特許第6976009号(P6976009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6976009リチウムリッチ酸化物正極材料およびその製造方法、ならびにリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976009
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】リチウムリッチ酸化物正極材料およびその製造方法、ならびにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20211118BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20211118BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20211118BHJP
   C01G 53/00 20060101ALN20211118BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/485
   !C01G53/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-511927(P2020-511927)
(86)(22)【出願日】2018年1月3日
(65)【公表番号】特表2020-532076(P2020-532076A)
(43)【公表日】2020年11月5日
(86)【国際出願番号】CN2018070091
(87)【国際公開番号】WO2019095530
(87)【国際公開日】20190523
【審査請求日】2020年2月27日
(31)【優先権主張番号】201711158982.7
(32)【優先日】2017年11月20日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510173476
【氏名又は名称】中国科学院▲寧▼波材料技▲術▼▲与▼工程研究所
【氏名又は名称原語表記】NINGBO INSTITUTE OF MATERIALS TECHNOLOGY & ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】邱 ▲報▼
(72)【発明者】
【氏名】夏 永高
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 兆平
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/161445(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146723(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/069454(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/111658(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度50〜350℃においてX線回折分析を行ったときに、少なくとも1つの格子定数(a、b、c)が温度の上昇に伴い低下することを特徴とするリチウムリッチ酸化物正極材料であって、
前記材料を、Liに対する電位が4.5〜4.8Vの間において充電し、その後、2.0〜4.4Vまで放電して電気化学的処理することと、
前記電気化学的処理した後に、熱処理を行うことと、を含み、
前記熱処理において、150〜350℃で0.5〜10時間処理する、
方法によって製造されるリチウムリッチ酸化物正極材料。
【請求項2】
一般式Li1+xNiCoMnで表され、
0<x≦0.2、0≦y≦0.35、0≦z≦0.35、0.5≦u≦0.9、および0≦d≦0.5であり、
Mは、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、ニオブ、モリブデン、およびルテニウムのうちの1種または複数種から選択されることを特徴とする請求項1に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料。
【請求項3】
層状構造、スピネル型構造、溶融塩構造、および単斜晶層状構造の1種である結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法であって、
前記材料を、Liに対する電位が4.5〜4.8Vの間において充電し、その後、2.0〜4.4Vまで放電して電気化学的処理することと
前記電気化学的処理した後に、熱処理を行うことと、を含み、
前記熱処理の方法は、150〜350℃で0.5〜10時間処理する、
リチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記電気化学的処理中の電流密度は、25〜250mA/gである請求項4に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記リチウムリッチ酸化物正極材料は、
一般式Li1+xNiCoMnで表され、
0<x≦0.2、0≦y≦0.35、0≦z≦0.35、0.5≦u≦0.9、および0≦d≦0.5であり、
