特許第6976062号(P6976062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976062
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 11/02 20060101AFI20211118BHJP
   B65H 5/02 20060101ALI20211118BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   B41J11/02
   B65H5/02 S
   G03G15/20 510
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-25955(P2017-25955)
(22)【出願日】2017年2月15日
(65)【公開番号】特開2018-130885(P2018-130885A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 敏弘
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−191652(JP,A)
【文献】 特開2007−057784(JP,A)
【文献】 特開2005−154317(JP,A)
【文献】 特開2016−160008(JP,A)
【文献】 特開昭59−065861(JP,A)
【文献】 特開平4−312865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 11/00
B65H 5/00
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ベルトにより印刷用紙を搬送する画像形成装置において、
前記搬送ベルトと該搬送ベルトに沿った補助板とにそれぞれ密着する流体が前記搬送ベルト及び前記補助板の間に配置され、
前記補助板は、前記搬送ベルトの前記印刷用紙にインク液滴を吐出して画像を形成するノズルヘッドに所定間隔をおいて対向配置されたプラテンプレートであり、
前記流体は、23°Cにおける粘度が200mPas以下の潤滑剤である、
画像形成装置。
【請求項2】
前記潤滑剤の23°Cにおける粘度が40mPas以下である請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記流体は、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含んでいる請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項4】
搬送ベルトにより印刷用紙を搬送する画像形成装置において、
前記搬送ベルトと該搬送ベルトに沿った補助板とにそれぞれ密着する流体が前記搬送ベルト及び前記補助板の間に配置され、
前記補助板は、前記搬送ベルトの前記印刷用紙にインク液滴を吐出して画像を形成するノズルヘッドに所定間隔をおいて対向配置されたプラテンプレートであり、
記流体は、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含んでいる、
像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷部に対する印刷用紙の給排紙工程や印刷部における印刷工程等において搬送ベルトにより印刷用紙を搬送する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インクジェットプリンタにおいては、給紙トレイから給紙された印刷用紙が、駆動ローラ及び従動ローラ間に架け渡された無端の搬送ベルトによって搬送される。そして、搬送ベルトに対向配置されたインクジェットヘッドのノズルから吐出されたインクによって、搬送中の印刷用紙に画像が形成(印刷)される。
【0003】
搬送ベルトのインクジェットヘッドに対向する部分の裏側には、平板状のプラテンプレートが搬送ベルトの裏面に近接させて配置される。このプラテンプレートの存在により、搬送ベルトのインクジェットヘッドに対向する部分の印刷用紙を平らに保持することができ、また、インクジェットヘッドとのヘッドギャップを所定の間隔に保つことができる。
【0004】
ところで、搬送ベルトとプラテンプレートとが、両者間の隙間に侵入した異物等により摺接すると、搬送ベルトの摩耗が進んだり、プラテンプレートとの摺動抵抗により搬送ベルトの搬送速度が正規の速度よりも低下したり、駆動ローラの駆動源(モータ等)に過大な負荷が掛かることが懸念される。
【0005】
そこで、搬送ベルトとプラテンプレートとの摺動抵抗を減少させるために、両者間の隙間を利用してプラテンの表面をクリーニングすることが、過去に提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−42628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した過去の提案をさらに改良するものであり、本発明の目的は、搬送ベルトとプラテンプレートとの摺動に限らず、画像形成装置における印刷用紙の搬送ベルトとこれに沿って配置された補助板との間に生じる摺動抵抗を軽減することができる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の第1の態様による画像形成装置は、
搬送ベルトにより印刷用紙を搬送する画像形成装置において、
前記搬送ベルトと該搬送ベルトに沿った補助板とにそれぞれ密着する流体前記搬送ベルト及び前記補助板の間に配置される。
【0009】
また、本発明の第2の態様による画像形成装置は、本発明の第1の態様による画像形成装置において、前記流体は、23°Cにおける粘度が200mPas以下の潤滑剤である。
【0010】
