特許第6976059号(P6976059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976059
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/26 20060101AFI20211118BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/40 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 8/89 20060101ALI20211118BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   A61K8/26
   A61K8/35
   A61K8/37
   A61K8/40
   A61K8/41
   A61K8/46
   A61K8/49
   A61K8/89
   A61Q17/04
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-555218(P2016-555218)
(86)(22)【出願日】2015年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2015079510
(87)【国際公開番号】WO2016063847
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2018年9月14日
【審判番号】不服2020-7907(P2020-7907/J1)
【審判請求日】2020年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-214564(P2014-214564)
(32)【優先日】2014年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】楯 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】木村 駿
【合議体】
【審判長】 岡崎 美穂
【審判官】 冨永 みどり
【審判官】 大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−005256(JP,A)
【文献】 特開2011−236202(JP,A)
【文献】 井上幸司ら,マンガンドープカルシウムアルミネイト系赤色蛍光体の合成と評価,三重県工業研究所研究報告,日本,2011年,No.35,URL,http://www.mpstpc.pref.mie.lg.jp/KOU/kenhou/h22/22a01.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)紫外線吸収剤、及び
(b)無機蛍光体
を含有する皮膚外用組成物であって、
(a)紫外線吸収剤が、B波(UV−B)吸収剤である、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、メトキシケイ皮酸イソプロピル、メトキシケイ皮酸オクチル、パラ−アミノ安息香酸、エチルPABA、エチル−ジヒドロキシプロピルPABA、エチルヘキシル−ジメチルPABA、ホモサラート、エチルヘキシルサリチラート、3−ベンジリデンショウノウ、4−メチルベンジリデンショウノウ、ベンジリデンショウノウスルホン酸、メト硫酸ショウノウベンザルコニウム、ポリアクリルアミドメチルベンジリデンショウノウ、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、オクチルトリアゾン、フェニルジベンゾイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム、ベンザルマロナート官能基を有するポリオルガノシロキサン;A波(UV−A)吸収剤である、4−tert−ブチル−4−メトキシベンゾイルメタン、2−[4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[4,6−bis(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−[(オクチル)オキシ]−フェノール、ジメトキシベンジリデンオキソイミダゾリジンプロピオン酸2−エチルヘキシル;AB波吸収剤である、6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、2―ヒドロキシ―4―メトキシベンゾフェノン、2,4−ビス−〔{4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ}−フェニル〕−ドロメトリゾールトリシロキサン、2,2’―メチレンビス[6―(2H―ベンゾトリアゾール―2―イル)―4―(1,1,3,3―テトラメチルブチル)フェノール]及びオクトクリレンからなる群より選択される少なくとも1種の紫外線吸収剤であり、
(b)無機蛍光体が、賦活剤としてマンガンを含む無機蛍光体であり、下記式(1);
CaAl(2X+3Y+4Z)/2:Mn4+・・・(1)
(式中、0.1<X<1.05であり、11.9<Y≦12であり、0.0005<Z<0.1である。)
