(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ISO25178に準拠して測定される、前記表面処理銅箔の前記Zn−Ni−Mo層側の表面の最大高さSzが7.0μm以下である、請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面処理銅箔又は請求項5若しくは6に記載の銅張積層板を用いてプリント配線板を製造することを特徴とする、プリント配線板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
【0013】
本明細書において「最大高さSz」とは、ISO25178に準拠して測定される、表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表すパラメータである。最大高さSzは、銅箔表面における所定の測定面積(例えば22500μm
2の領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0014】
本明細書において「M付着量(MはZn、Ni又はMo)」とは、防錆処理層(典型的にはZn−Ni−Mo層)中に存在する単位面積当たりのMの重量(mg/m
2)である。M付着量は、防錆処理層を有する側の銅箔表面における所定の面積を酸で溶解し、得られた溶解液中のM濃度をICP発光分析法に基づいて分析することにより算出することができる。
【0015】
本明細書において、電解銅箔の「電極面」とは電解銅箔作製時に陰極と接していた側の面を指す。
【0016】
本明細書において、電解銅箔の「析出面」とは電解銅箔作製時に電解銅が析出されていく側の面、すなわち陰極と接していない側の面を指す。
【0017】
表面処理銅箔
本発明の表面処理銅箔は、銅箔と、この銅箔の少なくとも一方の面に設けられるZn−Ni−Mo層とを備える。所望により、Zn−Ni−Mo層は銅箔の両面に設けられてもよい。Zn−Ni−Mo層は、Zn付着量が3mg/m
2以上100mg/m
2以下、Ni付着量が5mg/m
2以上60mg/m
2以下及びMo付着量が2.0mg/m
2以上40mg/m
2以下である。そして、Zn付着量、Ni付着量及びMo付着量の合計量に対するNi付着量の比率であるNi/(Zn+Ni+Mo)が0.40以上0.80以下である。このように防錆処理層として所定組成のZn−Ni−Mo層を採用することで、樹脂との密着性、耐薬品性及び耐熱性に優れ、かつ、エッチング残渣が残りにくく、それ故プリント配線板の製造において銅箔−基材間及び基材−基材間の両方の密着信頼性を向上することが可能となる。
【0018】
この点、防錆処理が施された従来の表面処理銅箔は、プリント配線板に用いられた場合、銅箔−基材間及び基材−基材間の両方の密着信頼性に必ずしも優れるものではなかった。例えば、特許文献1に開示されるようなZn−Ni層を備えた表面処理銅箔は耐熱性に劣るものであり、はんだ付け工程後等における剥離強度が低下する。また、前述したように、特許文献2に開示されるようなNi−Mo層を備えた表面処理銅箔を用いてプリント配線板を作製した場合、銅箔エッチング後にNi−Mo層に由来する残渣が絶縁基材表面に残ってしまい、基材−基材間の樹脂密着力が低下する。これに対し、本発明の表面処理銅箔は、防錆処理層としてZn、Ni及びMoを所定の付着量及び付着比率で含むZn−Ni−Mo層を備えることで、耐薬品性や耐熱性等に優れながらも、銅エッチング液(例えば塩化第二銅エッチング液)に速やかに溶解して防錆処理層由来の残渣が生じにくい。その結果、本発明の表面処理銅箔は、銅箔−基材間の密着性に関して、常態での密着性のみならず、はんだ付け工程後や酸処理後等における密着性においても優れており、安定した高い密着性を呈することが可能となる。その上、プリント配線板の製造工程において、銅箔をエッチング除去した後の絶縁基材表面に残渣が残りにくいため、絶縁基材表面に積層される他の絶縁基材との樹脂密着が妨げられることなく十分に発揮されて基材−基材間の高い密着力を確保することができる。このように、本発明の表面処理銅箔はプリント配線板に用いられた場合に銅箔−基材間及び基材−基材間の両方の信頼性を向上することが可能となるため、銅箔−基材間及び基材−基材間の密着力が低下しがちな高周波用プリント配線板の用途に極めて適する。
【0019】
Znは防錆性能をもたらす基本成分であり、銅エッチング液に対して優れた溶解性を有するものの、耐熱性に劣る金属である。上記観点から、Zn−Ni−Mo層におけるZn付着量は3mg/m
2以上100mg/m
2以下であり、好ましくは3mg/m
2以上80mg/m
2以下、より好ましくは4mg/m
2以上50mg/m
2以下、さらに好ましくは5mg/m
2以上30mg/m
