特許第6974980号(P6974980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974980細胞処理試薬及び顕微鏡標本を作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974980
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】細胞処理試薬及び顕微鏡標本を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20211118BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20211118BHJP
   G02B 21/34 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   G01N1/28 U
   G01N1/28 V
   G01N1/28 J
   G01N1/28 F
   G01N33/48 Q
   G02B21/34
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-159379(P2017-159379)
(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公開番号】特開2019-15707(P2019-15707A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-132448(P2017-132448)
(32)【優先日】2017年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517238732
【氏名又は名称】別所 泰子
(73)【特許権者】
【識別番号】395011539
【氏名又は名称】株式会社保健科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】別所 泰子
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0287475(US,A1)
【文献】 特開2007−202472(JP,A)
【文献】 特開昭52−089374(JP,A)
【文献】 特開2004−053491(JP,A)
【文献】 特開平02−129548(JP,A)
【文献】 特開昭61−218517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
G01N 33/48−33/98
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルセルロース及び/又はグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを含む細胞診用細胞処理試薬。
【請求項2】
ポリエチレングリコール、並びに、ヒドロキシプロピルセルロース及び/又はグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを含む細胞診用細胞処理試薬。
【請求項3】
ポリエチレングリコールは、重量平均分子量400〜4000である請求項2に記載の細胞診用細胞処理試薬。
【請求項4】
ヒドロキシプロピルセルロース及びグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドをともに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞診用細胞処理試薬。
【請求項5】
アルコールをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞診用細胞処理試薬。
【請求項6】
細胞浮遊液と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞処理試薬とを混合するステップと、
生じた沈渣をスライドガラスに塗抹乾燥するステップと
を含む、細胞診用の顕微鏡標本を作製する方法。
【請求項7】
細胞診用細胞処理試薬が、ヒドロキシプロピルセルロースを含み、細胞浮遊液と、細胞処理試薬との混合液におけるヒドロキシプロピルセルロース濃度が、0.01〜1.0%w/vである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞診用細胞処理試薬が、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを含み、細胞浮遊液と、細胞処理試薬との混合液におけるグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド濃度が、0.002〜0.1%w/vである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
