(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転機に用いられ、周方向に並ぶ複数の第1部分と前記複数の第1部分を周方向に接続する第2部分とを含み、動作中に前記複数の第1部分に動径方向の磁束が生じる磁性部材を、加熱炉内の支持具に支持し、
前記支持具に支持されている前記磁性部材を加熱し、
前記支持具に支持されている前記磁性部材に、周方向に隣り合う2つの第1部分に印加される磁場が動径方向に関して相互に反対向きになるように、磁場印加装置から前記複数の第1部分に磁場を印加した状態で、前記磁性部材の温度を低下させる回転機の磁性部材の製造方法。
前記磁性部材はステータであり、前記第2部分は環状のバックヨークであり、複数の前記第1部分は、前記バックヨークから内側に向かって突出した複数のティースであり、
前記磁場印加装置は、前記支持具に支持された前記ステータの前記複数のティースの先端によって取り囲まれている請求項1に記載の回転機の磁性部材の製造方法。
前記磁性部材は回転機のロータのコアであり、前記コアは、円柱状の外形を有し、前記コアに周方向に並んだ複数のスロットが設けられており、前記第1部分は周方向に隣り合う前記スロットに挟まれた部分である請求項1に記載の回転機の磁性部材の製造方法。
前記磁場印加装置によって発生する磁場を、前記磁性部材の中心軸を回転中心として回転させる回転機構を、さらに有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転機の磁性部材の製造方法。
前記加熱炉は、前記支持具に支持された前記磁性部材と前記磁場印加装置との間に配置された断熱壁を含み、前記磁場印加装置は、前記加熱炉の外に配置されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の回転機の磁性部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1A〜
図2Bを参照して、実施例による磁場中熱処理装置について説明する。
図1Aに、回転機のステータが収容された磁場中熱処理装置の平断面図を示し、
図1Bに、
図1Aの一点鎖線1B−1Bにおける縦断面図を示す。実施例による磁場中熱処理装置は、加熱炉10及び磁場印加装置20を含む。
【0013】
まず、加熱炉10の構造について説明する。加熱炉10は、断熱容器11及び発熱体13を含む。断熱容器11は、外周断熱壁11A、内周断熱壁11B、断熱性底板11C、及び蓋11Dを含む。内周断熱壁11Bは上端が塞がれ、下端が開放された円筒状の形状を有する。内周断熱壁11Bと外周断熱壁11Aとの間に、環状の加熱空間12が形成される。加熱空間12の底は、断熱性底板11Cで塞がれている。外周断熱壁11A、内周断熱壁11B、及び断熱性底板11Cからなる容器の上方の開口部が、蓋11Dで塞がれる。ガス導入口16から加熱炉10内に不活性ガス、例えば窒素ガスが導入される。加熱炉10内の不活性ガスは、ガス排出口17から排出される。
【0014】
環状の加熱空間12内に、発熱体13及び支持具15が収容されている。熱処理時には、加熱空間12内に、熱処理対象である環状のステータ30が収容される。ステータ30は、支持具15によって加熱空間12内に支持される。
【0015】
次に、ステータ30の構造について説明する。ステータ30は、同一形状に型抜きされて積み重ねられた複数の電磁鋼板で構成される。ステータ30は、環状のバックヨーク32、及びバックヨーク32から中心に向かって突出した複数のティース31を含む。
図1Aでは、6本のティース31が周方向に等間隔に配置されている例が示されているが、ティース31の本数は6本に限定されず、6本より多くてもよい。例えば、36本または48本のティース31を配置してもよい。
【0016】
ステータ30が支持具15に支持されている状態で、ティース31の先端の表面が、加熱炉10の内周断熱壁11Bの外側の表面に対向する。ティース31の先端の表面は、内周断熱壁11Bに接触してもよいし、両者の間に微小な間隙を確保してもよい。
【0017】
