特許第6975862号(P6975862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6975862
(24)【登録日】2021年11月10日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用基板及び磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20211118BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   G11B5/73
   G11B5/82
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-535859(P2020-535859)
(86)(22)【出願日】2019年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2019031269
(87)【国際公開番号】WO2020032146
(87)【国際公開日】20200213
【審査請求日】2021年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-148923(P2018-148923)
(32)【優先日】2018年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-9901(P2019-9901)
(32)【優先日】2019年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】江田 伸二
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/119147(WO,A1)
【文献】 特開2015−069670(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/160897(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/204143(WO,A1)
【文献】 特開2007−197235(JP,A)
【文献】 特開2019−128966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状の磁気ディスク用基板であって、
前記基板の直径Dは85mm以上であり、前記基板の板厚Tは、0.6mm以下であり、
前記基板の内周端部を固定した状態で前記基板に対して、2[m秒]で70[G]の衝撃を前記基板の主表面の法線方向に与えた際に、前記基板の外周端部の板厚方向の振動による最大振幅が0.25mm以下である、ことを特徴とする磁気ディスク用基板。
【請求項2】
前記基板には、ヤング率Eが90GPa以上の材料が用いられる、ことを特徴とする、請求項1に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項3】
直径Dは、90mm以上である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項4】
前記基板は、ガラス転移点が650℃以上のガラスで構成されているガラス基板である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項5】
前記基板の、730℃で加熱後の平坦度と、前記基板の加熱前の平坦度との間の変化量は、4μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項6】
前記基板は、線膨張係数が70×10-7[1/K〕以下の材料で構成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項7】
前記基板のビッカース硬度Hvは、650[kgf/mm2]以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項8】
前記基板のヌープ硬度Hkは、600[kgf/mm2]以上である、請求項1〜7のいずれか1項に磁気ディスク用基板。
【請求項9】
少なくとも前記基板の外周端部の面には、面取面が設けられ、
前記面取面の、前記基板の半径方向に沿った幅W1は、120μm以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項10】
前記面取面の前記基板の板厚方向に沿った幅W2の2倍の、前記板厚Tに対する比(2・W2)/Tは、0.4以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項11】
前記基板におけるヤング率Eと前記板厚Tに関して、E・T3の値が3〜18[GPa・mm3]である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項12】
前記基板の材料の、室温での3000HzにおけるQ値は、1500以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項13】
ρを前記基板の材料の室温での密度[g/cm3]、Qを前記基板の材料の室温での3000HzにおけるQ値、Eを前記基板の材料の室温でのヤング率[GPa]とし、νを前記基板の材料の室温でのポアソン比として、前記基板の材料のρ・(1−ν)2・Q/Eの値が25[g/cm3/GPa]未満である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を有する、磁気ディスク。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気ディスクを有する、ハードディスクドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用基板及び磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気ディスク用基板として、ガラス基板やアルミニウム合金基板が用いられている。これらの基板には、磁性膜が基板主表面に形成されて磁気ディスクが形成される。磁気ディスクは、表面欠陥が少なく、情報の読み取り書き込みに支障が無く、大量の情報の読み取り書き込みが可能なことが望まれている。また、ハードディスクドライブ装置(以下、HDDという)における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。
【0003】