さらに、本発明の第3の態様による画像形成装置は、本発明の第2の態様による画像形成装置において、前記潤滑剤の23°Cにおける粘度が40mPas以下である。
【0011】
また、本発明の第4の態様による画像形成装置は、本発明の第1、第2又は第3の態様による画像形成装置において、前記流体は、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含んでいる。
【0012】
さらに、本発明の第5の態様による画像形成装置は、本発明の第1、第2、第3又は第4の態様による画像形成装置において、前記補助板は、前記搬送ベルトの前記印刷用紙にインク液滴を吐出して画像を形成するノズルヘッドに所定間隔をおいて対向配置されたプラテンプレートである。
【0013】
また、本発明の第6の態様による画像形成装置は、本発明の第1、第2、第3又は第4の態様による画像形成装置において、前記補助板は、前記搬送ベルトの前記印刷用紙にトナー像を定着させる定着部材が前記印刷用紙及び前記搬送ベルトを介して圧接される支持板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、搬送ベルトとプラテンプレートとの摺動に限らず、画像形成装置における印刷用紙の搬送ベルトとこれに沿って配置された補助板との間に生じる摺動抵抗を軽減することができる。
【0015】
即ち、本発明の第1の態様による画像形成装置によれば、搬送ベルトと補助板との間に配置された流体が搬送ベルト及び補助板にそれぞれ密着することから、補助板に対して搬送ベルトが移動する際に、搬送ベルトは流体に摺接し、補助板には流体が摺接することになる。しかも、搬送ベルトと補助板との間に流体が存在するので、補助板に対する搬送ベルトの移動の妨げとなるような異物が両者間に侵入することも防止される。
【0016】
このため、搬送ベルトと補助板との間に生じる摺動抵抗を軽減することができ、補助板との摺接により搬送ベルトの摩耗が進んだり、補助板との摺動抵抗や補助板との間に侵入した異物により搬送ベルトの移動速度が正規の速度よりも低下し、あるいは、搬送ベルトの駆動源に過大な負荷が掛かるのを防ぐことができる。
【0017】
なお、搬送ベルトと補助板との間に配置しそれらに密着させる流体を潤滑剤とする場合、その潤滑剤の23°Cにおける粘度は、本発明の第2の態様による画像形成装置のように200mPas以下であることが好ましく、さらに、本発明の第3の態様による画像形成装置のように40mPas以下であることがより好ましい。
【0018】
潤滑剤の23°Cにおける粘度を200mPas以下とすることで、潤滑剤との摩擦による搬送ベルトの摩耗や、潤滑剤との接触による搬送ベルトの移動速度の低下、あるいは、搬送ベルトの駆動源に掛かる負荷の増加が、許容範囲内に収まる程度に、搬送ベルトと補助板との間に配置しそれらに密着させた直後の潤滑剤の潤滑性を良くすることができる。
【0019】
また、潤滑剤の23°Cにおける粘度を40mPas以下とすることで、潤滑剤との摩擦による搬送ベルトの摩耗や、潤滑剤との接触による搬送ベルトの移動速度の低下、あるいは、搬送ベルトの駆動源に掛かる負荷の増加が、許容範囲内のギリギリよりも十分少ない範囲に収まる程度に、搬送ベルトと補助板との間に配置しそれらに密着させた直後の潤滑剤の潤滑性をさらに良くすることができる。
【0020】
さらに、本発明の第1、第2又は第3の態様による画像形成装置において、流体は、本発明の第4の態様による画像形成装置のように、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含む潤滑剤であることがより好ましい。
【0021】
搬送ベルトと補助板との間に配置させる流体を、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含んでいるものとすることで、搬送ベルトと補助板との間に配置しそれらに密着させてから一定枚数の印刷用紙に画像を形成した後でも、流体との摩擦による搬送ベルトの摩耗や、流体との接触による搬送ベルトの移動速度の低下、あるいは、搬送ベルトの駆動源に掛かる負荷の増加が、許容範囲内のギリギリよりも十分少ない範囲に収まる程度に、流体の潤滑性を持続させることができる。
【0022】
しかも、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含んでいる潤滑剤は、室温(24°C)における揮発性が低く、搬送ベルトと補助板との間での定着性が高いので、潤滑剤の潤滑機能を長期間発現させ続けて、搬送ベルトと補助板との摺動抵抗の軽減効果を長期間維持することができる。
【0023】
また、潤滑剤に含まれる揮発性有機化合物(VOC;Volatile Organic Compounds)成分の揮発が抑えられるので、揮発した有機化合物成分が搬送ベルトや補助板の周辺空間に充満するのを抑制することができる。
【0024】
さらに、本発明の第5の態様による画像形成装置によれば、本発明の第1、第2、第3又は第4の態様による画像形成装置において、搬送ベルトの印刷用紙にインク液滴を吐出して画像を形成するノズルヘッドに所定間隔をおいて対向配置されたプラテンプレートと搬送ベルトとの間に流体が配置されて、プラテンプレートと搬送ベルトとにそれぞれ密着する。
【0025】
この流体は、搬送ベルトとプラテンプレートとにそれぞれ密着させた直後に、流体との摩擦による搬送ベルトの摩耗や、流体との接触による搬送ベルトの移動速度の低下、あるいは、搬送ベルトの駆動源に掛かる負荷の増加が、少なくとも許容範囲内に収まる潤滑性を発揮する。このため、画像形成装置における印刷用紙の搬送ベルトとこれに沿って配置されたプラテンプレートとの間に生じる摺動抵抗を軽減することができる。
【0026】