次に、磁場印加装置20の構造について説明する。磁場印加装置20は、磁心21と、磁心21に巻かれたコイル22とを含む。磁場印加装置20は、加熱炉10の内周断熱壁11Bの内側に配置されており、支持具15に支持されたステータ30の複数のティース31の先端によって取り囲まれている。すなわち、磁場印加装置20は、加熱炉10の外側に配置されている。ティース31の先端の表面は、内周断熱壁11Bを介して磁場印加装置20の磁心21に対向する。
【0018】
磁心21は、中心から各ティース31に向かって放射状に伸びる巻芯部を含む。巻芯部の各々の端面が、対応するティース31の先端表面に対向する。巻芯部の各々にコイル22が巻かれている。磁心21、1つのティース31、バックヨーク32、及び隣のティース31により、閉磁路が形成される。コイル22に電流を流すと、この閉磁路に磁束35が発生し、各ティース31に、バックヨーク32の動径方向(以下、単に「動径方向」という。)の磁場が印加される。磁束35に付された矢印は、磁束の向きの一例を示す。コイル22に流す電流が直流である場合には、磁束35の向きは固定される。コイル22に流す電流が交流である場合に発生する磁束35は交番磁束になる。
【0019】
制御装置40が、発熱体13に流す電流、及びコイル22に流す電流を制御する。
【0020】
次に、
図1A及び
図1Bに示した磁場中熱処理装置を用いてステータを製造する方法について説明する。
【0021】
まず、
図1A及び
図1Bに示したステータ30を準備する。この段階では、ステータ30の各ティース31にはコイルが巻かれていない。ステータ30を加熱炉10内に収容し、支持具15でステータ30を支持する。このとき、ティース31の先端の表面が、磁心21の巻芯部の端面に対向するように、ステータ30の姿勢を調節する。
【0022】
発熱体13に電流を流すことにより、ステータ30を加熱する。加熱温度は、ステータ30の再結晶化温度以上とする。その後、コイル22に電流を流すことにより、磁心21、1つのティース31、バックヨーク32、及び隣のティース31からなる閉磁路に磁束35を発生させる。言い換えると、ティース31に動径方向の磁場を印加し、バックヨーク32に周方向の磁場を印加する。この状態で、ステータ30の温度を徐々に低下させる。温度が低下する過程で、ステータ30の各結晶粒の結晶方位のうち磁化容易軸の方向が、ステータ30に印加されている磁場の方向に揃う。
【0023】
次に、
図2A及び
図2Bを参照して、上記実施例による磁場中熱処理装置を用いて製造された回転機について説明する。
図2Aに、回転機の回転中心軸を含む断面図を示し、
図2Bに、回転中心軸に垂直な断面図を示す。
【0024】
回転機のステータ30が、円筒状のケース50の中に収容されている。ステータ30は、
図1A及び
図1Bに示した磁場中熱処理装置により磁化容易軸方向が揃えられたものである。このため、ステータ30のティース31の磁化容易軸が動径方向に揃い、バックヨーク32の磁化容易軸が周方向に揃っている。ここで、「磁化容易軸が動径方向に揃っている状態」は、全ての結晶粒の磁化容易軸が動径方向と平行であることを意味しているわけではない。磁化容易軸の方向には、ある程度のばらつきが許容される。複数の結晶粒の磁化容易軸の方向がランダムではなく、統計的に、磁化容易軸が動径方向を向いている結晶粒が多い場合に、磁化容易軸が動径方向に揃っているといえる。または、動径方向の透磁率が、他の方向の透磁率より高い場合に、磁化容易軸が動径方向に揃っているといえる。
【0025】
ステータ30は、焼き嵌めにより、ケース50内に固定される。
図2Aの断面図では、ティース31が配置されていない部分が示されており、ティース31の側面が現れている。ティース31の各々にコイル33(
図2B)が巻き付けられている。
【0026】
ロータ60がステータ30の内側に配置されている。ロータ60のコア63は、同一形状に型抜きされた多数の薄板状の電磁鋼板を積層して形成される。ロータ60のコア63には、中央に回転軸65を挿入するための円形の穴が形成されている。回転軸65は、締まり嵌めによってロータ60に固定される。
【0027】
ロータ60として、例えばかご型ロータが用いられる。かご型ロータは、コア63、複数の導体バー61、及び一対のエンドリング62を含む。導体バー61の各々は、回転軸65の軸方向と平行な方向に長く、周方向に等間隔に配置される。エンドリング62はロータ60の両端面に配置され、複数の導体バー61の端部に接続されて、導体バー61の間を短絡する。
