特許第6975212号(P6975212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6975212
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20211118BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20211118BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   E01D22/00 B
   E01D11/04
   E01D1/00 E
【請求項の数】9
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2019-141156(P2019-141156)
(22)【出願日】2019年7月31日
(65)【公開番号】特開2021-25218(P2021-25218A)
(43)【公開日】2021年2月22日
【審査請求日】2020年9月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成30年8月1日 刊行物 平成30年度土木学会全国大会第73回年次学術講演会講演概要集、土木学会認定CPDプログラムDVD−ROM 発行者 公益社団法人土木学会 〔刊行物等〕 開催日 平成30年8月31日 集会名 平成30年度土木学会全国大会第73回年次学術講演会 開催場所 北海道大学札幌キャンパス(北海道札幌市北区北13条西8丁目)
(73)【特許権者】
【識別番号】505440631
【氏名又は名称】本州四国連絡高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和男
(72)【発明者】
【氏名】村上 博基
(72)【発明者】
【氏名】金田 崇男
(72)【発明者】
【氏名】香川 耀平
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−071958(JP,A)
【文献】 特開2007−077749(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0077758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 11/04
E01D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造であって、
鋼製閉断面部材は、閉空間を形成するウエブおよびフランジを有し、その閉空間内にダイヤフラムを備え、
鋼製補剛材と支圧接合用ボルトとを含み、
鋼製補剛材は、T形断面またはL形断面を形成するフランジとリブとを有し、鋼製閉断面部材に沿って、鋼製補剛材のフランジが鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジの外表面に、ダイヤフラムの位置を避けて、配置され、
鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを貫通して、鋼製補剛材と鋼製閉断面部材との長手方向に間隔をあけて列を成して、複数の支圧接合用下穴が予めそれぞれ削孔され、
支圧接合用ボルトは、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、支圧接合用下穴の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される軸部を有し、鋼製補剛材のフランジから鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに向けて支圧接合用下穴に、ねじ込まれることによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔を形成し、鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを支圧接合することを特徴とする鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造。
【請求項2】
鋼製閉断面部材に予め定める長手方向の圧縮荷重が作用したとき、列を成す支圧接合用ボルトのうち、列の中央寄りに存在する支圧接合用ボルトに比べて列の端部寄りに存在する支圧接合用ボルトが、鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジの支圧接合孔からの引抜きを生じることなく、かつその列の少なくとも端部寄りに存在する支圧接合用ボルトの軸部が剪断破壊しないように、鋼製補剛材のフランジおよび鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジ、ならびに支圧接合用ボルトの機械的強度が定められることを特徴とする請求項1に記載の鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造。
【請求項3】
鋼製閉断面部材は、斜張橋のトラス桁の横トラス弦材であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造。
【請求項4】
横トラス弦材は、下弦材であり、
鋼製補剛材による補剛範囲は、主塔寄りのダイヤフラム間に選ばれることを特徴とする請求項3に記載の鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造。
【請求項5】
鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の施工方法であって、
鋼製閉断面部材は、閉空間を形成するウエブおよびフランジを有し、閉空間内にダイヤフラムを備え、
鋼製補剛材と支圧接合用ボルトとを準備し、
鋼製補剛材は、T形断面またはL形断面を形成するフランジとリブとを有し、鋼製補剛材のフランジには、複数の支圧接合用下穴を、鋼製補剛材の長手方向に間隔をあけて列を成して削孔する鋼製補剛材の支圧接合用下穴削孔ステップを行ない、
鋼製補剛材のフランジを、鋼製閉断面部材に沿って鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジの外表面にダイヤフラムの位置を避けて配置し、
鋼製補剛材のフランジの支圧接合用下穴によって、ドリル工具の刃物を案内して鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに支圧接合用下穴を削孔する鋼製閉断面部材の支圧接合用下穴削孔ステップを行ない、
支圧接合用ボルトは、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、支圧接合用下穴の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される軸部を有し、
支圧接合用ボルトを、鋼製補剛材のフランジから鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに向けて支圧接合用下穴に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔を形成し、鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを支圧接合する鋼製補剛材と鋼製閉断面部材との支圧接合ステップを行なうことを特徴とする鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の施工方法。
【請求項6】
支圧接合用下穴の内径D11未満である外径D22(D22<D11)を有するおねじが刻設される軸部を有する仮留め用ボルトを準備し、
鋼製補剛材の長手方向両端部寄りで鋼製補剛材のフランジには仮留め用ボルトのための仮留め用融通孔を削孔する仮留め用融通孔削孔ステップを行ない、この仮留め用融通孔は、支圧接合用下穴の内径D11に等しい内径D32を有し、
鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに、支圧接合用下穴の内径D11未満の内径D12(D12<D11)を有する仮留め用下穴を削孔する鋼製閉断面部材の仮留め用下穴削孔ステップを行ない、
仮留め用ボルトの軸部の外径D22は、仮留め用下穴の内径D12を超える値に選ばれ(D12<D22<D11)、
仮留め用ボルトを、鋼製補剛材のフランジの仮留め用融通孔を挿通して、仮留め用下穴に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを密着した仮留め状態とする仮留めステップを行ない、
この仮留め状態で、鋼製閉断面部材の前記支圧接合用下穴削孔ステップ、および鋼製補剛材と鋼製閉断面部材との前記支圧接合ステップを行ない、
その後、仮留め用ボルトを取り外して仮留め用下穴の内径D12を支圧接合用下穴の内径D11に拡径し、支圧接合用ボルトによって、鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを支圧接合する仮留め拡径支圧接合ステップを行なうことを特徴とする請求項5に記載の鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の施工方法。
【請求項7】
引き寄せ用手段を準備し、
鋼製補剛材の長手方向中央寄りで鋼製補剛材のフランジには引き寄せ用手段のための引き寄せ用操作孔を削孔する引き寄せ用操作孔削孔ステップを行ない、
仮留めステップによる仮留め状態で、鋼製閉断面部材の前記支圧接合用下穴削孔ステップを行なう前に、
鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに、支圧接合用下穴の内径D11未満の内径D12a(D12a<D11)を有する引き寄せ用係止穴を削孔する鋼製閉断面部材の引き寄せ用係止穴削孔ステップを行ない、
引き寄せ用手段によって、鋼製補剛材のフランジの引き寄せ用操作孔と引き寄せ用係止穴とに関連して、引き寄せ用操作孔の側からの操作によって、鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを密着した引き寄せ状態とする引き寄せステップを行ない、
この引き寄せ状態で、鋼製閉断面部材の前記支圧接合用下穴削孔ステップ、および鋼製補剛材と鋼製閉断面部材との前記支圧接合ステップを行ない、
その後、引き寄せ用手段を、引き寄せ用操作孔の側からの操作によって、取り外して、引き寄せ用操作孔の内径D32aおよび引き寄せ用係止穴の内径D12aを支圧接合用下穴の内径D11に拡径し、支圧接合用ボルトによって、鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを支圧接合する引き寄せ拡径支圧接合ステップを行なうことを特徴とする請求項6に記載の鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の施工方法。
【請求項8】
引き寄せ用手段は、支圧接合用下穴の内径D11未満である外径D22a(D22a<D11)を有するおねじが刻設される軸部を有する引き寄せ用ボルトであり、
引き寄せ用操作孔削孔ステップでは、鋼製補剛材の長手方向中央寄りで鋼製補剛材のフランジには引き寄せ用ボルトのための引き寄せ用操作孔を削孔し、
鋼製閉断面部材の引き寄せ用係止穴削孔ステップでは、
鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに、支圧接合用下穴の内径D11未満の内径D12a(D12a<D11)を有する引き寄せ用係止穴を削孔し、
引き寄せ用ボルトの軸部の外径D22aは、引き寄せ用係止穴の内径D12aを超える値に選ばれ(D12a<D22a<D11)、
引き寄せステップでは、引き寄せ用ボルトを、鋼製補剛材のフランジの引き寄せ用操作孔を挿通して、引き寄せ用係止穴に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを密着した引き寄せ状態とし、
引き寄せ拡径支圧接合ステップでは、引き寄せ用ボルトを、引き寄せ用操作孔の側からの操作によって、取り外して行なうことを特徴とする請求項7に記載の鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の施工方法。
【請求項9】
鋼橋の鋼製閉断面部材は、閉空間を形成するウエブおよびフランジを有し、その閉空間内にダイヤフラムを備え、
鋼製補剛材と支圧接合用ボルトとを含み、
鋼製補剛材は、T形断面またはL形断面を形成するフランジとリブとを有し、鋼製閉断面部材に沿って、鋼製補剛材のフランジが鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジの外表面に、ダイヤフラムの位置を避けて、配置され、
鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを貫通して、鋼製補剛材と鋼製閉断面部材との長手方向に等しい間隔をあけて列を成して、複数の同一構造を有する支圧接合用下穴が予めそれぞれ削孔され、
複数の各支圧接合用ボルトは、同一構造を有し、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、支圧接合用下穴の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される軸部を有し、鋼製補剛材のフランジから鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジに向けて支圧接合用下穴に、ねじ込まれることによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔を形成し、鋼製補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを支圧接合し、
鋼製補剛材のフランジおよび鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジ、ならびに支圧接合用ボルトの機械的強度を、
鋼製閉断面部材に予め定める長手方向の圧縮荷重が作用したとき、列を成す支圧接合用ボルトのうち、列の中央寄りに存在する支圧接合用ボルトに比べて列の端部寄りに存在する支圧接合用ボルトが、鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジの支圧接合孔からの引抜きを生じることなく、かつその列の少なくとも端部寄りに存在する支圧接合用ボルトの軸部が剪断破壊しないように、定めることを特徴とする鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件明細書中の用語について、用語「支圧接合用ボルト」は、たとえば、高力ボルトなどの材料から成る高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、接合される複数の部材の少なくとも一方におけるめねじ加工が施されていない下穴に、直接にねじ込むことによって、自らねじ切りをしつつ進み、めねじを塑性変形によって形成して、ねじ接合するボルトまたはねじであり、TRS(登録商標)と略称することがあり、また、自らねじ切りをしつつ進み、めねじを弾性変形によって、または切削加工して形成して、ねじ接合するボルトまたはねじを含み、さらにまた、いわゆるスレッドローリングねじ、スレッドフォーミングスクリュ、タッピンねじおよびタップボルトなどを含む概念として、解釈されなければならない。
【0003】
用語「ワンサイドボルト」は、接合される複数の部材を、たとえば、補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとに貫通して、一方の部材である補剛材のフランジの側からの施工によって支圧接合などするボルトまたはねじを含む概念として、解釈されなければならない。
【0004】
近年、大きな地震が頻発し、既設の鋼橋の耐震補強が強く要望されてきている。橋長が大きな値であって、最大支間長が200mを超える既設の長大橋の耐震性能照査は、道路橋示方書(公益社団法人日本道路協会編集)の適用外であり、当業者にとって、耐震補強のための構造の設計が困難である。
既設の鋼橋の鋼床版における溶接金属の疲労亀裂を補修する工法は、非特許文献1に開示され、その工法では、スレッドローリングねじ、TRS(非特許文献2)が用いられる。この従来技術は、鋼橋の耐震性能を向上する構造を開示しない。
【0005】
特に長大橋では、剛性を向上するためにトラス構造の弦材などの部材は、閉空間を形成する箱形断面を有し、地震発生時の各部材の挙動が複雑である。従来、地震発生時、どこの部位の、どの部材に、どのような力が作用し、どのような破壊が発生するおそれがあるのかなどのための解析、設計手法は、すでに確立された技術であるが、鋼橋の耐震性能を向上し、有効に耐震補強するだけでなく、鋼製閉断面部材における閉空間の気密性、水密性の密閉性と施工作業性とに優れた構造は、存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】溝上善昭・森山彰・小林義弘・坂野昌弘:Uリブ鋼床版ビード貫通亀裂に対する下面補修工法の提案, 土木学会論文集 A1(構造・地震工学), Vol.73,No.2, 456−472, 2017.
