(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6975263
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】金属粉末の粒子の表面処理方法及びこの方法によって得られる金属粉末粒子
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20211118BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
B22F1/00 G
B22F1/00 K
B22F1/00 N
B22F1/00 R
B22F1/02 D
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-571332(P2019-571332)
(86)(22)【出願日】2018年6月21日
(65)【公表番号】特表2020-524750(P2020-524750A)
(43)【公表日】2020年8月20日
(86)【国際出願番号】EP2018066615
(87)【国際公開番号】WO2019007699
(87)【国際公開日】20190110
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】17180199.6
(32)【優先日】2017年7月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ミコ,シラ
(72)【発明者】
【氏名】バザン,ジャン−リュック
【審査官】
中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−287202(JP,A)
【文献】
特開2003−147473(JP,A)
【文献】
特開平04−280902(JP,A)
【文献】
特開2016−050344(JP,A)
【文献】
特開2009−280842(JP,A)
【文献】
特開2016−058732(JP,A)
【文献】
特表2013−506050(JP,A)
【文献】
特開2013−251251(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0013395(KR,A)
【文献】
中国特許出願公開第104874791(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状態の金属材料の表面処理方法であって、
金または白金材料の複数の粒子によって形成される粉末(30)を得るステップと、
前記金または白金粉末粒子(30)に対して、前記粒子の外面に向かって単価又は多価イオンであって炭素または窒素のイオンビーム(14)を当てることによってイオン注入プロセスを施すステップとを有し、
前記イオンビームは、単価又は多価イオンのイオン源によって作られ、
前記粒子は半径(R)を有する球形である
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記金または白金粉末(30)の前記粒子が、前記イオン注入プロセスの継続時間全体にわたって攪拌される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
用いられる前記金または白金粉末(30)の前記粒子においては、全ての前記粒子の50%が1〜2μmである粒径を有し、前記金または白金粉末(30)の前記粒子の粒径が50μmを超えない
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン注入プロセスがECR電子サイクロトロン共鳴タイプである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記単価又は多価イオンが15000〜35000Vの電圧の下で加速される
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イオン注入量は、1×1015〜1×1017イオン・cm-2である
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イオンは、前記粒子の半径(R)の10%に対応する深さまで、前記金または白金粉末を形成する前記粒子に浸透する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
セラミックス外層(26)と金または白金コア(24)を有する複数の粒子によって構成している粉末状態の材料であって、
前記粒子は、半径(R)を有する球形であり、
前記セラミックス外層(26)は、前記粒子の前記コア(24)を形成する前記金または白金の炭化物又は窒化物に対応しており、
