子数を実質的に一定に保つことを意味する。そのためには、たとえば、後述する
図1に示されるような複数の金属フィラメントの間で金属原子のやり取りがないように、隔壁を設ける等の方式を採用し得るが、これに限定さるものではなく、金属原子数の若干の増減も本発明の目的に適うかぎり許容される。
【0022】
このように、電圧の印加により金属フィラメントの成長と収縮が制御され、固体電解質電極表面から金属原子が析出し、2つの電極間に金属フィラメントが形成されて架橋し原子スイッチがオンとなる。一方、析出した金属原子が固体電解質電極内に再イオン化して溶け込み、金属フィラメントが消滅してスイッチがオフとなる。
【0023】
本発明の綱引き型原子スイッチは、複数の金属電極Aが並行に並べられた層と複数の金属電極Bが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質電極が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点(すなわち、交点)において構成される。
【0024】
図1は、本発明のクロスバー構造の一例を示す模式図である。1Aは金属電極A(Pt)、1Bは金属電極B(Pt)、そして2は固体電解質電極(Ag
2S)、3は析出した金属(Ag)フィラメントを示す。重み係数行列X
1,7,+, X
1,7,-等は、後述する重み係数行列を示す。
本発明のクロスバー構造は、既存の微細加工技術を組み合わせて用いて作製し得る。
【0026】
本発明のクロスバー構造は、もう1つの実施態様において、対向する金属電極C(たとえばPt)およびD(たとえばPt)の間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、さらに固体電解質中に金属電極E(たとえばAg)が設けられ、これらの金属電極に電圧を印加すると固体電解質から金属原子が析出して金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを含む。ここで、固体電解質、金属電極は、前記と同様である。
【0027】
その原子スイッチでは、電極Eを取り囲む固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極Cに成長したフィラメントを構成する原子数と電極Dに成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、電極Eに対して、金属電極Cまたは金属電極Dへの電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントは収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチである。
【0028】
ここで、「フィラメントを構成する原子数の総和を一定に」することは、前記のとおりである。
【0029】
本発明の綱引き型原子スイッチは複数の金属電極Cが並行に並べられた層と複数の金属電極Dが並行に並べられた層の間に複数の固体電解質および金属電極Eが並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成される。
【0030】
(クロスバー構造3)
本発明のクロスバー構造は、さらなる1つの実施態様において、金属電極F(たとえばPt)とこれに対向する2つの金属電極G1(たとえばPt)およびG2(たとえばPt)との間のナノメートルオーダーの間隙が固体電解質で充填され、金属電極に電圧を印加すると固体電解質電極表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長することを利用する原子スイッチを含む。金属電極G1およびG2は、好適には間隔をおいて並置される。ここで、固体電解質、金属電極は、前記と同様である。
【0031】
その該原子スイッチでは、固体電解質内に含まれる金属原子数を一定の値に制限し、電極G1に成長したフィラメントを構成する原子数と電極G2に成長したフィラメントを構成する原子数の総和を一定にすることで、電極Eに対して、金属電極G1側またはG2側への電圧の印加により、一方の金属電極側に新たな金属フィラメントが成長する場合、他方の金属フィラメントではフィラメントが収縮するという綱引き型の動作をする原子スイッチである。
【0032】
ここで、「フィラメントを構成する原子数の総和を一定に」することは、前記のとおりである。
【0033】
そして本発明の綱引き型原子スイッチは複数の金属電極G1が並行に並べられた層と複数の金属電極G1およびG2が並行に並べられた層の間に複数の固体電解質が並行に並べられた層が挟まれてなるクロスバー構造の結節点において構成される。
【0034】
(最適化問題の解探索するシステム)
本発明の一つの実施態様において、本発明のクロスバー構造を用いて、最適化問題の解を探索するシステムが提供される。最適化問題としては、学習(誤差最小化問題)、充足可能性問題(SAT: Satisfiability Problem)(充足制約最大化問題;組合せ最適化問題)および意思決定問題(報酬獲得最大化問題)が知られている。
【0035】
本発明の最適化問題の解を探索するシステムにおいて、金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提とする。
【0036】
すべてのクロスバー結節点の綱引き型原子スイッチの金属フィラメント成長状態に応じて、所定の規則に従い、個々の金属フィラメントの成長と収縮を誘導する電圧の印加状態を決定する処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ;最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られる。
【0037】
上記の「確率を適切な値に調節」する一例を挙げると、印加電圧を、金属フィラメントの成長が確実に生じる値よりも少し低い値にシフトして設定することで、フィラメントの成長は確率的に生じることになるが、このシフトの程度を調節することにより、揺らぎ動作確率を適切な値(すなわち、所望の値)に調節し得る。
【0038】
ここで、「反復して適用する」についてさらに詳述する。