例えば、磁気記録の高密度化の際に、DFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載した磁気ヘッド(DFHヘッド)を用いて読み取り、書き込みが支障なくできるように、磁気ディスク用ガラス基板の表面粗さ(算術平均粗さRa)を小さくする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/051153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、ハードディスクドライブ業界では、磁気ディスクにおける磁性粒子の微細化が限界に近づいており、従来のような記録密度の向上スピードに陰りが見られている。他方、ビックデータ解析などのため、HDDに対する記憶容量の増大化の要求はますます激しくなっている。そのため、HDD1台に搭載される磁気ディスクの枚数を増やすことが検討されている。上記のような大容量のデータの保存には、通常、公称3.5インチ型のHDDが使われる。
HDDに組み込む磁気ディスクの枚数を増大することで記憶容量の増大化を図る場合、HDD内の限られた空間内で磁気ディスクの厚さのうち大部分を占める磁気ディスク用基板の板厚を薄くする必要がある。さらに、記憶容量の大容量化のために、磁気ディスクのサイズの大型化も望まれている。
【0006】
ここで、磁気ディスク用基板の直径を大きくし、板厚を薄くすると、基板の剛性が低下して、大きな振動が発生しやすくなるとともに、その振動が収まり難い場合があることがわかってきた。例えば、クラウド向けのデータセンターでは極めて大量のHDDが用いられているため、故障にともなうHDDの交換が頻繁に行われている。このとき、新しいHDDがラックに装着される際の衝撃で故障したり、あるいは故障までの時間が短くなったりすることが判明した。さらに詳細に調査したところ、HDDが外部から衝撃を受ける際、HDDにはまだ電源が供給されていないため磁気ディスクは回転していないにもかかわらずダメージを受けることがわかった。
【0007】
このように外部からの衝撃によって生じる振動は、回転する磁気ディスクとその周りの空気の流れによって生じる定常回転状態で生じる定常状態のフラッタ振動とは異なり、時間とともに減衰する。しかし、この振動の振幅が大きいと、HDD内のランプと接触し、また、隣りに並ぶ磁気ディスクと接触し易くなる。さらに、一定の間隔をあけて配置された複数枚の磁気ディスクの最上部に位置する磁気ディスクは、HDDの磁気ディスク収納容器の天井面と接触する場合がある。このような接触によって、磁気ディスクの接触した部分が欠け、パーティクルを発生させる場合がある。また、擦れや削れによりパーティクルが発生する場合もある。発生したパーティクルは、収納容器内で飛散し、面積の大きい磁気ディスクの読み書き領域(主表面)に付着する場合が多い。
このように、磁気ディスク用基板の直径を大きくし、板厚を薄くすることにより、従来問題が生じなかった外部からの衝撃による振動及びこれに伴って生じるパーティクルが無視できなくなってきた。特に、磁気ディスクが公称3.5インチ(例えば直径95mm)以上の大きな磁気ディスク用基板では、基板の振動による上記接触により発生するパーティクルの問題が無視できない。
【0008】
そこで、本発明は、磁気ディスク用基板の直径を大きくし、かつ板厚を薄くしても、外部から受ける衝撃により生じるパーティクルの発生を抑制することができる磁気ディスク用基板及び磁気ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、円盤形状の磁気ディスク用基板である。
前記基板の直径Dは85mm以上であり、前記基板の板厚Tは、0.6mm以下であり、
前記基板には、ヤング率Eが90GPa以上の材料が用いられる。
【0010】
前記直径Dは90mm以上であることが好ましい。
前記基板の内周端部を固定した状態で前記基板に対して、2[m秒]で70[G]の衝撃を前記基板の主表面の法線方向に与えた際に、前記基板の外周端部の板厚方向の振動による最大振幅が0.25mm以下である、ことが好ましい。
【0011】
本発明の他の一態様は、円盤形状の磁気ディスク用基板である。
前記基板の直径Dは85mm以上であり、前記基板の板厚Tは、0.6mm以下であり、
前記基板の内周端部を固定した状態で前記基板に対して、2[m秒]で70[G]の衝撃を前記基板の主表面の法線方向に与えた際に、前記基板の外周端部の板厚方向の振動による最大振幅が0.25mm以下である。
【0012】
前記直径Dは90mm以上であることが好ましい。
前記基板は、ガラス転移点が650℃以上のガラスで構成されているガラス基板である、ことが好ましい。
【0013】
前記基板の、730℃で加熱後の平坦度と、前記基板の加熱前の平坦度との間の変化量は、4μm以下である、ことが好ましい。
【0014】
前記基板は、線膨張係数が70×10−7[1/K〕以下の材料で構成される、ことが好ましい。
【0015】
前記基板のビッカース硬度Hvは、650[kgf/mm]以上である、ことが好ましい。
【0016】
前記基板のヌープ硬度Hkは、600[kgf/mm]以上である、ことが好ましい。
【0017】
少なくとも前記基板の外周端部の面には、面取面が設けられ、
前記面取面の、前記基板の半径方向に沿った幅Wの、前記基板の半径Rに対する比W/Rは、0.0025以下である、ことが好ましい。
【0018】
前記面取面の前記基板の板厚方向に沿った幅Wの2倍の、前記板厚Tに対する比(2・W)/Tは、0.4以下である、ことが好ましい。
【0019】
前記基板におけるヤング率Eと前記板厚Tに関して、E・Tの値が3〜18[GPa・mm]である、ことが好ましい。
【0020】
前記材料の、室温での3000HzにおけるQ値は、1500以下である、ことが好ましい。
【0021】
ρを前記材料の室温での密度[g/cm]、Qを前記材料の室温での3000HzにおけるQ値、Eを前記材料の室温でのヤング率[GPa]とし、νを前記材料の室温でのポアソン比として、前記材料のρ・(1−ν)・Q/Eの値が25[g/cm/GPa]未満である、ことが好ましい。
【0022】
本発明の他の一態様は、上記磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を有する、磁気ディスクである。
【発明の効果】
【0023】
上述の磁気ディスク用基板及び磁気ディスクによれば、磁気ディスク用基板の直径を大きくし、かつ板厚を薄くしても、外部から受ける衝撃により生じるパーティクルの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態の磁気ディスク用基板の外観形状の一例を示す図である。