また、搬送ベルトとプラテンプレートとの間の隙間に流体が存在するので、両者の間に空間が生じにくくなる。このため、搬送ベルトの移動によりノズルヘッドと搬送ベルトとの間に発生した印刷用紙の搬送方向への搬送気流によって流されたインクのミストや、搬送ベルトの移動による風圧でノズルヘッドと搬送ベルトとの間に舞い上がった紙粉が、搬送ベルトとプラテンプレートとの間の隙間に侵入しにくくなる。
【0027】
よって、インクのミストや紙粉が搬送ベルトとプラテンプレートとの間に蓄積するのを防ぎ、画像形成装置における印刷用紙の搬送ベルトとこれに沿って配置されたプラテンプレートとの間に生じる摺動抵抗を軽減することができる。
【0028】
したがって、搬送ベルトの摩耗が進んだり、搬送ベルトの移動速度が正規の速度よりも低下し、あるいは、搬送ベルトの駆動源に過大な負荷が掛かるのを防ぐことができる。
【0029】
また、本発明の第6の態様による画像形成装置によれば、本発明の第1、第2、第3又は第4の態様による画像形成装置において、搬送ベルトの印刷用紙にトナー像を定着させる定着部材が印刷用紙及び搬送ベルトを介して圧接される支持板と搬送ベルトとの間に流体が配置されて、支持板と搬送ベルトとにそれぞれ密着する。
【0030】
この流体は、搬送ベルトと補助板との間に配置しそれらに密着させてから一定枚数の印刷用紙に画像を形成した後でも、流体との摩擦による搬送ベルトの摩耗や、流体との接触による搬送ベルトの移動速度の低下、あるいは、搬送ベルトの駆動源に掛かる負荷の増加が、許容範囲内のギリギリよりも十分少ない範囲に収まる潤滑性を発揮する。
【0031】
よって、画像形成装置における印刷用紙の搬送ベルトとこれに沿って配置されて定着部材が間接的に圧接される支持板と搬送ベルトとの間に生じる摺動抵抗を軽減することができる。
【0032】
したがって、搬送ベルトの摩耗が進んだり、搬送ベルトの移動速度が正規の速度よりも低下し、あるいは、搬送ベルトの駆動源に過大な負荷が掛かるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの内部構成を示す概略断面図である。
図2図1の画像形成が行われる画像形成経路を側方から示す説明図である。
図3図2の用紙搬送ユニットを一部切り欠いて示す斜視図である。
図4図3のプラテンプレートの構成の一例を示し、(a)は要部拡大平面図、(b)は一部切り欠いた要部拡大斜視図、(c)は要部拡大側面図である。
図5図2の用紙搬送ユニットの要部拡大側断面図である。
図6図2の搬送ベルトの裏面に塗布される潤滑剤の評価結果を示す説明図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るレーザビームプリンタの定着ユニットの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの内部構成を示す概略断面図、図2は、画像形成が行われる画像形成経路を側方から示す説明図である。また、図3は、図2の用紙搬送ユニットを一部切り欠いて示す斜視図、図5は、図2の用紙搬送ユニットの一部を拡大した側断面図である。
【0035】
図1に示すように、このインクジェットプリンタ100は、搬送経路上を搬送される印刷用紙10に、ヘッドユニット110のノズルから各色のインクを吐出して画像を形成する画像形成装置である。
【0036】
本実施形態のインクジェットプリンタ100は、ヘッドユニット110の他、印刷用紙10の供給を行う給紙機構105、印刷用紙10を搬送する用紙搬送ユニット130、及び印刷済の印刷用紙10を排出する排紙機構としての排紙口150等を備えている。
【0037】
また、インクジェットプリンタ100は、CPU、メモリ等が配置されたコントローラ基板等で構成される演算処理部330や、メニューを表示したりユーザからの操作を受け付けたりする操作パネル、及びその他の機能部(図示せず)を備えている。
【0038】
ヘッドユニット110は、用紙搬送方向に直交する方向に伸び、多数のノズル(図示せず)が形成された複数のインクヘッド120a,120b(請求項中のノズルヘッドに相当)と、これらインクヘッド120a,120bを底部のヘッドホルダー面500aで保持、固定するヘッドホルダー500を備えている。ヘッドホルダー面500aの取付開口部500bから下方に突出した各インクヘッド120a,120bは、印刷用紙に向けてノズルから黒又はカラーのインクを吐出してライン単位で画像形成を行う。
【0039】
なお、ヘッドホルダー500により交互に保持されているインクヘッド120a,120bのうち、図中に斜線を入れて示しているインクヘッド120bは、図1の紙面と直交する方向においてインクヘッド120aとは位置をずらして配置されている。
【0040】
給紙機構105のサイド給紙台106や給紙トレイ107等から1枚ずつ給紙された印刷用紙10は、ローラ108等の駆動機構によってレジストローラ240に搬送される。ここで、レジストローラ240は、印刷用紙10の先端の位置合わせと斜行補正を行うために設けられた一対のローラである。給紙された印刷用紙10はレジストローラ240で一時停止し、所定のタイミングでヘッドユニット110方向に搬送される。
【0041】
レジストローラ240のさらに搬送方向側には、図2に示すように、搬送経路としての画像形成経路CR1が設けられている。画像形成経路CR1は、用紙搬送ユニット130を有している。この用紙搬送ユニット130は、印刷用紙10を印刷条件により定められる速度で搬送する搬送ベルト132を有している。
【0042】
図3図2の用紙搬送ユニット130を一部切り欠いて示す斜視図である。図3に示すように、用紙搬送ユニット130は、印刷用紙10を搬送する搬送ベルト132の他、搬送ベルト132を支持するプラテンプレート134(請求項中の補助板に相当)と、プラテンプレート134の下面において吸引圧を一定にする風量平均板135と、後述するサクションファン131に連通するチャンバー部136とを備えている。
【0043】