【非特許文献2】鈴木博之:スレッドローリングねじで接合された継手の強度に関する実験的研究, 構造工学論文集, Vol. 61A, pp.614−626, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、既設の鋼橋の耐震性能を向上するとともに、鋼製閉断面部材における閉空間の気密性、水密性の密閉性と施工作業性とに優れた鋼製閉断面部材の座屈防止構造およびその施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
鋼橋100の鋼製閉断面部材121の座屈防止構造であって、
鋼製閉断面部材121は、閉空間を形成するウエブ150およびフランジ152を有し、その閉空間内にダイヤフラム145、148を備え、
鋼製補剛材156と支圧接合用ボルト181とを含み、
鋼製補剛材156は、T形断面またはL形断面を形成するフランジ171とリブ172とを有し、鋼製閉断面部材121に沿って、鋼製補剛材156のフランジ171が鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152の外表面に、ダイヤフラム145、148の位置を避けて、配置され、
鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを貫通して、鋼製補剛材156と鋼製閉断面部材121との長手方向に間隔をあけて、複数の支圧接合用下穴197、198が予めそれぞれ削孔され、
支圧接合用ボルト181は、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、支圧接合用下穴197、198の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される軸部193を有し、鋼製補剛材156のフランジ171から鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152に向けて支圧接合用下穴197、198に、ねじ込まれることによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔186、187を形成し、鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを支圧接合することを特徴とする鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造である。
【発明の効果】
【0009】
本発明における鋼橋を構成する鋼製閉断面部材は、ウエブおよびフランジによって形成される閉空間を有し、その閉空間内にダイヤフラムを備えて構成される。ダイヤフラムは、箱形断面の閉断面部材を、断面変形に伴う2次応力が小さくなるようにして、その断面形状が保持できるように補剛する。本件発明者は、地震によって鋼橋の閉断面部材に圧縮荷重が作用し、したがって、鋼橋の耐震性能を向上するには、閉断面部材を補剛することが重要であることを解明した。地震発生による圧縮荷重が作用する部材は、たとえば、長大橋のトラス桁の横トラスなどの鋼桁を構成する下弦材、中弦材または上弦材などであってもよい。鋼製補剛材は、T形断面またはL形断面を形成するフランジとリブとを有する。補剛材は、閉断面部材に沿って、補剛材のフランジが鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジの外表面に配置される。たとえば、各補剛材の長手方向の軸線と閉断面部材の長手方向の軸線とが仮想平面内で平行に、補剛材のフランジが閉断面部材のウエブまたはフランジのいずれか一方、たとえば、ウエブの外表面に、またはウエブおよびフランジの両者の外表面に配置される。補剛材は、ダイヤフラムの位置を避けて配置され、たとえば、閉断面部材の長手方向に複数のダイヤフラムが設けられる構成では、2つのダイヤフラム間で、ダイヤフラムの位置に重ならないように、延びて配置される。
【0010】
補剛材のフランジと鋼製閉断面部材のウエブまたはフランジとを貫通して、補剛材と閉断面部材との長手方向に間隔をあけて、複数の支圧接合用下穴が予めそれぞれ削孔される。したがって、補剛材のフランジの支圧接合用下穴と、閉断面部材のウエブまたはフランジの支圧接合用下穴とは共通の一直線上に軸線をそれぞれ有し、内径D11をする。たとえば、長手方向に隣接する支圧接合用下穴の内径D11は、相互に異なってもよい
【0011】
支圧接合用ボルトは、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトである。支圧接合用ボルトの軸部には、支圧接合用下穴の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される。支圧接合用ボルトの軸部は、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとの各支圧接合用下穴に、この順序で、ねじ込まれ、めねじを自ら形成しながら進んで、支圧接合孔を形成する。こうして、支圧接合用ボルトは、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを支圧接合する。
【0012】
したがって、閉断面部材は、補剛材によって補強され、地震時に生じる圧縮力による閉断面部材の座屈を防止することができる。補剛材は、閉断面部材の局部座屈に対する許容応力度の基準耐荷力曲線における幅厚比に関連する断面パラメータR を小さく改善し、座屈耐荷力、すなわち、座屈時の座屈応力度σcrを向上する。
【0013】
本発明に用いる支圧接合用ボルトは、支圧接合用下穴の孔壁に、めねじを形成しながらねじ込むので、形成される支圧接合孔におけるねじ部の気密性、水密性の密閉性が高い。閉断面部材の閉空間に臨む内面の防錆塗装がされていなくても、防食性能の低下が生じることはなく、防錆され、本発明は、特に、腐食環境の厳しい海峡部に架設された長大橋などの鋼橋に好適に実施される。
【0014】
本発明の支圧接合によれば、補剛材のフランジに対向する閉断面部材のウエブまたはフランジの表面の塗膜を残したままで施工可能であるので、高い密閉性と相俟って、高い防食性能を達成できる。この塗膜は、支圧接合の施工完了後も、塗膜剥離および塗膜割れを生じないことを、本件発明者は確認している。
【0015】
補剛材を閉断面部材に接合するために、高力ボルトによる摩擦接合が、当業者に容易に考えられるであろう。高力ボルトによる摩擦接合の手法では、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとに、頭部付き高力ボルトの軸部よりも大径の共通なボルト融通孔を削孔し、一方側から高力ボルトの軸部を挿通し、他方側でナットを螺着する。この構成では、多くの問題がある。すなわち、閉断面部材のウエブまたはフランジの内外両側での施工が必要であり、施工作業性が劣る。また、この補剛材を高力ボルトによって摩擦接合する耐震補強工事によれば、高力ボルトの外径よりもボルト融通孔の内径が大きいので、不可避的に隙間が存在し、気密性、水密性の密閉性が劣る。そのため、閉断面部材の閉空間には、空気や雨水が侵入し、特に、腐食環境の厳しい海峡部に架設された鋼橋では、飛来塩分を含んだ空気や雨水が部材内部へ侵入し、閉空間の防食性能が低下する。さらにまた、この摩擦接合では、補剛材のフランジに対向する閉断面部材のウエブまたはフランジの外表面の塗膜を除去して鋼素地としなければならないので、この観点からも、防食性が劣る。密閉性を確保するには、閉断面部材の外方に露出している高力ボルトの頭部またはナットなどを覆うボルトキャップと、その付近を塗布するシール材が必要であり、維持管理コストがかさむ。
【0016】
本発明は、このような前述の多くの問題を解決し、閉断面部材の閉空間内における密閉性が高い耐震補強を可能にするので、維持管理コストの低減を可能にする。本発明は、道路、列車軌道などの使用に支障なく、交通規制、通行止めなどせずに、しかも閉断面部材の外方で簡易な施工作業性で実現できる。
【0017】
本発明では、支圧接合用ボルト181は、補剛材156のフランジ171と閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152との両者の各支圧接合用下穴197、198に、それぞれねじ込まれる構成であってもよいが、実施の他の形態では、補剛材156のフランジ171には支圧接合用下穴197に代えて融通孔が形成され、閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152の支圧接合用下穴198のみに、ねじ込まれて支圧接合孔187(図12)を形成する構成であってもよい。
【0018】
本発明は、
鋼製閉断面部材121に予め定める長手方向の圧縮荷重が作用したとき、列を成す支圧接合用ボルト181のうち、列の中央寄りに存在する支圧接合用ボルト181に比べて列の端部寄りに存在する支圧接合用ボルト181が、鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152の支圧接合孔187からの引抜きを生じることなく、かつその列の少なくとも端部寄りに存在する支圧接合用ボルト181の軸部193が剪断破壊しないように、鋼製補剛材156のフランジ171および鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152、ならびに支圧接合用ボルト181の機械的強度が定められることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、地震時に閉断面部材に生じる長手方向の圧縮力によって、支圧接合用ボルトに剪断力が作用しても、支圧接合用ボルトは、閉断面部材のウエブまたはフランジの支圧接合孔からの引抜きを生じることなく、全ての前記複数のうちの一部の数の支圧接合用ボルトが剪断破壊しても、残余の剪断破壊しない支圧接合用ボルトによって、補剛材は閉断面部材に固定されたままであり、剪断破壊した支圧接合用ボルトの破断した各部分は、めねじが切られている支圧接合孔から抜けることはない。したがって、支圧接合用ボルトの破断した各部分は落下せず、補剛材も落下せず、耐震補強部位の下方における安全が保たれる、という優れた効果が達成される。
【0020】