2以下である。このような範囲内であると所望の耐熱性を確保しながら、銅エッチング液に対するZn−Ni−Mo層の溶解性を向上して残渣が生じることを効果的に防止することができる。
【0020】
Niは耐薬品性及び耐熱性に優れるものの、銅エッチング液に溶解しにくい金属である。上記観点から、Zn−Ni−Mo層におけるNi付着量は5mg/m
2以上60mg/m
2以下であり、好ましくは10mg/m
2以上50mg/m
2以下、より好ましくは15mg/m
2以上30mg/m
2以下である。このような範囲内であると、銅箔エッチング時におけるZn−Ni−Mo層の優れた溶解性を確保しながら、銅箔の耐薬品性及び耐熱性を向上して、薬品浸漬後やはんだ付け工程後等における絶縁基材との密着力の低下を効果的に防止することができる。
【0021】
MoはCuの拡散防止に寄与する金属であるものの、多量に存在すると銅箔エッチング時に残渣が生じやすい。上記観点から、Zn−Ni−Mo層におけるMo付着量は2.0mg/m
2以上40mg/m
2以下であり、好ましくは2.0mg/m
2以上20mg/m
2以下、より好ましくは2.2mg/m
2以上10mg/m
2以下である。このような範囲内であると、銅箔エッチング時におけるZn−Ni−Mo層の優れた溶解性を確保しながら、Cuの拡散を効果的に防止することができる。その結果、銅箔の耐熱性が向上して、はんだ付け工程後等における絶縁基材との密着力の低下を効果的に防止することができる。
【0022】
Zn付着量、Ni付着量及びMo付着量の合計量に対するNi付着量の比率であるNi/(Zn+Ni+Mo)は0.40以上0.80以下であり、好ましくは0.45以上0.75以下、より好ましくは0.50以上0.65以下である。このような範囲内であると、銅箔の良好な耐薬品性及び耐熱性を確保しつつ、銅エッチング液に対するZn−Ni−Mo層の良好な溶解性も確保して、銅箔エッチング時に残渣が生じることを効果的に防止することができる。
【0023】
Zn−Ni−Mo層はZn、Ni及びMoを含む層(好ましくは合金層)であればよい。また、Zn−Ni−Mo層におけるZn付着量は、Zn−Ni−Mo層の表面にZn層を設けて適宜調整してもよい。
【0024】
絶縁基材との密着性向上の観点から、表面処理銅箔は、銅箔とZn−Ni−Mo層との間に複数の粗化粒子で構成される粗化層をさらに備えることが好ましい。粗化層の厚さは0.01μm以上0.50μm以下が好ましく、より好ましくは0.05μm以上0.30μm以下である。
【0025】
表面処理銅箔は、Zn−Ni−Mo層側の表面(すなわち銅箔から離れた側の最表面)の最大高さSzが7.0μm以下であるのが好ましく、より好ましくは1.0μm以上7.0μm以下である。このような範囲内であると、ファインピッチ回路形成や高周波用途により適したものとなる。特に、このように低粗度であると高周波信号伝送において問題となる銅箔の表皮効果を低減して、銅箔に起因する導体損失を低減し、それにより高周波信号の伝送損失を有意に低減することができる。
【0026】
表面処理銅箔は、Zn−Ni−Mo層の表面にクロメート層又はシランカップリング剤層をさらに備えることが好ましく、より好ましくはクロメート層及びシランカップリング剤層の両方を備える。クロメート層及び/又はシランカップリング剤層をさらに備えることで、防錆性、耐湿性及び耐薬品性が向上するのに加え、Zn−Ni−Mo層との組合せにより絶縁基材との密着性も向上することができる。
【0027】
表面処理銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上105μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上70μm以下である。なお、表面処理銅箔は、通常の銅箔表面にZn−Ni−Mo層を備えたものに限らず、キャリア付銅箔の銅箔表面にZn−Ni−Mo層を備えたものであってもよい。
【0028】
表面処理銅箔の製造方法
本発明による表面処理銅箔の好ましい製造方法の一例を説明する。この好ましい製造方法は、銅箔を用意し、この銅箔に対してZn、Ni及びMoを含む溶液を用いて表面処理を行うことを含む。もっとも、本発明による表面処理銅箔は以下に説明する方法に限らず、あらゆる方法によって製造されたものであってよい。
【0029】
(1)銅箔の準備
表面処理銅箔の製造に使用する銅箔としては電解銅箔及び圧延銅箔の双方の使用が可能であり、より好ましくは電解銅箔である。また、銅箔は無粗化の銅箔であってもよいし、予備的粗化を施したものであってもよい。銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上105μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上70μm以下である。銅箔がキャリア付銅箔の形態で準備される場合には、銅箔は、無電解銅めっき法及び電解銅めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び化学蒸着等の乾式成膜法、又はそれらの組合せにより形成したものであってよい。