細胞浮遊液と、細胞処理試薬との混合液におけるアルコール濃度が、10〜70v/v%%である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は臨床細胞検査等の分野に用いられる細胞処理試薬及び細胞固定液、並びに顕微鏡標本を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床細胞検査学等においては、細胞の形態や構造を観察するため、或いは細胞の数やその種類を検査するために、顕微鏡を用いた細胞の観察が広く行われている。
特に臨床細胞診検査は、病理組織検査に比べ検体の採取に制約が少なく、広範な対象に適用できる。更に患者に対する負荷が軽く、標本作製が簡便・安価であること等の理由から集団検診、日常検査、精密検査等の広範囲において各種疾患の鑑別や疾患の程度の判定、治療効果の判定、経過観察等のために行われる。
【0003】
また、近年子宮頚部癌等の発癌機構の一部が明らかになり、早期発見のため臨床細胞学的検査(細胞診検査)と分子生物学的検査(HPV−DNA検査)が併用されるようになってきた。そのため子宮頚部の細胞を採取後、液状細胞固定液中に保存し、細胞診検査とHPV−DNA検査の両方が測定可能なLBC法(liquid−based−cytology、液状処理細胞診法)が広まってきた。LBC法によれば細胞診標本を作製する際の塗抹不良や乾燥等の技術的エラーを減少させる事ができるとされている。
【0004】
従来の直接塗抹の方法では、尿、体腔液等の液状検体の場合、遠心後沈渣をスライドガラスに塗り広げるか、ストリッヒ標本にするか、機器によりオートスメアにするか、フィルターを用いて貼り付ける等にて標本を作製し、その後、乾燥しないうちに濡れたままで95%アルコールに浸すか、又は滴下固定液、スプレー固定等を用いて湿固定することにより行われる(非特許文献1及び2)。しかし、スライドガラス等からの細胞剥離が強いため、細胞が完全に剥がれ落ちてしまうこともある。細胞の剥離防止のため、コーティングスライドを用いたり、直接塗抹スライドグラスをアルコール等で固定後ポリエチレングリコールを含むスプレー固定液をさらにかけて一旦乾燥させる等が必要となることが多い(特許文献1及び2)。しかし、それでもなお、染色過程でのガラス面からの細胞剥離が問題となる。
【0005】
また、子宮頚部擦過や穿刺物等の様に材料が粘稠で細胞が多量に得られる場合や、反対に病変が乾燥気味であったり、硬かったりして細胞が少数しか得られない場合でも同様に、直接塗抹法が選択される。しかし、細胞の塗抹が厚すぎる又は薄すぎる場合、均一でない場合、細胞が初めから乾燥している場合、ガラス面に付着せず、既に剥離している場合には、濡れたままで固定する湿固定が出来ず、剥離してしまったり、均一な固定が得られないために固定不良標本になったり、安定した均一な染色性が得られない等の問題が生じる。
【0006】
一方、LBC法は、検体採取後採取具から細胞を液状の固定液中に直接保存し、その固定済み細胞を使ってスライドガラスに塗抹する。そのため、LBC法では乾燥がなく、比較的均一に集細胞して塗抹でき、不適正標本の割合が減少するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−31688号公報
【特許文献1】特開2007−202472号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】細胞診標本作成マニュアル(体腔液)、2008年8月1日発行 第1版 細胞検査士会発行
【非特許文献2】細胞診標本作成マニュアル(泌尿器)、2008年8月1日発行 第1版 細胞検査士会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、細胞の乾燥がなく、塗抹が均一でしかも細胞剥離がほとんどなく、染色性も均一で鮮明であるため、細胞診スクリーニングが正確で迅速に行える標本を作成するための試薬であって、標本作製が専用の自動化機器を使用しなくても用手法にて、どこでも簡便迅速にしかも安価で行える細胞処理試薬又は細胞固定剤を提供することを目的とする。また、上記標本を作製するための、顕微鏡標本の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、増粘多糖類を含む細胞処理試薬、並びに、ポリエチレングリコール(PEG)及び増粘多糖類を含む細胞処理試薬が提供される。増粘多糖類は細胞がガラス上から剥離することを防ぐ効果があり、ポリエチレングリコールは標本を乾燥させる際に保湿状態を保つ効果が有ると考えられる。PEGは、検体の種類、状態及び染色法等により、必要に応じて細胞処理試薬中に含ませることができる。
増粘多糖類としては、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース濃度は、0.01w/v%〜1.0/v%が好ましい。