本件発明者の考え方によれば、地震によって閉断面部材に圧縮荷重が作用したとき、補剛材のフランジおよび閉断面部材のウエブまたはフランジが1列または複数の平行な各列を成す複数の支圧接合用ボルトによって支圧接合される本発明の継手では、その列の中央寄りに存在する、いわば中間の支圧接合用ボルトの軸部には剪断力がほとんど働かず、列の端部寄りに存在する、いわば端部の支圧接合用ボルトの軸部が大部分の大きな剪断力を受ける現象がある。したがって、閉断面部材に作用する圧縮荷重が増大すると、先ず、端部の支圧接合用ボルトの作用力が増加し、中央側になるにつれてそれよりも小さい値になる作用力が、中央側に次々と隣接する支圧接合用ボルトに作用してゆく。したがって、全てが同じ構成を有する各支圧接合用ボルトで同じ支圧接合をする場合、端部の支圧接合用ボルトの軸部が中間の支圧接合用ボルトの軸部よりも先に剪断破壊する。この現象は、圧縮荷重を受ける方向に並んでいる各列の支圧接合用ボルトの数が、たとえば、6以上、さらに10以上である継手範囲が比較的長い場合、顕著に生じる。
【0021】
本発明では、閉断面部材に、たとえば、地震時などに想定される予め定める長手方向の圧縮荷重が作用したとき、中間の支圧接合用ボルトに比べて大きな剪断力が作用する少なくとも端部の支圧接合用ボルトが剪断破壊しないように、前記機械的強度が定められる。したがって、たとえ、閉断面部材に前記予め定める値以上の圧縮荷重が作用して端部の支圧接合用ボルトが剪断破壊したとしても、その剪断破壊した軸部の先端側の一部分は、おねじと、それがねじ込まれためねじとの塑性変形、弾性変形などの係止によって、閉断面部材のウエブまたはフランジの支圧接合孔からの引抜きを生じることはなく、落下せず、また、剪断破壊した軸部の頭部側の残余の部分は、同じように補剛材のフランジの支圧接合孔からの引抜きを生じることはなく、落下せず、また、剪断破壊しない中間の支圧接合用ボルトによって補剛材は落下せず、これらの落下しないことによってそれらの耐震補強部位よりも下方における安全性が確保される。
【0022】
前記機械的強度は、前記落下しないことによる安全性を確保するために、補剛材のフランジおよび閉断面部材のウエブまたはフランジ、ならびに支圧接合用ボルトに関連する機械的な構造、機械特性、物理的特性、物性およびその他の要素によって定まる値である。その機械的強度を達成するために、たとえば、支圧接合用ボルトの寸法、材質、支圧接合用ボルトの数および支圧接合用ボルト相互の間隔、ならびに支圧接合孔が形成される補剛材のフランジおよび閉断面部材のウエブまたはフランジの厚さおよび材質、さらにそれらの剛性などが選ばれる。
【0023】
前記機械的強度は、全てが同じ構成を有する各支圧接合用ボルトで同じ支圧接合をする構成によって、達成できるようにしてもよい。たとえば、全ボルト均等負担で必要本数を算定し、想定した地震力以内であれば結果的に少なくとも端部ボルトが破断しないように構成することによって、中間の支圧接合用ボルトは勿論、端部ボルトも剪断破壊しない機械的強度を得るようにしてもよい。または、中間の支圧接合用ボルトに関連する前記機械的強度に比べて端部の支圧接合用ボルトに関連する前記機械的強度の方が大きい支圧接合をする構成によって、達成できるようにしてもよく、そのために、たとえば、中間の支圧接合用ボルトに比べて端部の支圧接合用ボルトの外径を大きく選んで支圧接合してもよい。
【0024】
本発明は、
鋼製閉断面部材121は、斜張橋100のトラス桁104の横トラス110の弦材112、117、121であることを特徴とする。
【0025】
本発明は、
横トラス110の弦材112、117、121は、下弦材121であり、
鋼製補剛材156による補剛範囲は、主塔103寄りのダイヤフラム15645、148間に選ばれることを特徴とする。
【0026】
本件発明者によれば、たとえば、鋼橋の海峡部長大橋である道路鉄道併用橋の3径間連続鋼トラス斜張橋などにおいて、本発明の補剛材が設けられない従来技術では、本件発明者が解析した耐震性能照査によれば、主塔付近の横トラス下弦材に予め定める圧縮荷重が作用し、そのウエブで損傷の許容値を超過することが確認された。そこで、横トラス下弦材のウエブに補剛材を設け、これによって、その下弦材のウエブの局部座屈を考慮した許容圧縮応力度を決める幅厚比を小さくすることができる。横トラスの断面内で橋軸方向の鉛直な対称面111(図1図2)に関して左右対称に構成される横トラス下弦材では、その横トラス下弦材に前記対称面111に関して左右対称に補剛材が設けられる。補剛材は、長手方向のダイヤフラム間に配置され、ダイヤフラムの位置が避けられる。
【0027】
本発明は、
鋼橋100の鋼製閉断面部材121の座屈防止構造の施工方法であって、
鋼製閉断面部材121は、閉空間を形成するウエブ150およびフランジ152を有し、閉空間内にダイヤフラム145、148を備え、
鋼製補剛材156と支圧接合用ボルト181とを準備し、
鋼製補剛材156は、T形断面またはL形断面を形成するフランジ171とリブ172とを有し、鋼製補剛材156のフランジ171には、複数の支圧接合用下穴197を、鋼製補剛材156の長手方向に間隔をあけて列を成して削孔する鋼製補剛材156の支圧接合用下穴削孔ステップを行ない、
鋼製補剛材156のフランジ171を、鋼製閉断面部材121に沿って鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152の外表面にダイヤフラム145、148の位置を避けて配置し、
鋼製補剛材156のフランジ171の支圧接合用下穴197によって、ドリル工具の刃物を案内して鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152に支圧接合用下穴198を削孔する鋼製閉断面部材121の支圧接合用下穴削孔ステップを行ない、
支圧接合用ボルト181は、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、支圧接合用下穴の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される軸部193を有し、
支圧接合用ボルト181を、鋼製補剛材156のフランジ171から鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152に向けて支圧接合用下穴197、198に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔186、187を形成し、鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを支圧接合する鋼製補剛材156と鋼製閉断面部材121との支圧接合ステップを行なうことを特徴とする鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の施工方法である。
【0028】
本発明によれば、地震時に、既設の鋼橋の閉断面部材に長手方向の圧縮荷重が作用したときにおける耐震性能を向上する座屈防止構造を施工できる。
【0029】
閉断面部材のウエブまたはフランジに列をなす複数の支圧接合用下穴を削孔した後に各支圧接合用ボルトを順次的にねじ込んで締付ける操作を行なう作業(すなわち、閉断面部材の支圧接合用下穴削孔ステップを複数の各支圧接合用ボルトのために行なった後、補剛材と閉断面部材との支圧接合ステップを複数の各支圧接合用ボルトのために行なう作業)に比べて、好ましくは、各支圧接合用ボルト毎に、閉断面部材のウエブまたはフランジに支圧接合用下穴を削孔する操作と、その削孔した支圧接合用下穴へ支圧接合用ボルトをねじ込んで締付ける操作とを交互に繰り返す作業(すなわち、閉断面部材の支圧接合用下穴削孔ステップを1つの支圧接合用ボルトのために行なった後、補剛材と閉断面部材との支圧接合ステップをその1つの支圧接合用ボルトのために行ない、この操作を各支圧接合用ボルト毎に繰り返す作業)をすることによって、閉断面部材の閉空間が閉断面部材のウエブまたはフランジの支圧接合用下穴を介して外部に連通している時間を短縮できるので、雨水などの水の浸入リスクを減らすことができるとともに、補剛材のフランジの支圧接合用下穴の軸線と、閉断面部材のウエブまたはフランジに支圧接合用下穴の軸線とを正確に一致させたままで、支圧接合用ボルトを正確にねじ込むことが確実になる。
【0030】
本発明は、
支圧接合用下穴197、198の内径D11未満である外径D22(D22<D11)を有するおねじが刻設される軸部207を有する仮留め用ボルト200を準備し、
鋼製補剛材156の長手方向両端部寄りで鋼製補剛材156のフランジ171には仮留め用ボルト200のための仮留め用融通孔201を削孔する仮留め用融通孔削孔ステップを行ない、この仮留め用融通孔201は、支圧接合用下穴197、198の内径D11に等しい内径D32を有し、
鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152に、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満の内径D12(D12<D11)を有する仮留め用下穴202を削孔する鋼製閉断面部材121の仮留め用下穴削孔ステップを行ない、
仮留め用ボルト200の軸部207の外径D22は、仮留め用下穴202の内径D12を超える値に選ばれ(D12<D22<D11)、
仮留め用ボルト200を、鋼製補剛材156のフランジ171の仮留め用融通孔201を挿通して、仮留め用下穴202に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを密着した仮留め状態とする仮留めステップを行ない、
この仮留め状態で、鋼製閉断面部材121の前記支圧接合用下穴削孔ステップ、および鋼製補剛材156と鋼製閉断面部材121との前記支圧接合ステップを行ない、