【0030】
銅箔に粗化処理を行う場合、粗化処理が行われることになる銅箔の表面は、ISO25178に準拠して測定される最大高さSzが2.0μm以下であるのが好ましく、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。上記範囲内であると、表面処理銅箔の表面にSzが望ましく低い表面プロファイルを実現しやすくなる。Szの下限値は特に限定されないが、典型的には0.1μm以上である。
【0031】
(2)粗化処理
こうして上記低いSzが付与された銅箔の表面に対して粗化処理を施すのが好ましい。粗化処理を施す銅箔の表面は電極面及び析出面のどちらであってもよく、特に限定されない。粗化処理は、銅濃度4g/L以上25g/L以下、及び硫酸濃度50g/L以上300g/L以下を含む硫酸銅溶液中、20℃以上60℃以下の温度で、10A/dm
2以上100A/dm
2以下にて電解析出を行うのが好ましく、この電解析出は1秒間以上20秒間以下行われるのが好ましい。粗化処理は、銅箔の上に微細銅粒を析出付着させる焼けめっき工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とを含む少なくとも2種類のめっき工程を経る公知のめっき手法に従って行ってもよい。この場合、焼けめっき工程は、上述の粗化処理条件にて電解析出を行うのが好ましい。また、被せめっき工程は、銅濃度60g/L以上80g/L以下、及び硫酸濃度100g/L以上300g/L以下を含む硫酸銅溶液中、40℃以上60℃以下の温度で、1A/dm
2以上70A/dm
2以下にて電解析出を行うのが好ましく、この電解析出は1秒間以上20秒間以下行われるのが好ましい。
【0032】
(3)防錆処理
銅箔に対して防錆処理を行ってZn−Ni−Mo層を形成する。銅箔に粗化処理を行う場合は、少なくとも粗化層が存在する側の銅箔表面に対して防錆処理を行うのが好ましく、より好ましくは銅箔の両面に対して防錆処理を行う。防錆処理はZn、Ni及びMoを用いためっき処理を含むのが好ましい。このめっき処理はZn、Ni及びMoを含むめっき液を用いて行えばよい。めっき処理はピロリン酸浴により行うのが好ましく、例えば濃度が50g/L以上150g/L以下のピロリン酸カリウムを用いて好ましく行うことができる。めっき液のZn源としてはピロリン酸亜鉛、硫酸亜鉛等を用いるのが好ましく、めっき液中のZn濃度は好ましくは0.1g/L以上10g/L以下、より好ましくは1g/L以上5g/L以下である。めっき液のNi源としては硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル等を用いるのが好ましく、めっき液中のNi濃度は好ましくは0.1g/L以上10g/L以下、より好ましくは1g/L以上5g/L以下である。めっき液のMo源としてはモリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等を用いるのが好ましく、めっき液中のMo濃度は好ましくは0.1g/L以上10g/L以下、より好ましくは0.5g/L以上5g/L以下である。上記範囲内のめっき液を用いて20℃以上50℃以下の温度で、0.1A/dm
2以上5.0A/dm
2以下にて電解を行うのが好ましく、この電解は1秒間以上30秒間以下行われるのが好ましい。
【0033】
(4)クロメート処理
防錆処理が施された銅箔にクロメート処理を行い、クロメート層を形成するのが好ましい。クロメート処理はクロム酸濃度0.5g/L以上8g/L以下、pH1以上13以下、電流密度0.1A/dm
2以上10A/dm
2以下にて電解を行うのが好ましく、この電解は1秒間以上30秒間以下行われるのが好ましい。
【0034】
(5)シランカップリング剤処理
銅箔にシランカップリング剤処理を施し、シランカップリング剤層を形成するのが好ましい。シランカップリング剤層は、シランカップリング剤を適宜希釈して塗布し、乾燥させることにより形成することができる。シランカップリング剤の例としては、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性シランカップリング剤、又は3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)ブトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性シランカップリング剤、又は3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性シランカップリング剤又はビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン等のオレフィン官能性シランカップリング剤、又は3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル官能性シランカップリング剤、又はイミダゾールシラン等のイミダゾール官能性シランカップリング剤、又はトリアジンシラン等のトリアジン官能性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0035】