この炭化物又は窒化物は、炭素又は窒素イオンと前記金または白金原子が結合したものであり、
セラミックス材料の濃度は、前記セラミックス外層(26)の外面から特定の深さまで増加し、この特定の深さを超えると減少してゼロとなる
ことを特徴とする材料。
【請求項9】
前記粒子の50%は、1〜2μmである粒径を有し、前記粒子の粒径は、50μmを超えない
ことを特徴とする請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記セラミックス材料の濃度は、前記セラミックス外層(26)の外面から前記粒子の前記半径(R)の長さの5%の箇所まで増加し、そして、前記粒子の前記半径(R)の長さの10%の箇所まで減少し、この箇所においてはゼロである
ことを特徴とする請求項8〜9のいずれか一項に記載の材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状の金属材料の粒子を表面処理する方法、そして、この方法を用いることによって得られる金属粉末粒子に関する。本発明に係る方法によって得られる金属粉末粒子は、金属射出成形法(MIM)としてよく知られている射出成形法のような粉末冶金法、プレス法、又は三次元レーザープリンティングのような付加的製造法を用いて固体部品を製造することに用いられることが意図されている。本発明は、さらに、セラミックス表面及び金属コアを有する金属粉末の粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入法においては、例えば、電子サイクロトロン共鳴タイプの単価又は多価のイオン源を用いて、被処理物体の表面に衝突させる。このような設備は、電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)と呼ばれる。
【0003】
ECRイオン源は、電子サイクロトロン共鳴を用いてプラズマを発生させる。特定の体積の低圧気体が、電子サイクロトロン共鳴に対応する周波数で注入されるマイクロ波によってイオン化され、この電子サイクロトロン共鳴は、イオン化されるその特定の体積の気体内に位置する領域に与えられる磁場によって定められる。マイクロ波は、イオン化されるこの特定の体積の気体中に存在する自由電子を加熱する。これらの自由電子は熱攪拌の影響下で気体の原子又は分子と衝突し、そのイオン化を発生させる。用いられる気体のタイプに対応するイオンが発生する。この気体は、純粋であることができ、また、化合物であることができる。また、固体又は液体物質から得られる蒸気であることができる。ECRイオン源は、単価イオン、すなわち、イオン化傾向が1であるイオン、又は多価イオン、すなわち、イオン化傾向が1よりも大きいイオンを発生させることができる。
【0004】
本特許出願に添付されている
図1に、ECR電子サイクロトロン共鳴タイプの多価イオン源を図示している。ECR多価イオン源は、全体として参照符号1を付しており、イオン化される特定の体積の気体4とマイクロ波6が導入される注入ステージ2と、プラズマ10が中で発生する磁気閉じ込めステージ8と、及び高電圧が間に印加されるアノード12aとカソード12bを用いてプラズマ10のイオンを抽出し加速させることを可能にする抽出ステージ12とを備えている。ECR多価イオン源1の出力において発生する多価イオンビーム14は、被処理部品18の表面16に衝突し、被処理部品18の体積内の比較的深くまで浸透する。
【0005】
被処理物体の表面に衝突させてイオン注入をすると多くの効果が発揮される。例えば、被処理物体が作られている材料の微細構造を改変すること、耐食性を向上させること、摩擦特性を向上させること、そしてより一般的には、機械的特性を向上させることである。このような窒素イオン注入による銅及び青銅の硬度の増加に注目していくつかの研究が行われている。また、銅内に窒素又はネオンを注入すると、その銅の疲労強度が向上することが証明されている。同様に、窒素注入は、低量(1×10
15や2×10
15イオン・cm
-2)でも、銅のせん断弾性率を大きく変化させるのに十分であることをいくつかの研究が示している。
【0006】
このように、被処理物の表面に衝突させることによるイオン注入が、科学的、技術的及び工業的な観点から非常に有利であることがわかる。それにもかかわらず、今まで行われてきた研究は、被処理物が固体である場合にしか関連していない。
【0007】
しかし、このような固体物体は、伝統的な機械加工技術(ドリル加工、ミリング加工、ボーリング加工)を用いて与えられることがある形状や幾何学的構成によって制限される。
【0008】