Mは、ニッケル、コバルト、マンガンのうちの1種または複数種であり、
結晶構造は、層状構造であり、
前記電気化学的処理する方法は、前記層状構造の前記リチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの間において充電し、その後、2.0〜3.2Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数は1〜300回である請求項4に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記リチウムリッチ酸化物正極材料は、
一般式Li1+xNiCoMnで表され、
0<x≦0.2、0≦y≦0.35、0≦z≦0.35、0.5≦u≦0.9、および0≦d≦0.5であり、
Mは、鉄、アルミニウム、バナジウム、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびモリブデンの1種又は複数種であり、
結晶構造は、スピネル型構造または溶融塩構造であり、
前記電気化学的処理する方法は、スピネル型構造または溶融塩構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの間において充電し、その後、2.0〜3.0Vまで放電し、電気化学的処理のサイクル回数が1〜300回である請求項4に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記リチウムリッチ酸化物正極材料は、
一般式Li1+xNiCoMnで表され、
0<x≦0.2、0≦y≦0.35、0≦z≦0.35、0.5≦u≦0.9、および0≦d≦0.5であり、
Mは、チタン、ジルコニウム、スズ、ルテニウムの1種又は複数種であり、
結晶構造は、単斜晶層状構造であり、
前記電気化学的処理する方法は、単斜晶層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの間において充電し、その後、2.0〜4.4Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数は1〜300回である請求項4に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法。
【請求項9】
正極、負極、セパレータ、および電解質を含む電池であって、
前記正極は請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムリッチ酸化物正極材料、または、請求項4〜のいずれか1項に記載の製造方法で得られたリチウムリッチ酸化物正極材料、から製造されることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2017年11月20日に中国国家知識産権局に提出した、出願番号201711158982.7、発明名称「リチウムリッチ酸化物正極材料およびその製造方法並びリチウムイオン電池」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、そのすべての内容は援用により本出願に組み込まれている。
【0002】
本発明はリチウムイオン電池の技術分野に属し、具体的には、リチウムリッチ酸化物正極材料およびその製造方法、ならびにリチウムイオン電池に属する。
【背景技術】
【0003】
現在、リチウムイオン電池は、自動車用動力電池として最も潜在力を有すると考えられ、既存のリチウムイオン電池の実際のエネルギー密度は150〜200Wh/kgであり、300Wh/kgよりはるかに低い。したがって、電気自動車の航続距離を増加させるために、新世代の高エネルギー密度動力用リチウム電池を研究開発することは現在解決する必要がある緊急の問題である。過去20年間、リチウムイオン電池のエネルギー密度を改善するために多くの努力がなされてきたが、効果が非常に小さい。その主な理由は、現在の正極材料の放電比容量が通常200mAh/g未満であるためである。そのため、新しい高容量酸化物正極材料を探索および設計することは、現在の電池エネルギー密度のボトルネックを突破する鍵である。現在使用されている酸化物正極材料は、充放電中の電荷補償を達成するために、遷移金属カチオンの可逆的な酸化還元のみを使用し、熱力学的理論の可逆容量の限界により、これらの酸化物正極材料は、より高い放電比容量を達成することができない。
【0004】
最近、多くのリチウムリッチ正極材料は遷移金属カチオンの可逆的な酸化還元を利用しながら、アニオン(格子酸素)の電気化学的活性を利用できるため、より多くのLiイオンが脱挿入されることで、放電比容量が300mAh/gを超えることを達成できることが発見された。これまで、研究の関心は、主にこれらのリチウムリッチ材料の初期構造に集中し、米国のアルゴンヌ国立研究所のThackerayらによって開示される中国特許出願公開第101080830号明細書(特許文献1)は、リチウムリッチ正極材料が21〜23度(Cuターゲット)に超格子ピークを持つことを明確に示している。さらに、Cederらは最近、Nature Chemistry, 8, 692 (2016)(非特許文献1)において、これらのリチウムリッチ正極材料の微細構造には、Li−O−Li構造を有する局所構造が存在するが、これらの局所構造は、格子酸素が2つの異なる2pハイブリッド軌道を持つことを可能にし、電気化学的活性化を生じ、より多くの利用可能なLiイオンをもたらすことを報告した。