搬送ベルト132は、印刷用紙10を吸引するエアを通過させるためのベルト孔141を一定間隔で多数有している。この搬送ベルト132は、プラテンプレート134に支持され、印刷用紙10の搬送方向に直交させて配置された一対の駆動ローラ137及び従動ローラ138間に掛け回されて搬送方向に周回され、プラテンプレート134の表面上を摺動する。
【0044】
プラテンプレート134は、吸引孔142を多数有する板状のプレート部材である。吸引孔142は、搬送ベルト132の周回中にベルト孔141が直上を通過する箇所に貫通されている。図4(a)の要部拡大平面図に示すように、プラテンプレート134の表面には、リブ134aによって仕切られた複数の凹部134bが形成されており、一部の凹部134bの底面に、上述した吸引孔142が開口している。
【0045】
この凹部134bは、プラテンプレート134のリブ134aの部分だけに搬送ベルト132が摺接するようにして、搬送ベルト132とプラテンプレート134との摺動抵抗を減らす。また、凹部134bは、搬送ベルト132によって吸引孔142の開口が塞がれるのを防ぐ。
【0046】
さらに、プラテンプレート134の下方には、多数の通気孔143を形成した風量平均板135が配置されている。プラテンプレート134は、図4(c)の要部拡大側面図に示すように、裏面にボス134cを複数有しており、ボス134cの先端が風量平均板135に当接することで、プラテンプレート134と風量平均板135との間に間隔Sが確保される。
【0047】
図3に示すように、風量平均板135の下方には、サクションファン131が複数個配置されており、各サクションファン131は、チャンバー部136を介して風量平均板135の裏面にそれぞれ接続されている。
【0048】
図5の拡大側面図において、図中左側のインクヘッド120aは図5の紙面上に配置されており、斜線を入れて示す図中右側のインクヘッド120bは、紙面と直交する方向において図5の紙面よりも奥側に配置されている。
【0049】
そして、プラテンプレート134は、インクヘッド120a,120bから所定の間隔をおいて配置されている。これにより、搬送ベルト132上の印刷用紙10とインクヘッド120a,120bとの間隔(ヘッドギャップ)が規定される。
【0050】
サクションファン131は、搬送ベルト132上の印刷用紙10を吸着するための負圧を発生する。この負圧により、図5中の矢印に示すように、搬送ベルト132のベルト孔141、プラテンプレート134の吸引孔142、プラテンプレート134と風量平均板135との間隔S、及び、風量平均板135の通気孔143を介して、サクションファン131に至る、搬送ベルト132上のエアを吸引する経路が形成される。
【0051】
なお、各サクションファン131が吸引するエアは、風量平均板135の通気孔143を通過する際に、プラテンプレート134の全体に亘って均圧化される。したがって、プラテンプレート134の各吸引孔142に発生する負圧は均等な圧力となる。これにより、搬送ベルト132の各ベルト孔141に発生する負圧も均等な圧力となり、搬送ベルト132上の印刷用紙10が均等な吸引力で搬送ベルト132に吸着される。
【0052】
図3に示すように、搬送ベルト132が従動ローラ138によりプラテンプレート134に沿って繰り出される用紙搬送ユニット130の印刷用紙10の供給側には、搬送ベルト132に対向して用紙押えローラ139が配置されている。この用紙押えローラ139は、前段の給紙機構105のレジストローラ240から給紙された印刷用紙10を搬送ベルト132に押し付けて、エアの吸引力により確実に搬送ベルト132に吸着させる。
【0053】
以上に説明した用紙搬送ユニット130では、搬送ベルト132のプラテンプレート134側の裏面がプラテンプレート134に摺接し摩耗する。この摩耗等を抑えるために、本実施形態のインクジェットプリンタ100では、搬送ベルト132の裏面に潤滑剤を塗布してプラテンプレート134と搬送ベルト132との間に存在させる。
【0054】
具体的には、図2に示すように、例えば、搬送ベルト132の移動方向におけるプラテンプレート134よりも上流側の従動ローラ138とプラテンプレート134との間に塗布ローラ160を配置して、塗布ローラ160の周面の一部を潤滑剤ケース161に常時浸漬させる。そして、潤滑剤ケース161内の潤滑剤162を周面に付着させた塗布ローラ160を、搬送ベルト132の裏面上で転動させる。
【0055】
これにより、搬送ベルト132の裏面には、従動ローラ138とプラテンプレート134との間において、塗布ローラ160により潤滑剤162が一様に塗布される。塗布された潤滑剤162は、搬送ベルト132とプラテンプレート134とが対向する部分では、搬送ベルト132とプラテンプレート134との隙間に存在して、搬送ベルト132とプラテンプレート134との双方に密着する。
【0056】
したがって、搬送ベルト132とプラテンプレート134とは直接接触しなくなり、プラテンプレート134には、搬送ベルト132に付着した潤滑剤162が摺接するようになる。このため、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗が潤滑剤162によって軽減され、搬送ベルト132の摩耗がプラテンプレート134との摺接により進行するのを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ100では、インクヘッド120a,120bのノズルから吐出されたインク液滴からその後尾部分が分離してサテライト(微小液滴)となり、ミストとなって搬送ベルト132の付近を浮遊する。さらに、搬送ベルト132により搬送される印刷用紙10の紙粉も、搬送ベルト132の付近を浮遊する。
【0058】