【0028】
回転軸65は、一対の軸受66、67により、それぞれ端板68、69に対して回転可能に支持されている。端板68、69は、通しボルト51によって円筒状のケース50に固定されており、ケース50の両端を塞いでいる。回転軸65の一方の端部にファン70が取り付けられている。ファン70は、ファンカバー71で覆われている。
【0029】
回転機の動作時には、コイル33に交流電流を流して回転磁場を生じさせる。この回転磁場により、ロータ60が回転する。コイル33を流れる交流電流によって、ティース31に、動径方向の磁束が発生し、バックヨーク32に周方向の磁束が発生する。この磁束の向きは、ティース31及びバックヨーク32の磁化容易軸の向きに沿っている。このため、ステータ30の磁気特性が向上し、回転機の効率の向上が図られる。
【0030】
図2A及び
図2Bでは、回転機の例として誘導電動機を示したが、実施例による磁場中熱処理装置は、その他の回転機のステータの製造にも適用することができる。例えば、同期電動機、直流電動機、誘導発電機、同期発電機等のステータの製造に、実施例による磁場中熱処理装置を用いることができる。
【0031】
次に、
図3を参照して、他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図1A及び
図1Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0032】
図3に、本実施例による磁場中熱処理装置の縦断面図を示す。
図1A及び
図1Bに示した実施例では、磁場印加装置20が静止した状態で熱処理が行われる。
図3に示した実施例では、磁場印加装置20が、回転機構25によって、ステータ30の中心軸を回転中心として回転する。回転機構25の回転は制御装置40によって制御される。磁場印加装置20のコイル22には、直流電流が流される。
【0033】
本実施例では、磁場印加装置20を回転させながら、磁場中熱処理を行う。
図1A〜
図1Bに示した実施例では、磁場印加装置20の巻芯部と、ステータ30のティース31とを対応させたが、磁場印加装置20を回転させる場合には、磁場印加装置20の巻芯部と、ステータ30のティース31とを対応させる必要はない。例えば、巻芯部の個数をティース31の本数に一致させる必要はなく、巻芯部の個数を2個、3個、4個等としてもよい。
【0034】
次に、
図3に示した実施例の優れた効果について説明する。
図1A及び
図1Bに示した実施例では、熱処理時にステータ30(
図1A)に静磁場が印加される。ステータ30内で磁束密度に空間的なばらつきが生じている場合、熱処理の結果に、磁束密度のばらつきが反映される。
【0035】
これに対し、
図3に示した実施例では、磁場印加装置20の回転に伴って磁場も回転する。このため、磁束密度に空間的なばらつきある場合でも、このばらつきが時間的に平均化される。その結果、ステータ30内において、磁場中熱処理効果の空間的なばらつきを低減することができる。
【0036】
回転機(
図2A、
図2B)の動作時には、ステータ30によって回転磁場が形成される。熱処理時の回転磁場は、回転機の動作時における回転磁場と類似である。このため、回転機の動作中の磁場と同等の条件で、ステータ30の磁場中熱処理が行われることになる。これにより、ステータ30の磁化容易軸方向を、回転機の動作に適した方向とすることができる。
【0037】
次に、
図4を参照して、さらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図3に示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0038】
図4に、本実施例による磁場印加装置の縦断面図を示す。
図3に示した実施例では、回転機構25(
図3)が磁場印加装置20(
図3)を回転させる。これに対し、本実施例では、回転機構25が加熱炉10の内周断熱壁11B及び支持具15を回転させる。熱処理時に磁場印加装置20は静止している。内周断熱壁11Bを回転可能にするために、内周断熱壁11Bは、断熱性底板11C及び外周断熱壁11Aから分離されている。内周断熱壁11Bと断熱性底板11Cとの間に間隙が生じる。この間隙を通して、加熱炉10内の不活性ガスが排出される。