本発明者らは、最近、Chemistry of Materials, 29, 908 (2017)(非特許文献2)において、遷移金属酸化正極材料中のLi/Oの比率は格子酸素の電気化学的活性を決定する重要な要因であり、Li/O比率の増加に伴い、格子酸素の局所環境が著しく変化して格子酸素が電気化学的活性を有するようになることを発表した。総じて言えば、リチウムリッチ正極材料の高容量は、格子酸素が可逆的に酸化還元プロセスに関与し、より多くのLiイオンの脱挿入をもたらす。リチウムリッチ正極材料中の格子酸素が電気化学的活性を有することの起源は、Li−O−Li局所構造の特殊性によるものであり、別途の電気化学的レドックス中心を提供し、より高い放電比容量を生じる。
【0005】
格子酸素の電気化学的活性により、材料の最初の放電比容量は300mAh/gを超え、後続のサイクルで同様に超高放電比容量を示し、これは格子酸素の電気化学的活性が次のサイクルで存在することを示している。しかしながら、これらの材料の次のサイクルでの充放電曲線が最初の充放電曲線と全く異なり、これより次のサイクル中の格子酸素の電気化学的活性が存在する局所的な構造の基礎は、現在提出されている関連理論とは完全に異なる。最初の電気化学活性化サイクルの後の材料構造の複雑さにより、これまでのところ、この問題はまだ注目を集めていない。よって、格子酸素の電気化学活性は次のサイクル中に常に存在するが、異なる材料システムでその存在する局所構造の基礎は最初のサイクルと全く異なるため、そのサイクル中の関連する電気化学的性能はよく理解できない。現在の研究状況は、リチウムリッチ正極材料は、その特殊なレドックス活性中心により、初回クーロン効率が低く、レート特性が低く、またサイクル特性が悪いという技術的な問題が生じ、その大規模な応用が妨げられる。そのため、サイクル後のリチウムリッチ正極材料の結晶構造を掲示することはこれらの問題を解決するために重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第101080830号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature Chemistry, 8, 692 (2016)
【非特許文献2】Chemistry of Materials, 29, 908 (2017)
【非特許文献3】Chemistry of Materials, 20, 4936-4951 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これに鑑みてなされたものであり、解決しようとする技術的問題は、リチウムリッチ酸化物正極材料およびその製造方法、ならびにリチウムイオン電池を提供し、その正極材料構造特点に基づいて、さらに改質させる方法を提供することにより、リチウムイオン電池正極材料はより低い濃度の欠陥を有させることで、該材料構造の秩序化の程度が向上し、リチウムイオン電池正極材料がより高い放電比容量およびより高い放電電圧を有させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来技術に比べると、本発明は、温度50〜350℃においてX線回折分析を行ったときに、少なくとも1つの格子定数(a、b、c)が温度の上昇に伴い低下するリチウムリッチ酸化物正極材料を提供している。
【0010】
リチウムリッチ酸化物正極材料は、一般式Li1+xNiCoMnで表され、ここで、0<x≦0.2、0≦y≦0.35、0≦z≦0.35、0.5≦u≦0.9、および0≦d≦0.5であり、Mは、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、ニオブ、モリブデン、およびルテニウムのうちの1種または複数種から選択される。
【0011】
リチウムリッチ酸化物の結晶構造は、層状構造、スピネル型構造、溶融塩構造、および単斜晶層状構造の1種である。
【0012】
Mが、ニッケル、コバルト、マンガンの1種または複数種である場合、結晶構造は、層状構造である。
【0013】
Mが、鉄、アルミニウム、バナジウム、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびモリブデンの1種または複数種である場合、結晶構造は、スピネル型構造または溶融塩構造である。
【0014】
Mが、チタン、ジルコニウム、スズ、およびルテニウムの1種または複数種である場合、結晶構造は、単斜晶層状構造である。
【0015】
本発明は、リチウムリッチ酸化物正極材料の製造方法を提供している。材料を、Liに対する電位が4.5〜4.8Vの間において充電した後、2.0〜4.4Vまで放電して処理する。好ましくは、電気化学的処理中の電流密度は25〜250mA/gであり、25mA/gであることが好ましい。
【0016】
電気化学的処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について50〜350℃でX線回折分析を行うと、少なくとも1つの格子定数(a、b、c)が、温度の上昇に伴い低下する。
【0017】