図2】一実施形態の磁気ディスク用基板の振動の一例を示す図である。
図3】一実施形態の磁気ディスクの外周端部の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の磁気ディスク用基板について詳細に説明する。なお、以降の説明では、磁気ディスク用ガラス基板を用いて説明するが、磁気ディスク用基板は、ガラス基板の他に、非磁性の金属製基板であってもよい。
ガラス基板の場合、ガラスとして、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、必要に応じて化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アモルファスのアルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
金属製基板の材料として、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、及びSi単結晶等を用いることができる。
磁気ディスクは、この磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を形成することにより作製される。
【0026】
図1は、本実施形態の磁気ディスク用基板の外観形状を示す図である。図1に示すように、本実施形態における磁気ディスク用基板1(以降、単に基板1という)は、内孔2が形成された、円盤状の薄板の基板である。磁気ディスクは、この基板1に、磁性膜、下地膜、軟磁性層等の膜が形成されて作製される。
基板1のサイズは、直径Dが85mm以上、好ましくは90mm以上であれば制限はないが、基板1は、例えば、公称で直径3.5インチの磁気ディスク用基板に好適に適用できる。公称で直径3.5インチの磁気ディスク用基板の場合、円盤形状の直径D(外径)は85mm以上、好ましくは90mm以上である。具体的に、円盤形状の外径の公称値は、95mmや97mmである。
上述したように、フラッタ振動とは異なる外部からの衝撃により生じる磁気ディスクの振動の振幅は、基板1の外径が大きいほど大きくなるとともに、減衰はしにくくなる。したがって、本実施形態の基板1は、公称3.5インチ規格以上の磁気ディスクに用いる場合に好ましい。
【0027】
本実施形態の基板1の直径Dは85mm以上、好ましくは90mm以上であり、基板1の板厚Tは、0.6mm以下である。さらに、基板1には、ヤング率Eが90GPa以上の材料が用いられる。基板1は、従来に比べて直径Dが大きく、板厚Tが薄い形状である。これにより、HDDに組み込む磁気ディスクの枚数を増大することができ、記憶容量の増大化を図ることができる。このとき、基板1の直径Dは大きく、板厚Tは薄いため、上述したように、HDDを設置する際の衝撃によって発生する基板1の振動により、磁気ディスクがHDD内のランプと接触し、また、HDD内で隣りに並ぶ磁気ディスクと接触し易くなる。さらに、磁気ディスクの最上部に位置する磁気ディスクは、HDDの磁気ディスク収納容器の天井面と接触する場合がある。
なお、基板1の直径Dの上限は、公称3.5インチサイズのHDDの規格サイズの観点から、例えば100mmである。また、基板1の板厚Tの下限は、成膜プロセス時にバイアス電圧を印加した際にアーキングを抑制する観点から例えば0.30mmである。ヤング率Eの上限は特に設ける必要はないが、加工容易性の観点から例えば120GPaである。
【0028】
図2は、上記衝撃によって発生する基板1の振動の一例を示す図である。このような振動は、回転する磁気ディスクとその周りの空気の流れによって生じる定常回転状態で生じる定常状態のフラッタ振動とは異なる。衝撃による振動は、基板1の主表面が主表面に対して面外方向に変位する振動である。特に、HDD内では、内周端部はスピンドルに固定されているが、外周端部は、自由端となって主表面の面外方向に変位する。このような主表面の面外方向に変位する振動(板厚方向の振動)によって、HDD内のランプと接触し、また、隣りに並ぶ磁気ディスクと接触し、さらには、磁気ディスク収納容器の天井面と接触する。このような接触によって、磁気ディスクの接触した部分が欠け、パーティクルを発生させる場合がある。発生したパーティクルは、収納容器内で飛散し、磁気ディスクの読み書き領域に付着する場合が多い。このため、本実施形態では、基板1に、ヤング率が90GPa以上の材料が用いられる。
【0029】
基板1がガラス基板である場合、例えば以下のガラス組成によって、ヤング率が90GPa以上の非晶質の酸化物ガラスを得ることができる。
【0030】
(ガラス1)
SiO2 56〜80モル%、
Li2O 1〜10モル%、
23 0〜4モル%、
MgOとCaOの合計含有量(MgO+CaO) 9〜40モル%、
である。
ガラス1の比重は2.75g/cm3以下、ガラス転移温度Tgは650℃以上である。
【0031】
(ガラス2)
SiO2 56〜80モル%、
Li2O 1〜10モル%、
2 0〜4モル%、
MgOとCaOの合計含有量(MgO+CaO) 9〜40モル%、
であり、
Al2含有量に対するSiO2とZrO2の合計含有量のモル比((SiO2+ZrO2)/Al2)が2〜13、
である。
ガラス2のガラス転移温度Tgは650℃以上である。
【0032】
(ガラス3)
モル%表示にて、
SiO 56〜65%、
Al 5〜20%、
0〜4%、
MgO 3〜28%、
LiO 1〜10%、
であり、
SiOとAl の合計含有量(SiO+Al) 65〜80%、
MgOとCaOの合計含有量(MgO+CaO) 11〜30%、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO) 12〜30%、
MgO含有量、0.7×CaO含有量、LiO含有量、TiO含有量およびZrO含有量の和(MgO+0.7CaO+LiO+TiO+ZrO) 16%以上、
5×LiO含有量、3×NaO含有量、3×KO含有量、2×B含有量、MgO含有量、2×CaO含有量、3×SrO含有量およびBaO含有量の和(5LiO+3NaO+3KO+2B+MgO+2CaO+3SrO+BaO) 32〜58%、
SiO含有量、Al含有量、B含有量、P含有量、1.5×NaO含有量、1.5×KO含有量、2×SrO含有量、3×BaO含有量およびZnO含有量の和(SiO+Al+B+P+1.5NaO+1.5KO+2SrO+3BaO+ZnO) 86%以下、及び
SiO含有量、Al含有量、B含有量、P含有量、NaO含有量、KO含有量、CaO含有量、2×SrO含有量および3×BaO含有量の和(SiO+Al+B+P+NaO+KO+CaO+2SrO+3BaO) 92%以下、