したがって、現状の技術において、想定される形状に関する制限がほぼなく、かつ、機械的特性が著しく改善される物体が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、物理的及び化学的特性を変化させ向上させつつ、幾何学的形状が実質的に制限されないような物体の製造が可能になるような、金属材料の表面処理方法を提案することによって、上記の必要性を満たすことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、金属材料の表面処理方法に関し、この方法は、金属材料の複数の粒子によって形成される粉末を得るステップと、及び単価又は多価イオンビームを前記粒子の表面に当てるステップとを有し、前記イオンビームは、単価又は多価イオン源によって作られ、これによって、粒子は全体として球形である。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、
− 前記単価又は多価イオン源は、ECR電子サイクロトロン共鳴タイプのものである。
− 前記前記金属粉末の前記粒子は、前記イオン注入プロセスの持続時間全体にわたって攪拌される。
− 前記金属粉末の前記粒子においては、全ての前記粒子の実質的に50%が1〜2μmである粒径を有し、前記金属粉末の前記粒子の粒径が50μmを超えない。
− 前記金属材料は、金及び白金からなる群から選択される貴金属である。
− 前記金属材料が、マグネシウム、チタン及びアルミニウムからなる群から選択される非貴金属である。
− イオン化される前記材料は、炭素、窒素、酸素及びアルゴンからなる群から選択される。
− 前記単価又は多価イオンが15000〜35000Vの電圧の下で加速される。
− イオン注入量は、1×10
15〜1×10
17イオン・cm
-2である。
− イオンの最大注入深さは、150〜200nmである。
【0012】
本発明は、さらに、セラミックス表面及び金属コアを有する金属粉末の粒子に関し、より詳細には、金属粉末の粒子を形成する金属の炭化物又は窒化物に対応する表面を有する金属粉末の粒子に関する。
【0013】
これらの特性のおかげで、本発明は、粉末状態の金属材料を処理する方法であって、前記粉末を形成する粒子は、深い箇所においてはその元の金属構造を保持する一方、表面から特定の深さまでは、金属粉末粒子と衝突する単価又は多価イオンは、金属の結晶構造の格子の欠陥を充填し、そして、金属材料の原子と結合して、セラミックス、すなわち、周囲温度で固体であり有機でも金属でもない材料、を形成するような方法を提供する。
【0014】
なお、金属粉末粒子は、イオン注入処理後に、射出成形、プレスのような粉末冶金法や三次元レーザープリンティングのような付加的製造法で用いる準備ができていることに留意すべきである。また、金属粉末粒子の表面がセラミックス、特に、前記粒子を形成する金属の炭化物及び/又は窒化物に変わるので、前記金属粉末粒子の機械的及び物理的特性、特に、硬度、耐食性又は摩擦特性、が改善する。このような金属粉末粒子の機械的及び物理的特性の改善は、このような金属粉末を用いて固体部品を作っても保持される。
【0015】
好ましくは、金属粉末を形成する粒子は、イオン注入処理の持続時間全体にわたって攪拌され、その結果、前記粒子は、その実質的に球形の表面全体にわたって均質な形態で注入ビームのイオンに曝される。
【0016】
なお、従来技術において、「サーメット」と呼ばれるセラミックス−金属タイプの材料を得るために通常用いられる方法の1つは、金属とセラミックス粉末を可能なかぎり均質に混合し、これによって、金属層で被覆されたセラミックス粒子を作ることを伴う。しかし、この方法は、金属層の厚み、及び金属層とセラミックスコアとの間の界面の品質をどのように正確に制御するかという課題を発生させる。
【0017】
図面を参照しながら本発明に係る方法の一例である実施形態についての以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点を理解することができる。この実施形態は、説明のためにのみ提供されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図しているものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】上で言及しており、ECR電子サイクロトロン共鳴タイプの多価イオン源の概略図である。
【
図2】C
+炭素イオンビームが衝突した半径が約1μmである金粒子Auの断面図である。
【
図3】本発明の範囲内で用いられているECR電子サイクロトロン共鳴タイプの多価イオン源の概略図である。
【
図4】
図4Aは、半径が約1μmである白金粒子Pt内におけるC
+炭素イオンの注入プロファイルを示している。
図4Bは、半径が約1μmである実質的に球形の白金粒子Ptの平面における拡大図であり、この粒子内におけるC