リチウムリッチ酸化物正極材料は、一般式Li1+xNiCoMnで表され、ここで、0<x≦0.2、0≦y≦0.35、0≦z≦0.35、0.5≦u≦0.9、および0≦d≦0.5であり、Mは、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、ニオブ、モリブデン、およびルテニウムのうちの1種または複数種から選択される。
【0018】
好ましくは、リチウムリッチ酸化物の結晶構造は、層状構造、スピネル型構造、溶融塩構造、および単斜晶層状構造の1種である。
【0019】
結晶構造が層状構造である場合、該材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの範囲に充電して電気化学的活性化を行った後、2.0〜3.2Vまで放電し、そのサイクル後の電極材料は、ドイツのブルカー社のX線回折計またはシンクロトロン放射光源により、異なる温度のX線回折分析を行い、試験の温度範囲は20〜400℃であり、好ましくは50〜350℃である。同時に、Full proofなどの関連する結晶構造調整ソフトにより格子定数が調整され、温度が100〜350℃である範囲において、格子定数(a、b、c)は温度の上昇に伴い低下する。
【0020】
Mが、ニッケル、コバルト、およびマンガンの1種又は複数種である場合、結晶構造は、層状構造であり、電気化学的に処理する方法は、層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの間において充電し、その後、2.0〜3.2Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回である。
【0021】
幾つかの実施形態において、電気化学的に処理する方法は、層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6Vの間において充電し、その後、2.0Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回であり、処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、その得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。
【0022】
幾つかの実施形態において、電気化学的に処理する方法は、層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.8Vの間で充電し、その後、2.0Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回であり、処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。
【0023】
幾つかの実施形態において、電気化学的に処理する方法は、層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料をLiに対する電位が4.8Vの間で充電し、その後、3.2Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回であり、処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。
【0024】
幾つかの実施形態において、電気化学的処理する方法は、層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.8Vの間で充電し、その後、2.0Vまで放電し、1〜300回のサイクルを行った後、層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料をLiに対する電位が4.6Vの間で充電し、その後、2.0Vまで放電し、1〜300回のサイクルを行い、電気化学的処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。
【0025】
結晶構造がスピネル型構造又は溶融塩構造である場合、該材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの範囲で充電して電気化学活性化を行った後、その後、2.0Vまで放電し、サイクル後の電極材料は、ドイツのブルカー社のX線回折計またはシンクロトロン放射光源により、異なる温度のX線回折分析を行い、試験の温度範囲は20〜400℃であり、好ましくは50〜350℃である。同時に、Full proofなどの関連する結晶構造調整ソフトにより格子定数が調整され、温度が100〜350℃である範囲において、格子定数(a、b、c)は温度の上昇に伴い低下する。
【0026】
Mが、鉄、アルミニウム、バナジウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、およびモリブデンの1種または複数種である場合、結晶構造はスピネル型構造または溶融塩構造であり、電気化学的処理方法は、スピネル型構造または溶融塩構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vに範囲おいて充電し、その後、2.0〜3.0Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回である。
【0027】