その後、仮留め用ボルト200を取り外して仮留め用下穴202の内径D12を支圧接合用下穴197、198の内径D11に拡径し、支圧接合用ボルト181によって、鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを支圧接合する仮留め拡径支圧接合ステップを行なうことを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、補剛材の長手方向両端部寄りで、補剛材のフランジに仮留め用融通孔が形成されている(仮留め用融通孔削孔ステップ)。この仮留め用融通孔は、仮留め用ボルトの軸部の外径D22を超える、いわゆるバカ穴であり、支圧接合用下穴の内径D11以下の内径D32(D22<D32≦<D11)を有する。D32=D11でもよいが、D32<D11でもよい。仮留め用ボルトを、その仮留め用融通孔を挿通して閉断面部材のウエブまたはフランジに削孔した仮留め用下穴(閉断面部材であの仮留め用下穴削孔ステップ)にねじ込んで締め付けることによって、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを密着して肌隙をなくした仮留め状態にできる(仮留めステップ)。したがって、補剛材の長手方向の残余の部分で、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを、肌隙を可及的になくして支圧接合用ボルトによる支圧接合が可能になる(閉断面部材の前記支圧接合用下穴削孔ステップ、および補剛材と閉断面部材との前記支圧接合ステップ)。その後、仮留め用ボルトを取り外して、仮留め用融通孔の内径D32が支圧接合用下穴の内径D11未満(D32<D11)のとき、その仮留め用融通孔の内径D32を、および仮留め用下穴の内径D12を拡大して拡径し、支圧接合用ボルトによって支圧接合することができる(仮留め拡径支圧接合ステップ)。
【0032】
本発明は、
引き寄せ用手段200aを準備し、
鋼製補剛材156の長手方向中央寄りで鋼製補剛材156のフランジ171には引き寄せ用手段200aのための引き寄せ用操作孔201aを削孔する引き寄せ用操作孔削孔ステップを行ない、
仮留めステップによる仮留め状態で、鋼製閉断面部材121の前記支圧接合用下穴削孔ステップを行なう前に、
鋼製閉断面部材121のウエブ150aまたはフランジ152aに、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満の内径D12a(D12a<D11)を有する引き寄せ用係止穴202aを削孔する鋼製閉断面部材121の引き寄せ用係止穴削孔ステップを行ない、
引き寄せ用手段200aによって、鋼製補剛材156のフランジ171の引き寄せ用操作孔201aと引き寄せ用係止穴202aとに関連して、引き寄せ用操作孔201aの側からの操作によって、鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを密着した引き寄せ状態とする引き寄せステップを行ない、
この引き寄せ状態で、鋼製閉断面部材121の前記支圧接合用下穴削孔ステップ、および鋼製補剛材156と鋼製閉断面部材121との前記支圧接合ステップを行ない、
その後、引き寄せ用手段200aを、引き寄せ用操作孔201aの側からの操作によって、取り外して、引き寄せ用係止穴202aの内径D12aを支圧接合用下穴197、198の内径D11に拡径し、支圧接合用ボルト181によって、鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを支圧接合する引き寄せ拡径支圧接合ステップを行なうことを特徴とする。
【0033】
本発明によれば、補剛材の長手方向中央寄りで、補剛材のフランジに引き寄せ用操作孔が形成される(引き寄せ用操作孔削孔ステップ)。引き寄せ用手段は、引き寄せ用操作孔と閉断面部材のウエブまたはフランジに削孔した引き寄せ用係止穴(閉断面部材の引き寄せ用係止穴削孔ステップ)とに関連して、引き寄せ用操作孔201aの側からの操作によって、たとえば、引き寄せ用操作孔と引き寄せ用係止穴とを挿通することによって、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを密着して肌隙をなくした引き寄せ状態にできる(引き寄せステップ)。したがって、補剛材の長手方向の残余の部分で、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを、肌隙を可及的になくして支圧接合用ボルトによる支圧接合が可能になる(閉断面部材の前記支圧接合用係止穴削孔ステップ、および補剛材と閉断面部材との前記支圧接合ステップ)。その後、引き寄せ用手段を取り外して、引き寄せ用操作孔201aの内径D32aが支圧接合用下穴の内径D11未満(D32a<D11)のとき、その引き寄せ用操作孔201aの内径D32aを、および引き寄せ用係止穴202aの内径D12aを拡径し、支圧接合用ボルトによって支圧接合することができる(引き寄せ拡径支圧接合ステップ)。この引き寄せ用操作孔201aは、引き寄せ用ボルトの軸部の外径D22を超える、いわゆるバカ穴であり、支圧接合用下穴の内径D11以下の内径D32a(D22<D32a≦<D11)を有する。D32a=D11でもよいが、D32a<D11でもよい。
【0034】
本発明は、
引き寄せ用手段は、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満である外径D22a(D22a<D11)を有するおねじが刻設される軸部207aを有する引き寄せ用ボルト200aであり、
引き寄せ用操作孔削孔ステップでは、鋼製補剛材156の長手方向中央寄りで鋼製補剛材156のフランジ171には引き寄せ用ボルト200aのための引き寄せ用操作孔201aを削孔し、
鋼製閉断面部材121の引き寄せ用係止穴削孔ステップでは、
鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152に、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満の内径D12a(D12a<D11)を有する引き寄せ用係止穴202aを削孔し、
引き寄せ用ボルト200aの軸部207aの外径D22aは、引き寄せ用係止穴202aの内径D12aを超える値に選ばれ(D12a<D22a≦D11)、
引き寄せステップでは、引き寄せ用ボルト200aを、鋼製補剛材156のフランジ171の引き寄せ用操作孔201aを挿通して、引き寄せ用係止穴202aに、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを密着した引き寄せ状態とし、
引き寄せ拡径支圧接合ステップでは、引き寄せ用ボルト200aを、引き寄せ用操作孔201aの側からの操作によって、取り外して行なうことを特徴とする。
【0035】
本発明によれば、補剛材の長手方向中央寄りで、補剛材のフランジに引き寄せ用操作孔が形成される(引き寄せ用操作孔削孔ステップ)。前述のとおり、この引き寄せ用操作孔は、引き寄せ用ボルトの軸部の外径D22aを超える、いわゆるバカ穴であり、支圧接合用下穴の内径D11以下の内径D32a(D22a<D32a≦<D11)を有する融通孔である。引き寄せ用ボルトを、その引き寄せ用操作孔を挿通して閉断面部材のウエブまたはフランジに削孔した引き寄せ用係止穴(閉断面部材の引き寄せ用係止穴削孔ステップ)にねじ込んで締め付けることによって、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを密着して肌隙をなくした引き寄せ状態にできる(引き寄せステップ)。したがって、補剛材の長手方向の残余の部分で、補剛材のフランジと閉断面部材のウエブまたはフランジとを、肌隙を可及的になくして支圧接合用ボルトによる支圧接合が可能になる(閉断面部材の前記支圧接合用下穴削孔ステップ、および補剛材と閉断面部材との前記支圧接合ステップ)。その後、引き寄せ用ボルトを取り外して引き寄せ用係止穴の内径D12aを拡大して拡径し、支圧接合用ボルトによって支圧接合することができる(引き寄せ拡径支圧接合ステップ)。
【0036】
本発明は、
鋼橋の鋼製閉断面部材121は、閉空間を形成するウエブ150およびフランジ152を有し、その閉空間内にダイヤフラム145、148を備え、
鋼製補剛材156と支圧接合用ボルト181とを含み、
鋼製補剛材156は、T形断面またはL形断面を形成するフランジ171とリブ172とを有し、鋼製閉断面部材121に沿って、鋼製補剛材156のフランジ171が鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152の外表面に、ダイヤフラム145、148の位置を避けて、配置され、
鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを貫通して、鋼製補剛材156と鋼製閉断面部材121との長手方向に等しい間隔をあけて、複数の同一構造を有する支圧接合用下穴197、198が予めそれぞれ削孔され、
複数の各支圧接合用ボルト181は、同一構造を有し、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであって、支圧接合用下穴197、198の内径D11を超える外径D21(D11<D21)を有するおねじが刻設される軸部193を有し、鋼製補剛材156のフランジ171から鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152に向けて支圧接合用下穴197、198に、ねじ込まれることによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔186、187を形成し、鋼製補剛材156のフランジ171と鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152とを支圧接合し、
鋼製補剛材156のフランジ171および鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152、ならびに支圧接合用ボルト181の機械的強度を、
鋼製閉断面部材121に予め定める長手方向の圧縮荷重が作用したとき、列を成す支圧接合用ボルト181のうち、列の中央寄りに存在する支圧接合用ボルト181に比べて列の端部寄りに存在する支圧接合用ボルト181が、鋼製閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152の支圧接合孔187からの引抜きを生じることなく、かつその列の少なくとも端部寄りに存在する支圧接合用ボルト181の軸部193が剪断破壊しないように、定めることを特徴とする鋼橋の鋼製閉断面部材の座屈防止構造の設計方法である。

【0037】