で表されることを特徴とする
皮膚外用組成物。
【請求項2】
(a)紫外線吸収剤が、UVBを吸収する紫外線吸収剤を少なくとも1種含む、請求項1記載の皮膚外用組成物。
【請求項3】
(a)紫外線吸収剤が、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルを含む、請求項1又は2記載の皮膚外用組成物。
【請求項4】
(a)紫外線吸収剤が、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル及び2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステルを含む、請求項1〜のいずれか1項記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
(b)無機蛍光体の含有量が、皮膚外用組成物全体に対して0.1〜10質量%である、請求項1〜のいずれか1項記載の皮膚外用組成物。
【請求項6】
日焼け止め組成物である、請求項1〜のいずれか1項記載の皮膚外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光、人工光等の特に紫外領域(200〜400nm)の光線(紫外線)が皮膚を侵すことにより日焼けが起きる。日焼けは、紅班、水泡、火傷といった皮膚障害、ひいては皮膚癌の原因になるといわれている。
【0003】
この紫外線は、その波長領域により、UV−A(A波紫外線;320〜400nm)、UV−B(B波紫外線;280〜320nm)、及びUV−C(C波紫外線;200〜280nm)に分類される。このうち、UV−Cは地表に達するまでにオゾン層によってほとんど吸収されてしまうため、地上に届く紫外線の大部分は、UV−AとUV−Bである。UV−A及びUV−Bは、人の皮膚に対して様々な影響を及ぼすが、最も顕著に現れるのが日焼け現象である。UV−Bによる日焼けは、サンバーンと呼ばれ、主として皮膚に紅班や水泡を形成するなどの炎症症状を引き起こし、UV−Aによる日焼けは、サンタンと呼ばれ、皮膚の褐色化を生じ、皮膚の弾力性の低下およびシワの発生を促して急激な老化現象をもたらす。また、UV−Aは紅班反応の開始を促進することが知られているが、ある種の患者に対してはこの紅班反応を増強することがあり、これによって光毒性あるいは光アレルギー反応を引き起こすことがある。
【0004】
このような紫外線による有害作用を防止するために、紫外線吸収剤が配合された日焼け止めクリームなどの化粧料が市販されている。紫外線による害を避けるためには、目的に応じた紫外線吸収剤を適切に選んで使用することが有効であり、従来の化粧料には、UV−A吸収剤とUV−B吸収剤とが適宜選択されて配合されている。近年、より高い紫外線吸収性能を有する化粧料等が望まれており、かかる事情に鑑み、本願出願人も、紫外線吸収能が増強された皮膚外用組成物を提案している(特許文献1)。かかる情況の中、紫外線吸収能を更に増強することができる皮膚外用組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−91741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、紫外線吸収能が増強された新規の皮膚外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、皮膚外用組成物において紫外線吸収剤に更に無機蛍光体を配合することにより、紫外線吸収能を顕著に増強できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
<1>(a)紫外線吸収剤、及び
(b)無機蛍光体
を含有する、皮膚外用組成物。
<2>(a)紫外線吸収剤が、UVBを吸収する紫外線吸収剤を少なくとも1種含む、<1>記載の皮膚外用組成物。
<3>(a)紫外線吸収剤が、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、メトキシケイ皮酸イソプロピル、メトキシケイ皮酸オクチル、パラ−アミノ安息香酸、エチルPABA、エチル−ジヒドロキシプロピルPABA、エチルヘキシル−ジメチルPABA、ホモサラート、エチルヘキシルサリチラート、3−ベンジリデンショウノウ、4−メチルベンジリデンショウノウ、ベンジリデンショウノウスルホン酸、メト硫酸ショウノウベンザルコニウム、ポリアクリルアミドメチルベンジリデンショウノウ、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、オクチルトリアゾン、フェニルジベンゾイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム、ベンザルマロナート官能基を有するポリオルガノシロキサン、4−tert−ブチル−4−メトキシベンゾイルメタン、2−[4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[4,6−bis(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−[(オクチル)オキシ]−フェノール、ジメトキシベンジリデンオキソイミダゾリジンプロピオン酸2−エチルヘキシル、6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、2―ヒドロキシ―4―メトキシベンゾフェノン、2,4−ビス−〔{4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ}−フェニル〕−ドロメトリゾールトリシロキサン、2,2’―メチレンビス[6―(2H―ベンゾトリアゾール―2―イル)―4―(1,1,3,3―テトラメチルブチル)フェノール]及びオクトクリレンからなる群より選択される少なくとも1種の紫外線吸収剤である、<1>又は<2>記載の皮膚外用組成物。