幾つかの実施形態では、電気化学的処理する方法は、スピネル型構造または溶融塩構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.8Vの間で充電し、その後、2.0Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回であり、処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されなかった。
【0028】
結晶構造が単斜晶層状構造である場合、該材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの範囲で充電して電気化学的活性化を行った後、その後、2.0Vまで放電し、サイクル後の電極材料は、ドイツのブルカー社のX線回折計またはシンクロトロン放射光源により異なる温度のX線回折分析を行い、試験の温度範囲は20〜400℃であり、好ましくは50〜350℃である。同時に、Full proofなどの関連する結晶構造調整ソフトにより格子定数が調整され、温度が50〜350℃である範囲において、少なくとも一つの格子定数(a、b、c)は温度の上昇に伴い低下する。
【0029】
Mがチタン、ジルコニウム、スズ、モリブデン、ルテニウムの1種又は複数種である場合、結晶構造は単斜晶層状構造であり、電気化学的処理する方法は、単斜晶層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.6〜4.8Vの範囲で充電し、その後、2.0〜4.4Vまで放電し、電気化学サイクル回数が1〜300回である。
【0030】
幾つかの実施形態において、電気化学的処理する方法は、単斜晶層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料を、Liに対する電位が4.8Vの間で充電し、その後、2.0Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回であり、処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、その得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。好ましくは、100〜350℃で、その格子定数cの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、その得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。
【0031】
幾つかの実施形態において、電気化学的処理する方法は、単斜晶層状構造のリチウムリッチ酸化物正極材料をLiに対する電位が4.6Vの間で充電し、その後、2.0Vまで放電し、電気化学的処理するサイクル回数が1〜300回であり、その後、処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料について温度が50〜350℃でX線回折分析を行い、その中、100〜350℃で、その格子定数a=bおよびcの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、その得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。好ましくは、100〜350℃で、その格子定数cの少なくとも一つが温度の上昇に伴い低下するが、その得られたX線回折スペクトルにおいて明らかな変化は観察されない。
【0032】
本発明において、電気化学的処理後のリチウムリッチ酸化物正極材料を熱処理することをさらに有し、熱処理の方法は、電気化学的処理のリチウムリッチ酸化物正極材料を150〜350℃の条件で0.5〜10時間処理し、熱処理しないリチウムリッチ酸化物正極材料に比べると、熱処理後の正極材料はより低い欠陥濃度を有し、リチウムイオン電池に応用すると、より高放電比容量および放電電圧を有する。
【0033】
幾つかの具体的な実施形態において、熱処理の温度は、200〜300℃であり、熱処理の時間は、1〜5時間である。
【0034】
本発明は、正極、負極、セパレータ、および電解質を含むリチウムイオン電池を提供し、正極は製造方法で得られたリチウムリッチ酸化物正極材料から製造される。負極は、リチウム金属、チタン酸リチウム、またはグラファイトからなる群から選択され、セパレータはCegard系から選択され、電解液は1mol/L LiPF溶液(EC:DMC=3:7)である。
【発明の効果】
【0035】
本発明が提供する製造方法により正極材料構造特点を解析し、さらに改質させる方法を提供することにより、リチウムイオン電池正極材料は、より低い濃度の欠陥を有することで、該材料構造の秩序化の程度が向上し、リチウムイオン電池正極材料がより高い放電比容量およびより高い放電電圧を有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料の、電気化学的処理をしていないときの、格子定数の温度による変化を示す図
図2】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の電極材料の格子定数の温度による変化を示す図
図3】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを100回実施した後の電極材料の格子定数の温度による変化を示す図