銅張積層板
本発明の表面処理銅箔はプリント配線板用銅張積層板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記表面処理銅箔と、この表面処理銅箔の少なくとも一方の面に設けられる絶縁基材とを備えた銅張積層板が提供される。表面処理銅箔は絶縁基材の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。絶縁基材の誘電正接は、周波数10GHzにおいて0.004以下であるのが好ましく、より好ましくは0.003以下である。こうすることで、プリント配線板に用いられた場合に絶縁基材に起因する誘電損失を低減することができ、それ故高周波用途に適したプリント配線板を作製することが可能となる。絶縁基材は、好ましくは絶縁性樹脂を含む。絶縁基材はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。プリプレグに含浸される絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。また、絶縁基材には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。絶縁基材の厚さは特に限定されないが、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上200μm以下である。絶縁基材は複数の層で構成されていてよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の絶縁基材は予め銅箔表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して表面処理銅箔に設けられていてもよい。
【0036】
本発明の表面処理銅箔又は銅張積層板はプリント配線板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、前述した表面処理銅箔又は上記銅張積層板を用いてプリント配線板を製造することを特徴とする、プリント配線板の製造方法、あるいは前述した表面処理銅箔又は上記銅張積層板を用いて得られたプリント配線板が提供される。本発明の表面処理銅箔ないし銅張積層板を用いることで、上述したように銅箔−基材間及び基材−基材間の両方の密着信頼性に優れたプリント配線板を提供することができる。本態様によるプリント配線板は、絶縁基材と、銅層とがこの順に積層された層構成を含む。また、絶縁基材については銅張積層板に関して上述したとおりである。いずれにしても、プリント配線板は公知の層構成が採用可能である。プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の表面処理銅箔を接着させ硬化した積層体とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の表面処理銅箔を形成して回路を形成するフレキシブルプリント配線板、COF、TABテープ等も挙げられる。さらに他の具体例としては、本発明の表面処理銅箔に上述の絶縁性樹脂を塗布した樹脂付銅箔(RCC)を形成し、絶縁性樹脂を絶縁接着材層として上述のプリント配線板に積層した後、表面処理銅箔を配線層の全部又は一部としてモディファイド・セミアディティブ(MSAP)法、サブトラクティブ法等の手法で回路を形成したビルドアップ配線板や、表面処理銅箔を除去してセミアディティブ(SAP)法で回路を形成したビルドアップ配線板、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0038】
例1〜9
本発明の表面処理銅箔の作製及び評価を以下のようにして行った。
【0039】
(1)電解銅箔の作製
銅電解液として以下に示される組成の硫酸酸性硫酸銅溶液を用い、陰極にチタン製の回転電極を用い、陽極にはDSA(寸法安定性陽極)を用いて、溶液温度45℃、電流密度55A/dm
2で電解し、厚さ18μmの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面及び電極面の最大高さSzをISO25178に準拠してレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−X100)を用いて測定したところ、析出面のSzが0.5μm、電極面のSzが1.2μmであった。この測定は、電解銅箔の析出面及び電極面について、それぞれ面積22500μm