上記細胞処理試薬には、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドをさらに含んでもよい。グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド濃度は、0.002w/v%〜0.1w/v%が好ましい。本発明の細胞処理試薬は、既固定細胞を含む検体を処理することにより、細胞の剥離、乾燥がほとんどなく、固定、塗抹、染色性が均一な優れた標本を作製することができる。なお、上記ヒドロキシプロピルセルロース濃度及びグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド濃度を、当業者は、検体の種類や状態、染色方法等に応じて任意に変更可能である。例えば、血液や細胞塊を含む検体の場合には、高い濃度のヒドロキシプロピルセルロースやグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを使用することにより、剥離等なく標本を作製することができる。
【0011】
上記細胞処理試薬は、細胞固定のためのアルコールをさらに含んでもよく、使用されるアルコールは、エタノールが好ましい。エタノール濃度は、検体と混ぜ合わせた後の濃度として10〜70v/v%となるよう調整することが好ましい。対象となる検体の種類や固定の程度に併せて、細胞処理試薬中のアルコール濃度を適宜変更することができる。例えば、固定済みの検体の場合には、低濃度のアルコールを含む細胞処理試薬を使用し、未固定又は固定の程度が低い検体の場合には、高濃度のアルコールを含む細胞処理試薬を使用することができる。アルコールを含む本発明の細胞処理試薬は、未固定検体を固定するのみならず、細胞の剥離、乾燥がほとんどなく、固定、塗抹、染色性が均一な優れた標本を作製することができる。
上記細胞処理試薬に含まれるポリエチレングリコールは、重量平均分子量400〜4000のものが好ましい。
【0012】
本発明のさらに別の態様としては、細胞浮遊液と上記細胞処理試薬とを混合するステップと、生じた沈渣をスライドガラスに塗抹乾燥するステップとを含む、顕微鏡標本を作製する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、含まれる細胞が少数でも、細胞の剥離、乾燥がほとんどなく、固定、塗抹、染色性が均一な優れた標本を、短時間に通常のスライドガラス上に低コストで作製できる。また、その方法は単純であり、廃棄物も少ない。そのため、例えば、婦人科子宮頚部癌のリスク判定のためのHPV−DNAテスト用と共通の検体を利用して顕微鏡標本を作成できる。
また、未固定の体液サンプル、例えば、尿を簡便に固定処理して、低コストで短時間に細胞の剥離、乾燥がほとんどない、固定、塗抹、染色性が均一な優れた標本を作製できる。
【0014】
本発明の細胞処理試薬は、検体と混合した後の濃度が10〜70%程度のアルコール水溶液となるような細胞固定液としても使用することが可能である。本発明の細胞処理試薬及び処理液以外に必要となるのは、汎用されているスライドガラス(例えば、未処理のスライドガラス)、スピッツ、ピペット又はスポイト等であり、専用の器具を必要としない点で、例えば、尿などの液状検体などでは、従来のLBC標本の作製と比べて経済的である。
【0015】
従来の婦人科LBC標本でも、バックグラウンドの細菌、壊死物質、白血球が幾分除かれ細胞が観察し易くなっているが、本発明の方法では、細胞の壊死、白血球、細菌、結晶又は細胞集塊等を調節して塗抹することができ、組織の構築情報、バックグラウンド等についても詳細に観察することができる。そのため、例えば、従来の婦人科LBC標本と比べて、より多くの情報が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1において作成されたスライドグラスを示す写真である。
図2】実施例2において作成されたスライドグラスを示す写真である。
図3】実施例3において作成されたスライドグラスを示す写真である。
図4】実施例4において作成されたスライドグラスを示す写真である。
図5】実施例5において作成されたスライドグラスを示す写真である。
図6】実施例6において作成されたスライドグラスを示す写真である。
図7】実施例7において作成されたスライドグラスを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、増粘多糖類を含む細胞処理試薬、並びに、ポリエチレングリコール(PEG)及び増粘多糖類を含む細胞処理試薬に関する。また、本発明の細胞処理試薬は、細胞固定のためにアルコールをさらに含むことができる。アルコールをさらに含む細胞処理試薬は、特に、未固定検体又は固定の程度が低い検体に用いることができる。
【0018】
本発明の細胞処理試薬に含まれるアルコールとしては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等を使用することができる。これらのうち、エタノール及びメタノールが特に好ましい。
細胞処理試薬に含まれるアルコール濃度は、検体の種類、形状、検体に含まれる細胞の量によって、任意に変更可能である。例えば、検体と混合後の濃度として、約10〜70v/v%、好ましくは約20〜50v/v%とすることができる。
【0019】
水は、PEG、多糖類及びアルコールを所定の濃度とするための希釈に必要な分だけ、細胞処理試薬に添加する。希釈するための水として、蒸留水等を使用することができる。
【0020】
本発明の細胞処理試薬に含まれるPEGとしては、重量平均分子量400〜4000程度のPEGを使用することができる。例えば、PEG1540を使用することができる。