図4】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを300回実施した後の電極材料の格子定数の温度による変化を示す図
図5】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の、温度処理なしおよび200度で2h処理後の充放電グラフ
図6】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の、温度処理なしおよび250度5h処理後の充放電グラフ
図7】実施例1で製造された層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の、温度処理なしおよび300度1h処理後の充放電グラフ
図8】リチウムリッチ正極材料Li1.2Mn0.4Ti0.4について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電する最初のサイクルの後の電極材料の格子定数の温度による変化を示す図
図9】リチウムリッチ正極材料LiRu0.5Ti0.5について、4.6Vまで充電した後に2.0Vまで放電する最初のサイクルの後の電極材料の格子定数の温度による変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明をさらに理解するために、以下に本発明によって提供されるリチウムリッチ酸化物正極材料およびその製造方法、ならびにリチウムイオン電池を、実施例を参照して説明するが、本発明の保護範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0038】
〔実施例1〕
1)酢酸ニッケル、酢酸コバルト、および酢酸マンガンを、ニッケル元素、コバルト元素、マンガン元素をモル比1:1:4で混合し、5時間混合攪拌し、沈殿物を乾燥させ、前駆体(Ni1/6Co1/6Mn4/6)COを得た。
【0039】
2)ステップ1)で得られた前駆体(Ni1/6Co1/6Mn4/6)COと炭酸リチウムとを、モル比1:0.7、温度850℃で24時間熱処理し、室温まで冷却し、研削した後、リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544を得た。
【0040】
3)層状構造のリチウムリッチ正極材料の電気化学的処理は、具体的には以下のように実施された。層状リチウムリッチ正極材料8g、アセチレンブラック1g、ポリフッ化ビニリデン1g、およびN−メチルピロリドン30gを常温常圧で混合してスラリーを形成し、アルミニウム箔の表面に均一にコーティングしてポールピースを得た。得られたポールピースを80℃で乾燥した後、プレスして、正極として面積が1.32cmの丸形薄シートを切断し、金属リチウムを負極として、1mol/LのLiPF溶液(エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1(体積比))を電解液として、その後、アルゴンガスを充填したグローブボックスにおいてボタン電池に組み立てた。得られた半電池のサイクル性能は、電気化学試験機によりサイクル性能試験を実施し、試験温度が25℃であり、充電終止電圧がLi/Liに対して4.8Vであり、放電終止電圧が2.0V Li/Liであるサイクルを1〜300回行った。
【0041】
4)層状構造のリチウムリッチ正極材料は、ドイツのブルカー社のX線回折計またはシンクロトロン放射光源により異なる温度のX線回折分析に供した。測定条件は、光源:Cu−Kα線、Cuターゲット、管電圧:40V、管電流:40mA、スキャン速度:2o/min、2θスキャン範囲:15〜90o、ステップサイズ:0.02°、発散スリット(DS):1mm、散乱防止スリット(SS):8mm、グラファイトモノクロメーター、またはシンクロトロン放射光源であり、試験の温度範囲は20〜400℃であった。
【0042】
図1は、電気化学的処理されていない層状構造リチウムリッチ正極材料について、格子定数の温度による変化を示した図である。図から明らかなように、その格子定数a=bおよびcは、いずれも温度の上昇に伴い線形に増加した。このような結果は材料の熱膨張効果によるものであり、その結果はYang Shao-HornらがChemistry of Materials, 20, 4936-4951 (2008)(非特許文献3)において、LiNi0.5Mn0.5の層状材料に関して報告した結果と一致する。
【0043】
図2は、層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の、電極材料の格子定数の温度による変化を示した図である。図から明らかなように、室温から100℃までの間、その格子定数a=bおよびcはいずれも温度の上昇に伴い増加した。これは材料自身の熱膨張効果によるものであり、その結果は当初の材料についての変化と類似する。温度が上昇し続けると、100〜350℃の温度範囲では、その格子定数a=bは100〜250℃で温度の上昇に伴い低下し、格子定数cは100〜190℃および300〜350℃で温度の上昇に伴い低下した。
【0044】
