特許第6975504号(P6975504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6975504
(24)【登録日】2021年11月10日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/02 20060101AFI20211118BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20211118BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20211118BHJP
   A61L 29/18 20060101ALI20211118BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20211118BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   A61L31/02
   A61L27/04
   A61L29/02
   A61L29/18
   A61L31/18
   C22C38/00 302A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2021-501582(P2021-501582)
(86)(22)【出願日】2019年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2019046312
(87)【国際公開番号】WO2020174791
(87)【国際公開日】20200903
【審査請求日】2021年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2019-47731(P2019-47731)
(32)【優先日】2019年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-160907(P2019-160907)
(32)【優先日】2019年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】706001031
【氏名又は名称】YANCHERS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 順一
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−023110(JP,A)
【文献】 特表2002−502464(JP,A)
【文献】 NAS NM15M NAS非磁性高強度ステンレス鋼,日本冶金工業株式会社,2013年,p.1-4,http://www.nyk.co.jp/pdf/products/alloys/NAS_NM15M_J.pdf
【文献】 NAS NM17 NAS非磁性軟質ステンレス鋼,日本冶金工業株式会社,2013年,p.1-4,http://www.nyk.co.jp/pdf/products/alloys/NAS_NM17_J.pdf
【文献】 FENG, Y P et al.,Novel Fe-Mn-Si-Pd alloys: insights into mechanical, magnetic, corrosion resistance and biocompatibility performances,J Mater Chem B,2016年,Vol.4, No.39,p.6402-6412
【文献】 NAS NM15N,株式会社アサダ,2005年,p.1-3,http://www.asada-metal.co.jp/PDF/NASNM15N.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00
A61L29/02
A61L29/18
A61L27/04
A61L31/02
A61L31/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属から成る医療機器、又は金属から成る部品を含む医療機器であって、前記金属が下記表1に示される組成を有する高マンガン含有ステンレス鋼である、医療機器。
【表1】
【請求項2】
前記医療機器が、磁気共鳴イメージング装置の近傍で使用されることがある医療機器、又は磁気共鳴イメージング装置の部品である、請求項1記載の医療機器。
【請求項3】
前記医療機器が、磁気共鳴イメージング保証の医療機器である請求項1又は2記載の医療機器。
【請求項4】
前記医療機器が、少なくとも一時的にその全部又は一部が生体内に導入される医療機器であり、生体内に導入される部分を構成する前記金属が高マンガン含有ステンレス鋼である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項5】
前記医療機器が、針、体内埋込医療機器、カテーテル関連機器、鋼製小物類、組織固定用線類、手術及び検査等ロボット関連機器、内視鏡関連機器、又は歯科材料である請求項1〜のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項6】
前記医療機器が、針、ステント又はステープルである請求項記載の医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器に関し、特に、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」と呼ぶことがある)の装置近傍で用いられる医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、患者体内の状態を観察するためにX線が多用されており、X線透視下において、検査や治療処置や手術が広く行われている。しかしながら、X線は、頻繁に施術を行う医師が被曝されるという問題がある。
【0003】
この問題を解決すべく、近年、MRIが行われるようになり、MRIによる透視下において手術や処置を行うことが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
特許文献1には、生体内に導入される医療機器の表面を酸化ニッケル層で被覆することにより、MRIにおいて、該医療機器を可視化することが記載されている。しかしながら、酸化ニッケルは、金属酸化物であるから金属のような加工性がなく、基材の表面を被覆することしかできない。また、特許文献1には、MRIにおける画像アーチファクトの問題については記載も示唆もされていない。