<4>(b)無機蛍光体が、アルミン酸塩蛍光体である、<1>〜<3>のいずれか記載の皮膚外用組成物。
<5>上記アルミン酸塩蛍光体が、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体である、<4>記載の皮膚外用組成物。
<6>上記アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体が、アルミン酸カルシウムマンガンである、<5>記載の皮膚外用組成物。
<7>上記アルミン酸カルシウムマンガンが、下記式(1);
CaAl(2X+3Y+4Z)/2:Mn4+・・・(1)
(式中、0.1<X<1.05であり、11.9<Y≦12であり、0.0005<Z<0.1である。)
で表される、<6>記載の皮膚外用組成物。
<8>(a)紫外線吸収剤が、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルを含む、<1>〜<7>のいずれか記載の皮膚外用組成物。
<9>(a)紫外線吸収剤が、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル及び2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステルを含む、<1>〜<8>のいずれか記載の皮膚外用組成物。
<10>(b)無機蛍光体の含有量が、皮膚外用組成物全体に対して0.1〜10質量%である、<1>〜<9>のいずれか記載の皮膚外用組成物。
<11>日焼け止め組成物である、<1>〜<10>のいずれか記載の皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紫外線吸収能が更に増強された新規の皮膚外用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の皮膚外用組成物の紫外線吸収能を示す図である。
図2】本発明の実施形態の皮膚外用組成物の紫外線吸収能を示す図である。
図3】本発明の実施形態の皮膚外用組成物の紫外線吸収能を示す図である。
図4】本発明の実施形態の皮膚外用組成物の紫外線吸収能を示す図である。
図5】本発明の実施形態の皮膚外用組成物の紫外線吸収能を示す図である。
図6】赤色光照射による血管拡張因子の遺伝子発現促進効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
[皮膚外用組成物]
本発明の皮膚外用組成物は、(a)紫外線吸収剤、及び(b)無機蛍光体を含有する。また、本発明の皮膚外用組成物は、これら必須成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有してもよい。以下、これら各成分について説明する。
【0014】
<(a)紫外線吸収剤>
(a)紫外線吸収剤は、本発明の皮膚外用組成物に紫外線吸収効果を与える化合物である。
【0015】
(a)紫外線吸収剤としては、B波(UV−B)吸収剤である、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、メトキシケイ皮酸イソプロピル、メトキシケイ皮酸オクチル、パラ−アミノ安息香酸、エチルPABA、エチル−ジヒドロキシプロピルPABA、エチルヘキシル−ジメチルPABA、ホモサラート、エチルヘキシルサリチラート、3−ベンジリデンショウノウ、4−メチルベンジリデンショウノウ、ベンジリデンショウノウスルホン酸、メト硫酸ショウノウベンザルコニウム、ポリアクリルアミドメチルベンジリデンショウノウ、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、オクチルトリアゾン、フェニルジベンゾイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム、ベンザルマロナート官能基を有するポリオルガノシロキサン等;A波(UV−A)吸収剤である、4−tert−ブチル−4−メトキシベンゾイルメタン、2−[4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[4,6−bis(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−[(オクチル)オキシ]−フェノール、ジメトキシベンジリデンオキソイミダゾリジンプロピオン酸2−エチルヘキシル等;AB波吸収剤である、6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、2―ヒドロキシ―4―メトキシベンゾフェノン、2,4−ビス−〔{4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ}−フェニル〕−ドロメトリゾールトリシロキサン、2,2’―メチレンビス[6―(2H―ベンゾトリアゾール―2―イル)―4―(1,1,3,3―テトラメチルブチル)フェノール]、オクトクリレン等が挙げられる。なお、(a)紫外線吸収剤としては、上記の紫外線吸収剤を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0016】