図3は、層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを100回実施した後の、電極材料の格子定数の温度による変化を示した図である。図から明らかなように、室温から100℃までの間、その格子定数a=bおよびcはいずれも温度の上昇に伴い増加した。これは材料自身の熱膨張効果によるものであり、その結果は当初の材料についての変化と類似する。温度が上昇し続けると、100〜350℃の温度範囲で、その格子定数a=bは100〜280℃で温度の上昇に伴い低下し、格子定数cは100〜250℃で温度の上昇に伴い低下した。
【0045】
図4は層状構造リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを300回実施した後の、電極材料の格子定数の温度による変化を示した図である。図から明らかなように、室温から100℃までの間、その格子定数a=bおよびcはいずれも温度の上昇に伴い増加した。これは材料自身の熱膨張効果によるものであり、その結果は当初の材料についての変化と類似する。温度が上昇し続けると、100〜350℃の温度範囲で、その格子定数a=bは100〜300℃で温度の上昇に伴い低下し、格子定数cは100〜300℃で温度の上昇に伴い低下する。
【0046】
5)得られた半電池のサイクル性能を電気化学テスターにより試験した。試験温度は25℃とし、充電終止電圧がLi/Liに対して4.8Vであり、放電終止電圧が2.0V Li/Liであるサイクルを1回行った後、アルゴンが充填されたグローブボックスで電池を分解し、その後、200〜300℃で1〜5時間処理した後、ステップ3)の方法により電池を組み立てた後、電気化学的性能試験を実施した。
【0047】
図5では、温度200℃、加熱時間2hで熱処理した後、ステップ5)の方法により電気化学試験を行った結果を示している。熱処理後の材料は、熱処理していない電極材料に比べて、より高い電圧(3.65V対3.57V)および放電比容量(255mAh/g対250mAh/g)を示した。これは、熱処理後の材料がより低い濃度の欠陥を有することを示している。
【0048】
図6では、温度250℃、加熱時間5hで熱処理した後、ステップ5)の方法により電気化学試験を行った結果を示している。熱処理後の材料は、熱処理しない電極材料に比べて、より高い電圧(3.68V対3.57V)および放電比容量(256mAh/g対250mAh/g)を示した。これは、熱処理後の材料がより低い濃度の欠陥を有することを示している。
【0049】
図7では、温度300℃、加熱時間1hで熱処理した後、ステップ5)の方法により電気化学試験を行った結果を示している。熱処理後の材料は、熱処理しない電極材料に比べて、より高い電圧(3.62V対3.57V)および放電比容量(256mAh/g対250mAh/g)を示した。これは、熱処理後の材料がより低い濃度の欠陥を有することを示している。
【0050】
〔実施例2〜15〕
実施例1で製造された層状リチウムリッチ正極材料Li1.14Ni0.136Co0.136Mn0.544を実施例1の方法で製造した。電気化学的処理および/または熱処理のプロセスパラメータのみを変更し、他の試験条件は変更しなかった。具体的なプロセスパラメータおよび結果は表1に示す。
【0051】
表1:層状リチウムリッチ正極材料の製造プロセスパラメータおよび電気化学的性能
【表1】
【0052】
表1中、実施例5のデータを例とすると、電圧(V)が「3.65/3.57」であり、ここで、3.65Vは、表1の実施例5の方法により製造された材料の電圧値であり、3.57Vは、実施例5の製造方法に基づいて熱処理を行わずに電気化学的処理のみを行った材料の電圧値である。放電比容量(mAh/g)が「254/250」であり、ここで、254mAh/gは、表1の実施例5の方法により製造された材料の放電比容量であり、250mAh/gは、実施例5の方法に基づいて熱処理を行わずに電気化学的処理のみを行った材料の放電比容量である。他の実施例ならびに表2および表3は同様である。
【0053】
〔実施例16〕
1)三酸化二マンガン、二酸化チタン、炭酸リチウムを、リチウム元素、チタン元素、マンガン元素を、モル比3:1:1で混合し、高エネルギーボールミルにより400rpmの速度で10時間ボールミルして得られた前駆体を、温度900℃、ArガスまたはNガス雰囲気中で24時間熱処理し、室温まで冷却して研磨し、リチウムリッチ正極材料Li1.2Mn0.4Ti0.4を得た。
【0054】
2)スピネル型構造または岩塩構造のリチウムリッチ正極材料の電気化学的処理は、具体的には以下のように実施された。スピネル型構造または岩塩構造のリチウムリッチ正極材料8g、アセチレンブラック1g、ポリフッ化ビニリデン1g、およびN−メチルピロリドン30gを常温常圧で混合してスラリーを形成し、アルミニウム箔の表面に均一にコーティングしてポールピースを得た。得られたポールピースを80℃で乾燥した後、プレスして、正極として面積が1.32cmの丸形薄シートを切断し、金属リチウムピースを負極とし、1mol/LのLiPF溶液(エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1(体積比))を電解液とし、その後、アルゴンガスを充填したグローブボックスにおいてボタン電池に組み立てた。得られた半電池のサイクル性能を電気化学テスターにより試験し、試験温度が25℃であり、充電終止電圧がLi/Liに対して4.8Vであり、放電終止電圧が2.0V Li/Liであるサイクルを1〜100回行った。