【0039】
図4に示した実施例においても、ステータ30に対して磁場が相対的に回転する。このため、
図3に示した実施例と同様の効果が得られる。
【0040】
次に、
図5A及び
図5Bを参照して、さらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図3に示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0041】
図5Aに、本実施例による磁場中熱処理装置の断面図を示す。
図3に示した実施例では、磁場印加装置20を機械的に回転させることによって回転磁場を形成した。
図5A及び
図5Bに示した実施例では、磁場印加装置20のコイル22に交流電流を流すことにより、回転磁場を形成する。
【0042】
図5Bに、回転機構25のブロック図及び磁場印加装置20の概略図を示す。磁心21の複数の巻芯部に、それぞれコイル22が巻かれている。回転機構25がインバータを含み、インバータから複数のコイル22に、それぞれ位相の異なる交流電流が供給される。各コイル22に流す電流の位相を調整することにより、ステータ30の中心軸を回転中心として回転する回転磁場を形成することができる。
【0043】
図5A〜
図5Bに示した実施例では、磁場印加装置20を機械的に回転させることなく、電気的に回転磁場を発生させることができる。
【0044】
次に、
図6A及び
図6Bを参照して、さらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図1A及び
図1Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0045】
図6Aに、本実施例による磁場中熱処理装置の縦断面図を示す。
図1A及び
図1Bに示した実施例では、磁場印加装置20が加熱炉10の外に配置されている。これに対し、
図6Aに示した実施例では、磁場印加装置20が加熱炉10の内部に収容されている。
【0046】
磁場印加装置20が加熱炉10の内部に収容されているため、磁場中熱処理時に磁場印加装置20の磁心21及びコイル22の温度も上昇する。コイル22の巻線は、一般に絶縁被膜で覆われている。絶縁被膜の耐熱温度は磁場中熱処理温度より低いため、本実施例による磁場中熱処理装置のコイル22には、絶縁被膜で覆われた巻線を用いることができない。
【0047】
図6Bに、磁場印加装置20の磁心21及びコイル22の部分側面図を示す。コイル22の巻線として、絶縁被覆で覆われていない導線が用いられる。巻線間の短絡を防止するために、コイル22の軸方向に隣り合う巻線同士が接触しないように、かつ動径方向に重ならないように、巻線が磁心21に巻かれている。コイル22の巻き数を1ターンのみとしてもよい。磁心21には、絶縁性磁性材料が用いられる。
【0048】
コイル22の巻線は、加熱炉10の壁面に取付けられた端子26を介して制御装置40に接続される。
【0049】
磁場印加装置20でステータ30に効率的に磁場を印加するために、磁心21に、熱処理温度において強磁性を維持する磁性材料を用いることが好ましい。例えば、磁心21として、ステータ30に用いられている磁性材料のキュリー温度よりも高いキュリー温度を持つ磁性材料を用いることが好ましい。
【0050】
以下、
図6A及び
図6Bに示した実施例の優れた効果について説明する。
図6A及び
図6Bに示した実施例においても、
図1A及び
図1Bに示した実施例と同様に、ティース31の磁化容易軸を動径方向に揃え、バックヨーク32の磁化容易軸を周方向に揃えることができる。
【0051】
図1A及び
図1Bに示した実施例では、磁場印加装置20の磁心21とステータ30のティース31との間に内周断熱壁11Bが配置されている。このため、磁心21とティース31との間隔を、内周断熱壁11Bの厚さより狭くすることができない。これに対し、
図6A及び
図6Bに示した実施例では、磁心21とティース31との間に断熱壁が配置されない。このため、磁心21とティース31とを、より近づけることができる。磁心21とティース31との間隙が狭くなることにより、磁路の磁気抵抗が小さくなる。その結果、ステータ30に、より効率的に磁場を印加することが可能になる。