本件発明者の考え方によれば、補剛材156のフランジ171および閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152は、それらの長手方向に等しい間隔をあけて列を成して削孔された複数の同一構造を有する支圧接合用下穴197、198に、複数の同一構造を有する支圧接合用ボルト181がそれぞれねじ込まれて支圧接合される本発明の継手において、地震によって閉断面部材121に圧縮荷重が作用したとき、その列の中央寄りに存在する、いわば中間の支圧接合用ボルト181の軸部には剪断力が端部寄りに比べて働かず、列の端部寄りに存在する、いわば端部の支圧接合用ボルトの軸部が大部分の大きな剪断力を受けてしまう現象がある。本発明によれば、補剛材156のフランジ171および閉断面部材121のウエブ150またはフランジ152、ならびに支圧接合用ボルト181の機械的強度を、列の中間の支圧接合用ボルト181よりも大きな剪断力を受ける列の端部の支圧接合用ボルトの軸部193が、閉断面部材121に予め定める長手方向の圧縮荷重が作用したとき、剪断破壊しないように、定める。これによって、耐震補強が確実になる。たとえば、全ボルト均等負担で必要本数を算定し、想定した地震力以内であれば結果的に端部ボルトが破断しないように構成することによって、中間の支圧接合用ボルトは勿論、少なくとも端部ボルトも剪断破壊しない機械的強度を得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施の一形態の一部の鋼橋100の上部構造101を構成する横トラス110を示す橋軸に垂直な横断面図である。
図2】横トラス110の下弦材121の対称面111に関して図1の右方である一方の部分を示す断面図である。
図3図3図2の一部を拡大して示す側面図である。
図4図2の切断面IV−IVから見た断面図である。
図5図2の切断面線V−Vから見た断面図である。
図6図2の切断面線VI−VIから見た断面図である。
図7図2の切断面線VII−VIIから見た断面図である。
図8】鋼橋100の一部を示す側面図である。
図9】鋼橋100の図8に続く残余の一部を示す側面図である。
図10】鋼橋100の図8に対応する部分における横トラス110の下弦材121および下横構169の簡略化した水平断面図である。
図11】横トラス110、主構トラス131および下横構169の一部を示す斜視図である。
図12】補剛材156を横トラス110の下弦材121のウエブ150に支圧接合によって固定した状態を示す断面図である
図13】支圧接合用ボルト181の平面および側面を示す図である。
図14】本発明の実施の一形態における鋼橋100の横トラス110の下弦材121に座屈防止構造を施工する方法を示すフローチャートである。
図15】下弦材121のウエブ150に補剛材156を支圧接合によって固定する操作順序を説明するための側面図である。
図16】下弦材121のウエブ150に補剛材156を仮留め用ボルト200によって仮留めする操作を説明するとともに、引き寄せ用ボルト200aによって引き寄せ操作を、併せて説明するための断面図である。
図17】下弦材121のウエブ150に補剛材156を支圧接合用ボルト181によって支圧接合する操作を説明するための断面図である。
図18】下弦材121のウエブ150に補剛材156を仮留め用ボルト200によって仮留めした状態、および引き寄せ用ボルト200aによって引き寄せた状態を、併せて示す断面図である。
図19】本発明の実施の他の形態における鋼橋100の横トラス110の下弦材121に座屈防止構造を施工する方法を示すフローチャートである。
図20図19の各ステップu1〜u13において、下弦材121のウエブ150に補剛材156を支圧接合によって固定する操作順序を説明するための側面図である。
図21】本発明の実施の他の形態の斜視図である。
図22図22(1)は、図19の下弦材121の簡略化した断面図である。図22(2)は、従来の下弦材121の断面図である。
図23】実施の一形態における幅厚比パラメータRと耐荷力である終局強度σcr/σとの関係を示す図である。
図24】本発明の実施のさらに他の形態の下弦材121の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明の実施の一形態の一部の鋼橋100の上部構造101を構成する横トラス110を示す橋軸に垂直な横断面図である。鋼橋100は、たとえば、海峡部に架橋される長大橋であって、3径間連続鋼トラス斜張橋である。横トラス110は、その横トラス110の横断面内で橋軸方向の鉛直な対称面111に関して左右対称に構成される。横トラス110の上弦材112は、小組垂直材113、114および小組斜材115、116を介して中弦材117に支持される。中弦材117は、中央の垂直材118と左右の垂直材119、120を介して下弦材121に支持される。主桁である道路桁125は、横トラス110の上弦材112と鋼床版126とが高力ボルトによって接合されて合成構造とされる。下弦材121は、中央の垂直材118に関して左右の総括的に参照符127、128で示す支承によって、鉄道桁129、130が支持されて道路鉄道併用橋が実現される。
【0040】
横トラス110の上弦材112と下弦材121とは、主構トラス131の上弦材132と下弦材133とにそれぞれ接合され、横トラス110の中弦材117は、主構トラス131の垂直材134に接合され、さらに図8を併せて参照して、主構トラス131には、斜材135が備えられる。主構トラス131は、上弦材132および下弦材133が垂直材134および斜材135に接合されて組まれ、ケーブル102によって吊り下げられ、主塔103に支持される。横トラス110において、主構トラス131の垂直材134には斜材138、139が接合される。前述の合成構造によって、主構トラス131の上弦材132だけでなく鋼床版126もケーブル102の張力の水平分力を分担でき、道路桁125の剛性を高め、道路鉄道併用橋に有利である。横トラス110および主構トラス131の前述の弦材、垂直材、斜材などは、剛性を向上するために矩形の箱形閉断面を有する。主塔103のケーソン基礎105と端橋脚106とは下部構造を構成する。
【0041】
図2は横トラス110の下弦材121の対称面111に関して図1の右方である一方の部分を示す断面図であり、図3図2の一部を拡大して示す側面図である。下弦材121の閉空間には、下弦材121の長手方向(図1の左右方向)、すなわち、橋軸直角方向に間隔をあけて、その長手方向に垂直な平板状の1以上のダイヤフラムが設けられ、たとえば、この実施の形態では対称面111に関して一方における図2図3のとおり、複数のダイヤフラム142〜149が設けられ、さらに参照符が付されていないダイヤフラムが設けられる。
【0042】
下弦材121の一方のウエブ150の外表面には、図1の対称面111に関して対称に、補剛材155、156:157、158が下弦材121の長手方向に沿って、その長手方向の中央寄り(すなわち、橋軸直角方向の対称面111寄り、図2の左方寄り)に配置される。補剛材155、156は、ダイヤフラム143、145、148の位置を長手方向に避けて配置され、したがって、補剛材155、156の端部は、これらのダイヤフラム143、145、148の近傍まで長手方向に延びるが、上下方向に重ならず、残余の補剛材157、158も同じである。図1図3に示されるとおり、補剛材155、156は、上下のフランジ152、153間のウエブ150、151の上下の中央位置にそれぞれ配置される。
【0043】
図4図7は、図2の切断面線IV−IV、V−V、VI−VI、VII−VIIからそれぞれ見た断面図である。下弦材121は、橋軸直角方向の鉛直な対称面161に関して対称に構成され、一方のウエブ150と、他方のウエブ151と、上下のフランジ152、153とが溶接されて固定され、密閉された閉空間を形成する。下弦材121の一方のウエブ150の補剛材156に対応して、他方のウエブ151に補剛材159が配置される。ダイヤフラム142、143、145、148、149の外周部は、ウエブ150、151とフランジ152、153とによって形成される閉空間の上下、左右の内壁に溶接されて固定される。ダイヤフラム144、146、147の外周部は、前記閉空間の上と左右との内壁に溶接されて固定される。図6図7に示されるとおり、ダイヤフラム146、147の下端部は、ウエブ150、151に配置されて固定される補剛材156、159の上方にある。したがって、補剛材156、159は、ダイヤフラム146、147の上下方向の位置を避けて下方で、ダイヤフラム145、148の間に配置される。補剛材155は、ダイヤフラム144の上下方向の位置を避けて下方で、ダイヤフラム143、145の間に配置され、残余の補剛材、ダイヤフラムについても、同じである。図4図5のとおり、ダイヤフラム142、145には、開口部164、165が形成され、ダイヤフラム148にも開口部165と同じような開口部が形成される。図3図7に示されるとおり、補剛材155、156、159および残余の補剛材は、ウエブ150、151の上下方向の中央位置に配置される。
【0044】
図8は鋼橋100の一部を示す側面図であり、図9は鋼橋100の図8に続く残余の一部を示す側面図である。図8図9および後述の図10図11における白丸内の数字1〜65は、鋼トラスの一部材である主構トラス131を構成する上弦材132、下弦材133、垂直材134および斜材135の格点の位置を示し、本件明細書中では、その数字に添え字cを付して示す。鋼橋100は、位置33cにおける橋軸直角方向の鉛直な対称面167に関して図8のほぼ左右対称に構成され、対称な対応する部分には同一の参照符を付す。
【0045】
図10は鋼橋100の図8に対応する部分における横トラス110の下弦材121および下横構169の簡略化した水平断面図であり、図11は横トラス110、主構トラス131および下横構169の一部を示す斜視図である。横トラス110と主構トラス131とは、トラス桁104を構成する。本件発明者が解析した耐震性能照査によれば、地震時に主塔103付近の位置17c〜21cにおける横トラス110の下弦材121に圧縮荷重が作用し、その位置17c〜21cの下弦材121のウエブ150、151で座屈損傷の予め定める許容値を超過することが確認された。これらの部材で座屈が生じる理由としては、地震力が橋軸直角方向に作用すると、支点となる主塔近傍でトラス桁の応答が大きくなる傾向になるとともに、重量が比較的大きい列車荷重を支持する下弦材にてより大きな影響が出たものと考えられる。そこで、この許容値超過の問題を解決するために、本発明の実施の一形態では、各位置17c〜21cにおける横トラス110の下弦材121のウエブ150、151に補剛材155〜159を設ける。これによって、その下弦材121のウエブ150、151の局部座屈を考慮した許容圧縮応力度を決める幅厚比を小さくすることができる。横トラス110の断面内で橋軸方向の鉛直な対称面111(図1)に関して左右対称に構成される横トラス110の下弦材121では、その下弦材121に前記対称面111に関して左右対称に補剛材155〜159が設けられる。補剛材155〜159は、長手方向のダイヤフラム143、145:145、148間に配置され、ダイヤフラム143〜148の位置が避けられる。