であり、
MgO含有量に対するCaO含有量のモル比(CaO/MgO)が2.5以下、
LiO含有量に対するNaO含有量のモル比(NaO/LiO)が5以下、
MgOとCaOの合計含有量に対するLiO含有量のモル比(LiO/(MgO+CaO))が0.03〜0.4、
LiO、NaOおよびKOの合計含有量に対するSiO含有量のモル比(SiO/(LiO+NaO+KO))が4〜22、
Al に対するSiOとZrOの合計含有量のモル比((SiO+ZrO)/Al )が2〜10、
MgOとCaOの合計含有量に対するTiOとAlの合計含有量のモル比((TiO+Al)/(MgO+CaO))が0.35〜2、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するMgOとCaOの合計含有量のモル比((MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.7〜1、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するBaO含有量のモル比(BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.1以下、
、SiO、AlおよびPの合計含有量に対するP含有量のモル比(P/(B+SiO+Al+P))が0.005以下、
であり、
ガラス転移温度が670℃以上かつヤング率が90GPa以上、
比重が2.75以下、
100〜300℃における平均線膨張係数が40×10−7〜70×10−7/℃の範囲にある非晶質の酸化物ガラス。
【0033】
このとき、基板1の内周端部を固定した状態で基板1に対して、2[m秒]で70[G]の衝撃(加速度)を基板1の主表面の法線方向に与えた際に、基板1の外周端部の板厚方向の振動による最大振幅が0.25mm以下であることが好ましい。このように最大振幅を0.25mm以下にすることにより、上述の接触を防止することができる。なお、上記衝撃試験は、エア・ブラウン株式会社のAVEX-SM-110-MP型試験機により実施した。
したがって、一実施形態における基板1は、基板1の直径Dが85mm以上、好ましくは90mm以上であり、基板1の板厚Tが、0.6mm以下であり、基板1の内周端部を固定した状態で基板1に対して、2[m秒]で70[G]の衝撃を基板1の主表面の法線方向に与えた際に、基板1の外周端部の板厚方向の振動による最大振幅が0.25mm以下である。
【0034】
一実施形態によれば、基板1は、ガラス転移点Tgが650℃以上のガラスで構成されていることが好ましく、より好ましくは、ガラス転移点Tgは680℃以上である。ガラス転移点Tgが高い程、熱耐久性が高くなり、基板1を熱処理したときに発生する基板の変形、例えば平坦度を抑制することができる。磁気ディスクの磁性膜等を基板1に形成する際の熱処理を考慮して、熱変形を抑制する点から、ガラス転移点Tgを650℃以上とすることが好ましい。
具体的に、基板1に磁性膜等を含む金属膜を30nm程度形成して磁気ディスクを作製する際、基板1を加熱する。この加熱処理の際に、基板1は熱履歴を受けて変形し易い。このため、一実施形態によれば、基板1の、730℃で加熱後の平坦度と、基板1の加熱前の平坦度との間の変化量(加熱後の平坦度−加熱前の平坦度)は、4μm以下である、ことが好ましい。このように平坦度の変化量を制限することにより、平坦な磁気ディスクを得ることができ、さらに磁気ディスクの回転中の微小振動を低減することができる。
【0035】
一実施形態によれば、基板1は、線膨張係数が70×10−7[1/K〕以下の材料で構成されることが好ましく、より好ましくは、線膨張係数は60×10−7[1/K〕以下である。基板1の線膨張係数の下限は、例えば40×10−7[1/K〕である。ここでいう、線膨張係数は、100℃と300℃の間の熱膨張の差によって求められる線膨張係数である。このような線膨張係数を用いることで、磁性膜等を形成する際の加熱処理において、熱膨張を抑えることができ、外周端部の面(以降、外周端面という)を成膜装置の把持部材が基板1を固定して把持する際に、把持部分周りの基板1の熱歪みを抑えることができる。線膨張係数は、例えば、従来のアルミニウム合金製基板では、242×10−7[1/K〕であり、従来のガラス製基板では、95×10−7[1/K〕以上であるのに対し、一実施形態のガラス製の基板1における線膨張係数は51×10−7[1/K〕である。他方、基板1の線膨張係数の下限は特に設ける必要はないが、基板1の線膨張係数が小さくなりすぎると、HDD内部の温度が上昇した際に、スピンドルが膨張して基板の円孔部に接触・圧迫し、基板を変形させる場合がある。よって、例えば線膨張係数の下限を20×10−7[1/K〕とするとさらに好ましい。
【0036】
一実施形態によれば、基板1のビッカース硬度Hvは、650[kgf/mm]以上であることが好ましい。また、一実施形態によれば、基板1のヌープ硬度Hkは、600[kgf/mm]以上であることが好ましい。ビッカース硬度Hvあるいはヌープ硬度Hkを高くすることにより、基板1が、外部からの衝撃によって生じる振動により、他の基板1と接触し、あるいは他の部材と接触しても、基板1が欠けてパーティクルが発生することを抑制できる。また、磁性膜等の成膜時、外周端面を成膜装置の把持部材が把持する際に、把持によって外周端面の一部が欠けてパーティクルが発生し、このパーティクルが基板1の主表面への付着することを防止することができる。例えば、ビッカース硬度Hvは、アルミニウム合金製基板では、128[kgf/mm]であり、従来のガラス製基板では、620[kgf/mm]であるのに対し、一実施形態のガラス製の基板1では、741[kgf/mm]である。
【0037】
図3は、磁気ディスクの端部の一例を拡大して説明する図である。図3は、HDD内に隣接する2つの磁気ディスクが示されている。図3では、磁性膜等の膜厚は、基板1の板厚に比べて圧倒的に小さく、数10nm程度であるので、磁性膜等の図示は省略されている。
基板1は、一対の主表面3と、一対の主表面3に対して直交する方向に沿って配置された側壁面4と、一対の主表面3と側壁面4との間に配置された一対の面取面5とを有する。側壁面4及び面取面5は、基板1の外周端部及び内周端部のそれぞれに形成されている。
【0038】
HDD内では、図示されない磁性膜等が基板1の表面に形成された磁気ディスク10が図3に示すように隣り合って配置される。ここで、磁気ディスク10が、主表面3の法線方向に振動し、隣り合う磁気ディスク10と接触するとき、外周端部にある主表面3と面取面5の接続点である角6が接触し易い。この接触により、角6近傍の面取面5は大きな衝撃を受ける。