【0052】
磁場印加装置20を加熱炉10の内部に収容した状態で、
図3に示した実施例のように磁場印加装置20を機械的に回転させて回転磁場を発生させてもよい。その他の構成として、
図4に示した実施例のように、支持具15及びステータ30を機械的に回転させてもよい。さらに、その他の構成として、
図5A及び
図5Bに示した実施例のように、磁場印加装置20によって発生する磁場を電気的に回転させてもよい。
【0053】
次に、
図7を参照して、さらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図5A及び
図5Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0054】
図7に、本実施例による磁場中熱処理装置の縦断面図を示す。磁場印加装置20のコイル22に、冷却流路45が熱的に結合している。冷却媒体供給装置46から冷却流路45に冷却用の不活性流体が供給される。冷却流路45を流れた不活性流体は、回収流路47を通ってガス導入口16まで輸送された後、加熱炉10内に導入される。不活性流体として、例えば液化窒素を用いることができる。この場合、コイル22を冷却することによって液化窒素が気化し、窒素ガスが加熱炉10内に導入される。
【0055】
図7に示した実施例においては、冷却用の不活性流体でコイル22を冷却することができるため、コイル22の過度の温度上昇を回避することができる。さらに、冷却用の不活性流体は、コイル22を冷却した後、加熱炉10内に導入される。このため、冷却用の不活性流体をより有効に利用することができる。
【0056】
本実施例では、
図3に示した実施例による磁場中熱処理装置のコイル22に冷却流路45を熱的に結合させたが、その他の構成として、
図4に示した実施例による磁場中熱処理装置のコイル22に冷却流路45を熱的に結合させてもよい。
【0057】
次に、
図8A及び
図8Bを参照して、さらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図1A及び
図1Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
図1A及び
図1Bに示した実施例では、磁場印加装置20の磁心21がステータ30の内側に配置されているが、
図8A及び
図8Bに示した実施例では、磁場印加装置20の磁心21がステータ30の外側に配置されている。
【0058】
図8A及び
図8Bに、それぞれ本実施例による磁場中熱処理装置の平断面図及び縦断面図を示す。加熱炉10は、外周断熱壁11A、断熱性底板11C、及び蓋11Dを含む。本実施例の加熱炉10には、
図1A及び
図1Bに示した内周断熱壁11Bが設けられていない。
【0059】
磁場印加装置20は、磁場発生装置28と補助ヨーク34とを含む。磁場発生装置28は、磁心21及びコイル22を含む。磁心21は、環状部分21Aと複数の巻芯部21Bとで構成される。磁心21及び補助ヨーク34は、加熱炉10内に収容されている。環状部分21Aは、支持具15に支持されたステータ30を取り囲む。巻芯部21Bの各々は、環状部分21Aからその中心軸に向かって突出している。巻芯部21Bの先端は、ステータ30の外側の表面に対向し、巻芯部21Bの先端とステータ30との間に、間隙が形成される。巻芯部21Bは、平面視において、ティース31を外側に向かって延長した延長線上に配置されている。巻芯部21Bの各々にコイル22が巻かれている。
【0060】
補助ヨーク34は、複数のティース31の先端の表面によって囲まれた領域に配置されており、ティース31の先端の表面に対向する。補助ヨーク34の形状は、例えば円柱状である。複数のティース31の先端の表面と補助ヨーク34との間に、間隙が形成される。補助ヨーク34は磁性材料で形成されており、補助ヨーク34内に、複数のティース31内に形成される動径方向の磁路同士を接続する磁路が形成される。
【0061】
本実施例では、コイル22が加熱炉10内に収容されるため、
図6A及び