このようなインクのミストや紙粉が侵入できる隙間が搬送ベルト132とプラテンプレート134との間に存在すると、侵入したミストや紙粉が搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を増加させる。この摺動抵抗の増加は、搬送ベルト132の摩耗を促進させたり、搬送ベルト132の移動速度の低下や駆動ローラ137を回転させるモータ等の駆動源に掛かる負荷の増大の原因となる。
【0059】
これに対し、本実施形態のインクジェットプリンタ100では、搬送ベルト132の裏面に塗布された潤滑剤162が、搬送ベルト132とプラテンプレート134との隙間に存在するので、インクのミストや紙粉が侵入できる隙間が搬送ベルト132とプラテンプレート134との間に存在しにくくなる。
【0060】
このため、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗が両者間に侵入したインクのミストや紙粉によって増加するのを防ぎ、搬送ベルト132の摩耗や移動速度の低下、あるいは、駆動ローラ137の駆動源に掛かる負荷の増大を、抑制することができる。
【0061】
また、搬送ベルト132の付近を浮遊するインクのミストや印刷用紙10の紙粉が、搬送ベルト132の裏面に塗布された潤滑剤162に吸着されて、インクヘッド120a,120bのノズル付近に付着しなくなる。
【0062】
このため、ノズル付近に付着したインクのミストや紙粉が堆積してノズルを塞ぐことを起こりにくくして、インクヘッド120a,120bによるインク液滴の吐出不良の発生を抑制することができる。
【0063】
ここで、潤滑剤162として用いることが考えられる溶媒は、一般的に、粘度が低いほど揮発性が高くなる。しかし、揮発性が高いと潤滑性がすぐに失われてしまうため、潤滑剤の23℃における粘度は、水よりも高い1mPas以上であることが好ましく、5mPas以上であることがより好ましい。一方で、揮発性を低くするために粘度をあまり高くし過ぎると、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を十分に低くすることができなくなる。
【0064】
このように、潤滑剤162は、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を低くする上で粘度が低いことが望ましく、潤滑機能を長続きさせる上で揮発性が低いことが望ましい。このため、粘度が低い割に揮発しにくいエステル溶媒を潤滑剤162に用いることが考えられる。
【0065】
そこで、搬送ベルト132に塗布して用いることが考えられる潤滑剤の組成について評価を行った。以下、その評価結果について、図6の説明図を参照して説明する。
【0066】
図6に示した評価結果は、溶媒を変えた13種類の潤滑剤について、23°Cにおける潤滑剤の粘度、潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性、100万枚印刷後のインクの吐出性、雰囲気中のVOC発生の各項目を評価したものである。
【0067】
なお、上述した各評価項目のうち、潤滑剤の潤滑性は、図2の搬送ベルト132の裏面に潤滑剤を塗布した図1のインクジェットプリンタ100で印刷動作を行った際の、駆動ローラ137を回転させるモータの駆動電流によって、A〜Cの3段階で評価した。
【0068】
具体的には、駆動ローラ137を回転させるモータの駆動電流が、モータに掛かる負荷が通常時と同程度であるときの1.5アンペア未満である場合を潤滑性A、それよりも若干高い1.5アンペア以上2.0アンペア未満である場合を潤滑性B、モータの定格電流に近い2.0アンペア以上である場合を潤滑性Cと評価した。
【0069】
そして、100万枚印刷後の潤滑性は、A3サイズの印刷用紙に所定の画像を1日当たり2万枚、50日間印刷して通算100万枚の印刷を行った後に評価した。
【0070】
また、100万枚印刷後のインクの吐出性は、図2の搬送ベルト132の裏面に潤滑剤を塗布した図1のインクジェットプリンタ100で上述した通算100万枚の印刷を行った後に、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色について、30%ベタのテスト画像をそれぞれ印刷した際の、図2のインクヘッド120a,120bのノズルにおいてインクの吐出不良が発生した本数の合計によって、A〜Cの3段階で評価した。
【0071】
具体的には、インクの吐出不良が発生したノズルが30本未満である場合を吐出性A、30本以上50本未満である場合を吐出性B、50本以上である場合を吐出性Cと評価した。ちなみに、各色のインクを吐出するインクヘッド120a,120bのノズルは、各色毎に3816本ずつである。
【0072】
なお、搬送ベルト132に潤滑剤を塗布しない場合の潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性、100万枚印刷後のインクの吐出性の各項目の評価は、いずれもCである。
【0073】
さらに、雰囲気中のVOC発生については、図2の搬送ベルト132の付近で発生する印刷用紙10の搬送気流と同程度の空気流を発生させて室温(24°C)の潤滑剤を30分間放置した空間から捕集したガス中の、熱脱離−GC/MS法により定量した、潤滑剤から揮発した揮発性有機化合物(VOC)の量によって、A,Bの2段階で評価した。
【0074】
なお、揮発性有機化合物(VOC)の量とは、トルエン換算により求めた試料(潤滑剤)からの発生量であり、ヘキサン(炭素数6)からヘキサデカン(炭素数16)までの間に検出されるものを揮発性有機化合物(VOC)と定義した。そして、ガス中の揮発性有機化合物(VOC)の量がトルエン換算で2μg/g未満である場合をA、2μg/g以上である場合をBと評価した。
【0075】
次に、図6に評価結果を示した潤滑剤のうち、実験例1〜4,12(図中の実1〜4,12)の潤滑剤は、エステル溶媒を100重量%使用した潤滑剤である。