【0005】
特許文献2には、MRIにおいて、医療機器の表面にアクティブMRマーカーやパッシブMRマーカーを固定化して医療機器を可視化することが記載されている。さらに、パッシブMRマーカーとして、常磁性、強磁性、フェリ磁性及び反強磁性の金属、合金、及び金属化合物を利用可能であることが記載されている。しかしながら、これらの金属はマーカーとして医療機器の表面に結合されるものである。また、特許文献2にもMRIにおける画像アーチファクトの問題については記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5078625号公報
【特許文献2】特許第6281041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者は外科医であり、MRI透視下における施術を検討していたところ、通常の金属製医療機器をMRIで生体内において可視化すると、該金属による画像アーチファクトが生じ、医療機器がはっきりと可視化できないという問題があることを見出した。医療機器が明瞭に可視化できないと、細かい作業をすることができず、治療上、問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、MRIにおいて、画像アーチファクトが生じない、新規な医療機器を提供することである。また、本発明の目的は、MRI装置の近傍に存在しても、磁気による影響を受けにくい医療機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、鋭意研究の結果、金属製の医療機器を構成する金属を、高マンガン含有ステンレス鋼とすることにより、MRIにおける画像アーチファクトの生成を防止し、医療機器を明瞭に可視化できることを見出した。さらに、MRI装置の近傍に存在し得る医療機器の金属部分を、高マンガン含有ステンレス鋼で構成することにより、該金属部分が磁気の影響を受けることを回避できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のものを提供する。
(1) 金属から成る(consisting essentially of)医療機器、又は金属から成る(consisting essentially of)部品を含む医療機器であって、前記金属が高マンガン含有ステンレス鋼である、医療機器。
(2) 前記医療機器が、磁気共鳴イメージング装置の近傍で使用されることがある医療機器、又は磁気共鳴イメージング装置の部品である、(1)記載の医療機器。
(3) 前記医療機器が、磁気共鳴イメージング保証の医療機器である(1)又は(2)記載の医療機器。
(4) 前記医療機器が、少なくとも一時的にその全部又は一部が生体内に導入される医療機器であり、生体内に導入される部分を構成する前記金属が高マンガン含有ステンレス鋼である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の医療機器。
(5) 前記高マンガン含有ステンレス鋼中のマンガン含有量が13質量%以上22質量%以下である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の医療機器。
(6) 前記高マンガン含有ステンレス鋼が下記表1又は表2に示される組成を有する、(5)記載の医療機器。
【0011】
【表1】
【0012】
【表2】
【0013】
(7) 前記医療機器が、針、体内埋込医療機器、カテーテル関連機器、鋼製小物類、組織固定用線類、手術及び検査等ロボット関連機器、内視鏡関連機器、又は歯科材料である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の医療機器。
(8) 前記医療機器が、針、ステント又はステープルである(7)記載の医療機器。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、MRIにおいて、画像アーチファクトが生じない、新規な医療機器が初めて提供された。高マンガン含有ステンレス鋼は、ステンレス鋼であるので、通常のステンレス鋼と同様に加工することができ、このため、様々な医療機器やその部品を容易に形成することができる。本発明の医療機器を用いると、MRIにおいて、生体内の医療機器が明確に可視化できるので、細かい施術作業を正確に行うことが可能となり、医療に大いに貢献する。さらに、MRI装置の近傍で使用されることがある医療機器(装置自体も包含する)の金属部品を高マンガン含有ステンレス鋼で構成することにより、該装置により発生する磁場の影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】日本冶金工業株式会社製の高マンガン含有ステンレス鋼NAS NM17の冷間圧延率と硬さの関係を示す図である。
図2】下記実施例及び比較例で観察したMRI画像を示す図である。
図3図2の解説図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の医療機器は、金属から成る医療機器、又は金属から成る部品を含む医療機器である。すなわち、穿刺針等の針、血管内留置ステントや体内固定用ネジのように、全体が金属から成る医療機器や、カテーテル等のようにその先端部分に金属から成る部品を含む医療機器である。
【0017】
本発明の医療機器は、穿刺や外科手術等により、その全部又は一部が少なくとも一時的に生体内に導入される医療機器であり得る。本発明の医療機器の例としては、各種針、各種体内埋込(埋植)医療機器、カテーテル関連機器、鋼製小物類、組織固定用線類、手術及び検査等ロボット関連機器、内視鏡関連機器、歯科材料等を挙げることができる。より具体的には、管腔内部人工器官生検針、マーカー及び関連器具;乳房組織拡張器及びインプラントと関連部品;心血管カテーテル及び付属品;頸動脈血管鉗子;コイル及びフィルター;歯科インプラント、歯科用器具及び歯科材料;ECG電極;温度センサー付きフォーリーカテーテル;ハローベスト及び頚部固定器具;心臓代用弁及び弁形成リング;止血用クリップ;外傷縫合用、組織固定用、骨固定用、消化管用、血管外科用、内視鏡手術用、ロボット手術用等の各種ステープル(ステープラーのカートリッジの針);眼用のインプラント及び器具;整形外科用のインプラント、材料及び器具;耳科用インプラント;動脈管開存症(PDA)、心房中隔欠損症(ASD)及び心室中隔欠損症(VSD)用のオクルダー;ペレット剤及びブレット剤(bullet);陰茎インプラント;血管アクセスポート、輸液ポンプ及びカテーテル、手術用のロボットアーム、検査用ロボットアーム、軟性内視鏡の構造材、軟性内視鏡のワイヤ;血管造影用シースイントロデューサーセット;ダイレーター;カニューレ;心臓ペースメーカ、及び関連部品;ステント;人工関節;人工骨;骨固定用釘;骨固定用金属線;骨固定用金属ピン;骨固定用ネジ;骨固定用プレート;骨固定用ワイヤ;メス等の手術器具などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