これらのうち、本発明の皮膚外用組成物が含有する紫外線吸収剤としては、(b)無機蛍光体による紫外線吸収能の増強効果が得られ易いという観点から、B波(UV−B)吸収剤(UVBを吸収する紫外線吸収剤)を少なくとも1種含むことが好ましく、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルがより好ましい。パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルと、2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステル又は6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジンとを組み合わせて配合することも好ましい。
【0017】
紫外線吸収成分を配合する場合、その使用量は、皮膚への使用感や効果を考慮して適宜選択できるが、本発明の皮膚外用組成物の全体に対して、例えば0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜15質量%である。
【0018】
<(b)無機蛍光体>
本発明の皮膚外用組成物は、(b)無機蛍光体を含有することで、(a)紫外線吸収剤による紫外線吸収効果を著しく増強することができる。
【0019】
(b)無機蛍光体は、母体と賦活剤とからなる賦活型蛍光体が好ましく、母体としては、金属酸化物、金属硫化物、金属硫酸化物又はハロリン酸化合物等が用いられ、賦活剤としては、マンガン、ユーロピウム、セリウム、プラセオジム、ランタン、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、鉄、亜鉛などが用いられる。
【0020】
(b)無機蛍光体としては、CaAl1219:Mn4+、CaAl1219:Cr3+、CaAl:Eu3+、Ca(PO:Mn、NaCl:Mn、MgTiO:Mn、MnClなどの赤色蛍光体、CaAl:Eu2+、Ca12Al1433:Ce3+などの青色蛍光体を挙げられ、本発明の皮膚外用組成物の紫外線吸収効果を増強する観点から、アルミン酸塩蛍光体が好ましく、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体がより好ましい。
【0021】
(b)無機蛍光体としては、マンガン又はユーロピウムを賦活したアルミン酸カルシウムが更に好ましく、
下記式(1);
CaAl(2X+3Y+4Z)/2:Mn4+・・・(1)
で表されるマンガンを賦活したアルミン酸カルシウムマンガンが特に好ましい。
【0022】
式中、0.1<X<1.05であり、11.9<Y≦12であり、0.0005<Z<0.1である。
【0023】
上記式(1)で表される化合物は、CaAl(2X+3Y+4Z)/2で表される化合物にMn4+をドープした化合物である。CaAl1219:Mn4+は、1971年に開発された赤色蛍光体である(例えば、A.Bergstein et al, "Manganese-Activated Luminescence in Sr Al12 O19 and Ca Al12O19" J. Electrochem. Soc., 118, p116(1971)を参照))。Mn4+は、CaAl1219の八面体サイトを置換することで657nm付近の赤色発光を示すと報告されている。この赤色蛍光体は、近年、白色LED用赤色蛍光体として研究開発が行われているものの、皮膚外用組成物に配合するための検討は一切行われていない。
【0024】
本発明者らは、上記赤色蛍光体が皮膚外用組成物の素材として用いられた場合に、人間の健康に悪影響を及ぼすことのない安全な素材であり、更に安全性も高く、(a)紫外線吸収剤の紫外線吸収効果を顕著に増強させる効果を奏することを見出した。加えて、紫外線を受けることで赤色発光を示すため、本発明の皮膚外用組成物を使用することで、日焼け止め効果を得られるばかりでなく、肌の発色も良好となり、更には、発する赤色光が血管拡張因子の遺伝子発現を増加させ、皮膚の血流改善や顔色を良くする効果が期待できる。
【0025】
上記式(1)におけるX、Y、Zは、上記本発明の効果に優れるという観点から、Xは、0.9を超えるものであること、1.0未満であることがより好ましい。Zは、0.001を超えるものであること、0.05未満であることがより好ましい。
【0026】
(b)無機蛍光体の粒子径は1μm〜100μmであることが好ましく、1〜50μmが更に好ましく、1〜20μmが特に好ましい。粒子径をこの範囲とすることで、本発明の皮膚外用組成物の使用感を優れたものとすることができる。当該粒子径は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM840F)にて1,000倍の画像より画像中の任意の250個の粒子について測定した値の平均値である。なお、粒子径は、粒子の長径を基準として測定した値である。