(a)所定の規則に従い、個々の金属フィラメントの成長と収縮を誘導する電圧の印加状態を決定する処理を行い、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて、固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加する処理を行う。
(b)(a)の処理をすべての(M個の)ニューロンについて実行する(同時並行的に実行されることが望ましい)。
(c)(b)の処理を平衡状態に達するまでT回反復する。
【0039】
上記の所定の規則としては、バウンスバックルールが好適である。バウンスバックルールは、指数関数的に成長する状態空間において、たとえば制約を充足する状態を探索するために、複数の状態変数が、制約を充足できない状態への遷移を抑制する「バウンスバックルール」ルールを呼ばれる制約規制によるフィードバック制御を受けながら、確率的な「揺らぎ」を伴って時間発展する。このように、試行錯誤しながら状態空間を探索する過程で、制約規則による抑制を受けないような平衡状態に到達するときに安定化し、制約充足解が得られることになる。
【0040】
本発明の一つの実施態様において、本発明のクロスバー構造を用いて、複数の論理変数(x
1〜x
N)からなる論理式で記述された複数の論理的制約条件(例えば(x
i∨x
j∨¬x
k))をすべて充足できるような論理変数に対する真偽値の割り当てを解とする組合せ最適化問題を最適化問題として解く際システムが提供される。
【0041】
各論理変数の真の値(x
i=1)と偽の値(x
i=0)を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいて、それぞれ固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面で金属フィラメントが成長した状態に対応させる。
【0042】
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提とする。
【0043】
各論理的制約条件(例えば(x
i∨x
j∨¬x
k))に対し、それに関与する論理変数の現時点での真偽値の割り当てによってはその論理的制約条件を充足できないとき(例えばx
i=0, x
j=0, x
k=1)は、対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面に形成された金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加する(x
i=0→1, x
j=0→1, x
k=1→0)処理を行い、この処理を反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索が行われ、最終的に金属フィラメント成長状態が変化しないような平衡状態に達したときに最適化問題の解が得られる。
【0044】
上記の「確率を適切な値に調節」は、前記のとおりである。
【0045】
ここで、「処理を反復して適用する」についてさらに詳述する。論理的制約条件が、たとえば 制約条件1, 制約条件2, ...,制約条件SまでS個あるとする。
(a)各制約条件sについて、それに関与する論理変数の現時点での真偽値の割り当てによってはその論理的制約条件sを充足できないときは、対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面に形成された金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加する処理を行う。
(b)(a)の処理を、S個のすべての制約条件について実行する(同時並行的に実行されることが望ましい)。
(c)(b)の処理を、平衡状態に達するまでT回反復する。
【0046】
さらに、組合せ最適化問題におけるバウンスバックルールの別の一例を挙げる。
φ=(x
1∨¬x
2) ∧(¬x
2∨x
3∨¬x
4) ∧(x
1∨x
3) ∧(x
2∨¬x
3) ∧(x
3∨¬x
4) ∧(¬x
1∨x
4)という6個の節の論理積によって構成される論理式は、φ=1を実現できる唯一の解(x
1,x
2,x
3,x
4)=(1,1,1,1)を有する。ここで、システムがx
1=0という割り当てを試みたとすると、φの第1の節(x
1∨¬x
2)を1とするには「x
2が1であってはいけない」。なぜなら、x
2=1のとき、第1の節は偽(0)となり、論理式全体を充足できない(φ=0)からである。同様に、第3の節(x
1∨x
3)を1とするには、「x
3が0であってはいけない」。このように、論理式から各変数に応じたバウンスバックルールに基づく制御を繰り返し適用して解探索する。
【0047】
本発明の一つの実施態様において、本発明のクロスバー構造を用いて、ニューラルネットによる学習を行う際に、以下のように最適化問題の解探索システムを提供し得る。
【0048】
第k層にニューロンがN個あり、第k±1層にニューロンがM個ある二層のオートエンコーダーにおいて、第k層のニューロンは第k±1層のすべてのニューロンに結合されており、このとき結合部の数はN×Mになり、各結合部の正の重み係数X
i,j,+と負の重み係数X
i,j,-を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいてそれぞれ金属電極A側またはB側で成長した金属フィラメントの成長高さによって決まるコンダクタンスに対応させる。ここで綱引き型原子スイッチの排他的性質(綱引き動作)から、各結合部が正の重み係数と負の重み係数を同時にとることはない。
【0049】
ここで、第k±1層において、第k+1層は、第k層の状態から第k+1層の状態を計算する順方向の処理を意味するが、オートエンコーダーの処理は、第k+1層の状態から第k層の状態を計算する逆方向の処理も繰り返し得るので、この場合も含めて第k±1層と表し、深層学習で多層化されたシステムを考えることができる。
【0050】
第k層に2値の教師データ(U’
1,U’
2, …U’
N)が与えられており、第k±1層に2値の教師データ(U’
N+1,U’
N+2, …U’
N+M)が与えられている場合に、オートエンコーダーは、第k層のあるデータが与えられたときに、それらの重み付け線形和に閾値関数fを適用して得られる第k±1層のデータが、第k±1層の教師データと一致するような重み係数行列(X
1,N+1,+, X
1,N+1,-,…. X
N,M,+, X
N,M,-)を解として求める処理を行う。
【0051】