細胞処理試薬に含まれるPEG濃度は、最終濃度として、約1〜10w/v%とすることができ、例えば、2〜3w/v%とすることができる。
【0021】
本発明の細胞処理試薬に含まれる増粘多糖類としては、公知の任意の増粘多糖類を使用することができ、例えば、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、カラギーナン、グァーガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、ダイユータンガム、ペクチン、ヒプロメロース及び又はこれらの誘導体を使用することができる。増粘多糖類は、複数種の増粘多糖類を混合して使用することができる。特に、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。また、ヒドロキシプロピルセルロースと組み合わせて、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを使用することができる。
【0022】
本発明の細胞処理試薬に含まれる増粘多糖類の濃度は、検体の種類、形状、検体に含まれる細胞の量によって、任意に変更可能であるが、最終濃度として合計で、約0.001〜5.0w/v%とすることができる。細胞処理試薬は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースを最終濃度として、約0.01w/v%〜1.0w/v%含む。また、細胞処理試薬は、例えば、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを最終濃度として、約0.002w/v%〜0.1w/v%さらに含む。当業者は、検体の種類や状態、染色法等に応じて、これらの濃度を任意に変更可能である。
【0023】
使用可能な細胞診検体の採取方法は特に限定されず、任意の方法にて得られた材料が可能である。例えば、排出、分泌、洗浄、穿刺、吸引、擦過などの方法により、検体を採取することができる。
【0024】
未固定の液状の検体の場合には、本発明のアルコールを含有する細胞処理試薬を、遠心後の沈渣に混和して固定処理を行うことができる。擦過物や穿刺吸引液等により得られる検体の場合には、本発明のアルコールを含有する細胞処理試薬に検体を直接混和して30分以上固定する方法が挙げられる。細胞を固定するためには、HPV−DNAテストと共用のLBC用固定液、市販の細胞固定液、10〜70%程度のアルコール液及び本発明のアルコールを含有する細胞処理試薬等、任意の細胞固定液が使用でき、特に限定されない。本発明のアルコールを含有する細胞処理試薬を使用した場合には、検体を固定できると同時に、スライドガラスからの検体をはがれ難くする効果をも付与できるため、特に好ましい。
【0025】
液状の検体には、体腔液、尿、消化液、Cyst液、洗浄液(例えば、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄など)を例示することができる。
【0026】
以下に、固定後の細胞をスライドガラス標本とする一般的な方法の例を説明するが、当業者は、対象となる検体などに応じて、標本作成法を変更可能である。5ml用の突底スピッツに本発明の細胞処理試薬を1ml程度分注しておき、固定済み細胞浮遊液を4ml程度加える。含まれる細胞量に応じて液量を適宜調節することができる。別法として、細胞浮遊液に、細胞処理試薬を滴下することにより細胞を処理することができる。
【0027】
次に、遠心し沈渣を得る。子宮頚部のLBC標本の様に細菌、白血球を幾分除いて標本にしたい場合は、2000rpmにセットし電源をONにして2〜5秒程度、尿などの液状検体の細胞の少ない検体の場合や、細菌、結晶、壊死物質、白血球等を観察する場合、必要に応じて1〜3分程度遠心し、上清を除き沈渣を得る。
【0028】
試薬処理後の固定細胞沈渣をピペットにて混和後、コーティングしていない通常のスライドガラスに短軸に帯状に塗沫し、冷風等で完全に乾燥させる。短軸に塗抹するのは、通常染色機等は長軸に上下動して染色するため横短軸帯状に塗抹する事により均一な染色性が得られる。
【0029】
乾燥した標本は95%アルコールで20分程再固定し、必要に応じ、パパニコロウ染色、粘液染色等の特殊染色をする。
【0030】
以下に実施例に基づいて本発明を説明するが、下記の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【実施例】
【0031】
<実施例1:子宮頚部の擦過(ブラシ検体)の固定サンプル>
子宮頚部の擦過ブラシ検体を市販の固定液(LBC固定液、ThinPrep(登録商標)、ホロジックジャパン株式会社製)に入れて懸濁し、そのうち約2mlをサンプル液とした。このサンプル液に、PEG1500、Klucel(商標)ヒドロキシプロピルセルロース(アシュランド スペシャルティ イングリーディエンツ(ASI)社製)及びグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド(三晶株式会社製、製品名JAGUAR C−162)、エタノール(武藤化学株式会社製、病理染色用エタノール100)を含む試薬2mlを加えて遠心操作した。ピペットを用いて、得られた沈渣をスライドガラスに塗りつけ、乾燥後、パパニコロウ染色をした。