+炭素イオンの浸透軌跡を示している。
【
図5】
図5Aは、半径が約1μmである白金粒子PtにおけるN
+窒素イオンの注入プロファイルを示している。
図5Bは、半径が約1μmである白金粒子Ptの平面における拡大図であり、この粒子内におけるN
+窒素イオンの浸透軌跡を示している。
【
図6】
図6Aは、半径が約1μmである金粒子Au内におけるC
+炭素イオンの注入プロファイルを示している。
図6Bは、半径が約1μmである略球形の金粒子Auの平面における拡大図であり、この粒子内におけるC
+炭素イオンの浸透軌跡を示している。
【
図7】
図7Aは、半径が約1μmである金粒子AuにおけるN
+窒素イオンの注入プロファイルを示している。
図7Bは、半径が約1μmである金粒子Auの平面内における拡大図であり、この粒子内におけるN
+窒素イオンの浸透軌跡を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、全体として見ると、金属粉末の粒子に対して、その金属粉末の粒子の表面にイオンを注入するための処理プロセスによって処理するという創造性のある考えに基づいている。約15000〜35000Vの電圧で大きく加速した単価又は多価イオンを金属粉末の粒子に衝突させることによって、前記イオンは、金属の結晶構造の格子の欠陥を充填し始め、そして、金属材料の原子と結合してセラミックスを形成することが観察された。金属粉末粒子の表面から特定の深さまで、これらの金属粉末粒子は、セラミックス、例えば、この粒子を形成する金属の炭化物又は窒化物、に変えられる。好ましいことに、前記金属粉末粒子がセラミックス表面層を備えるようになって、機械的及び物理的特性、特に、硬度、耐食性又は摩擦特性、が改善される。このような金属粉末粒子がセラミックス表面層を備えることによる機械的及び物理的特性の改善は、前記金属粉末が、射出成形、プレス、付加的製造又は他の技術のような粉末冶金技術によって固体部品を作るために用いられても保持される。用語「付加的製造技術」は、本明細書では、材料の添加による固体部品の製造を伴うものと理解される。付加的製造技術の場合、基礎原料を徐々に追加することによって固体部品を作るが、伝統的な製造技術では、原材料を基材として用い、材料を徐々に取り除くことによって所望の最終部品を得る。
【0020】
図2は、金粒子Auの断面図である。この金粒子は、全体として参照符号20を付しており、半径Rが約1μmである実質的に球形である。前記金粒子20は、参照符号22で示しているC
+炭素イオンビームを用いて衝突される。
図2に示しているように、金粒子20は、純金によって作られているコア24と、主に金炭化物によって構成している外層ないし外殻26とを有する。
【0021】
前記外層26の厚みeは、金粒子20の半径Rの約10分の1、すなわち、約100nmである。この外層26のほとんどは、セラミックス材料である金炭化物によって構成している。本発明によれば、セラミックス材料の濃度は、金粒子20の外面28から前記金粒子20の半径Rの約5%、すなわち、約50nm、の箇所まで増加し、そして、金粒子20の半径Rの約10分の1の箇所まで減少し、この箇所においては実質的にゼロである。
【0022】
本発明に係る方法のおかげで、例として、コアが元の金属によって構成している一方で、粒子のコアを完全に包囲する外層が、粒子に衝突するイオンと金属原子とが結合することによって発生する炭化物又は窒化物のようなセラミックス材料によって構成しているような金又は白金によって作られている粒子が得られる。
【0023】
本発明によれば、この方法は、被処理金属材料の複数の粒子によって形成される粉末を用いる。この金属材料は、金及び白金からなる群から選択される貴金属であることができるが、これに限定されない。また、マグネシウム、チタン及びアルミニウムからなる群から選択される非貴金属であることができる。
【0024】
必要に応じて金属を選択した後、金属粉末粒子30に対して、ECR電子サイクロトロン共鳴タイプの単価又は多価イオン源によって発生する単価又は多価イオンビーム14を前記粒子の外面に当てることによるイオン注入プロセスを施す(
図3参照)。
【0025】
好ましくは、イオン化される材料は、炭素、窒素、酸素及びアルゴンからなる群から選択され、単価又は多価イオンは、15000〜35000Vの電圧の下で加速される。なお、これに限定されない。イオン注入量は1×10
15〜1×10
17イオン・cm
-2である。
【0026】
金属粉末粒子30は、全体として、半径Rを有する球形であり、前記粒子の約50%の粒径が1〜2μmであり、これによって、金属粉末粒子30の粒径が50μmを超えないようにされる。好ましくは、金属粉末粒子30は、イオン注入プロセスの継続時間全体にわたって攪拌され、これによって、前記粒子がその外面全体にわたって均質にイオンビーム14に曝されることを確実にする。