面取面5は、総型砥石で研削した後、ブラシ等を用いて端面研磨を行って形成されるが、ヤング率Eが90GPa以上のガラス材料で作られた基板の場合、従来のヤング率が低いガラスの基板よりも面取面5の表面に潜在クラックあるいは微細なクラックが多く存在することがわかってきた。この原因は必ずしも明らかではないが、例えば、高ヤング率のガラスは一般的に高硬度であるため研削加工において負荷が大きくなるために、従来よりも深いクラックが生じ、それらの一部が潜在クラックあるいは微細なクラックとして研磨後に残留すると推察される。このような状態で、上記角6がランプ部材等との接触により衝撃を受けると、潜在クラックあるいは微細なクラックが進展し、その結果、磁気ディスク10において基板1の角6又は面取面5の一部が欠け、その上層にある磁性膜と共にパーティクルを発生させる場合がある。このような場合、後述する幅Wが大きいほど、角6又は面取面5の一部は欠けやすくなる。角6又は面取面5で発生したパーティクルは、HDD収納容器内で飛散し、磁気ディスク10の読み書き領域に付着する場合が多い。
【0039】
このため、一実施形態によれば、面取工程において、面取面5を形成する際の取り代を小さくすることが好ましい。磁気ディスク10の直径が85mm以上、好ましくは90mm以上と大きく、板厚が0.600mm以下と薄い場合、角6は振動によって接触し易くなるので、面取面5を形成する際の取り代を小さくして、潜在クラックや微細なクラックの数を低減させることが好ましい。こうすることで、仮に大きな振動によって磁気ディスク10の角6がランプ部材等と接触した場合にも、パーティクルの発生等を抑制することができる。ここで、面取面5を形成する際の取り代とは、後述する幅W1の値のことである。他に、砥石加工の初期に外周をある一定量削って外径を調整することが行われる場合があるが、本件発明者の研究によればそのような初期の取代は潜在クラック等には影響しない。この原因は、初期の取代で生じた潜在クラック等は、最終的な取代の影響によってなくなってしまうためと推察される。具体的には、少なくとも基板1の外周端面には、面取面5が設けられる。このとき、面取面5の、基板1の半径方向に沿った幅W図3参照)は、120μm以下であることが好ましい。幅Wは、90μm以下であることがより好ましい。幅Wが120μm以下となるように、面取面5を形成する際の取り代を調整することにより、高ヤング率ガラス基板を用いた磁気ディスク10の直径が大きく、板厚が薄くなって、振動により角6が接触し易くなる場合においても、面取面5の潜在クラックあるいは微細なクラックの数を少なくすることができる。このため、角6が接触する場合があっても、角6や面取面5の一部が欠けてパーティクルが発生することを抑制することができる。なお、幅Wの下限は例えば20μmである。幅Wが20μm未満の場合、面取面5が小さすぎて、形状加工後の基板製造工程や、成膜工程等においてチッピングが発生する可能性がある。面取面5は、図3に示すように、磁気ディスク10の中心をとおり半径方向に沿って切断した断面において、直線形状を有する形態の他、外側に向かって凸の円弧や曲線形状を有する形態であってもよい。この場合、面取面5は、側壁面4及び主表面3に対して、各位置における接線の傾斜角度が5〜85度である部分をいう。図3には、主表面3に対する傾斜角度θが一定である面取面5が示されている。
【0040】
一実施形態によれば、基板1の外周における面取面5の基板1の板厚方向に沿った幅W図3参照)の2倍の、板厚Tに対する比(2・W)/Tは、0.4以下であることが好ましい。比(2・W)/Tは、0.3以下とすることがより好ましい。比(2・W)/Tが0.4を超える場合、側壁面4が小さくなりすぎるため、磁性膜等を成膜する際の把持やバイアス電圧印加によって外周端部が欠けたりヒビが入ったりする場合がある。
【0041】
さらに、一実施形態によれば、ヤング率E[GPa]と板厚T[mm]に関して、E・Tの値が3〜18[GPa/mm]であることが好ましく、3〜16[GPa/mm]であることがより好ましく、5〜15[GPa/mm]であることが特に好ましい。E・Tの値がこのような範囲にあることで、振動による磁気ディスク10の接触を抑制することができる。E・Tの値が3[GPa/mm]未満である場合、振動による磁気ディスク10の接触が誘発し易い。E・Tの値が18[GPa/mm]超の場合、HDDに内蔵する磁気ディスク10の枚数を確保するために板厚を厚くすることができないことから、ヤング率Eを高くする。この場合、ヤング率Eの増大に伴って、基板1は必要以上に硬くなり易く、主表面3の研磨時間が長くなり、磁気ディスク用基板1の生産効率の点で好ましくない。
また、一実施形態によれば、ヤング率E[GPa]と密度ρ[g/cm]に関して、E/ρで算出される比弾性率の値が36[GPa・cm/g]以上であることが好ましい。ヤング率が高い場合でも、密度が高いと、基板自体の重みで振動が大きくなる場合がある。比弾性率の値の上限は特に設ける必要はないが、生産性の観点から、例えば41[GPa・cm/g]としてもよい。
【0042】
このような基板1をHDDに搭載させる場合、HDDに搭載される基板1の搭載枚数は、基板1の板厚Tに依存する。基板1に形成される磁性膜等の膜厚は、数10nmであり、基板1の板厚Tに対して無視できる程度に薄い。例えば、基板1の板厚Tが0.635mmの場合、基板1を9枚以上搭載でき、基板1の板厚Tが0.5mmの場合、基板1を10枚以上搭載でき、基板1の板厚Tが0.38mmの場合、基板1を12枚以上搭載できる。このように、基板1の搭載枚数は、基板1の板厚Tによって変化する。
したがって、基板1の板厚Tを薄くして、搭載枚数を増やすことで、記憶容量の増大を図ることができる。このとき、本実施形態の基板1は、上述したように、板厚Tを薄くしても振動に起因した他の基板1や部材との接触が生じ難い。
また、一実施形態によれば、基板1は、磁気ディスクのクランプを再現するように基板1の内周端部を固定して基板1に対して2m秒で600Gの衝撃を与える衝撃試験において基板1は破損しないことが好ましい。このような基板1は、HDDに大きな衝撃が加わっても、基板1が破損しないので、耐久性向上の点から好ましい。この基板1は、例えば、上述のガラス1〜3を用いて達成することができる。
【0043】