混合液の組成は、以下の通りである。PEG1500、ヒドロキシプロピルセルロース及びグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドは、最終濃度がそれぞれ、3w/v%、0.1w/v%、0.01w/v%となるように蒸留水で希釈した。エタノールは、最終濃度が0v/v%、10v/v%、20v/v%、30v/v%、40v/v%又は50v/v%となるように添加した。
作成したスライドの写真を図1に示す。図1中、左から、エタノールの最終濃度が0v/v%、10v/v%、20v/v%、30v/v%、40v/v%又は50v/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性、染色性、細胞の散在性、細胞の鮮明さ)、総合評価を表1にまとめた。
【0032】
【表1】
試薬:上記濃度のエタノール、3w/v%PEG、0.1w/v%ヒドロキシプロピルセルロース、0.01w/v%グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを含む。
【0033】
上記の表において、サンプルのスライドからのはがれ難さを、○:はがれ難い、△:ややはがれ難い、×:はがれ易いにより示した。また、顕微鏡下による見易さ(顕鏡容易性)は、○:見易い、△:やや見易い、×:見辛いとして示し、はがれ難さと見易さを総合した評価として、○:優れている、△:良好、×:劣る、とした。以下の表でも、同様とする。
【0034】
<実施例2:尿(扁平上皮、尿路上皮)の未固定サンプル>
尿を遠心操作して得られた沈渣1滴と、2mlの下記の試薬を混ぜ合わせ、30分静置して固定した。その後さらに遠心操作し、得られた沈殿物をスライドガラスに塗沫し、パパニコロウ染色をした。
試薬の組成は、以下の通りである。PEG1500、ヒドロキシプロピルセルロース及びグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドは、最終濃度がそれぞれ、3w/v%、0.1w/v%、0.01w/v%となるように蒸留水で希釈した。エタノールは、最終濃度が0v/v%、10v/v%、20v/v%、30v/v%、40v/v%又は50v/v%となるように添加した。
作成したスライドの写真を図2に示す。図2中、左から、エタノールの最終濃度が0v/v%、10v/v%、20v/v%、30v/v%、40v/v%又は50v/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性)、総合評価を表2にまとめた。
【0035】
【表2】
試薬:上記濃度のエタノール、3w/v%PEG、0.1w/v%ヒドロキシプロピルセルロース、0.01w/v%グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを含む。
【0036】
<実施例3:子宮頚部の擦過(ブラシ検体)の固定サンプル>
実施例1同様に作成した約2mlのサンプル液に、試薬2mlを加え混合液として遠心操作した。ピペットを用いて、得られた沈渣をスライドガラスに塗りつけ、パパニコロウ染色をした。
サンプルと試薬の混合液の組成は、以下の通りである。エタノール、PEG1500及びヒドロキシプロピルセルロースは、最終濃度がそれぞれ、50v/v%、2w/v%、0.05w/v%となるように蒸留水で希釈した。グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドは、最終濃度が0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.015w/v%又は0.02w/v%となるように添加した。
作成したスライドの写真を図3に示す。図3中、左から、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドの最終濃度が、0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.015w/v%又は0.02w/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性)、総合評価を表3にまとめた。
【0037】
【表3】
試薬:上記濃度のグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、50v/v%エタノール、2w/v%PEG1500、0.05w/v%ヒドロキシプロピルセルロースを含む。
【0038】
<実施例4:尿(扁平上皮、尿路上皮)の未固定サンプル>
実施例2同様に尿を遠心操作して得られた沈渣1滴と、2mlの下記の試薬を混ぜ合わせ、30分静置して固定した。その後さらに遠心操作し、得られた沈殿物をスライドガラスに塗沫し、パパニコロウ染色をした。