【0076】
各潤滑剤に使用したエステル溶媒は、具体的には、炭素数(C数)が18のイソノナン酸イソノニル、炭素数(C数)が20のデカン酸イソデシル、炭素数(C数)が24のパルチミン酸2−エチルヘキシル、炭素数(C数)が34のステアリン酸2−ヘキシルデシル、炭素数(C数)が60のトリイソステアリン酸トリメチロールプロパンである。
【0077】
そして、炭素数(C数)が20のデカン酸イソデシル、炭素数(C数)が24のパルチミン酸2−エチルヘキシル、炭素数(C数)が34のステアリン酸2−ヘキシルデシルをそれぞれ100重量%使用した実験例2〜4の潤滑剤は、23°Cにおける潤滑剤の粘度がそれぞれ7.0mPas、11.3mPas、28.2mPasで、かつ、その他の全ての項目の評価がいずれもAであるため、潤滑剤として非常に優れた特性を有していることが分かった。
【0078】
一方、炭素数(C数)が18のイソノナン酸イソノニルを100重量%使用した実験例1の潤滑剤は、23°Cにおける潤滑剤の粘度が6.1mPas、潤滑剤の初期潤滑性、雰囲気中のVOC発生の各項目の評価がいずれもAで、それぞれ良い特性を有していることが分かった。
【0079】
しかし、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の評価は、潤滑剤を用いない場合と同じCであるため、潤滑性の持続性の面で実験例2〜4の潤滑剤よりも特性が大きく劣っていることが分かった。また、100万枚印刷後のインクの吐出性の評価もBであるため、インクの吐出安定性の面で実験例2〜4の潤滑剤よりも特性が若干劣っていることが分かった。
【0080】
また、炭素数(C数)が60のトリイソステアリン酸トリメチロールプロパンを100重量%使用した実験例12の潤滑剤は、100万枚印刷後のインクの吐出性、雰囲気中のVOC発生の各項目の評価がいずれもAで良い特性を有していることが分かった。
【0081】
しかし、23°Cにおける潤滑剤の粘度が231mPasで、かつ、潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の評価はいずれも、潤滑剤を用いない場合と同じCであるため、粘度及び潤滑性の面で、実験例1〜4の潤滑剤よりも特性が大きく劣っていることが分かった。
【0082】
続いて、図6に評価結果を示した潤滑剤のうち、実験例6,9〜11(図中の実6,9〜11)の潤滑剤は、エステル以外の溶媒を100重量%使用した潤滑剤である。
【0083】
各潤滑剤に使用したエステル以外の溶媒は、具体的には、エクソールD130(商品名:東燃ゼネラル石油株式会社製、石油系炭化水素溶剤)、モレスコホワイトP−200(商品名:株式会社MORESCO製、石油系炭化水素溶剤)、AFソルベント6号(商品名:JXエネルギー株式会社製、石油系炭化水素溶剤)、ファインオキソコール1600(商品名:日産化学工業株式会社製、高級アルコール系溶剤)である。
【0084】
そして、モレスコホワイトP−200を100重量%使用した実験例9の潤滑剤は、100万枚印刷後のインクの吐出性、雰囲気中のVOC発生の各項目の評価がいずれもAで良い特性を有していることが分かった。
【0085】
しかし、23°Cにおける潤滑剤の粘度が82.4mPasで、かつ、潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の各項目の評価がいずれもBであるため、粘度及び初期潤滑性の面で、実験例2〜4の潤滑剤よりも特性が若干劣っていることが分かった。
【0086】
また、AFソルベント6号、ファインオキソコール1600を100重量%使用した実験例10,11の潤滑剤は、23°Cにおける潤滑剤の粘度がそれぞれ5.9mPas、38.8mPasで、かつ、潤滑剤の初期潤滑性、雰囲気中のVOC発生の各項目の評価がいずれもAで、それぞれ良い特性を有していることが分かった。
【0087】
しかし、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の評価が、潤滑剤を用いない場合と同じCであるため、潤滑性の持続性の面で実験例2〜4の潤滑剤よりも特性が大きく劣っていることが分かった。また、100万枚印刷後のインクの吐出性の評価もBであるため、インクの吐出安定性の面で実験例2〜4,9,12の潤滑剤よりも特性が若干劣っていることが分かった。
【0088】
さらに、エクソールD130を100重量%使用した実験例6の潤滑剤は、23°Cにおける潤滑剤の粘度が5.5mPas、潤滑剤の初期潤滑性の評価がいずれもAで、それぞれ良い特性を有していることが分かった。
【0089】
しかし、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の評価が、潤滑剤を用いない場合と同じCであるため、潤滑性の持続性の面で実験例2〜4の潤滑剤よりも特性が大きく劣っていることが分かった。また、100万枚印刷後のインクの吐出性、雰囲気中のVOC発生の各項目の評価がいずれもBであるため、インクの吐出安定性の面で実験例2〜4,9,12の潤滑剤よりも特性が若干劣り、VOC発生の面では実験例2〜4,9〜12の潤滑剤よりも特性が若干劣っていることが分かった。
【0090】
残る各実験例5,7,8,13(図中の実5,7,8,13)の潤滑剤は、エステル溶媒とエステル以外の溶媒とを混合した潤滑剤である。
【0091】
そして、炭素数(C数)が34のステアリン酸2−ヘキシルデシル70重量%に30重量%のAFソルベント6号を混合した実験例7の潤滑剤や、炭素数(C数)が20のデカン酸イソデシル70重量%に30重量%のモレスコホワイトP−200を混合した実験例8の潤滑剤は、23°Cにおける潤滑剤の粘度がそれぞれ8.9mPas、29.8mPasで、かつ、その他の全ての項目の評価がいずれもAであるため、潤滑剤として非常に優れた特性を有していることが分かった。