一実施形態によれば、基板1の材料の、室温(25℃)での3000HzにおけるQ値(品質係数(Quality Factor))は、1500以下である、ことが好ましい。Q値は、1周期の間に振動する基板1に蓄えられる振動エネルギーを、振動する基板1から散逸するエネルギーで割ったもので、この値が小さいほど振動の減衰は大きい。このため、Q値の小さな材料を用いるほど、振動を早く減衰させることができる。したがって、HDD内の隣り合う基板1やランプ等との接触回数を減らし、また、接触の際の衝撃を緩和できるので、接触によるパーティクルの発生等の悪影響を抑制することが可能となる。なお、室温、3000Hzにおける上記Q値は、より好ましくは1300以下である。
なお、3000HzにおけるQ値は以下のようにして得た。まず、レーザドップラ振動計(LDV)を用いてスピンスタンドで回転させた基板1に振動を発生させ、この基板1の略外周端部にレーザを当てて振動を測定し、得られたデータを適宜フーリエ変換して周波数応答関数(横軸:周波数(単位:Hz)、縦軸:NRRO(Non Repeatable Runout 非反復振れ) Amplitude(単位:nm))を得た。次に、周波数応答関数において観察されるピークのそれぞれについて、半値幅法(NRROのピーク値から3dB 低い値に対応する周波数f1、f2(>f1)と、当該ピーク値に対応する周波数f0(共振周波数)と、を用いて算出する方法)を用いてQ値(=f0/(f2−f1))を求めた。得られた測定結果を、横軸周波数、縦軸Q値とするXY平面にプロットし、最小二乗法による直線近似を行い、近似直線を求めた。求めた近似直線上においてあるいは必要に応じて近似直線を外挿して3000Hzの時のQ値を得た。
なお、レーザドップラ振動計による評価に用いた基板1は、外径95mm、内径25mm、板厚0.635mmに統一した。また、基板の回転数は6900rpm、測定位置は基板中心からの半径位置が46.5mm(外周端から1mm内側)、室温にて測定した。
【0044】
一実施形態によれば、ρを基板1の材料の室温での密度[g/cm]、Qを基板1の材料の3000Hzにおける室温でのQ値、Eを基板1の材料の室温でのヤング率[GPa]とし、νを前記材料の室温でのポアソン比として、基板1の材料のρ・(1−ν)・Q/Eの値が25[g/cm/Gpa]未満である、ことが好ましい。基板1の外周端部における振幅は、ρ・(1−ν)/E/ξ(ξは基板1の材料の減衰比である)に比例し、減衰比ξは、1/(2・Q)(QはQ値である)と表されるので、上記振幅は、2・ρ・(1−ν)・Q/Eに比例する。ここで、2・ρ(1−ν)・Q/Eを25[g/cm/Gpa]未満とすることにより、特定の周波数帯域の振動の振幅を効率よく低減することができる、すなわち1000〜4000Hzにおけるフラッタ振動のRSS(フラッタ振動量の総和:Root of Sum of Squares)を80nm未満とすることができることを見出した。1000〜4000HzにおけるRSSとは、具体的に1000Hzから4000Hzのフラッタ振動の振幅の二乗の積算値の平方根である。すなわち、2・ρ(1−ν)・Q/Eを25[g/cm/GPa]未満とすることにより、1000Hzから4000Hzの領域のRSSを低下させることができる。2・ρ(1−ν)・Q/Eを20[g/cm/Gpa]以下とすることにより、1000Hzから4000Hzの領域のRSSを68nm以下とできるためさらに好ましい。
なお、1000Hz未満の周波数帯域のフラッタ振動については、昨今のヘッドのサーボ技術の進歩により影響が少なくなってきており、他方、4000Hz超の帯域についてはそもそもフラッタ振動が小さい。したがって、1000〜4000Hzの帯域についてのフラッタ振動を低減することが重要になっている。
本実施形態の基板1は、このような特徴を有する。
【0045】
このような基板1は、例えば以下のように作製される。ここでは一例として、基板1としてガラス基板を用いる場合について述べる。
まず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用基板の素材となるガラスブランクの成形処理が行われる。次に、このガラスブランクの粗研削が行われる。この後、ガラスブランクに形状加工及び端面研磨が施される。この後、ガラスブランクから得られた基板の主表面に固定砥粒を用いた精研削が行われる。この後、主表面の第1研磨、化学強化、及び、主表面の第2研磨が基板に施される。なお、本実施形態では、基板の作製を上記流れで行うが、上記処理を常に行う必要はなく、これらの処理の順序を適宜入れ替えたり、適宜省略してよい。例えば上記のうち、精研削、第1研磨、化学強化については実施されなくてもよい。以下、各処理について、説明する。
【0046】
(a)ガラスブランクの成形
ガラスブランクの成形では、例えばプレス成形法を用いることができる。プレス成形法により、円形状のガラスブランクを得ることができる。さらに、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。これらの公知の製造方法で作られた板状ガラスブランクに対し、適宜形状加工を行うことによって磁気ディスク用基板の元となる円板状の基板が得られる。
【0047】
(b)粗研削
粗研削では、ガラスブランクの両側の主表面の研削が行われる。研削材として、例えば遊離砥粒が用いられる。粗研削では、ガラスブランクが目標とする板厚寸法及び主表面の平坦度に略近づくように研削される。なお、粗研削は、成形されたガラスブランクの寸法精度あるいは表面粗さに応じて行われるものであり、場合によっては行われなくてもよい。
【0048】
(c)形状加工
次に、形状加工が行われる。形状加工では、まず、ガラスブランクの成形後、公知の加工方法を用いて円孔と外周を形成することにより、円孔があいた円盤形状の基板を得る(円孔形成工程)。その後、基板の端面の面取りを実施する(面取工程)。これにより、基板の端面には、主表面3と直交している側壁面4と、側壁面4と両側の主表面3との間に、主表面3に対して傾斜した面取面5が形成される。面取工程では、総型砥石を用いて基板の端面を研削することによって、側壁面4と2つの面取面5を同時に形成してもよい。
【0049】
(d)端面研磨
次に基板の端面研磨が行われる。端面研磨は、例えば研磨ブラシと基板の外周端面(側壁面4と面取面5)及び内周端面(側壁面4と面取面5)との間に遊離砥粒を含む研磨液を供給して研磨ブラシと基板とを相対的に移動させることにより研磨を行う処理である。端面研磨では、基板の内周端面及び外周端面を研磨対象とし、内周端面及び外周端面を鏡面状態にする。
【0050】
(e)精研削
次に、基板の主表面に精研削が施される。例えば、遊星歯車機構の両面研削装置を用いて、基板の主表面3に対して研削を行う。この場合、例えば固定砥粒を定盤に設けて研削する。あるいは遊離砥粒を用いた研削を行うこともできる。なお、精研削は、場合によっては行なわれなくてもよい。