上記した医療機器では、少なくとも生体内に導入される部分を構成する金属が、高マンガン含有ステンレス鋼である。
【0019】
さらに、下記実施例で具体的に記載されるように、針を高マンガン含有ステンレス鋼で構成することにより、MRIにおけるアーチファクトがなくなった。このことから、MRI装置自体又はその部品や、MRI装置の近傍(MRI装置により発生する磁気の影響を受ける範囲、例えば、MRI装置から2メートル以内)で使用されることがある医療機器を高マンガン含有ステンレス鋼で構成することにより、該医療機器が磁気の影響を受けることを回避することができることが明らかになった。すなわち、本発明の医療機器は、MRI保証(MRI-certified又はMRI-safe)の医療機器としても用いることができる。したがって、上記した、少なくとも一時的に生体内で用いられる医療機器の他に、生体内には導入されないが、MRI装置の近傍で用いられ得る種々の医療機器又はその部品を高マンガン含有ステンレス鋼で構成することができ、このような医療機器として、例えば、MRI装置自体やその部品;鉗子、ピンセット、トレイ等の手術器具;担架やベッド(例えば、担架としてそのままMRI室に搬入されるようなベッド)の部品;点滴台等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
高マンガン含有ステンレス鋼は、マンガンの含有量が高いステンレス鋼であり、マンガンの含有量は、通常、10質量%以上、好ましくは13質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上、さらに好ましくは16質量%以上である。ステンレス鋼は、鉄を主成分(50質量%以上)とし、クロムを10.5質量%以上、通常、12質量%以上含み、これらの他にもニッケルを含むものも多く、また、マンガン含有量が多すぎると製造性が悪化するので、マンガン含有量は通常、22質量%以下、好ましくは20質量%以下である。上記したマンガン含有量の下限値と上限値は、任意のものを組み合わせることができる。市販されている通常のステンレス鋼(SUS301、SUS301L、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等)のマンガン含量は、2質量%以下である。なお、ステンレス鋼であるので、炭素の含有量は1.2質量%以下である。
【0021】
このような高マンガン含有ステンレス鋼自体は市販されており、市販品を好ましく用いることができる。好ましい市販品の例として、日本冶金工業株式会社製の高マンガン含有ステンレス鋼であるNAS NM15M(商品名)及びNAS NM17(商品名)を挙げることができる。これらの化学組成を下記表3及び表4に示す。なお、下記表3及び表4に示されるように、各元素の含有量には幅があるが、これらはロットによる差である。
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
また、高マンガン含有ステンレス鋼NAS NM17の冷間圧延率と硬さの関係を図1に示す(日本冶金工業(株)NAS NM17製品情報から引用)。この図には、市販のステンレス鋼である、SUS304及びSUS305のデータも比較のために併せて示されている。
【0025】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1 穿刺針の製造
日本冶金工業株式会社製の高マンガン含有ステンレス鋼NAS NM17(商品名)の板(厚さ0.7mm、エリクセン値:11.5mm、LDR 2.0)を原料とし、冷間加工と圧延を繰り返す常法により穿刺針(外径0.89mm、内腔の内径0.50mm、長さ150mm)を製造した。なお、本実施例で用いた高マンガン含有ステンレス鋼NAS NM17(商品名)の組成は次の通りであった。
【0027】
【表5】
【0028】
実施例2、比較例1 MRI
実施例1で製造した穿刺針(実施例2)又はSUS304ステンレス鋼から製造された市販の穿刺針(比較例1、サイズは内腔も含め実施例1と同じ)を、市販の豚肉に穿刺し、市販のMRI装置で観察した。なお、観察時の磁束密度は0.3テスラであった。観察結果の写真を図2に、その解説図を図3に示す。図2中、参照番号1は、実施例2で用いた穿刺針、参照番号2は比較例1で用いた穿刺針の断面、参照番号3は、このMRI下で観察された画像アーチファクト、参照番号4は豚肉である。
【0029】
高マンガン含有ステンレス鋼NAS NM17(商品名)でできた直径0.89mmの針の周囲には、核磁気共鳴装置(MRI)の撮像時にも、まったく、画像アーチファクトがない。図2の右側の図は、MRI装置により針の縦断面を示したMRI画像であるが、針の金属の壁の画像がとらえられており、わずか、0.5mmの針の内腔もはっきりと画像に記録できている。2019年8月時点で 世界初の映像データである。それに比べて、比較例1で用いたSUS304のステンレス鋼の直径0.89mmの針については、図2の左側の図に示されるように、核磁気共鳴装置の撮像時に、針の横断面の周囲30mmの範囲でフラ・ダ・リ(fleur de lys)の形態の画像アーチファクトが発生し、針の存在位置を明確に描出できない。また、比較例1の針についても縦断面を観察したが、画像アーチファクトのために針は全く見えなかった。
【0030】
以上の結果から、針を高マンガン含有ステンレス鋼で形成することにより、MRIにおいて、針金属による画像アーチファクトが生じないことが確認された。
【符号の説明】
【0031】
1 実施例2で用いた穿刺針
2 比較例1で用いた穿刺針の断面
3 画像アーチファクト
4 豚肉
図1
図2
図3