試薬の組成は、以下の通りである。エタノール、PEG1500及びヒドロキシプロピルセルロースは、最終濃度がそれぞれ、50v/v%、2w/v%、0.05w/v%となるように蒸留水で希釈した。グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドは、最終濃度が0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.015w/v%又は0.02w/v%となるように添加した。
作成したスライドの写真を図4に示す。図4中、左から、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドの最終濃度が、0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.015w/v%又は0.02w/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性)、総合評価を表4にまとめた。
【0039】
【表4】
試薬:上記濃度のグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、50v/v%エタノール、2w/v%PEG1500、0.05w/v%ヒドロキシプロピルセルロースを含む。
【0040】
<実施例5:尿(扁平上皮、尿路上皮)の未固定サンプル>
実施例2同様に尿を遠心操作して得られた沈渣1滴と、2mlの下記の試薬を混ぜ合わせ、30分静置して固定した。その後さらに遠心操作し、得られた沈殿物をスライドガラスに塗沫し、パパニコロウ染色をした。
試薬の組成は、以下の通りである。エタノール、PEG1500及びグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドは、最終濃度がそれぞれ、50v/v%、2w/v%、0.015w/v%となるように蒸留水で希釈した。ヒドロキシプロピルセルロースは、最終濃度が0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%又は0.1w/v%となるように添加した。
作成したスライドの写真を図5に示す。図5中、左から、ヒドロキシプロピルセルロースの最終濃度が、0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%又は0.1w/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性)、総合評価を表5にまとめた。
【0041】
【表5】
試薬:上記濃度のヒドロキシプロピルセルロース、50v/v%エタノール、2w/v%PEG1500、0.015w/v%グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを含む。
【0042】
<実施例6:尿(扁平上皮、尿路上皮)の未固定サンプル>
実施例2同様に尿を遠心操作して得られた沈渣1滴と、2mlの下記の試薬を混ぜ合わせ、30分静置して固定した。その後さらに遠心操作し、得られた沈殿物をスライドガラスに塗沫し、パパニコロウ染色をした。
試薬の組成は、以下の通りである。エタノール及びPEG1500は、最終濃度がそれぞれ、50v/v%、2w/v%となるように蒸留水で希釈した。ヒドロキシプロピルセルロースは、最終濃度が0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%又は0.1w/v%となるように添加した。
作成したスライドの写真を図6に示す。図6中、左から、ヒドロキシプロピルセルロースの最終濃度が、0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%又は0.1w/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性)、総合評価を表6にまとめた。
【0043】
【表6】
試薬:上記濃度のヒドロキシプロピルセルロース、50v/v%エタノール、2w/v%PEG1500を含む。
【0044】
<実施例7:尿(扁平上皮、尿路上皮)の未固定サンプル>
実施例2同様に尿を遠心操作して得られた沈渣1滴と、2mlの下記の試薬を混ぜ合わせ、30分静置して固定した。その後さらに遠心操作し、得られた沈殿物をスライドガラスに塗沫し、パパニコロウ染色をした。
試薬の組成は、以下の通りである。エタノールは、最終濃度が50v/v%となるように蒸留水で希釈した。ヒドロキシプロピルセルロースは、最終濃度が0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%又は0.1w/v%となるように添加した。なお、この試薬には、PEGは含まれない。
作成したスライドの写真を図7に示す。図7中、左から、ヒドロキシプロピルセルロースの最終濃度が、0w/v%、0.005w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%又は0.1w/v%である。
サンプルのスライドガラスからのはがれ難さ、顕微鏡下における見易さ(顕鏡容易性)、総合評価を表7にまとめた。
【0045】
【表7】
試薬:上記濃度のヒドロキシプロピルセルロース、50v/v%エタノールを含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7