【0051】
(f)第1研磨
次に、基板の主表面3に第1研磨が施される。第1研磨は、遊離砥粒を用いて、定盤に貼り付けられた研磨パッドを用いる。第1研磨は、例えば固定砥粒による精研削を行った場合に主表面3に残留したクラックや歪みの除去をする。第1研磨では、主表面3の端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面3の表面粗さ、例えば算術平均粗さRaを低減することができる。
第1研磨に用いる遊離砥粒は特に制限されないが、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒などが用いられる。なお、第1研磨は、場合によっては行なわれなくてもよい。
【0052】
(g)化学強化
一実施形態の基板1によっては適宜化学強化してもよい。化学強化をする場合、化学強化液として、例えば硝酸カリウム,硝酸ナトリウム、またはそれらの混合物を加熱して得られる溶融液を用いることができる。そして、基板を化学強化液に浸漬することによって、基板の表層にあるガラス組成中のリチウムイオンやナトリウムイオンが、それぞれ化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオンやカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、基板が強化される。
化学強化を行うタイミングは、適宜決定することができるが、化学強化の後に研磨を行うようにすると、表面の平滑化とともに化学強化によって基板の表面に固着した異物を取り除くことができるので特に好ましい。
【0053】
(h)第2研磨(鏡面研磨)
次に、化学強化後の基板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面3の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨と同様の構成の研磨装置を用いて研磨する。第2研磨では、第1研磨に対して遊離砥粒の種類及び粒子サイズを変え、樹脂ポリッシャの硬度が軟らかいものを研磨パッドとして用いて鏡面研磨を行う。こうすることで主表面3の端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面3の粗さを低減することができる。主表面3の粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601 2001)は、0.2nm以下であることが好ましい。
この後、基板を洗浄することにより、基板1を得ることができる。
【0054】
(実施例、比較例、従来例)
基板1の効果を調べるために、基板を種々作製した(従来例1,2、比較例1,2、及び実施例1〜12、実施例61〜67、実施例81〜84、実施例111〜114、実施例121〜124)。
基板は、ガラス基板あるいはアルミニウム合金基板を用いた。従来例1及び比較例1の基板には、以下の組成のガラス4を用いた。実施例1,2の基板1には、上述のガラス1を用い、実施例3〜5の基板1には、上述のガラス2を用い、実施例6〜10の基板1には、上述のガラス3を用い、実施例11,12の基板1には、ガラス1〜4と異なる組成で、ヤング率Eが100 [GPa]以上のアモルファスのアルミノシリケートガラスであるガラス5,6を用い、実施例61〜67及び実施例81〜84の基板1には、上述のガラス3を用いた。また、実施例111〜114の基板1には、ガラス5を用い、実施例121〜124の基板1には、ガラス6を用いた。なお、いずれの基板においても化学強化は実施しなかった。
また、ガラス1〜3,5,6は、比弾性率の値が36[GPa・cm/g]以上である。ガラス4は36未満である。
【0055】
(ガラス4)
SiO、Alと、LiO、NaO、およびKOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ金属酸化物と、MgO、CaO、SrO、およびBaOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ土類金属酸化物と、ZrO、HfO、Nb、Ta、La、Y3、およびTiOからなる群から選ばれる一種以上の酸化物と、を含み、
SiO 50モル%以上、
Al 3モル%以上、
かつ、SiOとAlの合計含有量 70〜85モル%、
LiOおよびNaOを含有し、LiO 4.3モル%以上、
NaO 5モル%以上、
かつLiOおよびNaOの合計含有量 24モル%以下、
前記アルカリ金属酸化物と前記アルカリ土類金属酸化物の合計含有量 8モル%以上、
含有し、
前記アルカリ金属酸化物と前記アルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対する前記酸化物の合計含有量のモル比((ZrO+HfO+Nb+Ta+La+Y+TiO)/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO))は0.035以上であり、
MgOおよびCaOを含み、
MgO 3モル%未満、
CaO 4モル%以下、
かつCaOの含有量に対するMgOの含有量のモル比(MgO/CaO)が0.130〜0.700、
である非晶質のガラス。
【0056】
作製した基板のサイズは、外径(直径)85mm〜97mm、内径(円孔直径)25mmである。この面取面の仕様については、半径方向に沿った幅Wが60μm〜150μm、板厚方向に沿った幅Wが60μm〜150μmである。具体的には、板厚が0.6mmを越える従来例1,2については、面取面の半径方向に沿った幅Wを150μm、板厚方向に沿った幅Wを150μmとした。そして、板厚が0.6mm以下の比較例1,2、実施例1〜12については、幅Wを100μm、幅Wを100μmとした。実施例61〜67及び81〜84の幅W及び幅Wは、下記表3A〜3Dに示している。したがって、幅Wと幅Wが等しい場合、傾斜角度θ図3参照)は45度である。なお、形状加工では、基板の外周を形成する際は、ダイヤモンドスクライバーを用いて切筋を垂直に入れ、切筋を反対面まで進展させて割断した。その後の面取工程では、総型砥石を用いて面取面を形成した。
【0057】
(実験1)
作製した従来例1,2、比較例1,2、及び実施例1〜12の基板を、高速度カメラを備える評価装置に取り付けて最大振幅を求めた。この評価装置では、任意の大きさの外部衝撃(加速度)を加えることが可能であり、それに伴い発生する基板の外周端部の動き(振動)を動画として撮影することができる。そして、その動画を解析することで、主表面の法線方向における外周端部の変位を測定することができる。