【0092】
一方、炭素数(C数)が60のトリイソステアリン酸トリメチロールプロパン80重量%に20重量%のAFソルベント6号を混合した実験例5の潤滑剤は、100万枚印刷後のインクの吐出性、雰囲気中のVOC発生の各項目の評価がいずれもAで良い特性を有していることが分かった。
【0093】
しかし、23°Cにおける潤滑剤の粘度が190mPasで、かつ、潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の各項目の評価がいずれもBであるため、粘度及び初期潤滑性の面で、実験例2〜4,7,8の潤滑剤よりも特性が若干劣っていることが分かった。
【0094】
また、炭素数(C数)が60のトリイソステアリン酸トリメチロールプロパン90重量%に10重量%のエクソールD130を混合した実験例13の潤滑剤は、100万枚印刷後のインクの吐出性の評価がAで良い特性を有していることが分かった。
【0095】
しかし、23°Cにおける潤滑剤の粘度が201mPasで、かつ、潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の各項目の評価が、潤滑剤を用いない場合と同じCであるため、粘度及び初期潤滑性の面で実験例1〜4,6〜8、10,11の潤滑剤よりも特性が大きく劣っていることが分かった。また、雰囲気中のVOC発生の評価がBであるため、VOC発生の面で、実験例1〜5,7〜12の潤滑剤よりも特性が若干劣っていることが分かった。
【0096】
そして、図1のインクジェットプリンタ100では、図2の塗布ローラ160によって潤滑剤162が搬送ベルト132の裏面に常時塗布されるので、揮発性が高い潤滑剤を用いても、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を低く保つことができる。
【0097】
このため、図2の塗布ローラ160によって搬送ベルト132の裏面に塗布する潤滑剤162には、100万枚印刷後のインクの吐出性の評価がCでない全ての潤滑剤を用いることができる。よって、図6に評価結果を示した潤滑剤の中では、実験例1〜13の全ての潤滑剤を用いることができる。
【0098】
但し、23°Cにおける潤滑剤の粘度が200mPas以下となる実験例1〜11の潤滑剤を用いれば、潤滑剤の初期潤滑性の評価がAかBのどちらかであるので、潤滑剤を用いない場合よりも初期潤滑性を良くして、少なくとも潤滑剤の使用開始当初における搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を低くすることができる。
【0099】
また、23°Cにおける潤滑剤の粘度が40mPas以下となる実験例1〜4,6〜8,10,11の潤滑剤を用いれば、潤滑剤の初期潤滑性の評価がAであるので、初期潤滑性をさらに良くして、少なくとも潤滑剤の使用開始当初における搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を十分に低くすることができる。
【0100】
さらに、23°Cにおける潤滑剤の粘度が40mPas以下となる実験例1〜4,6〜8,10,11の潤滑剤のうち、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含んでいる実験例2〜4,7,8の潤滑剤を用いれば、潤滑剤の初期潤滑性以外の各項目の評価もAとなる。
【0101】
このため、潤滑性の持続性やインクの吐出安定性をさらに良くして、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を長期間に亘って安定して低くし、かつ、VOC発生も抑制することができる。
【0102】
なお、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を70重量%以上含む潤滑油が、23°Cにおける潤滑剤の粘度が40mPas以下となる実験例2〜4,7,8の潤滑剤に限らず、23°Cにおける粘度が40mPas以上となる相対的に粘度が高い潤滑油においても実現可能であることは、言うまでもない。
【0103】
また、印刷用紙10の搬送ベルトの摩耗等を潤滑剤の塗布により抑える構成は、上述したインクジェットプリンタ100以外の方式による画像形成装置にも適用可能である。
【0104】
図7は、本発明の他の実施形態に係るレーザビームプリンタの定着ユニットの概略構成を示す説明図である。
【0105】
図7に示す定着ユニット200は、印刷用紙10に印刷する画像に対応する潜像がレーザビームにより描画される感光体ドラムや、感光体ドラム上の潜像をトナーにより現像する現像器、現像された感光体ドラム上のトナー像を印刷用紙10に転写する転写ユニット(いずれも図示せず)等と共に、レーザビームプリンタ(請求項中の画像形成装置に相当)に設けられる。
【0106】
この定着ユニット200は、転写ユニットにより感光体ドラム上から印刷用紙10上に転写されたトナー像を印刷用紙10に定着させるもので、用紙搬送ユニット210と定着ローラ221とを有している。
【0107】
用紙搬送ユニット210は、印刷用紙10を搬送する搬送ベルト211の他、搬送ベルト211を支持する支持板212(請求項中の補助板に相当)とを備えている。この搬送ベルト211は、印刷用紙10の搬送方向に直交させて配置された一対の駆動ローラ213及び従動ローラ214間に掛け回されて搬送方向に周回され、支持板212の表面上を摺動する。
【0108】
定着ローラ221は、搬送ベルト211を挟んで支持板212と対向する箇所に配置されている。定着ローラ221は、ヒータ222を内部に有する中空のローラであり、定着ローラ221の周面は、搬送ベルト211を介して支持板212に圧接される。
【0109】