図6Bに示した実施例と同様に、コイル22の巻線として、絶縁被覆で覆われていない導線が用いられる。
【0062】
コイル22に電流が流れると、当該コイル22が巻かれている巻芯部21B、磁心21の環状部分21A、隣の巻芯部21B、及びステータ30のバックヨーク32を通る閉磁路に磁束36が発生するとともに、当該コイル22が巻かれている巻芯部21B、磁心21の環状部分21A、隣の巻芯部21B、隣の巻芯部21Bに対応するティース31、補助ヨーク34、及び当該コイル22が巻かれている巻芯部21Bに対応するティース31を通る閉磁路に磁束37が発生する。
【0063】
このように、
図8A及び
図8Bに示した実施例においても、ステータ30のティース31に動径方向の磁場を印加し、バックヨーク32に周方向の磁場を印加することができる。
【0064】
図8A及び
図8Bに示した実施例において、
図3に示した実施例と同様に、磁心21を機械的に回転させてもよいし、
図4に示した実施例と同様に、ステータ30を回転させてもよいし、
図5A及び
図5Bに示した実施例と同様に、回転磁場を形成してもよい。
【0065】
図8Aでは、補助ヨーク34の形状が円柱状である例を示したが、その他の形状としてもよい。例えば、補助ヨーク34の平断面を、中心軸から各ティース31に向かって放射状に広がる形状としてもよい。
【0066】
次に、
図9A及び
図9Bを参照して、さらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図8A及び
図8Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0067】
図9A及び
図9Bに、それぞれ本実施例による磁場中熱処理装置の平断面図及び縦断面図を示す。
図8A及び
図8Bに示した実施例では、磁場発生装置28が加熱炉10の中に収容されている。これに対し、本実施例では、磁場発生装置28が加熱炉10の外に配置されている。このため、磁心21の巻芯部21Bとステータ30との間に、加熱炉10の外周断熱壁11Aが配置される。
【0068】
本実施例では、
図9A及び
図9Bに示した実施例と比べて、磁心21の巻芯部21Bとステータ30との間の間隙が広がってしまう。このため、磁束36、37が通っている磁路の磁気抵抗が増加してしまう。ただし、巻芯部21Bに巻かれているコイル22の温度上昇が抑制されるため、コイル22の巻線に、絶縁被覆で覆われた導線を用いることができる。このため、コイル22の巻き数を増やし、起磁力を高めることができる。
【0069】
次に、
図10を参照してさらに他の実施例による磁場中熱処理装置について説明する。以下、
図8A及び
図8Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
【0070】
図10に、本実施例による磁場中熱処理装置の磁場印加装置20、及び熱処理対象のステータ30の平断面図を示す。
図8A及び
図8Bに示した実施例による磁場印加装置20の補助ヨーク34は、複数の磁性部材38で構成される。1つの磁性部材38は、相互に隣り合う2つのティース31の先端の表面に対向し、両者の間に磁路を形成する。この磁路に、磁束37が発生する。各磁性部材38の平断面の形状は、例えば円弧状である。
【0071】
図8A及び
図8Bに示した実施例では、1つのティース31内の磁路は、補助ヨーク34を介して、その両側のティース31内の磁路に連続している。これに対し、本実施例では、1つのティース31内の磁路は、一方の側のティース31内の磁路のみに連続する。本実施例においても、各ティース31内を動径方向に通過する閉磁路が形成される。このため、磁場印加装置20は、ティース31に動径方向の磁場を印加することができる。
【0072】
図10に示した実施例の補助ヨーク34は、
図9A及び
図9Bに示した実施例において、円柱状の補助ヨーク34を代替することも可能である。
【0073】
次に、
図11を参照して、さらに他の実施例について説明する。以下、
図8A及び
図8Bに示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。
図8A及び
図8Bでは、かご型電動機のステータが磁場中で熱処理される。本実施例では、かご型電動機のロータが磁場中で熱処理される。