この評価装置を用いて、基板に対して2[m秒]で70[G]の衝撃を、基板の主表面の法線方向に加える衝撃試験を行い、外周端部の主表面の法線方向への振動を測定した。測定結果は図2のような波形データとして表される。この波形データから、基板の外周端部の変位量0の中心に対して法線方向のいずれかの向きにおける最大変位量を最大振幅として求めた。
【0058】
なお、実際のHDDでは、磁気ヘッドのランプロード機構のためのランプが組み込まれており、各磁気ディスクを装着した際に、両主表面から0.25mmの隙間が空くようになっている。すなわち、ランプ間の磁気ディスクが入る隙間は磁気ディスクの厚み+0.5mmである。実際のHDDでは、基板の厚さが変化してもこの隙間が一定となるように設計されている。一方、評価装置にはこのランプは設けられていない。したがって、基板の振動によって、実際のHDDにおいてランプ等の他の部材(隣接する基板、ランプ、あるいはHDDの収納容器)に接触するか否かの判断は、基板の振動の最大振幅で判断され、最大振幅が0.25mm以下であれば、ランプとの接触は起こらないと判断することができる。最大振幅が0.25mmを越える場合、別の部材と接触する可能性がきわめて高い。最大振幅は、3枚の基板について調べ、各最大振幅の平均値を用いた。本件の評価では、基板は回転しておらず静止状態で評価した。
なお、メディア工程で成膜される磁性膜等の厚さは、主表面において、100nm以下程度なので実質的に無視できる。
【0059】
下記表1,2A,2Bに最大振幅の評価結果を示す。
従来例2及び比較例2のアルミニウム合金(「Al合金」)は、以下の組成を有するAl−Mg合金である。質量%で、Mg:3.5〜5%、Si:0〜0.05%、Fe:0〜0.1%、Cu:0〜0.12%、Mn:0〜0.3%、Cr:0〜0.1%、Zn:0〜0.5%、Ti:0〜0.1%、残部はAl、である。さらに、Al−Mg合金製の基板の表面に、Ni−P合金(P:10質量%、残部Ni)の膜を無電解メッキにより基板の表面全体を覆うように形成した。メッキ膜を形成した基板の板厚は、膜も含めた板厚をいう。
【0060】
【表1】
【0061】
表1によれば、板厚Tが0.6mmを越える従来例1,2では、ヤング率が90[GPa]未満であっても、板厚Tが厚いため、最大振幅は小さく、基板が他の部材と接触することはない。しかし、比較例1,2に示すように、板厚Tが0.6mm以下の場合、最大振幅が0.25mmを越え、基板が他の部材と接触する可能性が極めて高い。これに対して、実施例1,2では、板厚Tが0.6mm以下であっても、ヤング率が90[GPa]以上であるため、最大振幅は、0.25mm以下である。
【0062】
【表2A】
【0063】
【表2B】
【0064】
実施例3〜12でも、実施例1,2と同様に、板厚Tが0.6mm以下であっても、ヤング率が90[GPa]以上であるため、最大振幅は、0.25mm以下である。
【0065】
以上より、表1及び表2A,2Bによれば、基板1の直径Dが85mm以上であり、基板1の板厚Tが0.6mm以下であっても、基板1の材料のヤング率Eが90[GPa]以上である場合、最大振幅は0.25mm以下となるので、外部から受ける衝撃により生じる振動により基板1が他の部材と接触することがない。このため、HDD内においてパーティクルの発生を抑制することができる。
【0066】
(実験2)
さらに、実施例6、実施例8、実施例11、実施例12の基板1を基準として、面取面5の幅W,Wを種々変更した基板1(実施例61〜67、実施例81〜84、実施例111〜114、実施例121〜124)を用いて、衝撃試験を行った後の基板1の品質評価を行った。
なお、幅W,Wは、総型砥石を用いて面取加工を行う際の砥石形状や加工条件を種々変更することにより、種々変更した。実施例61〜67は、実施例6の基板1の幅W,Wを変更したものであり、実施例81〜84は、実施例8の基板1の幅W,Wを変更したものであり、実施例111〜114は、実施例11の基板1の幅W,Wを変更したものであり、実施例121〜124は、実施例12の基板1の幅W,Wを変更したものである。したがって、実施例61〜67の材料、ヤング率E、板厚、及び外径は、実施例6と同じであり、実施例81〜84の材料、ヤング率E、板厚、及び外径は、実施例8と同じであり、実施例111〜114の材料、ヤング率E、板厚、及び外径は、実施例11と同じであり、実施例121〜124の材料、ヤング率E、板厚、及び外径は、実施例12と同じである。
【0067】
作製した基板1の品質評価は、市販されているHDDを分解して、各実施例の基板1とスペーサをスピンドルに取り付け、さらにエンジニアリングプラスチック製の模擬のランプ部材を基板表面に張り出すように取りつけた。ランプ部材と基板との隙間は、0.25mmの隙間が空くようにした。そして、基板1を留めた状態のまま、2[m秒]で200[G]の衝撃を基板1の主表面の法線方向に加える衝撃試験を行った。この試験は、基板1の外周端部とランプ部材とを数回以上あえて衝突させる加速試験である。その後、基板1表面のランプ部材と接触した周辺のパーティクル分布を観察した。なお、数値化困難のため、相対評価とした。
ランク1:パーティクルがほとんどなし
ランク2:パーティクルの数が中程度
ランク3:パーティクルの数が多い
下記表3A〜3Dにその評価結果を示す。
ランクの値が小さい程、品質評価が優れていることを意味し、ランク1が最高評価を表わす。
【0068】
【表3A】
【0069】
【表3B】
【0070】
【表3C】
【0071】
【表3D】
【0072】
表3A〜3Dによれば、幅Wを120μm以下にすることにより、パーティクルの数を低減することができることがわかる。そして、幅Wを90μm以下にすることにより、パーティクルの数がさらに低減することがわかる。したがって、基板1の直径Dが85mm以上であり、基板1の板厚Tが0.6mm以下であり、基板1にヤング率Eが90[GPa]以上の材料が用られる場合、幅Wを120μm以下にすることにより、HDD内での基板1の主表面に付着するパーティクル数をより一層抑制することができる。
【0073】
以上、本発明の磁気ディスク用基板及び磁気ディスクについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例等に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0074】
1 磁気ディスク用基板
2 内孔
3 主表面
4 側壁面
5 面取面
6 角
10 磁気ディスク
図1
図2
図3