【0055】
3)スピネル型構造または岩塩構造のリチウムリッチ正極材料は、ドイツのブルカー社のX線回折計またはシンクロトロン放射光源により異なる温度のX線回折分析に供した。測定条件は、光源:Cu−Kα線、Cuターゲット、管電圧:40V、管電流:40mA、スキャン速度:2o/min、2θスキャン範囲:15〜90o、ステップサイズ:0.02°、発散スリット(DS):1mm、散乱防止スリット(SS):8mm、グラファイトモノクロメーター、またはシンクロトロン放射光源であり、試験の温度範囲は20〜400℃であった。
【0056】
図8は、スピネル型構造または岩塩構造のリチウムリッチ正極材料Li1.2Mn0.4Ti0.4について、4.8Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の、電極材料の格子定数の温度による変化を示した図である。図から明らかなように、室温から100℃までの間、その格子定数a=b=cはいずれも温度の上昇に伴い増加した。これは材料自身の熱膨張効果によるものであり、その結果は当初の材料についての変化と類似する。温度が上昇し続けると、50℃〜350℃の温度範囲で、その格子定数a=b=cは70〜270℃で温度の上昇に伴い却って低下した。
【0057】
〔実施例17〜22〕
実施例16で製造されたスピネル型構造または岩塩構造のリチウムリッチ正極材料Li1.2Mn0.4Ti0.4を、実施例16の方法で製造した。電気化学的処理および/または熱処理のプロセスパラメータのみを変更し、他の試験条件は変更しなかった。具体的なプロセスパラメータおよび結果は表2に示す。
【0058】
表2:スピネル型構造/岩塩構造のリチウムリッチ正極材料の製造のプロセスパラメータおよび電気化学的性能
【表2】
【0059】
〔実施例23〕
1)酸化ルテニウム、二酸化チタン、炭酸リチウムを、リチウム元素、ルテニウム元素、チタン元素をモル比4:1:1で混合し、高エネルギーボールミルにより600rpmの速度で10時間高速ボールミルして得られた前駆体を、温度1050℃、が空気雰囲気で24時間熱処理し、室温まで冷却して研磨した後、リチウムリッチ正極材料LiRu0.5Ti0.5を得た。
【0060】
2)単斜晶層状構造のリチウムリッチ正極材料の電気化学的処理は、具体的には以下のように実施された。単斜晶層状のリチウムリッチ正極材料8g、アセチレンブラック1g、ポリフッ化ビニリデン1gおよびN−メチルピロリドン30gを常温常圧で混合してスラリーを形成し、アルミニウム箔の表面に均一にコーティングしてポールピースを得た。得られたポールピースを80℃で乾燥した後、プレスして、正極として面積が1.32cmの丸形薄シートを切断し、金属リチウムピースを負極とし、1mol/LのLiPF溶液(エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1(体積比))を電解液とし、その後、アルゴンガスを充填したグローブボックスにおいてボタン電池に組み立てた。得られた半電池のサイクル性能を電気化学テスターで試験し、試験温度が25℃であり、充電終止電圧がLi/Liに対して4.6Vであり、放電終止電圧が2.0V Li/Liであるサイクルを1〜100回行った。
【0061】
3)単斜晶層状構造のリチウムリッチ正極材料は、ドイツのブルカー社のX線回折計またはシンクロトロン放射光源により異なる温度のX線回折分析に供した。測定条件は、光源:Cu−Kα線、Cuターゲット、管電圧:40V、管電流:40mA、スキャン速度:2o/min、2θスキャン範囲:15〜90o、ステップサイズ:0.02°、発散スリット(DS):1mm、散乱防止スリット(SS):8mm、グラファイトモノクロメーター、またはシンクロトロン放射光源であり、試験の温度範囲は20〜400℃であった。
【0062】
図9は、単斜晶層状リチウムリッチ正極材料LiRu0.5Ti0.5について、4.6Vまで充電した後に2.0Vまで放電するサイクルを1回実施した後の、電極材料の格子定数の温度による変化を示した図である。図から明らかなように、室温から100℃までの間、その格子定数a、bおよびcはいずれも温度の上昇に伴い増加した。これは材料自身の熱膨張効果によるものであり、その結果は当初の材料についての変化と類似する。温度が上昇し続けると、50℃〜350℃の温度範囲で、その格子定数cは70〜170℃および200〜240℃で温度の上昇に伴い却って低下した。
【0063】
〔実施例24〜29〕
実施例23で製造された単斜晶層状のリチウムリッチ正極材料LiRu0.5Ti0.5を、実施例23の方法で製造した。電気化学的処理および/または熱処理のプロセスパラメータのみを変更し、他の試験条件は変更しなかった。具体的なプロセスパラメータおよび結果は表3に示す。
【0064】
表3:単斜晶層状リチウムリッチ正極材料の製造のプロセスパラメータおよび電気化学的性能
【表3】
【0065】
上記の説明は、本発明の好ましい実施形態に過ぎず、当業者にとっては、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良および修正を行うことができ、これらの改良および修正も本発明の保護範囲と見なされるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9