このように構成された定着ユニット200では、転写ユニットにより感光体ドラム上から転写された印刷用紙10上のトナー像が、搬送ベルト211と定着ローラ221との間を印刷用紙10が通過する際に、ヒータ222により加熱された定着ローラ221の周面の圧接によって印刷用紙10上に定着される。
【0110】
以上に説明した本実施形態の定着ユニット200でも、搬送ベルト211の支持板212側の裏面が支持板212に摺接し摩耗する。この摩耗等を抑えるために、本実施形態のレーザビームプリンタでも、搬送ベルト211の裏面に潤滑剤を塗布して支持板212と搬送ベルト211との間に存在させる。
【0111】
具体的には、例えば、搬送ベルト211の移動方向における支持板212よりも上流側の従動ローラ214と支持板212との間に塗布ローラ230を配置して、塗布ローラ230の周面の一部を潤滑剤ケース231に常時浸漬させる。そして、潤滑剤ケース231内の潤滑剤232を周面に付着させた塗布ローラ230を、搬送ベルト211の裏面上で転動させる。
【0112】
これにより、搬送ベルト211の裏面には、従動ローラ214と支持板212との間において、塗布ローラ230により潤滑剤232が一様に塗布される。塗布された潤滑剤232は、搬送ベルト211と支持板212とが対向する部分では、搬送ベルト211と支持板212とのに存在して、搬送ベルト211と支持板212との双方に密着する。
【0113】
したがって、搬送ベルト211と支持板212とは直接接触しなくなり、支持板212には、搬送ベルト211に付着した潤滑剤232が摺接するようになる。このため、搬送ベルト211と支持板212との間の摺動抵抗が潤滑剤232によって軽減され、搬送ベルト211の摩耗が支持板212との摺接により進行するのを抑制することができる。
【0114】
ここで、定着ユニット200の搬送ベルト211に塗布する潤滑剤232は、搬送ベルト211に圧接される定着ローラ221のヒータ222の熱により加熱されるので、常温よりも粘度が下がると共に揮発性が上がる。
【0115】
このため、潤滑剤232として用いる溶媒は、常温における粘度が多少高くても良く、その代わり、常温での揮発性が低めのものとすることが考えられる。
【0116】
そこで、搬送ベルト211に塗布する潤滑剤232には、図6に示した実験例1〜13の潤滑剤のうち、揮発性が低くVOCの発生が少ない実験例1〜5,7〜12の潤滑剤を用いることが考えられる。
【0117】
その中でも、23°Cにおける潤滑剤の粘度が40mPas以下となる実験例1〜4,7,8,10,11の潤滑剤のうち、炭素数が20以上34以下の脂肪酸エステル系溶剤を80重量%以上含んでいる実験例2〜4,7,8の潤滑剤を用いれば、潤滑剤の初期潤滑性、100万枚印刷後の潤滑剤の潤滑性の各項目の評価がAかBのどちらかとなる。
【0118】
このため、定着ローラ221のヒータ222の熱により加熱された際に、潤滑剤が評価A相当の粘度となることを期待することができる。したがって、定着ユニット200の運用環境下において、図6の実験例2〜5,7〜9の潤滑剤を用いることで、常温で実験例2〜4,7,8の潤滑剤を用いた場合と同様に、潤滑性の持続性やインクの吐出安定性をさらに良くして、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間の摺動抵抗を長期間に亘って安定して低くし、かつ、VOC発生も抑制することができる。
【0119】
なお、上述した各実施形態では、塗布ローラ160,230により潤滑剤162,232を搬送ベルト132,211に塗布する構成を、インクジェットプリンタ100やレーザビームプリンタの定着ユニット200に設けるものとした。
【0120】
しかし、搬送ベルト132とプラテンプレート134との間や搬送ベルト211と支持板212との間に、例えば製造時に潤滑剤162,232を存在させておくようにして、塗布ローラ160,230により潤滑剤162,232を搬送ベルト132,211に塗布する構成を省略してもよい。
【0121】
また、上述した実施形態では、補助板の例として、搬送ベルト132を挟んでインクヘッド120a,120bと対向する箇所に配置されるブラテンプレート134や、搬送ベルト211を挟んで定着ローラ221と対向する箇所に配置される支持板212を説明した。
【0122】
しかし、補助板の位置は、搬送ベルトに沿った位置であれば、インクジェットヘッドや定着ローラ以外の部品に対向する箇所であってもよいし、その他の箇所であってもよい。
【0123】
さらに、本発明は、上述した各実施形態のようなインクジェットプリンタ100やレーザビームプリンタに限らず、搬送ベルトにより印刷用紙を搬送する画像形成装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0124】
10 印刷用紙
100 インクジェットプリンタ(画像形成装置)
105 給紙機構
106 サイド給紙台
107 給紙トレイ
108 ローラ
110 ヘッドユニット
120a,120b インクヘッド(ノズルヘッド)
130,210 用紙搬送ユニット
131 サクションファン
132,211 搬送ベルト
134 プラテンプレート(補助板)
134a リブ
134b 凹部
134c ボス
135 風量平均板
136 チャンバー部
137,213 駆動ローラ
138,214 従動ローラ
139 用紙押えローラ
141 ベルト孔
142 吸引孔
143 通気孔
150 排紙口
160,230 塗布ローラ
161,231 潤滑剤ケース
162,232 潤滑剤
200 定着ユニット
212 支持板(補助板)
222 ヒータ
240 レジストローラ
330 演算処理部
500 ヘッドホルダー
500a ヘッドホルダー面
500b 取付開口部
CR1 画像形成経路
S プラテンプレートと風量平均板の間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7