金属電極に電圧を印加した際には、固体電解質電極表面、あるいは金属表面で金属フィラメントが成長するが、原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方は確率的なばらつきを持ち、その確率を適切な値に調節可能にすることを前提とする。
【0052】
第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U
1, …U
i, …U
N)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)
U
j=f(Σ
iX
i,j,+U
i+X
i,j,−U
i)
ここで、f(x)=1 (x>θ(閾値)のとき);0(それ以外のとき)
が、教師データU’
jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加することを第k±1層のすべてのニューロンについて反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索を行う。
【0053】
ここで、「反復して適用する」についてさらに詳述する。
(a)第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U
1, …U
i, …U
N)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)が、教師データU’
jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて、固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面、金属電極Eの金属電極C側もしくはD側表面、または金属電極G1もしくはG2表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側、金属電極D側もしくはC側、または金属電極G2もしくはG1に電圧を印加する処理を行う。
(b)(a)の処理を第k±1層のすべての(M個の)ニューロンについて実行する(同時並行的に実行されることが望ましい)。
(c)(b)の処理を平衡状態に達するまでT回反復する。
【0054】
このようにして、最終的に、第k±1層のニューロンのベクトル(U
N+1,U
N+2, …U
N+M)と教師データ(U’
N+1,U’
N+2, …U’
N+M)がすべて一致するような、重み係数行列(X
1,N+1,+, X
1,N+1,-,…. X
N,M,+, X
N,M,-)が解として得られる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
クロスバー構造を用いて、ニューラルネットによる学習を綱引き型原子スイッチによるオートエンコーダーで下記のように実装した例を
図2に示す。ただし、簡略化のために、k層にニューロンがN=4個あり、k+1層にニューロンがM=3個あるような二層のオートエンコーダーを示す。
【0056】
図3は、本発明のクロスバー構造とオートエンコーダーでの実装を示す平面模式図である。抵抗の記号において、太線と細線はそれぞれ金属フィラメントが成長と収縮した状態を表す。
【0057】
第k層にニューロンがN個あり、第k±1層にニューロンがM個ある二層のオートエンコーダーにおいて、第k層のニューロンは第k±1層のすべてのニューロンに結合されており、このとき結合部の数はN×Mになり、各結合部の正の重み係数X
i,j,+と負の重み係数X
i,j,-を、クロスバー結節点の各綱引き型原子スイッチにおいてそれぞれ金属電極A側またはB側で成長した金属フィラメントの成長高さによって決まるコンダクタンスに対応させた。ここで綱引き型原子スイッチの排他的性質から、各結合部が正の重み係数と負の重み係数を同時8とることはない。
【0058】
第k層に2値の教師データ(U’
1,U’
2, …U’
N)が与えられており、第k±1層に2値の教師データ(U’
N+1,U’
N+2, …U’
N+M)が与えられている場合に、オートエンコーダーは、第k層のあるデータが与えられたときに、それらの重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる第k±1層のデータが、第k±1層の教師データと一致するような重み係数行列(X
1,N+1,+, X
1,N+1,-,…. X
N,M,+, X
N,M,-)を解として求める処理を行った。
【0059】
ここで、金属電極に電圧を印加した際に通常は固体電解質電極表面または金属表面から金属原子が析出し金属フィラメントが成長するが、電圧を印加した場合でも原子スケールの揺らぎにより金属フィラメントの成長の仕方に確率的なばらつきが生じ、その確率を適切な値に調節できることを前提とする。
【0060】
第k±1層のニューロンjに対し、それと結合されている第k層のすべてのニューロンiに対する状態値(U
1, …U
i, …U
N)の重み付け線形和に閾値関数f(x)を適用して得られる値(0または1)
U
j=f(Σ
iX
i,j,+U
i+X
i,j,−U
i)
ここで、f(x)=1 (x>θ(閾値)のとき);0(それ以外のとき)
が、教師データU’
jと一致しないときは、クロスバー結節点の対応する各綱引き型原子スイッチにおいて固体電解質電極の金属電極A側もしくはB側表面で成長した金属フィラメントが収縮するように金属電極B側もしくはA側に電圧を印加することを第k±1層のすべてのニューロンについて行った。この処理を平衡状態に達するまでT回反復した。このように反復して適用することにより、確率的な挙動により状態空間の探索を行った。
【0061】
最終的に、第k±1層のニューロンのベクトル(U
4+1,U
4+2,U
4+3)と教師データ(U’
4+1,U’
4+2,U’
4+3)がすべて一致するような、重み係数行列(X
1,N+1,+, X
1,N+1,-,…. X
N,M,+, X
N,M,-)が解として得られた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、ニューラルネットが持つパターン認識や特徴抽出などの分類機能と、それを実現するために必要となる学習機能とを、従来よりも簡便で小型かつ低消費電力の回路を用いて実現するハードウェアの構成を提供し得、ニューラルネット機能を有するコンピュータへの応用等が期待される。