【0027】
(b)無機蛍光体は、肌の発色も良好とすることに加えて、発する赤色光が血管拡張因子の遺伝子発現を増加させ、皮膚の血流改善や顔色を良くする効果が期待できることから、600〜750nmの領域に主波長を有する無機蛍光体であることが好ましい。
【0028】
(b)無機蛍光体の製造方法は、特に限定されないが、例えば原料であるアルカリ土類金属等の化合物、アルミニウム源化合物、ドープされたイオンに対応する化合物(例えばマンガン源化合物)を目的とする化合物のモル比に応じた割合で混合して前駆体を作成した後、焼成することによって得ることができる。
【0029】
これらの原料化合物の混合方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、原料化合物を水性ディスパーションとし、攪拌もしくは湿式メディアミルを用いて粉砕しながら混合した後に全量を蒸発乾燥する方法、ヘンシェルミキサー、タンブラー等の一般的な混合装置、ハンマーミルや高圧エアージェットミル、あるいはこれらを組み合わせたものを用いて乾式で混合する方法等が挙げられる。
【0030】
焼成する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えばセラミックス製坩堝を用いて焼成する方法でもよく、ロータリーキルンを用いて回転させながら焼成する方法でもよい。
【0031】
(b)無機蛍光体は、そのまま皮膚外用組成物に配合することもできるが、必要に応じて、従来公知の方法により様々な表面処理を施してから配合してもよい。
【0032】
また、これらの表面処理は、1種でもよく、数種類を積層又は混合処理してもよい。
【0033】
本発明の皮膚外用組成物は、(b)無機蛍光体を0.1〜15質量%の割合で含有することが好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。また、(a)紫外線吸収剤と(b)無機蛍光体の配合比(質量比)は、100:1〜1:100が好ましく、10:1〜1:10が更に好ましい。本発明の皮膚外用組成物は、上記割合で(b)無機蛍光体を含有することで、紫外線吸収能をより向上させることができる。
【0034】
<その他の成分>
本発明の皮膚外用組成物は、上記必須成分に加えて、種々の目的に応じて、(b)無機蛍光体以外の無機粒子、油分、親油性非イオン界面活性剤、親水性非イオン界面活性剤、その他の界面活性剤、金属イオン封鎖剤、天然の水溶性高分子、半合成の水溶性高分子、合成の水溶性高分子、無機の水溶性高分子、各種の抽出液、各種粉体、保湿成分、多価アルコール、スクラブ剤、紫外線散乱成分、収斂成分、ペプチド又はその誘導体、アミノ酸又はその誘導体、洗浄成分、角質柔軟成分、細胞賦活化成分、老化防止成分、血行促進作用成分、美白成分、DNAの損傷の予防及び/又は修復作用を有する成分、抗炎症成分、抗酸化成分、ビタミン類、皮脂吸着成分、抗菌成分等のその他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。本発明の皮膚外用組成物において、これらの成分は、1種又は2種以上組み合わせて配合してもよい。なお、これらの各成分としては、医薬品、医薬部外品、化粧品分野等において使用され得るものであれば特に制限されず、任意のものを適宜選択し使用することができる。
【0035】
<皮膚外用組成物の製造方法>
本発明の皮膚外用組成物の製造方法は特に制限されず、必須成分である(a)紫外線吸収剤及び(b)無機蛍光体、並びにその他の成分等から適宜選択した成分を、配合して、常法により、混合して製造することができる。
【0036】
本発明の皮膚外用組成物の用途は特に限定されないが、例えば、化粧水、保湿液、乳液、美容液、パック、ハンドクリーム、ボディローション、ボディークリームのような基礎化粧料;洗顔料、メイク落とし、ボディーシャンプーのような洗浄用化粧料;ファンデーション、化粧下地のようなメークアップ化粧料(上記基礎化粧料、洗浄用化粧料、メークアップ化粧料においては、日焼け止め機能(UVカット機能)を備えていることを明示していてもよいし、明示していなくてもよい);日焼け止め化粧料等に用いることができる。また、これら製剤の機能を1つの製剤にまとめた多機能型製剤も挙げられる。これらの製剤は常法に従い製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各表中の数値の単位は、特に断りがない限り質量%である。
【0038】
[皮膚外用組成物の調製]
(1)アルミン酸塩蛍光体(アルミン酸カルシウムマンガン)、チタン酸塩蛍光体(チタン酸マグネシウムマンガン)を含む無機粒子の製造