【0046】
図12は、補剛材156を横トラス110の下弦材121のウエブ150に支圧接合用ボルト181の支圧接合によって固定した状態を示す断面図である。補剛材156は、T形断面を形成するフランジ171とリブ172とを有し、図12の水平な対称面160に関して対称に構成され、下弦材121に沿って、補剛材156のフランジ171が下弦材121のウエブ150の外表面に、前述のとおり、ダイヤフラム143〜148の位置を避けて、配置される。補剛材156のフランジ171のリブ172に関して両側(図12の上下)の各部分をフランジ部と呼び、個別に参照符171p、171qをそれぞれ付し、総括的に参照符171で示す。
【0047】
支圧接合用ボルト181は、高強度ボルトによって実現されるワンサイドボルトであり、補剛材156のフランジ171におけるリブ172に関して幅方向(図12の上下方向)の両側の部分と、下弦材121のウエブ150とを貫通して、ねじ込まれることによって支圧接合孔186、187を形成し、補剛材156のフランジ171と鋼製下弦材121のウエブ150とを支圧接合する。
【0048】
図13は支圧接合用ボルト181の平面および側面を示す図である。支圧接合用ボルト181は、六角のボルト頭191と、座金部192と、軸部193とが一体的に形成され、その外表面はウエブ150およびフランジ171の鋼材よりも高硬度に表面処理加工される。圧接合用ボルト181における首下長さL193の軸部193は、らせん形状のおねじ山が刻設されたねじ部194と、小径の円錐台状先端部195とを有する。先端部195は、後述の図17に示される支圧接合用下穴197、198内へ、軸部193と支圧接合用下穴197、198との軸線を共通な一直線上に案内する。圧接合用ボルト181を、そのボルト頭191にフランジ171およびウエブ150に向けて押し付け力を作用しながら回転駆動することによって、軸部193のねじ部194は、めねじ加工が施されていない支圧接合用下穴197、198に、めねじを自ら形成しながら進んで、めねじを塑性変形によって形成して、支圧接合を達成し、支圧接合孔186、187が形成される。ウエブ150とフランジ171との隙間は、後述の仮留め用ボルト200ならびに引き寄せ用手段である引き寄せ治具および引き寄せ用ボルト200aなどの使用によって、ほぼ零にすることができ、肌隙の発生が防がれる。支圧接合用ボルト181は、前述のとおり、その軸線が支圧接合用下穴197、198の軸線とともに、共通な一直線上にあり、したがって、支圧接合用ボルト181が締め込まれるとき、支圧接合用ボルト181への曲げモーメントなどによる不所望な応力などが発生することが防がれる。
【0049】
支圧接合用ボルト181によれば、めねじの塑性変形は切削屑を生じないので、そのような切削屑が下弦材121の閉空間に入り込んで発錆源になることはない。また、施工の現場では、精度が低下しがちなねじ立て作業をする必要がないので、作業性が向上される。
【0050】
図14は、本発明の実施の一形態における鋼橋100の横トラス110の下弦材121に座屈防止構造を施工する方法を示すフローチャートである。図15は、下弦材121のウエブ150に補剛材156を支圧接合によって固定する操作順序を説明するための側面図である。補剛材156を示す図15において、参照符1p〜36p、1q〜36qは、各フランジ部171p、171qにそれぞれ形成される支圧接合用下穴197ならびに後述の仮留め用融通孔201および引き寄せ用操作孔201aの位置を示し、それらの参照符1p〜36p、1q〜36qの一部の図示を煩雑にならないように省略することがある。図15における位置1p〜36p、1q〜36qのうち、細い白丸で囲んだ位置は仮留めまたは引き寄せが行なわれる位置を示し、太い白丸で囲んだ位置は支圧接合用ボルト181によって支圧接合を完了した位置を示す。
【0051】
図16は、下弦材121のウエブ150に補剛材156を仮留め用ボルト200によって仮留めする操作を説明するとともに、引き寄せ用ボルト200aによって引き寄せ操作を、併せて説明するための断面図である。図17は、下弦材121のウエブ150に補剛材156を支圧接合用ボルト181によって支圧接合する操作を説明するための断面図である。図18は、下弦材121のウエブ150に補剛材156を仮留め用ボルト200によって仮留めした状態、および引き寄せ用ボルト200aによって引き寄せた状態を、併せて示す断面図である。
【0052】
図14に示される施工作業を、これらの図15図18をも参照して、説明する。図14のステップs1からステップs2に移り、補剛材156と支圧接合用ボルト181とを準備し、さらに、仮留め用ボルト200と引き寄せ用ボルト200aとを準備する。仮留め用ボルト200と引き寄せ用ボルト200aとは、同じ構成、寸法を有し、仮留め用ボルト200について対応する引き寄せ用ボルト200aの部分には、同じ数字の参照符に添え字aを付して示す。仮留め用ボルト200は、図16のとおり、前述の支圧接合用ボルト181に類似し、六角のボルト頭205と、仮留め用融通孔201よりも大径の座金部206と、軸部207とが一体的に形成され、その軸部207には、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満である外径D22(D22<D11)を有するおねじが刻設される。仮留め用ボルト200の軸部207の首下長さは、支圧接合用ボルト181と同じであり、同じようにおねじ山が刻設される。引き寄せ用ボルト200aは、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満である外径D22a(D22a<D11)を有するおねじが刻設される軸部207aを有する。
【0053】
図16を参照して、寸法、仕様の一例を述べる。図16の仮留め用ボルト200の軸部207の外径D22は、φ12mmであり、仮留め用ボルト200をねじ込むための仮留め用下穴202の内径D12は、φ11.5mmである(D12<D22)。その他の寸法は、支圧接合用ボルト181と同じである。たとえば、仮留め用ボルト200の軸部207の首下長さL207は、支圧接合用ボルト181の首下長さL193と同じであり、その軸部207のねじ部には、おねじ山が長さ28mm(=16+12)にわたって刻設される。仮留め用融通孔201の内径D32は、支圧接合用下穴197、198の内径D11と等しい値φ15.5mmであってもよい。仮留め用ボルト200、引き寄せ用ボルト200a、およびそれらに関連する構成は、同じ寸法を有し、仮留め用ボルト200について対応する引き寄せ用ボルト200aの部分には、同じ数字の参照符に添え字aを付して示す。
【0054】
図17を参照して、寸法、仕様の一例を述べる。図17の支圧接合用ボルト181の軸部193の外径D21は、φ16mmであり、支圧接合用ボルト181をねじ込むための支圧接合用下穴197、198の内径D11は、φ15.5mmである(D11<D21)。支圧接合用下穴197、198は、図12の紙面に垂直な橋軸方向に2列あり、各列36個であり、橋軸方向の軸線間隔および図12の上下方向の各列の軸線間隔110mm、材質炭素鋼SWCHである。ウエブ150の厚さt150は、16mm、材質構造用鋼材SM490YAである。補剛材156のフランジ171およびリブ172の厚さt171は、12mm、リブ172の高さ150mm、材質構造用鋼材SM490YAである。支圧接合用ボルト181の首下長さL193は33mmであり、その軸部193のおねじ山が刻設されるねじ部194の長さは、28mm(=16+12)であり、ウエブ150の厚さt150とフランジ171の厚さt171との和以上に選ばれる((t150+t171)≦L193)。補剛材156の材質は、ウエブ150の材質と同材質以上である。こうして、本発明による耐震補強の機械的強度の一例が得られる。
【0055】
ステップs2では、製造工場で、補剛材156のフランジ171には、補剛材156の支圧接合用下穴削孔ステップを行なう。図17の複数の支圧接合用下穴197を、図15の位置2p〜16p、18p、20p〜35p:2q〜16q、18q、20q〜35qに、補剛材156の長手方向に間隔をあけて列を成して、たとえば、鋼材に磁気吸着、脱着可能な小形磁気ボール盤を用いて削孔する。
【0056】
仮留め用融通孔削孔ステップを行なう。補剛材156の長手方向両端部寄りの図15(1)における位置1p、36p:1q、36qに補剛材156のフランジ171には仮留め用ボルト200のための仮留め用融通孔201(図16)を、削孔する。この仮留め用融通孔201は、仮留め用ボルト200の軸部207の外径D22を超え、支圧接合用下穴の内径D11以下の内径D32(D22<D32≦D11)を有する。
【0057】
引き寄せ用操作孔削孔ステップを行なう。補剛材156の長手方向中央寄りの図15(1)における1または複数の支圧接合用下穴197のための(この実施の一形態では、1の位置18pの)間隔をあけた位置17p、19pに補剛材156のフランジ171には、引き寄せ用ボルト200aのための融通孔である引き寄せ用操作孔201aを削孔する。この引き寄せ用操作孔201aは、引き寄せ用ボルト200aの軸部207aの外径D22aを超え、支圧接合用下穴の内径D11以下の内径D32(D22a<D32≦D11)を有する。
【0058】
図15(1)における白丸内の数字1〜3は、各操作ステップの順序を示し、本件明細書中では、その数字に添え字bを付して示す。
ステップs3では、下弦材121の仮留め用下穴削孔ステップ(図15(1)の1b)を行なう。位置1p、36p:1q、36qにおいて、下弦材121のウエブ150に、仮留め用融通孔201をポンチのための案内のために用いて、ポンチを打ち、そのポンチ穴に小形磁気ボール盤を用いて仮留め用下穴202を削孔する。仮留め用下穴202は、支圧接合用下穴197、198の内径D11未満の内径D12(D12<D11)を有する。仮留め用ボルト200の軸部207の外径D22は、仮留め用下穴201の内径D12を超える値に選ばれる(D12<D22<D11)。
【0059】
ステップs4では、仮留めステップ(図15(1)の1b)を行なう。仮留め用ボルト200を、補剛材156のフランジ171の仮留め用融通孔201に案内挿通して、仮留め用下穴201に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを密着して締め付けた仮留め状態とし、肌隙を抑制する。