2の領域(150μm×150μm)の表面プロファイルを測定することにより行い、測定面積フィルターは使用しなかった。
<硫酸酸性硫酸銅溶液の組成>
‐ 銅濃度:80g/L
‐ 硫酸濃度:260g/L
‐ ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド濃度:30mg/L
‐ ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体濃度:50mg/L
‐ 塩素濃度:40mg/L
【0040】
(2)粗化処理
上記得られた電解銅箔の析出面側に対して、以下に示される条件A(1段階めっき、例1〜3及び5〜9)又は条件B(2段階めっき、例4)による粗化処理を行った。
【0041】
<条件A(1段階めっき)>
銅濃度10g/L、硫酸濃度100g/Lの硫酸銅溶液に電解銅箔を浸漬し、液温30℃、電流密度40A/dm
2の条件で粗化処理を行い、電解銅箔の析出面側に粗化層を形成した。
【0042】
<条件B(2段階めっき)>
銅濃度4g/L、硫酸濃度200g/Lの硫酸銅溶液に電解銅箔を浸漬し、液温30℃、電流密度30A/dm
2の条件で1段階目の粗化処理を行った。その後、2段階目の粗化処理として、銅濃度69g/L、硫酸濃度240g/Lの硫酸銅溶液に浸漬し、液温50℃、電流密度10A/dm
2の条件で被せめっきを行い、電解銅箔の析出面側に粗化層を形成した。
【0043】
(3)防錆処理
上記粗化処理後の電解銅箔に対して1段階(例1〜7)又は2段階(例8及び9)の防錆処理を行い、電解銅箔の粗化層を形成した表面にZn−Ni−Mo層を形成した。具体的には、1段階目の処理は、表1に示されるZn、Ni及びMo濃度でピロリン酸亜鉛(Zn源)、硫酸ニッケル(Ni源)及びモリブデン酸ナトリウム(Mo源)を含む、ピロリン酸カリウム濃度100g/Lのピロリン酸浴に電解銅箔を浸漬させ、液温40℃、表1に示される電流密度及び処理時間でZn−Ni−Moを電着させることにより行った。2段階目の処理は、表1に示されるZn濃度でピロリン酸亜鉛(Zn源)を含む、ピロリン酸カリウム濃度145g/Lのピロリン酸浴に、1段階目の処理を経た電解銅箔を浸漬させ、液温30℃、表1に示される電流密度及び処理時間でZnを電着させることにより行った。このとき、Zn濃度、Ni濃度、Mo濃度、電流密度及び処理時間を表1に示されるように適宜変えることで、Zn−Ni−Mo層中のZn付着量、Ni付着量、Mo付着量及びNi/(Zn+Ni+Mo)が異なる様々なサンプルを作製した。
【0044】
(4)クロメート処理
上記防錆処理を行った電解銅箔の両面に対して、クロメート処理を行い、Zn−Ni−Mo層の上にクロメート層を形成した。このクロメート処理は、クロム酸濃度1g/L、pH11、液温25℃及び電流密度1A/dm
2の条件で行った。
【0045】
(5)シランカップリング剤処理
上記クロメート層が形成された銅箔を水洗し、その後直ちにシランカップリング剤処理を行い、粗化処理面のクロメート層上にシランカップリング剤層を形成した。このシランカップリング剤処理は、純水を溶媒とし、3−アミノプロピルトリメトキシシラン濃度が3g/Lの溶液を用い、この溶液をシャワーリングにて粗化処理面に吹き付けて吸着処理することにより行った。シランカップリング剤の吸着後、最終的に電熱器により水分を蒸発させ、厚さ18μmの表面処理銅箔を得た。
【0046】
【表1】
【0047】
(6)評価
作製された表面処理銅箔について、以下に示される測定及び評価を行った。
【0048】
(a)最大高さSzの測定
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−X100)を用いて、ISO25178に準拠して表面処理銅箔におけるZn−Ni−Mo層側の表面(すなわちシランカップリング剤層の表面)の最大高さSzを測定した。なお、このZn−Ni−Mo層側の表面のSzは粗化層表面のSzが概ね反映されたものである。この測定は表面処理銅箔の最表面における面積22500μm
2の領域(150μm×150μm)の表面プロファイルを測定することにより行い、測定面積フィルターは使用しなかった。結果は表2に示されるとおりであった。
【0049】
(b)Zn−Ni−Mo層における各元素付着量の測定
表面処理銅箔のZn−Ni−Mo層側の表面における面積25cm
2(5cm×5cm)の領域を酸で溶解し、得られた溶解液中のZn、Ni及びMoの各濃度をICP発光分析法により分析して、Zn付着量、Ni付着量及びMo付着量を測定した。得られた測定結果から、Zn付着量、Ni付着量及びMo付着量の合計量に対するNi付着量の比率であるNi/(Zn+Ni+Mo)を算出した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0050】