【0027】
図4Aは、半径が約1μmである白金粒子Pt内におけるC
+炭素イオンの注入プロファイルを示している。横軸は、白金粒子Ptの半径Rに沿って延び、ここで、該横軸の原点は、白金粒子の外面に対応しており、2000オングストロームの値は、白金粒子Ptの半径Rの約20%に対応している。縦軸は、特定の深さにおいて白金粒子Ptに注入されるC
+炭素イオンの数を示している。白金粒子Pt内に注入されるC
+炭素イオンの数が白金粒子の外面から非常に迅速に増加して、500オングストローム、すなわち、白金粒子の半径Rの約5%、に実質的に対応する深さにおいて14×10
4cm
-2を超える最大値に達することがわかる。そして、C
+炭素イオンの数は減少して、深さ約1000オングストローム、すなわち、白金粒子Ptの半径Rの約10%、においてゼロに近づく。
【0028】
図4Bは、略球形の白金粒子Ptの平面における拡大図であり、半径が約1μmであり、各C
+、C
++炭素イオン等の平均自由軌道を示している。白金粒子Ptを浸透すると、この
図4Bは、約14×10
4原子・cm
-2の密度で描かれている。
図4Bの横軸は、表面(0オングストローム)と2000オングストロームとの間の白金粒子Ptの深さを示している。
図4Bの縦軸はC
+炭素イオンビームの直径を示している。C
+炭素イオンビームの中心は、−1000オングストロームと+1000オングストロームの間の縦軸の高さに沿って中央に位置する。したがって、
図4Bにおいて、C
+炭素イオンビームの近似的な直径は約150nmであり、白金粒子Pt内におけるC
+炭素イオンの浸透深さは100nmをわずかに超えるにすぎないことがわかる。
【0029】
図5Aは、半径Rが約1μmである白金粒子PtにおけるN
+窒素イオンの注入プロファイルを示している。横軸は、白金粒子Ptの半径Rに沿って延び、ここで、該横軸の原点は、白金粒子Ptの外面に対応し、2000オングストロームの値は、白金粒子Ptの半径Rの約20%に対応する。縦軸は、特定の深さにおいて白金粒子Ptに注入されるN
+窒素イオンの数を示している。白金粒子Pt内に注入されるN
+窒素イオンの数は、白金粒子Ptの外面から非常に迅速に増加し、実質的に500オングストローム、すなわち、白金粒子Ptの半径Rの約5%に対応する深さにおいて、16×10
4cm
-2を超える最大値に達することがわかる。そして、N
+窒素イオンの数は、白金粒子Ptの外面から約1000オングストロームの深さにおいて減少し、ゼロに近づく。すなわち、前記白金粒子Ptの半径Rの約10%である。
【0030】
図4Aと5Aを比較すると、N
+窒素イオンは、C
+炭素イオンよりも小さい程度まで白金粒子Ptの結晶格子に浸透していることがわかる。
【0031】
図5Bは、実質的に球形の白金粒子Ptの平面における拡大図であり、その半径は約1μmであり、白金粒子Ptに浸透するときの各N
+、N
++窒素イオン等の平均自由軌道を示している。この
図5Bは、約16×10
4原子・cm
−2の密度で描かれている。図
5Bの横軸は、表面(0オングストローム)と2000オングストロームとの間の白金粒子Ptの深さを示している。図
5Bの縦軸はN
+窒素イオンビームの直径を示している。N
+イオンビームの中心は、−1000オングストロームと+1000オングストロームの間の縦軸の高さに沿って中央に位置する。したがって、
図5Bにおいて、N
+イオンビームの近似的な直径は約150nmであり、白金粒子Pt内におけるN
+イオンの浸透深さは100nmよりわずかに小さいことがわかる。したがって、N
+イオンは、C
+イオンよりも白金粒子に浸透する度合いが小さいことは明らかである。
【0032】
図6Aは、金粒子Au内におけるC
+炭素イオンの注入プロファイルを示し、その半径Rは約1μmである。横軸は、金粒子Auの半径Rに沿って延び、ここで、前記横軸の原点は、金粒子Auの外面に対応し、2000オングストロームの値は、金粒子Auの半径Rの約20%に対応する。縦軸は、与えられた深さにおいて金粒子Auに注入されるC
+炭素イオンの数を示している。金粒子Au内に注入されるC
+炭素イオンの数は、金粒子Auの外面から非常に迅速に増加し、500オングストロームの深さ、すなわち、金粒子Auの半径Rの約5%の箇所で12×10
4cm
-2を超える最大値に達することがわかる。そして、イオンの数は減少し、金粒子Auの外面よりも中の約1000nmの箇所でゼロに近づく。すなわち、粒子の半径Rの長さの約10%の箇所である。
【0033】
図6Bは、半径が約1μmであるような実質的に球形の金粒子Auの平面における拡大図であり、各C
+、C