【0060】
ステップs5では、引き寄せ用係止穴削孔ステップ(図15(1)の2b)を行なう。位置17p、19pにおいて、下弦材121のウエブ150に、支圧接合用下穴197の内径D11未満の内径D12a(D12a<D11)を有する下穴である引き寄せ用係止穴202aを削孔する。このステップS5は、前述のステップs3の仮留め用下穴削孔ステップに類似する。
【0061】
引き寄せ用ボルト202aの軸部207aの外径D22aは、引き寄せ用係止穴202aの内径D12aを超える値に選ばれる(D12a<D22a<D11)。
ステップs6では、引き寄せステップ(図15(1)の2b)を行なう。引き寄せ用ボルト200aを、補剛材156のフランジ171の引き寄せ用操作孔201aに案内挿通して、引き寄せ用係止穴202aに、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを密着して締め付けた引き寄せ状態とし、肌隙を抑制する。
【0062】
ステップs7では、下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップを行なう。補剛材156のフランジ171の支圧接合用下穴197によって、ドリル工具の刃物を案内して下弦材121のウエブ150に支圧接合用下穴198を、いわゆる、当て揉み削孔する。
【0063】
ステップs8では、補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップ(図15(1)の3b、図15(2)の1b〜7bおよび図15(3)の1b〜4b)を行なう。先ず、図15(1)の3bで示される位置18pにおいて、支圧接合用ボルト181を、補剛材156のフランジ171から下弦材121のウエブ150に向けて支圧接合用下穴197、198に、ねじ込むことによって、めねじを自ら形成しながら進んで支圧接合孔186、187(図12)を形成し、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを支圧接合する。
【0064】
次に図15(2)の1b〜7bで示される順序で、各位置16p、16q〜20q、20p毎に、ステップs7と同じく下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップと、ステップs8と同じく補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップとから成る操作を、繰返し行なって、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを支圧接合する。
【0065】
さらに引き続いて、図15(3)の1b〜4bで示される順序で、各位置15p、15q、21q、21p毎に、前記支圧接合用下穴削孔ステップと前記支圧接合ステップとから成る操作を、繰返し行なう。図15(3)の4bの操作が終了すると、前述と類似の順序で、たとえば、各位置14p、14q、22q、22pのような順序で、長手方向の中央から両端部に向かって前記支圧接合用下穴削孔ステップと前記支圧接合ステップとから成る操作を、各位置毎に繰返し行ない、各位置2p、2q、34q、34pまで繰り返し、さらに各位置35p、35qで繰り返す。
【0066】
ステップs9では、仮留め拡径支圧接合ステップを行なう。位置1p、36p:1q、36qにおいて、仮留め用ボルト200を取り外して仮留め用融通孔201、仮留め用下穴202の内径D12を、ドリル工具の刃物などを用いて、支圧接合用下穴197、198の内径D11に拡径し、その拡径した支圧接合用下穴197、198に、支圧接合用ボルト181によって、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを支圧接合する。
【0067】
ステップs10では、引き寄せ拡径支圧接合ステップを行なう。位置17p、19pにおいて、ステップs10はステップs9に類似する。先ず、引き寄せ用ボルト200aを取り外す。次に、実施の一形態において、引き寄せ用操作孔201aの内径D32aが支圧接合用下穴197、198の内径D11と等しい値であれば(D32a=D11)、拡径する必要はないが、または、実施の他の形態において、引き寄せ用操作孔201aの内径D32aが支圧接合用下穴197、198の内径D11未満であれば(D32a<D11)、支圧接合用下穴197、198の内径D11に拡径する。引き寄せ用係止穴202aの内径D12aを支圧接合用下穴197、198の内径D11に拡径する(D12a<D11)。その後、支圧接合用ボルト181によって、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを支圧接合する。
【0068】
図19は、本発明の実施の他の形態における鋼橋100の横トラス110の下弦材121に座屈防止構造を施工する方法を示すフローチャートである。図20は、図19の各ステップu1〜u13において、下弦材121のウエブ150に補剛材156を支圧接合によって固定する操作順序を説明するための側面図である。この実施の形態は、前述の実施の形態に類似する。
【0069】
図19に示される施工作業を、図20を参照して、および図1図18をも適宜参照して、説明する。図19のステップu1からステップu2に移り、前述のステップs1のとおり、補剛材156と支圧接合用ボルト181とを準備し、さらに、仮留め用ボルト200と引き寄せ用ボルト200aとを準備する。
【0070】
このステップu2では、製造工場で、補剛材156のフランジ171には、補剛材156の支圧接合用下穴削孔ステップを行なう。図17の複数の支圧接合用下穴197を、図20(3)の位置2p〜16p、18p〜35p:2q〜19q、21q〜35qに、補剛材156の長手方向に間隔をあけて列を成して、たとえば、小形磁気ボール盤を用いて削孔する。
【0071】
仮留め用融通孔削孔ステップを行なう。製造工場で、補剛材156の長手方向両端部寄りの図20(3)における位置1p、36p:1q、36qに補剛材156のフランジ171には仮留め用ボルト200のための仮留め用融通孔201(図16)を、削孔する。
【0072】
引き寄せ用操作孔削孔ステップを行なう。製造工場で、補剛材156の長手方向中央寄りの2つの位置17p、20qで、補剛材156のフランジ171には引き寄せ用ボルト200aのための引き寄せ用操作孔201aを削孔する。2つの位置17p、20qの長手方向には、支圧接合用下穴197のための1または複数の位置18p、18q:19p、19qがあけられる。
【0073】
ステップu3では、施工現場で、ウエブ150の外表面に、両端部寄りの図20(3)における位置1p、36p:1q、36qと、中央寄りの位置17p、20qとに、ポンチを使用して罫書きを行なう。このために、図20(1)のとおり、罫書きすべき位置1p、36p:1q、36qおよび17p、20qならびに基準線209が描かれている透明フイルムシートを、ウエブ150の外表面に配置し、基準線209を、ウエブ150に予め描かれている補剛材156のための配置基準線上に一致させた状態で、そのフイルムシートを介して、これらの罫書きすべき各位置にポンチを当ててハンマで打撃し、ポンチ穴を形成する。
【0074】
ステップu4では、前述の図14のステップs3に類似する下弦材121の仮留め用下穴削孔ステップを行なう。図20(2)のとおり、両端部寄りの位置1p、36p:1q、36qにおいて、下弦材121のウエブ150におけるポンチ穴に前述の小形ボール盤を用いて仮留め用下穴202を削孔する。
【0075】
ステップu4ではまた、前述の図14のステップs5に類似する引き寄せ用係止穴削孔ステップを行なう。中央寄りの位置17p、20qにおいて、下弦材121のウエブ150に、下弦材121のウエブ150におけるポンチ穴に小形ボール盤を用いて、引き寄せ用係止穴202aを削孔する。
【0076】
仮留め用下穴削孔ステップおよび引き寄せ用係止穴削孔ステップを行なった後、図20(3)のとおり、下弦材121を、チエンブロック(商品名)などの牽引具221と索条222とによって吊り下げて、ナイロン製スリングなどの索条3を、下弦材121と補剛材156とを外囲してレバーブロック(商品名)などの牽引具で締め付けることによって、補剛材156をウエブ150の外表面に固定する。この固定した状態では、位置1p、36p:1q、36qおよび17p、20qを、補剛材156の対応する仮留め用融通孔201、引き寄せ用操作孔201aに一致させる。
【0077】
ステップu5では、前述の図14のステップs6に類似する引き寄せステップを行なう。図20(4)のとおり、中央寄りの位置17p、20qにおいて、引き寄せ治具を準備して使用する。引き寄せ治具は、補剛材156のフランジ171の融通孔201aとウエブ150の引き寄せ用係止穴202aとを利用して、ウエブ150の外表面に補剛材156のフランジ171を、肌隙が生じないように密着して当接する。引き寄せ治具の代りに、前述の引き寄せ用ボルト200aを同じように使用してもよい。引き寄せ治具と引き寄せ用ボルト200aなどとは、引き寄せ用手段を構成する。
【0078】
ステップu6では、前述の図14のステップs4に類似する仮留めステップを行なう。図20(5)のとおり、端部寄りの位置1p、1q、36p、36qにおいて、仮留め用ボルト200を、補剛材156のフランジ171の仮留め用融通孔201を挿通して、仮留め用下穴201に、ねじ込むことによって、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを密着して締め付けた仮留め状態とし、肌隙を抑制する。
以下に説明される各図20(6)、(7)および(11)では、白丸内の数字1〜35は、各操作ステップの順序を示し、本件明細書中では、その数字に添え字bを付して示す。
【0079】
ステップu7では、図20(6)の1bのとおり、中央寄りの位置18pにおいて、前述の図14のステップs7に類似する下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップと支圧接合ステップとを行なう。補剛材156のフランジ171の支圧接合用下穴197によって、ドリル工具の刃物を案内して下弦材121のウエブ150に支圧接合用下穴198を当て揉み削孔し、位置18pで補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップを行なう。