炭酸カルシウム(堺化学工業製CWS−20)4.97g、炭酸マンガン(中央電気製0.06g)、酸化アルミニウム(住友化学工業製RA−50)32.0g及びフラックス成分としてフッ化カルシウム(和光一級試薬)0.18gと、フッ化マグネシウム(和光特級試薬)70.15gを、水中に入れて遊星ボールミルを用いて250rpmで30分間かけて十分に混合した。混合スラリーを130℃にて蒸発乾燥させて得られた固形物を乳鉢で解砕して焼成前駆粉末を得た。次いで、その焼成前駆体をアルミナ製坩堝に15g充填して、大気雰囲気中で200℃/時で1600℃まで昇温し、そのまま3時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。得られた焼成物を、乳鉢で解砕してアルミン酸塩蛍光体を含む無機粒子を製造した。また、チタン酸塩蛍光体(チタン酸マグネシウムマンガン)は、上記アルミン酸塩蛍光体の製造方法に準じる方法にて製造した。
【0039】
(2)皮膚外用組成物の調製
下記の表1〜5に記載の処方に従い、常法にて、実施例1〜6及び比較例1〜7の皮膚外用組成物を調製した。各皮膚外用組成物について下記試験を行い、評価した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
<紫外線吸収能試験>
各皮膚外用組成物を、PMMA板に1.3mg/cmになるように均一に塗布し、15分間乾燥させた後に、紫外可視分光光度計V−650(日本分光製)でUVスペクトルを測定した。表1に対応する結果を図1に、表2に対応する結果を図2に、表3に対応する結果を図3に、表4に対応する結果を図4に、表5に対応する結果を図5に示す。
【0046】
紫外線吸収剤(UV−B)であるパラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル及びアルミン酸塩蛍光体(アルミン酸カルシウムマンガン)を含む実施例1の皮膚外用組成物は、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルのみを含む比較例1の皮膚外用組成物と比較して、紫外線吸収能が顕著に増強していることがわかった。なお、アルミン酸塩蛍光体のみでは紫外線吸収能は殆ど認められなかった(比較例2)。また、紫外線吸収剤(UV−A)である2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステルを含む実施例2の皮膚外用組成物は、アルミン酸塩蛍光体(アルミン酸カルシウムマンガン)を配合すると、2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステルのみを含む比較例3の皮膚外用組成物と比較して、紫外線吸収能の増強が見られた。一方、紫外線吸収剤(UV−A,B)としての2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステルとパラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルの混合液並びにアルミン酸塩蛍光体(アルミン酸カルシウムマンガン)を含む実施例3の皮膚外用組成物は、2−〔4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル〕安息香酸へキシルエステルとパラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルの混合液のみを含む比較例4の皮膚外用組成物と比較して、紫外線吸収能が顕著に増強していることがわかった。さらに、紫外線吸収剤(UV−B)であるパラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルと組み合わせるアルミン酸塩蛍光体をチタン酸マグネシウムマンガンとした実施例4の皮膚外用組成物においても、チタン酸マグネシウムマンガンを含まない比較例5の皮膚外用組成物と比較して、紫外線吸収能が顕著に増強していることがわかった(図4)。また、紫外線吸収剤(UV−AB)である6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン及びアルミン酸塩蛍光体(アルミン酸カルシウムマンガン)を含む実施例5の皮膚外用組成物は、6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジンのみを含む比較例6の皮膚外用組成物と比較して、紫外線吸収能が顕著に増強していることがわかった。さらに、紫外線吸収剤(UV−A)である4−tert−ブチル−4−メトキシベンゾイルメタン及びアルミン酸塩蛍光体(アルミン酸カルシウムマンガン)を含む実施例6の皮膚外用組成物は、4−tert−ブチル−4−メトキシベンゾイルメタンのみを含む比較例7の皮膚外用組成物と比較して、紫外線吸収能が顕著に増強していることがわかった。
【0047】
<血管拡張因子の遺伝子発現量の測定>
アルミン酸カルシウムマンガンは、紫外線(励起波長:365nm)を受けると赤色光(波長:660nm)を発光する。正常ヒト血管内皮細胞に0〜1.32J/cmの照射強度にて赤色光を照射した。照射後24時間の時点での血管拡張因子である血管内皮型一酸化窒素合成酵素(NOS3)の遺伝子発現をqRT−PCR法により確認した。未照射条件の発現量を1として比較した。なお、各条件につき、n=3で実施した。結果を図4に示す。
【0048】
図6に示すとおり、赤色光の照射により、照射強度依存的に血管内皮細胞における血管拡張因子の遺伝子発現量が増加することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6