++炭素イオン等が金粒子Au内に浸透するときのそれらの平均自由軌道を示している。この
図6Bは、イオン密度が約12×10
4原子・cm
-2である場合のものである。
図6Bの横軸は、金粒子Auの深さを表面(0オングストローム)と2000オングストロームの間で示している。
図6Bの縦軸は、C
+炭素イオンビームの直径を示している。C
+イオンビームの中心は、−1000オングストロームと+1000オングストロームの間の縦軸の高さの中間に位置している。したがって、
図6Bにおいて、C
+イオンビームの近似的な直径が約150nmであり、金粒子Au内におけるC
+イオンの浸透深さは100nmをわずかに超えることがわかる。
【0034】
図7Aは、半径が約1μmである金粒子AuにおけるN
+窒素イオンの注入プロファイルを示している。横軸は、金粒子Auの半径Rに沿って延び、ここで、前記横軸の原点は、金粒子Auの外面に対応しており、2000オングストロームの値は、金粒子Auの半径Rの約20%に対応している。縦軸は、特定の深さにおいて金粒子Auに注入されるN
+窒素イオンの数を示している。金粒子Au内に注入されるN
+窒素イオンの数は、金粒子Auの外面から非常に迅速に増加して、500オングストローム、すなわち、金粒子Auの半径Rの約5%の箇所、の深さにおいて、14×10
4cm
-2を超える最大値に達することがわかる。そして、N
+窒素イオンの数が減少し、金粒子Auの外面下の約1000nm、すなわち、粒子の半径Rの長さの約10%の箇所、において、ゼロに近づく。
【0035】
図7Bは、半径が約1μmである略球形の金粒子Auの平面における拡大図であり、各N
+、N
++窒素イオン等が金粒子Au内に浸透するときのそれらの平均自由軌道を示している。この
図7Bは、イオン密度が約14×10
4原子・cm
−2である場合のものである。
図7Bの横軸は、金粒子Auの深さを表面(0オングストローム)と2000オングストロームの間で示している。
図7Bの縦軸は、N
+窒素イオンビームの直径を示している。N
+窒素イオンビームの中心は、−1000オングストロームと+1000オングストロームの間の縦軸の高さに沿って中央に位置する。したがって、
図7Bにおいて、N
+窒素イオンビームの近似的な直径は約150nmであり、
金粒子Au内におけるN
+イオンの浸透深さは約100nmであることがわかる。したがって、N
+窒素イオンがC
+イオンよりも金粒子Au内に浸透しにくいことは明らかである。
【0036】
本発明が上記実施形態に限定されるものではなく、添付の請求の範囲によって定められる本発明の範囲を逸脱せずに当業者によって種々の単純な代替形態や改変が考えられることは明らかである。具体的には、ECR電子サイクロトロン共鳴タイプのイオン注入プロセスについて、好ましい例の形態で記載しているが、本発明の範囲を制限するものではなく、他の熱間プラズマ生成プロセス、例えば、誘導、又はマイクロ波発生器によって発生する強力磁場を用いるプロセスを考えることができることを理解することができるであろう。また、窒素によって注入される平均直径が2.0μmであるサファイア粒子に対して透過型電子顕微鏡によって行われる付加的な測定によって、イオン注入後のサファイア粒子が、厚みが約150〜200nmであるセラミックス外殻を有することが確認されることに留意すべきである。また、粒子の体積全体に対する照射される粒子の体積の比は、約14%であることに留意すべきである。出願人の観点からは、本発明に係るイオン注入法によって得られる粉末は真の複合材料ではない。具体的には、複合材料は、その広く受け入れられている意味においては、2つの異なる材料、すなわち、マトリックスと補強材、を組み合わせたものである。本明細書の場合、単一の材料に対してイオンが衝突して表面における化学構造が改変したものについてのみ説明が関連する。したがって、この材料については、不均質材料と呼ぶことが好ましい。最後に、本発明によれば、ECRイオン源は、単価イオン、すなわち、イオン化傾向が1であるイオン、又は多価イオン、すなわち、イオン化傾向が1よりも大きいイオン、を発生させることができることに留意すべきである。また、イオンビームは、すべてイオン化傾向が同じイオンを含むことができ、また、イオン化傾向が異なるイオンの混合物によって形成されていてもよいことに留意すべきである。
【符号の説明】
【0037】
1 ECR多価イオン源
2 注入ステージ
4 被イオン化気体の体積
6 マイクロ波
8 磁気閉じ込めステージ
10 プラズマ
12 抽出ステージ
12a 陽極
12b カソード
14 多価イオンビーム
16 表面
18 被処理部品
20 金粒子Au
R 半径
22 C
+炭素イオンビーム
24 コア
26 外層ないし外殻
e 厚み
28 外面
30 金属粉末粒子