【0080】
ステップu8では、さらに図20(6)の2b〜4bのとおり、中央寄りの位置19p、19q、18qにおいて、下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップと支圧接合ステップとを行なう。
【0081】
ステップu9では、図20(7)において、前述の図20(6)の1b〜4bの支圧接合の後、中央から左右の端部に向かって、1個所毎に左右交互に、5b〜9bで示される順序で各位置20p、17p、20q、17q、21p、16p、21q、16q、22p、22q毎に、下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップと、補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップとから成る操作を、繰返し行なって、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150とを支圧接合する。
【0082】
支圧接合用下穴削孔ステップと支圧接合ステップとから成る各操作を、各位置毎に繰返す途中で、たとえば、図20(8)のとおり、位置15pにおいて、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150との間に、予め定める管理上限値Δ1(たとえば1mm)以上の肌隙Δ15pがあるとき(Δ1<Δ15p)、端部方向(図20(8)の左方)に隣接する位置14pで、下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップで支圧接合用下穴198を削孔し、支圧接合用下穴197、198を使用して引き寄せ治具または引き寄せ用ボルト200aを使用して、引き寄せて肌隙を無くし、その後、位置15pで補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップを行なう。こうして、たとえば、位置22p、15q、22q、14qなどのように、中央から両端部に向かって左右上下交互に支圧接合用下穴削孔ステップと支圧接合ステップとから成る各操作を、図20(9)に示される長手方向左右の両端部における端部範囲225、226を残した予め定める各同一数(たとえば、5)の位置5p、5q:32p、32qに至るまで繰り返す。端部範囲225、226は、そこに小形ボール盤を磁気吸着固定して端部範囲225、226内で支圧接合用下穴198を削孔できるようにする空間を確保するために設けられる。
【0083】
ステップu10では、図20(9)に示される中央寄りの位置5p、5q〜32p〜32qで補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップを行なった後、両端部の端部範囲225、226内の位置1p、1q、36p、36qの仮留め用ボルト200を取り外し、長手方向左右に各同一数(たとえば、4)の端部範囲225、226の上下位置1p〜4p、1q〜4q:33p〜36p、33q〜36qで、補剛材156のフランジ171の支圧接合用下穴197によって、ドリル工具の刃物を案内して下弦材121のウエブ150に支圧接合用下穴198を当て揉み削孔する。
【0084】
ステップu11では、図20(10)のとおり、端部範囲225、226の当て揉み削孔操作が完了したとき、たとえば、位置34pまたは35pなどで、補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150との間に、予め定める管理上限値Δ1以上の肌隙があるとき、端部方向(図20(10)の右方)に隣接する位置36p、36qで、下弦材121の支圧接合用下穴削孔ステップで支圧接合用下穴198を削孔し、支圧接合用下穴197、198を使用して引き寄せ治具または引き寄せ用ボルト200aを使用して、引き寄せて肌隙を無くし、その後、位置36p、36qで補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップを行なう。その後、索条223を外す。
【0085】
ステップu12では、図20(11)のとおり、端部範囲225、226の全ての位置1p〜4p、1q〜4q:33p〜36p、33q〜36qで下弦材121のウエブ150に支圧接合用下穴197、198に支圧接合用ボルト181による補剛材156と下弦材121との支圧接合ステップを行なう。
【0086】
本件発明者の実験によれば、図12図18に示される支圧接合用ボルト181による補剛材156のフランジ171と下弦材121のウエブ150との支圧接合を含む実施の一形態では、気密性について、発泡漏れ試験(JIS Z 2329:2002)によって、支圧接合を備える真空箱内に高度150km相当の気圧を10秒間かけ、圧力差を用いて空気の浸入の確認を行なった。その結果、支圧接合した支圧接合用ボルト181の周辺からの空気の浸入が無いことを確認した。水密性について、防水試験(JIS C 0920:2003)によって、支圧接合を備える試験体の箱をターンテーブルに設置し、1000リットル/分の水を3分間、満遍なく直接かかるIPX6試験、および6気圧の水圧下で、30分間水中に浸漬するIPX8試験を行なった。その結果、支圧接合した支圧接合用ボルト181の周辺から内部への水の浸入が無いことを確認した。したがって、下弦材121は、その閉空間の内面に防水防錆層を必要としない。
【0087】
本件発明者の実験によれば、前述の図1図18の実施の一形態では、補剛材156に生じる応力範囲は、支圧接合用ボルト181の接合位置で最大7.6N/mm であるとき、D等級の疲労設計曲線を上回り、C等級相当の疲労強度であることを確認した(強度等級は道路橋示方書による)。
【0088】
図21は、本発明の実施の他の形態の斜視図である。この実施の形態は、前述の実施の形態に類似するが、注目すべきは、下弦材121のウエブ150、151の外表面に、簡略化して示される補剛材156、159が固定されるだけでなく、フランジ152、153の外表面にも補剛材213、214が固定される。補剛材156、159、213、214は、ウエブ150、151およびフランジ152、153に沿って、それらの橋軸方向である幅方向の中央で橋軸直角方向に延びる。
【0089】
図22(1)は、図21の下弦材121の簡略化した断面図である。地震時に下弦材121には、図21の矢符215、216の圧縮荷重が作用する。耐震補強されたウエブ150、151およびフランジ152、153は、それらの幅方向端部と簡略化して示される補剛材156、159、213、214との間で、仮想線150e、151e、152e、153eで示されるとおり、比較的小さな面外の座屈変形をし、大きな変形が避けられ、破壊が防がれる。
【0090】
図22(2)は、従来の下弦材121の断面図である。従来の下弦材121には、本発明に従う補剛材156、159、213、214が設けられず、耐荷力が小さい。したがって、地震時に、ウエブ150、151およびフランジ152、153はそれぞれ全体として、仮想線150f、151f、152f、153fで示されるとおり、比較的大きな面外の座屈変形をし、破壊に至る、という問題がある。本発明は、補剛材156、159、さらには補剛材213、214によって、この問題を解決する。
【0091】
前述の図21図22(1)の実施の形態によれば、補剛材156、159、213、214によって耐震補強された下弦材121の各ウエブ150〜153の幅厚比パラメータR(板の座屈に関するパラメータ)は、式1で表わされる。
【数1】
【0092】
図23は、前述の実施の形態における幅厚比パラメータRと耐荷力である終局強度σcr/σとの関係を示す図である。図23のラインL1は、この実施の形態における基準耐荷力曲線を示す。この実施の形態では、前記パネル数nを2にできるので、補剛材156、159、213、214が設けられない従来の下弦材121(図22(2))における前記パネル数nが1である構成に比べて幅厚比パラメータRを、図21の左向きの白抜き矢符のとおり小さくできる。したがって、σcr を座屈時の応力度とするとき、耐荷力である終局強度σcr/σ図21の上向きの白抜き矢符のとおり大きく向上できることが判る。
【0093】
図24は、本発明の実施のさらに他の形態の下弦材121の断面図である。この実施の形態は、前述の実施の形態に類似するが、注目すべきは、下弦材121の各ウエブ150、151の外表面に2本の補剛材231、232、233、234がそれぞれ固定される。補剛材155〜159、231〜234は、上下のフランジ152、153間の上下方向の距離を1/3に等間隔に分けた位置に固定される。この実施の形態では、各ウエブ150、151の幅厚比パラメータRにおける前記パネル数nを3にできるので、前述の実施の形態に比べて幅厚比パラメータRをさらに小さくでき、終局強度σcr/σを大きく向上できる。
【0094】
補剛材155〜159、231〜234は、T形断面に代えてL形断面を形成するフランジとリブとを有する構成であってもよく、下弦材121のウエブ150、151のみに設けられてもよいが、フランジ152、153のみに設けられてもよく、下弦材121の代りに閉断面部材である上弦材112または中弦材117に設けられてもよく、これらのうちの複数の弦材112、117に設けられてもよく、さらに、前述のまたはその他の垂直材、斜材などを含む閉断面部材の外表面に設けられてもよい。
【産業上の利用分野】
【0095】
本発明の耐震補強構造は、既設の鋼橋に関連して実施できるが、新たに架設される鋼橋の閉断面部材のためのウエブ、フランジなどにも実施できる。本発明は、鋼橋以外の鋼構造などの技術分野においても実施できる。
【符号の説明】
【0096】
100 鋼橋
103 主塔
104 トラス桁
110 横トラス
121 下弦材
145、148 ダイヤフラム
150、151 ウエブ
152、153 フランジ
155〜159、213、214、231〜234 鋼製補剛材
171 フランジ
172 リブ
181 支圧接合用ボルト
186、187 支圧接合孔
197、198 支圧接合用下穴
200 仮留め用ボルト
200a 引き寄せ用ボルト
201 仮留め用融通孔
201a 引き寄せ用操作孔
202 仮留め用下穴
202a 引き寄せ用係止穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19-1】
図19-2】
図20-1】
図20-2】
図20-3】
図20-4】
図20-5】
図21
図22
図23
図24