【0074】
図11に、本実施例による磁場中熱処理装置の磁場印加装置20、及び熱処理対象であるロータ60(
図2A、
図2B)のコア63の平断面図を示す。コア63は、円柱状の外形を有し、複数のスロット64が設けられている。スロット64は、周方向に等間隔に並んでいる。コア63の中心には、回転軸65(
図2A)が挿入される円形の穴が設けられている。複数のスロット64の中に、それぞれ導体バー61が配置される。磁場中熱処理を行う段階では、スロット64の中に導体バー61は配置されていない。
【0075】
コア63を取り囲むように、磁場印加装置20が配置されている。磁場印加装置20は、
図8Aに示した実施例による磁場印加装置20と同様に、磁心21とコイル22とを含む。磁心21は、環状部分21Aと巻芯部21Bとで構成される。
【0076】
コイル22に電流を流すと、巻芯部21B、環状部分21A、コア63のうち相互に隣り合うスロット64の間の部分、及びスロット64よりも内周側の部分を含む閉磁路に磁束80が発生し、巻芯部21B、環状部分21A、コア63のうちスロット64よりも外周側の部分を含む閉磁路に磁束81が発生する。
【0077】
磁束80、81が発生している状態で熱処理を行うことにより、相互に隣り合うスロット64の間の部分の結晶の磁化容易軸を、動径方向に揃えることができる。回転機の動作時には、相互に隣り合うスロット64の間の部分に動径方向の磁束が発生する。磁化容易軸方向が、回転機の動作時に発生する磁束の方向とほぼ平行であるため、回転機の効率の向上を図ることができる。
【0078】
図11に示した実施例では、コア63に対して外部磁場が静止した状態で磁場中熱処理が行われる。その他の構成として、コア63に対して回転磁場を印加して磁場中熱処理を行ってもよい。回転磁場を発生する構造として、例えば
図3に示した実施例、
図4に示した実施例、または
図5A、
図5Bに示した実施例の構造を適用することができる。
【0079】
次に、
図12及び
図13を参照して、さらに他の実施例について説明する。以下、
図11に示した実施例との相違点について説明し、共通の構成については説明を省略する。本実施例では、アウターロータ型回転機のステータの磁場中熱処理を行う。
【0080】
図12に、一般的なアウターロータ型回転機の回転軸に垂直な断面図を示す。ステータ90の外側に、円環状のアウターロータ95が配置されている。ステータ90は、円盤状の中心部91、及び中心部91から動径方向に伸びる複数のティース92を含む。ティース92に、それぞれコイル93が巻き付けられている。
【0081】
アウターロータ95は円環状の永久磁石であり、動径方向及び周方向の2方向に着磁されている。アウターロータ95の内周面に、周方向にS極とN極とが交互に並び、外周面にも、周方向にS極とN極とが交互に並ぶ。コイル93に電流を流して回転磁場を発生させることにより、アウターロータ95に回転力(トルク)を与えることができる。
【0082】
図13に、本実施例による磁場中熱処理装置の磁場印加装置20、及び熱処理対象であるステータ90の平断面図を示す。ステータ90を取り囲むように、磁場印加装置20が配置されている。磁場印加装置20は、
図11に示した実施例の磁場印加装置20と同様の平断面形状を持ち、環状部分21Aと巻芯部21Bとで構成される。巻芯部21Bに巻かれたコイル22に電流を流すと、巻芯部21B、環状部分21A、ステータ90のティース92、中心部91を通る閉磁路に、磁束96が発生する。
【0083】
磁束96が発生した状態でステータ90の熱処理を行うことにより、ステータ90のティース92の結晶の磁化容易軸を、動径方向に揃えることができる。アウターロータ型回転機においても、動作中にティース92に動径方向の磁束が発生する。磁束の向きと磁化容易軸の向きとが揃っているため、アウターロータ型回転機の効率の向上を図ることができる。
【0084】
上述のように、回転機のステータ及びロータ、アウターロータ型回転機のステータ等に、動径方向の磁場を印加した状態で熱処理を行うことにより、回転機の効率を高めることができる。
【0085】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。