(c)銅箔−基材間の密着信頼性評価
様々な状態(例えば常態、熱負荷後及び薬品浸漬後)の表面処理銅箔について、絶縁基材との密着性を評価するために、常態剥離強度、はんだフロー後剥離強度、及び酸処理後剥離強度(耐塩酸劣化率)の測定を以下のとおり行った。結果は表2に示されるとおりであった。
【0051】
(c−1)常態剥離強度
絶縁基材として、ポリフェニレンエーテルとトリアリルイソシアヌレートとビスマレイミド樹脂とを主成分とするプリプレグ(厚さ100μm)2枚を用意して、積み重ねた。この積み重ねたプリプレグに、作製した表面処理銅箔をその粗化処理面がプリプレグと当接するように積層し、32kgf/cm
2、205℃で120分間のプレスを行って銅張積層板を作製した。次に、この銅張積層板にエッチング法により回路形成を行い、3mm幅の直線回路を備えた試験基板を作製した。こうして得られた直線回路を、JIS C 5016−1994のA法(90°剥離)に準拠して絶縁基材から引き剥がして常態剥離強度(kgf/cm)を測定した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0052】
(c−2)はんだフロー後剥離強度
剥離強度の測定に先立ち、直線回路を備えた試験基板を288℃のはんだ浴に300秒間フローティングしたこと以外は、上述した常態剥離強度と同様の手順により、はんだフロー後剥離強度(kgf/cm)を測定した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0053】
(c−3)酸処理後剥離強度(耐塩酸劣化率)
回路幅を0.4mmとしたこと以外は、上述した常態剥離強度と同様の手順により、酸処理前剥離強度(kgf/cm)を測定した。また、(i)回路幅を0.4mmとしたこと、及び(ii)剥離強度の測定に先立ち、直線回路を備えた試験基板を、4mol/Lの塩酸に60℃で90分間浸漬させたこと以外は、上述した常態剥離強度と同様の手順により、酸処理後剥離強度(kgf/cm)を測定した。こうして得られた酸処理前後における剥離強度から耐塩酸劣化率(%)を算出した。
【0054】
(d)基材−基材間の密着信頼性評価
銅箔のエッチング除去を経て作製された多層積層体における基材−基材間の密着性を以下のとおり評価した。まず、ポリフェニレンエーテルとトリアリルイソシアヌレートとビスマレイミド樹脂とを主成分とするプリプレグ(厚さ100μm)2枚を積み重ねた絶縁基材110の両面に、表面処理銅箔112をその粗化処理面が絶縁基材110と当接するように積層し、32kgf/cm
2、205℃で120分間プレスして第1銅張積層板114を得た(
図1(a))。この第1銅張積層板114の両面に対して、酸濃度3mol/Lの塩化第二銅エッチング液を用いて浴温50℃でエッチングを行い、両面に存在する表面処理銅箔112を溶解除去して、表面処理銅箔112の粗化処理面の形状が表面に転写された絶縁基材110’を得た(
図1(b))。このエッチングは、第1銅張積層板114が長さ約50cmのエッチング槽内を23秒で通過する(速度1.3m/分)操作を計2回実施することにより行った。次いで、エッチング処理後の絶縁基材110’に対して、純水洗浄、希塩酸(濃度10体積%)洗浄、及び純水洗浄を順に行った。洗浄後の絶縁基材110’を80℃のクリーンオーブン内で20分間乾燥させた。乾燥した絶縁基材110’の両面に上述の厚さ100μmのプリプレグ116及び表面処理銅箔112を順に積層し、32kgf/cm
2、205℃で120分間プレスして第2銅張積層板118とした(
図1(c))。この第2銅張積層板118の両面に対して、酸濃度3mol/Lの塩化第二銅エッチング液を用いて浴温50℃でエッチングを行い、両面に存在する表面処理銅箔112を溶解除去して、評価用サンプル120を作製した(
図1(d))。この評価用サンプル120から5cm×10cmのサイズの2枚の試験片を切り出した。これらの試験片をPCT(Pressure Cooker Test)試験機に投入し、2気圧、121℃、100%RHの条件で50分間吸湿させた。吸湿後の試験片をPCT試験機より取り出し、水分を拭き取った後、取り出しから10分以内にはんだディップを行った。このはんだディップは288℃のはんだ浴に試験片を20秒間浸漬させる操作を計20回実施することにより行った。はんだディップ後、試験片におけるフクレ(すなわち積層体内部における基材間の剥離がもたらす気泡状の隙間)の有無を目視にて確認し、2枚の試験片のうち少なくとも1枚にフクレが発生している場合にフクレ有りと判定した。また、発生したフクレは銅箔のエッチング後に残存する防錆処理層の残渣に起因するものと考えられた。結果は表2に示されるとおりであった。
【0055】
【表2】